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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第2章 〈アンミール学園入学〉あるいは〈都会生活の始まり〉

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第三十五話 戦闘縁結びあるいは向き不向き

少々更新が遅くなってしまいました。申し訳ありません。

同時並行でこの章の最終話を書き始めたので、次回も遅くなってしまうかも知れません。

尚、その最終話は最大文字数にする予定なので、もう暫くその話が完成するまで今章を続ける予定です。

長い目で読んで頂けると幸いです。

 

 さて、先輩達の戦いを視ていて一つ解った事が、再確認したことがある。

 先輩達はメチャクチャに強い。

 拘束していた僕が言うのもなんだけど、縁結びの不安定な体勢から即魔物に対応して討伐している。寝起きでいきなり強襲かけられたのを返り討ちにするよりも難しい事だと思う。


「コアさん、先輩達、多少の事があっても簡単に乗り越えそうだから、戦闘中にも縁結びしてみない?」


 だから僕はそう提案した。


「面白そうですね。万が一が無さそうですし、やってみましょう。つり橋効果とは若干違った結果になりそうですね」

 コアさんはすぐに賛成してくれた。顔が今すぐにでもやってみたいと語っている。


 今回やるのは魔物に対する恐怖による結び付きではなく、共に魔物に立ち向かおうとする意志と極限の集中力。

 一応命懸けの戦い、きっと先輩達の中に余計な感情は無いだろう。あるのは勝つ守る生き残る、純粋な生命の感情だ。個人の感情ではない。一種の集団としての意志だ。


 だから戦闘に関係無い事には目がいかないだろう。

 普段絶対に無視出来ない現象も、深くは考えない。戦闘に影響有るか無いかの判断だけで終わってしまう。


 ここで僕達が手を加えたらどうなるか。

 きっと気にせずに進む筈。そして戦闘が終わって気が付くのだ。

 何であんな事をしたのだろうと。何故あそこで反発しなかったのかと。

 そこであらゆる物語が始まる筈。


「じゃあ始めようか」

「はい、始めましょう」


 僕達は目についた先輩達を少し間近で視るため、その先輩達の上空へと移動する。



 まずは戦況チェック。

 縁結びに向いていそうな先輩達を探す。


「女神様! 俺が必ず貴女を守る! だから結婚しよう!」

 と妙に格好付けながら重そうな拳銃を撃ちまくるイタル先輩。


 拳銃とは思えない程の爆音を響かせながら、ハイミノタウロスキングの軍勢を相手にしていた。

 嫉妬グリーンの爆炎を放つ銃口から撃ち出された銃弾は、ハイミノタウロス達の屈強な肉体を容赦なく穿つ。

 かなり強力な武器だ。どうやらリア充爆発の力を利用した固有兵器らしい。広範囲の力を一点に集中出来るようだ。


 しかしイタル先輩の身体は傷だらけ。

 全裸のままだからよく判る……。

 流石のイタル先輩でもランク10のハイミノタウロスキングの軍勢はきついらしい。武器を使っているのも、素の能力だけでは倒しきれなくなっているからだろう。


「何を馬鹿な事言ってるのですか! またぼろ雑巾にしますよ! と言うかさっきのお仕置きは終わっていませんからね!」


 いや、イタル先輩の傷は転生担当の女神セントニコラさんが付けたものらしい。

 結局イタル先輩の縁結び相手は見つからなくって、この組み合わせになった。それでシンプルに壁ドン配置しておいたから腹ドン顔ドン股ドン等のお仕置を喰らったのだろう。

 妙に内股気味だと思ったら……。


 それにしても、思ってたよりも全然緊張感が無い。

 イタル先輩は戦闘しながらことある毎にセントニコラさんに、演劇じみたアピールを行うし、セントニコラさんは魔物を軽くあしらいながら、わざとらしくうっかりを装ってイタル先輩を攻撃しにかかっている。


 この二人に戦闘縁結びは向かないかもしれない。


 上空を少し移動。

 他の人達を間近で視る。


「さあ! 俺がコイツを押さえてる内に早く! 俺ごと攻撃を叩き込め!」

 とザ白馬の王子様なローグカルロ先輩。武器はレイピアしかなく、如何にも速さ重視のスタイルなのにオークの上位種を自身の身体で拘束している。


 これはっ! まさしく自分達の力ではかなわないから自分を犠牲に脅威に立ち向かう物語的場面!

