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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第2章 〈アンミール学園入学〉あるいは〈都会生活の始まり〉

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中心あるいは外側の第0話 創世神話

投稿開始一周年記念です。


内容は色々な立場からの創世神話です。嘘はありませんが、真実でもない、そんな創世神話です。

 

 ――ある一般的な母子――


「今日は世界がどうやって出来たかのお話を聞かせてあげるね」

「うん! してして!」


 ~~~~~


 昔々、世界が無かった頃、あるところに一本の木が生えました。


 ある時、木からは神様が生まれます。


 神様は自分一人しか居ない事に気が付きます。


 だから神様は粘土を捏ねて動物や鳥を創りました。


 そして神様は話し相手を創ろうと、木の枝を一本持って自分に似た形に彫りました。


 こうして人間が誕生します。


 神様はこの人間の為に、世界を整えて行きました。


 そして創造物達は増え、世界に満ちて行きます。


 満足した神様はそのまま木の元に残り、創造物達を見守る事にしました。


 神様が我々を創造した地は今日では聖地と呼ばれています。神様は今もそこで我々を見守ってくれているのです。


 ~~~~~




 ――とある一般的な司祭――


「今日は神がどのようにして世界をお造りになったのか、お話しましょう」


 ~~~~~


 世界が造られる前、そこは混沌でした。


 生まれてきた神々ですら、次々と永久の眠りにつく、秩序なき空間でした。


 そこにある時、一柱の神が誕生します。


 神は眠りについた神々の一部を使い、世界を整える事に成功しました。


 そしてまた、世界を管理するために人間を神々の残りから創造しました。


 神は人間のために祝福された絶対なる地、聖地を与えると、自らも永久の永き眠りにつきました。


 創造された人間達は神を復活させる為に宗教をつくり、祈りを集めました。


 やがて神に力は戻り、世界は安定して行きます。


 しかし世界はまだ不安定のまま、世界な為に、神の為に、そして人の為に、信仰心は大切なのです。


 ~~~~~




 ――とある精霊と人のやり取り――


「我を召喚したのは汝か? 願いを叶えよう」

「願わくば、この世界の成り立ちを教えて頂きたい」

「よかろう。我が見聞きしたものを、時間の赦す範囲で語ろう」



 ~~~~~


 世界が混沌であった頃、神と人とのに区別は無かった。

 同じ存在として、初めからそこにあった。


 その存在は初めから滅びる定めの元に生まれていた。


 だから抗った。

 しかし世界の混沌は深まるばかり。


 そうして行く内、特に秀でた個体が現れ始めた。


 その個体は導く者となり、残りは導かれる者となった。

 これにより、一つの種は神と人とに分れた。


 神は人の願いを具現の力とし、願いにそう世界を造った。


 ~~~~~




 ――とあるアンミール学園生徒と教師のやり取り――


「創世神話を知りたい? 勉強熱心ですね。勿論いいですよ。では特別講義といたしましょう」


 ~~~~~


 無に光あり、共に闇が生まれた。

 時もそのときから流れた。


 光は人の姿をとり、そこに佇む。


 永久の時の果て、光は増し、果てまで満ちた。

 人の姿は動きだし、人の男の形になり、空間が生まれた。


 彼は足場である底を創り、自分から女の姿を持つ存在を創った。


 彼は彼女との住みかに底に土をまき、天に風を与えた。飾りに木を植え、木に水と火を与えた。


 二柱は住みかを拡げ、土は大地に、風は大空となり、世界が出来上がる。


 彼らは広い世界に動きを欲し、お互いの一部を交ぜ合い、形を整え、二柱の、それぞれ男と女の姿をした子を創った。


 そして彼らは子の為に、意思ある存在、龍や精霊を創造した。


 やがてこの子らは夫婦となり、一柱の子が生まれる。


 しかしその後には子が誕生しなかった。


 そこで夫婦は親が龍達を創造した方法で、自らと似た外見を持つ種族を創造した。


 土で形を、水で動きを、風で崩れないようにまとめ、動力源として火を与えた。


 こうして創造された種族は、親である彼らと共にすごし、永遠に近い時間、果てまで繁栄し理想の世界を造った。


 そしてある時、ついに夫婦の子の妻が生まれる。

 そして二柱も夫婦となり、子を創った。


 だが、理想はそこで終わった。

 創造した種族から、子が生まれなくなってしまったのだ。


 理想の民は親を真似た。


 自らと同じ姿を持つ種族を創造したのだ。


 しかし、新たに創造された種族は弱かった。

 理想の民と違い、完全な不死ではなく、老い。

 理想の民と違い、生きるのに日々の糧を必要とした。


 理想の民は彼らに必要なものを揃えていなかった。

 すぐに滅びの運命が迫ってしまったのだ。


 理想の民は、世界の上に新たな世界、彼らが生きられる世界を創造し、彼らに強力な加護を与え、彼らを生かす事に成功する。


 だが一つ問題があった。

 彼らは理想の民の想像を越える早さで増えたのだ。

 理想の民が用意した食と資源に満ち溢れた世界でも、足りなくなる程に。


 そこで理想の民は世界が広がり続けるようにした。


 その代償に自らは力を消耗し、理想の民は深き眠りについた。


 遺された理想の民の親達は大層嘆いた。

 水、雲、霧の大海でき、新たな世界は幾つもに分けられた。


 そして理想の民を想って、新たな種族を見守った。

 決して滅びないように、各地に聖地を設けて。



