表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第3章〈アンミール学園の新入生イベント〉あるいは〈完全縁結びダンジョンの謎〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/103

第四十六話 アークの魔力測定あるいは薬作り

投稿が遅くなりすみません。

それにも関わらず設定が多めです。温かい目で読んで頂けると幸いです。

 

 僕が龍玉に触れた瞬間、世界は一転した。 


 ……比喩抜きで……。


 龍玉の大爆砕。

 粒子よりも細かく、存在と言う存在の最小単位の記録を留めるのみにまで粉々、他は何もかも跡形もなく霧散し彼方まで飛び散った。


 続けて魔力測定器と同化していた術式、設備の大爆砕。

 要の龍玉同様に、その近くから霧散し飛び散る。

 まるで花火が連続して打ち上げ続けられるように、花咲ように粉砕された存在の軌跡、ガラスのような光の粒子が拡がって行く。


 そして軌跡の中から魔力測定器に流れ込んでいた僕の魔力が姿を現した。


 それは無限の世界。

 あるいは無限の可能性。

 もしくは無限そのもの。


 そんな留まる事を知らない輝きだった。

 花弁のように解き放たれる一片一片には、あらゆる光景が映されている。

 それはただ望めば確定する未来の姿。


 魔力である筈なのに、まるで魔法のようだ。

 それも想像を超える全能の意味での魔法。


 それがこれまた花開くように解き放たれ、幾重にも開き拡がってゆく。


 その光に照らされた地は例外なく新緑の芽吹きと花に覆われ、絶対的な封印手段である無数の結界も砕け花弁へと変わる。


 そして世は光に満たされた。

 豊穣の光に。

 続けて世は新たに彩られた。

 僕の魔力に、新たなる無限の可能性に。


 果まで僕の力が浸透してゆく。


 その光景は新たなる日の出。

 ただし昇るのはここから。

 僕の力が太陽に変わり、世に新たなる朝を与えている。


 今この時、また、世は新たな時代を確かに迎えた。



「…………コアさん、綺麗な光景だね。これが一歩踏み出した先に見える未来ってやつかな……」 


 僕は最果てを望みながらそう呟く。

 ……最果てまでもが僕の力に包まれている。

 最果てにも目を逸らす場所が無いってどう言う事だろうか?

 まあ最果てって、僕の村だけども……。


 コアさんは僕の方に呆れた視線を向けながら応える。

 既にコアさんは僕に驚きを向けないようだ。

 一体僕を何だと思っているのか問い質したいが、答えが聞きたくないから聞けない。


「……一歩踏み出して真の意味で未来を生み出さないでください……どこをどうしたらこんな事になるのですか? まだ爆砕し過ぎて焼け野原になった方が穏やかに思えますよ?」

「タッチしただけだよ……」


 本当に僕はただ魔力測定器に触れただけ、ただ魔力測定をしただけだ。

 しかし世を包み込んだのは間違いなく僕の魔力。

 つまりこれは、魔力測定器が受け止めきれなかった僕の魔力が、外に漏れ出したと言う事だ。


 コアさんもそれが解っているから僕に聞きつつも、話を先に進める。

 初めから僕の釈明は求めていなかったらしい。

 文句を言いたかっただけのようだ。


「……マスターの魔力量はどれだけ規格外なのですか? そしてあの色、一体何属性なのですか?」

「……ステータス通りじゃないかな?」

「どう視てもそんなレベルじゃないですよね……それにあれがマスターの魔力だという事は確実なのですから」


 コアさんにそう言われるが、僕としてはステータス通りとしか答えられない。

 僕だって、いや僕の方が呆れが強いコアさんと違って自分の魔力に驚いているのだから。

 僕の知っている自分の魔力情報はステータスだけだ。


「あっ、でも本当にステータスの値は高いけどそこまでじゃなかったよね?」

「言っていなかったかも知れませんがわたくしの鑑定は、神代の国家を鑑定する大秘宝で行っていますからね? スキルレベルのように特定の値しか無いものは正しいとしても、能力値は恐らく鑑定対象、つまり単位が違うのだと思います……」

