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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第3章〈アンミール学園の新入生イベント〉あるいは〈完全縁結びダンジョンの謎〉

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第五十七話 賭け事あるいは奇跡

今回も少し長くなってしまいました。

中盤の方はアークの考え方と言うよりもほぼぼやかした設定です。読み難ければセリフ辺りまで飛ばして下さい。

まあ、それがこの物語の数少ない物語要素なのですが……。

 

 僕は今、ソドムに入ってしまった先輩達を視ている。

 コアさん達はただ僕の植物の話を遮りたかっただけだろうが、依頼として調査をさせているのだから視ないと無駄になると、正論を言われたら反対出来ない。


 植物と人、同じ趣味であっても依頼を頼んだ以上は仕事。

 視守るだけだが趣味で仕事を疎かにしてはいけない。


 特に依頼の内容が間接的に縁結びのコツを探る事であるから、食事も薬も必要としない、言ってしまえば植物を必要とはしていない僕としては行為の優先度が明らかに上だ。

 必要を最優先として考える場合、僕には捻り出しても縁結びしか重要なものが無いのだから、例え参考程度の役にしか立たなくともそれが僕にとっての唯一しなければならない事。


 正論で物事を決める上ではどうしても回避出来ないのだ。


 だから十中八九何も解らずにソドムに全滅させられる結果しか待っていなくとも、視ていなければなら無い。


 十分な結果を得るなり、さっさと退場するなりして切り上げて欲しいものだ。

 ならばする事は限られる。


「コアさん、どのレベルまで不慮の事故で誤魔化せると思う? 僕としては原因の判らない奇怪な事件であればあるほど、ガス漏れ事故で誤魔化せると思うんだけれど?」

「いや、ガス漏れ事故はそこまで万能では無いかと……って、一体何を考えているのですか!? あと考えるならもっとマシな誤魔化し方法を考えてください!」

「アークは相当アレだが、コアさんもアレだな……」


 素晴らしいアイデアを思いついたと思ったが、二人からの賛同は得られなかった。


 異世界の情報によると、魔法的なものであれ、宇宙人的なものであれ、その時代の科学で説明のつかない露見した事件はガス漏れ事故として誤魔化す事が多いように思える。

 破壊的状況は勿論の事、被害者の精神的状況や記憶も誤魔化せる安直だが、だからこそいい方法だ。

 映像やその場では用意出来ない形ある物的証拠が残っていなければ割と何でも誤魔化せそうである。


 しかしよく考えてみると、それは魔法が無くて、もしくは知られて無くて科学文明の進んだ、少なくともガスの普及している場所だからこそ通じる方法だ。

 まずガスが身近に無ければお話になら無い。下手をすればガスって何だの議論に移ってしまう。

 まだ魔法の方が説明がつく。


 だけれども魔法で誤魔化すのも難しい。

 魔法に詳しくない人なら簡単に誤魔化せるかも知れ無いが、先輩達ぐらいになると説明の付かない魔法を調べようとしてくる可能性がある。未知の遺跡を調査し神秘の秘宝を手に入れようとする感覚と同じだ。有ると知っているからこそ価値を見い出してしまう。

 それに単純に犯人探しを始めてしまうかも知れない。未知の魔法であっても使える人がいる事を先輩達は知っている。


 でも結局のところ、広報活動をするつもりは無いから原因を推測するのは先輩側になる。

 魔力を残さないように動けば、異世界人でありガスを知っている先輩達が勝手にそう思ってくれる可能性もあるし、どうやっても魔法を疑うかも知れない。

 真実に辿り着く可能性も十分あり得る。


 考えてみれば誤魔化しを行わなければいけないのは追及された時。

 そんなのを想定する事になる行為はそもそも避けるべきだ。

 誤魔化しの在るべき位置は前提では無く保険。前提として持ってきてはいけない。


 となると問題は何をするか。


「やっぱりバレないのは何人もの第三者を通して実行させる事だよね。となると誰にでも出来るような方法を考えねば」

「まずバレて困るような事をするな……」

「そんな事考えず普通に先輩方を観察しましょう!」


 まあ二人の反対もあるし、取り敢えず今は先輩達の様子を視てみよう。



「そこの格好いいお兄さん!」

「うん? 俺か?」

「勿論、大物オーラ漂う貴方です! ビッグな雰囲気漂うお兄さんにピッタリな賭け事があるんです! 是非ともひと儲けして行きませんか?」

「そこまで言うんなら行くしかないな」


 明らかなヨイショに流され闘技場に案内される裸体美術部のアルデバラン先輩。

 珍しいゲーム転移者で、深刻な場所から来た最後の希望らしいが、こんなので大丈夫だろうか? 

