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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第3章〈アンミール学園の新入生イベント〉あるいは〈完全縁結びダンジョンの謎〉

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第六十四話 雨あるいは坂での落とし物

今回は一応一つの縁結びの話です。

三周年などには間に合わないのに、こんな時は早めに書けると言う不思議……。


 

 さて、食べ物の定義について話し合っている間に、状況は悪化していた。


 ソルセン先輩は遂に叫び声の一つもあげない虚ろな状態となり、セルガ先輩は“あーるじゅうはち魔法”で見えないが、何やら下半身に機械を付けられ、聞き取れない程小さい声で「もう無理もう無理」と呟きながら痙攣している。

 それでも尚、直接ゴモラに買い取り停止を要求していない分、まだお金の方が優先らしい。


 やはりここまで来ると呆れを通り越して感心してしまう。


 そして悪化しているのはこの二人だけではない。

 魔法少女に変身してもなお、ガードの固い女子の先輩達が脱ぐまでの時間を稼ぐ為に、男子の先輩達は女性型ゴモラのアシスタントを追加され、煽てられながらナニかをしていた。

 相変わらずナニをしているのかは見えないが、“あーるじゅうはち魔法”が濃くなっている。


 表情などから判断するに、羞恥心などから来る精神的疲弊や一周回っての空元気を見せながら悶え、人によっては気色の悪いうめき声(?)をあげている。

 そして体力などを視ても疲弊が読み取れる。どの面からも元気なのはイタル先輩と、未だ普通にモデルをしているハービット先輩だけ。


 見えないが、十中八九ろくでもない事だろう。

 何故かイタル先輩が元気な分、そんな気がする。


 因みに追加された女性型ゴモラの仕事は煽てるだけだ。

 ゴモラは外見と動きは完全に人のそれと同じに擬態しているが、完全に擬態を解くとドロドロの影のような存在。

 ちょっとした接触程度なら何とか誤魔化せるが、体温は死体よりも冷たく、肌の感触なども明らかに違う。

 せめて厚手の手袋をはめるなどしないと正体がバレてしまう。


 先輩達に接触してナニかをすると言う事は無いようだ。


 しかし状況はかなり悪いと言っていい。


「このままじゃ確実に何人も戦線離脱しちゃいそうだよね。どうしよう?」

「女子の方々が四人しかいらしゃいませんので、男子の先輩方も四人いれば事足りますが、その場合、縁結び成功の確率が下がる事は回避出来そうにありませんね。ですが、既に消耗している方々がいますので、手遅れでは? 縁結びにも元気が必要だと思いますよ? 心身共に縁結びどころじゃない状態でしょう」

「確かに縁結び的にはもう致命的な消耗かもね。前にやった縁結びの時みたいながっつきは期待出来なそうだし。この状態で成功しそうな縁結びとかは弱っているところを助けられるとかだろうけど、最初の騒ぎがあって全体の仲間意識が微妙だからそれも危ういよね」

「取り敢えず、女子の方々は影響を受けていないので一先ずはこのままでいいのでは?」

「そうだね。雨の効果もそろそろ出て来るだろから、静観していようか」


 と言う事で僕達は、引き続き視守るに留める事にした。



 雨の影響は縁結びと言う観点において大きい。


 人の流れが変わる。

 異世界のようなショッピングモールも無ければ屋根付きの商店街も無い環境では、人は付近の屋根の下に避難しなくては雨を避けられない。


 小雨なら兎も角、コアさんが降らせた雨は大雨の類、皆避難して通りからゴモラはいなくなる。

 皆どこかの屋根の下だ。


 街の喧騒は、早くも雨の音にかき消されている。


 傘を差す者も現れない。

 異世界の伝承が各地の世界に散らばっているとは言え、傘は無い事も無いが普段から持ち歩ける折り畳み傘は無いと言っていい。

 傘自体の普及も、世界平均としては怪しいものだ。


 そもそも歴史の流れ的に、傘とはまず日傘である。

 それも偉い人の日避けだ。自分で持つようなものですら無い。

 雨傘の登場はずっと先の時代だ。地域によっては畳める傘の登場の更に後であったと言う。

 東洋においては半ば伝説の名工公輸盤が既に折り畳み式の雨傘を発明したとされ、唐代には油傘が存在したなど割と昔から庶民にも普及していったそうだが、西洋においては十八世紀頃が普及の始まりだそうだ。


