第四十一話 英雄の戦いあるいは従者の洗礼
投稿が遅くなり、申し訳ありません。
クリスマス転生を書くのに時間を使ってしまいました。
ガーディアンテュポンと先輩達の対決は激化、と言うよりもまともになった。
余計な行動が減り、真剣に戦闘を繰り広げている。
ガーディアンテュポンの強さに気が付いたからだろう。
いくら傷付けても再生し魔獣は増加、戦えば戦う程に厄介さが増す。
そもそもその傷を付けるのも難しい。
そんな相手と戦っているとやっと気が付き、皆本気で戦っている。
主席先輩二人はガーディアンテュポンを叩く事に集中し、主席補佐二人がその進路上を塞ぐ敵や、嵐で質量の暴威となった岩石を払い主席二人の道を確保。
イタル先輩は多頭種を排除し、セントニコラさんがそれ以外の敵を粉砕。
自然とそんな役割での戦闘になっていた。
常にガーディアンテュポンの魔眼の範囲から離脱し嵐に抵抗しつつ、ガーディアンテュポンに突撃。
多頭種は目に入る傍からイタル先輩の力で爆破。
近付くそれ以外の種はセントニコラさんが、討伐より時間稼ぎを優先して彼方の魔獣へ投げ捨てる。
前方の敵はクルト先輩が切り跳ばし、ケミルナ先輩が爆裂系の魔術で吹き飛ばす。
そうしている間にカナデ先輩とアゼル先輩は力を高め、高威力の一撃を準備。
地形をも容易く変える一撃をガーディアンテュポンに喰らわす。
何度も何度もそれを繰り返している。
しかしガーディアンテュポンは倒せない。
それどころか倒しきれない魔獣が増え続けている。
それに先輩達も消耗する一方だ。
まだ余裕も微かに残しているが、勢いが始めよりも衰えている。
特にイタル先輩が顕著で、一撃で爆破出来ない多頭種も現れ始めていた。幾ら強い感情が動力源でも限界があるらしい。“朝断ち”に関してはもうただのよく斬れる刀だ。
多大な代償を支払う切り札でも使わない限り、この状況から好転することは無いだろう。
もし使用してガーディアンテュポンを倒したとしても、ここまで来る体力など欠片も残るまい。
これはもう僕達の勝ちだ。
後は諦めて帰ってくれるのをただ待つのみである。
「コアさん、これで暫くは安泰だね」
「はい、少なくとも今日は平和に過ごせそうですね」
僕達は笑顔で顔を見合わせる。
平穏を無事に守り抜いたのだ。
精神的な疲れから解放されたおかげか、何時もよりも世界が輝いて見える。
命の眠りを解き放ち、夢へと誘う優しい陽射し。
撫でるように吹き抜け、春を満たす穏やかな風。
大地に芽吹き、世界を生命に染め上げる若葉。
優しい香りと華やかさで、始まりを告げる花々。
全てが愛おしい。
日常、平穏とは実に素晴らしいものだ。
さっきまでの脅威もこの時間の為の踏み台に過ぎないと感じられる程に、平穏を素晴らしく感じ愛おしいと思える。
「コアさん、今日は一日ゆっくりと過ごそうか?」
「そうですね。のんびりと過ごしましょう」
疲れなどの理論抜きで、心からそう想える。
僕達は玉座から降りる。
本当に求めるべきものは常にあったのだ。
僕がここに来たのは輝きを求める為。
だがそれは、造るものでは無いのだ。
何故なら、過程の時点で輝いているのだから。
力を追い求めるのなら核兵器でも造ればいい。しかしそれは輝きでも何でも無いのだ。
何のための力かのみが、その努力と理念こそが輝きなのである。
そしてどんなものでも自分の延長上にあるのだ。単純なただの力、形、概念などでは存在しない。
追い求めるものは全て続きである。
生み出す輝きは付け足すものでしかない。
だから、無理にそれのみを求めてはならない。
完成などしないのだから。
完成と呼べる段階は常に共にある。
僕が求めるのは自分の子、生んでくれる最愛の人達、そこに至る愛すべき人達、その出会いと物語。
しかし真に求めているのは自分の幸福を増やすこと。
つまり皆の喜びと幸福だ。
道は続いている。
その道は、気が付くだけで幸福に溢れている。
都会に出てきたからと言って、それは変わらない。
常にあるのだから無理に求める事は無い。
気が付くだけで良かったのだ。
