第四十三話 魔力測定イベントその2あるいは主催者の意図
すみません。投稿が遅くなりました。
都会流おもてなし文化が一段落して、僕はふと思い出した。
すっかり流されてしまったが、元々先輩達は僕達の疑問を解決するために来てくれていたのだ。
衝撃的な文化と比べたら今更どうでもいい気もするが、それだと用もなく先輩達を呼び出して都会流おもてなしをさせた事になる。
身を捧げてくれたお礼は簡単な器の昇華の形、ゆとりを持たせて回復することによる限界の拡張でしておいたが、それでも失礼だ。
当初の目的はしっかり果たしておくべきだろう。
僕は未だ未解決の最後の疑問を問う。
「そう言えば、結局あの先輩達は何で金属性の反応の時だけ、あんな驚き方していたの?」
「そもそもあれは演技だったのですか?」
コアさんも便乗して僕の捕捉をしてくれた。
最後に残った疑問、それは先輩達の反応の違いだ。
言い方を変えればガリティウス君の時だけ静まり返った理由。
他のは演技だと判ったが、これだけは違う気がした。
だが確信が持てない。
金属性がそこまで驚きに値すると思えないからだ。
「あれは演技ではありません。純粋に驚いたようです。知っていたのはラルフだけでしょう。だからこそ他の者達は急に予想外の金属性持ちが現れ、驚きながらも思考停止が起きたのだと思われます」
こう答えてくれたのは生徒会長アリウス先輩。
おもてなし前とは違ってすらすらと、恐縮しながらも答えてくれた。
生け贄は握手のような文化でもあったのだろう。尚も僕達を畏れている様子だが、緊張と言うか余所余所しさは無くなった。
逆に従者らしい振る舞いになってしまったが、アンミールお婆ちゃんの子孫だと言う事を考えると、仕方がないのだろう。
ここはゆっくり時間をかけて解決して行こう。
と言うよりもそれを先輩達が苦に思っていなければ何でも良い。
余所余所しくなければ僕としては何でも良いからだ。
友達と言う関係は無理に結べるものでは無いのだし、アンミールお婆ちゃんが用意してくれた場からこの関係になれたのだから、今はこれで十分だ。
後は求めるのではなく育むものである。
一つ問題に思うのは瞳の奥に激しい光を宿している事、従者を越えた何かに見える事だが、きっと気のせいだ。
都会文化のおかげでどういう因果か先輩達はお肌や髪は見違えるように艶々、器の昇華のお礼も相まってか存在感、覇気に溢れ、心理的にも力が溢れかえっているから、瞳の輝きもついでに増したのだろう。
あと先輩達の種族に“預言種”が追加され、覚醒したかのようにステータスが上がっていたが、それも何の因果関係もない偶然だ。
激しい戦闘の経験値の余りか何かが今になって入ってきただけだろう。
そうに違いない。
そもそも僕は普通に都会流おもてなしを受けただけだから、こんな事態になる筈が無いのだ。
先輩達は僕達の要件を終えると、眷属と共に去っていった。
サカキとナギ曰く、従者は求められた時まで控えているものだからだそうだ。
曰く僕達の一挙手一投足は全てが下々の及ばぬ至高の行為であるから、決して邪魔をしてはならないとか。
慇懃な態度で熱狂的な内容を淡々と、眷属としての在るべき姿をそう語っていた。
僕としては明確な意味のある行動自体、している覚えが無いのだが……殆どが気紛れに流されたものだし……。
そんな期待、変な圧力を勝手にかけないで欲しい。
と言うか眷属の心得を先輩達に押し付けないで欲しいものだ。
何故か先輩達は迷うことなく頷いていたけど……。
だが、僕達も周りに気を使わなくて良いし、自由気ままに過ごせるからありがたい。
理由は兎も角、結果はありがたいので感謝はしておいた。
そしてそんなこんなで現在、再び完全なる自由時間が出来たので僕はまた、コアさんと二人で新入生イベントの数々を空を飛びながら見て、同時に学園中を視ている。
数多の英雄譚で語られる光景、一時も何処からも目を離せない。
それにこの学園で行われている新入生イベントは多種多様で、魔力測定一つ取っても様々なものが存在する。
