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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第3章〈アンミール学園の新入生イベント〉あるいは〈完全縁結びダンジョンの謎〉

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第五十六話 植物あるいは趣味

2020年2月15日に本作が50000PV達成しました!! 

本当にありがとうございます!!


そのくせ本話は特別な事なくダンジョン回でもなく日常回です。すみません……衝動買いしたものに引っ張られてしまいました。何を買ったかはご想像にお任せします。


その代わり本編に関わる(?)アークの一面を書きました。

 

 マンドレイクの一件から、先輩達はバラバラで行動していた。


 イタル先輩達は逃げる為、風紀委員や衛兵科の先輩達はその捜査の為、他の先輩達は流れで解散。

 そんな訳で、集団行動として都市内でも辛うじて残っていた調査隊としての面も完全に薄れ、緊張感を失ってしまっている。

 逃げ追いかけている先輩達以外は、寄り道感覚で日常の学園生活よりも気を抜いてしまっている程だ。


 そんな中でバラバラ、多くても三人程での行動はソドムにおいて非常に危険である。


 ソドムはいきなり襲いかかって来たりはしない。欲望を引き出すだけ引き出し、万全に力が溜まってから初めて明確な攻勢に出る。

 その為、まずするのは誘惑。

 ソドムで最もしていけないのは誘惑に乗る事、隠すべき内側を晒すことだ。そうしてソドムの戦力、ゴモラは力を付けてゆく。


 逆を言えば、誘惑してから万全の状態を目指す程度の力しかゴモラには備わっていない。

 誘惑が必要な欲望、誘惑しなければ引き出せない欲望を写し取らなければ、ゴモラはその数以外驚異にならない。

 そしてただの誘惑であるから思慮さえあれば切り抜けられる。日常ではそうそう出ない欲望を引き出す誘惑であるから、人数がいるだけで回避出来るものが殆どだ。

 大人数いる中で好き勝手欲望通りに出来るのは相当アレな人だけ、そんな人が居たら大抵事件であるように、人は人目の中で欲望通りに行動しない。


 それに他人が居るだけで注意し合える。

 隠し持つ欲望は一人一人違うのだから。

 強弱は勿論、欲望の対象も皆違う。

 全員が惑わされる誘惑などそうそう無い。


 だが一人では切り抜けられない事も多い。

 まず全ての決定権はその人にしか無い。反対意見も当人の心の中のみだ。自制心しか鎧は存在しない。

 そして欲望に合わせて来る。稀有な欲望であろうと、少しづつ探りながら誘惑する。欲望の種類によっては共感を寄せられただけで陥落してしまうだろう。


 誘惑される前に醜い面を晒している先輩達では、もはや絶望しか待っていない。



 僕達はおやつを食べながらそんな先輩達を視ていた。


 本来なら無視していたいが、これでも一応縁結びの秘訣をダンジョンから学ぶ為の調査であるから視ない訳にはいかない。


 ここでせめて調査をしなければ、ただ先輩達の醜い面を曝け出し自滅する結果が残るだけ。それだとそんなものの為に依頼を出した様な変な気分になる。

 失敗すると言う結果が得られたと認識し活かせなければ、それは失敗でしか無いのだ。


 だが精神衛生上は無視していたい。

 だから何か得られたら良いなくらいの軽い気持ちで視ている。おやつを食べているのはおやつの時間帯に近いと言う事もあるが、多くの視野を先輩達に取られない為だ。

 僕達が依頼主だが、こうなるのは先輩達の自業自得。だからと言って依頼主として怒る元気も無い。

 元より知れたら良いな程度の気分で依頼したからこれくらいが丁度良いのだ。と言うか他に選択肢が無い。


