第四十四話 アーク、魔力測定に行くあるいは世界の危機(?)
大幅に投稿が遅そくなって申し訳ありません。
水溜まりよりも深い諸事情、花見、新元号発表、親戚襲来、花見、花見、花見等々で遅れてしまいました。
「コアさん、どんな魔力測定が僕達には合っているのかな?」
魔力測定をやってみたいが、この学園には種類が多すぎてすぐさま行動には移せない。
そもそも普通は魔力測定に種類はないのだが、あるとそちらにも興味を牽かれてしまい中々選べないのだ。
選択肢があるのも考えものである。
だからまずはコアさんと相談する。
「私達に特殊な才能はありませんから、シンプルなものが一番ではないでしょうか?」
「確かに僕達には膨大な魔力も魔法適性もないからね。対象が決まっていて違ったら場違いだし、普通そうなところを探してみようか?」
「そうしましょう。それにそもそも、特定の目的のある魔力測定は目的を先に知っていては意味が無さそうですしね」
相談は早々にまとまり、方針は決まった。
コアさんは僕と同じで田舎者だから、相談相手としても一緒に行動する友達としても色々と助かる。
言い方を変えればだからこそ、僕の一部とは言え相談相手にも友達にも成れたのかも知れない。
そんなコアさんと協力して、ごく普通の魔力測定イベントを探すがこちらは中々見つからない。
どれも目を放せないものがあるから全て元から視ていたのだが、一見普通に見えても途中で目的が明らかになるものや、僕達がまだ理解できていなだけで何かしら目的のありそうなものが無数にあるからだ。
どう考えても特殊な魔力測定イベントが圧倒的に多く、普通に見えても何かあるんじゃないかと思えてくるし、特殊な方に気を取られたりして精神的にも探しにくい。
この学園の生徒は新入生の時点で物語の主人公のような人も多くて、偏った人達を対象にしているように見えても偶々の可能性も否定できないし、よく視れば視る程に判らなくなってくる。
そんな中で先に普通っぽいものを見つけたのはコアさん。
「マスター、あそこなんかは普通ではないですかね?」
コアさんの示す先には如何にも普通っぽい新入生が集まっている会場。
特に水晶球の爆砕も、特殊な属性の輝きも起きていない。
ステータスでそれらを確認しても極普通だ。
特殊な要素は確認できない。
「なんか逆に怪しくない?」
ただそれが不自然に思えてくる。
ここはあるゆる世界で原初に近い時代から今日まで疑う余地なく最高位と認められてきたアンミール学園。
更に僕のお嫁さん創りでアンミールお婆ちゃん達が有能な子供を手当たり次第集めている今、際立った人が一人もいないのはもはやおかしい。
「考えすぎですよ」
「そうかな? ここで普通な人だけが集まるってあり得る?」
「確かにそれは奇跡的な確率かも知れませんが、人為的な要素があると考えればあり得ます。おそらく、特殊な才能を持った方々が特殊な魔力測定に連れられるので普通な方々が残ったのです。そう考えれば自然では?」
「確かに」
コアさんの言うように目的の特に定まっていない魔力測定があるのならば、受ける新入生をわざわざ選んだりしない。
だから勧誘は緩やかで、他の目的のある方に新入生を選ぶ優先権が行く筈だ。
そしてその流れで最後に残るのは、凄い才能を持つ新入生でも逆に才能を持たない新入生でもなく、普通の新入生。
そう考えれば納得出来る。
「考えすぎだったよ。流石だねコアさん」
「いえいえ、考えすぎてしまっても仕方ありませんよ。ここまで要素が多いと私のような非常に優秀な存在しか簡単に見破る事はできません。柔軟な視点、明晰な頭脳を持つ私だからこそ出来たに過ぎませんから」
少し誉めるとすぐに調子に乗るコアさん。
ベラベラと自分を称賛し始める。
少しイラッとするが今はこのままにしてあげよう。
僕だけならばきっと、すぐその答えには辿り着かず、考え過ぎてしまっただろうから。
さて、あそこに降り立とう。
「ん?」
そう思っていると、事件が起きた。
普通な魔力測定会場に化け物が乱入したのだ。
視れば乱入したのは人工生命体。
魔物の血肉や大量の魔力をベースに学生が生み出されたらしい。
ここ最近までごたごたしていて管理が行き届かず、脱走してしまったのだろう。