目を放す要素がまるで無い。
主宰者が学生で、かなりの団体が開催しているのも見所の一つ。
演技部の人達の、自信の無い新入生励まし魔力測定のように、ある程度は目的、テーマ、まとり、そしてそれらの違いがあって面白い。
ただの数字的な目的が有るのではなく、楽しさを求めてであれ、全て何かしらの想いから生じているので通常の試験の何千倍も魅せられるものがある。
「コアさん、ここのテーマは何かな?」
「水晶玉を皆さん共通して粉砕していますからね。魔力の多さ競争と言ったものですかね?」
今僕達の下で行われている魔力測定では、一様に新入生達が水晶玉を限界値オーバーで粉砕していた。
よく英雄譚では規格外の魔力を持つ主人公が水晶玉を爆砕させるのを見るが、全て粉砕の魔力測定は中々無い。
アンミール学園生の物語ではわりと読んだ気もするがそれ以外では聞いたことも無い光景だ。
粉砕された水晶玉の替わりは山のように積んである水晶玉から供給。
替えの水晶玉が大量に用意されていることから、初めから粉砕前提だと言うことが判る。
視たところ、主宰側の先輩達が一人ずつ新入生を連れてきて競っているらしい。
評価も独特だ。
例えば今ちょうど強い白い光と共に水晶玉を爆砕させたセシル君の評価。
審査員席と書かれたわざとらしく偉そうな席で、それらしい伊達眼鏡をかけた先輩達は手を偉そうに組んで口々に言い合う。
「爆発が少し横にまとまっていましたな~」
「ですが、白い光横に広がる水晶片は花を思い起こさせます」
「飛距離はまあまあ、最大5メートルといったところですかな」
「落下の放物線は少々直進的、減点ですぞ」
魔力云々ではなく芸術点のようなものを評価している。
普通は規格外の新入生が居れば『あの新入生は一体何者っ!?』『何て魔力なんだっ!?』『ふははははっ!今年は荒れるぜぇ!』と言った反応をする筈なのにそれがまるでない。
セシル君なんかは評価を真に受けて真剣に聞いている。
こう言う試験だと信じきっているらしい。
新入生全員が水晶玉を砕いているから疑いを持てないようだ。
自分の凄さを理解していない。
因みに学園標準、いや先輩標準の型は視たところ魔力量を最大9999まで測定できるものだ。
一般的な魔力量、常人の魔力量はステータスによると100だそうだから、水晶玉はおよそ常人の100倍の魔力量を持つ者まで測定出来る。
更に言えば魔力量の常人の値とは、他の能力値と違い平均値に近い値。
基準であるステータスに組み込まれていない異世界人が基本的に魔術を使えないからだ。
だから最頻値に近い値ではない。一般的と呼べる値は100よりも下で、地域差が多少はあるが、10~30ほどだと言う。
つまり9999オーバーと言う魔力量は相当に凄い。
簡単な生活魔法、例えば“クリーン”なんかは初心者でも魔力1の消費で六人用テーブルくらいなら清掃できる。
普段使いする人ならば10も使えば家全体を軽く清掃できる。
魔力が9999以上あれば単純計算で1000件もの家を清掃出来る計算だ。
高度な攻撃魔法ではもっと大規模の事象を引き起こせるが、魔術初心者が始めに学ぶ魔術でもこの規模の力である。
魔力量が多いと言うだけで強者の証、大多数の人から見ればそれはすでに夢に過ぎない吟遊詩の領域だ。
だから本来は測定値オーバー、水晶玉が砕けると言うのは大騒ぎになる出来事。
人々に語り継がれる物語の反応が正しい。
観衆は伝承を信じ熱狂し、同胞はその力に驚愕し、主催は新たな可能性に期待。
当事者はそれらを注がれ伝説へと繋がる未来を見せられる。
だがセシル君達のそれにはそれらが無い。
まあ、この学園内では魔力量の桁外れに多い人が多いから、この程度でそこまで感慨は湧かないのかも知れない。
演技部の人達のように、演技しなければ驚けない程に慣れている可能性は十分にある。
「英雄の素質を芸術として見るなんて、面白い事を考えるね」
「都会は愉快な場所ですね」
そんな奇妙な光景だが、僕達はそれを良いものだと感じた。
