表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第3章〈アンミール学園の新入生イベント〉あるいは〈完全縁結びダンジョンの謎〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/103

第六十一話 水着あるいはヌード写真

 


 シティーコアを三人で試行錯誤しながら操作する事暫く、僕達はやっとソドムの操作法にも慣れてきた。

 そして何と、ソドムの行動方針を変える画面まで見つけた。


 階層内に焦土が乱立しているが気にしない。

 環境改変があちらこちらになされているが気にしてはいけない。

 改造ソドムが各地に誕生してしまったが気にしたら負けである。


 いつもなら、ここまでの過程で折れてしまっていただろうが、今回は三人での共同作業。

 赤信号、みんなで渡れば恐くないの精神で恐れる事なく進めた。


「いや〜、被害を省みずに進めば得られるものもあるんだね」

「そうですね〜、今後も犠牲が出る場面では、犠牲を無駄にしない為にも突き進んだ方が良いのかも知れませんね」

「……俺は知らぬ内にとんでもない事に手を貸してしまったかも知れない。すまない、世界よ」


 何故かゼンは御冥福を祈りながら世界に謝っているような、謎な事をしているが、何であれ素晴らしい結果と未来に繋がる大切な経験を得られた。


 ここまで来たなら後は前を向いて進むのみ。


「じゃあ始めるよ?」

「はい、始めましょう!」

「ああ、もうどうにでもなれ……」


 二人の承認が取れたところで、縁結びの為の操作を開始する。


「ソドムの欲望獲得指向を色欲に固定! 誘惑リソースの上限を廃止!」


 と僕。

 ソドムが手に入れようとする欲望は色欲に限定され、収支がマイナスの見込みでも財宝やアイテムが放出される様に。


「ダンジョン霊脈追加! ソドムに接続!」


 とコアさん。

 マイナス収支を打ち消す為に新たな霊脈をソドムに接続。


「ソドムの誘惑強度を中級から上級へ変更!」


 とゼン。

 最後に誘惑の粘り強さを上げる。


 シンプルにソドムの誘惑自体を強める操作は無かったが、これで誘惑の力は大きく増すだろう。

 手段が変わらなくとも差し出す餌の価値が上がれば当然効果は高まる。途中で諦めずに餌の価値を釣り上げて行けば、大抵の誘惑は上手く行く筈だ。


 そして全て色欲関係の誘惑へ。


 これで縁結びが成功しない筈が無い。



 早速先輩達がどうなったか視る。


「キミ〜、いっそ脱いじゃってみな〜い? お金なら弾むよ! 水着姿のキミの写真を見ればみんなイチコロ! あっという間にキミは世間のアイドルさ!」


 遂にゴモラは明確に脱げと口にした。

 その手には銀貨の詰まった小袋。銀貨は千フォンの価値しかないが、袋には概算で数十枚は入っている。


「一つのポーズ毎にこれだけ支払うよ!」


 その銀貨数十枚を、何とポーズ毎に支払うらしい。

 一つのポーズで何枚も写真を撮るだろうから、実質は写真一枚につき銀貨一枚。

 雑誌に写真が載るのは余程の人気者以外数枚程度だろうが、それでも何種類もの写真を用意する筈だ。ポーズにつき銀貨数十枚では幾ら費用がかかるか判ったものじゃない。

 まあ本物ではなくゴモラだが、それでも何枚も写真を撮る事だろう。寧ろ誘惑仕切るまで払い続ける筈だ。


 本来、ゴモラ、と言うよりもソドムはこの手段を使えない。


 銀貨どころか金貨も魔物であるソドムには必要無いものだが、金貨を生成するには対価が必要となる。

 この金貨生成能力はシティーコア、更に遡ってダンジョンコアだった名残の能力であるから下手な生成魔法よりは力を必要としないだろうが、されど封印された金属性に深く関わら金、生成するには少なくない魔力を必要とする。


 ソドムが人を破滅させればソドムは力を得るが、金銭を生成し続けるとその破滅させて得る力を超えてしまうのだ。

 そんな事を続ければ力は枯渇する。ソドムの場合は繋がっている龍脈内の魔力枯渇だ。

 ソドムは生物と言うよりも街であるから魔力の枯渇すなわち滅びとはならない。取り敢えずはゴモラを含めた魔力による機能を持たない街、つまり無人の廃墟になるだけで済む。魔力が手に入ったら元に戻るだろう。だが魔力を使う規模が大きい為、荒廃が進むと再起不能となる。街が街でなく完全な廃墟となった時ソドムは滅びる。


