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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第3章〈アンミール学園の新入生イベント〉あるいは〈完全縁結びダンジョンの謎〉

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第四十話 狂人あるいは勇者

 

 ガーディアンテュポン、その存在は凄まじかった。


 存在するだけで僕達が作り出した竜巻以上の暴風が吹き荒れ、その魔眼に写るものは焼却されて行く。

 何故か神殿と花畑は無傷で空の中だけの出来事だが、それでも凄まじい。

 青い空が竜巻の黒と炎の赤に染まっている。


 そんな怪物の巻き起こす暴風の中、先輩達計六人は飛ばされることなく、何故か平然と変わらず騒いでいた。


「これは、今まで見たこともない程上質な魔獣()ですね。試練(奇跡)と言うことですか。ありがたくお受け(頂戴)いたしましょう」

「カナデ先輩食べるんですか!? いや、解りました! 貴女が望むものなら例え何であろうと、俺が貢ぎます!」


 藁の家どころかレンガの家も軽く吹き飛ばす暴風は微風だと無視し、ガーディアンテュポンを獲物としてしか見ないカナデ先輩と、そのカナデ先輩に夢中でガーディアンテュポンは貢ぎ物でしかないと考えるイタル先輩。


「あれは間違いなく神話の怪物、それも最上位。素晴らしき検体だ。これ程までのものは見たことがない。心理を解き明かす為、我が為の礎となろう」

「あれがあれば貴方はもっと素敵になるんですね! 分かりました! 私が貢いでみせます! だから私の研究も必ずや!」


 アゼル先輩とセントニコラさんも二人と同じだ。

 目の前の脅威を目的の踏み台としてしか見ていない。


 一応これらを止める人はいる。


「待ってください! 神話の化け物ですよ化け物! 神々が戦うような怪物ですよ!」

「そうです! こんなのと戦えません!」


 そう訴えるのはクルト先輩とケミルナ先輩、主席補佐と言う謎の役割の二人だ。

 この二人もイタル先輩達よりも強い。

 しかし外見は秘書のような真面目そうな感じで、なんか痩せている。

 よく言えば細マッチョイケメンやスレンダー美少女と評せるのだが、目の下には隈があるし、苦労人の相がこれでもかと出ていて痩せ細っているように見えてしまう。


 多分、いつも振り回されているのだろう。

 現在進行形で振り回されているし。

 おそらく力も身に付けたのではない。身に付けてしまったのだ。

 可哀想に。


「「「「何か問題でも?」」」」


 そんな二人の訴えは異常者四人には届かない。


「「こんなのと戦っていたら約束の時間に遅れるでしょうが!!」」


 いや、この二人も既にただの被害者では無くなっていたようだ。

 論点が究極的にずれている。

 僕からみたら十分に四人と同類である。


「「だったらさっさと倒してしまおう」」

「「もう! 早く倒しますからね!」」


 うん、やっぱり完全に同類だ。


 何にしろ流れはガーディアンテュポンとの戦闘へと向かう。


 カナデ先輩とアゼル先輩はすぐさま動き出した。


 一瞬で肉眼では追えない程に加速。


 金剛石の透き通る剣戟とネジ曲がる時空の衝突は、澄んだ破壊の芸術を描き出し。

 十二の色取り取りの聖魔剣と金剛石の神剣の衝突は、世界に刻み込むように音楽を奏で、切り裂かれる世界はガラス片のように散っていく。

 全てが破壊の力であるのに洗練され澄んでいて、まるで人の生み出した自然の到達点のようだ。


 …………。


 ……何故かカナデ先輩とアゼル先輩はガーディアンテュポンの立ち向かうのではなく、お互いにぶつかり合っている……。


 何故にガーディアンテュポンとの戦闘に移らない!?

 目の前にこれでもかと存在感アピールしているよね!? どう考えてもガーディアンテュポンと戦う流れだよね!?

 と言うか二人とも何で戦っているの!?


