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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第2章 〈アンミール学園入学〉あるいは〈都会生活の始まり〉

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第三十二話 都会生活二日目の早朝あるいは気付け魔術

投稿が遅くなって申し訳ありません。

ついに学園生活二日目の始まりです。ここまで六ヶ月半程の時間を費やしてしまいました。果たして入学式に入るのは何時になるのか…………気長に見守って頂けると幸いです。

 

 エル・アンミールに日が昇る。

 東西南北正確に昇ってきた四つの太陽は学都に光の道を映し出し、昇るにつれ四つの道全てが繋がった。

 そして目を凝らして見ないと判らない程ゆっくりと光の十字は時計回りに回転し、徐々に拡がり学都各地を照らして行く。

 僅かに霧を含んだ風が僕を覚醒させる。まあ、寝てないけどね。気分だ気分。


「おはようコアさん、朝は静かで落ち着くね」

 騒がしかった都会の喧騒が嘘のように、今はまだ寝静まっている。鳥すらもそれを起こそうとはしない。実に静かな朝である。

「おはようございますマスター、静かですね」

 そんな朝を迎え、僕達はのんびりと景色を楽しむ。


 そんな時、アンミールお婆ちゃんがやって来た。

 転移の気配も全く無いのに、まるで初めからそこに居たのではないかと思える程一瞬で現れた。ああ、この学都自体がアンミールお婆ちゃんだから本当に初めから居たのかな?


「おはようございます。アーク、コアさん。少し、いえ、かなり早いですが朝食の準備が整いましたよ。一緒に食べましょう」

 アンミールお婆ちゃんは朝食だから僕達を呼びに来たらしい。

「うん分かったよ」


 という事で僕達は学都の中心、昨日学都に降り立った地に向かった。移動法は転移でなく朝の景色を楽しみながらののんびり飛行だ。



「ふふふ、さて、朝御飯を頂きましょう」

 目的地に着いたアンミールお婆ちゃんはとても上機嫌に言った。僕とののんびり飛行が余程嬉しかったらしい。

 逆にここに先に居た村の皆や先生達は悔しそうにしている。村の皆なんかネクタイを噛んでいるから相当悔しいのだろう。そのままやけ食いに向かう。僕が大切にされているのは分かるけどそれほど?