 ~~~~~


「これが世に一番広く語られている“創世神話~理想期~”です。このあとには“創世神話~大賢者~”が続き、そのあとに“創世神話~神期~”、そのさらにあとに各“創造神話”が続くとされています」

「先生、私の故郷で聞いた話とは大分違うのですが?」


「何処の出身ですか?」

「ラベストのナザム王国です」

「恐らくあなたの故郷は、新しい世界、つまり創世からすると遥か後世の神が創造した世界なのでしょう。今話したのは全ての初まりとされる神話です」


「先生、アンミール学園が治める地も新しい世界なのか? 俺はここら辺の出身だけど聞いた事が無いぞ?」

「それもある意味当然です。この創世神話は学園でも学ぼうと思わなければ学べるものではありません。何故なら原本が何もないからです。ばらばらの紙片としてしか存在していません。

 私が話したのはその紙片を歴代の研究者達が大昔に集めたもの、今世に伝わるものの大本ですが、元々それを知っている者が少ないです。だから不完全なものを不完全に継承して殆どが崩れています」


「その紙片自体は正しいんですか?」

「紙片の元は創世の住人から聞き出したものとされています。各々の見方によって表現や箇所はばらばらですが、限りなく真実に近い、少なくとも偽りでは無いと考えられています」


「何で普通の授業では教えてくれないんですか?」

「それは役に立たないとされているからです。神の理は全てを極める中で重要な要素です。しかしそれは現代の神々の理であって、原初の神々のものではありません。と言うよりも我々では理解の及ばない現代の神々の、そのさらに深淵に原初の神々は存在しています。考えたところでどうしようもありません