「この魔獣()は私のものだ!」

「何を言うか、私の検体だ!」


 どうやら獲物の取り合いらしい。


 もうやだ……。


「先輩、そろそろ止めないと、俺達で倒して来ちゃいますよ?」

「私が倒したら、先輩には検体として分けてあげませんからね? それに――」

「「鮮度が落ちますよ?」」


 主席の二人の応酬が激しさを増し、ガーディアンテュポンの暴風をも吹き飛ばすほどの嵐が吹き荒れたところで、やっと補佐の二人が止めに入った。止めたと言っていいのかは微妙だが。

 それにしてもほんの数十秒の激突がやっと感じられるとは不思議である。


 兎も角、鮮度の落ちると言う一言で主席二人の動きが止まった。


「「それは困る」」


 その言葉と同時に争いも終わる。

 なんと言うか、補佐の先輩の慣れと苦労が透けて視える。

 淡々と述べていたし、きっと何度もこんなことがあったのだろう。下手したら日常なのかも知れない。


「じゃあ、鮮度が落ちない内に皆で倒しましょう?」

「一人で時間をかけて鮮度を落とすよりも効率的だと思います。あの化け物は……先輩でもお一人で倒せるか分かりませんし」


 補佐二人はガーディアンテュポンの脅威をある程度は理解しているようだ。

 一旦落ち着き、ガーディアンテュポンを見上げてから今更ながら冷や汗を全身でかいている。

 おそらく二人にとっては相当な脅威なのだろう。


 それにも関わらず先程までは主席二人の相手を最優先とし、ガーディアンテュポンには見向きもしなかった。

 本当に苦労と慣れが透けて視える。

 きっと振り回されている内に、反射的に先輩の行動を注視するよう調教されてしまったのだ。


 だが、そのお陰で主席二人を何とか御する事が出来ている。


 どんな形でも、努力は実るのかも知れない。

 こんなところで気付きたくなかった道の奨励、希望である。


「致し方ありません。一時休戦です」

「ああ、一時休戦だ。生きの良い内に確保するとしよう」


 何であれ、やっとガーディアンテュポンとの戦闘が始まる。


「奥義“霧吹”」

「「「「集団武技“ブレイバーパーティー”」」」」


 初手から主席先輩二人の攻撃は凄まじい。


 カナデ先輩の斬撃は一瞬で空間ごと霧のように細切れにし、嵐を切り裂き、ガーディアンテュポンに傷を与えた。

 アゼル先輩は生やした身体から数多の大魔術を放ち、数多の武技を放った。バラバラに見える攻撃は一人が放っている事により、最大の連携、一つの攻撃となり、隙を与えず着実にガーディアンテュポンへと傷を与える。


 有名な英雄譚ライトサーガで語られるような技だ。


 “霧吹”は〈剣術〉スキルや〈刀術〉スキルの“奥義”。

 スキルレベル10、スキルを極めて初めて発動出来るとされる武技、“奥義”の一つだ。

 一瞬で無限の斬撃を加える技で、伝承によると龍をも血の霧に変えたらしい。


 似たような技に“インフィニティスラッシュ”等があるが、それらは無限に近い数素早く剣を振る技であり、対して“霧吹”は無限に切り刻むと言う結果の伴った技である。

 着実に切り刻むと言うだけで技量によっては武技に頼らなければならないのに、無限に近く切り刻むとは恐ろしく技量を必要とする技だ。

 実質人々にとって必殺技とでも言うべき切り札の連打に近い。


 そんな技をカナデ先輩は初撃からなんの隙も予備動作も無しに繰出した。

 凄まじいとしか言いようがない。


 また、もう一方のアゼル先輩も凄まじい。


 あれはおそらくアゼル先輩のオリジナル技だ。

 しかし結果だけなら僕も知っている。そしてパーツとなった技も。


 パーツとなった技、それは勇者の“ブレイブソード”や“ブレイブブレイク”、賢者の“六元魔砲ヘキサスティヒオ”や“マナブレイク”、聖女もしくは聖者の“ホーリージャッジメント”や“ディバインクロス”等々。