 ここから仲間は涙ながらに犠牲を無駄にしないと、あらゆる物語が生まれ進んで行くのだ!


 さて、不謹慎だが別れの、涙のシーンを。


「魔工学砲、一斉総射!」


 …………。


 あれ?


 ……縁結び相手のヒラリー先輩は容赦なく、それもローグカルロ先輩に冷たい目を向けて、全力の攻撃を行った。

 正確には莫大なエネルギーのチャージを始める。その動きに一切の動揺も見られない。


 ヒラリー先輩って元々ローグカルロ先輩のクラスメイトだよね!? 仲間だよね!? 縁結び配置したよね!?


 そんな僕の心の叫びはヒラリー先輩に届かない。

 青白い光を放つビームがローグカルロ先輩に、そう魔物へではなくピンポイントにローグカルロ先輩に放たれる。

 そして大爆発。

 それだけでは終わらず、何度も何度もヒラリー先輩は冷徹に攻撃を続ける。


 ローグカルロ先輩!

 ……これは完全に殺られちゃったな。

 そう思ったが爆発の中から声があがった。


「ア~ンッアッ! 俺に気にせずに攻撃を続けろぉ~んっあ~!」

 とても気色の悪い悦びの声が……。

 爆発の間を覗くとローグカルロ先輩はピンピンと、いや生き生きとしていた。


 そう言えば昨日この人達は変な話をしていた三年十一組の先輩達だ。ドM発言やドM抹殺宣言を隠すことなくしていた。

 まさか本当だったとはね……。

 あまりに目を背けたかったからすっかり忘れていた。


 嫌な事も覚えていないと真っ直ぐには進めないんだね。

 こんなところで失敗の大切さを学ぶとは思ってもいなかった。


 この二人の戦いに加わる者達が現れる。


「さあさあ! 俺が敵を引き付けている内に俺ごと!」

「これだけの敵、皆さん逃げてください! ここは私一人で時間を稼ぎます!」

 と魔物を引き連れたシクス先輩とその魔物の密集地に態々飛び込んで行くベーティア先輩。三年十一組のドMの残りだ。


 そしてその二人をこの気に仕留めようとする他の三年十一組の先輩達が続く。

 変態三人と別々の場所に配置した三年十一組の先輩達も、縁結び相手を巻き込んで参戦してくる。


「貴方達のせいで私達が周りからどう思われているか…」

「私達は変態じゃないのに」

「何故か悪魔扱いまでされるしまつだぞ!」

「今日こそはどさくさに紛れて死になさい!」


 そんな先輩達が次々と攻撃を放つ。

 炎で造られた幻獣が押し寄せ、大量の爆発魔法が流星のように注ぎ、蜘蛛の巣のように細かい斬撃が飛び、変態達を呑み込む。


「「「うわぁーーん~っ!」」」

 そして変態達は当然のように気色の悪い悦びの声をあげた。

 やはり傷は沢山付いているのに攻撃を受ける前よりも生き生きとしている。


 因みにシクス先輩が引き連れていた魔物は全滅だ。

 ……そんなのを浴びせ、悦んで浴びていたんだね。

 三年十一組の先輩達が色々と言われるのはこの容赦なさも絶対に原因の一つだと思う。


 しかしこれだけではまだ終わらない。

「ふっふっふん、これしきの事で私は屈しません! 私はまだ戦えます! 人々を傷付けない為に! 私が果てるまで受け止めます!!」