 何にしろ朝御飯を頂こう。


 今日のメニューは、朝御飯と呼べる料理が大方揃っている。行ったことは無いがバイキングとやらでもここまでの種類は無いだろう。

 しかし何か違和感を感じる。


「コアさん、今日は料理人の数が少ない気がしない? 料理を見た感じだと減ってるよね?」

 何故か料理に関わっている人数が減っているのだ。

「マスター、料理見ただけで料理人の数が判るのですか?」

 コアさんはどこか呆れたような様子で応えた。どうやらコアさんは見ただけでは判断出来ないらしい。


「コアさんは食べないと誰が作ったのか判らないんだね。だったら食べてみたら感じると思うよ?」

「……食べても判りませんよ」

 さらに呆れた、そして疲れたような様子でコアさんは言った。

 ああ、コアさんはダンジョンだからかな? ダンジョンの形じゃ食べれそうに無いからね。


「まあ何でも良いや。早く食べようか」

 早速頂く。うん、美味しい。いつまでも食べて居られそうだ。

 でも食べてみて確信した。昨日よりも大幅に料理した人の数が減っている。調理技術や味付けの特徴、そして作られるまでの想いなどから明らかだ。


 顔に疑問が浮かんでいたのか、皆に僕との飛行を自慢していたアンミールお婆ちゃんが答えを教えてくれた。


「昨日と比べて料理人の数は減っていますよ。よく気が付きましたね」

「やっぱりそうなんだね。でも何で? あっ、もしかしたら今が早朝だから? 都会の人は睡眠が必要って言うからね」

 睡眠が何なのかは詳しく知らないが都会のかなり大規模な風習らしい。色々な本を読んでも今一解らないが、休む行為の一つだそうだ。


 僕も寝てみようと、色々やって合ってるかどうか村の皆に確認したがどれも駄目だった。

 物語では寝た後に朝になっていたり、時間が経過していたりするので、周りを朝に変えたり時間の流れを早くしたりしたが違うらしい。


 兎も角昨日料理をしてくれた人達は都会の人だから寝る事ができるのだろう。

 それに料理から想いを辿って作ってくれた人達を視ると、皆何となく寝なさそうな人だった。何人か僕の村に来てくれた事のある近い親族だし、田舎者だから睡眠が出来なくても不思議では無い。

 と言うことはやっぱり寝ている人が多いから、今日の料理人が少ないのだろう。


「いえ、その思考の前提からして違います。料理人の数が減ったのは生徒達のように、アークの力に当てられたからです。今はどこかで固まっていますよ」

 アンミールお婆ちゃんは諦めた雰囲気で僕の推理を否定し、答えを教えてくれた。

「僕の力に当てられた? 何かの間違いじゃないかな」

 しかし納得がいかない。そんな事した覚えがないし、僕にそんな力なんて無い。


 しかしコアさんは何故か納得がいくようだ。

「ああー、なるほど。マスター、昨日のアレですよアレ。咲き続ける花を生やしていたでは無いですか」

「そうです。皆、その力に当てられたのです。

 生徒達のように未熟な者は生やされた植物の出す魔力等に当てられ、教師はその真の部分を理解してしまうが故に動けなくなる。

 理の遥か外側を凌駕し呑み込む最果ての力、そんなものが振るわれたら何処であろうとこんな有り様になりますよ」

 僕の細やかな抗議は無視され、二人で結論付けている。


 だが一応内容を聞いてみると、僕も何となく納得のいく説明だ。


「つまり皆、僕の生み出した光景に感動のあまり動けなくなっているんだね」


 魔力とかそこら辺はよく解らないがそう言う事なのだろう。

 植物の心がまだ発展途上の先輩達はただ華やかさに感動して、目の肥えている先生達は華やかな花々では馴れているからそこまでの感動は無いが、永遠の春全体の作る美しさが解るからそれに感動して動けないのだ。

 感動して動けない程とは、僕も良い仕事をしたな。実際は逆の休憩だけどね。


 しかし僕がそう納得しているとコアさんとアンミールお婆ちゃんの二人が、口を揃えて大きめの声で言った。


「「それもあるかも知れませんが、断じて違いますから!」」


 まるで熟練の夫婦のように息ピッタリだ。

 コアさんとアンミールお婆ちゃんって昨日知り合ったばかりなのに……。

 それ程までに主張したい事なのだろうか?


 何にしろ反論は止めておこう。今何を言っても火に油を注ぐ結果になってしまいそうだ。

 言いたい事は沢山あるけど……。


「昨日も大変だったのですよ。教師陣の多くがアークの力に当てられて、生徒も今日ほどではありませんが固まってしまいましたし。回復したのは私ですからね。

 今日なんか夜だったので放置してしまいましたよ。

 まったく、そもそもですね。昨日のはまだいいですよ。ここに元々在った植物の残滓をこの世に芽吹かせただけですから。ですがね今日のは――」


 しかし黙っていたら、流れでアンミールお婆ちゃんのお説教が始まってしまいそうだ。。

 見掛けは幼女なアンミールお婆ちゃんが怒っても見掛けは可愛いだけだが、言っていることはしっかりしていて長い。兎に角長い。この前なんかもうこんな時間だよと然り気無く言ったが、時間を停止して体感時間が追加されてしまった。


 どうにか切り抜けねば。

 少なくともこのままでは朝食が冷める。

 だが変に反論したら昼食の時間まで潰されてしまいそうだ。


 どうしようか?


