表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第3章〈アンミール学園の新入生イベント〉あるいは〈完全縁結びダンジョンの謎〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/103

第五十一話 ダンジョン調査あるいは海

毎度、投稿が遅くなりすみません。

9月中にはぎりぎり間に合いませんでした。

また、今話からレギュラー陣(予定)登場です。

 

「んじゃあアーク、ぼちぼち人をダンジョンに放り込むか?」


 ウォッシュレーテは体調を理由に仕事、世界降ろしに戻った。

 体調が悪いから仕事に戻るとは一体どんな思考回路からだろうか? 

 これが世の理不尽、過労の一端かも知れない。


 そんなこんなで交代に来たのはパパの一人、ゼンだ。

 何でも真面目に働かないなら行ってこいと言われたそうだ。そしてこれ幸いと仕事から逃げてきたらしい。

 ウォッシュレーテも少しはゼンを見習って、休む事を覚えた方が良いと思う。全て見習っては勿論駄目だが、きっと世の中加減も大切だ。


 最低でも他人に任せると言う行為は必須であると思う。

 弱い存在である人は、一人では何も成し遂げられないのだから。自給自足を成している人だって、他人による準備が無ければそこに辿り着かなかっただろう。

 どんな超人でも他人がもたらした知識が無ければ先には進めない。自分だけで得られるのは試行錯誤。実り続ける結果は死までに精々一つかそこらだろう。


 それぞれが出来る事を積み合ったからこそ初めて今はある。

 人には出来ない事が必ずあるのだ。

 しかしそこで諦めるのも違う。数多に繁栄している人々が協力すれば乗り越えられる。そして乗り越えられ無いものも何れ天才が現れ、乗り越える事が出来る。

 だからこそ人に不可能は無い。


 つまり、人を信用し、頼る事は大切なのだ。


 今僕達が行おうとしているのも人を頼る行為。

 自分達ではまともに調査出来ないダンジョンを、出来る他の人にやって貰おうとしている。

 ウォッシュレーテは帰ってしまったが、結果的には良かったかも知れない。人任せの達人と言っても過言では無いゼンが代わりに来てくれたのだから。

 適材適所である。


「うん、誰がいいかな?」

「あいつら何かどうだ? 俺の信者の中でも生きがいい連中だ」


 僕がそう尋ねると、ゼンはある所を指し示す。


「どうだ? そっちの進捗は?」

「全戦全敗だ……布教兼嫌がらせしか出来てねぇ。そっちは?」

「俺達もだ……クソぉ! 俺達の何がいけねぇって言うんだよぉ!」


 そこに居たのはイタル先輩達だ。

 さっき縁結びした時にイタル先輩と一緒に居た先輩達と、初見の先輩達。視たところ友達と言うよりも仲間、同士と言った関係性がしっくりくる集まりだ。


 そんな先輩達がオシャレなカフェのテラスを陣取って、好きでもないブラックコーヒーを飲み干しながら愚痴っていた。

 その一角だけまるで酒場のようだ。

 未成年なのに酒場が似合ってしまうとは一体?