 皆さんも興味程度に留めておいてください」


「結局、神ってなんなんだ?」

「そうですね……祈りを聞き届ける存在、ですかね」






 ――アークと村長――


「創世神話が聞きたい? 勿論いいですよ」


 僕がお話をせがむと、村長は僕を膝の上に乗っけて話してくれた。

 幻術の世界を見せてくれながら村長は話し出す。



 ~~~~~


 そこに一筋の光が現れた時、無は無でなくなった。


 光は人の影のような姿に自らを変え、空間ですらなかった無はこの存在そのものとなる。それが全てであった。


 唯一存在は動かなかった。

 空間がなかったからではない。動こうと思えば動けた。動こうとしなかったのだ。


 唯一存在はただ、自分を知ることに勤めた。

 自分、つまりはこの場所が何処なのか、自分、つまりはこれは何なのかと。


 それは人の時間で永遠に近い程、永きに渡り続けられた。

 星が死に絶え、宇宙までもが何度も死と誕生を迎える時間、彼は自分を、すなわち全てを探究し続けた。


 時間は存在していた。無が無でなくなった瞬間から。

 唯一存在にも時間の感覚はあった。初めからずっと。

 それなのにひたすら探究を続けた。

 それしか残っていなかったから。


 やがて唯一存在の力は増して行く。

 有りとあらゆるものを知り、力にしていった。

 ただ一つしかないのに、比較対象もなく、使い道も無かったのに。

 永遠にそれを続けた。


 だがそれは永遠の果てに終わった。

 辿り着いてしまったのだ。全ての根源に。

 もう探究出来ることは無くなってしまった。


 しかしその根源を知って、唯一存在はついに動き始めた。

 根源を、全てを、自分を使う道に動いたのだ。


 まず唯一存在は動いたことで、形を手に入れた。


 人間の男のような姿に。


 次に人間の姿になった事で、彼は足を着ける場所を欲した。

 彼の足元には底が生まれる。


 だがそこまでだった。永久に限りなく近い時間、探究のみに全てを向けていた彼には、それ以上の創造が出来なくなっていた。

 そこで彼は、自らを探究する過程で思い出し気付いた、自分では無いそれに、人間の女のような形を与えた。


 彼女が誕生した時、彼は彼女に名を与えようとした。

 だがそこで自分に名が無いことに気が付いた。そして自らに名を付け、彼女にも名を付けたとき、初めて彼は全から全なる個へと変化を遂げた。



 彼女は彼の理想を知っていた。

 無限の可能性の一端を納めていた。


 彼は彼女の言葉で思い出して行く。


 彼は意志を持って創造を初めた。


 思い出してしまった彼はまず家を求める。


 底を土のある大地に変え、壁と天井の代わりに風を与えた。

 それだけだと殺風景だからと、一本の木を創造し植えた。

 木の為に水を与え、火で成長を助けた。


 そこで一旦、彼は満足した。


 その後は戯れに様々なものを創造し、この広大な闇に浮かぶ小さな明るい家、世界を少しずつ拡げながら二人で過ごした。

 大地には石や鉱石を混ざり、水も風も火も、同様に様々なものを加えられ豪華になった。



 そして世界が豪華に、広くなって行くにつれ、彼らは二人きりだと何か物足りないと感じた。

 もっと動きが欲しいと思った。


 そこである時、彼らはついに自分達のような存在を生み出す事にした。


 二人の一部を交ぜ合い、それを人の形に整え、彼らは子を創った。男女一柱。


 初めはただ存在させる為だけに創った子だったが、子を見守っているうちに、彼らに感情も微かに芽生えてきた。


 彼らは子の為にさらに様々なものを創造した。

 鮮やかな花や果実がたわわに実るようになり、空には太陽や月、星々が輝くようになり、海や多くの河川が、天候までもが創られた。


 環境だけではなく、龍など意志のある存在も創造した。


 土で形を創り、水で動きを与え、風で保護し、火で意志を与えて。

 この時、初めて違う種が誕生した。


 彼らは子に、何でも与えた。

 自覚しないまま、二柱の子を愛した。


 やがて子は二柱で夫婦となり、一柱の子を創った。

 それを見て彼らは自分達が夫婦であると自覚し、親であると自覚した。

 ここで彼らに微かにしかなかった感情から愛が生れた。



 孫も子と同じく愛して行くうちに、彼はあることに気が付いた。孫の妻となる存在が居なかったのだ。

 そこで彼は龍と同じように、意志のある存在をせめて孫の友とするために、様々な種を創造し、それが無限に創造されるダンジョンを創った。


 こうして小さな世界には数多の種で溢れていった。



 ある時、孫を彼らに預けて子の夫婦は出かけて行った。



 暫くして帰ってくると、三柱をつれてある場所に連れていった。

 そこには夫婦の創造した、自分達の姿を真似て創った存在が、街を築いていた。


 夫婦は二柱と自分達の子の為に、贈り物として創造したのだ。

 二柱にもらってばかりだからと、自分達の子の妻になりうる者を創ろうと。


