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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第3章〈アンミール学園の新入生イベント〉あるいは〈完全縁結びダンジョンの謎〉

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第五十ニ話 冒険者ギルドあるいは依頼書

毎度遅くなってすみません。

何とか10月中に間に合いました。

尚、今日はハロウィンですが全く関係ありません。いつも通りの、説明多めの内容です。

 

「彼処がアンミール学園冒険者ギルド本部だ」


 ゼンが指差す先には龍と交差する剣、下にスライムのエンブレムを掲げた、威風堂々としつつも清潔感溢れる街のような砦が存在した。


 何か思っていたのと違う。


「あれ? 酒場は?」

「そんな冒険者ギルドもあるが、ここはアンミール学園だぞ? 学園に酒場なんて有る訳ないだろう」

「荒くれ者はどこでしょう?」

「至上の学園であるアンミール学園にはそんな生徒は居ないな。婆さんが荒れる状況を許さない。そうなる前に救い上げるさ」

「大きくない?」

「アンミール学園が馬鹿げた広さと人口を持つからな。冒険者ギルド本殿に次ぐ程の規模を持つ本部だ。こんな大きさにもなる。ついでに支部も無数にあるぞ」


 エンブレムを目印に探してみると、ゼンの行った通り冒険者ギルドは無数にあった。

 そしてその全てが酒場では無く、寧ろカフェが在ってもおかしく無い綺麗な造りだった。

 冒険者ギルドもそこの土地に合わせるんだね。


「じゃあ早速行こうか」


 イメージ通りでは無かったが冒険者ギルドは冒険者ギルド、憧れの場所には違いない。

 空を飛んでいるけどつい駆け出してしまいそうになる。


 そんな衝動を抑えつつ、僕達は冒険者ギルドの中心に降り立った。


 あっ、ドラスラーお爺ちゃんの気配だ。土地はアンミールお婆ちゃんでも中はしっかり違う領域なんだね。

 本人達の性格と言うか、方針が分かり易くて面白い。

 必ず成長させ、どんな道でも選べるように守り背中を押し続けるアンミールお婆ちゃんの春の陽射しのような気配と違い、ここは自由、自己責任を押す冒険者ギルドらしく、吹き抜ける風のような気配がする。それでいて無関心ではなく、子が為に子を谷に突き落とすような独り立ちを押す不器用な雰囲気も漂っている。

 その気配は例えるならやはり風。何処にでも吹き、大地を削る荒さと船を押す優しさを兼ね備えた不形不断の流れ。


 見かけとは違い、やはりイメージ通りの冒険者ギルドに来たんだって気になれる。


 しかし内部はまた外見通りだった。


 史上でも指折りの規模から照明の一つに至るまで巨大で迫力に満ちているのだが、建物全体としてのバランス以外に芸術的な箇所はなく、極めてシンプル。どれも実用性を第一に考えられている。

 清潔感が感じられるのも、そう見えるように造られているからでは無く、無駄が無いからだ。

 それでいて完璧では無い。余計なものを造らなかった、そんな無頓着な意思が感じられた。


「酒場じゃないのは分かったけど、こんなに飾り気が無いのはなんで?」

「それはだな――」


 僕がゼンに質問すると、答えが返ってくる前に答えが実演された。


 突如轟く崩壊音。

 岩山が崩れ落ちたかのような激しい音が鳴り響いてきた。


 視ればそこには対峙する二人の少年。


「これで取り消す気になったか!」

「ふん、答えは変わらない、坊っちゃんに、ここは早いんだよっと!」

「がぁっ!」


 目にも止まらぬ速さで斬り結んでいた。

 幾重にも槍と剣が交差し、余波で冒険者ギルドが傷付いて行く。


 新入生の新米勇者コール君の聖剣から延びる青の聖刃は、弾かれる度に壁や床を切り裂き。

 先輩風を吹かせ絡んでいる童顔童体な、即ち見かけ上は子供にしか見えないフォビア先輩はわざと当てないようにコール君スレスレを槍で穿つ。


 もはや建物の解体作業をしているかの如く、冒険者ギルドは現在進行形で破壊されていた。


「……毎日のように壊れるから飾り気が無いんだね」

「その通り。しかも何回も壊され試行錯誤を馬鹿みたいに繰り返すから、建築に関するデータが蓄積に蓄積を重ねたらしい。おかげで完全な最低限と実用性を兼ね備えた建物になった訳だ。