「……もっと早く言ってよ」

「……対象が明らかに違うのに使えたので、単位も同じかと思っていました」


 と言うことらしい。

 僕の魔力量は想定もしていなかった異常事態だったようだ。

 確かに、魔力が千以上あったらそれくらいだと思うよね。

 一万以上の魔力は一般的な測定器を壊せるぐらいだから、千あればそこで自分の上限だと納得してしまう。湖を見て小さいと思う人が居ても、海を見て思ったよりも小さいと思う人が居ないのと同じような理屈だ。


「そう言えばマスター、この前も膨大過ぎる魔力を出していましたよね? 自覚は無かったのですか?」

「膨大過ぎる魔力? そんなの出したっけ?」

「……一欠片も自覚が無いようですね」


 そう言えばそもそも僕は、魔力を本気で使った事が無いかも知れない。

 自分の中での循環、自分の創った空間を満たしたりはしているが、外に向けて使ったと言う程魔力を消費した事は無い。

 単純にそんなに魔力を使う手段を僕は持たないからだ。大抵の事は魔力を使わなくともただ望むだけで事足りる。

 魔力を使う時もほんの少しで済むし。


「今まで気が付かなかったよ。まさか僕にこんな魔力が有ったなんて。平均よりは多いなくらいにしか思っていなかったよ。

 田舎者は魔力が多いとかあるのかな? 田舎は自然の魔力に溢れているし?」

「……そんな簡単に、暢気に済ませられる量じゃありませんよ?」

「いや、結局魔力がいくら有っても使う方法が無いから。そこまで重要な事じゃないかなって? ……最近は魔術を使うと眷属になっちゃうしね」

「……確かに、多くの眷属を生み出せるからと言って、いい事はありませんね……」


 驚愕、唖然などに続き、僕達は少し沈んだ気持ちになった。

 魔力測定で判明する力に対する喜びはどこに行ったのだろうか?

 魔力量に関してだけは真に英雄と同じ舞台に降り立った筈なのに、何故か喜べない。

 喜びは、始まりが肝心なのかも知れない。始めで喜ぶには衝撃が強すぎたようだ。


 少し明るい話題に変えよう。


「そう言えば、僕の魔法属性って何だろう?」

「色云々どころではありませんでしたからね。何故か世界のようなものが投影されていましたし、これに関してはステータス通りなのでは?」

「〈時空間〉と〈世界ダンジョン〉? 確かに反応の見た目通りかもね」


 そもそも僕のステータス以外で〈時空間〉と言う属性も、〈世界ダンジョン〉と言う属性も聞いたことがない。

 似たような名前で〈時属性魔法〉〈空間属性魔法〉と言うのがあるが、確か魔力測定器の示す色は紫色と灰色だ。

 しかし、あそこまでハッキリと新たなる空間、世界らしきものが出てきたらまず間違いないのだろう。


 鑑定自体についても、鑑定対象が違ったところで選択肢がないし。


「それにしてもこれまた変わった属性ですね。変わっている以前にも魔法適性は普通ステータス上で〈●●属性魔法〉と表示される筈なのですが?」

「単にコアさんの鑑定の規格が違うからじゃないの? 国家とか集団を鑑定したらほぼ確実に〈全属性魔法〉としか出なさそうだし」

「それもそうですね。でしたら、わたくしが鑑定する前は村長さんに鑑定してもらっていたらしいですが、その時はどのような結果が出たのですか? そちらの結果の方が真に迫っているのでは?」