 だからこの手段は通常ソドムは打てない。

 人が水を飲むために飲む以上の汗を流せないのと同じだ。


 しかし今は新たな霊脈を、それも龍脈級のものを繋げている。

 実質、ソドムの処理能力から言ってその魔力は無限に等しい。

 時間さえ有れば金銀財宝を無限に生み出せる。


 そして生み出されたとは言え、その銀貨は紛れもなく本物。 

 お金で落とせる人はほぼ確実に落とせるだろう。

 更に言えば、ここに居るのはお金に困っている先輩だ。


 そんな銀貨は、どことなく現物よりも多く思える小袋に入れて、厭らしくジャラジャラと音を鳴らしながら迫る。


「……そこまで言うのでしたら」


 やはりと言うべきか、迫られていた町娘お姉さんな雰囲気のシンシア先輩は拒み切れないと言った様子で、内心嫌と思いながらも実利に引かれて承諾した。


 それを待ってましたと、ゴモラは他の部屋からガラガラと水着がかけられたハンガーラックを持ってくる。


 かかっている水着はとても豊富。

 ハンガーラック一つ分なので色まで多種多様にある訳ではないが、形状としては水着屋さんでもここまで種類が揃ってないのではと思う程に揃えられている。


 まずは学生相手らしく学生水着。しっかり名前を書くところまで縫い付けられている。

 極一般的なビキニとフリル付きのビキニ、そしてビキニとまとめて良いのか判断に迷う面積の少ないビキニ。


 海沿いの街なら街中で着てもギリギリセーフなワンピース。

 海沿いの街で着ていてもギリギリアウトかも知れないモノキニ。

 海岸でギリギリセーフなハイレグ。

 海岸で普通にアウトな、もはや水着と言うよりも変態と芸人の仕事服な∨字。


 更にキワモノになると、ヒモ。

 露出度こそ低いが絶対事情聴取案件なトイレットペーパー。

 布地面積は広いのに意味を成さない透明水着。

 ホタテサイズの貝殻水着。

 シジミな貝殻水着。


 並べて見ると貝殻水着がまともな部類に見えて来る。

 そして何故かまともな部類である筈の学生水着がキワモノに見えて来る。


 しかし水着の種類はこれだけで終わらない。


 そもそも水着かどうかも判断がつかない物も多数あった。


 二対の長い晒木綿。恐らく胸巻きと女性用褌。

 分野としては水着では無く下着と言うのが正しいだろう。まあ水着の発展が無い文化帯では下着で泳ぐのだろうが、なんにしろ分類としては下着だ。


 他には前張り。

 これに関しては下着ですら無い。

 絵の具。

 ボディーペイントしろって事だろう。

 オイル。

 もはや身体の上に有れば服であり水着であると捉えているらしい……いや、よく見たら火打ち石もセットで置いてある。炎が水着のようだ……。露出度的には万人が着れる水着並みかも知れないが、誰もが公衆の面前で全裸の方がマシと答えるだろう。着れないの意味合いが違う。