 しかしだからこそ、ダンジョンに向いていそうな人達でもある。

 冒険者と言えば酒場。その逆も然り。


「うん、ピッタリそうな人選だね。じゃあ行ってもらおうか?」

「そう致しましょう。あの先輩方の強さなら、万が一もありませんし正しく適任です」


 コアさんの賛成も得て決定だ。

 やる以外の選択肢は存在しない。


 今回やるのは本人達の為になる縁結びでは無く、ただのダンジョン調査だがこれも縁結びの為。

 それでもコアさん手製とは言え一応は危険なダンジョン、そこに勝手に送り込むのは躊躇してしまう。

 しかし今回は彼等の神たるゼンの推薦。実力と言う意味でも許可と言う意味でも心置きなく実行出来る。


 何の問題も存在しないのだ。


 パリンッ――


「うわっ! カップの取っ手が!」

「ブフっ、急に取れるなんて不吉だなぁ! アタタタタ熱ッ! カップの底がぁ!」

「お前たち揃いも揃って呪われてんじゃねぇか? なっ、下駄の緒が切れただと!?」

「下駄ってなんちゅうもん履いてんだよ。古臭いもん履いてるから千切れたり――うわっ、俺の靴紐も! 新品なのに!」

「ま、まあ、不吉の吉兆なんて、た、ただの迷信に、決まってる。き、気楽に行こうぜ」

「だ、だよな。迷信を信じるなんてどうかしてる。次に行こう」

「にゃー」

「「黒猫が横切ったーーー!!」」


 イタル先輩達は何やら騒がしいが、言い方を変えればとても生きがいい。

 何故か顔色だけは青みを帯びているが、割れた鏡やら6:66で停まった時計を放り投げながら全力で走り出した。

 体力が有り余っている。


 やはり僕達の目に狂いは無かった。


 このままコアさんのダンジョンへと向かってもらおう。



 イタル先輩達を誘導する事暫く、無事コアさんダンジョンへの導きが成功した。


「どこだここ?」

「見た目通り遺跡じゃないか?」

「遺跡にしては壊れていないような?」


 しかしここで問題が一つ。


「女子は見当たらねぇし、大通りに戻るか」

「そうだな」


 先輩達は遺跡に興味が無かった。

 ダンジョンだと言う事すらも気が付かなかった。

 早くもお帰りムードだ。

 確かに考えてみれば入り口らしい入り口は無いし、初見での攻略は入場する所から難しいかも知れない。


 でも今回の場合についての対策はちゃんと打ってある。

 元々は違う用途なのだが、この場合でも使えるだろう。


「ん? おい! 出られねぇぞ!」

「壁? 結界か!」

「相当硬そうだ。どうする?」


 その対策とは結界。

 元々は気が変わって帰ってしまわないように張ったものだが、今回のようなダンジョンだと気が付かれなかった場合にも十分効力を発揮するだろう。


 帰れない以上は前進して行くしかないし、結界を解く目的としても調査をするしかない。

 僕が張った結界だから原因はダンジョンに無いが、こんなに特徴的な遺跡のような建造物があったらまずそこに原因があると思うだろう。

 そして探る内にダンジョンだと判明した後は結界の原因が周囲に無かった以上、ダンジョン内部にあると見当を付け調査する筈だ。

 我ながら完璧な作戦である。


「“リア充、爆発しろ”」


 リア充憎悪による爆破を特性アダマンタイト拳銃内部に起こし、銃弾を爆射するイタル先輩。


「“グラビティキャノン”」


 〈アイテムボックス〉の武技を上下両刃のアダマンタイト製大斧で発動させるマサフミ先輩。


「“天地を(ギャラクティック)貫け(オーバー)我が剣よ(スラッシュ)”」


 魔術とも斬撃とも取れるオリジナル技を、オリジナリティ溢れる、つまり僕がまだ理解出来切れない都会風の名で放つ、半吸血鬼ダンピールな異世界転生者鈴木(ヴァンリード=ヴォン)太一(=アインヘイム)先輩。


 完璧な作戦であった筈なのだが、先輩達は迷わず周辺調査では無く結界の破壊を選択した。


 銃弾と爆炎どちらが本命か判らない、岩山をもかち割る銃撃。

 重力を維持したアイテムボックス内で、自然落下させ続け加速した超重量戦斧の射出。

 具現化した莫大な魔力と腕力による単純だが強大な威力を誇る力技。

 その他、身体超強化による破拳やリミッターを外した光学剣の一撃必殺が僕の結界に叩き込まれて行く。


 うん、先輩達が脳筋である事を考慮していなかった。

 方法としては結界を破壊するのも合理的と言えるが、他を考慮しない即断即決は僕の想定を上回る。


 普通、遺跡で不思議な事があったら調べるものでは無いだろうか? 