 因みに、建築ギルドも併設しているぞ。かなりの財源らしい」

「……破壊前提の建物なのですね。いっそ破壊不可の建築に挑戦した方が早い気がします」

「それは風情が無いって反対されたそうだ」

「風情……」


 確かに冒険者ギルドは度々決闘とかが起きて壊れるイメージは有るけれども……。

 と言うかそう言うって事は確信犯だよね? わざと破壊しているよね?

 そもそも常に建て直していると新品過ぎて冒険者ギルドのイメージから離れてしまうが、それは良いのだろうか?

 結果的に壊しすぎたせいで、より風情が無くなっていると思う。


 どれ、試しにどれ程変わるのか、建物に不壊性を与えてみる。


「そらそらそらっ!」

「何のっ! これしきっ!」


 残像で分裂して見える程高速で繰り出される槍の突き。

 手加減して放たれたそれは、光を纏う聖剣によってコール君の周りに逸らされる。

 そして槍は音も無く石畳をつんつん突っ突いた。

 傷は一つも付かない。それどころか音すらも発生しなかった。


「くらえっ! ――祈りと共にどうか彼の者を貴方の許へ、解放――“セイクリッドロード”!!」


 それを隙と見たコール君は一気に後ろに下がり、聖剣を掲げ聖句を唱えると、聖剣の力を解放した。

 聖剣を振り下ろすと同時に、空の様に蒼く空にまで届きそうな光流をフォビア先輩に向け放出つ。


「“車輪障壁”!」


 対してフォビア先輩は槍の中央を持ち高速回転。

 槍で真円の盾を描き聖剣の光流を弾いて行く。

 弾かれた光は不壊の建物を明るく照らした。


 ……うん、迫力が全く無い。


 地味なだけでなく、二人の容姿、年相応、つまり子供なコール君と、年相応に見えない、つまり子供にしか見えないフォビア先輩。

 そんな要素が合わさる事により、子供が玩具の武器を持って遊んでいる様にしか見えなかった。

 特に光を纏った武器や派手に振るう槍はそれに拍車をかけている。


 尚、余談だがこの闘いは冒険者ギルドに登録しに来たコール君が、年上ぶって年下にしか見えないフォビア先輩にまだ登録が早いと言って、フォビア先輩が割と本気でキレた事から始まっている。

 子供の遊び、もしくは喧嘩じゃないと否定する材料が無い。

 視れば視る程、冒険者ギルド要素が皆無に思えてくる。これでは内観も合わさって遊べる公共施設だ。


「……コアさん、やっぱり風情って大切だね」

「……大切でしたね」


 僕はそっと建物を元の破壊可能な状態に戻した。


 途端、破壊音が響くが、何故かホッとする。


 やはり風情は大切だ。



 僕達は色々な所から発生する破壊音を当たり前と捉えながら進む。


 そこには幾つものカウンターがあった。


 何故かここだけは使い古した、イメージにある様な冒険者ギルドカウンターだ。

 ボロボロと言う訳でも汚いと言う訳でも無いのだが、新品の市役所や銀行と言った雰囲気では無い。

 不思議と歴史の重みを、人の歩みを感じさせる何かがある。


「パパ、何でここだけは雰囲気が違うの?」

「それは単純に、職員が強いからだ。ここの職員達は冒険者ギルド本殿の職員。後進の育成に移った伝説の、いや神話に語られるの冒険者達だ。そいつ等が居るんだから世界が滅びる一撃をお見舞いしてもカウンターは無傷だろうな」

「うわぁ、そんな凄い人達が此処には居るんだ」


 どうしよう?

 そんな事を知ったら途端に緊張して来た。

 未だ、抑えきれない程の憧憬が胸にはあるが、両手足が同時に動きそうな程に緊張する。


「凄い人達って、大半がアークの血脈だぞ?」


 ん?


