第六十話 シティーコアあるいは凶刃と強靭
すみません。投稿が遅くなりました。
今回は若干残酷な模写があるので、苦手な方はご注意下さい。サブタイトル後半な内容です。
ハービット先輩の周りの部屋に続々と先輩とゴモラ達が集まって来ている。
建物自体は一つ。それも集合住宅のような個々の部屋が完全に分離しているものでは無く、家の中の部屋と言ったように行き来が簡単に出来る一つの床で繋がったものだ。
しかし外観自体は集合住宅そのもので、中は全て繋がっているのにいくつもの玄関扉が並んでいる。
まず別々の部屋で服を脱がせ、行く行くは合流させようとする魂胆が各所に見え隠れしている建物だ。
各スカウト後に連れていかれる部屋には、入ってきた扉以外に二つの扉。その先にはただ寝る用には見えないベッドなどの怪しいものが置いてある大部屋があり、そこは計四つの部屋と繋がっている。
きっと、ヌードモデルをするまでに到った人が慣れたら、僕達が何もしなくとも縁結びの先までやってくれるだろう。
そもそも他の先輩がハービット先輩のようには服を脱がない可能性もあるが、そこそこの人数が居るからその点もある程度は安心出来る。
まず初めに、ヌードモデルにまでなった人はイタル先輩。
この人は騒動の中心が乱立するアンミール学園においても騒動の中心地にいるようだ。
因みにイタル先輩もハービット先輩と同じく来たときには既に服を着ていなかった。
理由はハービット先輩と異なり、ここに来るまでに風紀員の先輩達と衝突し服が消失したからだ。
まあ多分、集まった人達からして、どちらにしろ初めに服を脱いだのはイタル先輩だっただろう。
ゴモラのスカウトも『君カッコいいね? モデルしてみない?』だけですぐに調子よく快諾していた。
尚、モデルとしての出来は、悪ふざけしている人にしか見えない。
これは僕がイタル先輩の日頃の行いを知っているせいか、それとも才能や技量的なものなのか?
取り敢えず、ハービット先輩のモデル技術がプロ並みだったのは僕達の思い違いでは無かったようだ。
その後、暫く問答してからのマルスク先輩。
この人はどう解釈してか、僕の依頼書を見て身体を売ろうとしていた先輩だ。
あーるじゅうはち魔法で何を考えているのか詳細は判らなかったが、おそらくこの手の事を初めから覚悟していたのだろう。
元々服装が男版アマゾネスと言ったような軽装の民族衣装だった事も手伝ってか、抵抗を覚えながらも決断が早い。
モデルとしての完成度はポーズの部分が拙いが、褐色の肌でかなり鍛えられているので全裸と言う部分を無視すれば有りそうな感じにはなっている。
ボディービルダーとまでは言えないが、そんな感じがする。
また少し時間が空き、次に服を脱いだのはテオ先輩。
マルスク先輩と同じ事を考え行動していた先輩だ。
マルスク先輩とは違い何処の世界でも有りそうな比較的普通の村人服を着ていたせいか、決断は少し遅かった。
この様子だと、普段着ている服も多少は羞恥心に関係するのかも知れない。
モデルとしての完成度は、素材と言う点からして何か違うと思えてしまうものだ。
何と言うか、テオ先輩は特徴が無いのが特徴と言えるくらい特徴が無い。見た事が無いくらいに何処にでも居る人だ。
その癖種族は研究所由来の特殊な魔人族らしいが、元々が強靭な為に筋力を鍛えると言う事も出来ないらしい。
角や羽があれば違ったかも知れないが、テオ先輩の外見は人族そのもの。
全ての点で平凡。
何と言うかわざわざ写真を取るような人では無い。
印象が残らないを通り越して違和感を覚えてしまう。
芸術としては練習素材がいいとこだろう。
続いてはまた時間を置いてからのテリオン先輩。
この先輩もマルスク先輩達と同じ事を考え同じく行動していた先輩だ。
マンドレイクの件から皆バラバラに行動していたが、結局考える事が同じせいでゴモラに同じ場所ヘ連れて来られたらしい。
脱ぐ事を決断するまでに時間がかかったのは、元々上半身も外では脱がないような文化出身だからであるようだ。
そこは空島しか無い世界らしく肌寒い。特段上半身を隠さないといけない訳でも無いが、脱ぐ機会も無く抵抗があったのだろう。