 よく異世界人が文明基準の指標とする中世ヨーロッパにおいては、傘の記録自体が欠如しているらしい。

 それ程までに一般的では無かったものだ。

 異世界人の伝聞があるからと言って、一般にまで伝わるのは英雄譚の延長線上、実際に大改革に使われたような知識でしか無い。


 ソドムが模範としている普通の都市には、傘など存在しない。

 この階層の気候的に日傘すら無いだろう。

 代替方法として雨避け魔法の数はそこそこあるが、雨を避けると言う目的上、どれも長時間発動するタイプの魔術だ。魔力の関係上、長時間発動するタイプの魔術は使い手が少ない。


 その一方、中世ヨーロッパのイメージとは違い道には石畳が敷かれているが、排水設備はそこまでのものでは無い。

 寧ろ余計な部分まで土を覆っているせいで水捌けが悪い。


 異世界との一番大きな違いはその労働力だ。大工一人が重機のパワーを宿している例は少なく無い。見習い明けの大工さんでも異世界の世界王者が持つダンベルを持ち上げられるだろう。

 家の引っ越しで丸ごと持ち上げてゆく大工さんなんかもいる。

 魔術を使えば更にその建築能力は凄まじい。


 その分、力技で色々と解決できるせいで建築構造の発展は、中世ヨーロッパっぽい文明から一万年経つような文明でも大して発展しなかったりとする例もある。

 困る事が少ない分、そして壊れ難い重く頑丈な建造物を造る分、技術の方には力が入れらていない。


 しかし異世界に無い素材なども用いて、高層ビル並高さの、高層ビルよりも強固かつ長命な城と言うのも珍しく無い程だ。

 何故かゴシックですらなく、ロマネスクのような構造でバベルの塔並の建造物を造り出せる。

 その建築様式内であれば、スキルなどを考慮して異世界よりも匠の域にもあるだろう。


 排水設備が不完全な原因は、都市の大部分を石材で隙間なく無駄に緻密に覆っている事と、川まで行くとなると都市の外を工事しなければならず、完成したとしても魔物に壊される可能性が高く管理しきれないからだ。

 まあここはダンジョン内で、都市はソドムだが様式自体は外の都市と変わらない。


 それら水捌けの悪さのせいでソドムはちょっとした噴水のようになっている。

 商業都市を模倣しているせいか、このソドムは市を開きやすい大通りの多い平坦な街だが、中央には魔物に対抗する為に建てられた小高い城館があり、そこから水は建物の屋根から屋根ヘと伝わり、階段を流れ、道横の蓋のない排水溝を流れと、順々に降ってゆく。


 俯瞰して視れば良いものだが、通行人としては行動を制限させられる状況だ。

 一度踏み出せば水は泥を掻き出しながら跳ね飛び、水が覆い続ける道は着地を許さない。

 元々雨量の少ない地域の街をモデルにしたのか、石畳には滑り止め要素が無く、坂道は危険と言う域だ。


 そんな中、先輩達も雨に合わせた行動をする。


 マサフミ先輩は相変わらずのボッチ力で雨を拒絶。

 石畳の水分すら拒絶して悠々と歩いている。

 つるつるの坂道すらもなんのその、特に目的がある訳でもないのに颯爽と歩く。


 態々大通りの真ん中を歩き、周りが歩けない中、自分だけは特別だと言うちっぽけ過ぎる優越感に浸りご満悦のようだ。


 ……本人は良い気分なんだろうが、視ているこっちは泣けてきそうだ。


 縁結びから程遠い、対極の光景を視た気がする。

 物語のように行けば多分、こんな日に一人だけ傘を持っていたら、帰りの方向が同じ友達なりに一緒に入れてと言われる。

 そしてそれが異性なら、相合い傘だけで一つのイベント。

 場合によってはその先まである。


 それがこの独り遊び。

 ……悲し過ぎる気がする。


 落差が激しい。


 うん、いつか必ずマサフミ先輩の縁結びを成し遂げてあげよう。


 今やるとは言わない。

 完全防御で雨の効果は無いし、ゴモラもマサフミ先輩にはまともに近付けないからだ。


 ……この絶対防御は、普段の状況下でも突破は難しそうだ。

 早くも縁結び計画は前途多難。


 まあダメ元で仕掛けていこう。


 この場でも早速一つ。


 さて、ゴモラよろしく!