 あっ、よく見たら一度や二度ほどしか会った覚えは無いけれど、殆どが知った顔だ。

 僕の一族、本当に色んな処に居るね……。


「それでも知らない冒険者の人も居るから緊張しちゃうよ」

「そもそも最上位はドラスラーの爺さんだぞ? 後一応、俺も相当な有名人なのだが?」

「いやドラスラーお祖父ちゃんはお祖父ちゃんだし、パパはその、なんと言うか、覇気がない?」


 そのやる気の無さが平穏教の世界神たる証明なのだが、だからと言って凄そうかと聞かれればそうじゃ無い。

 パパであると言う事を抜きに考えても、緊張しようとしても出来ないタイプの人だ。


「……そうか?」


 あっ、凹んでる。

 何時も何事も気にしない、寝て過ごして聞き流しそうな雰囲気なのに、ゼンでも凹むんだね。

 初めて見た。と言うか史上初のお披露目では無いだろうか?


「じゃあ依頼を出しに行こうか?」


 ゼンが凹んだ理由は自業自得で慰めようが無いので、気にしないで先に進む。


 一歩一歩進む度に緊張感が増してくる。


 何故か僕が一歩進む毎に、カウンターの人達の緊張感までもが僕以上に増している様な気がするが、きっと気のせいだろう。


 そして僕がカウンターに辿り着く前に職員の人達が動いた。


 一瞬で僕達の前に整列する職員達。

 そして片膝を付く。


 その中から一番存在の格が高い、恐らくここの長であろう僕の親族の一人、【人代の開拓者】リムルスが進み出て僕に言った。


「我等が追い求めし理想の君よ。我等一同、この時を永らくお待ちしておりました。これより、冒険者ギルドは貴方様のもの。貴方様の目となり耳となり、手足となりましょう」


「「…………」」


 何故だろうか?

 冒険者登録をするどころか、ただ依頼を出しに来ただけなのに冒険者ギルドの全権が僕に与えられようとしている。


 取り敢えず、まずは断ろう。


 しかし僕が動く前に動いた者達がいた。


「此度の拝命、しかと受け取りました」

「我等が主に代わり、お礼申し上げます」


 そう勝手に承諾するのは僕達の直属の眷属、サカキとナギだ。


 何やっているの?

 いや確かに元々僕達の代わりに会話してくれる様な創った存在だけれども。

 今は緊張何か吹き飛んでいる場面だから! 自分で話せるから! と言うか即答出来た場面だったから!


 そんな僕の心境を知らない二人は僕達の方へ畏まった様子で反転、恭しく頭を下げて述べた。


「此度の件、誠におめでとう御座います」

「我等一同、御祝い申し上げます」

「えっと、おめでとう御座います?」


 そう祝ってくる筆頭眷属とコアさん。


「って、何でコアさんがそっち側にいるの!?」

「流れで?」


 何とも無責任なコアさん。

 他人事だと思って!

 孤立無援の状態だが、だからこそ慌てて僕はお断りする。


「いや受け取らないからね!? 世界最大の組織なんてどうにも出来ないし、僕じゃ役不足だから! そもそも僕まだ学生になったばかりだからね!? 就職通り越して何させようとしているの!?」

「そう仰られましても、元よりこの冒険者ギルドは貴方様方が為のもの、当ギルドの理念の最果てに貴方様が居られます。我等一同も目指したときから貴方様の為に存在します」


 しかし頑なに僕に全権を譲ろうとするリムルス。

 後ろに控える職員達も一向に引く気配が無い。

 僕が頷くまでそうしているだろう。


 どうするべきかと考えていると、唯一味方になってくれるかも知れない人の姿が目に入った。


「パパからも何か言ってよ」


 そう、ゼンだ。仮にも世界神たるゼンならば、強引にでも意見を覆させられる力がある筈だ。


「ん? 受け取って良いんじゃないか? これだけの組織が下にいれば楽が出来るぞ」


 駄目だ。ゼンはゼンだった。


「それに、この場で全権受け取っても受け取らなくても、結局変わらないと思うぞ? ドラスラーの爺さんの事だ、どんな無茶振りでもアークの為なら勝手に応えるだろうし、こいつ等もそれは同じだ」