 コアさんが今は常に鑑定してくれるから忘れていたが、僕のステータスの表示にはもう一つある。

 村長が解析してくれたものだ。

 鑑定ではなく解析して割り出したものらしいが、元から僕を対象にして調べた結果だ。

 コアさんの鑑定よりも真に迫っているかも知れない。


「あっ、確かにそうだね。でも、コアさんに鑑定してもらったのと変わらないかも」


 しかし思い出してみると違いはほぼ無い。

 能力値が数字の羅列だった以外は特に変わったところは無かった。

 と言う事はコアさんの鑑定にほぼ間違いはないのだろう。変な属性だとしてもそれは僕の魔法適性で間違い無い。

 事実、僕の知る魔力測定器のどの反応とも違ったし。


「そうなると基本六属性が統合し〈全属性魔法〉に、覚醒して〈全魔法〉、更に覚醒して〈全属性魔導〉になるように変化を遂げた属性と言う事ですかね?」

「なるほど、僕は魔術が得意じゃないけど適性はあるみたいに微妙だからかもね。魔法とすら付いていないし」

「その割には派手すぎる結果を幾つも見た気がするのですが……」


 コアさんはそう言うが僕は魔術が得意ではない。

 と言うかあまり使わないし使う機会も、使おうと思う事もあまり無い。

 生活魔法程度ならばそこそこ使うが、基本村の皆がやってくれたし今は眷属がやってくれる。

 それ以前に望むだけで大抵のことは魔術を使うまでも無く解決する。


 そして僕が自分からしたいと思う事は殆どが植物関係。

 魔術は一切必要ない。

 それこそ望むだけで万事成就する。

 精々オマケとして置き場所の空間確保や、植物の四季を急成長では無く風情に少し合わせて時間を操作する事ぐらいしかしていない。


 あっ、これが〈時空間〉を持つようになった理由かな?


「コアさん、僕は魔術で派手なことなんかしたことないよ。そもそも僕は誰でも知っているような魔術しか使えないし。コアさんとは違って“ファイヤボール”とか“サンダーボルト”みたいなのしか使えないよ?」

「ん? それ〈火属性魔法〉と〈雷属性魔法〉ではありませんか? 雷属性にしては稀少な上位属性ですし、何故使えるのですか?」

「そう言えばステータスに無いのに何でだろうね? その程度の魔術なら生活魔法みたいに属性関係なく使えるんじゃないのかな? 現に僕は使えているし」


 考えてみれば不思議だが、現実として僕が魔法適性無くとも普通に使えているからそんな感じの答えだろう。


「確かに使えている以上はそのような理由なのでしょうね。それこそ生活魔法の原理と同じかも知れませんね」

「“ファイヤボール”は物凄く使われているだろうしね。ステータスの原理から考えても当然かも」

「そうですね。よく考えれば当然ですね」


 僕達はそんな風に結論付ける。


「そんな訳ないでしょう……」


 気が付けば何時の間にか隣に来ていたアンミールお婆ちゃん。


「何か言った?」

「いえ何も。測定が終わったのならば速やかに去ってのんびりしていてください」


 何だか疲れた様子をしている。

 しかも精神的にだけではなく体力的にも消耗している。

 魔力測定を張り切り過ぎて疲れちゃったのかな?

 そして何かがやっと終わったとホッとした様子も見せている。

 きっと、僕の魔力測定が無事に終わってホッとしているのだろう。


「アンミールお婆ちゃん、疲れているみたいだからこれ食べなよ? もう、歳なんだから張り切り過ぎちゃ駄目だよ?」

「……誰のせいだと思っているのですか……」


 何故か怒られた。

 歳の事を言ったから怒っちゃったのかな?