 攻撃性の罠なら兎も角、魔力性の現象は時代を飛躍させる種火になり得る。失ってしまったら世から喪われてしまう可能性のある、貴重なものだ。

 そして過去の人が生きた証でもある。その技術が途絶えてしまったものならば、現在にその後継がないのならば、その人達の生きた証はそれだけだ。遺っていなければその努力は無いも同然になってしまう。循環し続ける人にとって亡骸は最期にその人だっただけの物質でしかない。やがて土に、墓ですら石に還ってしまう。故に彼等の努力の証拠は亡骸以上にその人が生きていた証。

 多くの人の証は子孫なり技術なり畑なりとして受け継がれて行くが、遺せなかった人達の証はそう言った遺物としてしか無い。その遺物は墓以上にその人を語る。絶対に喪ってはいけないものだ。

 一欠片の興味としてでもいいから何かしらの形で現在に継がねばならない。で無ければ何れ全ては不毛へと消える。得られるのは自己完結の満足だけ、切り離された個人最期の幸せ以外に実りは最後に遺らない。もしくは可能限界課題を成し遂げられない限り、興味を持ち続ける事でしか実らせる事は出来ない。村長はそんな事も言っていた。


 今回はそれに偽装した僕手製の結界だったが、これが本当に遺跡の遺物により引き起こされていた場合、喪われていた可能性は十分にある。

 もう少し慎重になってもらいたいものだ。


 尚、幸いな事に僕の結界には傷一つ付かなかった。


「なんだこの結界? ビクともしねぇぞ」

「出られないじゃないか? どうする?」

「取り敢えず結界の出処を探そう。何も無い所から結界は生まれない」

「おおガリ勉、偶には役立つこと言うな」

「僕はいつも役立つ事しか言ってない。あとガリ勉じゃない、秀才だ」


 脳筋達の中にもいた真面目系、自称秀才なカナタ先輩のおかげで何とか正しい方向へ方針は移る。


「たく、まさかこんなにつまらん所に閉じ込められるとはな。野郎しかいねぇし、密室と言えば女子とって決まってるのに」

「全くだ。せめて海とかなら楽しめたのだが」

「海、イイねぇ! ナンパにピッタリだ! 僕の美貌も輝く!」

「海、此方に来てから行ってないな。と言うか最後に海に行ったのはいつだったか……考えるだけ虚しい……」


 そんなこんなの会話をしながらイタル先輩達はダンジョンの中心へ。

 すると石積みの門に水面のような光が灯り、転移門が繋がる。


「何だこれ? 急に光ったぞ?」

「もしかしてここ、遊園地の遺跡型アトラクションなんじゃないか? んでこれはイルミネーション」

「確かに見たところ遺跡なのに新築、オープン前のテーマパークかも知れない。ここは一早くリサーチしよう」

「おっ、デートスポット開拓か。俺達にも遂に運が回ってきたかもな」


 先輩達の思考は僕達の目論見とはまるで違う方向に進んで行ったが、何だかんだダンジョン内に行くと言う方向には進んだ。

 一度は調査そのものに向かっていたのに既にその考えは持っていない。

 まあこの際先輩達の動きを視て僕達がダンジョンを分析調査すれば問題無いだろう。

 都会どころか対人にも慣れていない僕達からすれば上出来な結果だ。



 先輩達は意気揚々と転移門を潜った。


 そして大海原に落ちる。


「「なぁーーー〜〜っっ!!」」


 盛大に打ち上がる水飛沫。


 先輩達が辿り着いた階層。

 それは全方位の果てまで続く大海原だった。

 島の一つも無い完璧までなまでの海だ。球体では無く平面な海らしく、唯でさえ果てしなく広い海がより広大に感じられる。


「コアさん、これってダンジョンだよね? 海が丸々一つ在るんだけど? 実は外へと繋がった転移門だったりしない?」

「……いえ、間違いなくダンジョン内です。わたくしは何がしたかったのでしょうか?」

「知らないよ。こんなの誰が攻略出来るの? 船が無いとどうにもならないよ? 島の一つも無いし」