「マスター、あの素麺を持ったゴモラは何ですか?」

「ほら、坂の上から果物が転がってくるアレだよ。水が流れて来るから流し素麺バージョンにしたんだ」

「……素麺が流れてきて『落としましたよ』とはならないと思いますよ? それに素麺は箸が無ければ掴む事も難しくないですか?」

「そう?」

「俺もコアさんに同意する」


 何だか不評だが、準備してしまったものはやるしか無い。


「取り敢えずスタート!」


 素麺は真っ直ぐマサフミ先輩の下へ流れてゆく。


 バレないように水流を操作したのだ。

 ソドムの元となったシティーコアの領域気象操作機能の応用だ。

 更に水は浄化済み。

 拾った後もしっかり食べられる仕様だ。


 うん完璧。


 素麺はマサフミ先輩の手の届く所に。


 今だ!


 ……残念、スルー。


 見てくれてもいない。


「まあ、素麺が道で流れて来ると思う方なんか、居ませんよね」

「見ても普通のゴミが流れていると思うだろうな」

「……確かに」


 こうなれば作戦変更。


 流し素麺と気が付いてもらえるように、まずは蕎麦猪口を流す。

 これなら大きいから気が付いてもらえる。

 続けて箸、素麺と流せば明らかに流し素麺だと気が付いてくれる筈だ。


 どんぶらこっこと派手目な漆塗り木製蕎麦猪口が汁完備でマサフミ先輩の下へ。


 流石にこれには気付くマサフミ先輩。

 これはしっかりと拾い上げた。


 続けてお箸。

 これも目立つように漆塗りだ。


 これまたマサフミ先輩は拾い上げてくれた。


 そして仕上げ。

 流し素麺だ。


 スルッ、普通に取りこぼした……。


 もう一発!


 …二発目!


 ……三発目!


 ……マサフミ先輩はシンプルに流し素麺が不得意のようだ。


 因みに、取れなかった素麺はスタッフ(ゴモラ)が美味しくいただきました。


「まあ、体勢的にも難しいものがありますよね」

「足元で箸を使う事なんかまず無いしな」

「そもそも『すみませーん! 落としちゃいましたー!』の状況に持っていきたいのなら、蕎麦猪口を流した時点で良かったのでは?」

「あっ……」

「もう言うタイミングを逃しているぞ?」


 これは結構な失敗をしてしまったらしい。

 こうなれば原点回帰、普通に果物を流そう。


「今度は何ですか?」

「視ての通りスイカだよ」


 僕がソドムに用意させたのは超大玉スイカ。


「坂道で落とした果物がスイカだった何て話、聞いた事ありませんが?」

「僕も聞いた事も無いけど、失敗続きだから絶対に見落とされないものを落とそうと思って」


 大きさ的にも色彩的にもスイカなら意識しない方が難しい。


「まあ、どうあっても見逃さないでしょうが……」

「些か、いやかなり大き過ぎないか?」

「それも安全策だよ」


 僕がソドムに用意させたスイカはまるで運動会の大玉ころがしの玉のように立派な超大玉スイカだ。

 農業用に品種改良されたものでは無く、巨人系の魔物が現れるダンジョンの内装などとして植え付けられている大味の外見重視のスイカ、時には巨人系の魔物の投擲物として使用される主にダンジョンでしか生息出来ない魔植物だが、食べる訳でも無く転がす為に用いるから丁度いい。