 どれも勇者パーティーのような世界の命運を背負うような人達の使う技だ。

 それも再現した技ではなく本物、寧ろ本職の人よりも洗練されていて強力だ。


 ここまででも十分凄いが、特筆すべき点は完璧な調和をもって発動していることだ。

 一つの技となっている。

 その威力は絆を高めきった最高の勇者パーティーの最高火力より断然上だ。


 そもそも一つとなっているパーツの数からして違う。

 勇者パーティーは精々多くても10人程度、つまり連携して繰り出す技の数も十程度だ。

 しかしアゼル先輩の放ったパーツの数はおよそ三十。

 そんな大人数の勇者パーティーなどまず居ないし、居たら居たでそれは勇者軍である。

 なんにしろこんな数の技を連携によって一つに束ねるなど不可能だ。


 これが可能となっているのは、アゼル先輩が複数人の集合体のような肉体を持ち、そしてそれを制御しきれているからだろう。

 群を一つにすることを目指す連携が、群であり一つであるアゼル先輩に敵う筈がないのだ。


 本当に凄まじいにも程がある。

 こんな芸当ができるのはアゼル先輩ぐらいだろう。

 例外として【不屈の勇者】、【奴隷帝国の異世界王】と呼ばれたかの英雄の伝承には史上最大規模の連携技、〈奴隷術〉の“奥義”を使用したとあるが、個人で扱えるのはアゼル先輩ぐらいだと思う。


 そもそも強さを求めるだけなら一人で連携技を使う必要など皆無なのだから。

 おそらく真に極める必要があっても、“奥義”を習得する方がよっぽど簡単な筈だ。



 さて、ここまで凄まじく強力な先輩達だが、そんな事想定済みである。

 アンミール学園の非常識さは初日から痛感している。

 だからそんな中でも主席と呼ばれる人達を追い払う対策はしっかりしている。


 アンミールお婆ちゃんから隠れながら速攻で生み出したガーディアンテュポンだが、そんな先輩達でも足止め出来る特殊能力がガーディアンテュポンには備わっているのだ。

 と言うよりもテュポン種にその能力が備わっているからこそ、生み出した。


 その能力とは〈怪物の父〉。

 ギリシア神話によるとテュポンは多くの怪物を生んだ。

 ヒュドラやケルベロス、キマイラを。

 伝承によっては殆どの怪物が彼の子だとされる。


 そんな怪物を生み出した伝承を再現した能力をテュポン種は持つのだ。

 そして神話に語られる子作りとは人のような方法に限らない。

 血を始めとした身体の一部からも子は生じる。


 それをも再現して、テュポン種は喪われた血や肉を魔獣に変化させることが出来るのだ。

 つまりテュポン種は生命力を削られても、その分の生命力、もしくは越える生命力を魔獣、それも神話級の魔獣に変化させる事が出来る。


 早速、先輩達につけられた傷から大量の血が嵐に散り、嵐の中に新たな紅暗き嵐を幾つも生み出し、それが神話級の怪物へと生まれ変わった。

 そしてガーディアンテュポンの傷はその間にも完全回復する。


 この組み合わせこそが先輩達に対する最大の足止め方法。

 テュポン種の喪われた生命力を魔獣へと変える力、そして強大な魔獣特有の再生力。

 実質ガーディアンテュポンの生命力は傷付く程に増え続け、力も増すのである。


 当然、生み出された魔獣の方は簡単に倒されてしまうだろうが、それでも厄介な事に違いはない。

 これならば先輩達を消耗させ、追い払うことも可能だ。


 ふふふ……。


 僕はコアさんと顔を合わせて親指を立て合う。

 これで僕達の安泰は保たれたようなものだ。


 ふふふ……。


「奥義“大地溝”」

「超儀式術式“メテオムーン”」


 あれ……?