ただ楽しみ楽しませる為に開いていたからだ。
悪意などは感じない。奇妙なことをしているが善意である。
先輩達は真に驚いたり出来ないのを理解している。だから別の手段、今回は芸術点評価と言う形で物語で語られるような憧れの舞台を用意しているだけなのである。
そして他にも思いやりがある。
「新入生君達、不安と警戒心が消えているね」
「魔力量の多さを何とも思われない、それだけで解消されるものもあるのですね」
先輩達は魔力量の多い、かつそれを既に知り悩みとする新入生達を選び連れてきていた。
魔力量の多さは英雄の才能、人々から夢を託される才能であると同時に統率者達から狙われる力、便利な道具や危険な兵器としても捉えられる対象だ。
それで実際に何かがあったのか、もしくはその地域でどのように扱われるかを理解しているのだろう。
だが、同じだと思っていたここでは特別な扱いはされなかった。
それどころか同じ境遇の者が沢山いる。
不安が消えるのも当然。
「ここは豊穣だね」
「豊穣ですね」
その張り詰めた緊張、不安から解き放たれた安堵の笑みは実に豊穣である。
どんな金剛石の輝きよりも美しく、太陽の光よりも強く優しい輝きだ。
つい僕達は目を細めてしまう。
この学園の新入生イベントは英雄譚のそれとは異なり、英雄の一歩を視ることは出来ないが、それでもそれ以上に魅せられて目を放すことが出来ない。
爆砕芸術測定は実に良いものだったが、この学園には他にも魅せられるイベントが多い。
僕達は惜しみながらも期待を胸に、のんびり飛行を続け移動する。
学園中を視ることができても、やはり直に見た方が感動は大きい。
今直下で行われている魔力測定イベントに目を向ける。
「次の者、前に」
そう言われ自信満々に一歩踏み出すのはアルバーフリート君。
その姿に緊張は見られない。楽しみで仕方がない様子だ。
視るとアルバーフリート君は転生者、トラックに弾かれそうになっていた神獣見習いの子狐を助けてお礼兼お詫びに転生したらしい。
異世界にあると言うライトノベルの知識から魔力量上昇の修行を幼少から行ってきたようだ。
その魔力量は自信の理由が誰でも頷ける程である。英雄譚の主人公レベルの数値だ。
きっと魔力量の平均値、一般的な値も事前に調べていたのだろう。
その自信は強固で不動のものだ。
早く披露したいと言う気持ちがこれでもかと態度の隅から漏れ出ている。
そして堂々のタッチ。
光の色は六色、綺麗に輝く。
「…………」
無言で固まるアルバーフリート君。
「「……あれ?」」
ついでに困惑する僕達。
「六属性、魔力量も中々。次の者、前に」
だがそんな困惑もなんのその。
何事も無かったかのように測定は進んで行く。
人形のようにフリーズしたまま誘導され、アルバーフリート君も脇の観客の元に。
……見間違いか何かだったのかな?
コアさんと顔を合わせて首を傾けつつ、先を見てみる。
水晶玉の前に立つのは代々血筋で魔力量を強化してきた貴族令嬢のスティアフーラさん。
水晶玉を爆砕も出来ない他の新入生達に調子に乗るなと冷めた視線を送りつつ、本物を見せてあげますわと水晶玉に触れる。
光の色は四色、火水風土の四属性。
キラキラと光る。
「四属性、魔力量も程々。次の者、前に」
…………。
見事にフリーズするスティアフーラさん。
整った顔立ちと派手めなフリフリドレスのせいで本物の人形のようだ。
そのまま茫然と端から水晶玉を見詰めたままのアルバーフリート君の隣に誘導される。
続いて水晶玉の前に立つのは生まれながら六属性の精霊王の加護を持つクリスト君。
前の二人にも、周りの観客達にも意識を向けることなく堂々と、そしてムスッと仕方無さげに水晶玉に触れる。
その魔力量は精霊王に選ばれるだけあって絶大であり、既に実践経験も豊富のようだ。
魔法の力で数々の重大事件を解決し、国家や権力者達との駆け引きも日常のように経験済み。
魔力測定をお遊びとしか認識出来ないらしい。
水晶玉の示す六色の光は各々揺れるように入れ替り立ち替り現れる。