 そんな超大玉スイカがダンジョンで良くある大玉の転がってくる罠の如く、マサフミ先輩に向かって転がってゆく。

 俯瞰していても大迫力。これなら確実に転がってくると気が付いて拾ってくれる筈。


 マサフミ先輩は僕の目論見通り、転がしてすぐにスイカの存在に気が付いた。

 暫しの硬直。

 転がってくる超巨大スイカのインパクトに圧倒されたらしい。


 そしてクルッと転身。

 何故か逆方向に駆け出す。

 早い走り方では無く若干変な走り方だが、高い能力値を持つだけあって結構早い。


「何でそこで逃げるの!?」

「「当たり前でしょう(だろう)……」」

「あんな巨大なものが迫ってきて『あっ、落とし物だ』と言う人がいる訳ないではありませんか」

「やられた方としては鉄球が転がってくるのと大して変わらないと思うぞ。まだ状況が飲み込めていないんじゃないか? 取り敢えず超巨大スイカが転がって来て感じるのは恐怖だ」

「確かに……」


 冷静になればごもっともな意見だ。


「こうなれば次の作戦」

「まだやるつもりなのですね……」

「引き際は大切だぞ?」

「じゃあコアさんよろしく!」

「まさかの人任せですか!?」

「三人そろえばアカシックレコードって奴だよ」

「三人って、俺も巻き込まれて無いか?」

「三人そろえば力は三倍どころか百人力、そして責任は三分の一、成功間違い無しだよ!」

「何気に責任を三等分しようとするな!」

「責任はマスターが負ってください!」


 聞き逃してくれないか。

 しかし言質を取るのには失敗したが、三人そろえば百人力を発揮出来る事も間違い無いだろう。

 この際成功すれば問題無い。


「さっそく坂道も有限だし縁結びを始めるよ」

「了承した覚えはありませんが……」

「手順を説明するね」

「拒否権は無いのですね」

「作戦は超大玉スイカを加速させてマサフミ先輩にぶつけて、外にいる唯一の女子の先輩、メービス先輩の胸元辺りまで飛ばすって作戦だよ」

「おっ、割と成功しそうな作戦ですね」

「コアさんには魔術でスイカの威力を上げて欲しいんだよね。飛ばしさえしてくれれば、軌道は僕が何とかするから」

「分かりました。協力しましょう」


 そう言うと、コアさんはスイカに魔術をかけ始める。


「“質量増大”、“加速度上昇”、“重力増大”、“空気抵抗削除”、“エネルギー充填”」


 それに伴い眷属が現れるが、こんな事もう今更だ。

 千人が千一人になっても変わらない、気付く事すら出来ないだろう。

 変な眷属さえ現れなければ問題無い。


 今回現れた眷属達は、幸いにもまだ普通の範囲。

 数ある同等の効果をもたらす魔術の中でもコアさんの使った魔術は自然法則そのものに作用する本格的な魔術だったせいか、生み出された眷属は神々しいがそれだけ。

 基本、内面に問題が無ければ何でもいい。


 気になる点が有るとすれば、コアさんの魔術が無駄に高等過ぎるところだけだ。

 いや、本質的にはコアさんの真面目さ。


 ダンジョンと言う世界を一から構築する術に秀でているコアさんからすれば、魔術を使わない方が簡単に同じ事が出来る。

 それを魔導でも魔法でもなく、魔術と言う低位の形に押し込めて発動するとは相当に凄い。誰にも使える力程、使用者の差を減らす術式にも力が割かれるからだ。


 魔術の場合、最低限必要な才能を魔法適性、つまり魔法属性にまで落した術式を用意したとしても、術式を成立させる集中力や精巧さが大幅に必要となり結局発動出来ない術式と化すだろう。