 僕は顔を動かさないまま、学都全体を視渡した。

 何かないかな? お説教を回避できる何か。


 とそこで未だに意識が飛んでいる先輩達が目に留まった。

 そうだ。僕がやった覚えは本当に無いけど、僕が先輩達を元に戻したら回避できるかも知れない。

 ついでに言い訳…正論を。


「アンミールお婆ちゃん、視てよあの先輩達の体勢。実は縁結びの為にああいう風に動かしたんだ。皆固まっていたからやり易かったよ。これから元に戻したら縁結びが成功しそうだと思わない?」

 僕は子孫スマイルでアンミールお婆ちゃんに自慢するように言った。


「なんだ、そう言う事でしたか。縁結びの為ならば致し方ありませんね」

 僕の子孫パワーでアンミールお婆ちゃんはいとも簡単に陥落した。

「…………」

 コアさんは何この茶番みたいな視線を僕達に向けるが、何であれ成功だ。

 後は実際に先輩達を正気に戻してしまえばこの話題を終了だ。さらに上手くいけば縁結びも。


 さて、そろそろ正気に戻ってもらおう。



 …………。


 一つだけ問題があった。僕は先輩達を正気に戻す方法を知らない。

 コアさんに相談しよう。


「コアさん、皆を正気に戻すにはどうしたら良いと思う? とりあえず神雷でも撃ち込めば正気に戻るかな?」

「磁場の狂った星でも治すきですか……。仙茶でも振りかければどうです?」

「仙茶か~、食べ物は無駄にしたくないな。魔術で何かない?」

「気絶から回復させる魔術なら何故こんな数、と言う程ありますが、先輩方の状態は気絶では無いですからね。いろいろ試してみます? 一組ずつ試して良かったもので皆さんを正気に戻してみましょう」


 流石はコアさんだ。頼りになる。


「ではまず、気絶から回復させる魔術を使いますね。“汝、死を求める(ステュクスヒュドール)”」


 コアさんはここから一番近くに居た一組に向けて魔術を行使した。

 途端、その先輩達を中心に禍々しい嘆きの暗雲とでも言えるものが渦巻き拡がり、地面には赤黒い血で書かれたような五芒星に近い魔法陣が浮き出る。


「……コアさん、何この魔術?」

 あまりの不気味さに僕は説明を求めた。気絶から回復させるって、もしかして死によって実現させる目茶苦茶なタイプのヤツじゃないよね? ねぇ!?

「……記録にある魔術式を発動しただけですから……一度も試した事はありません……強力そうだったので……」

 コアさんは人を轢き殺してしまった人のような雰囲気だ。本格的に不味いかも知れない。


 魔術は続く。

 魔法陣から血に濡れた黒ローブで身を隠し、長いペンチやフックに鞭などの拷問道具を手にした六体の人型が現れた。

 そう、人型だ。酷い猫背でその状態でも二メートルはあり、手足も長く、黒ローブで完全に隠された頭部からは爛々とそれでいて暗い光が漏れており、人かどうかが判断できない。

 恐らくこの人型がこの魔術によって生れた眷属なのだろう。


 地獄の獄卒のような眷属は拷問道具を掲げた。

 魔法陣から暗く深い極寒の雰囲気がする水がゆっくりと湧き出し始める。そして水は螺旋を幾つも描くように暗雲に昇り、一気に墜ちた。

 バケツをひっくり返したような水が何回も一組の先輩達にぶつけられる。


 …………。


 水が止んだ。


 …………。


「「……これで終わり?」」

 僕達は二人同時に呟いた。

 禍々しい光景だったわりに、起きたのはバケツの水を何回もかけるような結果だけだ。


 そんな中でアンミールお婆ちゃんが珍しいものを視たと言った感じで教えてくれた。


「今のは本格的な拷問の時に使用される水属性回復魔術ですね。随分と珍しい魔術を、最近ではマニアの類いしか魔術の存在自体知らないですよ」


 と言う事らしい。


「もしかして気絶した人にバケツの水を被せて起こすアレ?」

「はい、それを再現した魔術ですね」


 ……誰? 態々こんな魔術を作ったの?