 結局のところ、気にしたら負けである。


 そう自分に言い聞かせながら、僕はオシャレなグラスに挿したくるくるストローからトロピカルジュースを飲む。

 うん、南国の味。南国に行ったことなんか無いけれど南国の味だ。


 因みに僕達が今居るのは自分の神殿…、じゃなくて教室の周りの庭園だ。そこに長椅子とテーブルを並べ和傘を広げ、優雅にバカンス気分を味わっている。

 更につばの広い帽子にサングラスを完備。


 気候も草花も季節通り春のままだが、気分は南国リゾートだ。

 本物の南国リゾート気分は知らないけれどもそれはそれ。

 バカンスは心の休養を求めに行くもの。肉体的には例え温泉に行ったのだとしても帰りは寧ろ普段より疲れるもの。そして大方最後はやっぱり家が一番落ち着くと結論付ける。

 故にバカンスに最も必要な要素とは心の入れ替えだ。自分から祭日を求めに行くようなもの。なんちゃって気分でもいつもと違う気分が味わえていれば、きっとそれも正解だ。


 いつもならコアさんか、ゼンが小言を挟んでくるのだが、今回はそれが無い。二人共トロピカルジュースを飲んだり、お皿に盛り付けたトロピカルフルーツを口にしている。

 二人もソドムにいる先輩達を故意にあまり視ない方針で固めたらしい。

 珍しく全員の意見が一致していた。


 こうでもしていなければ身が持ちそうに無いのだ。


「それにしても似合って無いな」


 会話も先輩達に触れる無く普通のものだ。


「そう? 一応若干季節に寄せて、寒くても育てられるトロピカルフルーツを用意したんだけど?」

「それは合わせたと言えるのか? って、そうじゃなくてだな、その服装、つば広ろ帽子とサングラスが似合って無いと思ってな」

「確かに、マスターは着物っぽい服装ですから、どことなく違和感が有りますね。何よりネクタイを締めていると言うのに全力寛ぎスタイルは変かと」

「そうかな? あ、でも、そう言うコアさんも、世界の管理者っぽい服装なのにサングラスとつばの広い帽子は似合ってないよ? あとパパも、如何にもニートな格好なのにバカンスを楽しんでいるのは、何というか、住む世界を間違えていると言うか、服装以前に違和感があるよ?」


 正直なところ、僕に都会の服装なんか全く解らないが、ありふれたイメージを元に言い返す。

 より先輩達を視界の脇に追いやるのに話題を新たに作り出すのは都合がいい。


 言い返す為に服装に目を向けたら、本当に違和感を覚える姿だったから尚の事好都合だ。

 適当でない限りある程度思考を割く事が出来る。


「……まあニートはバカンスに行くまでもなく長期休暇だからな。だが、住む世界が違うってのは酷くないか?」

「いやニートは働いてなくてお金が無いからバカンスは似合わないとか差別的な事を言いたいんじゃなくて、存在そのものが似合わない?」

「少なくとも、よく異世界に転生してくるタイプのニートの方々はリゾート地に居そうではありませんね。寧ろ、気分転換しにリゾート地へ行けと言われても断固拒否しそうですし」

「確かに転移転生する奴らに関してはその傾向はあるかもな。だが、言ってしまえばそう言うのは半ば引き篭もりもプラスしたような奴らだけだと思うぞ? ニートの幅はもっと広い」

「へー、そうなんだー」

「そうなのですかー」

「「「…………」」」


 服装似合ってない議論は反論が出ない為に終結してしまった。


 だからと言って会話として続けられる程、僕達は服装に詳しくない。

 会話はそこから自然と話が広がっていくもの。仮染めでも興味が湧かなければすぐに途絶えてしまう。

 興味が無くても比較的続ける事ができるのは議論だ。対象に対して意見を言っていけばいい。だがそれにも違う意見が必要である。同意で盛り上がれる程の興味があればそもそも会話に出来る。