まあ、テオ先輩と比べて誤差程度だったが。
モデルとしての完成度は、テリオン先輩はパイロット系の魔術士らしく、軽く引き締まってこそいるが普通の範囲内。
顔も整ってはいる程度で、テオ先輩とまではいかないが特別価値が見いだせる程の特徴は無い。
ポーズも勿論素人のそれで、ゴモラが上手く撮らない限りは芸術の域には至らないだろう。
多分初めに見たハービット先輩の出来が凄すぎただけだろうが、普通の写真の域だ。
さて、他の先輩とゴモラのやり取りはまだ続いている。
視たところ、まだまだ時間がかかりそうだ。
とりあえずはトロピカルジュースを飲んで待っていよう。
チューチュー……。
チューチュー……。
そろそろ飽きてきたからココヤシに変えてと。
「ほっ!」
指で穴を開けてと。
チューチュー……。
「てい!」
飲み干した後は、手刀で斬って実も余す事なく。
ホムホム……。
チューチュー……。
ホムホム……。
チューチュー……。
ホムホム……。
…………。
……。
「……女子の先輩まだ?」
「……まだですね」
「……まだだな」
幾ら待てども脱ぐのは男子の先輩ばかり。
と言うよりもハービット先輩、イタル先輩、マルスク先輩、テオ先輩、テリオン先輩から三十分程、新たな脱ぐ動きは無い。
対して女子の先輩はまだ全員、下着姿ですら無かった。
それとな〜く、ゴモラが脱ぐ事を打診しているが微動だにもせず作った笑顔を浮かべている。
これは直接打診しなくては駄目そうだ。
しかしそれは一か八かの賭け。
この様子からすると、嫌ならすぐに去ってしまうだろう。
だからと言って時間も無い。
何があったのかは全く把握出来ないが、イタル先輩の大切なトコロ付近が“あーるじゅうはち魔法”で隠された。
その手にはこれまた隠されていて視えないが形状的に何らかの本、多分雑誌の類。
もう片手の手も大切なトコロ付近で隠されている。
“あーるじゅうはち魔法”で隠される何かが子作りには必要だとは知っているが、異性のいないこの状況でのコレは関係無い筈だ。
“あーるじゅうはち魔法”は曰く子供に見せられないものを全て隠す魔法。
イタル先輩のソレは普通に子供に見せられないような事であろう。
そんな状況になっているのが良い傾向である筈がない。
多分ゴモラの直接人を陥れるような何かだろう。
このままでは縁結びまで行けなくなる可能性がある。
早急に縁結びの方向に進ませなければ。
「何か手を打たないと」
何か良い手は?
そう考えていると、水晶球が目に入った。
コアさんから渡されたコントロールコアだ。
コントロールコアを弄ってみる。
コントロールコアと言うからには、この状況を妥協出来る何かがある筈。
少なくともゲームっぽい演出を見る為のものでは無い筈だ。
試しに先輩達をコントロールコアで映してみると、様々なメニューが出てきた。
流石に縁結びをすると言う選択肢は存在しなかったが、映ったゴモラには色々な可変項目がある。
このゴモラの設定を弄ればおそらくゴモラの行動を変えられる筈だ。
上手く設定して女子の先輩達にもまずはヌードモデルになってもらおう。
「えっと、このボタンかな? うわっ、新しい項目が出てきた。取り敢えずゴモラをタッチしてと…、また新しい項目だ。これかな? こうかな? あれ? ソドムの項目まで来ちゃった。これ? このボタン? まだソドムが表示されてる。長押しとか連打かな? それ!」
するとダンジョン内にやっと変化が訪れた。
ソドムの近くに一つの龍脈にも届く程の莫大な魔力が吹き上がり、急激に収束して行く。
可視化されるレベルの密度まで収束すると、中心に核が形成され、その核から爆発するが如く急速に街が現れて行く。
まずは核を取り囲むように城館が小高い丘付きで。
その丘から石畳や水路が引かれ、そこから様々な建物が生えてくる。
まるで元々そこに収納していたかのように、次々と生えてくる。
生成と言うよりも、連鎖召喚。
仕上げに軽く木々や雑草が所々に生える。
街の展開に伴い核に吸収されていた魔力が無くなった頃、そこにあったのは一片の疑いようもなく街。