ゆっくりと歩むだけでいい。
「コアさん、平和って素晴らしいね」
「素晴らしいですね」
僕達はのんびりと部屋の中を歩きながら微笑み、手に入れた平和を謳歌する。
これこそが豊穣。
「アーク、若さと向上心も大切ですよ?」
アンミールお婆ちゃんが少し呆れたように言うが、この平和の前では微風と同じだ。
「スピーチとか顔合わせとか、別に必要無いんだよ。こうやって植物の営みを愛で、実りを食べるだけで良くないかな?」
僕は力を与えて実らせた桜桃を摘まみながらそう言う。
満開まで咲き誇り、儚く散ってからも周囲を彩る。
そして芽吹く若葉は時と共に深みをまし、同時に花弁を散らせた実は膨らみ上品な赤の桜桃となる。
余計な事を考えず、これを観賞し食す方が何倍も良いに決まっている。
「普通、植物は時の流れを観賞するものではありませんかね?」
「アンミールお婆ちゃん、植物を愛する想いは人に生まれながら常備されているんだよ。人は常に植物と共にあったんだから。だから早送りでも時の流れを感じれるよ。ね、コアさん」
「はい、やはり人の根源にそう言う気持ちがあるのか、十分に楽しめます」
コアさんは僕と同じ想いのようだ。
本当に植物を愛すると言う概念が人には共通しているのだろう。
植物は人の歩みの隣人なのだ。
隣人愛、この大切さが解った気がする。
「……そもそもあなた達は人ではないですよね?」
何かアンミールお婆ちゃんが失礼過ぎる事を言っているが、これすらも今の僕の耳には微風だ。
植物の素晴らしさの前では全てが平等に背景である。
僕達はアンミールお婆ちゃんの言葉を無視して植物で癒され続ける。
次々と芽吹いて行く若葉、艶々の葉色、うん豊穣だ。
生命の輝きに溢れている。
ちょうど僕の前を通り過ぎた生命力を破壊力に転化させた光線のように――――。
…………。
いや気のせいに違いない。
疲れ過ぎているのだ。
もっと癒しを。
植物以外にも世界には美しいもので満たされている。
空から落下してくるあの太陽のように……。
……都会ではよく月と太陽が降ってくるのかな?
うん、そうに違いない。
ただの自然現象。
創世から神々が存在する世界にありがちな太陽は、僕達に当たると波動のような焔になって拡散した。
当たると濡れる雨よりも達が良い。
やはり自然現象に違いない。
「コアさん、何も異常なんか起きていないよね?」
「当然です。異常など起きるはずもありません」
僕達は貼り付いた笑顔で語り合う。
平和そのものなのだ。
僕達を脅かすものなど何もない。
「「…………」」
僕達の間を通り過ぎて行った極大斬撃も何かの見間違いに違いない。
「は、ハハハ、大丈夫ですよマスター……」
コアさんは自分に言い聞かせるようにそう言う。
コアさんがそう言うからには、コアさんに当たって弾けている超加速されたアダマンタイトの銃弾の嵐は、きっとポップコーンの見間違いか何かだ。
バリバリ、ちょっと鉄分みたいな何かが強いが、きっと新しい味のポップコーンだ。
食べれたから少なくとも食べ物であることに間違はいない……。
「そ、そうだよね。大丈夫、だよね?」
僕も平和であると信じて、自分に言い聞かす。
僕の言葉を根本から消し去るように炸裂していく過剰な数の核兵器も、平和的日常風景の一部だ。
実際に被害は眩しい事と五月蠅い事、そして辺りを汚している事ぐらいだから、砂嵐の親戚か何かだ。
平和な日常の一コマでしかない、筈……。
「……へ、平和だね……」
「……へ、平和ですね……」
僕達は剥がれそうな笑顔で確認を求めあった。
僕の頬を掠めるように突き抜けて行く神槍、コアさんの食べようとしていた桜桃のど真ん中に突き刺さりそのまま奪って行く破魔矢、僕達を飲み込む超科学のビーム、僕達を裂くように間に刻まれる空間の穴、僕達を通過する死そのものである呪詛、ビックバーンビッククランチの連続波、等々…………。
「「…………」」
……認めるしかない。
平和も平穏も安息も、ここには存在しない……。
前向きに進むのが良いと言うが、前方が無いときはどうすれば良いのだろうか?