「……さぁ?」


 海底の中を覗いてみるが、何処までも人が呼吸の出来るような地形は無い。

 ダンジョン的ギミックは皆無だ。

 在るのは本当にただの海だけ。

 水をモチーフにした階層などと言う生易しいものでは無い完璧な海だ。


 手抜きと言っていいのか、侵入者を防ぐと言う目的としては最高解なのか判断に迷う程の海具合である。


 まあ今回の場合、先輩達は海に行きたいと言っていたので何とかなる、と思いたい。


「んはっ! って、おい、なんだいきなり、海か!?」

「がはっ、はぁはぁ……っんだぁここは!?」

「うばばぁ、ごの味ば間違いなぐ海でずね!」

「ぞんなごどよりも早ぐ助けでェ!!」

「うわっ、抱きつくな! 顔が近ぇ!」


 そんな風に思っていると、早くも溺れかけている先輩が複数人もいた。

 着の身着のまま、つまり鎧やローブ、剣や盾まで持った状態での海は厳しかったらしい。


「ちょっ、暴れるな! 大飛沫がっ!」

「だから抱きつくな! 早く離れろ!」

「ごんな時まで女女言ってる場合がぁ! ごっぢは命がかかってんだぁ!」

「いやこっちが溺れ、ぶぶぶぶぶ…!!」


 混乱が混乱を呼び、被害が拡大して行く。

 普段なら突き当たった壁も力尽くで乗り越えられるその超人的な身体能力も、ここでは役に立たない。それどころか悪化の要因となっている。

 藻掻く度に上がる水飛沫は嵐の如く周囲を襲い、発生する大波は浮く事を許さない。それらが藻掻く張本人も襲い、その先輩は更に暴れる。泳げなくなった先輩もそこに合流。見事なまでの悪循環だ。

 このままでは自然災害に到達する勢いで事態は悪化して行く。


 まあ、イタル先輩達の事だから、殺そうとしても死なないだろう。

 行き過ぎた縁結びの原因がここに有るかも知れないし、僕達は傍観するのみである。


「アイテムボックス! アイテムボックスに何か無いのか!? 浮き輪的なの!」

「おうっ! あるぞ! 膨らむヤツなら俺に任せろ!」


 そう言ってイタル先輩はアイテムボックスから何やら取り出した。

 何やら“あーるじゅうはち魔法”が迷っている。隠すべきか判断が難しい物のようだ。一体アレは何なのであろうか?

 あっ、魔法が去った。堂々と見せていい物ではないが、無理に隠すべき物でも無いらしい。


 イタル先輩の手元に有ったのは…風船、かな?

 そこにはピンク色の丸まった膨らます前の風船らしき物が有った。


「コ●ドームじゃねぇか!? んなもんでどうすんだよ!」

「こうすんだよ!」


 イタル先輩はピンク風船を膨らませ始めた。

 超人的な肺活量で空気を入れる。

 ピンク風船は天辺にとんがりの付いた松茸のような形になり、あっという間にちょっとした時計塔程の大きさにまで膨らんだ。


「マジかっ!」

「さっさと掴まれ!」


 イタル先輩はちょちょいと風船を結ぶと、ピンク風船に掴まる。

 それに習って全員が一先ず浮く事に成功した。

 ピンク風船は滑り易いようだが、少なくとも溺れる事はもう無いだろう。


「……助かったが、なんとも言えない気分だな」

「……つうか、よくこの大きさまで膨らませたな。コレ破れたりしないのか?」

「ふん、安心しろ! 超極薄なのにどんなご立派さんにだって対応する最高品質のコンド●ムだ! 避妊性能抜群! どんなに激しく使ったって破れない! もし破れてもダンボールごと箱買いしたから安心しろ!」

「徳用の箱とかじゃなくてダンボールごと買ったのかお前!? 一生使い道がないのに!?」

「有るわぁ!! いつ必要になってもおかしく無いだろうがぁ!!」

「と言うかこんなに大サイズになるのいるか? イタルのは――」

「成長期なんだよ! 必要になるかも知れないだろうが! 毎日ご立派になるプラシーボ薬を飲んでるしな! この●ンドームを買ったバッタもんの店で買った薬だから効果間違い無しだ!」