精霊が関わると同時に光るようだ。
「六属性、及び精霊魔法に適性あり。魔力量も実用レベル。次の者、前に」
そして当然のように流れ作業でクリスト君は観客達の端に追いやられる。
これには流石のクリスト君も棒立ち。瞬きすらせずに現実を理解しようと勤める。
興味の無い態度を示していたが、やはり水晶玉の爆砕、そして皆の驚く反応を求めていたらしい。
その後も滞りなく強大な魔法適性を持つ新入生達が、当然と考える反応を水晶玉にも人にも示して貰える事なく、流れ作業で人形状態に加工されて行った。
何故こんな結果になるのだろうかと思って、水晶玉を視てみるとその答えが解った。
「コアさん、あの水晶玉、最大測定値が999999999999だね」
「約一兆もの魔力量を持たねば爆砕出来ないのですね」
そして観客の先輩達の口元を見ると若干笑っている。
笑いを堪えて真顔を頑張って作っているといった様子だ。
つまり、初めから新入生達がこう言う反応をすると予想していたのだろう。
対象は魔力量が膨大な新入生、知っていて用意した大容量水晶玉と真顔を作って鈍い反応をする先輩達。
そして最後のパーツとして緊張せずに自分に自信を持つ新入生。
これらから導き出される答えはこうだ。
「ここの魔力測定は、慢心している新入生達を目覚めさせる為に開いているんだね」
「確かにここで測定している方々は、魔力量が多いだけではなく、自信過剰でしたからね。
それにしてもここでは、私からしたら多少慢心しても全く問題無いと思えるレベルの方々でも、慢心しないようにさせるのですね。何処までも自らを高めさせようとする方針、素晴らしいですね」
「そうだね。こういう行動が、何時しか英雄を生むんだろうね。道理で鑑定した時点でも驚かない訳だよ。だって先輩達はずっと先を見て進んでいるんだから。莫大な魔力量の先輩も珍しくないし、きっとここだと、いや英雄にとってはそんなこと、通過点にしか過ぎないんだろうね」
まだ新入生、僕の同級生君達は茫然とした様子だが、やがてそれは向上心へと変わるのだろう。
やっと周囲に真摯な目を向けるのだ。
そして際限無き上を、先を知る。
居るとも思わなかった道の先達者を知る。
全ての根から繋がり伸びる無限の枝を。
枝から生い茂る葉を、花を、果実を。
本当に向き合い、知ったのなら道を追い、何時しか新たな枝を伸ばし果実を実らす事だろう。
きっと彼らにはそれが出来る。
そんな彼らの進む道が、僕は楽しみで仕方がない。
そしてそんな後押しを、有志の先輩達が行っている事も素晴らしく、美しいと思える。
彼らもかつて同じ事をされたのだろう。
その瞳は笑いを堪えながらもとても優しく微笑んでいる。
本人達にとってはかつての自分に重ねて懐かしんでいるだけかも知れない。
しかし優しく懐かしめるのはそこに掛け替え無い価値を見出だしているからに他ならない。
そう想えると言う事は後輩達を思いやっている証拠だ。
思いやっていなければ同じ状況でもそこを見出だせない。
「コアさん、ここも豊穣だね」
「豊穣ですね」
僕達は素晴らしい実りに微笑みながら、次のイベントの上空へと移動した。
次にやって来た魔力測定イベントは、これまた異質な場所だった。
何故か、新入生の方まで偽装している。
演技ではなくステータスや気配の偽装だが、皆やっているので異質だ。
そして測定が始まる。
「1番、その水晶に触れてくれ」
光は弱々しく色は青。
本当なら砕ける寸前まで光り、四色の光を示す筈なのだが、新入生君が偽装に身を包んで抑えている。
「よし、もういいぞ。2番、次は君だ」
無事に思い通りになって小さくホッとしながら横に捌ける。
一番前にいたのはどこかの名門貴族四男のフレム君。
視れば意気揚々と権力闘争が激しい実家を追放されて来たらしい。
おそらく隠しているのは優秀だと連れ戻されたり、巻き込まれたりするのが嫌で隠していたのだろう。
同じような新入生が後に続く。
そして偽装通りに測定は全て終わった。
30人程しかこの場にはいなかったからだろう。