 また異世界には存在しない水着も少々。

 代表的なものを言うとヒーローの変身アイテム。魔法少女系統のアレや正直者にしか見えない水着などが置いてある。


 ここまで集まっていると、今度は着てほしいと思ってしまう。

 ヒーローの変身衣装は普通に見てみたいし、正直者にしか見えない服は写真越しだとどう写るのか気になる。


「さあ、好きなのを選んで良いよ」


 ゴモラはハンガーラックを指し示してそう言う。

 水着は着る本人が選ぶ方式らしい。

 これなら比較的拒否感なく水着を着せられ、更には自分でこれを選んだと言う責任を知られずに押し付ける事が出来る。

 親切に見えて厭らしい手だ。


 シンシア先輩は頬を仄かに紅く染めながら、恐る恐るハンガーラックの水着を物色し始める。

 ヒモや貝殻を見ては顔が真っ赤になる。

 そして普通の水着でも紅くなっている。


 元々シンシア先輩はモデル関係なく水着に対して抵抗があったらしい。

 もっと言えば水着に抗体が無いらしい。


 視ればそもそも泳いだ事が無いようだ。

 出身は内陸の都市で、周辺に運河くらいにしか泳げる規模の水が無かったらしい。

 そして運河は船の行き来が多くて泳げず。

 ついでに健康法として水に入る程では無いが、年間を通して低温な気候。泳ぐ動機すら生じ無かったようだ。


 つまりシンシア先輩には水着が全て、妙な下着に見えているのだろう。

 水着と下着とでは大きく意味合いが違う。

 水着は水辺でとは言え、衆人の目に晒すのが前提。寧ろ見せるのが目的の物まである。

 一方で下着は余程親しい人の前でしか長時間晒す事は無い。一瞬でも晒す機会は少ないだろう。


 人前で、それも記録に残る形で下着を晒したい人など、中々居ない。

 水着とは訳が違うのだ。

 そしてその下着が特殊なものだったら、着るのも抵抗を覚えるに決まっている。


 さて、シンシア先輩はどうするか?


「あ、あの! このステッキは何ですか?」


 取り敢えず話を逸した。

 まだ心が決まるには早すぎたようだ。


「そのステッキは変身アイテム。使うと魔法少女っぽくなれるよ。物語みたいに魔法や特殊な技が使えるようにはならないけど、元々使える魔法は強化してくれるし簡易的な鎧にもなる本物だよ」


 変身アイテムはやはり僕の見立て通り、魔法少女のアレだったらしい。

 よく視てみると、そこらの職人が造った実用性の低いものでは無く、ダンジョンなどで見つかる精霊の宿ったもののようだ。

 選ばれし者しか使えない程の本物感は無いが、これも本物とは言えるだろう。

 精霊が宿っているだけあって、使いこなせれば相応に強力だ。


 是非ともこれを着て欲しい。


「ちなみに変身後はこんな姿になれるよ」

「これでお願いします!」


 ゴモラが変身後のイメージが描かれたフリップを見せると、シンシア先輩は間も開けずに即答した。


 どうやら僕の願いは叶ったらしい。


 尚、フリップにある姿は布地の広さがここにある水着では断トツ。

 精々おへその辺りが出ていてスカートが短い以外は、フリフリの多い派手な服。

 注目は浴びるが衛兵さんに止められる事は無い露出度の圧倒的低さがシンシア先輩の決断の決め手になったらしい。


 縁結びの服装としてはアレかも知れないが、僕はヒーローの変身が視れてシンシア先輩はマシな服を着れる、悪い事は無い。

 隣を視ればコアさんもどこか期待するように視ている。


 ゼンも期待するような眼差し……アレ?

 何故かシンシア先輩を憂うような、それでいてどこか過去を思い出しているような不思議な眼差しでゼンは視ていた。


 ゼンは大人、と言うよりもこう見えて神々すら凌駕する超高齢だからただヒーローに興味が無いと言うのなら分かる。

 しかし、どうもそういった視線では無い。


「パパ、どうかしたの?」

「いや、よりにもよってアレを選ぶんだなと思ってな……」

「何かあのヒーロー衣装に問題でもありましたか?」

「あのヒーロー衣装と言うよりも―――」


 ゼンが何を思ったのか口にしようとしたが、答え切る前にシンシア先輩が眩い光に包まれた。

 早速魔法少女に変身するようだ。


 いきなりで驚いた。

 普通、『変身!』とか決め台詞を言った後や、ポーズを取ってから変身するものでは無いだろうか?