 と言うそのまま聞くと美しい騎士の精神、もしくは自己犠牲の精神をベーティア先輩は聴衆に聞かせるように宣言した。

 ただ、最後の部分への心の入り方が尋常じゃない。これは美しい精神等ではなく、もっと痛めつけてくださいと言うドM発言だ。表情は興奮仕切った様子だし……。


 その流れでベーティア先輩は特殊な力を振るった。


「“女神の献身”」


 川底の陰陽のような光がベーティア先輩を中心に広がる。

 そして突然魔物達がベーティア先輩を目指して侵攻を開始する。どうやらこれは魔物を自分のところに引き寄せる力らしい。


 それにしても“女神の献身”って、名前がアレだと思う。ん? この力から本当に女神の力が……どうやらまだ寝ぼけているらしい。寝て無いけどね。

 なんかベーティア先輩のステータスに【女神の転生者】と出ている幻覚まで視え始めた。

 疲れているらしい。絶対にそうだ…。


 兎も角オークが大量にいる地域の主戦場はそこに移って行く。

 まあ、まとめて視やすくなったとだけ思っておこう。


 他のところに居た先輩達も続々と集まってくる。


 特に目を輝かせた勇敢な先輩達が魔物の密集地へと突撃した。全く迷いが無い。

 そして悦びの混じった悲鳴をあげた……ドMな方々だったらしい。多いいね……。

 と言うか先頭集団に普通の勇敢な先輩達はいなかったらしい。他の先輩達は溜息混じりにとぼとぼと主戦場に移動する。変態達を見て精神的に疲れたらしい。


 勇敢云々じゃなくても戦闘狂いとか居ないのかな?


「はっはっはっ! もっとこい! お前達の力はこんなものか!」

 と血に塗れ元の姿が隠れた豪華な大剣を振り回す、全身血塗れの獣王の獣人のガルバック先輩。

 オーク種を斬り潰し、囲まれ反撃を受けて凶悪な笑みを浮かべている。頬は血塗れで判らないが、恐らく表情から赤く染まっていることだろう。


「あはっ! あんっ! そうよそう! もっと来なさい! 潰してあげる!」

 と艶かしい踊り子なヴィアナ先輩。踊りながら怪力自慢のオーク達と拳を交えて行く。

 一回拳が交わる毎に鮮血が、反り血自分の血問わずに踊り子の衣装に付着し、激しい躍りで辺りに花吹雪のように舞う。

 そして回を増す毎にその完全に上記した顔にさらに笑みを増す。相手を潰しても自分に攻撃があたってもそれは変わらない。まさしく闘いを楽しんでいるようだ。


「ふんっ! なっははっ! そんなものか! お前らの剣などワシにとってはただの針じゃあ! もっともっとこい!」

 これは巨人化した巨人族のベナバッダ先輩。山のような巨体には無数の剣が突き刺さっており、あちらこちらから血が熔岩のように流れている。

 しかし彼はそれを心地よいとうっすら頬を染めながら笑い飛ばし、両手に装備した城壁のような盾を大地に叩きつけ、オークのミンチを作っている。


 うん、戦闘狂いの多くはヤるだけじゃなくてヤられるのも好きと……そんな戦闘狂いの先輩達は魔物の密集を目指して比較的ゆっくりと進む。

 楽しみながらなので進むのは遅いようだ。


 もういっそのことドSな先輩とか居ないの?