 しかしゼンの言う事には納得が言った。

 親族は愛した子の子はその愛を引き継ぎさらに愛しい、そんな理論で僕を引くほど甘やかしてくる事がある。事があると言うよりもほぼ毎回だ。

 その想いは僕達の一族が極限な少子化、生まれるまでも永久に等しい時間が必要と言う事もあって凄まじい事になっている。


 多分僕がかぐや姫の出した課題の宝物を求めても、何の疑問も無く競うようにして持ってくる。

 其々の持てる力を余す事なく使って行動する筈だ。

 アンミールお婆ちゃんなら学生への課題として、ハシィーお婆ちゃんなら全世界に神託を下し、シャガンお爺ちゃんなら英雄を動かす。

 そしてドラスラーお爺ちゃんは冒険者達に強制依頼ミッションとして探させる。


 と言うか前に蓬莱島の玉の枝が見たいと軽く言ったら、数分後から僕の元に蓬莱樹を始めとした色々なそれらしきものが贈られてきた。

 後日ボソッとどうやって手に入れたか言っていたが、それは色々な面から常軌を逸した本気を出してはいけない人の本気だった。

 父親の一人であり、何もしない事には定評があるゼンですらそれとなく持ってきたのだから、親族達の僕への想いは強過ぎる。


「……確かに僕が全権を持っていようが、持っていまいが関係無いかも」


 僕は遥か遠くに視線をやりながらそう言った。

 当然あるのは受け入れる思いでは無く諦観だ。


 そんなこんなで僕は、裏からも表からも冒険者ギルドを掌握するのだった。

 ……僕、冒険者登録すらしていないんだけど?



 想定外と言う概念では内包しきれないような想定外があったが、それで僕の目的が変わるわけではない。


 僕は依頼を出しに来たのだ。

 断じて冒険者ギルドの全権を貰いに来たのでは無い。

 ここで忘れて帰っては精神をすり減らしに来ただけになってしまう。


「それで、依頼ってどうやって出せばいいの?」


 僕は未だ揃って礼をしている職員の皆に本題を告げた。


「命を下されば我々が直ちに遂行致します」

「いや普通に依頼で十分だからそんなのはいいよ。そもそも主目的は冒険者をやっている生徒の人に、自主的に動いてもらうことだから」


 僕は早速総力を挙げて動こうとする職員一同を止めると、普通の依頼を出す必要性を言った。

 理由を言わなくても大丈夫だったかも知れないが、ただ漠然とした目的を言うととんでもない事になりそうだからだ。


 想定外な非常識の後だと、気が抜けない。


 親族の前なのに、家族の前なのに気が抜けないとはどう言う事だろうか?

 ギクシャクした関係どころか、多分寧ろ良好過ぎる関係なのに。

 やはり何事もやり過ぎると思いもよらない方向に行くようだ。


 僕はまた、どうでもいい事を一つ学んでしまった。


「畏まりました。では冒険者ギルドの依頼について説明させて頂きます」


 しかし話自体は無事、求めている方向へ進んだ。


「まず、依頼は基本誰でも出す事ができます。冒険者を含めた個人から、他ギルドや国家などの組織まで依頼を出す事が可能です。そして基本方針として我々はどんな依頼であれ受理します」

「どんな依頼でも?」

「はい、例え国を滅ぼせと言う依頼であれ、タダで生きた盾となれと言う依頼であれ受理します。但し受けるか受けないかは勿論冒険者次第です。その為このような依頼は奇代の変人しか受けないのでまず出されることはありません。しかし依頼として出す事自体は可能です。何の制限もありません。依頼の内容から報酬、依頼書の形式まで、虚偽でない限り自由に出来ます」


 冒険者と言うと自由を愛する者達のイメージがあったが、冒険者に依頼を出す側も自由であったらしい。


「……そんな適当で良く世界最大の組織になったね」

「あくまで基本方針ですから。我々冒険者ギルドの中枢、本殿はここを始めとした重要領域の限られた冒険者ギルドの運営しか口出ししません。初めの基盤設置以降は、その世界の冒険者達に任せています。その為、多くの冒険者ギルドでは職員が依頼時に口出しするのが一般的になっています。時が流れると共に適正価格や内容が定まるようです。また、国との繋がりが出来ると共に緊急依頼など、強制力のある依頼なども現れています」