「まずニート全員が自分の外に広がる世界を嫌っている訳ではない」

「マスター、寒くても育てられるトロピカルフルーツで揃えたとは、どう言う事ですか?」

「…………」


 そして話が続かない中、ゼンは無理矢理話題を広げニート語りに移ろうとしたが、これはコアさんが透かさずブロック。

 話が続けば何でも良いと言う訳でも無いのだ。

 そもそも途切れた原因の一因はゼンのニート語りに話を繋げさせない為でもある。


 ニート神だけあって延々とは語れそうだが、だからこそ、永い話は好ましく無い。

 結局興味の湧きそうに無い話が延々と続くのでは、先輩達から意識を遠ざける事が出来ない。話に意識が集中しないのだから当然だ。

 そんな余計な事をするぐらいだったらその分黙って精神を落ち着けている方がこの場合は有益だろう。

 元よりバカンス気分で心を入れ替えるのが基本方針。話はそのおまけでしか無いのだから。


 しかし怪我の功名と言うべきか、ゼンはコアさんからトロピカルフルーツの話題を引き出してくれた。

 これなら意識を割き、かつ話も続ける事が出来る。


 植物の話題、これが嫌いな人など居まい。

 皆興味津々、大好きな事間違い無しだ。

 もし興味無いと言う人でも洗脳……正直に好きと言えない人の心を素直に開かせる自信が有る。その程度は万人が愛すもの。

 少なくとも僕は話し続ける事が可能だ。


「寒くても育てられるトロピカルフルーツって言うのはね、四季の有る気候でも育てられるトロピカルフルーツの事だよ。南国リゾートに此処を近付けるのは春を追い払わなきゃいけないからやり難いけど、南国リゾート要素を近付ける事は簡単に出来るからね」


 ハロウィンに蕪が用意できないのならば南瓜を使えば良いじゃないか的な発想である。

 その土地のものを使えばその土地にも馴染む。

 逆に言えば、無理に完全に近付けたからと言って、どうやってもそれは別物。慣れ親しむ、楽しむと言う意味においては本場が真という訳では無い。


 折衷を嫌う人はよく居るが、流れの違う地で完璧を求めてもそれは違う地との折衷。

 異なる文化圏で異なる文化圏を完全な形で持ってくるには、その文化圏自体をどうにかするしか無いのだ。

 だから何かを近づけると言うのは大切。違和感や一時の衝撃感を求めているのでなければ繋げる努力をしなければならない。


 その繋げる努力の一環がこのトロピカルフルーツである。

 春の気候でも、冬がある地でも通常として表現出来る最大限だ。造ろうと思えば環境として定着させる事が出来る。


「なるほど、わたくしにはそれでこのバカンスの何が変わるのか判りませんが……拘りと言う事ですね」

「まあ拘りと言う事だな」


 残念ながら、果物がいつどんな環境に実るのか殆ど興味の無い二人には理解出来ないらしい。


「最近よく売ってるみたいだけど、知らないの?」

わたくしはまだ一度も普通に商店を見ていないので……どうしても目が逝ってしまう光景が都会には多いもので……」

「俺は神託通販をよく使うが、今食ってるのは見た覚えが無いぞ?」

「え? 植木屋さんによく置いてあるのを視たけど、本当に見てる?」

「「青果店じゃなくて植木屋の話!?」」


 悲しきかな。

 コアさんもゼンも植木屋さんに行かないらしい。果物は八百屋さんにしか関係ないとまで思っているようだ。

 いや僕も行ったことは無いけれど過去の分までしっかり視ている。二人共視ようと思えば簡単に視れるのに。

 普通に売られている果物は果物の極々一部だと気が付いても無さそうだ。


「うん、ポポーとかフェイジョアとか、冬でも置いてあるよ? 冬に売っている苗木は大体冬越し出来るからオススメだよ? 結局一番致命的な栽培が難しい点はそこだからね。それでそこらへんの果物は八百屋さんどころか青果店でも中々売っていないから、自分で育てるしか無いんだよ」

「そんな果物もあるのですね」

「あるんだな」


 尚も興味を持たない二人。


「世の中、自分で育てなきゃ食べられないものは割と沢山あるんだよ? 少しは自分で育てようかなって気にはならないの?」

「マスターが育ててくれていますから。それに素人のわたくしでは実る前に枯らすのがオチでしょう。どうしても欲しければダンジョンとしての力で何とかなりますしね」

「俺もアークが育ててくれるからな。それに売ってないと言う事は万人が好む味じゃ無いからじゃないか? 何よりニートな俺に植物を世話するやる気など無い」


 そう言いながらモシャモシャと件のトロピカルフルーツ、ポポーやフェイジョアを頬張る二人。

 確かに僕が育てるから、何の問題も無いかもしれないがどこかイラッとくる。

 特にゼンは美味しく食べながらも売ってない果物は不味いからだろうと言う。褒められたようで嬉しい反面、果物そのものは否定されたようで余計に苛立ってくる。


「別に美味しくないから売ってない訳じゃ無いよ。例えば柘榴や木通は美味しいし異世界では大昔からあって珍しくも無いけどあまり出回らない。これは食べ難いから選ばれないだけ。味だけなら雑味が無くて嫌いな人はそこらの果物よりも少ないよ。