 ……やっぱり居た。


「さぁ糞豚ども! アイツ等を殺っておしまい! “打鞭強化”」

 と鞭を振り下ろす仮面を被った調教師(?)のアヴィア先輩。

「「「ブヒィィィッ!」」」

 パシィンッッ!と言う鞭の響きと共にアヴィア先輩の豚達は嬉しそうな声をあげる。


 そして豚達に付いた鞭の痕はそのまま魔術刻印の役割を果たし、豚達は強化された。

 その勢いでアヴィア先輩の豚達、調教された三年二十二組の先輩達はオーク達に突っ込んで行く。


 うわぁ~、ドSを探していたらクラスのほぼ全員がドMなクラスを見つけてしまった。


「うわぁーん、痛いのに気持ちいいです!」

「癖になっちゃうわ! あんっ!」

「これも戦士の宿命だ! 今は忘れろ! なはっ!」


 いや、元々ドMと言うよりも限定的にドMに調教されているようだ。

 涙目になったり、必死に痛みの快感を押さえつけたりしながら悶えている。自分から望んではいなさそうだ。


 しかしこの先輩達の中にはお風呂に入ったままの状態で、僕達が運び出した先輩達も多かった。

 そして急に魔物との戦闘を開始したせいでまだほぼ全裸のままだ。辛うじて服を着ようとして、何故か首輪や鎖、変態感の物凄い格好になってしまっている。

 正直、先輩達の中身が関係無い程度には変態だ。そう視えるのではない。もはや変態である。

 少なくとも相乗効果で根っからの露出狂や、ドMよりも酷い有り様になっている。


 さらに言えば、クラス丸々一つこの状態だから色々な種類が揃っているから全体的に視たらもっと酷い。

 このアンミール学園では視たところ一つのクラスで学科等が被っている人が少ない。性癖は兎も角、見かけや雰囲気はクラスで一人一人違うのだ。


 そしてこのクラスもその例から外れない。

 王侯科の堂々たる王者な先輩や貴族科の気品溢れる先輩、冒険家の夢に直進する活力溢れる先輩や戦士科の暑苦しい先輩、魔法科の怪しさ満天の先輩や科学科のマッドな危ない先輩、生産科の大人しそうな先輩に従者科の真面目そうな先輩、全員が方向性からして全く違う。

 見かけも勿論、暗い明るい、子供っぽい大人っぽい、きれい可愛い、格好いい爽やか、まるで違う。


 そんな先輩達が全員ドMな変態と化しているのだ。

 異様にも程がある。あまりにも異様で浮世離れし過ぎて別世界へと迷い混んでしまったと錯覚してしまう。と言うか同じ世界であると認めたくない。


 そして何よりもこの先輩達は変態と化している事を嫌がっている。それがさらに異様な世界を作り出していた。

 ……本当に何でこんな事になっているのだろうか? 多分強化能力の関係だと思うけど、嫌ならやらなければいいのに?


 あっ、理由が解った。めちゃくちゃ強くなってる……。普通の強化能力の比じゃない。


「もおー! 殺って殺ります! “散弾”、“結界解除”!」

 と封印科のナバール先輩。事前に施した魔術等の封印を一気に解き放ち敵を爆砕し、強化魔術等も大量に解き放って得た身体が千切れる程の身体能力を持ってオークをひたすら血肉に変え突き進む。