見かけは液体のような黒曜石のような光沢のある謎物質で型造られた巨人で、足下には影のように肉体の残りが広がっている。
形自体は不定形のようで、人型と言う以外は蠢いていて定まっていない。
顔もなければ目鼻口も見受けられず、真っ当な生き物でないことは誰の目から見ても明らかな化け物だ。
そんな化け物は、魔力測定を行っている人達を見つけるといきなり攻撃を始めた。
体を何重にも重なった輪のような形態に変形、輪の中心から激しい光を伴うビームを照射。
真っ直ぐ会場である建物を貫いて行き、街の外に突き抜けて行く。
幸いビームは誰にも当たらなかった。
しかし直後、一帯が吹き飛ぶ。
急激な体積の増加、固体の蒸発による大爆発だ。
幸い会場であった砦のような訓練所は街外れであった為ビームの威力の割に被害は小さいが、丘並の高さがあった訓練所は半分以上が瓦礫とかし、ビームの通り過ぎた野原は焼け野原を通り越して地面の融解したクレーターと化している。
そんな中、驚愕の光景がそこにはあった。
無傷の新入生達。
爆発の衝撃により数段に渡って吹き飛ばされ、クレーターまで押しやられていたが傷は一つもない。
それも各々自力でそれを成していた。
…………。
「……ねぇ、非常に優秀らしいコアさん、普通の新入生、一人もいないんだけど?」
「……優秀なんてとんでもない。私は非常に平凡なただの田舎者です。忘れてください……」
やはりこの学園では考え過ぎ程度がちょうど良いらしい。
どう見ても普通に視えた新入生達は、よく視れば皆転生者だった。
それも同じ世界に自力で転生し、肉体やスキルとしては力を受け継がせずに存在として力を受け継ぐタイプの人達だ。
これではよく視なければ判断できない。
違う世界への転生だと存在が内と外で違うようなものなので、特殊な構成からすぐに判る。
しかし同じ世界への転生では内と外が同じだ。一目では判断できない。
そして同じ世界での転生者とも違い、自然な状態、つまり内と外の格が釣り合うように肉体が生まれる訳でも無いから、肉体の力でも特殊性を判断できない。
全ての方法で釣り合いが取れない訳では無いが、輪廻転生に割り込みをするようなものだから、相当に高度な方法でないと幾つかの流れが飛ばされてしまうのだ。
さらにスキルの継承もないから、特殊性が簡単に判る筈もない。
そもそも通常、輪廻転生の流れに戻らない限り、スキルは死んでも手元に残り続ける。
よくどんな形であれ甦ると力の欠落が見られるが、これは一部が輪廻転生に還った事により起きるのであり、相当強力な力が故意に働かない限りこれは絶対だ。
だからスキルは転生者の証拠の一つになる。
第一、特殊性だけを探すなら転生者を抜きにしてもスキルだけで十分だ。
一見転生者ではなく、器もステータスも特殊なところは無い。
これで普通と思わないのは不可能に等しい。
存在なんて視ようとも思わない。
何故なら普通は存在は存在なのだから、態々視るまでもない。
それに“勇者”だとか“魔王”なら一見して判るが、存在が前世の自分だと特殊な存在としても、特殊な構成要素としてもまず視逃す。
ここの新入生達は特に判りにくい自力転生をした転生者と言えよう。
おそらく、深い目的を持たずに軽い気持ちで転生したのだと思う。
転生術式というよりも保全術式の類をもちいて転生したのだろう。
輪廻転生に関して大して調べなかったのだ。
ここまで揃うと実力が足りなかったかやる気が足りなかったかしか要因は考えられない。
実力は無傷なところを見ると確かだから動機が不十分だったのだ。
「コアさん、あの人達は多分、転生で隠居しようと考えた高名な実力者だね」
「実力の高さの余り隠居の許されなかった方々と言う事ですか? 確かに、そう見えますね」
そうであると考えると色々と納得が行く。
転生する動機と完全ではない動機の不十分さ、そして現在が普通にしか視えない点。
全てが説明できる。
特殊だと見抜けなかった一番の要因は、何だかんだ言って現在の平凡さだ。
存在であれ力を受け継いでいるのなら、その力を使い容易に全盛期のステータスに近付ける、もしくは越すことが可能だ。
ふとした瞬間に常人を越える力を身に付けてしまう可能性も非常に高い。