 そして広く流通していなくても稀に数個は出回る。つまり売れ無いから多く生産していなくて多少高くても廃れないぐらい強い支持者はいるんだよ。育てる人が少ないから他の作物よりも品種改良が進んでいない筈なのに、それでも強く求める人がいる。流石に全部の果物がそうとは断言出来ないけれど、それだけの価値があるんだよ」

「なるほど」


 うん、割とすんなり理解してくれたようで何より。

 相変わらず口をモゴモゴさせながらの返答だが、一応こちらに顔を向けている。ニートを極めたゼンの性質も考慮すると十分及第点の反応だろう。


 結局のところ、何事も実際に体感してみなければ解らないのだ。

 このゼンの返答の中身をとってもそうだ。僕がゼンを知らなければゼンの言葉の意味すらも正確には判らない。

 まず知らなければ、真実など何も解らないのだ。

 一つで完結しているものなど無いのだから。真実とは、真の答えとは結局のところ全てである。全てで補完して初めてそれは完全となる。


 勿論全てを知る全知を得ることは僕達人には出来ない。人の住む星のように、知っているのは表面だけだ。

 だが、だからこそ知るように努力して行く事が大切なのだろう。ただでさえ知らない事が多過ぎるのだから。


 そして無から有は生まれないように、どんなに無を捏ねくり回しても、得られるのは無だけ。

 完全なる無と言うのも存在しないかも知れないが、それでも無から有を生むのには奇跡を信じるしかない。

 せめてその核となる事柄は知らなければ話にならないのだ。


 さて、親切な僕はゼンやコアさんが植物の良さを知れるように、植物の事を教えてあげよう。


「柘榴の木とかオススメだよ? その細やかな葉は春でなくとも若葉のような色合いで、紅葉もすれば落葉もする。そこに咲く優雅な花は鮮やかで暖かい赤色。若葉色に花開く暖かで力強い色合いのコントラストは、生命と生命を高め合う。その真っ赤な熟した果実の中には目の覚めるような紅玉。

 棘が有ったり花が主目的で実が美味しくない品種が割と有ったりと少し難点もあるけれど、今なら僕が品種改良した特別な木をプレゼントしちゃうよ? ペルセポネがついつい味わってしまったギリシア冥界の柘榴を再現した“冬の柘榴(ロディ=ペルセポネ)”、これを元に更に品種改良した地上に留める力を持つ“春の柘榴(ロディ=アイテル)”、更に品種改良した天界に留める青色の柘榴“常春の柘榴(ロディ=オリンポス)”。どれでも育てたいのならあげるよ?」


 実際に柘榴の木々を育てている豊穣世界から一部見せながら僕は柘榴を育てるように解く。

 何故か勧めるのが話の流れでトロピカルフルーツでは無く、メソポタミア付近と言う微妙な気候の果物である柘榴を勧めてしまったが、柘榴の良さは紛れも無く本物、二人共育ててくれるだろう。


「えーと、その、今は、遠慮させて頂きます」

「俺も、今は、遠慮する」


 何故か言葉を選びながら辞退された。

 まるで断ると逆に長くなる話を遮るように。

 いや、でも二人は本心では柘榴の木が欲しくなっている筈。仮に長い話を聞きたく無いのならさっさと受け取る筈だ。


「今はそれよりも――」


 ああ、なる程。


「それよりも先に今食べているトロピカルフルーツについて知りたいよね」


 こう言う事だ。


「確かにポポーは柘榴よりも遥かに珍しいから気になるよね。ポポーは熱帯に分布するバンレイシ科、チェリモヤとかアテモヤの仲間なのに温帯でも、正確には暑いところからマイナス三十度くらい寒くなる所まで育てられる果物だよ。葉には殺虫成分まであって農薬要らず。花は豪華。目に見えて成長する木で見ていて面白い。育てるのにピッタリの木だよ。難点は花がハエを集める性質を持つ事と、一本じゃ実り難い事ぐらい。

 この果物が売ってない理由は、柔らかくて輸送に向いてない事と、追熟しなきゃ美味しくないのに、しばらく置くとすぐに見かけが悪くなっちゃうから。これは正しく自分で育てなきゃ食べられない果物なんだよ。

 特に思い当たる神話や伝説が無かったから特殊な品種改良した品種は無いけれども、育てやすくて初心者でもオススメだよ?」


 僕は柘榴の時と同じく実物を見せてアピールするが、コアさん達の反応は乏しい。

 聞いているようで聞いていないみたいだ。意識が完全にこちらを向いていない。


 僕の説明が足りていないのかな?