 希望を寄せている人達の諦めた表情が目に浮かんで来そうだ。最後の希望がこれでは、単純に独裁的な為政者にすぐに調子に乗る輩が就任するより最悪な状況だ。最後の希望はクーデターを起こそうが変えようがないのだからどうにも出来ない。

 遠いし現地を直接確認するのは止めておこう。


 アルデバラン先輩が案内されたのは千人は収容できるそこそこ大きな円形闘技場。

 そこに観客役のゴモラがほぼ満員で席に着いていた。


『三回戦は、赤き雪原の豪鬼と恐れられる【赤雪の傭兵】ブラッフ選手対、その駆け足は誰よりも早く途切れない【馬いらず】ヤーン選手だぁ!! 力とスピードの対決、勝つのはどっちだぁーー!!』


 そして対戦する選手もゴモラ。


 その動きは一流でこそ無いが、一般人向けの動きとしては十分に確かだ。戦士の動体視力が無くとも動きを追え、かつ速い強いと思わせられる基準を満たしている。

 剣闘士の様相としては完璧。

 そして司会の解説もそれなりに満たす。


 大勢の観客が居る事も合わせて、その場にいるのがゴモラだと気が付かせる不自然さがまるで無い。


 そしてこれは正体を暴けない事以外にも拙い状況だ。


 ゴモラは人の欲望を写し取らなければただの人型。ゴブリンにも負ける立体映像でしか無い。

 しかしこの強さ。そして偽装の完成度。

 かなりの欲望を写し取っている証拠だ。


 ゴモラを生み出すソドムはシティーコアの性質を持つことから、大雑把な変わりようが無い程度に一般的な情報は持っている。

 しかし細かい情報は知らない。

 例えば賭博場とは賭博をする場所であり、賭博とは何かまでは知っている。しかしそこでの賭け事の内容ややり方、それに対する人々の反応の全てを理解している訳では無い。


 言ってしまえば知っているのは文化に染まっていない辞書だけの状態。

 普通のソドムはその誕生経緯からかなりの精度で情報を持っているだろうが、このダンジョンのソドムは新都のテンプレートが直接変異したのと同じだ。

 だから人の変化の、流れの情報が全く無い。

 極端な話、このソドムが銃火器が主流な世界に在っても、武器屋に置いてあるのは剣や盾だろう。武器屋にあるのは武器だとしか、典型的な初期状態しかこのソドムは知らない。


 だがこの闘技場の完成度はそんな典型状態から逸脱している。

 闘技場の司会進行を知り、どの程度の選手が居れば良いのか理解し、何より用意出来るリソースが無ければこの闘技場は造り出せない。


 そしてソドムの知識の源は人の欲望。

 人の陰の面。

 ソドムは欲望を写し取る、つまり人の陰の面を得る事でその者の事までも理解し情報源とする事が出来る。


 だが普通、大人数いるか欲望を全て出し切り欲望の権化となった者が居ない限りここまでの精度は再現出来ない。

 人の欲望はあくまでも人の一面に過ぎないからだ。

 しかし先輩達は既に英雄の域にいる。

 古来より力ある者の怨念が強いように、全ての力は比例する。小さな感情の動きであれ、常人と比べたらそこに含まれる力の量はまるで違う。


 だから力量によっては本人にとってふと連想した程度の欲望であってもソドムは読み取り、普通の欲望は莫大な力としてしまう。

 この闘技場はその結果だ。


 絶望は急速的に先輩達の下へと伸びている。


 まあ、その結果を生むだけ先輩達は強いと言う事だから、強さと言う面では残念ながら大した障害では無い。

 だけれどもその偽装の精度は脅威に他ならない。

 見破れぬ間にゴモラは欲望を引き出し写し取り力を手に入れる。


 現に、全く気が付かないアルデバラン先輩は賭けを始めた。


「ブラッフ! そこだそこ! やれぇー!!」

「ヤーン、負けるなぁー! 俺の全財産がぁーー!!」

「諦めるな! そこだそこ!!」


 そして巧妙に先輩が勝たされる。


 まさか闘技場の全員がたった一人を勝たせる為の、欲望を引き出す目的のサクラだとは気が付かない。


「よっしゃーっ!! 二勝、八倍だ!!」


