第七話 一歩あるいは始まり
「ねぇ、コアさん。魔術の人達、どうしようか?」
食事に夢中でこのことをすっかり忘れていた僕は、コアさんが浮かべる呆れや諦めのような表情を見て思い出した。
僕から話しかけられたから忘れていたとは思わないだろう。危なかった。
「……私に思考が漏れていますよ。私も忘れていたので特に思うところはありませんが」
しまった! 漏れていたようだ。コアさんも忘れていたみたいで良かった。あれ? だったら何でコアさんはあんな表情をしていたのだろう? 気にしないでおこう。
「……多分コアさんは今後も魔術で人を産み続けると思うから、いつでも使える方法を見つけたいんだよね」
コアさんの言葉でいろいろと気まずくなったので、僕は聞かなかったことにして話しを続けた。
「聞かなかったことにするのですね……。まあいいです。あの…何故現れたか全く解らない方々への対応についてでしたね?」
コアさんの調子が元に戻ってきた。コアさんの眼はしっかりと僕を映している。魔術の人達のことを完全に思い出してきたからだろう。
「……まだ自分の魔術で生み出したって認めていないんだね」
僕はコアさんに半眼を向けながらそう言う。いい加減に認めて欲しいものだ。
「……えー、普通にコミュニケーション能力を上げるというのはどうでしょう? これならあの方々がこの先何人現れようが、なんの問題もない筈です」
コアさんも僕の話しを聞かなかったことにするようだ。とっさに考えたのか、出来たら苦労しないことを言ってくる。
最終的にはそれを目指したいが、今すぐにでもなんとかする必要があるので当然却下だ。
「じゃあコアさんがコミュニケーション能力上げてなんとかしてみてよ。僕はそれまでここでデザートを食べているから」
「……申し訳ありませんでした。私が浅慮でした。すぐに違う方法を考えます」
やはりコアさんは深く考えていなかったようだ。自分が出来ないことは提案しないで欲しい。
「じゃあ次は僕が言うね。見なかったことにしてこのまま旅立つのはどう?」
僕は真剣な表情でコアさんに提案する。夕食の前も三人で考えて答えが出てこなかった。きっとコミュ障な僕達にできることはないのだろう。
それにほっといても僕が野菜に変えたからそこら辺で元気に育つ筈。なんの問題もないだろう……。
「…きっと本当は否定する要素しかないと思うのですが、私には全力で否定できそうにありませんね…………」
コアさんが遠くを視ながらそう言う。
僕も遠くを視ている。
「しかし私もそうしたいですが、先程マスターが言った通りこの先も現れ続けるでしょう。まだ人里離れた場所ですから今はいいですが、この先人里に入ったならば急に現れた時に対処が出来ません。今のうちに完全な対処法を考えておくべきです」
「おおー、コアさんが珍しくまともなことを、僕の作物を食べたからかな?」
「失礼ですね! 私は元よりまともです!」
「…………」
僕はコアさんを半眼で見る。一瞬でもまともだと思った僕が間違っていた。フカフカの土があったら潜ってしまいたい。
「ゴホン、とにかく対処法を考えましょう」
コアさんがあからさまに話しを元に戻そうとしてくる。正論ではあるので流されてあげよう。
「そうだね。一番の問題は僕達が話し掛けられないことだから、文字とかで僕達の意思を伝えるのは?」
「それだと街中でやる場合、かなり目立つと思いますよ。それに文字は彼等に通じますかね? 言葉は“大賢者の加護”で全ての“人種”が通じ合うことが出来ますが、文字にその力は及ばないですからね」
「確かに目立つかもね。ところで“人種”って何? それに“大賢者の加護”って?」
「ああ、 知りませんでしたか。どちらも隠しステータスですからね。意識しないと〈鑑定〉で視られないのですよ。“人種”と言うのは所謂“人”と呼ばれる種族全てを差す言葉です。私の鑑定では出した筈ですので、マスターのステータスの種族欄には人種表記がありませんでしたか?」
「なかったよ……」
これが本当なら僕は人間どころか人ですらないことになる。いや、きっとコアさんが出し忘れただけだ……そう、きっと。
そうじゃなかったら…田舎者には書かれていないとか、ボッチには書かれていないとかだろう。都会に出てコアさん以外にも友達が出来れば表記が出てくる……筈だ。
「………………まあ、人間やエルフ、ドワーフ、獣人等を差す言葉ですね」
コアさんが同情らしい感情のこもった眼で僕を見て話しを続けた。無かったことにしてくれるらしい。
「……確かに英雄譚に出てくるステータスにも、そういう表記がたまあにあったような気がするよ」
僕も聞かなかったことにして話しを続ける。
「……“大賢者の加護”は“人種”より遥かに隠しステータスで、滅多に鑑定出来る者は存在しません。“プライバシースキル”や“業”よりも鑑定しずらい程です。加護と名が付きますが通常の〈鑑定〉では加護欄にはまず出て来ませんね。私の鑑定では出てきた筈です……よね?」
「当たり前のように無かったよ……因みに効果は?」
僕は恐る恐る聞く。誰にでもあるようなものじゃないよね? 英雄とかに付くような特別なもので、無くて普通……だよね?