現に数回技を振るっただけでスキルレベルが急上昇している。
普通を維持するのは同世界における転生者にとって、力を身に付ける事よりも難しいのだ。
つまり故意にそれを目指さなければなれない。
これで間違いないだろう。
確認の為に前世を視てみたら正しかった。
転生前の皆は、各々人生に疲れきった表情をしていた。
因みにイベントを開催していた先輩達も同じで、同類だったらしい。
普通を後押しする為や、気の会う者達の集いとしてイベントを開いたのだろう。
「コアさん、全然普通の人達が集まるイベントじゃなかったね」
「はい、普通を目指すのは普通から程遠いと言う証拠ですから。魔力量が多いとか魔法適性が稀少とか、そう言うレベルじゃない特殊な方々でしたね」
僕達はそんな彼等に遠い視線を向ける。
普通だと思ったら寧ろ逆な人達で疲れた。
深く考察してしまったが為に疲れは倍増だ。
労力としても答えとしても余計に疲れる。
きっと、今の僕達は転生前の彼等に負けないぐらい、疲れきった表情をしていると思う。
そして良かったと思う。
間違って魔力測定に行かないで。
新入生の中でも屈指の実力と特殊性を持つ人達の中に気付かずに入り、その果てによく解らない化け物に襲われる。
そんな事になったらトラウマものだ。
現に化け物と戦う隠居転生者な新入生達、あの中に入れるとは欠片も思わない。
金剛石のように硬く水のように流動的な身体の一部を幾本もの刃に変え、亜音速で突き伸ばす化け物の斬撃。
鋼鉄塊をいとも簡単に貫き銃弾も捉えるであろうソレを、避け、切り飛ばし、正面から弾く。
小分けになった輪状部から放たれる幾条もの大地を蒸発させ爆発を引き起こすビーム。
地形を瞬く間に変えるソレすらも耐え、弾き、拡散させる。
僕なんか近付いただけでも余波で終わりだ。
逃げる事もできない。
そうでなくとも守られるだけ、見ているだけで時は過ぎる。
尚、僕達のいる場所、訓練所の上空は安全だ。
中からの攻撃には呆気なく諸々破壊されてしまったが、外からの攻撃には強いらしく展開されている結界で全て防ぎきっている。
こういう所からじゃないと見ることもできないのが彼等の戦いだ。
達人でも、一瞬の瞬き、たったそれだけの油断で亡骸と化すだろう。
と言うかあの化け物は一体なんなのだろうか?
自力転生ができしたくなる実力がある彼等でも攻めきれない、存在の力も合わさって通常攻撃が武技にまで至った彼等の猛攻を防ぎ許さない。
魔物でも魔獣でもない人工の化け物。
誰がなんのためにどうやって造ったのだろうか?
どうあれ危険物の管理はしっかりして欲しい。
僕みたいな普通以下の力しか持たない一般人としては真の意味で死活問題だ。
うわっ、そう思っているそばから化け物の切り札特大ビーム。
どう考えても僕に直撃のコース。
結界を破ってここまで到達する。
まっく危ない。
僕は特大ビームを手で払い除ける。
直後、払い除けた先の山のごとき濃い緑色の城が消失。
反物質巨大隕石が衝突したかのような衝撃波と閃光がここまで広がり、遅れて爆音が轟きプラズマの柱が天高く昇った。
油断も隙も無いものだ。
直撃していたらどうなっていたことか。
「コアさん、都会って危ないね? もう探している場所とは違うって判ったし、早いところ移動しようか?」
「……移動することには賛成ですが、マスターの場合、割りと大丈夫では?」
コアさんは今もプラズマ化している元城な大穴を見ながらそう言った。
どうやら僕が特大ビームを払い除けた事に驚き、それが一周して呆れているらしい。
「今のは手で払えたからなんとかなっただけだよ。ほら、銃弾で貫かれそうになっても、壁とかに隠れれば無傷で済むでしょ? それと同じだよ」
「……一欠片も同じ要素、ありませんよ? そもそも、戦っていた方々も今の攻撃から全力で逃げていましたし……」
コアさんが変な事を気にしていると、またもや化け物はビームを放った。
今度は細く収束した突破力が特大ビームよりもあるビームだ。
それが余所見しているコアさんの頭に直撃。
驚いたコアさんは振り向き、顔面からビームを浴びる。
「っ! あばばばばっ!」
当然のように反射したビームは大地を焼き切る。