 会話からピンク風船の正体は判らなかったが、少し不味そうなお店で買った物である事は判明した。

 プラシーボって、プラシーボ効果の事だよね? 偽薬、思い込ませて自然治癒力を上げる方法だよね? それを明かす名を付けて売っている薬がまともな訳無い。

 それに店名がバッタもんの店とか何とか、正規品じゃない物を売っている匂いがぷんぷんする。流石に引っ掛からないレベルの怪しさだ。


「そんな薬が有るのか、俺も買ってこようかな」

「バッタもんってあの自称未来で造られた子育ってバッタ型ホムンクルスの?」

「ああ、そのバッタもんだ! あいつの店、いろんなもんが売ってるぜ!」

「そうだろそうだろ! 流石は超天才未来技術を持つ大発明家が造った店は一味も二味も違うよな!」


 怪しいと思ったらそこそこ有名な人のお店だったらしい。

 バッタもん屋の事を指していたのではなく、バッタもんとは人名(?)のようだ。

 イタル先輩一人だけが偶然行っただけのお店では無く、もう一人オカルト科学オタクの異世界転生(てんしょう)者カリギュレオン・オスカー先輩がその良さを熱弁しているので、きっと安心安全の良品店である。


 そんな有名店のピンク風船に掴まる先輩達は取り敢えず陸地を目指そうとバタ足を始める。

 だが息がまるで合っていない。目指す方向に速さ、何もかもがバラバラだ。


 更に滑り易く支えが不安定な事と先輩達の身体能力が生き物とは思えない程に高い事、そして全面的に海で目印がなせいで先輩達に息がバラバラな自覚が無く、収拾が付かなくなっている。

 その様は天変地異、セルフカリュブディス状態だ。


「……コアさん、どうするこれ?」

「……どうしましょうか、ゼンさん?」

「……ここで俺に振るのか?」


 コアさんがサボる事に関しては世間的に絶対的な定評があるゼンに解決策を求めるくらいには絶望的な状況に陥っている。

 これでは何時まで経っても進まない。ダンジョン調査どころでは無い。


 だが、そこに一筋の光が差した。

 もしくは深き暗闇の入り口が……。


 果ての海まで轟きそうな凄まじい爆音。

 波を平らげる程の衝撃波。

 それがピンク風船の先端、松茸の角から解き放たれた。


 あまりに激しい動きにピンク風船が耐え切れず、破裂したのだ。


 先輩達は幸か不幸か散り散りに吹き飛ばされる。

 悪化し続ける状況は一先ず終結し、新たに個別に溺れる案件へと変化した。一応は始めの状況よりかは良い状況に収まっている。

 激しく溺れている人もいるが、巻き込んではいないし良い方向には違いない、きっと。


「コンドー●裂けてんじゃねぇか! しかも一番破けちゃいけねぇところから!」

「チクショー、ダンボール買いしたのに!」

「いや乱暴に扱うからだ! この“バッタもん特製万能コン●ーム”には何の非も無い!」

「いや、だから、一番駄目な、ところから、裂けてん、ぞぉ!」

「不可抗力だぁーーー! この子は悪くない!」

「何でレオンはその●ンドームを庇うんだ?」


 少なくとも見た様子だと、喧嘩する余裕は有るから大丈夫だろう。

 長期的に見たら絶望的に深刻な状態だが、一刻を争う程では無い。

 先輩達の力量からすれば溺れていようと一月は持ちそうだ。


 しかしこのままと言う訳にはいかない。


「お、おい誰か、普通に船、持ってないのかぁばば!?」

「ぶぶぶ、まばべべくばふぁい(フフフ、任せてください)!」


 見事に沈んでいるロボットオタクな異世界転生(てんしょう)者トム先輩がアイテムボックスから取り出したのは近未来的なフォルムの戦艦、海よりも宇宙が似合いそうなメタリック船だ。