「…残念ながら人であるならば全ての存在が持つものです。効果は全ての人同士の言語理解、つまり相手がどんな言葉で話していようが、相手が人で意味のある言葉を話している限りは会話が出来るようになる力です。また龍等も持つことがあり、人以外が持つと“人化”することが出来るように成ります。言いにくいのですが…………人の世に生きる存在の証明みたいなものです」
僕は人どころか人の世で生きる存在ですらなかったようだ。きっと田舎過ぎて僕の村まで加護がこなかったのだろう。人里へ出れば加護が貰える……筈だ。
「…………ぼ、僕は植物の世で生きる存在だからね…………」
「……そうですね。私にも多分ないので安心して下さい」
コアさんが妙に優しい。……グスン。
「と、ともかくも文字はあの方々に通じないかも知れないので、他の方法を考えましょう」
コアさんが話しを変えてくれた。有り難く乗らせて貰おう。
「…そうだね。コアさんは何かいいアイデアない?」
「はい、有ります。私はやはりあの方々との会話は避けられないと思うのです。ですが流石にあの人数の相手はとても出来ません。そこで私達と会話でき、代わりにあの方々と話してくれる新たな存在を用意すればいいと思うのです」
成る程、確かに一人とは話す必要があるが、それでも一人だけで済む。コミュニケーション能力を上げることも出来るだろう。どちらにしろ村の皆やコアさん以外といずれは会話できるようにならなければいけないし、多分今すぐに僕達にできる最善の答えだ。
「でもその間に立ってくれる人はどうするの?」
「創ればいいと思います。と言うよりもそれしか有りません。今すぐにあの方々をどうにかする必要が有りますし、恐らくこの周辺には意思疎通出来る者が存在しませんから」
確かにここら辺には人はおろか小鳥さえも居ない。村長によると微生物の類いすら居ないらしい。山脈の飛龍達には意思がない存在すら近づかないそうだ。
僕の村からしたら只のペット兼番犬みたいな存在なんだけどね。
「また魔術でも使うの? 僕は野菜に変えた後でも余り話せないよ」
「はい、そこが今回の問題点なのです。私達が普通に話せる存在が望ましいのですが、どういたしましょう?」
「僕に聞かれても……あっ! 元からの使い魔を創造すればいいんじゃない? 多分、魔術の人達が僕達の生み出した…一応生み出した存在なのに話せないのは、きっとどういう存在なのか理解しきれずに、完全に他人みたいに感じているからだよ! だから初めから僕達を助ける存在を生み出せば、その人とは会話できる筈だよ!」
僕は得意げに思い浮かんだことを話す。
流石に僕も自分で創ったゴーレムには命令出来るから、この方法なら上手くいく筈だ。
「成る程、確かに私達は出会って暫くしたら普通に会話出来ましたからね。初めから繋がりのある存在だと認識できる相手ならば会話が出来るかもしれません。ですがどう創り上げるのですか?」
「僕は木を彫って使い魔を創れるから、それで一緒に作ろう。一緒に創った人が能力を足すことができるから、二人で創った使い魔が創れるよ」
「そのような力をマスターは持っていたのですね。さっそく創ってみましょう」
コアさんが全面的に賛成してくれた。もしかしたら初めての共同作業かもしれない。友達っていいものだね。
「創るからには最高の使い魔を創ろう!」
友達と一緒に創るとなるとやる気がみなぎってくる。本でも友達について書いてあったが、想像していたのと全然違う。まさに百会は一戦に如かず等の諺の異世界版である、百聞は一見に如かずと言うやつだ。
「もちろんです。私の出来る限りの力をふるいましょう!」
コアさんも乗り気のようだ。誰が見ても楽しみにしています、という雰囲気を放ちまくっている。
「まず材料の木を生やすね。榊と梛で男女一組創ろうと思うんだけどそれでいい?」
僕はコアさんに聞く。榊と梛は意思を宿し易い木で、使い魔を創るのにぴったりな木だ。どちらを使うか決められなかったので、男女一組を創ろうと聞いてみた。
「男女一組ですか。良いですね。確かに性別によって話し易い相手や話しずらい相手がいますから、マスターの意見で良いと思います」
コアさんが勘違いをしてくれたが否定しないでおく。この流れに水を差したくないからね。
「じゃあ始めるよ」
僕は前方に両手をかざして、彫り易い大きさの榊の木と梛の木を生やした。
この二本の木は僕が持つなかで最高の榊と梛だ。僕が品種改良したものではなく、何世代も育てているうちに自然と到達した素晴らしいものである。その存在感はそこらの世界樹を圧倒しているだろう。
「おおー、これはまた立派ですね。特別大きいと言う訳でも、木の種類が特別と言う訳でもないのに、ここまでの存在感が溢れるとは、流石は私のマスターです!」
「ふふふ、ありがとう。さっそく創ろう!」