 順当に勝たされて行く。


 しっかり選手ゴモラの力もほぼ均等で誰が勝つか判らせないと言う用意周到さで、只管アルデバラン先輩は勝たされる。


「うぉぉぉーーーー!! 掛金1024倍の大儲けだ!!」


 そして金貨一枚を掛け金にして、決勝まで賭けに勝ち続け、莫大な金貨を受け取らされた。

 この階層唯一の魔物であるソドムはこの階層で生成される宝の全てを自由に管理出来るらしく、金貨は全て本物。

 どこまでも疑う要素など見付からない。


 そしてゴモラ達は更に誘惑。

 他の賭け事に誘い、煽てて稼いだ金を浪費させる。

 資金は減ってもすぐに増え、アルデバラン先輩は湯水の如く金を吐き出す。もはや値段を見てもいない。何を注文したのかすらも理解せずに、流れ作業で勧められた物を購入してゆく。


「いやはやお強い」

「流石は英雄様」

「ハハハハハ、それほどでもありますかな!」

「お飲み物をお持ちしました」

「この人達の分も用意しちゃって! 勿論君の分も!」

「キャー、ステキ!」

「本物の英雄様は一味も二味も違いますな!」


 ここで本物の詐欺師なら稼いだ額以上の馬鹿高い物を紛れ込ませ、買わせるところだが、ゴモラ達はまだ破滅を仕掛ける事はしない。

 ただ何処までも調子付かせる。


 ゴモラの主目的は欲望。

 金も宝石もゴモラにとってはただの替えの効く便利な道具でしか無いのだ。

 だから通常ではあり得ない、想定し得ない事を躊躇なく行ってゆく。

 そうして生まれる日常並の確度で演出された欲望の舞台の狭い出口は覆い隠される。突発的な奇跡を信じる者は少なかれど、最高の常を疑い嫌う者はいまい。

 既にアルデバラン先輩は蟻地獄の中だ。



「この調子だと早く終わりそうだね」


 視たところ、どうやら僕が手を出してまで破滅を早める必要は無いようだ。

 寧ろこの方法だと手を出さない方が最適だろう。下手に手を出してアルデバラン先輩が疑問を持ってしまえば効果はマイナスだ。


わたくしも正直なところ、失敗するならさっさと失敗を手にする方が良いと思うのですが……大丈夫ですかね? ……ここで状況に慣れ欲望が染み付いてしまえば、このダンジョン調査が終わってもそのままになってしまうのでは?」

「……そう言えばそうだね」


 うん、それは想定外だ。

 ソドムの魔の手。これがドラゴンのブレスのような即効性を持つ手段で無い事は明白であった。

 トラップ、それも水深の上がって行く部屋のような質である事は当然予測していた。


 しかしその後にも害が残るのは完全に想定外だ。

 そもそもソドムの魔の手が届く時、それは即ち死だ。普通は先など無い。その後を考える必要は皆無どころか無駄である。


 だが今回は安全が保証されている。

 アンミールお婆ちゃんの加護があるから未成年の死は許されないし、そうで無くとも安全な依頼と称し、ここがコアさんの創ったダンジョンである以上、仮に死んでも蘇らせる予定だ。


 そうで無くては流石に目覚めが悪い。その死が試練の結果であれば称賛でも済むが、適当なダンジョンで半ば以上意味の無い依頼を受けて死なれて良い筈が無い。

 青い果実が落ちてしまうのと、青い果実をもぎ取るのとでは意味合いが大きく違う。


 だから先輩達は最終的には生還する。

 だが、ソドムは欲望による自滅をゴモラで示すように、その誘惑の過程は人の欲望を出させ堕落させる。

 結局のところ、ゴモラにやられる程に欲望を引き出された頃には、殆どの場合ゴモラがいなくとも欲望で自滅してしまう段階にあるのだ。


 これは非常に拙い。

 この場で結果が出て終わりとはならない。

 乗り越えられないようだと一生引きずる事になるだろう。周囲をも巻き込んで。


 どうするべきか?

 何か良い方法は?


 そうだ。


 さて、ここら辺に。


 どれどれ、やはり基本は土や木で人形を創ってそこに力を吹き込む事。この土や木を用意すればいけるだろうか?