 因みに先輩達は正気に戻っていない。

 そりゃ水をかけただけで元に戻ったら苦労はしない。


「もう次やっちゃって」

 僕は早く忘れる為にそう言った。

「はい、“ファイアヒール”」

 躊躇したのか、今度は基礎的な回復魔法の一つをコアさんは使った。治癒の力は他の回復魔法に少し及ばないが、精神も回復させられる魔術だ。


 先程と違う二組の先輩達は優しい炎に包まれる。

 そこそこ規模の大きな炎なのに全く燃える気配は無い。飛び込んでも大丈夫、そんな事まで思い起こさせる炎だ。実際に温度は気温よりも少し暖かい程度だろう。


 そして炎から慈母のような眷属が現れ、先輩達を優しく抱きしめる。


 ……うん、効果無し。


 縁結びの体勢、お互いの肩に手を起き抱き寄せる直前の形の全裸の男女。それを優しく抱擁する慈母。

 そして隣の獄卒にバケツの水をかけられているこれまた同じ状態の男女。

 神話をモチーフにした絵画のモデルみたいだ。

 一応精神にダメージの少ない見掛けに出来たから良しとしよう。


「はい、次」

「“夢幻”」

 次は思い通りの夢を見させる幻覚魔法を使った。恐らく僕の生み出した光景に感動してこうなっているから、違う光景を見せようとしているのだろう。


 コアさんの掌から煙で出来た流れ星のような光が放出され、新たな一組に直撃する。


 そして霧散した。

 眠そうな少年の姿をした眷属もよろけたように現れる。眠そうな顔ながらも驚きを露にしながら。


「“夢幻”」

 コアさんは首を傾けながらもう一度同じ魔術を発動する。


 眷属が元の魔術の形に戻り、再び先輩達に向かう。

 で、弾かれた。


「何で?」

「何故でしょう?」

 今度は二人で首を傾げた。

 効果が無いのではなく、魔術が初めから無効化された。


「一端整理してみようか」

「そうですね」

 原因が判らないので今までの結果を整理することにした。


 因みにアンミールお婆ちゃんは答えを教えてくれないようだ。暖かい眼差しで僕達を見守っている。


「最初の禍々しい魔術は気絶から意識を取り戻させる魔術だったよね?」

「魔法式からしてそれで間違いありません。後、物理的な効果も見た目通りありますが、それを含めても気絶から回復させる魔術と言う認識であっていますね」

「じゃあ、先輩達が気絶していた訳じゃないってのは確かなんだね」

「はい、そうなりますね」


 “汝、死を求める(ステュクスヒュドール)”は最後まで発動しきっていたから、魔術の効果が先輩達に及んだと見て良い。

 そしてアンミールお婆ちゃんの話だと拷問で気絶した人を起こす魔術だから、肉体的に気絶するしか無い人でも強制的に気絶から回復させられる。つまり気絶なら何でも治す事ができる魔術だ。

 そんな魔術の力が最後まで及んだのに、先輩達が正気に戻らないと言うことは、気絶していないと言うことだろう。


 確実に答えを知っていそうなアンミールお婆ちゃんが、うんうんと頷いているからそれで合っているらしい。


「で、“ファイアヒール”は精神も回復できる回復魔法だよね?」

「はい、大方その認識で正しいです。もっと正確に言うと意思をはっきりと、強く持たせる魔術ですね。惑わされていたり、当初の目的を恐怖などで失った場合、元の状態に戻らせる事ができます」