僕とコアさんはそれぞれの手段で木を彫り始めた。まずは大まかな形だけを彫る。僕が榊でコアさんが梛の担当だ。細かいところはこの作業が終わってから相談して決める予定である。
僕はノミと金槌でトントンと彫り、コアさんは魔力を込めた手刀でシュッシュッと削って行く。
「さて、どんな使い魔にする?」
ある程度木が人のような大きさになったところで、僕はコアさんに聞いた。まだ使い魔を創る力を使っていないので、木にはなんの変化もない。
「そうですね~、使い魔なので仕事ができる人、という感じで創るのはどうですか?」
「それはいいね。それじゃあ仕事ができるような感じに創ろうか」
今度は二人で分担して一本ごとに仕上げて行くことにした。僕は両手に創造の力を込めて、撫でるように手で最終的な形に削って行く。そこに僕のいろいろな力を受け取ったコアさんが、同じく撫でるように使い魔としての能力を与え続ける。
二人三脚の完璧な作業だ。唯一不満があるとすれば、使い魔を全裸の状態でしか創れないことかな。傍から見れば素手で撫でるように形を創っている僕と、そこに能力を与えているコアさんは、裸体像を撫で回すただの変態だ。
「“創植”」
完全に形を創り能力を与えたところで、僕は仕上げに技の名を唱える。
すると木を削っただけの表面だったのが、みるみると人肌に変化していく。髪や瞳にも色と光りが入り、暫くすると誰が見ても完全な人へと変化した。使い魔の誕生だ。
「「この度は創造して頂き感謝します。主よ! これからどうぞ宜しくお願い致します」」
創造した使い魔が口を開き、びしっと一礼しながら挨拶をしてくれた。全裸だが何故かとても似合う仕種だ。
「やったねコアさん! 成功だよ!」
「はい、やりましたね!」
僕とコアさんは喜びを分かち合うと、まずは使い魔を観察した。
二人とも理知的な眼鏡が似合いそうな、いかにも仕事が出来ますという風貌をしている。口調からしても多分、僕とコアさんがイメージした通りの存在だろう。
全裸なのが少し残念だがこれはしょうがない。服さえ着てくれれば完璧だ。まずはそこから頼もう。
「まずは服を着てくれるかな?」
「どうせなら仕える者というような服装でお願いします」
おっ! コアさんが着るものの注文をしてくれた。流石、分かっているね~。あの二人は秘書とかの格好がとても似合いそうだから、着てくれれば最高の仕上がりになりそうだ。
「「畏まりました」」
そう返事をすると二人の身体を薄い霧のようなものが覆い、それが晴れると二人は服を着ていた。
「「……」」
二人の姿を見て僕とコアさんは言葉を詰まらせる。二人が着ている服装が想像していたものと、あまりにも違い過ぎるからだ。
確かに仕える者の服装だ。注文通りだ。それでも……。
「「何故に巫女服!?」」
僕とコアさんは声を揃えて突っこみをいれた。そう、二人とも巫女の着るような服装をしていたのだ。
僕が想像していた理知的な眼鏡を掛けているにも関わらず、巫女服を着ていたのだ。異世界辞典の情報を使って二人を一言で表すと、真面目で仕事ができる秘書や弁護士のような人が付き合いでコスプレさせられた状態、とでも言えそうだ。
本当にコスプレ感が物凄い。二人とも真顔だし……。
「「二柱の主に使えるのに相応しい格好にしてみた結果です。他の神官服の方が宜しかったでしょうか?」」
何故か二人にとって使える姿は、神官服限定のようだ。この二人はどの神官服を着てもコスプレのようになってしまうだろう。せめて執事やメイドの服を着て欲しい。
「「スーツみたいなものの方がいいと思う!」」
僕とコアさんはまたしても声を揃えて意見する。
「主にスーツ等、失礼にも程があります。私にはとても出来ません」
髪を七三分けにした、榊で創った男の人が反論する。
「その通りです。主よ。御身らの威光を我等が汚すことなど出来ません」
榊の人に続き、長い髪を後ろでひと纏めにした、梛で創った巨乳の女の人も反論をする。
二人とも真顔で、変な格好をしているが迫力が凄い。雰囲気的に僕達がいくら反論しても恐らく無駄に終わるだろう。
「「……そうですか」」
僕とコアさんは完全に降参した。元々僕達の代わりに会話をしてくれる存在だから姿はどうでもいいと納得しておこう……。
「ところで我等は何をすれば宜しいでしょうか?」
「存在理由を教えて頂きたく思います」
「そう言えばまだ言っていなかったね。君達には僕達二人の代わりに他の人と会話して欲しいんだ」
まだ命令をしていなかったので、役割りを教える。かなり大切なことなのに服装の兼ですっかり忘れていた。
横にいるコアさんもしまった、という表情をしている。僕と同じで忘れていたのだろう。
「畏まりました。つまり我々は主にたかる下等存在の相手をすれば宜しいのですね」
「その下等存在は排除しても宜しいのでしょうか?」
要件を伝えて一安心だと思っていたら、二人はとんでもない発言をした。いったいどういうように受け取ったらそうなるのだろうか?