 いや、植物の良さは確かに存在するもの。興味さえ向けばすぐに気が付ける筈だ。と言う事は僕の説明不足に違いない。

 アピールが足りていないのだ。


「ポポーはこの前チラリと視たらその地方指折りの大型園芸店に三本置いてあったくらいに大人気でね」

「……それは人気と言えるのでしょうか?」

「寧ろ超不人気なんじゃないか?」


 やはり言葉を足したら反応を強めてくれた。

 僕の推測に間違いは無かった。

 反応の方向性は想像していたものとはかけ離れていたが、おかげでコアさん達の果樹に対する知識量もある程度判った。


「元より植木屋さんに同じ種類の果樹はそんなに置いて無いよ。人気の木はそこそこ有るけれど、それでも数が判りにくいだけで多くても十二本程度。花に関してもモサモサしてて判りにくいかも知れないけれど、数としてはそんなに無いんだよ。例外は季節やイベントを代表する花、置き場所が少なくて済む小さな苗ぐらいかな。後は季節の関係ない観葉植物とかオリーブ、薔薇も割と何処でも置いてあるかな。

 そんな中で普段名前を聞かない植木をそこそこ見かけるようになったら、流行っていると思っていいんだよ。人の持つ土地は無限じゃないし、好きな人ほど、深く趣味にしている人こそ枯らさない。深く趣味にしている人こそ土地が足りなくなる。そして珍しい植木を買うのはそんな人。植木を持てる数には限りがあるのに、限界が近いのに買ってしまう珍しい植木。これは流行っている以外のなにものでも無いんだよ」


 果樹を始めとした木々は当然として、花々も思いの外長持ちするものが多い。薔薇や牡丹などの大きい花に関してはそもそもどちらかと言うと木だ。

 基本、種を蒔いて簡単に育てられるもの以外、長持ちすると考えてよいぐらいだ。

 野菜に関しても一年で終わるものばかりでは無い。葉野菜など丸ごと食べるものは丸ごと収穫するので関係無いが、ピーマンなんかは何年も持つし、寒さを克服出来ればナスもトマトも年を越す。


 そこそこの大きさを持つ植物は、寧ろ枯らす方が難しいくらいだ。

 時と共にその傾向は強くなる。その個体が寿命を迎えても、いつの間にか代替わりをして依然そこにある事もある。


 つまり植物とは環境。

 変化の小さい内は対応できるが、変化が大きくなると人の手から離れる。自由自在とまでは行かないのだ。

 地植えの木で言えば、根まで動かそうとすると求めてもいない環境まで変えてしまう事もある。


 鉢植えの花だとしてもそれは同じ。

 時が経つと共に愛着は増え、最も人の手に渡らず最も人が求めるもの、時が、時の美しさがそこには宿る。

 それを処分出来る者はそもそも育てないし、気紛れで育てる者は処分を必要とする程の問題が生じない。


 だから植木屋さんに置かれるものは必然的に選ばれる。

 それに新たなものが増える。

 それを流行と言わずに何と呼べば良いのだろうか?


「……そうですかね?」

「それで流行云々が成立するのか?」


 しかし何故か全然納得した様子の無い二人。

 何故か疲労感まで窺える。


「成立するよ。それに植木には流行に欠かせない若い人達に向いているって言う要素まで有るんだから」

「……どこにですか?」

「寧ろ分類的には老人の趣味だと思うぞ?」


 この考え方からして間違っている。

 植木は若い内から親しむべきものだ。


「歳を取ってからじゃ遅いんだよ。植物は時と共に魅力が増すもの。咲いている花や野菜を買って育てるのなら関係ないけれど、果樹だったら下手をすれば生きている間に実らないからね? 桃栗三年柿八年と言うけれども、種から植えると多くは八年の方に近い、もしくは梨の大馬鹿十八年、柚子の大馬鹿十八年みたいにとんでも無い時間が必要なんだよ。結果を得るには時間が必要なんだよ。果樹だけにね。花にしたって植えた年に咲くものばかりじゃない。