 他には培養。人工授精は母胎の必要があるが、培養ならその心配も無いはず。次代を生み出すには至らないが考慮には値する。

 他の手は―――。


「コアさん、縦真っ二つにして全力で回復魔法をかければ、人は二人に増えるかな?」

「急に猟奇的な事をっ! 一体どうしたのですか!? それにその本は何ですか!?」

「この本は“人間の造り方”だけど?」

「「人間の造り方!?」」

「うん、内容もタイトルの通りだよ。もう造った方が早いかなって」


 先輩達が欲望に染まりそうな以上、それが最も意味を成す事になろう。


 英雄色を好む等言うように、この程度の欲望、出来れば乗り越えるだけでなく力として欲しいところだが、逆に呑み込まれ弄ばれるようであれば興味は無い。


 僕が求めるのは真正の英雄。本人が力を持つことは当然として、誰かの力にまでなる存在だ。

 憧れとして目標として可能性として人を引っ張る。


 別に露出教のような変人達でも構わない。

 彼らは露出と言う一種の欲と共にあって、誰かと歩み続けている。彼らの周りはいつも賑やかだ。

 彼らは人を動かし、世に無い筈の新たな道を示し続ける。


 別に平穏教のニート達だって構わない。

 彼らは何もして無いようであっても結局何かをしている。人は何もせずに到れるほど優れた存在では無い。

 彼らは教える。少ない力で、弱き力でも高みに至る道筋を、誰にでもある希望を。


 何だったら殺戮者でも構わない。

 何だったら独裁者でも構わない。

 何だったらハーレム王でも構わない。


 道を示すのならば、僕は許容し、どこまでも称賛しよう。

 君は成したと。


 だが、だからこそ道を閉ざす者はいらない。


 全ては何かを継承して、踏み台にして、犠牲にして進んでいる。誰かが、全てが創り出したものがあるからこそ人は進む。

 それは過去が創り出したものであり、それは未来を創るものだ。

 それを壊しても構わない。絶望してもいい。立ち止まるのも当然の行為だ。だがそれも常に共にある。

 だから行き止まりに辿り着いてしまっては、そうとしか思えなくなってしまってはいけない。


 全ては続くのだから。

 僕達が見守る限り。

 そうで無くては、いくら輝かしく思えても儚い夢でしかない。


 勿論人生の行き止まりはある。

 踏み台に成れないまま死を迎える事もあるだろう。

 それはいい。僕だけは確かに在ったと覚えておく。そうである限りどう在ってもそれは次への糧だ。

 いつまでも僕達と共にある。


 対して欲望とは人に常に潜むもの。道の中で得る望みとは違う。

 誰が用意したものでも無く、始めから内側に眠っている。

 だからこそ、最後に囚われるのがそこでは駄目だ。継いだものがそこら中に在るにも関わらず、始めから誰が用意するまでも無く眠っていたものに行けば、それまでの道は何だと言う話になる。