ご丁寧に建物の建築様式まで整理された通りと、乱雑な住宅区画、更にはもっと統一感の無いスラム街らしきもの等によって構成された、完璧なまでに何処に在っても不思議ではない普通の街。
それがソドムから少ししか離れていない所に現れた。
「「一体何をした(のですか)!?」」
「えっと…、コントロールコアを弄ってたら、その、街が?」
コアさんとゼンに問い詰められるが、正直なところ僕にも何が何だか判らない。
「まあ、でも、普通の街が一つ増えたくらい気にする事じゃ―――」
僕が二人を落ち着かせようとすると、また変化が起きた。
今度は魔力が吹き出した訳でも無いのに、核が魔力をダンジョンから吸収し始めた。
そして街の各地で収束して行く魔力。
その収束した魔力は核を形成。
核が形成されてからは急速に周囲の魔力を吸収し、核から飛び出すよに身体が形成されて行く。
完成した姿は人。
しかも初めから服装も持ち物も完備。
うん、ゴモラだ……。
何となくそんな気がしてた……。
「何処が普通の街ですか!? 完全にソドムではありませんか!?」
「と言うか普通に街が一つ増えても大事だからな!?」
「「えっ?」」
「何故そこで突っかりを覚える!?」
だが、これだけで終わりでは無かった。
またしても吹き上がる龍脈の如き莫大な魔力。
それも複数箇所。
……そう言えば連打してしまった……。
魔力収束により生み出された核は、急速に残りの魔力を吸収し、それと反比例させるように街を生み出してゆく。
そこまでは同じだが、街の構築手順は様々。
生やすように建物が形成されて行くソドムも在れば、部品を生み出してから組み立て行くソドム、更には地形自体の形を徐々に変化させ街を構築するソドムもある。
完成された街の様相も様々。
建築様式は勿論、建築材料まで多種多様。
それでいて一つの街ではある程度の統一感が演出されている。
加工した岩石を積み上げた建造物の織り成す街、木の骨組みと煉瓦や漆喰の壁の建造物が織り成す街、木を主とした建造物の織り成す街。
異世界にある造りのものから、魔術が無ければ物理的に再現不可能な建築様式まで様々だ。
ソドムがシティーコアから生まれた魔物であるせいか、どれも頑丈そうな外壁を有した城塞都市。
どれも攻略には攻城兵器を必要とする規模がある。
共通点はそれくらいしか無い。
それでいて極端な街も無い。
工法の偏りこそ有れど、全てそれを元として造られた程度の街だ。
その工法を代表する傑作では無く、その地方に行けばありふれている完成度。
普通の街である。
恐らく普通の城塞都市と言うのがソドムの特性なのだろう。
ソドムが乱立した事である程度の個性が浮き出てしまっているが、自然発生したソドムはその土地にありふれた城塞都市の形を取るのだと思う。
と言うよりも先に都市があり、それが変化する事によって生まれるからそう変な都市にはなら無い。
城塞都市の部分は魔物が周囲に存在する限り街レベルの人口を集めるには必要不可欠であるし、もしシティーコアが汚染される程に民まで腐敗している美しい都市があるとして、敵対勢力は黙っていない。立派な都市とは発展する何かがある重要な都市。その内部が弱っていればシティーコアが汚染される前に奪われるか破壊される事だろう。
「……あの天の長城の飛梁、とても立派だね」
「そんな現実逃避している場合か!?」
「早く止めるなり消するなりしませんと!」
ゼンもコアさんも慌ててコントロールコアを操作し始める。
僕も何とかしようと努力すべきなのだろうが、普通に操作していた結果がコレである。
多分、悪化させるだけだ。
大人しくしているしか無い。
「ソドムを消すボタンは、ソドムイレイザー、これだな!」
ゼンがそう言って操作画面にタッチする素振りを見せると、ソドムの一つに変化が訪れる。
中央にある煉瓦造りの城館が煉瓦毎にバラけ、球状に回転し始める。その中心にはソドムのコア。
球の回転は激しくなり、魔力のスパークを放ちながらやがて円形に変化。幾つもの回転サークルからなる円形の筒になる。
回転は激しくなり、それと共にスパークも物理的に周辺に被害をもたらす程激しくなる。