 その植物の象徴的な姿を得たいのなら、時間を持っている内から育てる必要があるんだよ。庭に風情が欲しいから桜を植えよう、紅葉を植えようとしたって初めから大きいのを持ってこなきゃどうにもならない。根気強く育てる必要がある。

 植木は歳を取った人の趣味じゃ無いんだよ。この庭は風情が有って素晴らしいと、あの人は植木を育てるのが趣味なんだなって関心を寄せるまでに仕上るには長い時が必要なだけ。目立つ頃には歳を取ってしまっただけなんだよ。

 元より植物は時と共に歩むもの。時を知らせるもの。時を感じさせるもの。時を見せるもの。四季を知らせ感じさせ、自らの時の流れを写してくれる。永き成長として。だから永く共に在れば在るほど良いもの。若い内から在るべき趣味なんだよ」


 まあ最近の異世界事情を読み取ると、六十から初めても二十年は時間がある訳だから十分楽しめるだろうが、若い内から初めるに越した事は無い。

 植木は唯一の増え続ける投資と考えてよい。魅力が時と共に増え続けるのだから。

 果樹をとって考えると解りやすい。一度実るようになれば木の成長と共に収穫量が増えてゆく。勿論木にも衰えはあるが、それでも一人ではとても食べ切れない量が実る事だろう。木が枯れる頃には多くの場合植えた者が生存していない。

 そして元より育成を楽しむのがこの趣味。育てると決めた頃から損は存在しない。実りあるのみだ。


 増え続ける投資と同じなのだから、早くから育て始めない理由は存在しない。


「……はあ」

「……そうか」


 二人も納得してくれたようで何より。



 さて、元々何の話をしていたんだっけ?

 そうだ。果樹を植えないかと言う話だ。


「それで―――」

「そっ、それよりも、えー、先輩方の方に動きが!!」

「そうだっ! そっちに集中しよう!!」

「そんなどうでもいい些細な事よりも今は―――」

「「どうでもいい些細な事っ!?」」

「そうだけど?」


 何か変な事でも言ったかな?


「人とは人類であり継承。減ろうが増えようが、最悪一人でも残れば関係ない。それが人だから些細な事だよ」

「ついに自分は人じゃないって認めたな?」

「……恐ろしい藪を突いてしまいました」


 失礼な事を言うゼンと、何故か怯えるコアさん。


「失礼な。僕は人だよ。僕はただ、人は引き継ぐ存在だから、人である限り過去を引き継ぐだけじゃなくて、その場のどんな事も経験とし活かす事が出来るって信じているだけ。

 僕は人類を視守るのが好きだよ。幾重にも咲き続ける四季のようなものだからね。でも、何もしなくても彼らは進み続ける。例えそれが滅びであっても誰か一人でも遺る限り、それは誰かにとっての成長であるのだから。

 だから気にするものでは無い。植物と違って進化は彼等が選び掴み取るもの。環境によって生ずる事もあれど選択肢は無限。世話をしなければ望む進化を得られない植物とは違う。人とは気にするものでは無く好きになるものなんだよ」


 植物の魅せる時の流れ、四季は定められた流れだ。

 芽吹き花を咲かせ葉を広げ、葉を染め葉を土に還し芽吹きを待つ。

 その変化は自然に従う。伸びる枝も重なる樹皮も、折れる枝も露出する根も。

 だからこそ歩みを、時を体現する。


 対して人は流れを自ら掴む。

 自然はあくまで選択肢を与えるだけ。人はその自然をも変え、選択肢すらも変える。

 滅びすらもその手の中だ。他の生命が決して容認しないそれすらも手の内にある。


 その選択による無限の変化は常に僕達を楽しませてくれる。

 悠久の不変に染まらない唯一の非不変だ。


 だからつい目を向けてしまう。

 いつの間にか好きになってしまう。


「それらしい事を主張したところで、立ち位置が完全に人ではないぞ?」

「あの、更に藪蛇かも知れませんが、好きになるのが人であるのと、些細な事である関係性は?」


 未だ失礼な事を言うゼンと、同じ事を思っていそうなコアさん。

 どこをどう解釈してか僕を人では無いと判断しているせいないのか、僕の言う事も理解が完全には及ばないようだ。


「だから、同じ趣味ならば、必要を優先するのは当然でしょう? 人はどうあっても進む。けれども二人が植木を初めるには僕の勧めが必要。なら、僕は先輩達を放って置いて植木を語り続けるよ? 