 二柱を真似て、土で身体を創り、水で命を与え、風で魂として保護し、火で意志を与えて、自分達に似た姿の種族を創造した。

 ちょうど夫婦になった頃から創造を続け、百八柱になった今では街を築くまでになっていたのだ。


 それを見た孫はは大はしゃぎ、彼女は彼に微笑みかけ、彼は沈痛な表情を浮かべ、夫婦の善意のみを喜んだ。



 やがて創造されし者達の暮らしを見るうちに、彼の心も和らぎ、星が死を迎える程経った頃、ついに彼は初めて泣いた。

 嬉涙だ。


 彼の理想はついに叶ったのだ。

 それはたった千柱程で成し遂げた事だったが、それでもあらゆる意味で嬉しかった。


 さらにこの時、百八柱達の子孫がついに孫の妻となった。

 そして曾孫が誕生した。

 彼は号泣したと言う。


 この彼の涙は世界を命の祝福で満たし、涙が最終的に行き着いた場所、世界の果てにあった海は命を生む存在となった。



 しかしある時、それにも終わりが来てしまう。

 孫の妻が誕生して以降、全く百八柱、その子孫達の間に子が生まれる事が無くなった。

 完全に子孫が必要無くなってしまったのだ。


 だからか、理想の民達は子夫婦がしたように、各々が自らの姿を元に新たな種族を創造し始めた。


 それは一見成功に見えた。


 しかし、創造から暫く後、新たな種族は弱りだした。

 理想の民は自分達と同じように彼らと接した。それでは足りなかったのだ。


 新たな種族は善と悪が生じる程に弱かった。


 完全な不死ではなかったし、歳も取り老化した。

 それなのに中途半端に強者であった。

 だから本当に限界になって初めてその傾向が出た。

 それまで誰も気が付かなかった。理想の民は見ても原因が解らなかった。


 新たな種族の数は順調に増え八百万柱、新たな世界を埋め尽くす勢いであった。

 それが一斉に倒れ始めたのだ。


 理想の民は自分らが創造した子を助ける為に動いた。


 十分な食料と資源で世界を満たした。

 彼らが回復するまで持つように、強力な加護を与えた。


 しかしそれでも間に合わなかった。


 そこで理想の民はさらに彼らの為に力を使った。

 世界が広がり続けるようにしたのだ。

 自分達で切り開けるようにと、新たな種族にも創造の力を与えた。


 だが、それは間違いだった。

 新たな種族は無秩序に創造の力を使ってしまった。


 世界はどこまでも広がり、広げた世界を管理させようと、彼らはさらに新たな種族、原初の人間を創造した。


 そこからは一気に滅びへと傾いた。


 元々、新たな種族に絶対的な力は無かった。

 しかし原初の人間は彼らと比べて圧倒的に弱かった。

 新たな種族は原初の人間を助ける為に、その十分でない力でなんとかしようとしたのだ。


 ただでさえ弱っていた新たな種族は激しく消耗した。不死で無いにせよ、不滅であった彼らは次々と深い眠り、目覚めるかも分からない永い永い眠りについた。


 理想の民はそんな新たな種族を守ろうとした。


 しかし間に合わなかった。

 元々の消耗からして、手遅れだった。


 代わりに理想の民は彼らの遺志を守ろうと、原初の人間を守る事にした。


 だがそれは理想の民からしても困難な事だった。

 原初人間は増え、すぐに食料と資源は枯渇し、新たな世界は数多に複雑化し、善と悪で満ちた。


 初めて争いも生まれた。


 美しかった世界は炎と煙に巻かれ、崩れて行く。


 増えた悪は持主が滅んでも継承され、世界は荒れに荒れた。


 ついに一柱の理想の民も眠りについてしまう。


 それを遠くから眺めていた創造主達は嘆いた。


 涙で一つだった世界群は分けられ、越えられない程の大海と大空、霧の壁が生まれた。


 それによって大きな争いは減ったが、争い事自体は増える一方だった。


 創造主達は必死に理想の民を説得した。もう諦めろと、もう十分やったと。


 創造主達はとっくに気が付いていた。どうすることも出来ないことに。

 中途半端な力を与えたところでどうにもならない事に。


 しかし残った理想の民とその子の種族は、説得を聞かずについに決断した。


 彼らは成長し続ける、力を増し続ける存在であった。

 彼らは自らの身を犠牲に、原初の人間に成長の力を与えた。

 それによって新たな種族は勿論、理想の民は一柱を残して皆、眠りについてしまう。


 だが、原初の人間は自ら進む力を手に入れた。

 困難を乗り越えられるようになった。


 創造主は決して理想には二度と届かないだろう原初の人間に、関わりたくなかった。彼らは必ず間違うだろうと。


 だが、理想の民の想いを無視することも出来なかった。


 創造主は最後に原初の人間に与えた。

 神と言う存在を。

 原初の人間の中で優れたものを神として、彼らを導く役目を与えた。


 そして創造主達は彼らの前から姿を消した。


 こうして人はやっと自分の足で歩み出した。

 人の時代に入る。