「なら、精神に異常をきたした訳でも無いのかな?」


 魔術が眷属に成った事で、この魔術は永続的に発動されていた。

 だから一回の威力が弱くても、精神異常なら多分洗脳とかでない限り、既に正気に戻っている筈だ。

 しかしそうではない。


 答え合わせにチラッとアンミールお婆ちゃんを見る。

 あれ? 微妙な顔だ。間違いでは無いけど正解でもない。う~んと可愛らしく考えている。


 まあ、完全な間違いで無いのらなら先に進もう。


「“夢幻”は夢を見させる幻覚魔法だよね?」

「はい、ですがあの時は弾かれました。この魔術は夢を見させる魔術ですから当然眠らせる魔術でもあるのです。それが初めから弾かれたので、恐らく眠らせる事が出来なかったのだと思います」

「そう言えば先輩達、全く動かないけど一晩中起きているよね。都会の人なのに。

 もしかしたら先輩達の状態をこちらが変える魔術は使えないのかもね。ほら、前の二つは先輩達自身を回復させて自主性に頼ったものでしょ?」


 僕の言葉にアンミールお婆ちゃんが満足そうに頷いている。どうやら正しいみたいだ。


 コアさんもアンミールお婆ちゃんをチラッと見ながら結論を出した。


「では、先輩達の意識を刺激して元に戻せばいいと言うことですね。ではあの魔術を使ってみましょう」


 そう言ってコアさんは今までよりも遥かに大規模な魔法式を展開し始めた。

 そして魔法式が出揃うと短い詠唱を唱えた。


「“黒を白日の元に”」


 仕上げに魔術名を。


「“消せぬ歩み(ブラックレコード)”」


 その刹那、展開されていた魔法陣が的の先輩達に集まり囲む。

 そして花咲ように魔法陣が光に変わり、外に広がり始めた。共に天秤と水晶玉を持った審判の天使のような眷属が光臨する。


 まだ先輩達はびくともしない。


 続いて審判眷属は両手の水晶玉と天秤を前方に掲げた。

 魔法陣だった光が人型に集り、えっと……天使が誕生する。天使だよね? 消去法で天使で良いとしよう。


 現れた天使はなんと言うか……顔はまさに神が自ら創造したとしか思えない程整っており、純白の翼も頭上の光輪もあり天使としか言いようがない。

 しかし表情や服装が俗すぎる。

 弱味を握った悪魔のようなニッタリとした笑顔、どこにでも売っている普通の服、そして極めつけは首から下げた立派なカメラ。なんか特段胡散臭いパパラッチのようだ。


 そしてパパラッチ……一応多分恐らく天使(仮)はカメラを構えて先輩達の周りをぐるぐると飛び始めた。無数のシャッター音が響く。

 そして撮りたての写真を先輩達に見せつけた。


 途端、ビクンと先輩達の肩が動く。


「……コアさん、神々しくて胡散臭い魔術で先輩達が反応したよ」

「……ですね。まあ一応この魔術は〈鑑定〉や〈解析〉の奥義と言われる武技、“ブラックノート”を再現した超高等魔術ですからね」

「あの黒歴史を正面からぶつける魔術の? だからパパラッチみたいなのが出てきたんだ……」

 恐らく奥義と言われる程の高等さと中身のゲスさ、この二つが組合わさりこうなったのだろう。


 先輩達の反応は見せられた写真が多くなる程大きくなる。

 パパラッチ…もうパパラッチで良いや。パパラッチは追討ちをかけるように今度は隠し持っていたらしい、音声レコーダーらしきものを取り出した。

 先輩達の耳元で音声を再生する。


 先輩達の全身から冷や汗が流れ出した。

 そしてついに大きくブルンと震えて正気に戻る。そしてそのまま気絶した。精神の負担が大き過ぎたようだ。


「これは……成功だよね?」

「……元の状態からは戻りましたからね。とりあえず獄卒眷属に水をかけてもらいましょう」


 気絶したばかりで悪いが、本当に成功したのかもしくは悪化したのか、目覚めてもらわないと判らない。