 当然オークからの反撃や強すぎる身体強化の影響で傷だらけになって行くが、傷は出来たそばから再生して行き、さらに能力が上がって行く。


 傷、正確には痛みをドM能力で力に変換し続けているようだ。

 ほぼ倒れない、しかも強くなって行く戦士。それが今の先輩達の状況だ。

 ついでに時間が経つに連れどんどん悶える事が多くなるが…………兎も角、これが弱い筈無い。


「魔術士は前衛じゃ無いのにー! “魔女狩り特攻”、“延焼”、“身体強化”!」

 と異端審問官のガナン先輩なんかは魔女狩り用の炎を自ら纏い、強化した身体能力を駆使して肉弾戦を演じている。

 ドM化されていなければ不可能な芸当だ。

 魔女狩り用の炎なんか浴びたら普通の、怪しげな数多の魔術で身を護る魔女でも魔術ごと焼かれて終わりである。

 それを我慢こそしているが気持ち良さそうに、攻防一体の盾としオークを次々と燃やして行く。まるで移動要塞のようだ。


 これだけでも、ドM化だけでも強力だがさらにもう一つ、先輩達を強くする要因がある。


「さぁさぁ糞豚ども! もっと働きな! それともなんだぁ? もっと教育してやらなきゃ解らないのかい!」

 先輩達の後方で構えるアヴィア先輩だ。地面を鞭で砕きながら先輩達の働きを見張っている。


 そして戦果が乏しい先輩には。


「とろいぞこの糞豚がぁ! “服裂き”!」

「キィャアァァァーー!」


 さらなる変態要素の追加のお仕置きだ。

 巨乳聖女なイリステラ先輩なんか鞭の一閃で服を全部奪われてしまった。

 その豊満な胸が鞭の衝撃でぷるるんと弾む。


「「――ブッ」」

 と思わず胸に目を奪われてしまった先輩達。速効で鼻血を流す。


 そんな先輩達にアヴィア先輩はすぐさま反応した。


「なによそ見してんだい! “亀甲縛身”、“三角乗馬”、“精密裂き”!」

 アヴィア先輩は鞭の一振りで様々な現象を起こした。


 亀甲のような結び目である先輩は縛られ、ある先輩は突如下から出現三角形の馬ゴーレムに股がらされ、ある先輩は局所的に服を破られる。

 どれも見事な変態化だ。ドMにされているのと合わせて累乗的に変態化が進んでいる。

 ヤられた先輩達は色んな理由で涙目だ。可哀想に……。


 そう、先輩達はお仕置きされたくないと言う思いからも強くなるのだ。

 そりゃ、ただでさえ嫌々ながら変態にされているのに、さらに変態されたらたまらないよね。



 さて、これ以上視ていたら精神が確実にやられる。

 もう、深く考えずに戦闘縁結びをしてしまおう。多分どんなに縁結びに向いていなさそうな人達が多くても一人ぐらいは成功する筈だ。


 最初から全部成功させようなんて欲張ってはいけない。

 そう変態な先輩達は身をもって教えてくれたのだ。そう言う事にしておこう。


「で、コアさん。どうやったら縁結びが出来ると思う?」

「そうですね……あのような方々でも、ピンチを助けられたら恋心に近い感情を抱くのでは?」

「ドMでも?」

「……難しいかも知れませんね。とりあえず試してみましょう」


 と言うことで一応やることは決まった。

 まあ試すだけ試そう。



 まずはイタル先輩から。

 相手はセントニコラさんでいいかな。


 さて、この二人の場合、強いからいくら待っても片方がピンチの状況になりそうに無い。

 イタル先輩はもう既にセントニコラさんを意識しているから、セントニコラさんの方にピンチになってもらおう。


 秘技草結び。

 よし、スッ転んだ。

 そこにコアさんのサポート。いつもよりも多めの魔物がセントニコラさんに殺到する。

 イタル先輩、今です!


「うわぁーーー! 女神様大丈夫か!」

 すぐさま魔物とセントニコラさんとの間に割り込むイタル先輩。そのまま魔物に固有の銃を連射、着実に迫る驚異を排除して行く。

 しかし迫って来ているのは全方位から。対して守るイタル先輩はただ一人。このままだと間に合いそうに無い。


 だがイタル先輩は強かった。さらに力を強化する。


「女神様を襲おうなど羨ましい! 俺にそんな度胸はねぇぞ! さてはリア充、このヤローー!! “リア充、爆発しろーー!!”」


 途端、イタル先輩が巻き起こす爆発の火力が大きく上がった。

 ……その力、リア充を憎む力で強化されるんだね。でもこじつけが過ぎない?


 兎も角、イタル先輩の嫉妬の炎は銃を通さなくとも、強力なミノタウロス達を挽き肉に粉砕して行く。

 縁結びは成功かな?