 街全体を一列のドミノで埋め尽くすようなものだ。

 一つ倒せば崩壊し、一つ抜ければ破綻する。

 そんな大きく精密な術式が必要となる。


 例えばコアさんの使った“質量増大”、これは対象の質量を本当に増大させる魔術である。

 同等の効果を発揮する魔術は、魔術で創られた偽りの質量を付与したり、大地に引かれやすくする魔術に過ぎない。変えたのでは付け足しただけ。


 本当に質量を変えるのとは訳が違う。

 質量だけ変えるのが非常に難しいからだ。

 何故なら世界との矛盾が生じてしまう。


 新たに水を出す事などは簡単だ。

 創造でこそあるが、生み出されたものは水である。この世に水が増えるだけだ。

 創造よりも難しい書き換えで、鉄を金に変えるのもまだ良い。困難ではあるが、生み出された金は世界に影響を与えない。


 しかし質量は違う。

 金より重い金など存在し得ない。中性子と陽子の数さえ同じならば変わらない。


 仮にこれを変えるとしよう。

 エネルギーは質量に光速の二乗を掛けたものだとする式より、エネルギーを与えたとする。

 結果は簡単。莫大なエネルギーにより金はその形を保てない。周囲まで木っ端微塵に破壊するだろう。

 質量を増大させ保つには、最低でもこれを封じ続ける力が必要となる。


 重さと言う概念を付け足したりするのでも無く、物理的に本当に変えようとするとこんな事になる。

 本当に変えたままにするには、法則を根本から変える必要があるのだ。


 まあ、結果だけなら他の魔術でも簡単に再現出来るのだが。


 ピンポイントで事象を改変すると、維持に莫大な力が必要となる。

 ならば拡散や消滅前提で付け足す方式にするなどして術を組めば回避出来る。

 結果だけ求めるならば本当に改変する必要は無い。


 それなのに態々本当に変える魔術を発動するコアさんは凄いのやら、真面目が過ぎるのだか、評価し難いものがある。

 多分、どの方法でもコアさんからしたら難易度は変わらないのだろうが、それでも反応に困る。


 反応には困るが、魔術の結果は至極真っ当なものだ。

 眷属も物理的に効力を与えるタイプ出なく、超常能力で効力を与えるタイプで至極真っ当。

 高位の魔術だからといって行き過ぎた効果も無いし、適切に超大玉スイカは強化された。


 重力が増大した事で、重力加速度が上がった事で超大玉スイカのスピードも上がり、逃げ続けるマサフミ先輩を順調に追い詰めて行く。


 そしてパカーンッ!!


 マサフミ先輩の絶対防御に拒絶され、スイカは見事に割られてしまった……。

 そう言えばコアさん、スイカのスピードアップとかしかしていない。

 魔物が投げる為のスイカではあったが、流石に強度不足だったようだ。



 こうなればまたしても作戦変更だ。

 スイカは強度不足で割れてしまったとは言え、この様子だと強度を上げたところでマサフミ先輩の絶対防御に阻まれてしまうだろう。


「こうなったら日本中の電力を掻き集めて陽電子砲を発射するしか?」

「それは混乱して言っているのですか? それとも連続放送に影響されたのですか?」

「本作戦をヤシマ……地名が違うけどなんて名前にしようか?」

「それは影響された方ですね。本気で言っているなら言わせてもらいますが、それは防御を貫く作戦ですからね? それにあの方以外にも丸ごと吹き飛びます。後、日本中の電力はこの世界に集められません」