スパークの向きからすると、周辺から魔力を徴収しているらしい。
コアに魔力が収束され、凄まじい光を放ち始める。
そしてそれは、一気に激しい光線として撃ち放たれる。
光線は触れもしていないのに射線下の範囲を焼き払い溶解させ、真っ直ぐ突き進む。
山を貫き融解させ、その先にあった山上の湖も一瞬で干乾びさせ、やがて偶々射線上にあった隣街ソドムの一つに着弾する。
もはやソドムの崩壊する瞬間など捉えられない。
一瞬だ。
一瞬で分厚い石材の外壁を有し、内部まで壁や石垣で守られた堅牢な城塞都市は光へと消えた。
光が晴れても、山上の湖に隣接するようにあったソドムはもはや跡形も無い。
在るのは巨大な火口。湖の如き熔岩の海。
…………。
「パパ、一体どんな操作したの!?」
「……金星って、あんな場所なのだろうか?」
「そんな現実逃避している場合じゃないよね!?」
どう考えても僕のやらかした事よりも数段酷い。
結果的にソドムが一つ消えたが、どう考えてもソドムイレイザーとやらはソドムを消すのでは無く、ソドムが消す攻撃だ。
「ますます多数のソドムをこのままにしておく訳にはいきません! ちょうどソドムを格納するゲート・オブ・ソドムと言う選択肢が出てきました! これで解決です!」
「ちょっ、コアさん!」
僕の静止も虚しく新たに発動される変化。
今度はシンプル。
ソドムの外壁などに備え付けられた兵器が一斉に火を吹いた。
矢や槍、砲丸や魔術、魔法武器は勿論の事、剣や棍など投げる前提で無いものまで途切れる事なく一斉掃射される。
うん、やっぱり某英雄王のバビロンのやつのソドム版だ。
ソドムの武器庫全開放と言ったところだろう。
その一発一発は石造りの住宅を貫く威力を持っているが、都市がポンポン生まれる場面や、地形を金星のように変えられる一撃を視た後だと、そんなに感情が動かない。
こんなもんで良かったと安心する自分がどこかにいる。
だが一応は言っておこう。
「コアさん、何してんの?」
「……投射されたモーニングスター、鎖と柄の部分、必要あるのですかね? 棘鉄球が高速で飛来するだけで完結しますよね?」
「コアさんも結局現実逃避するんだね。と言うかコアさんはダンジョンコアでこのダンジョンの作成者でしょう? どうにかならなかったの?」
「私はここを創っただけなので制御はしていません。完成したときから自動制御です。私にこのダンジョンの制御を求めるのは例えるなら、刀を造る鍛冶師に剣術の腕を求めるようなものです」
「そんなもの?」
「そんなものです」
どこか腑に落ちないものがあるが、コアさんもコントロールコアを使って僕と同じ程度の事しか出来ないらしい。
英雄譚のダンジョンものを読んでいると、ダンジョン運営とは常に試行錯誤して行く、寧ろ造ると言うよりも運営がメインのような気もするがコアさんの場合は創造特化のようだ。
思えばコアさんは風化する程攻略者の来なかったダンジョンであるから、環境に合わせての最適解を目指す必要が無かったのだろう。
何故かまだ、何というか言い表せない引っ掛かるものがあるが、そう考えたら納得がいく。
そうこうもたついている間に、状況は変化していた。
いや、女子の先輩達には残念ながら何一つ変化していない。
まだ水着にも辿り着いていない状態だ。
しかし男子の先輩達は違う。
イタル先輩だけだった謎の“あーるじゅうはち魔法”の隠しが、ハービット先輩を除く他の先輩達にまで及んでいた。
相変わらず、何を隠しているのかは把握出来ないがこれは拙い傾向であるのは確かだろう。
ハービット先輩が隠されていないのは、ゴモラが心底同情してしまったからであるようで、逆を考えれば同情したらしない事を他の先輩達はされていると言う事になる。
これは早めに手を打った方が良さそうだ。
そして状況が変化したのはモデル誘惑の場だけでは無い。
他の場所でも起きていた。
しかもここよりも深刻な事態が。
「腎臓は一つ金貨百枚で買い取ろう」
「それでお願いします」
臓器売買だ。
何故大金を積まれても脱がない人がいるのに、大金を積まれて臓器を売ろうとする人がいるのだろうか?