 それが大きな水飛沫を上げて空から着水する。

 そして派手な登場とは対象的に静かに沈んだ。


「うわァァァっッ!! 僕の、“エクスカリバー号”がぁ!! ブクブクブク……」

「ちょっ、お前も沈没してんじゃねぇよ!?」

「……氷山を砕き浅瀬も削り進む装甲、島を焼き切る魔力プラズマ砲、極めつけに合体変身機能まで搭載していたのに何で……」


 沈没原因は簡単。

 あれが船では無かったからだ。

 視ると船要素は形しか無い。中身は完全に変形型ロボットであり、船として誰も議論しない程に大切な要素、基礎ですら無い浮力の事が全く考えられていなかった。

 駄目にも程がある。


 こんな先輩達では僕達が手を貸さないと選択肢は無い。


「……パパ、何か良い助け船は出せ無い?」

「助け船、普通の船なら持っているが……」

「ではそれでお願いします」

「まあ、やるだけやってみよう」


 ゼンは何百人も優に乗れるだろう瓶入りの巨大な全装帆船を取り出した。

 そして瓶を透過させ全装帆船を海に投下する。


 高い位置から落とした事で一度海に潜り大きな水飛沫を上げるが、この全装帆船はしっかり海上に浮上した。

 見事な船だ。太く高い一本のトレントを削り造られた三本のマストは頼もしく王者の威容を持ち、軽やかに見えて頑強な船体は幾つもの砲台を持ち最前線を行き続ける砦のようだ。


「うおっ、急に船が!?」

「何でもいい、兎に角上がれ! 野郎共、海賊船だったらそのまま略奪しろぉ!」

「ウオォオオオオオっッ!!」


 海賊船も震え上がる様な様相に物騒な物言いまで足して、物凄い勢いで先輩達は船に上がる。


「おっ! 誰も居ないぞ!」

「はあぁぁ……足場がある、やっと一息つける」

「やった、生きてる……」


 さっきまでの威勢はどこへやら、船に着いて状況を確認すると先輩達は崩れるように座り込む。

 流石の先輩達もあの状況は限界が近かったらしい。

 間に合って良かった。これで僕達も一安心かな。船さえ有れば次の転移門まで辿り着ける筈だ。


「パイレーツ・オブ・カスピアンに出てきそうな立派な船だな」

「カスピアン? アラビアンじゃなくて?」

「俺が見たのはパイレーツ・オブ・ペルシアンだったぞ」

「いやパイレーツ・オブ・アマゾンだろ?」

「確かインディアンだぞ」

「パイレーツ・オブ・パシフィシャンだったと思うけど?」

「ん? それなら俺は全部見たぞ。シリーズ第一弾のパ●オーツ・オブ・カリビアンに、パイ●ーツ・オブ・カスピアン、確かシリーズを通して全ての海の美女が出演しているんだよな」

「イタル、お前に関しては絶対違うものの事を言ってるだろ」


 そんな話題に花を咲かせる位には余裕を持ち始めている。

 うんうん、これなら大丈夫だろう。

 万全な状態の先輩達ならゴール何てすぐそこだ。平らな海だから頑張れば転移門も見えるだろうし問題など存在しない。


 後は出発を待つのみである。


「と言うかお前ら本気か? 俺が観たのは確かにパイレーツ・オブ・アメリカンだったぞ?」

「俺も映画館でちゃんと観たよ。テレビで何度もやってたし」

「何でだ? もしかして俺達、実は違う世界の出身だったりするのか? 皆、日本人だよな?」

「当たり前だ。違う世界で国名が同じ何てそうそう有る訳無いだろう? しかもどう見ても人種が同じ、多少食い違っても話が合う、ここまで来たら名前のところだけ記憶違いしているだけだ」