 ~~~~~



「とまあ、簡単にまとめるとこれが“創世神話”ですね」

「聖地とか大賢者は出てこないの?」

「あくまで人の時代に入るまでが創世ですからね。そのあとは創世神話と言うよりも創世記ですね。そっちはアンミールあたりの方が詳しいてすから今度聞いてみるといいでしょう。

 最近の本とかだと結構混ざっていたり失伝していたりしますから、直接聞いた方がいいですよ。それに事実全てを書いてある本は……えーと、その、つまらないでしょうから…」


 そう言って村長は絵本代りに広げていた世界を閉じた。


「ありがとう。それにしても神様が世界を造ったんじゃないんだね。僕、てっきり創造神とかそんな神様がいて、世界を造ったんだと思っていたよ」

「大体の世界はそうして出来た新しい世界ですからね。あながち間違いじゃないですよ。創造神もいますしね。創造主が造ったのは界として分かれる前の世ですし、アークはよく勉強していますよ。そうだ、御褒美にこれをあげましょう」


 といって村長は石化した果物のようなものを取り出した。


「これは?」

「初めて農業の神の神が誕生するきっかけになった木の実です」

「へ?」

「原初の人間達は与えられて生きてきました。だから農業と言う概念すら初めは無かったのですよ。面白い原初の人間が居ましてね。彼は成っていたこの木の実が好きで毎日見ていたのですが、ある時木から落ちてしまいましてね。彼はなんと悲しんでその木の実を埋葬したのです。そこから芽が出て農業が始まり、彼はその功績で農業の神になった、その木の実です。脱け殻に近いですがね。

 アークは植物が好きでしょう。あげますよ」


 そう言ってポンとくれた。


 何そのとんでもない由来の品……いやこんなド田舎にそんなものある筈ないか。

 多分そう言う伝説のある観光地あたりに行って、お土産屋さんでそのレプリカでも買ったのだろう。

 うん、きっと子供騙しだ。


 あれ? なんかとてつもない力を感じるんですけど…………。


 まさか村長、当事者の誰かだったりしないよね?

 もしかして一柱残った理想の民って…………。

 村長って結構人が好きだし、原初の人間を助けた理想の民の最後の人かもしれない。


 そうだ、少し聞いてみよう。


「村長、この前読んだ本だと、創造主は理想の民に一つの名前を、初めての姓を与えたって書いてあったんだ。でもその名前は書いてなかったんだ。村長は知ってる?」

「ん? まだ知りませんでしたか? “ユートピア”ですよ」


 うん、多分本物だ。

 少なくともその縁者だと思う。


 試しに当事者達しか答えを知らなそうな疑問をぶつけてみよう。


「なんで創造主達は力を貸さなかったの? もし協力していれば、皆助かったんじゃないの?」

「そうですね、アークは何時まで植木鉢で植物を育てますか?」

「ん? 盆栽とかなら別だけど、普通の植木ならある程度大きくならったら大地に植えるよ」

「そうです。何時までも無理矢理植木鉢に植える事はありませんね。時間の話を詳しく言っていませんでしたが、原初の人間でも最低十万年は生きたのですよ」


 …………。


「え? 十万年も?」

「はい、十分過ぎるでしょう。それを理想の民達は生かし続けようとしたのです。彼らに滅びは無かったのだから、初めての心配が過剰になったのは分かりますが、これは不自然な事です。

 そもそも創造主達は理想の民よりもさらに原初の人間から遠い存在、どうやって生かすかを知りませんでした。彼らに出来るのは根本から存在を創り変えることぐらいです。種まるごと滅びようしていたのを止めるのに、種を創り変えるのも変だと思いませんか?」

「確かに、もう助ける必要は無かったのかも?」

「そもそもその十万年間は平和でしたしね。存在として在るべき時間を狂わせたからこそ、様々な不調は起きたのです」


 つまりは百二十年生きる存在である人を全員不老不死にしたら、その年月に合わして子を作っているからすぐにあらゆるものが不足するってことなのかな?


「ほら、世の理を思い出してください。不老不死の種族は食事とかがあまり必要ないでしょう? 普通に考えたら永く生きる分、必要なものは増える筈なのに。そして増える早さも非常にゆっくり。