 大地を深く刻み両断する超大斬撃。

 月を生み出し隕石として落とす馬鹿げた超大魔術。


 何故か此方にやって来る。


「「うわぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」」


 慌ててコアさんが素手で斬撃を振り払い、僕が月を何処かに投げ返す。

 安泰どころじゃない! 危殆にも程がある!


 強力なガーディアンを前に置いたが為に、それを倒す威力の超絶強大な攻撃がこちらまで被弾してくる。


「自業自得でしょうに」


 と呆れた様子のアンミールお婆ちゃん。

 何故か僕達がガーディアンテュポンを生み出したと気が付いているようだ。

 何で!?


 いや、今はそんな事どうでも良い。

 今は安全第一だ。


「“空間拡張”!」

「“創世”!」


 コアさんがガーディアンテュポン周辺の空間を拡げ、僕がそれを世界として固定しつつ障害物となる山脈などを創造する。

 これで僕達までの距離が一つの世界並みに離れた。

 これで一先ずは安心の筈。


 あっ、……これだけやれば初めから時間を稼げたかも。


 うん、余計なことは考えないようにしよう。

 何にしろ戦いは続くのだ。


 そう思っていると丁度一つ、予想外の事が起きた。


 ガーディアンテュポンを囲む嵐の勢いが激増したのだ。

 拡張空間に創られた世界の空は巻き上げられた大地の残骸により、極厚の岩石と雷降り注ぐ雲に覆われた。

 また、ガーディアンテュポンの視界は灼熱の地獄と化し、ついに先輩達も結界を張らなければ生存出来ない環境へと変化している。


 まるで世界が地獄に呑み込まれる光景でも視ているようだ。


 明らかにガーディアンテュポンの力が上がっている。

 いや、力自体に変化はない。

 今まで僕達を守護すると言う存在意義のために、解放しきれなかった力を解放したのだ。


 ついでに言えば、ガーディアンテュポンの降り立つ世界、これは僕達が急遽創ったに過ぎない世界だ。

 あらゆる保護がかけられた最高品質の庭園ではない。

 破壊が容易なのだ。

 これらの要因がこの光景を生み出している。


 何がどうあれ、ガーディアンテュポンに最高の舞台を与える事に成功したようだ。

 これなら本当に先輩達を追い払えるかも知れない。

 少なくともかなりの足止めが効くだろう。



 ガーディアンテュポンの出力増加により、主席先輩達の後で今までは彼等の戦いを見ているだけだった四先輩も動き出す。

 待つだけでは危険だと判断したのだろう。


 そもそもガーディアンテュポンの血より生まれた化け物達が、先輩達を目指している。

 環境のせいで常に結界を維持しているとは言え、流石に神話級の怪物には歯が立たない。

 迎撃するか逃げるかしかないのだ。


 さっさと逃げるを選択してくれないかな?


 兎も角、まず先輩達はキマイラやケルベロスに立ち向かう。


 猛毒のブレスを放つキマイラ、獄炎のブレスを放つケルベロスに対してはイタル先輩が。

 何故か結界も張らずにブレスを無傷で受けきり反撃する。

 ……そのブレス、記録だと都市の城門も吹き飛ばせるらしいんだけど? あと、無駄に豪華な服、ぼろぼろだよ?


「おいっ! 首がいっぱい有るってどう言う事なんだ!? 身体を重ね合わせて一つってか!? コノヤロォ!! “リア充、爆発しろぉぉーー”!!」


 瞬殺だ……。

 とんでもない理論で多頭種をリア充扱いして爆発させた。

 木端微塵だ……。


 それ、一応神話に出てくる怪物だよ?

 僕達が再現したに過ぎないけど神話に出てくるやつだよ?

 何でリア充にされて爆発されるの!?