 あ、セントニコラさんが起き上がった。


「大丈夫ですか女神様!」

「襲うのが羨ましいってどういう事ですか?」

「なっ、そそれは――」

「このエロクソガキが! 人を心配する前に羨ましがるとは……覚悟は勿論していますよね」

 ニッコリと冷たい笑みを向けるセントニコラさん。


「い、嫌その、戦闘中だからご褒…制裁はまた次の機会に……」

「問答無用! 文技“ゴールデンクラッシュ”」

「ハウッッッ―――――、アァァァアァア――――――――――!!!!」

 聞くに耐えないこっちまで内股になってしまう悲惨な絶叫。

 そのままイタル先輩は魔物達のまっただ中に跳ばされて行く。去らばイタル先輩、これからは世界が少し静かになるね。


 合掌。



「さて、縁結び始めようか」

「そうですね。初めての戦闘縁結びを開始しましょう」

「「…………」」


 イタル先輩? 何の事? まだ僕達は何もしていない。


 ごめんねイタル先輩。

 僕達は大人の下り階段を降りて行く事にしたんだ。隠蔽、これは大人の階段を下るうえで避けて通れないんだ。

 僕達の成長を遠くから見守ってね。



 さて、初めての戦闘縁結びの相手は……適当でいいか。近くにいる人達を結びつけてしまおう。


 あ、丁度よく転んでしまってピンチな先輩が。

 ここに白馬の王子様的な人を投入しよう。

 三角木馬の王子様だ。


 まずは三角木馬ゴーレムの術式を弄ってと、完了。

 これで僕の思い通りの場所に移動するようになった。早速助けに。

 全速前進!


「ギィァアァァガァッッーーー!!」


 あっごめんなさい。


 雑な改造で三角木馬ゴーレムの動きが速く激しくなってしまった。

 それに伴い何故か上下運動も激しくなり、上に乗せられた元々は変態じゃない王子なカペルムーツ先輩が堪らず悲鳴を上げる。

 何だか激しい食い込みでお尻が割れいるのはこれのせいだと、思わず錯覚してしまう。

 せめてもの救いは服を来ている事……お尻だけ破けちゃってるね。

 いっそのことドMパワーで頑張って。


 何はともあれ目標のピンチなクシェル先輩のところに到着。


「あぐがぁ、なっ“一閃”、“重撃”、“スラッシュ”、“三連斬”、“刺突”、“一閃”、“スラッシュ”!」


 まだカペルムーツ先輩はクシェル先輩に気が付かないが、これ以上痛め付けられてたまるかと、周りにいる魔物を武技の連発で排除して行く。ドM化で回復する事によって可能になっている芸当である。