「い、いえ、違います。私達の代わりに私達の意思を伝えて欲しいだけなのです」
コアさんが慌てて説明してくれた。
「そうなのですか。我等の主は広大な御心をお持ちだ」
真面目な無表情に近い表情だが、瞳を怪しく輝かせながら榊の男の人は感想を述べた。本気でそう思っていると伝わってくる。
「……もうそれでいいよ。さっそく代わりに会話して欲しい人達がいるんだけど、いいかな?」
「「はっ」」
僕達が創造した使い魔二人は、僕達のことを過剰評価し過ぎだということが発覚したが、訂正したりするのはかなり難しそうなので本題に入って貰うことにした。
「コアさんが魔術で大量の人を出現させちゃったから、その人達何か仕事をあげて欲しいんだ。皆、僕達に従う存在みたいだから…」
「マスター、それでは正しく伝わりません。正しくは、正体不明の私達に従う存在が現ので、私達の代わりに仕事を与えて欲しいです」
コアさんはこんな時にもまだ自分で生み出したと認めないようだ。当たり前ですよといった態度で話している。
「コアさん、いい加減に自分の魔術で生み出したって認めなよ」
「マスターの方こそ自分で生み出したと認めてください。マスターの力も混ざっていると言われたではないですか」
「うっ……と、とにかく君達二人にはコアさんが魔術を使った時に現れる、正体不明の僕達に従う存在と話して欲しいんだ」
結局コアさんが魔術を使った時に現れるが、完全にコアさんのせいだとは判断できないし、もしも僕のせいだったら恐いので、僕は話しを先に進めた。
「はあ、畏まりました。その方々はどちらに?」
梛の女の人が僕達のやり取りに若干困惑しながら、魔術の人達の居場所を聞いてきた。
「ほら、周りにいる人達全員だよ」
「この周辺には主以外に誰も居りませんが?」
「「えつ!」」
榊の男の人に言われてコアさんと一緒に辺りを見渡すが、誰一人としてそこには居なかった。いつの間に! 一体何処に消えたのだろう?