「それもそうか」

「いやパラレルワールドって言う線もあるぞ」

「異世界が在るぐらいだし、パラレルワールドの一つや二つ、有り得そうだな」


 あれ、全然進もうとしない。

 まだ話に花を咲かせている。


 船を動かそうとしているのは会話が噛み合わなかったイタル先輩だけだ。

 そのイタル先輩はいつの間にか典型的な海賊のキャプテン衣装に身を包み、派手にぐるぐると舵を取っていた。

 尚、船は一歩も進んでいない。


 ここで初めて問題が発覚した。


「……パパ、あの船って魔導船?」

「……いや、残念ながら実物大ボトルシップだな」

「……船としての機能の方は?」

「……拘ったから造りは本物の大型帆船に間違いない」


 そう、あの船は至って普通の大型帆船なのだ。

 そう、大型の帆船。

 工学的にも魔術的にも何の細工もない純然たる船。しかも大型。更に見た感じ操作が複雑そうな全装帆船。

 素人がそう簡単に操船出来る筈が無い。


 そして最悪な事に帆船に一番必要な風が無かった。

 詳しく言うと一方方向の強い風が無い。在るのはバラバラな短い風だけ。

 平坦な海しか無い、太陽すらないダンジョン内では風が発生し難いのだ。


 これでは船が進む訳無い。

 風属性の魔術でも使えばどうとでもなるのであろうが、完全に初心者な先輩達は思い至ってもいない。


 と、思っていたら先輩達は船が動かない事に気が付いたようだ。


 ふう、気が付いたならその内風属性魔術で―――。


 ……あろう事か先輩達は着衣のまま海に飛び込んでゆく。

 ……せめて鎧ぐらいは脱いでおこうよ、必要無い時は何時も全裸になっているのに……。


 先輩達は船の後方に付き、バタ足を始めた。

 ……先輩達は、人力で船を押すことに決めたようだ……。

 船をビート板として扱う方針らしい。

 船を沈まない物としか捉えない人が居たとは……もう世界は広いって一言で片付けておこう。


 先輩達はレース用ボートも真っ青な速さで加速して行く。

 船頭の角度が速さの余り上がって行く。木造でも大型、更に無数に砲台完備、それを浮かせるって一体……。


 そして遂に船は海面を離れた。

 先輩達も船に引っ張られ離陸、なし崩し的に水面を走り出した。

 もはや船に船としての役割は欠片もない。ただ持ち上げられている大荷物だ。


 ……船って、何だっけ?


「クハハハハッッ!! 全速前進!!」


 相変わらず舵を適当に回しながら、自分が操船していると思い込んでいるイタル先輩の呑気さが、今は羨ましい。



「イタル先輩達に調査してもらうのは諦めようか」

「それが賢明だとわたくしも思います」


 このままイタル先輩達に任せても、今までの様子からして誰も真似しない、真似出来ない方法で攻略して行くだろう。

 それではイタル先輩達が直接調査をしている訳では無くても、上手く調査する事が出来ない。イタル先輩達の行動からダンジョンの事を僕達が分析しているのだから当然だ。

 狂っている測定器は使い物にならない。


「また調査してくれる人を探さなくちゃね」

「性格的にも実力的にも問題無い方を探さなければなりませんね」

「「はぁ……」」


 さっきはゼンの紹介が有ったから特に選定はしなかったが、今度は自分達で見つけ出す必要がある。


 またゼンを頼るのは適策では無いだろう。よくよく考えれば世界神は人から遥かに遠き存在。元人間だったとしても頂点の一角に昇り詰めた人が普通な訳ない。

 加えて今更ながら大多数の世界神は特徴の一つとして、偏った思想を持っている。その思想を、誰もが妥協してしまうような思想を貫き通して一つの理想郷を実現させている人達だ。