数瞬後、切れ込みから灼炎が吹き出し火柱を生む。
「……ね、割りと大丈夫でしょ?」
端から見ると衝撃的な光景でコアさんに同意しそうになったが、あれだけ浴びて無傷なので主張を変えずに僕はそう言う。
「……はい、割りと大丈夫でした。何ですかね? 派手な割に顔面に直撃しても無傷で済みましたし、採掘魔法や武装解除魔法のような限定破壊魔法の類いですかね?」
「地形破壊魔法ってこと? いや、皆は避けていたから都会破壊魔法とかそんな失礼な感じの魔法かな? まあ何にしろ、ここは僕達に向いた場所じゃないから他のところに行こう?」
「そうですね。さっさと場所を変えましょう」
僕達は轟音と開光轟く戦場を後に、普通を探しに去るのだった。
去ってからイベントを観賞しつつ普通魔力測定を探すこと暫く、目的の魔力測定会場が開催された。
そう、今やっと始まったのだ。
正確には始められる準備がやっと整った。
因みにここまでいくら探しても、と言うよりも全てを吟味しても普通の魔力測定はやっていなかった。
この学園はどうなっているのかアンミールお婆ちゃんに問い質したい気分だ。
何れ英雄と呼ばれるような超人達が集まり、育っている事を強く実感できるが、それにも限度があると思えてくる。
減らせとは決して言わないが、普通も充実させて欲しい。
完全人工化の前だけを見据える未来よりも、過去を引き継ぎ文化と自然を愛す調和したものの方が良いと思えるのと同じだ。
農園よりも森、強いては大自然である。
因みに主催は生徒会と風紀委員会。
道理で今始まった訳である。
こう考えると僕達にも普通を廃した一因があるのかも知れないが、やはり普通を充実させ色んな人が開催するべきだと僕は思う。
それこそ文化祭に例えると、人気が出るからってどのクラスもお化け屋敷をやっているような状態が今だ。
僕達は確実に何も悪くない。
堂々と気にせずに行こう。
しかしここであることに気付く。
「あっ、コアさん、あの先輩達、僕達が正面から行ったらまた派手に従者みたいな対応をしてくるかな?」
「その可能性は十分にあり得ますね」
せっかく普通の魔力測定会場が見付かったのに、ここでまさかの主催者側の問題が浮上した。
「どうするコアさん?」
「う~ん、視たところ普通らしき場所はあそこしかありませんしね。よくよく考えてみれば、先輩方の対応が都会の挨拶に過ぎないのならばそこまで注目される事はないのでは?」
「確かにそうかも、元々こう言うイベントは多少の注目を浴びるしね。どちらにしろ緊張もするから迷わずに行こうか?」
「はい、行きましょう」
僕達は移動を開始する。
問題にならないと判明したからには、僕達を止めるものは何もない。
後は全力で挑むのみだ。
因みに魔力測定会場はアンミール学園の中心である空中庭園の塔、その前の広場。
他のどの魔力測定よりも集まる人が多い。
一番大きな違いとして先生と思われる人達までいる。
更に魔力測定器の水晶玉も全くの別物。
多分山脈の飛龍の龍玉、それも原初の一柱であるリューのものだと思う。
刻んである術式も測定関係のものに加え、何故か容量拡大や収束、そして補強などの必要無さそうなものまで刻まれている。
そして測定器の周囲には細部まで神話がモチーフの彫刻が施されたクリスタルなオベリスク。
よく視れば堅牢無類な障壁を発生させる儀式神具だ。
彫刻が神話を再現させる術式になっている。
おそらく、このオベリスクの中になら神界ごと神々を永久に封印できる、それ程までに強固な代物だ。
また、どう規模の力を持つ術式が床にまでところ狭しと刻まれている。
勿論周囲の建物にも。
よく視れば空にまで。
視界を広げれば異空間にまでびっしりと刻まれていた。
しかも全部内側に、測定器の龍玉方面に向けて。
「コアさん、あの設備は何だろうね?」
「爆砕対策としては過剰過ぎますしね? そもそも測定器が龍玉と言うだけで、爆砕自体考えられませんし?」
「確かに、あの測定器は容量オーバーにならないよね? 普通の測定器と比べてキロとテラ以上に、それどころかヨクトとヨタ、1とオタぐらいの差はあるんじゃないかな?」
第一、龍玉が使われていると言う時点で変だ。