 もう、イタル先輩には多頭種を向けちゃ駄目だね……。


 僕の想いが通じたのか、多頭種以外がイタル先輩に向かうようになった。


 まずはネメアレオン。

 ネメアの獅子と呼ばれる神話の怪物だ。

 その強靭な毛皮に攻撃は通らず、かの英雄ヘラクレスの攻撃も通らなかった為、絞め殺したと言う。


 この怪物ならば仮にリア充扱いされても多分大丈夫だろう。


「おっ! 上質な毛皮発見! コートにして貢いでやるぜ! “リア充……”じゃねぇな」


 よし、リア充扱いされなかった。

 それにしてもやはりとんでもない。

 神話の獅子をコートの材料としか見ていないとは……。


 まあ、それでもここで終わりだ。

 さっさと帰ってもらおう。


 そう思っていたらイタル先輩は刀を抜刀した。

 武器、持っていたんだ。

 朝のような闇を照らす光に溢れた白銀の刀。

 多分聖剣、いや神剣の類いだ。

 こんなに良い武器持っていたのに今まで使っていなかったんだ……多分知った人は泣くよ? 数百億円の絵画を段ボール詰めにしておくようなものだ。


 イタル先輩はそんな刀を大きく振り上げる。


「“ビンビンに反り立て 朝断ち”!」


 そう唱えると“朝断ち”と言うらしい刀は空まで届きそうな光の刃となって伸びた。

 おお、凄い!

 何か既に必殺技の剣の一撃みたいな神聖な剣だ。


「「「「「…………」」」」」


 あれ? 僕は凄いと思うのだが、先輩達の反応は乏しい。

 それどころかあんなに唯我独尊でガーディアンテュポンの討伐だけを目指していた主席先輩達も、何故かイタル先輩を振り返り何言っているんだと言う顔をしている。

 真面目そうな補佐先輩達なんか呆れを通り越して虚無の視線だ。理解が追い付かないらしい。


 コアさんに何でこうなっているのか解る?と合図してみが、コアさんでも理解できないようだ。

 凄そうな機能なのに?


 ああ~、如何にも聖剣みたいな光の剣なのに、“朝断ち”って言う名前だからかな?