 普通、人々はその世界の神、創造神や起源神などを信仰する。

 されどもその神は、それ故に他の世界ではまず信仰されない。

 その世界を守護する神、その民を守護する神が円も縁も無い人々に信仰される方がおかしい。まず他世界と触れる事すら稀なのだから、内からも外からも動機は生じ無いだろう。

 そしてその教えは大抵がどこの世界でも同じだ。どれも法を上回る程度の理想、つまり倫理観と秩序だ。


 だからこそ世界神は世界を越えて信仰される。

 彼らの教えは唯一無二。他の神に司られる事の無い祈りの全てが彼らに向く。しかも片寄った思想を放さない者の強き覚悟に似た祈りが。

 同一世界で大勢に祈られなくとも、その世界に数人いるだけで比類無き祈りが向かう。寧ろ大勢居ないからこそ、その世界に新たな神格は生まれない。

 そんな唯一無二が世界神だ。


 まあつまり、普通じゃない人の最果てに世界神はいる。


 神に届く英雄を紹介してもらうなら適任であるが、そこそこ実力もある普通の人を紹介してもらうには適任とは言え無い。


 誰にでも使えるかも知れない縁結びの種を調べているのだから、ここで求めていたのは一般的な感性を持つ人だ。

 飛び切り特殊な超人は求めていない。


「普通の人を勝手にダンジョンに放り込むのは気が引けるよね?」

「そうですね。それこそいきなり海で溺れてしまう危険が有りますし、そもそも普通かどうかの判断もできませんしね」

「丁度いい実力の人を送り込むって難しいね」


 そんな相談をしていると、ゼンが助け舟を出してくれた。

 今度は本物の助け舟だ。


「だったら、冒険者ギルドに依頼を出すってのはどうだ?」

「冒険者ギルドってあの?」

「ああ、冒険者ギルドに依頼を出したら自己責任で、丁度良い実力の人が来ると思うぞ」


 その助け舟とは冒険者ギルド。

 あの冒険者ギルドだ。


「そう言えばダンジョンと言えば冒険者でしたね」

「何で気が付かなかったんだろ」


 冒険者ギルド、それは危険を切り開く冒険者の集うところ。

 数多の英雄が生まれる最上の舞台。

 大半の英雄がここに所属する。


 僕の憧れの場所の一つだ。


「都会に出たら必ず行こうと思っていたのに、色々有りすぎてすっかり忘れていたよ」

わたくし達にとっては全てが冒険でしたからね。これは冒険者ギルドで依頼を出すと言う事で決定ですかね?」

「勿論だよ」


 僕は力強く即答する。

 見ればコアさんの顔は夢に輝いていた。きっと僕も同じような表情をしているのだろう。

 他の人から見たら田舎者丸出しだ。ゼンが微笑ましくこちらを見ている。


 それが可笑しくって、それでも嬉しくって、何より共感できて、僕達はどちらからとも無く笑い合った。


「「いざ、冒険者ギルドへ!」」


 そして僕達は目的地を冒険者ギルドに定めるのだった。


 まあ、冒険者に成りたいとかじゃなくて、依頼を出しに行くだけなんだけどね。





 《用語解説》

 ・バッタもん特製万能コ●ドーム

 謎の自称未来で造られた子育て用バッタ型ホムンクルスの【バッタもん】が開発した避妊具。使い方は通常のコンド●ムと変わらない。

 ただし特殊性能が搭載されており、どんなサイズ形にも対応可能。風船よりも膨らむ。さらに超極薄でしていないような感触、自動ローション機能や偽装機能が付いている。

 ただし致命的な欠陥として先端が弱い。中からの強めの圧力に対しては強いのだが、先端は外からの圧力に弱く、大きく揺らしただけでも裂ける可能性がある。


 尚、飛ぶように売れているが、何故か一度も本番に使われた事が無い。

 多分、アンミール学園の生徒は純粋で清らかなお付き合いしかしないのだろう、きっと、おそらく、そう言う事にしておこう。

 それによって欠陥はまだ気付かれていない。誰か気が付いてくれる日は来るのだろうか?



 ・エクスカリバー号

 海にゴミを投棄するのは止めましょう!


 守ろう! 綺麗な海!

 守ろう! 海の生き物たち!



 ・実物大ボトルシップ

 平穏教主神ゼンの造ったボトルシップ。ゼンがボトルシップにハマっていた時期に造船した。

 構造は何処に出しても恥ずかしく無い本物の船そのもの。しかも最大級な木造全装帆船。砲台や内装もしっかり造られていられる。

 これを造る過程でゼンは〈造船〉スキルを獲得したと言う。それ程までに趣味に力を入れ造り上げた。


 その後、ボトルの中とは言え、実物大では通常の造船と何も変わらない事に、ボトルシップの意味がほぼ無い事に気が付き、アイテムボックスの奥深くに放り込んでいた。

 因みに違う型の実物大ボトルシップが全部で五百隻以上有る。


 尚、造る上で一番難点だったのはボトルの方である。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

次回も進められればダンジョン攻略(冒険者)になる予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