 ほら、世話が必要な植木を放って、四季ばかり楽しむ人なんか居ないでしょう? 四季は些細な事なんだよ。だからこそ見出して楽しむ。そして四季は気にするものでは無い。好きでいるもの。それと同じだよ」

「なるほど、なんと無く理解出来る気も?」

「理解出来るのか!? さらりと趣味と言ったのを聞いていなかったのか!? ああ、コアさんもずっぷりそっちだったな……」


 ゼンは何やらまだ僕の事を人では無いとか失礼極まりない事を言っているが、コアさんはニュアンス程度は理解してくれたようだ。


 ゼンについてはもしかしたら、明暗問わずに僕の事を人では無いと主張しているから、そう思っているのでは無く、そうあって欲しいと思っているのかも知れない。

 ゼン自身がかつて人の身であったとは言え、世界神なのだから。

 一人息子である僕を自分と同じにしたいのだろう。

 迷惑もいいところである。


 少なくとも僕は人。

 ステータスに表示が無いだけの立派な人。

 世界神であるゼンのステータスにすら人種と付くのだから、付かないなんて理不尽が存在する訳が無い。


 ただのステータスの不備。

 そうに違い無いのだ。


「で、話を戻すよ。確か若い内から植物を初める良さについて話していたんだよね。二人は若く無いけれども永遠を持つから―――」

「てっ、もうその話は良いから!!」

「先輩方を視ましょう!!」


 ここで、僕は初めてコアさん達が本当は先輩達を気にしているのでは無く、ただ僕の話を止めたいだけだと言う事に気が付いた。


「……元々、先輩達から意識を逸らす為に話していたんだよ?」


 それなのに自分から先輩達の事を蒸し返すとは一体?

 どれだけ僕の話に興味ないのだか。

 まだ道程は遠そうである。


 ここは尚更どうでも良い先輩達の事を放って置いて語らなければ。


「「マスター(アーク)がそれを言いますか(うか)!?」」

「ん?」





 《用語解説》

 ・神託通販

 平穏教の神々がよく使う手口。

 そう言う名の通販がある訳では無い。

 あれが欲しいなぁ〜とそれとなく神託を送って自分の下に届けてもらう。

 そう怠けていても神には違い無いので、神託を受けた者の大半は飛んで来る。師範レベルの平穏教徒相手で無ければ成功率は九割を超える。内情はアレだが受けた者は子孫に語り継ぐ程に光栄な事とされている。


 怠けた神でも神の意地が一部存在している為に、こちらから呼んだのに悪いとお支払いはしっかりと行う。現金払いじゃ無い時もあり、その結果各世界に伝説を創っている。

 よくある例で言うと、代わりに不死の病の娘を救うなど。

 信心深いのにまともな平穏教信者はこうして生まれている。そして日頃の行いのおかげだ、腕を磨いたおかげだ、心優しい神のおかげだと、勝手に解釈されて信仰は拡がってゆく。

 因みに通販を頼む神々に布教の意志は全く無い。ただの通販であるとどんな時でも彼等は一様に主張している。




 ・冬の柘榴(ロディ=ペルセポネ)

 アークが再現したペルセポネが口にしたギリシア冥界の柘榴。

 一粒口すれば一月の間、冥界から出られなくなる。

 ペルセポネの神話に沿った柘榴は数多く存在するが、これはそれ等と一線を画し、冥界の存在しない世界でも効力を発揮する驚異の柘榴。冥界の存在しない世界では冥界を創り出すとんでもない力を持つ。


 尚、口にしたら死ぬ訳では無い。

 死して無くとも冥界に留める力を持つだけである。

 仮に十二粒食べたとしても次の年は丸ごと外に出られると、必ず外に出す効果も併せ持っている。

 食してから死したら肉体こそ消滅しているが、外には出られるようになる。死者が食べてもそれは同様。

 冥界の果実では無く、冥界と地上の契約を身に宿す果実である。


 また、吸収させれば生物以外にも食した結果を齎す事が可能。

 大地に捧げれば大地を冬に変える。




 ・春の柘榴(ロディ=アイテル)