「…………また仕事があったら喚ぶから、今は僕の無限収納に入って貰ってもいいかな?」
「そうですね。中で私達の役に立ちそうなことでもしていてください…………」
よくよく思い出すとコアさんと言い合った時に、コアさんが自分の代わりに無限収納内を整理してくれと命令し、魔術の人達は全員僕の無限収納に入っていた。
それを思い出し気まずくなったので、二人には待機して貰うことにした。コアさんも乗ってくれたので、僕と同じなのだろう。
「「畏まりました」」
「あっ、待って、せっかくだから中に入って貰う前に名前を付けてあげるよ」
流石に悪いと思い、何かできないかと考えると、二人にはまだ名前を付けていないことに気が付いたので、名を与えることにした。
「それはいいですね。私も賛成です」
「「ありがとうございます」」
二人はびしっと一礼してくれた。巫女服だが雰囲気的にとても似合っている。
「さてと、どんな名前にしようか? 何か希望はある?」
「「いえ、主の付けてくださる名前であれば、如何なるものでも至上の喜びです」」
「そう……」
いきなり名前を付けると言ったはいいが、まだ何も思い付いていなかったので、参考にしようと本人達に聞いてみたが、答えはまったくあてにならないものだった。本気でそう思っていると伝わってくるし、いくら聞いても無駄だろう。
「コアさんは何かある?」
「そうですね~。仕える者らしい名前がいいのではないですか? 例えば男の方だとセバスチャンやスチュワート、女の方だとメードやアンジェラですね」
「……どう見てもそんな感じの人じゃないけど……それに黒髪黒目だし……」
「……確かにそうですね。もう元になった木の名前でいいのではないですか?」
「そうだね。じゃあ男の君はサカキ、女の君はナギ、でどうかな?」
結局コアさんと相談して、無難に木の名前にすることにした。異世界の日本とやらでは、よく木の名前を付けることがあるそうなので、変な名前ではないだろう。
まあ、それでも本人達が気に入らないかもしれないので、一応確かめる。何でもイエスと答えそうだけど……。
「「ありがとうございます」」
二人は真面目な顔のままだが、微かに喜びの混じった顔で静かに消えていった。恐らく雰囲気からして、この表情が最高の喜びを表しているのだろう。不思議とそう感じた。
それにしても君達も僕の無限収納に勝手に入れるんだね……。
「じゃあコアさん。そろそろここを立とうか」
何だかんだ夕食も終わり、魔術の人達の対策も出来たので、僕はコアさんに声を掛けた。
「そうですね。ところでマスターの今後の予定は?」
「あっ! いろいろあってまだ言っていなかったね。僕はお嫁さんを探しに旅に出たんだ。僕の村には子供が居ないからね。だから僕位の歳の人が集まる【最高学都 エル・アンミール】へ行くんだ」
「数多の記録に出てくるあの都市ですね。【現存最古の都市】、【来存最後の都市】等と呼ばれるあの」
僕の目指している都市はコアさんの言った別名の通り、今ある現役の都市の中で最も昔からあり、この先もし世界が滅びることになったら最後に残るのはここだろう、と言われる程凄いところだ。当然いろいろなところから人が来るだろうし、そこならきっといい人も見つかるだろう。
「そうだよ。因みにコアさん、その都市が何処にあるか知ってる?」
「……行くつもりなのに知らないのですか。私には高性能の地形把握能力があるのでご安心ください。いつまでも何処までもご案内し続けます」
コアさんが満面の笑顔でそう誓ってくれた。それを聞いて僕はとても嬉しく思い、自然と同じ顔をした。
いつまでも共に進もう。
「ありがとう。じゃあ行こう! 僕達の旅に!」
「はい!」
僕達二人は歩み出す。その先に何があるかは僕には解らない。それでもそこにはコアさんがいるだろう。共に進める存在が出来ただけで、僕の旅はもう意味を成した。
だから何も恐れずに進み続けよう。何処までも。
「で、どっちに行けばこの森の外?」
「今、もう出発した雰囲気ではありませんでしたか!? 思考も私には漏れていましたよ! 此方です!」
最後に余計な一幕があったが、僕達は一歩を踏み出した。僕の知らない土地の、何処までも続く道へ。
《ステータスを総更新します》
《用語解説》
・大賢者の加護
全ての人と会話することができるようになる加護。他にもいろいろと効果がある。隠しステータスの人種表記は、まずこの加護がなければ付かない。
この加護の存在はほぼ知られていないが、大賢者の存在を知らない者は居ない。職業に大賢者というものは存在するが、大賢者と呼ばれる存在はこの一人だけだ。
大賢者の逸話は一般的に最古の逸話とされるが、最も知られた逸話だ。
・創植
植物を創ることも、植物で創ることもできるアークの技。何処までできるかアークも知らない。勿論、アークにしか使えない。
・魔術の人達
正式名称はまだない。簡単にまとめると、永久的に発動時の魔力以外を必用とせず自律的に在り続ける魔術、である。
ダンジョンコアとしてほぼ消滅しかけていたコセルシアが魔術を使う場合、魔術を発動できない程力を失っていた為に、ダンジョンの権能の一部で補っている。その為創られる、半魔術半ダンジョンモンスターの存在である。
通常このような芸当は不可能だが、コセルシアにアークの力が流れていることで、どういう訳だか無理やり存在出来ている。
無理矢理な存在なのでアークとコセルシアは、現状証拠や証言等で半ば自分のせいだと認めているが、完全には認めていない。
調べてもこの答えは推理でしか導き出されない為、アークとコセルシアの争いは終わることがないだろう。
ただ、結局コセルシアが魔術を発動しなければ現れないので、誰のせいで騒動が起きるかと言えばコセルシアのせいである。
ここまで読んで頂き、まことにありがとうございます。
第七話にて第0章は完結です。
次はまずアーク以外の視点から0章のでの世界を描きたいと思います。