 しかし僕の渡した果物セットを受け取って満足そうに食べている。

 消耗もすぐに全快、お肌すべすべのオマケ付きだ。


 ついでにチャンバラごっこを本気でして消耗してしまっている親族の皆にも果物セットを渡す。

 皆も何故かホッと一安心。

 何にしろこれで全て一件落着、また落ち着いた生活に戻れそうだ。


「待ってくださいマスター、わたくしはまだ魔力測定をしていません」


「あっ」

「「「「「あっ!!」」」」」


 何故かここで声を一つにする皆。

 一様に顔色を青ざめさせて冷や汗を滝のように流し始める。


 そんな光景に気が付いていない鈍感なコアさんは何時の間にか修復していた魔力測定器の前に。


「「「「「待っ!!!!」」」」」


 何の躊躇も無くタッチする。


 途端、僕の時と同じように粉砕する魔力測定器に溢れ出す魔力。

 具現化する壮大なダンジョンの幻影。


「「「「「アァァァァァァァァァァァッッッ!!!!」」」」」


 現実干渉能力すら併せ持つそれを慌てて押し留める親族達。


 収まった頃には、大嵐が魚市場を通り過ぎたかのような光景が広がっていた。

 ピクんピクんと口もパクパク、陸に上がった魚のようになってしまったのは勿論親族の皆だ。


 取り敢えず一言。


「……コアさんも魔力多いいね」

「……ダンジョンですからね。そんな事よりも、この状況を何とかしましょう……」


 やはり僕達は、規格外の力を持っていても喜べない運命の下にいるのかも知れない。



 僕達はゴリゴリと薬草をすり潰しで行く。


 凄まじく消耗してしまったみんなの為に回復薬を作ることにしたのだ。

 果物だけでは流石に足りなさそうだし、薬屋さんも直撃はしていないものの休業中。そして材料になる薬草は全て育てているものの、回復薬そのものは使い道も無かったから持っていない。

 それ故の製薬作業だ。


「コアさん、薬ってどうすれば作れるのかな?」

「……知らずに薬草をすり潰していたのですか?」

「一応下準備ぐらいはしておこうかな〜って。それよりもほらっ、コアさんはエリクサーとかが置いてあるダンジョンでしょう? 凄いよく効く回復薬の作り方、知らない?」


 ダンジョンに必ずと言ってもいい程、宝箱などに入っているのが回復薬だ。


 回復薬は全ての層の人が求めるもの。 

 幾ら強力な武器であろうと使い手は限られ、求める者は一部だけ。よって買い手も選ばれ挑戦者が真に命をかける場合は少ない。一攫千金の価値のある武器でも資金を持つ購入者が現れるとは限らないからだ。

 よって普遍的な価値を考える場合、武器であっても万人受けする要素、使い易さ等が必要であり、手に入れてさえいれば誰でも身に着けられる宝石の方が実用性が無くとも価値がある。

 人は武器よりも宝石を求める事だろう。


 回復薬は宝石よりも求める者の範囲が圧倒的に広い。

 誰もが持つ普遍、命と直結するからだ。

 回復薬は傷を治し病を癒し、貧民から王侯貴族まで生きとし生けるもの者全てが求める。

 ダンジョンに挑む者の安全性も確保される。


 価値のあるものを求めて人は集まる。

 ある者は収益を求めて、ある者は癒しを求めて、ある者はそこにしか無いものを求めて。

 貴賤種族関係なしに人は集まる。

 つまり、集客するのにピッタリだからまともなダンジョンならば必ず回復薬がある。


 そしてダンジョンに回復薬があるという事は、ダンジョンに、コアさんに用意出来るという事だ。

 きっと作り方を知っている筈。


「ダンジョンに設置されている薬は手作業で作ったものではありません」


 しかしコアさんは作り方を知らないらしい。

 そもそも手作りでは無いようだ。

 あれ? おかしいな? 節約ダンジョン系の物語にもよく薬や武器を手作りするダンジョンマスターが出てくるのに。


「知識が偏っていますよ? そんなダンジョンマスターはごく一部です。

 ダンジョン内に存在する薬の大部分は所有者の存在しないものを回収したものや、魔術的な方法で作ったものです。ダンジョンの生成物から作られた薬が持ち込まれた時に解析してその構成だけを生成、つまり使われた材料の段階は飛ばして直接作っています。なので残念ながら一からの薬作りはわたくしの専門外です。