現実逃避を止め、再び戦場に目を向けると、何故か先輩達が増えていた。
「……アンミールお婆ちゃん、何か人、増えてるんだけど?」
「あの生徒達もアークに紹介する予定の者達です。各学科主席、学科委員長、生徒会、風紀委員、全員目覚めた順に此方に来るよう伝えたのですが、戦闘が長引いて合流したようですね」
そのせいで戦闘に余裕が出来、馬鹿げた流れ弾が此方に被弾しているようだ。
そして僕達は、あの四人の他に新たに来た人達とも顔合わせをしなくてはいけないらしい。
あらゆる意味で困難が激増してしまった。
何故こんな目に……。
「少しずつ解消しようとしないからこの様な事態に陥るのですよ? よく言うでしょう、宿題は後に溜め込んではいけないと」
溜め込んでこんなことになるのなら、宿題を無くせば良いと思うのは僕だけだろうか?
こうなれば最後の最後までガーディアンテュポンを信じて、宿題無しの方向に頑張って貰うしかない。
しかし戦場はガーディアンテュポンが劣勢だ。
莫大な生命力と再生力、そして分厚い守りでまだ持ちこたえそうだが、此方まで流れ弾が来る程の攻撃を受ける一方。
その巨体から絶大な威力の攻撃を放てるが、広範囲攻撃で単体相手の力としては先輩達を退場させる程ではない。
そもそも魔眼を含めて分かりやすい為、先輩達は容易に避けれていた。
だが幸い、殺られそうな気配もまだ無い。
ガーディアンテュポンの範囲攻撃は先輩達に切り札的時間のかかる技の発動を許さず、再生が間に合うからだ。
時間さえ経てば戦況の逆転も出来るだろう。
そう思っていたらその逆転の一手をガーディアンテュポンは繰り出した。
ガーディアンテュポンの咆哮で再び血肉に戻る魔獣。
強力な命の魔力へと置き換わる。
ガーディアンテュポンは魔獣を生け贄にしたらしい。
その代償の対価に破滅を呼び寄せる。
一時大災害に匹敵する勢いとなる大嵐。
塵により発生する莫大な雷。
幾条もの雷が大地を粉砕し、大嵐が絶えずそれを巻き上げる。
風の力に質量と形が加わった風は先輩達を問答無用で地平線まで吹き飛ばす。
シールドを張ったところで宙に舞い、雷と凶悪な研磨機と化した大地の瓦礫に猛烈な勢いで削られて行く。
生き残るには風の影響の比較的弱い位置まで潔く飛ばされるしかない。
初めて先輩達の間で回復魔法が使われる。
何だか知らないがいきなりの逆転だ。
やはり最後まで信じる事は力があるのかも知れない。
だが先輩達も諦めない。
長距離からの攻撃を試みている。
無数の魔術にミサイル、斬撃に打撃、ビームを連射する。
しかし大嵐はそれらを弾き砕き呑み干す。
此方まで来ていた極大攻撃すらも容易く呑み込まれた。
だがそれでも果敢に先輩達はガーディアンテュポンに挑む。
攻撃が全て通用しないと見るや、何度も大嵐の中に突撃し、ぼろぼろになりながら弾き出される。
何度も何度も何度も。
武器が折れようとも、鎧が砕かれようとも、血で肌が見えなくなろうとも、何度も何度も何度も挑む。
幸い学園屈指の鍛冶師錬金術師に回復術師がいるが、常人なら一撃で屈する絶望に何度でも挑んで行く。
想わず惹かれ魅せられるしまう、英雄の行いだ。
僕の立場でもいつの間にか目が離せなくなった。
正面が駄目ならと地面から突撃するも、大地ごと吹き飛ばされ。
上空からならと飛空挺で目指すも、スクラップにされ。
ならばと転移を使い瀕死になっても諦めない。
それで一歩一歩でも確実に進んで行く。
その執念が叶ったのか大嵐も弱まった。
時間切れだ。大量の生け贄を使ったところで無限の力が手に入る訳ではない。
先輩達は強い心で大嵐を退けたのだ。
だが巻き上げられた大地はそのまま残り、尚も嵐の刃として存在し、その摩擦によって発生する雷も初期と比べて断然多い。