 多分、朝を斬る剣、闇を払うの真逆に位置する如何にも魔剣っぽい名前だから呆れてしまったのだ。

 まあ、本当の名前の由来は朝の力を帯びた聖剣だろうが、確かに初め聞くとそう捉えてしまい易い。


 つまりただの意味の取り違えだ。

 気にする必要はない。

 今はイタル先輩に注目しよう。


「イクぞぉーーー!!」


 イタル先輩は大きく振りかぶった光の剣を一気に振り下ろす。


 剣を振り下ろされたネメアレオンは一切の抵抗も出来ずに毛皮を遺して蒸発。

 その後方にいた神話魔獣達も一瞬で消え去った。

 ガーディアンテュポンの嵐まで切れ、ガーディアンテュポンにも傷を与える。


 うん強い。

 何も問題のない素晴らしい勇者的行動である。

 仮にその見かけで朝を断つ朝を断つ魔剣だとしても完全に無視して良い働きだ。

 魔力も生命力も消費していない不思議仕様、そう言う神秘的な面から見ても全て評価できる。


 何故か未だに他の先輩達は呆れた視線などを向けているのが不思議だが、何にしても素晴らしい。

 良い物語の一ページを視れたものだ。


 まあ、だからってここまで通す気は無いけどね。


 ガーディアンテュポンは一際大きな嵐を生じさせる。

 攻撃の直後でバランスが若干悪かったイタル先輩は片足が僅かに浮いたが最期、何処までも地面すれすれで飛ばされて行く。

 地面に顔面ダイブしながらの高速移動だ。

 ついでにぼろぼろになった無駄に豪華な服もゴボウの皮むきをしているように千切れ、脱がされる。


 はい、一名様お帰りで~す。


 イタル先輩に気を取られていた先輩達だが、無惨に退場して行くのを見て戦闘に意識を戻す。

 やっぱり助けには行かないんだね。

 これが都会の無情さなのか、先輩達の無情さなのか、判断に迷うところだ。


 尚、イタル先輩の相棒のように思えるセントニコラさんの対応は酷い。


 助けるどころか土属性の魔力精密制御で、イタル先輩の転がる先を下し金状にして追撃している。


 無駄に高等な技術だ。


 魔術を使うのではなく、魔力を直接操作して事象を引き起こしている。力業かつ超精密さを要求される技術だ。

 土を操作して階段を作るとかなら簡単だが、下し金のような細かいものを広大な範囲に用意するなど狂気の沙汰である。


 下し金なんて調理器具を態々土で作る人が歴史上いなかったから魔術を発動できなかったのだろうが、だったら普通はやらない。

 それ以前に大地を下し金に変えたいと思うような事はまず無い。


 そんな非常識な技をセントニコラさん無表情に技を行使する。

 反射的にヤっていそうだ。


 ……一体どれだけイタル先輩を痛め付けたいのだろうか?

 感情的にヤっていない分怖い。


 そして下し金を超特急で転がり続けているのに、割りとケロリとしているイタル先輩も怖い。

 と言うか完全に全裸になった途端、自ら下し金を滑り止めに一回転。体勢を取り戻し一気に戻ってきた。


 何か、全裸になって強くなっている。

 どれ、……【露出教名誉大司教】だったんだね。

 なら納得だ。

 全裸状態で強くなっても違和感を持たない。


 それにしても名誉とは言え大司教?

 ……とんでもなく露出教に気に入られているね。

 露出教のレイシャル(主神)マリアンネ(元狂)、僕の親族だから強くは触れないけれども……。


 一応は勇者が強くなって復活する場面であるとも言える。

 ここはそうとだけ思っておこう。


 そう思えば人々を勇気づけ夢を与える伝説の光景に視える筈。


 ぼろぼろになりながらも立ち上り、前へと進む勇者。

 世界を包む嵐を股間の光で照しながら進み続ける。


 ……うん、駄目だ。

 とても良い光景には視えない。いや、何故か良く視えてしまうけど良く視てはいけない。


 何で股間が物理的に光っているの!?

 自主モザイク!?

 と言うかどうやって光らせているの!?