 マスターこそ植物全般は得意分野では?」

「得意分野だけど基本育てる専門だから。それに僕の村では薬なんか必要ないし。木工とかならできるんだけどね。

 じゃあコアさん、製薬の本とかは持っていないの?」

「ああ、それなら確かありますよ。少々お待ちください」


 暫くするとコアさんは虚空から数冊の本を取り出した。

 本人は製薬方法を知らなくても、本自体は意外と持っていたらしい。


 僕達はパラパラと本を捲る。

 そして判明する。


「コアさん、ここに書いてある材料、持っていないんだけど?」

「マスターが持っているのは全て上位種のようですね」


 そう、本通りの薬草がなかったのだ。


 そして重大な問題が一つ。


「僕、植物以外の薬の材料なんか持っていないよ? きのこと海藻ならどうとでもなるけど、コアさんは?」

わたくしも所持しておりません。と言うよりも生物由来のものは全般的に持っておりません」


 薬の材料は思いの外、植物以外のものが多かったのだ。

 効き目のありそうなレシピ程、植物以外に必要なものが多い。フェニックスの羽や龍の鱗、妖精の鱗粉等だ。

 似たようなものなら沢山持っているが、田舎のものなので宛にならない。都会の物語通りの代物は当然一つも持っていない。


「賢者の石と言ったものならば魔術でも生み出せるのですが、いっそ魔術でエリクサーの作成を目指してみますか?」

「いや、眷属の数が凄いことになりそうだから止めておこう。取り敢えず薬作りの過程は解ったから適当に薬草を混ぜてみよう? 多分同じ手順を踏んで大量の薬草を使えば何とかなるんじゃないかな?」

「何とかなりますかね? 成功する予感が全くしないのですが?」


 コアさんはそう言ったが、結局代案が無かったので薬作りを自己流で行うことにした。


 煎じたり、乾かしたり、茹でたり、漬け込んだり、蒸留したり。

 すり潰すだけだった製薬方法が本のおかげで増えた。

 うん、何だか薬が出来そうな気がする。


「えーと、苦い薬よりもやっぱり少しは美味しい薬の方が良いよね。身体に良い果物は、仙桃に黄金林檎、モグモグ、品種はどれにしようか? シャクシャク、全部で良いかな?」

「……薬作る気、本当にあります?」

「ムシャムシャ、ゴクン、あるよ?」


 何故かコアさんに苦情を言われたが、気にせずに製薬を続ける。

 仙桃や神桃、黄金林檎を調合用の鍋に放り込む。

 因みに調合用の鍋は“金忌の黄金都市”の黄金を再現した金で作ったものだ。何故か薬の材料に金の記述が多かったからやってみた。

 あくまでそれっぽくしてみただけだが、雰囲気と言う物も大切だ。


「本当に薬を作るやる気あります? ただ材料を投げ込むのは手抜きだと思うのですが? ついでに何故普通に〈金属性魔法〉を使っているのですかね?」

「いや、やっぱり果物は生が一番美味しいかな〜って。金属性魔法については弱いのなら普通に使えるよ。魔術ですら無い力の行使だし、田舎は流行が入るのが遅いからね」

「……流行……」


 〈金属性魔法〉を使える事についてコアさんが疑問に思うのは、金属性が封印された属性だからだろうが、僕には他の魔術と同じように使える。それも金貨や貴金属を対価に捧げるまでもなく普通に使える。

 何故なら単純に僕に対しては何の規制も封印もされていないからだ。

 都会の人も金属性の適性を見て驚いたりしていたがなんて事は無い。本当に田舎者だからこうなっているだけである。世間の流れが伝わりにくいのだ。


 村長も『アークには関係無いですよ』と言っていたから間違い無い筈だ。


 しかしコアさんは納得がいかないらしい。


「コアさんだってどうせ〈金属性魔法〉、使えるんでしょう?」

「そりゃあこれでもあの“ダンジョン”ですから、恐らくそこらの誰よりも使えますが……」


 やはりコアさんは金属性の魔術を使えるらしいが、そもそも存在的に金を出すのが得意だから共感は出来ないらしい。

 確かにダンジョンにはお宝として金銀財宝がザクザクしているイメージがあるから、人とは一線を画した金属性の適性でもあるのだろう。


 だが僕の知る物語のダンジョンマスターやダンジョンコアに金属性持ちはいない。

 結局のところ、コアさんが田舎の流行に遅れたダンジョンだからこそ、〈金属性魔法〉が使えるのだと思う。


「やっぱり田舎は流行が来るのが遅いんだよ。特に僕達の田舎は最果てだからね。

 ところでコアさん、薬作りに戻るけど、水銀は使った方が良いかな? 何故かこれも薬の材料に書いてあるんだよね?」

「素人が手を出すのは止めておきましょう。薬は薬でも毒薬が出来てしまいます」


 そんなこんなで製薬作業は続く。


 命の水を注いで、神水を注いで。

 何事にも水は大切だよね。

 薬草っぽいものは全部すり潰し、乾燥、蒸留液、各種工程で加工したものをそれぞれ入れてと。

 どの工程が一番正解か判らなかったら全部やってみるに限るよね。

 ついでにハーブも入れてと。


 あとは、キノコも入れてみよう。

 キノコは植物と共生関係のものが多いいから僕は植物と同じようにキノコを育て生み出す事が出来る。


 さて、キノコは何が良いだろうか?