 存在は運命的、本能的にそうなるのが自然なのです。そうでなくては存在してゆけないから。まあ、卵が先か鶏が先か、ですけどね」


 確かに吸血鬼は血しか飲まないし、エルフも思い返してみれば少食の人が多い。仙人や聖人も少食を通り越して霜で十分な人達だ。

 神や龍、精霊や天使悪魔に関しては祈りなんかで大丈夫だったりする。


 成る程、何となく納得した。


「じゃあなんで、理想の民達は全てを捧げちゃったのかな?」

「それはそれだけ彼らが理想的な優しい心の持ち主だったからですよ。それに完成された存在だから、未練と言うものがなかったのかも知れませんね」


 村長は懐かしそうに遠くを眺めながらそう言う。

 その眼が何処を視ているのか僕には判らない。でも、その眼はとても優しく、僕のことも確かに視ていた。



「ところで、続きの大賢者の話が知りたいな」

「……大賢者の名を言葉にしないのならば、いいですよ」


 この後も、村長、レイヤお爺ちゃんから色々なお話を聞いた。


 大賢者が静かに滅びへと向かう世界を憂い、その被害の一番被害者である子供達の為に、初めての学校を創り、教え導く話、創世譚“アンミール”。

 大賢者が決して種が滅びないように大聖地を創り、同時に心の支えとした話、創世譚“ハシィー・ラトゥワーニ”。

 人を好きになった大賢者が、彼らの全てを無駄にしないよう導き、成長を助ける話、創世譚“シャガン”。


 その他にも“創世分離”や“原種干渉”、“神王独歩”の話をしてくれた。


 どれも創世神話より創世っぽい話だ。特に大聖地の話は紛らわし過ぎる。

 だから間違えるのかな?





 《オマケ~アークの親族~》


 ・イザナ=レイヤ・フォン=ヨーク=クオン=ニーク・ユートピア

 アークとの関係:一番初めの先祖でガイルとエルスの父

 村人と全てを愛す。一人称は我。通称村長。

 創世神話とは、人が自分を定義する為のものでもあるから、絶対に詳しくは語るまいと胸に決めている。しかし愛する村人から問われたら答えてしまうだろうから、聞かないでくれと願っている。

 やたらと黒歴史がある。


 ・ユイ・ユートピア

 アークとの関係:一番初めの先祖でガイルとエルスの母

 村人と知識とその創造を愛する。一人称は此方こなた


 ・ガイル・グライア・ユートピア

 アークとの関係:二番目の先祖でルークの父

 村人と土を愛する。一人称は我輩。


 ・エルス・ファシス・ユートピア

 アークとの関係:二番目の先祖でルークの母

 村人と水を愛する。一人称は私。


 ・ルーク・マルス・ティオ・ルース・ユートピア

 アークとの関係:三番目の先祖でレインの父

 村人と火を愛する。一人称は僕。


 ・レイン・……・ユートピア

 アークとの関係:四番の先祖でエルの母

 村人と風を愛する。一人称はアタシ。名前が永くなった最初の被害者。初めて四人の名前と考えた名前に加え、母方の先祖の名前と考えた名前まで入っていている。


 ・エル・…… ……・ユートピア

 アークとの関係:五番目の先祖でフィールの父

 村人と人を愛する。一人称は俺。アンミールの夫。


 ・フィール・…… …… ……・ユートピア

 アークとの関係:六番目の先祖でグランの母

 村人と道を愛する。一人称はわたくし


 ・グラン・…… …… …… ……・ユートピア

 アークとの関係:祖父

 村人と物を愛する。一人称は儂。


 ・リーゼ・…… …… …… …… ……・ユートピア

 アークとの関係:母

 村人と動物を愛する。一人称は私。



最後までお読み頂き、そしてここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。

おかげさまで無事に一周年を迎える事ができました。


次回は第三十八話 長過ぎる自己紹介あるいは時間稼ぎ、を投稿予定です。七万文字に挑戦中なのでそこそこ遅くなるかも知れません。


これからもお読み頂ければ幸いです。



8/18追伸、第三十八話の完成にかつてなく苦戦しております。神話等々を流用しているのですが、それでもまだまだ完成に届きそうにありません。

8月中に投稿出来る可能性は限りなく低いです。お休みだと思って温かい目でお待ち頂けると幸いです。


9/25追伸、もう少し時間がかかりそうです。

もし10月に突入してしまったらモブ紹介の方に何かしらの解説を投稿します。


12/1追伸、未だ完成に到ってはいません。ですが年内には何とかする予定です。

とりあえず、クリスマスに去年投稿が出来なかったクリスマス転生を投稿します。こちらは完成しているので、こちらが先になるかもしれません。


クリスマス追伸、メリークリスマス。【クリスマス転生】を投稿&更新しました。https://ncode.syosetu.com/n0116ff/

読んで頂ければ幸いです。本編も今年中に更新したいと思います。



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