 誰かの糧にするにしても、欲望に溺れればどうなるかなど、教えられるまでも無く誰もが知っている。元より在るのだから。

 突き抜けなければそこに拓れる道は無い。

 欲望はゴールでは無く目標や原動力で無ければならないのだ。


 まあ歩んだ道の殆どが欲望に溺れた人など存在しない。

 そうである以上、その人は何かを積み重ねている。行動として現れていなくても、葛藤さえ有れば十分積み重ねていると言える。

 他の誰かがいる以上、それは無駄にはならない。


 だが、捨てる積み重ねがあるのも確か。

 進むのに必要な訳でもなく、欲望に回帰する為にそれを浪費する。

 その欲望の先に何があるのでも無く、欲望の為だけに浪費する。


 それが有意な筈がない。


 元より辿り着くには永劫の積み重ねが無くてはならないのだ。


 最もそれを大切にしなければなら無い。

 少なくとも僕はそれが一番美しく愛おしいと想う。


 だから欲をゴールに定め到達したと考える者を僕は求めない。

 拒否もしない。死するまで見届けよう。次を待とう。

 だが、それだけだ。

 正直なところ、人の絶望の方が数倍は美しい。


 ただの強者など、手段を選ばなければいくらでも創れるのだから。

 強さだけで考えれば人である必要すら無い。


 しかし流れなき強者は何も求めないのだ。

 強者なのだから。

 そして何も生まない。

 弱きを手にしなければ。


 その弱きですら人だ。

 唯一継承に身を置き確実を捨てた。


 元より人が存在しなければ強者すらも進めない。


 人は進まなければ、人が継承の中にいなければ、全てが無意味なのだ。


 絶対の傍観者である僕達にとっては。


 だから僕達は英雄を求めるのだ。

 継承の中で生まれた奇跡を。そこでしか生まれない奇跡を。次を生む奇跡を。

 だから僕達は英雄以外を求めないのだ。

 継承の中で何れ生まれるのだから。その時では無いのだから。輪廻の中で彼らは何れ英雄となる。


 僕はそれを愛し信じ求めている。

 手を貸す必要があるとは言え、そこまでしても進めるのは彼らだけだ。


 そして人は永遠の果てにいつかは英雄となれるのだから、僕は青い果実を絶対に摘まない。

 それ以上があるものを留めるのは牢獄に繋ぐのと変わらないのだから。


 しかし最高が奇跡であることも確かだ。また全ての瞬間が奇跡であることも。

 だからこそ最も大切な積み重ねを放棄されるのは悲しいのだ。

 誰かの継承として流れても、その瞬間確かにあった流れの結晶と言う奇跡は失われてしまう。


 だから一部であっても継承の道へ引き継がせるべきだと思う。

 葛藤すら無い行き止まりさえ取り除けば、また可能性は無限に広がる。物語は続く。

 元の道も、そこから生まれたであろう道も生み出せないであろうが、無いよりは断然良い。


 せめて糧となる形で無ければ、彼を生んだ道、糧も奇跡も無に帰してしまうのだから。


 それに奇跡には変わりないから、それを維持できれば待たなくとも一つ奇跡が現れたままだ。

 シンプルに効率的と言う理由もある。


 だと言うのに何故コアさん達は驚愕の声を上げるのだろうか? 


「縁結びで生ませる事までも諦めるつもりですか!?」

「……やはりコアさんはそっち側なんだな」


 ああ、コアさんは僕が他の先輩達も欲望に染まった先輩を外に出しては、巻き込まれて駄目になってしまうから出産に頼らないで自分で生み出そうと、僕が考えていると思ったようだ。

 流石にそこまではしない。僕はどうにか欲望に染まった先輩の得たものを移せないかと考えただけだ。


 僕の与える加護は本質的にはただ繋ぐ力だ。


 そのまま親の力を才能として子に与える。与えると言うよりも、親が存在し続ける限り共有し続ける力だ。言ってしまえば親を丸ごと加護にしたようなもの。

 そして繋がりであるから親が強くなれば生まれた後でも強い素質を得、逆に子も強くなれば親にも新たな素質が行く。

 器自体の力はそれらの反動に過ぎない。


 これは子が切っても切れない繋がりであるからこそ成せる。

 だからこそ英雄達が成す絆の力よりも強力だ。

 そしてだからこそ、その家族の絆に簡単に左右されてしまう。


 繋がりと一言で言ってしまえば、それは全ての関係性を示すのだから。

 繋がりで得るのが、ベクトル的に絆の上であるとは限らないのだ。

 繋がりはなにものでも生んでしまう。

 全て繋げば良いと言うものでは無い。


 僕が繋がりを完全なものとしても、何を伝えるか、伝えてしまうかは繋がった者同士でしか決められない。

 まあ拒絶すらも繋がりの一つであるから、不利なことも無いだろうがその場合良きことも何も無い。


 つまり言ってしまえば、絆や想いが無ければ意味が無い。

 だから勝手に子供を創るのは推奨出来ないのだ。

 全ては僕に届く存在を生んでもらう為なのだから、態々やる意味が無い。やっても戯れでしか無い。


 まあ、子供を生めない絆あるものが子を求めるのならば、頼まれなくても手段を用意するが。

 そして良い夢を見せてくれるものにも願われるまでも無く力を用意する。英雄たる何かが在るのなら、留まる覚悟が在るのなら、英雄にしてみせよう。

 僕が求めるのは続くものなのだから。引き継がせる意志が、引き継ぐ意志が、無限に託してまで続く成長が欲しいのだから。


 そうして継承の末に生まれた奇跡を、引き継いで欲しいのだ。


「違うよコアさん、僕は欲望に墜ちた先輩の代わりを創れないかなって思っただけだよ。ほら、剪定してその枝から挿し木出来れば根が腐ってても続くでしょう? せっかく良い枝なんだからやった方が良いと思うんだよね」

「……まあそれは、確かに? それでしたら有効な気がしなくも?」

「いやいや、剪定とか言ってたぞッ!?」


 コアさんは納得しかけているらしいが、ゼンの反応は乏しい。

 ザクッと欲望を切り離して回復させればいける気がするのだが?