 サルノコシカケ系のものでも入れてみようかな?

 世界樹に生える“巨人の腰掛”、これまた世界樹、ユグドラシル種に生える“第十世界”、聖木に生える“神の座”、神木に生える“神の玉座”。


 他には冬虫夏草っぽいものも入れておこう。

 生えてるのが虫じゃなくても多分良いよね?

 とは言っても植物と違いキノコは栄養源が同じじゃないと僕には栽培出来ないから、そんなに特殊なのは持っていない。

 うっかり外に出していた“神の残骸”とか“世界の残骸”、貰った素材から生えていたものだが、多分使えはする筈だ。


 あとは木の類も使おう。

 “原初藤の樹液”、“生命の木の雫”、“知恵の木の枝”。

 月桂樹も使えそうだ。ダフネ種アポロン種を全部入れてと、ついでに異世界の聖木も使えそうなのは全部投入。


「マスター、本当に大丈夫ですか!? 薬云々以前に光りだしたのですが!? 凄まじい光が溢れていますが!?」

「パリパリ、大丈夫、一応食べられないものは入れていないから、はむはむモグモグ」


 何時の間にかコアさんは混ぜる担当に。

 見れば黄金の鍋が太陽の如く輝いていた。溢れ出した力持つ光が行き場を失い神々しい光のベールを生み出す程だ。

 予想外の光景だが、まあ綺麗だし問題ないだろう。化学反応とも違い安定化し収まらなくなったエネルギーでは無く、新たに調和して生み出した光だから存在が高まっているし、寧ろ成功に近付いている証拠だと思う。