「……滅びない限り自然に身を任せた先が完成形なのかもね」


 突き出た岩に砂が集まり、島となるように不動のものは動かない方が正しいのかも知れない。不動が無ければ安定は得られない。

 しかし冒険者ギルドが絶対に潰れない、どんな事があっても根本的に影響がないからこそであって、普通の組織としての在り方は間違っていると思う。


 時代の流れに合わせて姿を変えるからこそ生き残れるのが大組織だ。

 生き残る事にそもそも執着しない冒険者ギルドは大本からして普通の組織と違う。

 絶対的なものは動かなくとも自然と秩序を形造る、これからに活かせないタイプの前例だ。


 ……最近よく、僕を頂点とした身分制度みたいなのが巻き起こるけど……。


 変な法則に気が付いてしまったが、依頼の全容については何となく解った。

 そろそろ本題に入る。


「結局僕は、どうやって依頼を出せばいいの?」

「一番簡単な方法ですと、口頭で申し付けて頂ければ我々が代筆して依頼書を書き上げます」

「じゃあそれで」


 全て自由な内容で良いと聞くと、白紙でも渡されるのではと思っていたが、やって欲しい事を言えば書いてくれるようだ。


 思えば最古の時代、創世の時代から存在する組織の基本理念はただ背中を押すこと、落ちないように手を貸す事。それ以上はやらないが、何処へでも進む選択肢が選べるようには導く。


 冒険者ギルドの語る自由とは白紙のような自由では無く、図書館のような自由だ。

 一から書けと放置するのでは無く、全ての指針を与える。

 芸術家、才能ある人は白紙を自分の思い通りの絵に描く事が出来るだろう。しかし凡人には上手く出来ても目の前の風景を劣化させ描き写すので精一杯だ。

 だから白紙は自由と言いながら一定の選択肢しか与えない。

 故に完成形を見せる。そこへの道筋を。何でも選べるように。


 やる、やらない以前のやれないを極力排除する。


 だから自由と言う名の白紙で選択肢を狭める事はしない。

 依頼をどんな形であれ、依頼者の思い通りの内容で形にするのだろう。

 出せないと言う選択肢を許さないが故に。


 まあこれは、ドラスラーお爺ちゃんや皆を知っている僕が勝手に思っている過剰評価かも知れない事だが。

 どうも普通の対応に傾いてきて、冒険者ギルドに倒する憧憬が戻ってきたらしい。

 全てが深い意味のある事に思えてくる。

 いや実際に有るのだろうが、皆当然と考え深くは考えていないだろう。


 凄い残念な言い方をすれば冒険者ギルドとは冒険者のスポンサーだ。

 人類の脅威である魔物を資源として価値を保証し、誰もに冒険者の資格を与える。

 人は誰しも先立つものが必要であるから、それを魔物を倒すだけで与え、魔物狩りに専念させる、専念出来るようにする。

 最も目立つ役割はそれだ。他は主目的だとしても見出さねばならない。


 おっと、そうこう思っている内に皆の準備が万全に整っている。

 僕の言葉を一言一句聞き逃さないように紙とペンを持って、僕を一心に見ている。

 何故かその中にはコアさん、そしてサカキとナギの姿も。本当に何故? 特にコアさん、僕と一緒に依頼を出す側だよね?


 まあいい。

 さっさと依頼を言うことにしよう。


「僕はね、コアさんの創ったダンジョンの調査をしたいんだ。実はダンジョンに縁結びのヒントが在りそうなんだよ。でも先入観が入りそうだからそこは隠して、ただ普通に攻略して貰いたいんだ」


 そう言って暫く、皆は依頼書を書き上げた。

 どれどれ?


 ――心して拝聴せよ。これは至上の命、大いなる意志による神託なり。最古の学び舎に石門の迷宮あり。其処は神秘の天幕に包まれた試練の祭壇。汝ら、至高の財宝を得たくば恐れずして進め。されば汝らは報われるであろう。――


 ……なんか予言みたいなのがあった。

 僕のような訛りやら、過剰な修飾語が入り混じり、解釈によってどうとでも読めそうな内容になっている。


 僕は至上でも大いなる意志でも無いからね?