 まさかのボタン一押しで変身出来る仕組みだったらしい。


 もう少し風情を大事にして欲しいものだ。


 だが、光に包まれてからはよくあるヒーロー変身が始まってゆく。


 まずは光、自然界に広がる命の潤い、意思なき粒子精霊が衣服に収束。

 一度衣服ごと光となって弾ける。


 そして光はシンシア先輩の手に収束。

 フリフリの長手袋の形になると、光は消える。

 続けて脚、腰と、登るように魔法衣装が装着されていく。

 最後に胸元に大きなリボンが。


 もうそこに立っているのは魔法少女。


「魔法少女だよコアさん!」

「魔法少女ですねマスター!」


 イメージカラーはローズレッド。

 色は何故か黒みのある赤薔薇のそれで、どこか悪役っぽい色合いだがとても似合っている。

 街のお姉さん的雰囲気が衣装で悪役令嬢っぽくなっているが、雰囲気も変身で一変すると言う観点から陰ながら人々を守るヒーロー感が出てより本物っぽい。


 元よりシンシア先輩も魔法が使えるから、もうこれは本物と言っても良いだろう。

 上手くコントロールコアを操作して、縁結びが終わったらこの変身装備をプレゼントしてあげよう。

 そうすれば実際に戦う姿まで視れそうだ。


「じゃあさっそくポーズを頼むよ! そこに立って!」

「はい!」


 シンシア先輩も自分の姿に満足しているらしい。

 魔法少女に対してでは無く、露出度が低かった事に対しての安心感からくる満足だが、本人が喜んでいるならそれも良いだろう。


 どう言う訳かゴモラまで満足げだ。

 演技では無く心の底から喜んでいる。


 皆を笑顔にさせるなんて、流石魔法少女だ。



「そういえばパパは、何て言おうとしたの?」


 変身によって遮られたゼンの視線の真意を、僕は改て聞く。


「簡潔に言うと、アレがあの中で一番ヤバい衣装だからだ」

「「? どこが(ですか)?」」


 僕とコアさんは視線で問合い、同時に首を傾げる。


「まあ、視ていれば解るさ……」


 しかし答えは教えてくれない。

 見ろと言う仕草をするばかりだ。


 ゼンの視線の先には当然シンシア先輩が。

 ちょうど撮影に入るところのようだ。


 ゴモラがシャッターを押す。

 すると四方八方に設置されたカメラから、一斉に無数のフラッシュが連続で飛び交う。


 なんか男子の先輩のところとは設備が違う。

 やはりまだどこか違和感のある設備だが、その一つ一つは一流のもの以外の何物でもない。

 高性能なのにその性能通りの値段で売れるか分からないレベルで高性能な一品だ。


 そうだ、せっかくだから撮った写真はみんな後で回収する事にしよう。


 ゴモラは形だけ撮っているが写真は紛れもない本物で、しかも素人なりに真面目に撮られたものだ。

 ゴモラは撮り方と言うよりも撮るときの癖のように、相手から見える部分に主力を置いて活動しているが、曲がりなりにもそれらしく撮っているからもしかしたら普通に良い写真の可能性もある。

 そして撮られる先輩達に関しては、結果はどうあれ仕事して全力。できる限りの事はしている。素材は最高だ。


 今シンシア先輩がしているポーズも、素人が素人なりに考えたポーズであるがそこもいい味になって立派な作品になっている。


 因みにポーズは杖を魔女の箒に見立てた飛行ポーズだ。

 ステッキはどちらかと言うと短杖よりの短めのものだが、そこがまた空から必殺技を繰り出すポーズにも視えていい。

 若干恥ずかしさでほんのり頬を染めているのも、初々しい魔法少女と言う感じで様になっている。


 それにしてもゼンは、どこに引っ掛かりを覚えたのだろうか?

 全く変なところは無い。


「完璧なポーズだよね、コアさん?」

「はい、衣装もポーズもどこで見ていても不思議ではない完璧な魔法少女です。強いて言えば、初めから必殺ポーズを決めるのもどうかと思いますが、それ以外は感服ものです」


 コアさんにも意見を求めるが、やはり変な点は無い。


 だからと言って外見以外で視てもお色気モードなどは皆無だ。

 通常の戦闘服に比べて派手でも戦闘用、つまり普通の魔法少女衣装である。

 またその戦闘面でも強力だが、元々着ている先輩達の力を加味すると飛び抜けたものでは無い。寧ろ釣り合っているか、少し性能が劣っているぐらいだ。


 どの面からもおかしなところは無い。

 謎だ。

 何を視れば分かると言うのだろうか?