「集められるよ?」

「出来るのですか!? どうやって!?」

「どうやってって、普通に」

「兎に角、やらないでください」


 割といい作戦だと思ったが却下された。

 まあ自分でも遊びに走った作戦だとは自覚していたが。

 ここは普通に行こう。


「スイカを追加。コアさん、今度は転がるスイカで進路を妨害してマサフミ先輩を誘導するよ」

「諦めて変な事を言ったのだと思いましたが、まだやるのですね。まあ、強度強化を忘れたのはわたくしの落ち度、協力いたしましょう」


 僕達は色々な道に超大玉スイカを設置し、マサフミ先輩を待ち構える。


 既にマサフミ先輩の後方には新たな超大玉スイカ。

 待たしても逃走。

 状況は揃った。


 後は誘導するだけだ。


 道の途中でまだ雨宿りしていない先輩をひいてしまったりもするが気にしない。

 裸体美術部のエルバン先輩なんかは背中からスイカにめり込み、何度も泥水に顔面から突入し、酷い拷問を受けているような状態になっているが気にしない。

 同じく裸体美術部のノボル先輩は、僕達の計画する吹き飛ばしで漢女おとめなバルグオルグ先輩の屈強な胸元に吹き飛ばされたが、これも気にしてはいけない……。


 しかし気にしなくてはいけない事態も引き起こされてしまった。


 余計な先輩達がぶつかった所為で超大玉スイカの軌道がズレてしまったのだ。

 マサフミ先輩は超大玉スイカの遅れている道を安全な道と判断。

 超大玉スイカと衝突し、超大玉スイカは連続的に割れてしまった。


「いい感じに誘導するのは難しいね?」

「不確定要素が想定以上です。もう、ヤシマで良いのでは?」

「そうだね……」


 流石に関係ない日本を巻き込むのはアレなので、先輩達がいるソドムとは違うソドムに電力では無くソドム中の魔力を集中させる。

 結局のところ、ソドムイレイザーと同じようなものだ。

 違いはしっかり陽電子砲にしている点。

 態々魔力を電力に変換してから陽電子砲にチャージする。


 チャージ完了。


「陽電子砲、発射!」


 同時にこの砲撃が他の先輩達にバレない小細工を。


「“メガフラッシュ”」


 僕は雨が降っているのを利用し、メガフラッシュ、数百キロの規模にも及ぶ超大な雷を空に発生させる。

 この規模の雷が上空で発生していれば、地上で多少の爆破等が起きても落雷によるものと判断する筈だ。多分。


 そして陽動電子砲から発射されたビームはマサフミ先輩のスレスレを通過。

 通り過ぎた先にあった山を一瞬で融解する。


「まさかの外れましたね」

「ん? これで合ってるよ。一発目は外さなくちゃ」

「主目的がヤシマになってませんか!?」

「それに山を融かすのは狙撃対象の方だ。どうせ遵守出来ないんだから初めからやるな」

「願掛けみたいなものだよ」

「一体どこに願掛けしているのですか!? と言うか今ので警戒されてしまうではないですか!」

「絶望的な失敗の後は何故か成功するものなんだよ」

「そう言う願掛けですか!?」

「うん、でも流石に長時間空けると失敗しそうだから二弾目いくよ? 発射!」


 今度は外す事なく直撃。

 しかしマサフミ先輩の絶対防御、空洞が、その何人も寄せ付けない在り方が貫く事を許さない。

 しかし高エネルギーによりマサフミ先輩はメービス先輩に向かい、一直線に吹き飛ばされてゆく。


 そしてメービス先輩の胸元に―――。


 ドーン!!


 …………空洞、発動したままだった。

 まさかのアンラッキースケベ。

 そんなものまでガードしてしまうとは……。


 空洞、マサフミ先輩の在り方は、どこまでも泣ける。


 尚、衝突された被害者のメービス先輩は直前でマサフミ先輩に気が付くも、空洞結界の範囲が目視出来ずに防御する前にマサフミ先輩の空洞に衝突され後ろ向きに吹き飛ばされた。