 ……さっき冒険者ギルドの全権とやらを貰ったから完全には否定出来ないけれど。


 訳すと、『アンミール学園にダンジョンがあるから調査して来てくれない? 行ってきてくれれば報酬あげるよ』だろう。


 最古の学び舎に石門の迷宮、これはそのまま。

 神秘の天幕に包まれた試練の祭壇、これは秘した場所、試練から、分からない場所、努力が必要となり、合わせて調査と言う意味だろう。

 そして至高の財、報われる辺りは、皆の言うところの至高である僕の財を調査すれば貰えると言う意味、つまりただ報酬を差し上げますよと言う内容だ。


 僕の頼んだ内容にそれ以外は無かったから間違い無い。


 しかしこれは本来の内容を知っているからこそ読み解ける。

 普通に読んだらとんでもない見当違いをしてしまうだろう。

 多分、迷宮に莫大な財宝か何かが眠っていると勘違いしてしまう。

 コアさんのダンジョンは純金製のなんちゃって金貨の山や仙桃くらいしかない適当ダンジョンだ。これでは詐欺広告と変わらない。


「却下却下! もうちょっと普通に書いてよ」


 僕は依頼書が張り出される前に破り捨てた。


「普通に書いたつもりだったのですが?」


 リムルスは他の皆に何がおかしいのかと目で聞くが、聞かれた皆も分からないと態度で示す。

 普段、どうやって依頼書を作成しているのか非常に気になる。


 依頼の掲示板をちらりと見ると、そこは全て統一標準語フォンヨークで書かれていた。

 どうやら僕の出した依頼だからこそ予言、いや神託みたいになってしまうようだ。

 ……皆僕の事を何だと思っているのだろうか? そろそろ本気で曇った目を晴らす目薬を探すべきかも知れない。



 リムルス達は手の施しようが無さそうなので、何故か同時進行で依頼書を書いていた眷属達の様子を見る。


「…………何しているの?」


 だが、こちらも手の施しようが無い事が一目で判った。


 依頼書を見るまでも無い。


 何故なら、眷属は国一番の神殿にしか無さそうな立派過ぎる祭壇を造っていたからだ。


「主アーク様の御言葉を納めた依頼書、それを祀る祭壇を作製しております」

「祭壇の中央に安置されおります聖櫃に、アーク様の御言葉を綴った依頼書を納めております」

「……僕はアークだけど聖櫃アークは必要無いからね」


 既に壊すのが憚れるレベルで壮麗に仕上っている。

 どうしよう、これ?

 ここ、冒険者ギルドだよ? まあ全権なら貰ったけれども……。


 取り敢えず依頼書としては論外だ。

 聖櫃に納められていては誰も読めない。


 僕は視界から祭壇を排除するように、コアさんの元へと向かった。

 コアさんの依頼書も癖がありそうで、もう見る前から憂鬱な気持ちになってくる。

 二度あることは三度目あると言うやつだ。


「マスター、ちょうどいいところに、今ちょうど書き上がりましたよ」


 そう自信満々に掲げる依頼書。


 ――迷宮調査してくれる方募集。報酬は弾みます――


 何故だろうか? 工夫が無くシンプル過ぎると言っても過言では無いのに、これ以上になく素晴らしい依頼書に思えてきた。

 いやいやいや、騙されてはいけない。これは錯覚だ。他が酷すぎるだけである。


「コアさん、中々良いと思うけど、まとめ過ぎだよ。もうちょっと具体的に書かなくちゃ」

「そうですか?」

「僕も手伝うから少し直そう?」

「分かりました」


 そんなこんなで結局僕も依頼書を書くことになった。

 こんな事なら初めから自分で書いた方が良かったような?