 しかも二人に分ければ欲望に染まった方を誰かの為の試練に、良き方には引き続き英雄を目指して貰える一石二鳥のいい手だと思う。


 欲望に染まった者は時として他者の成長の妨げとなるが、先輩達の実力が有れば障害物の一つでしか無いからその点も問題無い。

 問題は良き方が英雄の道に戻れるかだが、そこはどんな場合でも賭けだからいつも通り期待する他無い。

 それに同一人物が二人になってしまう点も、欲望に染まった方に糧となってもらえばそれで済む筈だ。


 でも、考えてみれば、欲望に染まらない可能性もゼロでは無い。

 趣味程度に抑えられるる可能性も僅かだが残されている。


 となればこの策は早計だ。


 ランクがそこらの悪魔王よりも高い、それも直接の殺傷性の薄い一点に特化しているソドムの、欲望に染める力は英雄譚や神話でも屈指の誘惑能力を持つ。

 つまり、それを超えられれば英雄譚や神話の中でも屈指の意志の強い英雄であると言う事だ。


 英雄と言う奇跡の中に在っても奇跡と呼べる継承の果ての一つだ。


 どうするべきか?


 いや、結局のところ、いつだってそれは決まっている。


「そうだね。僕は先輩を信じよう。元よりゼロでは無いから、たったそれだけの理由で信じてきた賭け。最後まで賭けてみるよ」

「はい! そうしましょう! ……あの、マスターの意志の力に押されてつい応えてしまいましたが、それは剪定によって人を創らないと言う答えで合っていますか?」

「そうだよ」

「……その言葉の意味を全て理解できた訳じゃ無いが、何か聞いてはいけないような事も言っていないか?」


 こうして僕は、いつも通り人を信じる事を選択したのだった。



 さて、当のアルデバラン先輩は相変わらず勝ち続け、豪遊を続けている。

 止める兆しは見受けられない。


 それが慣れとならない事を、それを日常とし完結させない事を祈るばかりだ。


 ん? これってどの場合でも結果を視るのにはそこそこの時間を要するんじゃ? 

 最悪の場合要する時間はアルデバラン先輩の一生だ。

 少なくとも僕の望む、この依頼を早く終わらせる要素にはなり得ない。


 多分、身を崩さない選択をしたとして、それは依頼の遂行にダンジョンヘ向う、つまり彼等の認識としては街であるソドムを出る時だ。

 そんな優先を選ぶ時にこそ真価が試されるし、そのくらいの必要が無ければ選べ無い程度にソドムの誘惑は強い筈だ。

 そもそもアルデバラン先輩は依頼に報酬を求めて受けた筈。なんか違う事を思い浮かべていた気もするが、そんな要素を依頼書に書き込んだ覚えは無いので、普通に考えて報酬が全てだ。

 依頼と言う仕事への熱意が無ければ容易に誘惑に負け居着いてしまうだろう。


 これではコアさん達に植物の話を熱弁することが出来ない。


 どうしたものか?

 そう思っていると、新たな動きがあった。


 新たにカジノに裸体美術部のアアアア先輩が連れ込まれて来たのだ。


 アアアア先輩、正直なところ先輩達の動きよりもこの名前が気になる……。

 視たところゲーム世界に転生した先輩であるようだから、そのゲームのアバター名入力でボタン連打でもしてしまったのだろうか?

 どんな名付けでも大切だと教えてくるような先輩だ。


 アアアア先輩はアルデバラン先輩の近くでガチャを始める。


 ……ガチャって賭け事だっけ?

 いや、賭け事には違い無い。

 賭ける金額から言ったら、現代において最も資金を動かしている賭け事とまで言えるかも知れない。

 でもカジノなどでイメージするような金銭が餌の賭け事では無い。ガチャをする側からしたら多くの場合一銭も得しない。ただ商品の購入手順が違うだけであって資金を増やす目的は存在しないからだ。


 賭け事であって賭け事でない、と言うよりも遊びであって遊びでは無い。

 そんな微妙な立ち位置のものがガチャだ。


 何故ここに?