「ちなみに、他の臓器の買い取りは?」
「勿論やってるよ」
「じゃあそれもお願いします!」
「……あいよ」
しかもゴモラが想定していない売り込みまで自分でかける始末。
全く以て理解出来ない事態だが、放置出来ない事態である事だけは確かだ。
だが、聖剣を何としても治したい勇者なソルセン先輩は既に手術台の上。
とても間に合いそうに無い。
もうここまで来てしまっているのなら対処療法として事後に再生なり治療なり、最悪の場合は復活させるなりするしか無さそうだ。
「あっ、麻酔無しにすれば、その分浮いた麻酔代って貰えたりしますか?」
「……とても奨められないが、望むならば」
「お願いします!」
「…………」
……いや、わざわざ僕達が治療する必要も無い気がして来た。
どう考えても狂った人だ。
ゴモラが言葉を無くすとは、とても尋常なレベルでは無い。
関わっちゃいけない類の人である。
しかし狂っていても行動理念としては善き勇者。
とても好ましくもある。
天は二物を与えずとは、これの事かも知れない。
ソルセン先輩は暴れないように手術台に拘束され。
カチャリと、ゴモラはメスを手に取る。
ゆっくりとその刃先はソルセン先輩の腹に。
ぷつりと、先端が刺さり真っ赤な血が。
メスの刃はゆっくりとソルセン先輩へと消え、スライド。
「ぐっ……!」
とても視ていられない猟奇的な……うん?
ほぼ切腹状態なのに、ソルセン先輩の浮かべる表情は絶叫する程の苦痛、では無くどこか芸人のリアクションに近い。
まだ顔芸の粋だ。
ある程度の余裕が見られる。
役者の演技の方が切迫したものを感じられる程だ。
……ソルセン先輩、今腎臓が取り出されたよ? 何で平気そうなの?
「うぉぉおぉ!」
あっ、腎臓が再生した。
すぐさま腹も閉じ、切開した跡形も無い。
勇者凄い。
〈再生〉スキルと聖属性に変換した魔力と生命力による治癒力強化。
多分、同じ事を他の人がしてもここまでの回復は望めない。勇者としての高い聖属性への親和性と強靭な肉体の成す業である。
技ではあるが、もはや生態と言ってもいい域だ。
やはり評価の付け難い先輩だ。
異常行動を見せたあとに、英雄の如き強靭さを見せる。
欲しいが、あまり近付きたく無い人材だ。
「次、お願いします!」
……やっぱり普通に近付きたく無い人材かも知れない。
「……あ、ああ、次は何処の臓器にする?」
ゴモラも完全に引いている。
「何が高く売れますか?」
「それは、一番は心臓だけど、流石にそれは――」
「それでお願いします!」
「あっ、はい……」
ソルセン先輩は心臓までも売りに出すらしい。
だが、心臓は流石に無理だと思う。
心臓が無い状態は限りなく死に近い致命傷だと幼子でも知っている。脳と並び一番大切な臓器と言って良いだろう。
狂的でもソルセン先輩は素晴らしい勇者、僕達の求める人だ。
死んだら速やかに回収してダンジョンの外で復活させよう。
再びメスが入る。
「ぐぎあっ……!」
ぱっくり開かれ心臓を探して血肉臓器を手掴みでぐちょぐちょ。
「どぶぁ……ガが……イッ!」
とても猟奇的で、視ているだけでもこっちまで痛くなって来そうな程、視るに耐えない光景だが、何故かソルセン先輩自体はまだまだ元気に顔芸を決めている。
正直、かなり手の混んだ手術コントにしか視えない。
「あばばばばッ!」
そして遂に心臓も取り出された。
同時に当たり前のように再生。
心臓を取り出されても平気って、どうやったら死ぬのだろうか?