「食べながら言われても信用できないのですが!? 本当に変なもの入れていませんよね!?」

「モシャモシャ、全部味見した品種だから大丈夫だよ。胃の中に入ったら調合と同じようなものだし、僕が食べて何ともないんだから大丈夫、カリカリふむふむ」

「さっきから何か口に入れていると思ったら、全種類味見していたのですね……」

「コアさんも食べなよ? この棗、美味しいよ?」

「もう良いです…頂きます」



 吹っ切れたコアさんも本格的に作業に加わり、製薬作業は凄い速さで進んで行った。

 調合した植物の数は僕達が史上最高かも知れない。


 そして出来上がった、いや出来てしまった。


「……茶色だね」

「……茶色ですね」


 太陽のようであった、太陽すらも照らすような神々しい光は見る影も無く、茶色い粘り気のあるどろりとした液体が黄金の鍋に満たされていた。


 どうやら色々と混ぜ過ぎてしまったらしい。

 新たに素材を付け足す事で何度も修正を試みたが、全ては無駄に終わった。

 何を入れても呑み込まれ一体化。茶色の液体が増えるだけ。

 つまりこれが終着物、植物調合の果てだ。


「……良い香りだね」

「……良い香りですね」


 しかしその混ぜ合わせた植物の力、薬効は健在。

 そう確信させられる素晴らしき香り。

 芳しい上品で優しい芳香とは一線を画す、全ての生命を目覚めさせ覚醒させるような刺激的で、活力を与え満たすような力ある香りが、僕達の周囲に漂っていた。


 僕なら嗅いだだけで元気になれるような香りだ。


 恐らくそう言う意味では、薬として、成功ではあるのだろう。


 しかし…………。


「……食べられるね」

「……食べられますね」


 それは誰から見ても食材、食べ物。


 そう、それは…………。


「……カレーだね」

「……カレーですね」


 どう見てもカレーであった。


 植物調合の果てには、カレーが待っているらしい。


 僕達は今日、どうでもいい真理を解き明かしたのだった。





 《用語解説》

 ・魔力測定器

 魔力を測定する魔法道具。

 触れる事で発光し、触れた者の魔力量を光の強さで、魔法属性を光の色で示す。

 ギルドカードの次に最も広く一般にも使われる魔法道具である。


 材料は水晶で外見は普通の水晶球。

 発光の術式と魔力を循環させる術式が刻まれているだけの極めて簡単な構造をしている。電気回路に例えると豆電球と導線、それだけである。

 なので結構いい加減。結果も強さに関しては明確な基準が無いので判りにくい。あくまで基準の一つとしてしか使えない。


 しかし発光の術式までも現代では魔術としては使われない効率の悪い雑なものを採用しているので、低くはいくらでも誤魔化せるが、高くは誤魔化せない。

 魔力には質があり、使うと意識していない純粋な質の魔力、循環している魔力しか発光させる事が出来ないからだ。

 その為、測定値の正確さは霞む程の信用はある。そもそも魔力を低く見せる者はまず居らず、魔力の属性と魔力量の高低を観るのには十分だからだ。特に公での才能の持ち主を探すという目的には対しては素晴らしい効果を発揮する。

 寧ろ改良版は魔力を全て出し切らなければいけなかったり、やろうと思えば容易に上限を誤魔化せるたりする。



 ・至高理想の魔力測定玉

 魔力測定器の中で現在最も高スペックを持つ魔力測定器。

 理論素材共に現在これを超えるものを造ることは出来ない。


 しかし使われている術式自体は通常の魔力測定器と同じく、発光と循環の術式だけ。術式の強度と耐久値は比べるまでもなく非常に極限まで高いが、他に特殊な術式は無い。

 つまり通常の魔力測定器と比べて測定幅が遥かに高いこと以外は、普通の魔力測定器と同じものである。


 尚、その測定限界の数値は数字の羅列以外にあらゆる単位を用いても表すことの出来ない、事実上無限である。

 本来、世界全ての魔力を集めても、数多の世界から魔力を収集しても上限には届かない。

 世の理の中に存在する者にも、理を超越する者にもそんな魔力は無い。


 アークとコセルシアはそんな上限を容易に突破し、循環と発光の術式しか無い、暴走のしようがない単純な機構を単に魔力の多さだけで圧倒し、消失させた。

 特にアークに関しては測定玉の外側に築かれた真に堅牢無類の防壁を余波で突破し、世に魔力の残滓をばら撒いた。


 実はこの現象も魔力測定器特有の特徴で、測ろうと試みれば実用出来ないレベルの魔力を測定出来る。


 本来、強大過ぎる魔力、特に龍脈を超えるレペル以上の魔力は術式を破壊してしまう。つまり魔法式や魔術では利用できない。

 固有の術式が定まらない真なる意味での魔法、もしくは魔導と呼ばれる魔力の直接操作でしかまず使えない。ただの放出として外に出し切るのすら困難である。

 真の意味での魔法や魔導ではほぼ術者に依存し、仮に術式化しても他者には使用できない為、使用者を固定しない限り魔導具には転用できないのだ。

 よって大き過ぎる魔力は道具での測定が出来ない。


 しかしこの魔力測定器と言う魔法道具は循環と発光と言う限りなく最小限の術式、それ以上壊れ用の無いものしか無い為に、更に消費ではなく別のルートで循環させるのがメインの術式なので魔力が流れやすく非常に多くの魔力を測定する事ができる。

 ほぼ一本道の術式なので式の強度強化も簡単。

 この種の魔法道具は上限に関しての不利がほぼ無いのだ。


 そしてアーク達による魔力の大量放出はこれらの事が関与している。


 アーク達の魔力は莫大とも言い表せられない程多い為に、そもそもこれ程の量が外に出る事自体無い。

 幾多もの世界を創造する強大な魔法でも、アーク達は改良最適化し最も効率の良いものを自然と使うからだ。魔力の質もあらゆる面において至高に位置し、常人が数万の魔力を使い発動する大魔法を一の魔力で数万回発動する事まで可能である。