 ああ、二人から読み取ったのか。

 二人共ゲーム世界に転移したり転生したタイプの異世界人だ。

 この二人にとっての賭け事とはゲームのガチャ。深く読み取ったせいでゴモラの方が流されたのだろう。


 情報源が限られているが故の弊害。

 この隙きに気が付く事が出来れば魔の手から容易に逃れる事が出来るかも知れない。

 これは期待出来る。


 ガチャはゲームにあるようなものを実体化させたものだ。カプセルタイプのアレでは無い。召喚陣タイプだ。

 入れる金額ごとにガチャが別れており、高額なものほど良い物が出ると文字だけのラインナップと実物の立体映像まで付いたピックアップが表示されている。


 通常の状態ならこれだけで怪しみそうなものだが、アルデバラン先輩と同じく煽てられ釣れられたアアアア先輩はまだ怪しんでいない。


 アアアア先輩は勧められるままに、金貨一枚を賭ける十連ガチャに手を出した。

 ……この場の最高価格ガチャでこそ無いがいきなり金貨一枚を賭けるとは、これはあまりその警戒心と思慮に期待出来ないかも知れない。


 召喚陣は金色に光り、当たりの演出がなされる。

 召喚陣の通ずる先には金貨一枚以上の価値があるものしか存在しないから、ただの演出に過ぎないが形式を重視する事で疑いを向ける事が少なくなるだろう。

 ハズレが無ければ当たりの有り難みが判らない、と言うよりも当たっているのかどうかすら判別し難いが、これならある程度は知らせる事が出来る。


「おっ! 金に光ったぞ!」

「流石は運命の女神が選んだ時代の寵児! さっそく当たり確定ですよ! 金貨十枚以上の価値は確実です!」


 そして多くの場合、当たりに対しては疑いを向け難い。

 召喚陣の先に有るのは全て当たりだ。


 幸いなのはこの場に二人いる事。

 自分一人だけが幸運であるのなら、人は自分が特別だと認識するだろう。そうで在りたいのだから。

 しかし他人の幸運は、特に自分にも可能性があったものに対しては悪感情を向ける事だろう。そして時に疑いまで向ける。

 運も実力の内と言うが、そう信じる者は少ない。何故なら自分の実力を自分だけのものと信じたいから。

 強く見られたい者が少なくとも、弱く見られたくない者は多い。いつだって強いのは守る者であるように。


 自分も幸運で他人も幸運である場合がどうなるのかは知らないが、それでも一人の時よりも違和感を覚え易いのは確かだろう。

 理性が働くのなら確率的にも不自然さが判る。

 まあ元々理性が働いていれば問題にはなら無いが、理性を無視する感情の中に在っても、他人が呼び起こす別の感情があればそれも取り戻せるだろう。感情に流され理性が鈍ったとしても、感情の中でも感情は働く。

 少なくとも目の行きどころが一つでは無くなる。それだけでも大きい。


 上手く行けば、当たりを重ねる毎に違和感を持つ事が出来るだろう。

 当然のめり込んでしまう可能性も多分にあるままだが。


 本来なら人は学ぶ存在であるから失敗を重ねるだけで何事も問題無くなる筈なのだが、失敗を望めない以上、ここはそれに期待するしかあるまい。


 さて、召喚陣からは予定通り当たりの景品が喚び出される。


 一瞬ノイズが走り、召喚陣から現れたのは純金製のナイ――無い!? 

 ナイフが無い!?


 召喚陣の先に確かにあった、召喚陣に喚び出された筈の景品がそこには無かった。


 奇跡だ。

 奇跡が起こった!

 どうでも良過ぎる奇跡だが……。


 いや、この場合アアアア先輩は当然として賭け事に呑み込まれる事は無く、その様を見たアルデバラン先輩は現実を見て理性的になるかも知れない。

 十分奇跡だ。


 因みにアアアア先輩が引き当てたのはやかん。

 なんの変哲もなさ過ぎて実在性が怪しく思える程に普通の、イメージ通りのやかんだ。

 釣りしていたら引っ掛かる謎のアレだ。


 このやかんは一体何処から召喚されたのだろうか?