壊れない、どこまでも測定できる、と言うのを求めるのならばそれこそ一兆の魔力まで測定できる水晶玉で事足りる。
一兆以上の魔力を持つ新入生なんてまず考えられない。
大人を、全ての存在の中から探してもほんの一握りだ。
英雄の中にだって、滅多にいない。
一兆と言う値は一万の一億倍。
普通の魔力測定器を爆砕できる魔力一万の人が一億人集まらないと、そんな量の魔力は用意できないのだ。
多分、龍脈にだってこんな量の魔力は流れていない。
なのに龍玉の測定限界は通常の限界値を1として、1オタ以上。
1オタは10の999乗。
あまりにも馬鹿げている。
例え一つの世界を魔力に完全変換したとしても、こんな量は得られない。
そもそもこの接頭辞からしてオタクしか、オタクでも使わないと言う意味で戯れに作られたものだと言う。
因みに10のマイナス999乗はリアジュだ。理由はオタから遠いかららしい。
尚、あの龍玉と普通の測定器を比べると、リアジュとオタ以上の差がまだある。
戯れの接頭辞が使える場面があるなんて、それでも足りない場面があるなんて、作った者も想定していなかっただろう。
それ以前にまず、魔力の表記に接頭辞なんてまず必要ない。
龍玉の限界値を、正確に表す表現はこの世に存在しない。
あえて言えば限りなく無限、この一言に尽きる。
龍玉の魔力測定器が凄いのか、馬鹿げているのか、もはや僕には判らない。
少なくとも、こんな高性能な魔力測定器の材料になる龍玉は、もっと別の事に使うべきだと思う。
長くて丈夫だからと聖槍を物干し竿として使ったり、炭素だからと極大ダイヤモンドを燃料として使うような暴挙だ。
だが、コアさんの言葉で理解はできた。
「でしたら、元々あった違う目的の設備か何かですかね?」
「全部リサイクルって事?」
「はい、流石に能力が高過ぎますから。恐らくは、邪神の類いを封印する設備だったのではないかと。それで作ったは良いが、結局使われる事なく、要であった龍玉の術式を変更して魔力測定器に改造したといったところではないでしょうか?」
コアさんの考察には筋が通っている。
まず間違いないだろう。
言われてみれば邪神封印アーティファクトにしか視えないし。
「ゴクン、成る程。流石は都会、リサイクルには熱心に取り組んでいるんだね。僕達も見習わなくちゃ」
「……マスター、何を飲んでいるのですか?」
「黄金林檎ジュース絞りたて。コアさんも飲む? 割りと何でもジュースにできる高性能金剛石製ミキサーを使ったから、滑らかで美味しいよ?」
黄金林檎は皮ごと齧って食べられるのに、包丁とかで皮を剥くことは出来ない。
金と同じ性質を有しており、頑丈で鋭い道具でないと切る事も出来ないのだ。
そこでよく余りがちな金剛石。
硬くて綺麗なこの鉱物は魔力との親和性も高く、黄金林檎も綺麗にジュースに変える事が可能なのだ。
使わなくなったときには燃料としても再利用でき、創造自体も簡単な素敵素材である。
そんな工夫をした上で得られる黄金林檎ジュースは最高だ。
あっ、これって金剛石のリサイクルかも。
リサイクルって気持ちが良いね。
流石は都会で見掛ける文化。
「……マスター、そう言うところまで都会を見習ってはいけないと思います」
「うん? どういうところ?」
「価値の釣り合わないもので作る点です。普通、いえどうやってもダイヤモンドで調理器具、それも用途が限られているミキサーなんて作りません」
「ダイヤモンド? 金剛石製だよ?」
「金剛石とはダイヤモンドのことです!」
……そうだったんだ。
ダイヤモンドをただの綺麗な素材兼燃料として使っていたよ。
でも僕は使われていない、使い道のないダイヤモンドを有効活用、リサイクルしただけだ。
そう、真実はいつも一つなのだ。
「……リサイクルって、気持ちが良いね」
少なくとも美味しいジュースが作れる。
この事実だけで十分だ。
そんなやり取りをしつつ進むと、イベント会場が近付いてきた。
まだ魔力測定自体は始まっていない。
生徒を集めている段階だ。
生徒会は、まだ測定をしていない生徒を全員集める方針らしい。
この学園の先生達、そして僕の親族達は何故か大急ぎで封印設備のようなものの強化増築を行っている。
何がしたいんだろう?