 冬の柘榴(ロディ=ペルセポネ)を元にしてアークの創った地上(現世)に留める力を持つ柘榴。

 一粒口すれば一月の間、地上から出られなくなる。滅多にない為に効果が無いと言っても過言では無いが、地上の存在しない世界で食せば留める為だけに地上が創造される。


 尚、地上から出られなくなるとは不死になる事を意味するのでは無く、存在し続ける事を意味する。死んだところで現世にあり続ける呪いのような力である。

 ただし冥界の力から品種改良した為に、これは食した者にとって地上をも冥界と同義に変え、冥界にいる死者のような状態、魂だけでも常に肉体はある状態になる。

 死なないのでは無く、死が事実上無くなる。

 食べた粒の数と同じ月だけその状態が続く。


 因みに皮から実まで青い柘榴。樹皮は暗色で、葉は赤い。




 ・常春の柘榴(ロディ=オリンポス)

 冬の柘榴(ロディ=ペルセポネ)春の柘榴(ロディ=アイテル)を元にしてアークが創った天界(神界)に留める力を持つ柘榴。

 一粒口すれば一月の間、天界から出られなくなる。天界の存在しない世界では天界を創造する。

 地上に食した者が及ぼす効果はその世界の天界による。

 皮から実まで黄金に輝く柘榴。木は白く輝いている。




 《オマケ》

 ・アークの性質

 普段は自ら都会に、つまり人界に紛れ込もうと努力し、常に人を意識している事から基本人に準じた反応をする。得た人の知識から常識をそれに寄せて考えている。

 だから変なものを視れば視線を逸らそうとするし、現実を逃避しようとする。全て人を中心に判断しようとしているからだ。


 しかし、他に意識を取られる人と関係の無いもの、今回の場合植物に意識を取られると、試験期間の終わった学生のように化けの皮が剥がれる。

 そこの基準に人は介在しないからだ。人はあくまでも参考でしか無い。

 だからこの時ばかりは元の、絶対の超越者としての思考に戻る。自分と同じものでは無く、ただの好きなものとして人を視る。


 そして人としての基準を持たない状態でのアークにとっての人とは、永遠の果てを要して、何度も何度も自分の得たものを次代に継承した果てに自分達に近づく存在。

 どんな先の来世までも視守れ知れるアークにとって、人の死すらも次に進む当然の過程でしか無い。

 何度生まれ変わっても君は君であるのだから、次も頑張ってねとしか思わない。


 そんな風に冷静なアークは人を人類と同義で視ている。そしてその意義は最期に何であるか、どこに辿り着いたかであると。

 勿論個人への愛着は持っているが、それ以上に気に入った相手に対しては期待している。全ての歩みをどこまでも継承し開花させると。

 だから一度この世から離れたとしても、全てを引き継ぎその人は変らないと思っている。

 逆に言えば、失敗であれ停滞であれ歩みを無駄にする者には興味が無い。その在り方を称賛する事はあれど、引き継ぐ誰かの糧としか思っていない。


 だから全てを容認する。

 何が起きても引き継いでくれると、何れは隣に来ると期待し、信用し、確信しているから。


 しかし、つい本音を漏らすくらいで、他は行動としてそんなに変わらない。

 アークが本格的に動くとして、その影響は極大であるから常に測れる度を越しているからである。

 またこの状態の時はそうさせる興味が別にある時なので、人に対して何かをする事が減る。


 そもそもアークの意識が完全に集中するのは人以外で食事と植物、この内食事は調理の過程、料理人の道筋も楽しんでいるので、植物の事になら無いとこの状態にはなら無い。植物に関しても元々静的な趣味であるので、自分から語っているような時でないと、こうはなら無い。


 だが、積極的な興味が植物に向いているにも関わらず、人に対して何かをする必要がある場合はその限りで無いので注意が必要。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

次回こそは内容を進めたいと思いますが、ホワイトデーを挟むのでご容赦を。多分、また時間がかかると思います。本話も閏年で無ければ月を飛ばしての投稿になるところでしたので……。

活動報告で宣伝したモブ紹介については、ネタバレにならない紹介だけ、順次投稿します。

3月6日追伸、モブ紹介を一部更新しました。

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