ガーディアンテュポンが強化されているのは変わらず、初期より数段強いままだ。
それでも一気に先輩達は攻勢に出た。
猛烈な勢いで迫り来る岩盤を砕き、ある時は踏み台にし、果敢にガーディアンテュポン目掛けて進む。
途中雷が襲いかかろうとも打ち払い、石の飛礫を粉砕し、足を止めることはない。
そして叶う反撃の嵐。
全包囲から集まった先輩達の攻撃がガーディアンテュポンを埋め尽くす。
炸裂する攻撃で飛び散った血で嵐が染まる。
しかしこれ以上は攻められなかった。
途端に変化する血の魔獣、そして大きく抉られ着地する地面が無いなど、足場の問題で長くは留まれない。
攻撃を放ち体勢を崩した途端に飛ばされた。
そこで次の試みが発動される。
挑んで行った人達が戻ると巨大な結界が展開された。
風を押さえ込む作戦らしい。
非戦闘系の学科の人達総出の封印結界だ。
封印は通常滅ぼしきれない相手に使う最後の手段。
それを先輩達は破られる覚悟で、風のみでも防ぐつもりらしい。
視れば、封印科主席の巫女姫ファーレン先輩が自らの血を対価に邪神をも封印する特殊固有結界を構築し、結界科主席の巫子王子ファーラン先輩が妹の結界を強化。
それを封印科委員長の墓守兼看守アルファド先輩が死の性質を応用して補強し、結界科委員長の元引きこもり系ダンジョンマスターなムガン先輩がそれらを包み込む。
他の先輩達が各々の手段でそれらを補強、サポート。
魔術科委員長の見かけ普通なアルフレッド先輩は莫大な魔力の供給を行い、見た目通りの魔術科主席のアーグベルグ先輩と魔法科主席のレイブン先輩、リケジョと呼ぶのが似合う魔法科委員長のレーオーレ先輩は術式に介入し強化。
料理科主席の恰幅のいい皆のお母さん感が溢れるポエナ先輩と料理科委員長のコックと執事を混ぜたようなマルク先輩はひたすら力の出る料理を作り、それを完璧に見える従者科主席イェレンクール先輩と従者科委員長のマイアーゼ先輩が各々の口に運ぶ。
そしてこうしたサポートが得意でない先輩達はなんと結界を直接押していた。
生産科や機械科、科学科等の先輩達も夢溢れるロボットやゴーレム、ブルドーザー的なもので同じく押し込む。
力ずくの脳筋戦法だがなんと効いている。少しずつ確実に結界は縮んでいるのが目視で判る程だ。
しかし結界自体を含めてかなりの力技。
封印と結界の術式を維持する四人の先輩達の負担は凄まじく大きい。
血管を破裂させたり、吐血しながら回復科に聖女科、医学科や医術科、さらには盾職科や死霊科の身代わり技を含めたサポートで何とか持っている状況だ。
それでも皆真っ直ぐな眼差しで、固い覚悟で挑み続ける。
結界を押し込む人達も身体の限界を越えた力で、血を吹き出しながら構わずに押さえ込み、ロボットに乗り込んだ先輩達もショートする魔力電力に構わず突き進む。
芸術科の人達も必死にこの光景を絵画に残し、情報科芸能科音楽科の人達も必死に書物に、台本に、楽譜に書き記して行く。
うん、この人達は余計だ。
しかし何故かこの人達の方が必死な様子。
解せぬ。
と、思ったが他の先輩達の力が上がった。よく視れば書かれているものは何れも成功した光景だ。
その光景に現実が引かれているらしい。
そんな信念が叶い、遂に結界の規模がガーディアンテュポンの大嵐で出来た大穴まで前進した。
だがここから先に足場は無い。
圧倒的な身体能力を持つ先輩達は空を蹴って飛んでいたが、ここで必要なのは踏ん張る力。
どんな脚力でも地面がなくては結界を押し込む事は出来ない。
そこで次に先輩達の取った行動は足場造りだ。
何故か皆一瞬意識を取られている不思議な、謎の精霊の鎧を身に纏った人達を初めとした空を飛べる人が必死に押さえる隙に、土属性に適性を持つ人達で地形を変える。
大穴を少しずつ埋めつつ、結界の位置を一度ここで固定するつもりのようだ。