魔力測定が終わったら元の状態にでも戻すのかな?
尚、その中にアンミールお婆ちゃんを含めた超越有力者がいて、生徒達はガッチガチだ。
これなら皆そこに気を取られているから、僕達への注目も減るかも知れない。
あまり緊張せずに測定ができそうだ。
あっ、アンミールお婆ちゃんと目が合った。
僕は軽く手を振る。
カンカンカンカンカンッッ!!
途端、近くに建てられた警鐘が鳴り響く。
ゴォォォーーンゴォォォーーンゴォォォーーン!!
連鎖してより遠くに、より大きく拡がって行く。
「くっ、思ったよりも早かったようです。まだ準備は整っていません。
総員、パターンコード:ワールドブレイクに移行!」
「「「御意っ!!」」」
アンミールお婆ちゃんの号令に応える親族達。
次の瞬間、僕達を衝撃が襲った。
正体はアダマンタイトの砲丸。
僕の頭程もある大きな砲丸だ。
それも質量を上げたアダマンタイトを使用しているようで、砲丸の表面は歪んで見える。
空間が湾曲する程の質量を持った砲丸らしい。
それが光速で絶え間なく撃ち込まれてくる。
お陰で弾き飛ばすも、僕達自身も後方に押されて行く。
下には新たに創世された世界が拡がり、僕達に当たった砲丸はそこに落ちる。
たった一発の跳ね返りで大地はバラバラに砕け灼熱に変わった。
当然と言えば当然。空間が曲げられてしまう程の質量を持つ星が、光速で衝突したらこうならない筈がない。
なんつうものを僕達に当てているのだか。
犯人は判らないが、イベント会場付近から飛来してきている。
ワールドブレイクがどうとか言っていたが、僕達の方向に封印する予定の邪神でも現れたらのだろうか?
だが様子を視ようとするも、次なる衝撃にさらされた。
「──我、創造主に連なるもの、我、創造物を託されしもの、我、創世を司りしもの、我は水の源泉が管理者にして権能、我が名において此れを行使する──“アクア”」
アンミール学園各地から突如涌き出る水。
それが何故か全て激流となって僕達に襲いかかる。
「「がばばばばっ!?」」
堪らず僕達は流される。
どうでも良いが村の水、水杯の水と同じ味がする。
これの犯人は明確だ。
アンミールお婆ちゃん。
しっかりと詠唱していた。
これの正体は魔術の類いではなくおそらく権能。
そもそもアンミールお婆ちゃんに魔術の詠唱が必要だとは思えないし、間違いない。
しかし犯人が判っていてもアンミールお婆ちゃんに文句を言う暇、文句を考える暇すらない。
今度は四方八方から伸びる堅牢無類の鎖、それが僕達に巻き付く。
簡単に切れるが、あまりの数と勢いに、僕達は動く事が出来ない。
驚く間もない程だ。
その間に構築される至上術式。
「「「──“三千世界”!!」」」
無限に等しい数多の世界が一瞬にして創造される。
しかも御丁寧に僕達が水で流された世界、アダマンタイトの砲丸でもはやエネルギーだけになったような空間を中心に、包むように創られる。
外から視たら玉葱のような構造になっている事だろう。
だがこれで終わりではない。
「「「──“無限創世”!!」」」
無限に近く創造された世界が成長の力を与えられ各々拡がった。
ビッグバンから世界が拡がり続けるように、インフレーションを起こすように、連鎖するように世界が自ずから爆発的に拡がって行く。
「「「──“終始転輪”!!」」」
「「「──“デフレーション”!!」」」
続けてその創造創世された世界が全て反転、収縮へと転じる。
尚も拡大しようとする世界を強引に押し潰し、全ては一つの力となり急激に僕達へと迫る。
莫大な増え続ける質量は各々密度、エネルギーを増し続けやがて重力崩壊を各所で引き起こし、玉葱階層状に創造された世界を物理法則を破綻させ合流。
その全てが僕達に押し寄せてきた。
避けようにも星の数ほど発生したブラックホール、質量の暴威と逆流する時間、捻れる空間によって身動きが出来ない。
特に始めに撃ち込まれた大質量のアダマンタイト砲丸のブラックホール級になった重力、そして物質としての特性を保つその硬度が厄介だ。
色々なものに挟まれて八方塞がりだ。
しかも砲丸発射からこの間、一分もまだ経っていない。
そしてまず、何が何だか判らない。
冷静になって状況確認をすると、風で顔に新聞紙が飛んできて剥がれない程度の被害しか受けていないし、何がしたいんだか?