不死性に定評のある吸血鬼以上の不死性である。
「次、お願いします!」
更には営業スマイルを浮かべながら次を求める余裕振り。
うん、深刻な状況に視えたがここは放って置こう。
大丈夫だ。
だが、臓器売買しに来ているはソルセン先輩だけでは無かった。
ハービット先輩やソルセン先輩と同じく返済部に所属するセルガ先輩が他の建物の手術台で横になっている。
ソルセン先輩は間違い無く特殊な例。
普通の人は、いや多少超人でも臓器を抜き取って全くの無事でいられる訳が無い。
再生力に特化した超人でも、流石に心臓を抜かれたらアウトだ。逆に言えばその手の特殊能力を持った相手を倒すには、心臓を破壊するのが定説である程である。
ついでにその後、心臓は一つでは無いと言う想定外が付随するのが主流な程、その手の話を聞く。
まあ心臓が無ければ死ぬと理解している者が心臓を売り払う訳も無いが、臓器を取り出す事全般が死の危険を伴う行為である。
先輩が超人で普通の人の何倍も頑丈だとしても、無事では済まない。
再生出来る人でも時間を要すだろう。
どうあっても体力を消耗する。
そんな状態でゴモラの前にいるのは非常に危険だ。
ゴモラはチャンスさえ有れば直ちに襲いかかるだろう。
何とかしようとコントロールコアを弄ってみるが、一向にこの状況を回避させる方法が見つからない。
「うわっ、何故かソドムが回転し始めた! と言うか何でそんな選択肢があるの!?」
「あれ? ソドム大気圏突入、発射成功してしまいました!」
「ロッケト発射以前にダンジョン内に大気圏が有るんだな……って、こっちはソドム内のゴモラが一斉にパラパラを踊り出したぞ!?」
駄目だ。
慌ててしまうせいか、元々操作出来ないのに拍車をかけて変な操作ばかりしてしまう。
やはり間に合わなかった。
セルガ先輩のお腹にメスが引かれる。
そこから滲み出る真っ赤な鮮血で白い肌は……。
「「「………?」」」
全然血が出ていない。
と言うよりも傷一つ無い。
ゴモラも首を傾げてメスをもう一筋。
だがやはり傷は付かなかった。
幾度メスを引こうとも引掻き傷の一つも残らない有様。
「あの、まだですか?」
「メスが全く通らなくてだね。済まないが、臓器買い取りの件は――」
「多少強引にかっ捌いてもいいんでどうか買い取りをお願いします!」
「それなら何とか」
ゴモラが白旗まで上げかけるも、セルガ先輩の強い意思で新たな手段で続行される事になる。
臓器売買の強い意思とは一体……?
まずゴモラはメスを逆手に握った。
そして殺人でしか見かけないような強い振り下ろしで、メスをセルガ先輩に付き立てる。
が、これまたセルガ先輩に変化は無い。
何度も突き立てるが、やはり何度やっても結果は同じ。
ついにはメスの方が曲ってしまった。
そこで今度は道具を変える。
何処にあったのかは知らないが、見事に鋭そうな出刃包丁を持って魚を捌くが如く刃を入れようと試みる。
しかし押せども引けども歯が、いや刃が立たない。
またしても逆手に持って、それこそサスペンスに良く出て来る振り下ろしを何度も試みるが、これまたセルガ先輩は無傷。
続いては刀。
柄の部分に装飾が無いから鮪解体の包丁かも知れないが、何にしろ人もスッパリ真っ二つに出来そうな凶器だ。
それを思いっ切り振り下ろす。
それはまるで処刑人の斬首。
セルガ先輩もパキンッと音を立てて……ん? パキンッ?
血飛沫の代わりに宙に散ったのは、きらきらと光る金属片。
そして宙をくるくると回転する刀の半身。
散ったのは、刀の方であった……。
薄々こうなるとは予想していたが、実際に視るとやはり衝撃を受ける。
取り敢えずは叩きつける剣ではなく、斬る専門の刀だから折れた、そう言う事にしておこう。
あっ、宙を回転していた刃が石材の床に突き刺さった。
……こんなに切れ味があったんだね。
予想外の連続で色々と吹っ切れたらしいゴモラは、もはや手段を選ばず更に手術ではあり得ない道具を持ち出して来る。
その手には円盤回転型の魔動ノコギリ。異世界で言う電動ノコギリのマジックアイテム版だ。
高速回転するそれをセルガ先輩の腹に押し付けると、キュィイーンッッ!!という甲高い音が。
流石のこれにはセルガ先輩も恐怖の顔色を浮かべるが、火花が散るばかりで血飛沫は吹き出る事が無い。
……と言うか何で火花が散るの?