 変質者よりも意味不明な何かだ。


 イタル先輩はそんな状態も気にせずに刀を振り上げる。


 それと同時に股間の光は弱まり、対応するように刀は天高く反り立つ光の剣となった。


 ……魔力も生命力もその機能に使ってないなって思っていたけど、そんな原理だったんだね。

 恐らくは性欲を力に変換する聖剣、それが“朝断ち”。

 他の先輩達の態度はこれを知っていたからかな。


「入学式中、一週間溜め込んだ全てを喰らえ! イクぜ! “昇天”!!」


 全裸効果がプラスされ、さらに武技を使用したことで“朝断ち”の光が嵐に巻き上げられた土全体を照らす。

 まるで世界を天輪が覆っているようだ。

 アレな技なのに神々し過ぎる……。


 一気に振り下ろされる“朝断ち”からは膨大なエネルギーが、白い光として溢れ出る。

 進路上の怪物達を毛皮以外蒸発させ、ガーディアンテュポンに迫った。

 そして胸の中央に届く。


 ガーディアンテュポンのアダマンタイトよりも硬い外皮を粉砕し、進んで行く。

 その全長一キロを超す巨体からは滝のように血が吹き上がるが、それが魔獣化する前に消し去り、外皮を削って行く。


 そして遂に外皮を破った。

 ガーディアンテュポンの肉を穿つ事に成功する。

 城のように巨大な肉がいくつも飛び散り、消し去りきれない量の血が噴火のように噴出して行く。


 放出される光は膨大過ぎる血の噴出に、威力を散らされるがそれでも肉を穿ち続けた。


 光が止んだ時、照らしていた先にあったのは血が噴出する巨大なクレーター。


 倒しきる事は出来なかったが、イタル先輩はガーディアンテュポンに明確なダメージを与える事に成功した。

 ガーディアンテュポンの傷は再生されて行くが、見える速度だ。一瞬ではないし、あまりもの巨体の為、強大な再生力も追い付かない。



 僕達はガーディアンテュポンを送り込んだ側だが見事だ。

 全裸とかはただの変態だと思っていたが見直すべきかも知れない。

 良く考えれば世界宗教として露出教があって、英雄の使う大罪スキルに〈色慾〉もある。


「コアさん、偏見って良くないんだね」

「そうですね。人は見かけによらない。一見変質者にしか見えない方にも、これが当てはまるとは思いも寄りませんでした」

「人には本当にいろんな面があるんだね」


 ただの先輩達を追い払う策だったが、素晴らしい事を気付かせてくれた。


 人はあらゆる面があり、それらの要素は例え逆に見えても両立させる事が出来るのだ。いや寧ろどんな要素でも両立させてしまう。

 だから良く視なければいけない。信じなければいけない。

 誰に宝石原石があるのか、いやどの面に宝石があるのかは、すぐには解らないのだ。


 だからまずは全てを受け入れる必要がある。

 初めから拒絶してはいけない。

 大切な面を逃してしまうから。


 そして解ったらあとは捉え方次第。

 良い面を本質と捉え、悪い面を個性すれば評価など簡単に一転する。

 悪い面が強い人でも大半は面白い人だ。


「これからはちゃんと理解して、もっと視守って行こうね」

「はい、最後まで視守りましょう」


 まあ、先輩達をここまで通すつもりは無いけどね。


 面白い人は、遠くから視守るくらいが丁度いい。





 《用語解説》


 ・奥義

 スキルレベル10になって初めて使える可能性が出る武技、もしくは文技。

 スキルレベル10を越え、スキルが覚醒しても大半の者は使えない事が多い。使用できても莫大な代償が必要な事が多い。

 基本的に、アクティブスキルをパッシブスキルに覚醒させられる程の超越者でなければ使えないと考えた方が自然である。

 この場合は普通の武技と同じように奥義を発動出来る。


 その威力等はどれも神の領域に届くもので、地形を簡単に変えられる。



 ・集団武技

 集団で発動させる武技。

 主に〈ファランクス〉等。

 戦略級の技であり、使えるか使えないかで戦争等の結果を大きく左右する。

 一般的に同じ動作の集合の集団武技程難易度が低く、一つ一つの動作がかけ離れている難しい。

 当然、大人数で発動させる程難易度は高い。



 ・霧吹

 〈剣術〉〈刀術〉スキル等の奥義。

 空間ごと霧になるレベルまで切り刻む技。

 他の技で威力を再現しようとすると空間ごと真っ二つに両断する“次元斬”を、それこそ無限に近い数放つ事になる。



 ・ブレイバーパーティー

 アゼルの使用した集団武技。