流れ作業で随分と早い。
だが、イベントとしてはそこで終わりではなかった。
これだからここの新入生イベントは目が放せない。
「では、結果を発表します」
ここでは結果発表が後からあるようだ。
「まずアルセイシアのウグレシア王国ワールゼン公爵家庶子、第一四子四男、フレム君の結果から」
「っ!!」
当たり前のように暴露される個人情報。
身分も含めて偽装していたので激しく動揺している。
「魔法属性は火水風土の四属性、魔力量は8000オーバー。魔術の才能有りだね。偽装もそこそこ良かったよ」
嫌らしい笑顔で周知させるハウゼル先輩。
だが、フレム君は動揺のあまりその表情に気が付かず、理解出来ぬ恐怖で固まる。
ハウゼル先輩はその反応に満足そうに頷き、発表を続ける。
「次はダナスウィーブの勇者、聖剣継承者、旧セウレム王国王位継承権第一位、リーベル君。魔法属性は聖、世界の節目に一人しかいない稀少属性だね。魔力量も10000オーバー。流石は聖剣に選ばれし者、世界を救える才能があるよ? 偽装はもう少し頑張った方が良いね。多分僕が細工していなかったら測定器が壊れていたよ?」
そう言われたリーベル君は地面に膝をつく。
フレム君と同じく恐怖が隠せてないその瞳で、化け物を見るような視線をハウゼル先輩に送る。
ただ、フレム君よりも身分を偽っている理由は深刻なようで、強く握りしめる手の中には聖剣の柄がある。
恐怖が、行動力に変わろうとしているようだ。
ハウゼル先輩もそれに気が付いているようだが、わざと無視するように発表を続ける。
「次はミルダロスのセリュー株式国六卿ガルセイウ家嫡男、ラミアン君。魔法属性は基本六属性に合わせて空間属性、魔力量も10000オーバー」
ラミアン君も前の二人と同じように隠していた才能のバラされて冷や汗を流し始めたが、二人よりも深刻そうではない。
「流石は異世界転生者だね」
しかし真に隠していたおきたかった事実もあっさり暴露されて崩れる。
ハウゼル先輩、正確にはハウゼル先輩達の前ではどんな秘密も意味をなさないようだ。
転生者なら兎も角、転生者だと言う本人すらなんなのか解らない出自すらも先輩達の前では秘密になっていない。
尚、視るとそれらの秘密はハウゼル先輩が暴いたのではなく、他の先輩達が秘密を暴いていた。
ハウゼル先輩の役割は隠蔽の発見と解除、そして隠蔽を解除したことの隠蔽。
観客に扮した占術科のアリエラ先輩、情報科のフィリック先輩、魔術科のクラップ先輩、探索科のアリューシャ先輩、そして指揮科のレガー先輩が秘匿情報の解析をしている。
手順としてはハウゼル先輩が情報防御を破ったところに、過去を占い鑑定、時属性魔術で強化、探査で秘密の座標を特定、それらの能力を統合し群なる個として発揮。
それらを何度も手探りで入れ替え繰り返している。
他に居る先輩達も万が一にも新入生達のミスで自らの能力を暴露しないようにと、魔力測定の水晶球に結界を張ったり細工をしたり、それらで消耗する先輩達を回復させたりと、凄まじく手の込んだ事をしている。
多分、国家事業、それも聖剣レベルのアーティファクトの鑑定でもここまではしない。
と言うか生け贄を使ってもなかなか出来ない高等技術の結晶だ。
わざわざ隠している個人情報を暴くのに使う手段では決してない。世界の破滅を望む邪教徒の尋問にも使われないと思う。
それにある程度有力な情報でも、隠蔽を看破してステータスの称号を探れば十分だ。
それでも先輩達はわざわざ高等な技術を使ってまで新入生達の情報を細かく調べている。
正確には、隠している本質を正確に暴いていた。
何故ここまで先輩達がするのか僕には解らない。
だがそんな力を使ってまで秘密を暴かれた新入生達の気持ちはなんとなく推測できる。
シンプルにバレたと言った事に対する恐怖などの感情よりも、得体の知れないものに対する恐怖に傾く事だろう。
現に、既に暴かれた同級生君達の反応はそれだ。
他の新入生達もそうなる事だろう。