 二人で依頼書作製をしていると、改善点がスラスラと出てくる。


 実に素晴らしい依頼書になりそうだ。

 と言うかもう既にさっきの酷いのよりは余程いい依頼書が出来ている。


 しかし流に乗った僕達の向上心は留まる事を知らない。

 僕達は未だ改良を重ねていた。


「コアさん、やっぱり人を集めるには値段で釣らないと」


 イタル先輩達の件があるから別々に送る為に人数が必要、何より縁結びにもある程度人数が居た方が良い。

 その為には人を集める要素が依頼書には必要だ。

 そして大抵の人に使える手っ取り早い方法は報酬である。大半の者にとって報酬を求めるためのものが仕事、この場合依頼であるのだからそれも当然だ。


 幸い学園で使えるお金なら幾らでも生み出せるから問題ない。


「では誰でも歓迎と言う要素も付け足しておきましょう」


 しかし報酬が高いだけだと、それだけキツイ仕事だと思われてしまうかも知れない。

 そこでコアさんから誰にでも出来ると言う要素が必要と言う意見が出てきた。尤もな意見だ。


 それに是非とも色々な人に行ってもらいたい。

 あのダンジョンはクラス丸々一つの縁を余す事なく結んだ謎のダンジョン。本当にどんな人達でも結ばれるのか見てみたいし、その方法が知りたい。

 そこには必ず縁結びに結びつく有用な情報がある筈だ。


 早速書き込む。


「簡単なところもアピールしよう」


 ついでに似たような意味合いだが、具体的に簡単だと書いておく。

 実際、明確に何かを調べて欲しい訳ではない。ダンジョンを進む中で縁が結ばれたら良いなと、思っているだけだ。

 つまり調べると言っても本格的にダンジョン攻略をして欲しい訳ではない。仮に一切戦わなくても問題ないし、散歩気分でも構わない。

 何よりそこはコアさんが適当に創った、僕と同じくか弱いド田舎者が適当に創ったお遊びダンジョン。難易度なんかはそれこそ地形ぐらいしか無い。


 依頼として出す以上、報告はしてもらうがそれもメモのようなものでも構わない。

 そもそも常に視ているし。

 何なら、縁が結ばれるのであればずっとダンジョン内で寝ていても構わないぐらいだ。

 寧ろ元々縁結びのヒントが判ったら良いなと、軽い気持ちで出す依頼だからそれで丁度いいぐらいだ。


「縁結びし易そうな人材を求めて、保険をかけておくのも得策かと」

「なるほど、何にしろ縁結びが視れたらお得感があるね。ダンジョンの効果と混同しちゃいそうだけど、そこはよく観察して分析すればいいだけだし、早速書き足そう」

「後は海しかない階層の例が有りましたから、出来る限り準備するように書いておきましょう」

「うーん、直に書くと簡単って言うところが説得力無いから、いくつかの具体例だけにしておこう? 日数が必要、泊まり込みになるかも知れないとか」

「それでいきましょう。他には?」

「そうだね―――」


 改良は幾重にも重ねられ、依頼書は改善、そして強化されてゆく。


 そして遂に、依頼書は完成した。





 《用語解説》

 ・統一標準語フォンヨーク

 統一標準語、もしくは統一標準語フォンヨークと呼ばれる言語。“大賢者の加護”により話し言葉は全て伝え合う事ができ、そこに言語の差は感じ難い為、主に文字を指す言葉として使われる。

 全世界で最も広く使われる文字で、大賢者の名の一部を冠するとされる。


 エル・ユートピアの世に“アンミール=シャガン起源会議”によって基本体系が明示された。

 その時代までに自然と使われていた言語の共通点をまとめたものとされる。その頃には既に原型があったそうだが、余りにも時と共に作られた為に、詳細は不明。

 中には日本語が原型と思われるものが数多くあるが、これも詳細は不明。ニ種類の五十音と漢字のように意味を表す文字があるが、こじつけなければ形は似ているように見えず、ただ文法と五十音と言う部分が似ているだけと言う説が有力。但し多くの異世界人の記録が、各地の伝説に残っている為、流行語を作ったなどの関係性はほぼ間違い無いと考えられている。


 尚、文字は“大賢者の加護”は読み書きに関しては効力を発揮しない。

 異世界人達は普通に初見では読めない。しかし日本出身者にとって覚えやすくはあるようだ。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

次回はそろそろクリスマス転生等を書き溜めるので、また遅くなるかも知れませんが、何とか11月中に間に合うようにしたいと思います。

尚、冒険者ギルドについては世界解説の方にその内付け足します。これは……何時になるか分かりません……。

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