ゴモラは諦めずに魔動ノコギリを押し付け続けるが、一向に効果は表れない。
「ふひゃ、ふひひひひっ!」
それどころかセルガ先輩はくすぐられた様に笑い始める始末だ。
魔動ノコギリは切れなければくすぐったいらしい。くすぐりは普通に通じるんだね……。
ゴモラはこれが最後の手段であるのか、柔らかい場所を探して魔動ノコギリを行ったり来たり。
「うひひゃはははっ! もうやめ、うひははははっ!」
それに対してセルガ先輩は死にそうなっているが、その原因はくすぐったいからだ。
呼吸困難になるほど笑い転げている。
魔動ノコギリの行ったり来たりは文字通り死ぬほどくすぐったいらしい。
……魔動ノコギリが死因となり得ると言う点では同じなのに、どうしてこうも違った方向性なのだろうか? しかも馬鹿げた方向に……。
うん、もう放置しよう。
ゴモラと同じく、僕にも手の施しようが無い。
ここまで視ていて、一つ判った事がある。
「そもそもここにいる女子の先輩の全体数が少なくない?」
「そう言われてみれば確かに」
元々女子の先輩は今回の依頼をあまり受けてくれていなかったのだ。
多分、元々少なかったのが、全員男子の裸体美術部の先輩達が依頼に加わった事で監視する風紀委員の先輩達が加わり、かなり偏った比率になっている。
男子が増えたと言う意味合い以外でも、恐らく女子の信用のない裸体美術部が参加するからと身を引いた先輩達もいた事だろう。
結果として、女子の先輩は何故か僕達の依頼書を見て身体を売ろうと考えていたシンシア先輩達と、風紀委員に一人だけいたメービス先輩、そして貴族に扮したティナ先輩、計五人しか居ない。
「これでは数撃てば当たる戦法が使えませんね?」
「やっぱり縁結びとしての質を上げないとどうにもなりそうに無いよね」
何にしろ、女子の先輩に関しては全員、まあティナ先輩はもう結ばれているから良いとして、四人とも縁結びをする必要がある。
それでも四組しか組めない。
この依頼を意味のあるものにするにはここで縁結びをする必要があるが、これまでの精神的苦労からすると一組も縁を結べないでは割に合わな過ぎる。
何としても縁結びされて欲しいところだが、対象は必然的に四人のみ。
簡潔に言って保険が無い状態だ。
これを打開する手段は、さっきから手元にコントロールコアとしてある筈なのだが、全て空振りどころか余計な事態を引き起こしている。
どうしたものか?
三つのコントロールコアでどうにか?
ん? 三つ?
「コントロールコアを三人で使えばどうにかならないかな?」
「……視ての通り災害を引き起こすのであればどうとでも出来ますが?」
「いや三人で一つのコントロールコアを操作すれば変に操作したりしなくなるんじゃないかな? 効果としては多分一つでも十分だし?」
「つまりお互いに確認しながら慎重に扱えば、コントロールコアを巧く活かせると?」
「そう言うこと」
考えてみれば、慣れもしないのに高度な操作技術を必要とするコントロールコアを操作しようとするのは無謀だったのだ。
基本、自由度の高いもの程、高度な操作技術を有する。多くを自分で決定しなければいけないからだ。
異世界では自動車運転も免許証を必要とすると言うし、助手席は本当に助手が、つまり操作が難しいから副操縦士的な人が座る席であったと言う。
如何に旧型と言えど、比較的単純操作の自動車でそれだ。
完全に自分で決めて下さいスタイルのコントロールコアを一人で直ぐ様巧く操作出来る道理など無い。
なら、どうすれば良いか?
副操縦士的な人と一緒に操作すればいいのだ。
つまり三人で操作すれば良い。
僕達三人は一つのコントロールコアの上に手をかざす。
さて、さっさと縁結びを成功させてこの依頼を終わらせる事としよう。
《簡易用語解説》
・ソドムイレイザー
退廃都市ソドムの切り札の一つ。と言うよりも本来は力あるシティーコアのある大都市の切り札の一つ。
龍脈から莫大な魔力を吸い上げ発射する魔力光線。魔術のように構築された術では無く、シンプルに魔力を超収束させたものだが威力は山を抉り海と見間違う湖をも一瞬で蒸発させマグマ煮え滾る灼熱の大地へと変える。
また、莫大な魔力を龍脈から吸い上げる代償として、龍脈の繋がる広範囲から魔力を奪い去り、環境を変えてしまう。数回撃てば不毛の大地が照射線上以外にも広げる。
ただしソドムが一定以上の龍脈上に無ければ発動には至らず、その龍脈の基準が年中実りが溢れる聖域レベルのもので無ければなら無いので、まずソドムはこの力を発揮出来ない。
今話にて発動されたのが史上初。
尚、コセルシアのダンジョン内で有れば回数制限が無い。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
次話からは少し話が進められると思います。