何故なら彼等は先輩達がそんな風に秘密を暴いているとは気が付けない。そもそも先輩達の行った方法を聞き齧りの知識としても知らない筈だ。
それなのにステータスにも記されていない、隠蔽するまでもなく知られない筈の情報までもが知られた。
理解が及ばない事に、想定外の事態に、まずは恐怖する。
そして冷静になってからは―――、いや、まずは最後までこのイベントを見ることにしよう。
色々と考えるよりも、やはり実際にその分も見ている方が面白い。
その後も、最後まで一人残らず、隠していた、隠さなければならないような秘密をハウゼル先輩は暴露した。
そして最後の新入生も例外なく秘密を暴露され崩れた。
それを確認したハウゼル先輩はここからが本番とでも言うかのように笑みを強め、こう言った。
「では、これで結果発表を終わります。質問のある方は?」
その姿は、外から見ている僕からしたら、ただ楽しい事を前にしただけにしか見えないが、新入生達から見れば恐怖を強める結果にしかならない。
意を決した様子のリーベル君が声をあげる。
流石は勇者、一世界の勇者とは言え恐怖からの立ち直りが早い。
「あんたは何者だ? 何故僕の事を知っている!」
いつの間にか聖剣を顕現させ、ハウゼル先輩に向ける。
だが聖剣を向けられたハウゼル先輩はなんのその、身構える事もなく当たり前のような態度で答える。
「何者って、もう君達は知っているだろう? それに何故知っているかは、決まっているだろう? 俺達が何をしようとしていたのか、君達なら分かる筈だ」
わざと勘違いしやすい言葉を選んで、ハウゼル先輩はそう答えた。
それを聞いた新入生達は一斉に動き出す。
「“聖光一閃”!!」
リーベル君は一瞬で残像を残し移動、聖なる光を発する聖剣を目にも留まらぬ速さでハウゼル先輩に振るう。
「“四龍斬”!!」
「“ディメンションバイト”!!」
「“太陽弾”!!」
同時に他の新入生達も即座に出せる最大技の技を繰り出した。
だがハウゼル先輩はそれらの攻撃に全く動揺しない。
一歩も動かずに聖剣をリーベル君ごといつの間にか取り出したタクトのような棒で払い飛ばし、ドラゴンブレスのような高出力の遠距離斬撃をマントで受け流すと共に一部反射、超高熱量の火属性魔術をタクトで打ち消し、その他魔術の嵐もタクトで魔力に分解する。
すぐさま新入生達も次の攻撃に移ろうとするが、タクトで軽くヒョイヒョイヒョイといなされて行く。
それでも新入生達は諦めない。
口封じをして逃げるつもりのようだ。
新入生達は見事に乗せられ勘違いしている。
得体の知れない恐怖の後に迷い込んだ答えは、ハウゼル先輩が自分を元から知っていると言うものだ。
つまり追っ手や敵対者だと思っている。
当然だ。真のステータスを視られても辿り着けない筈の答えをハウゼル先輩は知っていたのだから、複雑な高等技術で過去を探れると知らない新入生達はハウゼル先輩が元から自分を知っていたとしか思えない。
それでこの戦闘。
そしてハウゼル先輩は初めから分かってて誘導し、戦闘に持ち込んでいるようだ。
新入生達からは恐怖しか湧いてこない笑みだが、外から見たらノリノリだ。
それこそ鼻歌交じりに指揮棒を振っているように見える。
因みにハウゼル先輩は怪盗科で、タクトに見える棒は分類すると針金である。
特殊な鍵、魔術も機械の仕掛けも技術次第で解錠可能な怪盗道具だ。
魔術を跳ね返したり魔力に分解したりしているのもこの道具と怪盗の解錠技術の組合わさった力である。
力だけでも隠蔽しなければならないような新入生達も、ハウゼル先輩の前に皆撃沈する。
ハウゼル先輩は一歩も動いていなければ、自ら攻撃を仕掛けた訳でもない。
タクト針金で攻撃の一部を引っ掻けて返しただけだ。
新入生達が自由に動けなくなったところで、ハウゼル先輩は再び話し出す。
「今年の新入生は元気が良いね。君達の先輩である俺に、そんなに挑戦したかったのかな? まあ、測定をした後だから、気持ちは分かるよ」
あえて答え合わせのように一部を強調して、ある種のネタばらしをした。