 背中から地面にダイブ。そして何回かはねてうつ伏せに。


 なんかとんでもない事になった気がする。

 本来なら衝突の衝撃は多少後ろに転んでしまう程度に軽減する予定だったが、空洞が発動したままだと予測出来ずに直撃を許してしまった。

 あの威力、もはや交通事故だ。


 マサフミ先輩の方はゴロゴロと転がるも、空洞を発動していた事により無傷。

 ただ状況が読み込めずに辺りを見渡す。

 そして明らかにぶつかって飛ばされたと判る状態のメービス先輩を発見。

 無言のままあたふたとし出す。


 ボッチなマサフミ先輩は捜査されてこそいるが、知り合いと言う程の仲でも無いメービス先輩に声をかけられないようだ。

 人の事を言える立場では無いが、泣ける。


 慌てながら取り敢えずポーションをかけようと、アイテムボックスから取り出したところで、メービス先輩がピクリと動く。。


 そしてピンとした真っ直ぐなうつ伏せの体勢のまま、物理法則に反しゆっくりと逆再生するように起き上がる。

 魔力で起き上がっているようだが、ホラーにしか見えない。

 メービス先輩の外見が清楚な聖女、神の造りし美貌と評せる程に整っている事からも、余計ホラーに感じる。


 そして完全に起き上がると、足は地面から離れ、今度はゆっくりと回転。

 マサフミ先輩の方にゆっくりと正面を向ける。


 白を基調としたワンピースのような法衣は所々紅く染まり水に濡れ。

 血と水に濡れた長い金糸のような髪に隠され表情は判らず。

 しかしその隙間から覗かせる氷のようなトルマリンの輝き。

 凍てつく冥界の輝き。


 そんな輝きを持ってマサフミ先輩を睥睨する。


「ヒッ……」


 ただ見られただけなのにマサフミ先輩は思わず短い悲鳴をあげてしまう。


 いやただの視線では無い。

 視線を向けられたマサフミ先輩の周りが空洞を迂回してピキピキと凍結し始めている。

 これはメービス先輩が魔眼を有しているからではない。異様に美しい瞳だとも思えるが、特段魔力が籠もっている訳では無い。

 しかしメービス先輩自体が怖ろしい程の魔力をその身に宿している。それによって術式も呪文も無く感情が昂ぶっただけで、魔法を引き起こしている。


 そしてそれは怒りを通り越し、凍てつく殺意を抱いている証。


「あ、あのっ! かかか、回復薬をっ!」


 マサフミ先輩は心配半分許しを乞う半分でポーションを差し出すが、その刹那、一帯が凍結し、瞬時の膨張によりバキバキにその氷が割れる。


「ヒィッ!!」


 そしてまだ髪に表情を隠したまま、静かに告げる。


「それは規制品、“マンドレイクの媚薬”」


 どうやら慌てて出したポーションは、回復薬は回復薬でも元気を回復させるタイプの規制品だったらしい。


 完全に火に油が注がれた。

 いや、この場合は氷に液体ヘリウム?