 全く術式と関係なく喚び出されている。


 ゴモラまでもが唖然と驚いている有様だ。


 しかしこのガチャは十連。

 奇跡は所詮奇跡。

 一時の幻想に過ぎない。


 それもこのガチャは召喚先が決定付けられている。

 確率ですら無い。


 このような奇跡はそう何度も……またもやノイズが走った。


 召喚陣から現れたのは片方だけのぐっしょり濡れた靴……。

 これまた何処から召喚した? 正直なところ奇跡よりも気になる。


 ノイズが走る。

 召喚陣から現れたのはデッキブラシ……。


 ノイズが走る。

 召喚陣から現れたのは割れた眼鏡……。


 ノイズが走る。

 召喚陣から現れたのは割れた丸サングラス……。


 ノイズが走る。

 召喚陣から現れたのは泥団子……。


 ノイズが走る。

 召喚陣から現れたのは立派なカビ……。


 ノイズが走る。

 召喚陣から現れたのは石のような銃弾……。


 ノイズが走る。

 召喚陣から現れたのは杖の刺さった麦わら帽子……。


 ノイズが走る。

 召喚陣から現れたのは木の実の葉っぱ包み。

 最後のはましだ。僕にとってはだが。


 もはや奇跡と呼べない程に奇跡が起こりまくった。

 見事にどれもガラクタだ。

 本来召喚される筈だった宝物を差し置いて、何処からともなくそれが召喚されている。


 ある意味凄い。

 豪遊を満喫していたアルデバラン先輩もそこから目が離れない程に、無残なガラクタがそこには散乱していた。


 これは想定よりも遥かに早く、この欲望の魔の手から逃れられるかも知れない。


 やはり人とは解らないものだ。

 これだから僕達はいつだって、無謀な賭けだと解りながらも最期まで人に賭けてしまう。


 尚、この結果の原因を探って視ると、答えはアアアア先輩のスキルにあった。

 “権能”に限りなく近い“世界(ワールド)スキル”〈バグ〉。正しくチートと呼べる能力の対価として、周囲の世界にその辻褄が合せを強要し狂わせる力。普通のバグとそう変わらない現象を現実においても引き起こす強大な力だ。

 どうやら、アアアア先輩はチート改造しバグが発生したゲームの世界に転生し、そのバグそのものを能力として発現させたらしい。名前に関してもバグでアアアアとしか選択出来なかったらしい。


 うん、ゲームについての教訓を体現してくれる先輩のようだ。


 アアアア先輩はガラクタを前にして、静かに崩れ落ちた。

 その目は早くも虚無を映し出している。


 周囲のゴモラ達の反応から、これがあり得ない結果である事を、いつも通り自分のスキルのせいであると察したらしい。


 悔しさからか自暴自棄になり何回かガチャを回すも、結果は同じ。


 出るのはどっかで見た事のあるようなガラクタばかり。

 中には芽を出す力のある傘があったりもしたが、アアアアが価値あるものだと判るものは終始出なかった。


 ゴモラから慰めの言葉や尚も煽てようとする声がかかったが、それも聞こえぬようで肩を落としてアアアア先輩は去っていった。

 それを見たアルデバラン先輩もさっきまでの盛り上がり方から一転、大人しく静かになり、やがてアアアア先輩の後を追った。


「……終わり、ました、ね?」

「……うん、終わった、ね?」

「……だよ、な?」


 僕達が手を出すまでも無く勝手に魔の手から抜け出した。

 これは流石、と言った方が良いの、かな?

 正直なところ僕達の誰も上手く評価を下せない。

 まあ、めでたしめでたし、と言う事にしておこう。


 だがゴモラの魔の手を避けたのはまだこの二人の先輩だけ。

 まだまだ魔の手が迫り、捕まっている先輩達はいる。


 まだこのダンジョン探索依頼は、終わりそうに無い。





 〈簡易用語解説〉

 ・権能

 世界の管理権。○○の神の○○に当たるようなもの。得れば○○の神として振る舞える程の力を得ることが出来る。

 ただし多くの権能は一つの世界でしかその効力を十全に発揮しない。



 ・世界(ワールド)スキル

 権能に準ずるスキル。その力は効力を発揮しきれない状態での権能に届く。




 〈余談〉

 ・ガチャのバグアイテム

 十連ガチャがバグって出たアイテムはどれも非常に高価である。

 別に効力的なものは存在しない。

 強いて言えば、ブランドである。

 欲しい者なら幾ら払って良い、かも知れない。


 湯隣配空豚湯蟲森動隣。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

モブ紹介の後半については、この話に登場させられなかったので、ネタバレ要素ありと表示した上で近々投稿しようと思います。

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