 よって使おうと思ってもアーク達の魔力の大部分が外に現れる事は無い。あってもそれは余波でしか無いのだ。アーク達も実は自分の魔力量を正確に理解していなかったりする。


 よって魔力測定時の魔力放出は魔力測定器の構造、循環術式あっての現象である。

 ただ流れ戻る道筋、擬似的な自身の拡張であったからこそアーク達の魔力は姿を表した。

 そして一部が循環し漏れ出ただけであるから、真に堅牢無類の防壁を突破した魔力でもアーク達の魔力の一部にしか過ぎない。


 尚、ほぼ唯一と言っていい魔力の放出方法であるこの魔力測定玉をアンミール達が作成したのは、危険性を解っていてもアークの望みを知っていたからである。

 アークの喜びと世界の安定を秤にかければ、安定など遥か上空に消えてゆくのだ。

 色々とあったがアンミール達は大変満足している。


 その浮かれのせいでコセルシアがタッチする可能性を完全に忘れていたが、何とか本格的な被害が出る前に防げたのでギリギリセーフである。



 ・金属性魔法

 封印された基本属性魔法。

 基本属性魔法とは現在、火、水、土、風の四属性と光、闇の二属性の六属性の魔法属性を指す。その基本属性に本来ならあった五属性目、そして七属性目にあたるのが金属性魔法である。

 原初の基本属性魔法は木を風、陽を光、陰を闇とした五行陰陽説に基づいていた。そう言う意味ではその三属性よりも正当な基本属性でもあった。


 金属全般を司る属性で、非金属を貴金属に変える錬金術から金属加工、武器を硬め操る戦闘技術として非常に広く深く扱われていた。


 遥か太古の昔に起きた今は忘れ去られし“金忌”、現在は夢や希望、目標として語られる【金忌の黄金都市】にまつわる大事件によりステータスシステムを始めとした理から外され、封印された。

 人から魔物、果ては神々にいたるまで金属性魔法を扱えるものは居ないと言われる。

 世界神レベルの超越者、アークの親族達においてもそれは同様で、使えない者が圧倒的に多い。


 例外として他の魔法のように扱えるのは、【金忌の黄金都市】誕生以前の元々金属性魔法が使える者、そして【金忌の黄金都市】に関連する者達だけである。

 如何に天才であろうとも、如何に努力しようとも後天的に扱えるようになる事はまず無い。

 また金属性魔法を与える事のできる存在もそうしようとは思わない為に、稀少属性覚醒属性と数多くある魔法属性の中で最も使用者の少ないものとなっている。


 しかし一部の魔術を除き、完全に金属性魔法が使えない訳ではない。

 金貨を捧げ赦しを乞い願えば扱う事が誰でもできる。

 ただし対価には生み出せる金以上の金貨を捧げなければならず、銅貨を銀貨に変えるのに金貨一枚必要と、錬金術としては割に合わないようになっている。

 それでも金属加工には十分過ぎる程使え、更には金貨さえあれば魔力も使わずに済むので現在もある程度は使われている。


 尚、この発動にも当然ある程度の技量が必要であり、力を借りるだけなので制御が難しく通常の魔術よりも難しい。

 金貨を消費する為そう修行出来るものでも無く、達人レベルの者はまず居ないと思ったほうが良い。

 商人や貴族が自衛の為に多少使えるの程度である。


 因みにアーク達には金貨が無くとも当たり前のように使える。

 と言うよりも使えない魔法属性は固有属性を含めて存在しない。ステータスに書かれていないのは使えて当然の存在だからだ。人が〈呼吸〉スキルが無くとも呼吸出来るように、無くて出来て当然の存在なのである。

 そしてステータス表示も単位以外は何も間違っていない。それらに過剰な超越者である事を考慮して有り余るほどに秀でているだけだ。

 また植物関係の属性が無いのは既に表せないレベルで適性が有りすぎるからである。能力値の方の豊穣に混じっている。


 アークの魔法属性を強いて上げれば真の意味での、何でもありという名での魔法である。

 全てを実現させる力であるからこそ、魔力測定の色は無限の世界、無限の未来を示した。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

次話からはまた縁結びを再開する予定です。ですが流れに引っ張られ余計なとこを捨てられない性分なので、あまり期待はしないで頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