 マサフミ先輩が何か言うよりも早く、氷は刺々しい牢獄の形に。


「異端審問を開始する。“罪鎖”」


 そして牢獄に向かって幾つもの刃が付いた氷鎖が何重にも襲いかかる。

 異端審問では無くどう視ても処刑だ。


 膨大な魔力の込められた氷鎖と不動の結界とがぶつかり合い、激しい魔力の火花が吹き出る。

 火花が散るのではなく吹き出ている。


 音も激しく、何やら叫んでいるらしいマサフミ先輩の声はメービス先輩に届いていない。

 姿も火花で見えない状態だ。


 しかしマサフミ先輩の防御が破られる事も無い。


 そこでメービス先輩はミスリル製の氷鎖と同じ形状の鎖を出し、魔力で操作。

 後端を天高く伸ばし、先端はマサフミ先輩へ。


 後端にメガフラッシュが接触。

 凄まじ過ぎる雷がミスリルの鎖に迸る。

 ミスリルの電気抵抗率は伝導体よりも超伝導体に近い程低いが、メガフラッシュには熱せられ神々しく輝いた。

 相当な威力だ。


 これにはマサフミ先輩の空洞結界も何層も砕かれ、衝撃で激しく飛ばされた。


 合掌。


 まだ無事と言えば無事だが、いつまでもつ事だか。

 距離は取れたし、頑張って逃げてね。



「殴り合った後、友達になるような事もあるよね?」

「その通りです。つまりこれも歴然たる縁結びの一種。仮に失敗してもその時は縁が無かっただけです。きっと」

「……そんな訳あるか」


 それに失敗だとしても、雨の変化は大きい。


 雨の与える人への変化。

 それは行動の制限だ。


 傘を持っていたとしても傘の外へは行かないし、傘を持っていなければ屋根の下から出られない。

 つまり傘を一度異性と共有すれば、共にいる事を雨の間は半ば強制される事になるのだ。

 建物であってもそれは同様。

 片付けで偶々学校に残っていた二人、気が付けば外は不慮の雨。

 たったそれだけで物語は生まれる。


 いつだって物語は続いて行くのだから、それは純然たる縁結びへと至るだろう。

 発展する可能性は無限大だ。


 つまり、雨の中で取り敢えず二人集めてしまえば簡単に縁結びが出来る。

 ……唯一まだ縁結び行動に入っていないメービス先輩は、マサフミ先輩の処刑に向かってしまったのだが……。


 まあ効果を擬似的に知る事はこの状況でも出来る。

 と言うよりも行動に移されていた。


 この雨という状態を最大限利用した縁結び。

 物語にも示唆される事のあるアレ。


 そう、“●●しないと出られない部屋”の稼働がソドムで始まっていた。


 これは予め僕が雨に合わせて用意した部屋だ。

 どこかの建物に入ると、その部屋に転移される仕組み。

 きっと雨の縁結び効力を高めてくれるだろう。


 この縁結びの成功、と言うよりも効力を知って、マサフミ先輩への失敗を忘れるとしよう。





 《用語解説》

 ・超大玉スイカ

 これでも正式名称。

 見かけは超大玉のスイカそのものだが、中身は種こそあるが殆ど皮と同じような肉質で、食用には向かない。

 稀に漬物に加工する地域もあるが、持ち運びが困難な割に利用価値が少ないのでかなり余裕のある者が取り敢えず持ち変える、また初見の者が普通の巨大なスイカとして持ち帰る事が殆ど。無理には持ち帰らないし、採取依頼もまず無い。有っても祭りの飾り等、食用以外の用途である。

 外見そのままで呼ばれるのも、使い途が無いから。結構な数の品種が一応あるのだがまとめてそう呼ばれる。有用な物は別で他の固有名詞があり、それは超大玉スイカでは無いと区分されている。


 通常の植物ではなくダンジョン並に魔力の満ちた土地でしか育たない。半分魔物のような存在。

 ダンジョンからしても飾りで、魔力が必要と言っても巨大な以外は効力を持たない事から低魔力で生成出来る。

 巨人型の魔物のダンジョンではこのスイカを投擲武器とする事も多いがそれだけ。主目的は何かと言うと、やはり飾りである。


 尚、魔力濃度を高めた畑では種から育てる事が出来る。




 ・質量増大

 重力魔法などでも使えない事は無いが、主に創世魔法として使われる。

 本当に物質の質量を増加させる超高等魔術。質量の増加をしつつも世界の辻褄に合わせる。どの世界でも使用可能。

 コセルシアが実用に使った以外は、同様の効果でも魔法や魔導として使われる為、研究用に組まれた事があるだけの術式でしか無かった。

 同様の結果をもたらす術なら数え切れない程有る為、幻の魔術と言っていい。




 ・加速度上昇

 本当に加速度を増加させる魔術。加速度を上昇させるだけなら物理的な方法でもいくらでもあるのに、この魔術は加速度そのものを何故か上げる。

 しかもどの世界でも使用可能。

 これも研究用。




 ・重力増大

 本当に重力を上げる魔術。

 これも研究用。どの世界でも使用可能。




 ・空気抵抗削除

 空気抵抗を極限まで無くすのではなく、そのものを本当に削除する魔術。

 これも研究用。どの世界でも使用可能。




 ・エネルギー充填

 エネルギーそのものを本当に充填する魔術。どのエネルギーも充填出来る。

 これも研究用。どの世界でも使用可能。




 ・メガフラッシュ

 魔術などでは無く普通の技。どちらかと言うとコセルシアが雨を起こしたのと同じような現象。ただそうあれと起こした。

 攻撃などでは無くただの気象現象を引き起こすだけ。数百キロ続く規模の雷、メガフラッシュを呼び出す。

 アークはメガフラッシュと言っているが、ただ強大な雷を望んだだけなので、実際のメガフラッシュよりも規模がある。

 エネルギー的には陽電子砲よりも強大。


 尚、雷属性魔術に同名の奥義がある。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

いつもより早めに投稿出来ましたが、その内容は一つの縁結び、何故か章の終わりがまた遠のいた気のする今日この頃です。

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