あっという間に山が出来る。
しかし山程度でガーディアンテュポンは抑える事は出来ない。
そこで建築科錬金科鍛冶科の人達が山を改造して行く。
アダマンタイトメッキを施した柱を結界周囲に埋め込み、幾重もの鎖で縛り付けた。
最後に商業科や王侯科、謎の精霊鎧さん、その他有志が歯を食い縛りながら捻出した大量の金貨を捧げ、鎖をアダマンタイトに変える。
この先輩達の顔がこの戦いの中で一番絶望していたのが不思議だが、仮の封印は完了した。
だがそれも長くは持ちそうに無い。
結界を張った先輩達は今も血を吐いている。
幾ら回復が間に合っているとは言え、このままでは長くは持たない。
ここで先輩達は一斉に切り札を切った。
一度発動すれば大いなる力と引き換えに立てない程に消耗する技の数々だ。
多くの先輩達が光に包まれる。
激しき命を消耗しながら……ってなにやっているのっ!?
先輩達は迷わずに寿命まで代償に捧げ始めている。
魂まで砕け、意志も消え去りそうな勢いだ。
本気にも程がある。
僕とコアさんは慌てて失われていくものを戻し保護して行く。
だが僕達の心配をよそに先輩達は力の解放を止めない。
と言うか多分僕達が保護しているから大丈夫だと勘違いして、さらに力を引き出そうとしている。
結界は一気に縮み、ガーディアンテュポンの手の届く位置まで前進した。
ガーディアンテュポンがその手でそれ以上縮まないように押さえるが、先輩達が押し返す。
そして一気に最高威力の攻撃を発動した。
アゼル先輩は結界、それを押さえる全ての人達の力を一纏めに調律調和させ、一つの力に変換する。
「集団奥義“未来を背負え”」
それまで詠唱していたアゼル先輩の最後の呼び声と共に、結界が突如婉曲し、消えた。
そしてカナデ先輩の剣に収束。
剣を大きく構え、力を貯め、極限まで集中力を研ぎ澄ませる。
支援を得意とするものは全ての力をカナデ先輩に注ぎ、その他の先輩は全員で一斉攻撃。
カナデ先輩への攻撃を消滅させガーディアンテュポンに隙を与えない。
時は満ち、先輩達の全てを引き継ぎ想いを乗せた最極の一撃が放たれる。
「集団奥義“開宝”」
全てを集めた想いと力が、その想いに世界を塗り替えるように優しい白亜の開光を解き放ち、ガーディアンテュポンを染める。
斬撃なのか打撃なのかそれらを介さないエネルギーの集合なのかも判断出来ないたった一つの一撃。
ガーディアンテュポンに打ち勝つという力が存在していることしか確定していない、それ以外を削ぎ落とした純威力の一撃は、ガーディアンテュポンが存在していた形跡を一切遺さず、世界ごと抉るように消滅させて行く。
世界の崩壊が招くあらゆる災悪をも残さず消し飛ばし、ここに戦いは終結した。
「コアさん、凄いね。あんなに勝ち目が無さそうだったのに諦めないで、遂には勝っちゃうなんて」
「これが英雄、なのでしょうね。世界すらが手を上げる災悪に立ち向かう最後の希望。永きに渡り語り継がれる理由が解った気がします。その姿だけでも希望を与えてくれるのですから」
僕達は突き放そうとしていた人達に完全に惹かれてしまった。
初めて目が釘付けになったときから、未だに目を放せないでいる。
今はただ、不完全なことで魔物法則が採用され本体が消滅しても尚、残されたたガーディアンテュポンの素材と金貨の山の配分を巡り、アダマンタイト化の対価を支払った商業科王侯科その他生産系の人達、特に謎の精霊鎧さんが醜く騒いでいるだけだが、それでも目を放せない。
英雄の姿を、出来る限り最期までこの目に刻みたい。
コアさんの言う通りだ。
人の身で奇跡を行使し希望となった英雄。
彼らは奇跡を在るものだと示し、人の可能性を与えている。
可能性とは希望。希望とは理想を掴む可能性。理想の形。覚めない永久の夢。
永きに渡り語り継がれる訳だ。