 もう答えが解らないから、素直にシンシア先輩の魔法少女ポーズを楽しもう。


「そうだ、ゴモラの撮った写真ってコントロールコアで見れるかな?」

魔導記憶器(カメラ)もソドムの生成したものですから、やろうと思えば見れるかと」

「縁結びに良い写真は上手く撮れているかな?」

「なるほど、勝手にお見合い写真作戦として流用するつもりですね? 早速やってみましょう」

「随分ハードなお見合い写真になりそうだな……」

「シンシア先輩の魔法少女写真は普通に使えるよ」

「いや、十分過ぎる程ハードだぞ……」

「確かに一般論からすると、魔法少女のお見合い写真ではまともな方が釣れそうではありませんね」

「……まあ見てみろ」


 ここまでに結構慣れてきた操作技術を駆使すると、コアさんの言うとおりゴモラのカメラに繋ぐ事が出来た。


 写真を表示しますかと表示が出たので、僕は迷わずそれを選択する。


 おっ出た出た。


 滴る汗。

 快感と脱力感が同居し、ほんのりと染まる頬。


 そして下半身付近に“あーるじゅうはち魔法”……。


 間違えた。

 これはイタル先輩の写真だ……。


 何の場面を切り取ったものかは判らないが、物凄く見苦しいモノを見た気がする。


 気を取り直して縦に写真をスライド。

 これで他の人の写真に……。

 もう一回スライド。

 ……。

 スライドスライドスライド。


 ……どうしてこうも男子の先輩は、同じ場面まで辿り着いているのだろうか?

 まともなのは未だゴモラからも同情されているハービット先輩だけだ……。


 何とも言えない空気になりながらも、シンシア先輩の写真にたどり着く。


 魔法少女の写真を見て癒やされよう。

 まさか魔法少女に癒やしを求める事になるとは。


 まあ結局のところ世の中は絶対では無く相対的に廻っていると言う事だろう。

 そう言う事にしておこう。


 さて、シンシア先輩の写真の出来上がりはと。


 房から解き放たれ流れる生糸のような銀髪。

 ほのりと紅みのさす絹のように滑らかな肌。

 恥ずかしさの狭間に垣間見える僅かな微笑み。

 その曲線は自然の傑作。美を求めずとも日々の行いが生み出す人工の及ばない神秘の境地。

 康と美が両立した成長を続ける心身一体の美。その澄んだ明るい心の有り様がそのまま表に出ている。


 ……さて、スライド。

 いい写真ではあったが魔法少女の筈が曲線美がくっきりと写ってしまっている。率直に言ってフルヌード写真だ。

 どうやら変身の瞬間の写真が一番始めに表示されてしまったようだ。


 縁結びのお見合い写真としては最高峰かも知れないが、今求めているのは最終手段的ではない魔法少女写真だ。


 スライドスライドスライド。


 カメラの数が多かったからか、中々フルヌード写真から抜け出せない。


 あれ?

 最後まで来てしまった。

 フイルムみたいなものが別になっているのかな?


 もしかしたら仕分けされているのかも知れない。

 考えてみればイタル先輩達の写真はただのフルヌードでは無く、“あーるじゅうはち魔法”まで使われた変な写真だ。

 そしてシンシア先輩の写真も、ただのフルヌードでは無く微かに紅潮してステッキに跨っているポーズをしているからか、普通のフルヌード写真に見えない。何故か見てはいけない写真に思えてしまう。


 きっとそんな風に特殊なフルヌード写真をまとめた表示にしてしまったのだろう。


 ん?

 ステッキに跨るポーズ?


「……コアさん、このポーズって今シンシア先輩がしているポーズだよね?」

「……そのように、見えますね」


 思い返せば、変身シーンでステッキを箒に見立て乗るポーズは、瞬間的にも無かった。

 そして写真をスライドしていく事遂に、パラパラ漫画として現在が映される。


 間違いない。

 これは魔法少女に変身している今のシンシア先輩だ。


 と言うことはだ。


「もしかしてゴモラのカメラって服が透けて見える特殊カメラ?」

「現に服を着ていても全裸写真を撮れているのでおそらくは。ですがどんな機構で成り立っているのか解りません。視たところ構造は通常のカメラと対して違い無いので」

「でもだからと言って魔法少女の衣装も普通の魔法少女のものと同じ精霊装備だし、何より肉眼で普通に着ているのが見えるから、カメラの方に何かがあると思って間違いないよね」

「はい、その通りだと思います。カメラの構造が解らないのは単純に高度な魔導具だからでしょうね。高度な道具程小型化される傾向も有りますし、術式を読み取れ無かったのでしょう」