だが当然、それだけでは皆信じられない。
しかし、強者であるとある程度自覚している自分と同等であろう協力者達が束になっても敵わなかった、殆んど相手にされなかったのだ。
最悪の未来がよぎり、すがり付くようにその言葉を聞き入れずにもいられない。
「……俺達を、どうするつもりだ?」
一人が、覚悟を決めて問う。
「どうするって、どうして欲しい?」
「僕達を、始末したいんじゃ、ないんですか?」
「可愛い後輩を始末する訳ないだろう?」
「じゃあ、私達を、利用したいの?」
「まだ入学してきたばかりの新入生に手を借りなきゃいけない程、俺達は落ちぶれていない」
「僕は、勇者だぞ? それも亡国の王位継承者だった?」
「だからどうした? そこにいるディアボロなんかは魔王だぞ? 魔王でその見てくれの癖に花好きの変わり者だ。パルティは聖剣を何本も持っているが、勇者じゃない。ただの刃物オタクだ。勝手に聖剣を抜いては持ち帰るものだから複数の世界で指名手配されている。
君達はただちょっと特殊な事情のある才能豊かな新入生だ。一体何が問題ある?」
ハウゼル先輩は真っ直ぐな目で、口元を優しく上げてそう言った。
「君達に、隠さなければいけないものが本当にあるのか?
もう一度君達に聞こう。
どうして欲しい? そしてどうしたい?
俺達は君達を、先輩として全力で応援しよう」
そして頼り甲斐のある笑顔を向けた。
同時に、観衆に扮していた先輩達も同じ表情を向ける。
新入生達は再び崩れた。
今度は、いつの間にか泣きながら。
先輩達はそこに寄り添い、優しく背を摩った。
「ここも、優しくて意味のある、素晴らしいイベントだったね」
「はい、どんな事情も隠さなくて良いと受け入れ、そして前向きに進ませようとする素晴らしい行為でした。やはり都会のイベントとは価値の付けられない尊いものなのですね」
派手に正道に突き進むものも良いが、こう言う心を中心にするイベントも果てしなく素晴らしい。
実に豊穣、実り豊かだ。
純粋な憧れを与えてくれる英雄の大胆な偉業とは違い、優しさや想いを与えてくれて、自分を見つめ直す事ができる。
素晴らしきものは、見るだけでも他者に成長のチャンスを与えてくれると実感することができる。
こうして、寿命以上に人は生き、生かして来たのだろう。
伝えると言う行為ができる人だけの特権、人の最大の力だ。
「僕達にも、実りは有ったかな?」
「ええ、きっと」
僕達は、この光景を、そして実りを、確認し合った。
得た実りは何れ種となり、いつか豊穣をもたらすのだろう。
コアさんと想いを共有すると、確かに、そう思えた。
「そうだ、僕達もどこかで魔力測定してみようか?」
「そうですね。百聞は一見にしかず、そして百見よりも一回の実践の方が良いでしょうから。是非やってみましょう」
こうして僕達は、実際にやれそうなイベント会場を探すのだった。
《アーク&コセルシアについての考察》
・過剰評価傾向
自分達を最底辺のど田舎者と捉えている為か、相手を過剰に評価する傾向にある。
特に興奮していると勝手に良いように解釈して行く。
今回のもその一例で、真相は半分以上文化祭感覚で開催されているイベントなのに全てが意味のある価値の計り知れない素晴らしいものと認識している。
その為、主催者側が全く意図していない点も勝手に見出だし評価した。
勿論全てが二人の勝手な見解ではないが、前半の向上心云々は過剰評価である。あれは殆んど新入生をからかっていただけだ。
ただし、過剰な超越者である二人の情報処理能力は凄まじい為、完全なる間違いとも言えない。
あくまでも見出だしているだけだからだ。
だが勿論、凄まじい検討違いをすることは多々あるので、個人に対する評価としてはほぼ過剰になる事が多い。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
クリスマス転生をホワイトデーに更新したので、そちらも読んでいただければ幸いです。
次話は第四十四話を更新する予定です。