誰しも、理想があるのだから。
求めるからこそ、理想なのだから。
終わらないものこそが、理想なのだから。
なんで僕が英雄達を好きになったのか、改めて、いや初めて理解出来た気がする。
僕は都会に出ると決めたとき、家族以外の誰かを欲した。笑顔の幅を増やしたい、それが理想だった。
コアさんと出会ったとき、理想は共に何かを成す事に変わった。
そして今、新たなものに出会い続けている。理想に知りたい、視たい、入りたいと、変わり続けている。
理想は原動力だ。好きなものを増やし、進み続ける事が出来る。
だけども理想は悲しみを増やすものでもある。
理想が増えればその分、今まで何とも想わなかった事に悲しみを抱く事になる。
理想は理想だからだ。増え続けるものだから決して全てが叶う事はない。それなのに求め続けるものが理想である。
だがだからこそ皆英雄を求める。
理想を与えて、奇跡を見せるからだ。
奇跡と言う不可能を可能にして見せ、憧れとして理想の形で与える。
勇気づけると共に、奇跡の行使を理想として原動力にしてしまうのだ。
その理想があれば、不可能と想いながらも進む事が出来る。可能を可能にするのでは決してその理想は叶わないのだから。
そして英雄達も決して完璧ではない。
だから英雄は理想と希望を一つにする。
「コアさん、僕、あの人達に会ってみたいな」
「奇遇ですね。私もです」
僕達の心は一致した。
これも理想を増やされてしまったのかも知れない。
でもそれを苦だとは想わない。
憧れた事に、間違いは無いからだ。
世界がより明るく見える気がする。
視るものが増えたのかも知れない。
先輩達のいる方向なんか真っ白に視え―――
「「……あっ」」
僕達にカナデ先輩達の放った攻撃が直撃した。
訂正。
先輩達は会いたいほど憧れの対象では無い。
英雄であることは認める。英雄として好ましくもある。
しかし遠くから凄いな~と視るくらいがちょうどいい危険人物だ。
背中を追いかけたいとは想わない。
真の理想は、そう簡単に変わらないものだったのだ。
やはり僕の理想は平和、最終的にはそれだけでいい気がする。
先輩達の攻撃で煤けたところを払っていると、遂に先輩達が神殿の入り口まで来てしまった。
まあ先輩達は回復したとは言えボロボロ。
僕達は酷い仕打ちを受けたが、先輩達が頑張ったのも事実。
もう大人しく会う事にしよう。
あれだけの光景を視せられたら、そうせざるを得ない。
皆一度に来たみたいだから一回の顔合わせだけで済みそうだし、さっさと済ませよう。
これが終われば平和が戻るのだから。
僕達は溜息をつきながら玉座にどかっと腰を下ろす。
待っていると、階段を上がり姿を現す先輩達。
なんか顔色が青い。
冷や汗も大量にかき、身体は小刻みに震えている。
そして何よりも土下座するような姿勢で張ったまま階段を登っていた。
多分、僕達に攻撃を当てたことに気が付いたのだろう。
拡散した力の一部が残留しているし。
反省しているのかな?
でも純粋に体調が悪そうな感じだし、戦闘直後の方が普通は悪そうだけど、何故か今の方が悪いように見える。
土下座もよく見れば腰が砕けたと言うか、地震のときに頭を伏せる体勢のようだ。
何だろう?
謎が解けぬまま、先輩達は土下座姿勢のまま見事に整列する。
何にしろこの様子だと、この紹介自体も平和に終わるかも知れない。
先輩達は大人しくしていてくれそうだ。
そして揃ったところで、アンミールお婆ちゃんが先輩達を示して言った。
「アーク、コアさん、この者達がこの学園で二人をサポートする学生達です。従者みたいなものですね」
「「はいっ!?」」
前言撤回、先輩達が今大人しくしていようが、僕達の平和は学園にいる限り戻らないようだ。
もう嫌だ。
ガーディアンテュポン、今度は五体くらいけしかけようかな?