 本来は勇者パーティーが最大限以上の力を振り絞る為に使用する、賭けの切り札。

 各々の必殺技を最大威力の集合技に変換する。

 実現がギリギリ見える最大のコンビネーション技である。



 ・大地溝

 〈剣術〉〈刀術〉スキル等の奥義。

 大陸を両断するほどの射程と威力を兼ね備えた、極大遠距離斬撃。

 斬撃の幅、高さ低さも巨大で、使用者によっても違うが、地殻を割り、それこそ大陸を二つに分ける威力がある。



 ・ムーンメテオ

 〈星属性魔術〉〈月属性魔術〉スキル等の魔術。

 月を生み出し隕石として落下させる超大魔術。

 基本、大儀式が必要。

 上記のスキルで発動出来るが、人の身の魔力では発動出来ないし、そもそも上記のスキルの所有者自体滅多にいない為、まず大儀式を行って無理矢理発動させる。

 この場合、スキルはあまり関係無い。ただし手順が非常に複雑で魔力の消費量が莫大になる。アゼルはこれを行使した。



 ・不屈の勇者

 あらゆる世界で、圧倒的に広い範囲で語り継がれる英雄譚の主人公。固有スキル〈不屈〉が“勇者”の条件だと広く勘違いされる原因となった人物。

【奴隷帝国の異世界王】【奴隷帝】【一身大国】【世界服従の王】等数多の二つ名が語り継がれている遥か太古、異世界から召喚された勇者で、最初期の二つ名は【呪い返しの勇者】。


 〈不屈〉は最強の精神保護スキルであり、どんな困難にも挫けずに立ち向かえる勇気のスキル、本来はただそれだけである。

【不屈の勇者】深導勇気(ユウキ=シンドウ)は召喚される際、神に望んだ力は直接闇を振り払う力ではなく、弱い自分を変え最後まで他者に寄り添えるようにする力であった。


 しかし召喚時、彼を召喚した連合国軍は召喚した勇者達を単なる戦の道具にしようと、召喚術式に初めから強く神の加護を持つ勇者にも通用する非常に強力な隷属術式を組み込んだ。

 しかし〈不屈〉により彼は支配されることなく、強すぎる呪いは逆流しさらに強大になって召喚した者達、また間接的に魔力を供給していた連合国軍全国々の人々まで跳ね返えり、彼の奴隷となった。

 そして彼は【奴隷王】となる。


 その後彼は暫く人々を奴隷にしたとは気付かず、奴隷にしようと企んだ人々に対しても善政を施し、誰もが認める勇者としての行動でその世界を救う。

 その彼の善行善政は国民が自主的に不老長寿の霊薬を探す程だったと言う。尚、現在も御存命。


 この輝かしい勇者の功績を見た神々は、異世界召喚の隷属の危険性とその対処法を知り、自らの勇者に〈不屈〉を与えたと言う。


 こんな流れで目立つ行動をし、広くに彼の話は流布された。

 当然のようにアークの親族の一人であり、彼の子孫でアークの親族となった者は大勢いる。

 また彼は全世界屈指の【ハーレム大帝】であると言う。



 ・空間拡張

 空間を拡張させる力。

 同名の技は多数あるが、今回行われたのは世界の中の一領域にその世界とどう規模の大きさを持たせると言う力技。



 ・創世

 創世する力。

 世界を生み出し組み換える力。

 基本、何でもあり。



 ・朝断ち

 性剣。一応は神剣の域に届きうる聖剣。男性専用。

 性欲、と言うよりもその結果と実行能力とでも言うべき残弾を対価に力を発揮する刀。そのナニかを反り立てる力を込めるとおっきくなる。

 作製者等の詳しい情報は解らない。特定の誰かが造ったと言うよりも色々な者の手に渡り続け変化誕生した剣である。ある種の奇跡。

 よし彼処に放置されている剣で鍛錬の練習をしよう、よしあの剣を実験に使おうと言うようなノリを繰り返し、誕生する。

 アンミール学園が制作地で、真価が判りにくい為にご自由にどうぞコーナーに捨てられていた。それをやらかしたコセルシアがそれを解決しようとやらかした結果、最高の主の手に渡る。この事を当時慌てていたコセルシアはまだ気が付いていない。



 ・昇天

 “朝断ち”装備時専用の武技。

 性欲の実行力ある残弾の数の消費が激しいが、その分だけ威力を増し続ける必殺の一撃。

 仮に〈色慾〉の所有者が使用したら山をも吹き飛ばせる。龍をも倒せるかも知れない。そして当然、ガーディアンテュポンには傷も与えられない筈である。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

次話はバレンタインにクリスマス転生を更新するので投稿が遅くなるかも知れません。

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