 それにしても剣を一閃する毎にまたお尻に角が食い込んで痛そうだ。

 ドM化する前は自ら先頭に立つ感じの王子だったのに……今は顔が色々な体液でグショグショで原型が殆ど残っていない。しかもしっかりドM化の効果も顔に出ている始末。


 しかしクシェル先輩を発見、急いで体裁を整え、痛みを我慢しながら声をかける。

 王子って職業は自分を作らないといけないから大変だね。


「そっ、そこの方、ぐっ、お怪我は?」

 手を差し伸べながらクシェル先輩に問う。

「あ、ありがとうございます」

 クシェル先輩は魔物の残党を警戒し、カペルムーツ先輩を見ないまま手を取った。


 そして手を便りに立ち上がろうとする。


「アガァアーー!!」

 その時カペルムーツ先輩は突然絶叫した。

 クシェル先輩分の体重がかかってしまったのである。一段と激しい食い込みが、カペルムーツ先輩を襲う。


「だ、大丈夫!?」

 そして当然それに驚いたクシェル先輩が問いかける。

「だ、大丈夫、だ。と、とりあえず、俺の、馬に……」

 対してカペルムーツ先輩は必死にそう強がる。


「わ、分かりました!」

 そして痛みにこらえている事を察したクシェル先輩は、それ以上負担をかけないようにと、慌ててカペルムーツ先輩の意思に従う。

 彼の手を基点に三角木馬ゴーレムに股がる。


「「アガァァアアアァァ――――――ッッ!!」」


 そして当然のように断末魔よりも大きい悲鳴をあげた。

 二人とも咄嗟の事で話の内容は考えていなかったらしい。説明を読まずにカップ焼きそばのお湯の段階でソースを入れてしまうような愚行である。


 三角木馬ゴーレムには騎手がそう簡単に降りられなくなる機能も付いているようで、降りられない二人は仲良く(?)、三角木馬ゴーレムに乗って魔物の中を放浪して行く。


 やったね、初対面でドライブデートだよ…………。



「……仲良く乗馬デートしてるね」

「……そうですね」

 僕達は静かに先輩達の門出を見送る。無気力とはこれの事かな。


 でも何時までもここで立ち止まっていても仕方がない。

「じゃあコアさん、戦闘縁結びの続きをしようか?」

 この結果をせめて次に繋げるのだ。先輩達の犠牲を無駄にしてはいけない。


「……止めておいた方がいいと思いますよ」

 しかしコアさんは乗る気で無いらしい。まだ無気力のまま、いやもっと力の抜けた様子で他の三年二十二組の先輩達を眺めていた。

 そして僕もそこを眺めるとコアさんがそう考えた理由が視ただけで解った。


 そこにはアヴィア先輩のお仕置きが重なり続けて、モザイク眷属、不自然な光眷属が自主的に隠してくれている先輩達が点在していた。

 悲鳴も色々な感情が混ざり、声量も大きくなっている。いつの間にか眷属が放送禁止魔法を使っているから、言葉にまで強い変態の特徴が出てしまっているらしい。

 うん、ここでいくら縁結びしたって無駄そうだね。


 そもそも戦闘縁結びは戦闘中の集中力、そこで生じる一瞬の理性の隙を突く作戦だから効果があるはず無い。

 例えるなら、火事が起きたら皆命を優先するから誰も盗人に注意しないだろうと言う、火事場泥棒的発想だ。

 確かにこの強制変態状態でも隙は多く発生しているだろうが、この状態で縁結びしても変態化の事にばかり気を取られて成功しないだろう。

 こっちも例えるなら、火事場泥棒に行ったが盗む物が全焼していてしかも自分の命も危なくなった状態である。


 もう僕達では手の施しようが無い。

 ここは諦めよう。

 強く生きてね。


 悲鳴が遥か上空のここまで聞こえる中、僕達はまた移動を開始した。

 いや、朝御飯の続きを食べなが離れたところで縁結びした方がいいかな?

 どちらにしろ三年二十二組の先輩達からは離れよう。


 戦闘縁結び、一回でも成功しないかな?






 《簡易用語解説》

 ・女神の献身

 魔物を自信に集中させる強力な技。一種の封印でもある。


 ・打鞭強化

 鞭で打った相手の能力を強化させる武技。


 ・散弾

 物体を飛び散らせるように投げつける武技。


 ・結界解除

 自信の施した結界を解く武技。自分が施した結界ならある程度遠方からでも発動可。


 ・魔女狩り特攻

 魔女狩りの炎を身に纏う武技。通常は最期の自爆攻撃である。


 ・延焼

 炎の延焼力を強化する武技。自分の出した炎にならばさらに効果がある。


 ・身体強化

 身体能力を強化させる武技。武技の基本の一つ。


 ・服裂き

 鞭で服のみを攻撃する武技。一種の武器破壊に近い。


 ・亀甲縛身

 鞭で相手を亀甲縛りにする武技。縄が出現する訳ではないので、使用すると鞭が一本消費されるので注意が必要。


 ・三角乗馬

 三角木馬ゴーレムを相手の股下に生み出す武技。


 ・精密裂き

 特定の位置に正確に鞭を振り下ろす武技。


 ・リア充、爆発しろ

 リア充への負の感情を爆発力に変換する特殊能力。何気にこの力を手にしたのは史上で後冬ごとういたるが初めて。


 ・ゴールデンクラッシュ

 男性を一撃で撃退する事が出来ると言われる文技。一応戦闘用の技ではない。


 ・一閃

 素早く剣を振るう武技。


 ・重撃

 剣の一撃を振るう武技。


 ・スラッシュ

 広範囲の相手を剣で斬りつける武技。


 ・三連斬

 三連続で剣を振るう武技。


 ・刺突

 鋭い剣の刺突を繰り出す武技。


最後までお読み頂き、ありがとうございます。

次回は三十六話を更新する予定です。

また、近日中に不規則ですがモブ紹介を追加します。

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