「…………」



 そうと解れば早速お取り寄せ。

 ここまで縁結びに役立ちそうな道具も中々無い。

 ハードなお見合い写真を撮る事も、偶然男女が近くに居るところをシャッターに収めて、本人達の心当たりが無「」い既成事実を造る事も簡単だ。


「さて、道具生成の操作はこうだったよね? えっと、ここをこうして、ここがこうで……よし、生成!」


 僕がコントロールコアでカメラ生成を決定すると、すぐ目の前にゴモラの持っていたものと同じカメラが現れた。


 やはり間近で視ても、ただ普通のカメラとして性能が良いだけ。


 でも伝説の剣が最初は錆びた剣であったと言う話をよく聞く。

 割と伝説級のアイテムと言うのは一見では判らないものかも知れない。

 少なくとも性能を極めた聖剣が、ゴテゴテの装飾付きのことは多く無いように思われる。武器の位の割にシンプルだ。

 初代勇者(喜劇の勇者)の聖剣なんかダンボール製だし……これは例外かな?


 まあ僕が視ているのは術式だが、それも含めて伝説級アイテムの真価は計り知れないのだろう。


 そう納得してカメラを構える。


 対象はまだゴモラの毒牙にかかって居ない裸体美術部のマサフミ先輩。

 天性のボッチと低いコミュニケーション能力を駆使して、ゴモラの誘惑を避けているらしい。

 ゴモラが『あっ勧誘無理だな』と感じられる程のオーラ、固有空間をソーシャルディスタンスを守るが如く展開している。

 鉄壁のボッチ布陣だ。


 そんな先輩にカメラを向けて覗き込む。

 この段階ではマサフミ先輩は服を着たままだ。

 シャッターを押さなければ透視効果は無いのだろう。


 シャッターを切る。

 そしてすぐさま現像。


 空中に紙が広がるように生成され、そこに像が現れる。

 必要なのは魔力だけで、プリンターも写真紙も要らない。

 中々便利なものだ。


 現像され、ヒラリと落ちてきた写真を僕とコアさんは覗き込む。


「「ん?」」


 しかし、そこに僕達の求めてもいたものは無かった。

 有るのは普通の写真。

 光景をそのまま写した、服を着ているマサフミ先輩の写真だ。


 シャッターを切るだけじゃ駄目だったのかな?


 でもそれらしいボタンは無い。

 親切にシャッターやタイマー、現像と出来る事がそれぞれボタンに書いてあるだけに怪しいところが存在しない。

 だとしたらコマンド入力か同時押し長押しとかするのかな?


「取り敢えず全部長押し!」


 おっ、ピント合わせのカッコのようなものが出て来た。

 これをマサフミ先輩に合わせてと。


「後はシャッターを―――」


 押した途端、こっちまで目が眩む爆弾のようなフラッシュ。


 そして光が止むと、カメラに収まる範囲の風景は一変していた。

 屋根などの光が直接当たる部分は融解し、影になる部分は燃え上がっている。

 立ってる石畳ごと無傷なマサフミ先輩以外は何処も同じ惨状。


 これではまるで見た風景を焼き滅ぼす魔眼だ。


「「「…………」」」


 僕は静かにカメラを下ろして、コアさんに渡す。


「って何ですか!?」

「……コアさんにあげる」

「一体何をしたのですか!?」

「ボタンを全部押しただけ」

「押しにくい組み合わせ程、普段押しちゃいけない効果が出るものなのですよ!」

「カメラでこうなるなんて予測も出来ないよ。そんな事言うならコアさんがやってよ」

「仕方ありません。正しい操作法を見せて差し上げましょう」


 右、下、右下、シャッター。


「うわぁあぁああ!」


 …………。

 どんな因果か、マサフミ先輩が地面から生じた昇竜に飲み込まれて、空に打ち上げられて行く。


「何でそのコマンドにしたの!?」

「有名だったのでつい……」

「……それより何故カメラにこんな機能が付いているんだ?」


 結構な惨状を引き起こしてしまったが、このカメラは縁結びに最適な素敵アイテム。

 使い熟さなければいけない。


 さっき学んだばかりだ。

 犠牲を無駄にしない為にも、突き進んだ方がいい事もあると。


「う〜ん、どう操作すれば?」

「まだやるつもりか!?」

「縁結びの為には必要だからね」

「……分かった。ぼやかして言った俺が悪かった。全裸写真を撮りたいのだろう? なら俺がやってみせる」


 ゼンがそう言いながら手を出すので、僕はカメラを渡す。

 ぼやかして言ったって、何の事だろうか?