《アンミール学園用語解説》
・学術主席
アンミール学園最上級生の中で、最も座学や理論、頭脳が総合的に最も秀でたものに与えられる称号。
ステータスの称号にも表示される。
特定の役職は無いが、イベントなどでよく出番がある。
アンミールが直接選んでいる。
尚、学科主席との兼任は出来ない。
・実技主席
アンミール学園最上級生の中で、最も実技、身体が総合的に最も秀でたものに与えられる称号。
ステータスの称号にも表示される。
特定の役職は無いが、イベントなどでよく出番がある。
アンミールが直接選んでいる。
尚、学科主席との兼任は出来ない。
・主席補佐
上記二つの称号のものに各々付く補佐役。
主席を手伝うのではなく、主席がやらかすのを抑える役目。
主席に奇人変人天才が多く大いにやらかしてきた為に作られた役職で、主席の直属の後輩が強制的になる。
尚、直属の後輩とはアンミール学園の制度の一つで、アンミール学園ではクラスが各々違う学科の人々から構成される。
学科は特定の授業を行う括りで、そもそも初めから気は合いやすいが長時間は共にいないので、学科内の結束を高める為に授業によっては同学科の一年上の先輩が固定で付く。
つまりクラスの学科はバラバラでも一番お世話になりやすい先輩は同学科になるように定められている。
この先輩からして特定の後輩が直属の後輩である。
長年振り回されているために、一番扱いを知っているのだ。
そして抑える側に元々付くことが多いので、主席補佐は比較的まともな者も多い。
直属の先輩が主席に選ばれると、決まって彼らは気付かないほど自然に涙を流すと言う。
何故かステータスの称号に表示される。
・学科主席
学科の最上級生の中で最も秀でた学科に関わる力を持つものに与えられる称号。
各学科の専任永年教師達が合議で定め、アンミールに承認されることで与えられる。
ステータスの称号にも表示される。
特定の役職と言う訳では無いが、イベントで出番が多い。
・学科委員長
学科の最上級生の中から選挙で選ばれる役員に与えられる称号。
様々なイベントの実行等に関わるが、一番重要なお仕事はコンビをよく組む主席の暴走を抑えることである。
また、この称号を持つものは自動的に生徒会学科委員も兼任する。
立候補制だが、大抵は立候補者がおらず、最上級生全てを対象とした強制選挙へと移行し勝手に選ばれる。
選挙の時期になると選ばれそうな真面目な生徒達は揃って自分を選ばないようにと、逆選挙活動を開始する。
尚、当然のようにステータスの称号に表示される。
・生徒会
アンミール学園模範生徒の中から選出されるおそらく学園有数の苦労人達が得る称号。
全校生徒の選挙で選ばれるが、初めから立候補制ではなく、永年教師から承認された模範的な生徒が強制的に候補にされる。
この時の選挙活動は熾烈を極め、それでも候補者の根が真面目な為に、相手を誉める合戦になる。
尚、生徒会長等の役職に選出されなくても、一定数以上の票を獲得してしまったら生徒会入りである。
席の数は多いので、中々逃れる事が出来ない。
勿論、ステータスの称号に表示される。
・風紀委員
生徒会メンバーが生徒をまとめるのに必要だと判断した人材に、三人以上の承認があれば強制的に与える事が出来る役職。
基本、八つ当たりで生徒会候補でめでたく落選した者は選ばれてしまう。
ただ真面目な生徒だけでなく、他生徒の信頼が厚い生徒が選ばれる事も多い。
当然、ステータスの称号に表示される。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
次回からは本格的にテンプレ(アークバージョン)に入っていく予定です。
またバレンタインデーにクリスマス転生を投稿しました。
本編で主人公の視点の関係上、中々出番の無さそうな設定をそちらで少し紹介しているので、お読み頂ければ幸いです。
尚、その設定は本編ではまだまだ関係ありません。