そもそも元からこの威力だから僕達に向けてきたのか、それとも僕達にはダメージがいかないように工夫されていただけであって、視た目通りの威力がある対邪神とかそう言う攻撃なのか、何から何まで不明だ。
兎に角、この拘束(?)を解こう。
「「ふんっ!」」
少し力を入れると、ビッグクランチはビッグバンに転じた。
近付いて来たものが全て広がる。
ブラックホールも質量が吹き飛ばされ、密度が低くなったことや、バラけた事で蒸発。
障害は完全に取り除かれた。
僕の漏れた力とコアさんの漏れた力で、鮮やかで若々しい緑と花々の溢れる世界が創造されたが、些細な問題だ。
「「ふぅ」」
取り敢えず一件落着―――
「「「定技“斬”!!」」」
「「「定技“突”!!」」」
「「「定技“正拳”!!」」」
「「「──“ディバインクラッシュ”!!」」」
「「「──“ディバインブレイク”!!」」」
「「「──“ディバインジャッジメント”!!」」」
……もう嫌だ。
静かな村が早くも懐かしい。
《用語解説》
・戦略革命級永久機関試作四号機自律機動型参式
アンミール学園、強いては全世界の求める理想の一つである永久機関、それの試作機。
今回自力隠居転生者達の魔力測定会場に乱入した化け物の正体。
永久機関の試作機として、ダンジョンのシステムに目を付け造られた人工ダンジョン擬き。
ダンジョンの膨大な魔力を吸収する力、それの制御力と変換能力、そして化身であるダンジョンマスターやダンジョンコアの再現を目指している。
永久機関としての力はまだ無く、魔力吸収力に重きを置かれており、魔石の自動収集システム等が組まれている。
ボディは龍玉や魔石、物質としてのダンジョンコアの粉末を再合成して造られた素材。
魔術も魔力として変換吸収し、自己を最適化して行く。
本体は組まれた魔法式であり、動きに関わる構造自体は存在しない。無理矢理素材を魔術で動かしている。
よって破壊するにはこれを破壊もしくは改変しなければならない。ただの物理攻撃では無駄である。
また元々は兵器用、砲台の核として開発された為に、収集した莫大な魔力により強力な自己強化保全修復魔法を纏っている。
核融合炉に放り込んでも数分程度ならば完全修復が可能。
魔力さえ確保出来れば半永久的に動き続ける。
そして元々砲台の核を想定して造られてたので当然強力なビームが放てる。
威力は確保した魔力によって変わるが、一般的な環境下でも結界を張った中規模の都市ならば城門から城門まで貫ける。
今回は、改良途中で戦闘発生、開発を担当していた生徒達が戸締まりを忘れて出払い、そのまま動けなくなっていたところで魔力吸収機能から莫大な魔力を感知、そのまま吸収するために起動した。
そして戦場で大量の魔石を発見。アークのスピーチの間に止まること無く吸収融合を繰り返していた。
生徒達を襲ったのは外で稼働していたからであり、自分の周囲にいる者=開発者以外=侵入者と認識し、排除に動いた。
ある種暴走ではない。ヒューマンエラーである。
莫大過ぎる魔力を獲得したことで特異点と化し、魔力を自然発生させる存在に至っている。
主砲形態のビームの威力も星に穴を空ける程。
半異空間であるダンジョンをも破壊しうる力を持っており、例え神々などの実体を持たない存在でもこのビームは避けるしか無い。
準大人災級の脅威である。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
次話は世界の危機その2を更新予定です。