 ゼンは、被写体をシンシア先輩に変える。

 そしてシャッターを押した。


 そして現像。


 特に変わった動作は無い。

 普通にシャッターを切っただけだ。


 現像された写真がひらひらと降りてくる。


「ほら」


 それを掴んだゼンは写真を僕達に見せてくる。


「「えっ?」」


 そこには、シンシア先輩の全裸写真があった。


「どうやって撮ったの!?」

「特別な事はしていない。シンシアを撮ってみろ」


 そう言ってゼンは、僕にカメラを返してくる。

 どう言う事か全く解らない。

 視ても設定が変わった様子などは無い。

 しかし現に全裸写真は撮れている。


 訳も解らないまま、言われた通りシンシア先輩を撮ってみる。


 すぐさま現像。


 ヒラリと降りてくる一枚の写真。


「「何故!?」」


 そしてその写真は紛れもなく、ゴモラの撮ったのと同じようなシンシア先輩の全裸写真であった。


「二人が気が付かなかったのは無理も無い。俺もかつては気が付かなかった。あらゆる超越者達が気が付かなかった。しかし殆どのものは気が付こうとしなくても気が付く。これはそう言う類のものだ」


 ゼンはかつての風景を思い出すように答える。

 何をかは判らないが、ずっと視て来たようだ。


「“精霊の鎧”、つまり魔法少女やヒーローやらに変身する装備はカメラ越しだと何も着てないように映る。そして大多数の人間、一握りの選ばれし者に以外には着ているように見えない。

 何故なら、特殊な才が眠っていない限り、精霊は見えないからだ」





 《簡易用語解説》

 ・魔法少女

 魔法が当たり前に存在する世界において、この言葉は多くの場合魔法が使える少女の事を指していない。ヒーローのように変身能力を持つ少女を指す。

 これは異世界の魔法少女の話が伝わり伝承として遺っている為で、言葉の組み合わせでは無く固有名詞として存在している。


 しかしあくまで伝承が元である為、そのくらいの事しか定まっていない。

 変身能力が有れば光の巨人に変身出来る少女が魔法少女と呼ばれていた記録がある程、対象にはバラつきがある。

 魔法の使えない少女が魔法少女と呼ばれていた事例も数え切れない程。


 しかしどの場合も大抵目立つ存在なので、一度異世界人が伝承を遺し該当する少女が一度現れれば、もはや消えない伝承として魔法少女の事が定着する傾向にある。




 ・精霊の鎧

 精霊や神霊の力が宿った、もしくはそのものが宿った装備全般を指す。

 これらの特徴は瞬間装備にあり、使うことで所謂変身が出来る。


 ある時までは神々が選んだ者に授ける主流な神器であった。

 この装備の特徴として、精霊が全身を覆う装備となる事で精霊の力そのものと装備者が一体化する事が出来る為、授けた力を余す事なく与える事が出来る。


 例えば神剣などの場合、使いこなせなければ意味の無い場合が多い。剣そのものに力が使われているからである。武器としてはこちらの方が断然強いが、使いこなせなければただ壊れないだけの武器である。

 神剣などでは神の助けを必要とする者に、必要な時に力を与える事が出来ないのである。


 そこで精霊の鎧は授ける力として最適であった。

 装備者そのものを強化出来るからである。

 そして覆うだけなので神降ろしのように使用者の器に収まりきらず負担を与える事も無い。神々からしても精霊の鎧として依り代があるので何度も地上では消耗してしまう神霊を降ろす必要も無い。


 かつてはそう、完全無欠の神器と考えられていた時代があった。

 現在では某世界宗教がばら撒きまくる他は、神器としては殆どが地上から回収されている。

 現代において見かける精霊の鎧の殆どは、某世界宗教製のものか、ダンジョン製のものである。しかし、回収されたのは既に太古の昔、常人にとっては超古代の事なので、ただ精霊の鎧と言う神器があったと

 伝承だけを知って、再現しようとする者は多々いる。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

簡易用語解説なのは次話も続く予定だからです。

尚、精霊の鎧、度々出て来る予定です。と言うよりも前置きしておいたのは今章が始まる前です……自分でもびっくりの筆の進みの遅さ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