 僕達の会話を聞いた獄卒眷属が気絶した先輩達に水をかける。

 途端、先輩達はゆっくりと目を開いた。その瞳は不安定に震えている。

 そして寝ぼけたように、しかし強い意思を感じさせる確かな様子で口を開いた。


「……卒業したんだ。僕は卒業したんだー!! シークレット最強勇者ダークフレイムドラゴンなんて知らなーいっ!!」

「……知らなかったんです。国王《御父様》の不自然な髪型がカツラだったなんて、ヅラしたら世界大戦に発展するなんて!!」


 二人は縁結びな体勢、キスをする直前のお互いの肩を引き寄せた形のまま黒歴史の傷で叫ぶ。

 因みに植物で固定しているから、この体勢が崩れる事はない。


 それにしてもこの二人、隠れ闇勇者のハウゼン先輩と、無双系お姫様のナタリーナ先輩は一体何をしでかしたのだろうか?

 後で写真とレコーダーを取り寄せよう。

 あ、持ってきてくれた。


「どうぞこちらを」

 パパラッチは誰君?と言いたくなるような天使らしい正装、天使らしい表情で僕達の前で跪き、丁寧に写真とレコーダーを眩い輝きを放つ銀トレーに載せて献上してきた。

 僕達の前だと真面目になるんだね……。


 まずはハウゼン先輩から。

 写真には実用性の無いやたらと格好いいダークなギザギザ剣を持ち、自分で所々破いたり斬ったりした戦闘装束を着、さらに無駄な格好いいポーズを不適な笑みを浮かべながらするハウゼン先輩の姿が写っていた。

 同時期の音声では『封印されし魔剣バナバルブを今ここで解き放つ! 闇に呑まれろ! ダークネス――』等といっている。

 次の写真ではボロボロの状態でハンケツを出しながら地面に埋まる姿が。どうやら余計な事をしている間にやられたらしい。

 そして似たような写真が続く。

 何よりも驚くのが最近まで続いている事だ。どうやら卒業したてらしい。


 次にナタリーナ先輩。

 どこかの重大そうな国際会議で父親らしき国王のカツラを面白半分に取ってしまう場面が。そして次の写真では他国の有力者達に王が笑われる場面。そしてそのまま戦争に。

 次は戦争中の写真。父親が禿げてたショックを父親が笑われた怒りに変え、と言うか逆ギレして広域毛根根絶魔法を敵国にブッ放す場面だ。頭頂部の髪がお亡くなりになるのを見て高笑いしている。


 二人ともろくなことしてないな。

 兎も角、知られたくない過去を真正面からぶつけると、正気じゃなくても飛び起きるらしい。

 これで起こす方法は判った。


 しかしまだ判っていない事もある。

 縁結びの結果だ。二人とも隠したい過去にばかり気を取られて、全然今の体勢に気が付いてくれない。


 だが待つ。

 僕が解かない限り植物は先輩達を固定したままだから、反応が見れるまでいつまでもこの状態を維持出来る。


 暫くしてやっと二人の目が合った。

 二人とももしやバレた!?と動揺するがすぐに何事も無かったように取り繕い話始める。上手く誤魔化したいらしい。


「やあ、ナタリーナさん。新しい服だね。どこかにお出掛け……」

「ハウゼンさんこそ、いつも黒いお召し物なのに今日は……」

 お互いの視線が相手の服に行く。着てないけどね。

「「……!?」」

 ここでようやく全裸な事に気が付いたようだ。驚愕しながらも暫しの間、ドコとは言わないが当然のようにソコを凝視する。


 うん、性欲は普通に健全にあるみたいだね。

 後は流れだ。それで縁結びの結果が変わる。


 次に二人はそーとお互いの顔を伺う。凝視し過ぎて色々と不味いことに気が付いたようだ。

「「ふぅー」」

 しかし相手も同じ様子なのを見て安心したように軽く息を漏らす。

 そして顔を真っ赤に染め視線を逸らした。あらゆる恥ずかしさを今更ながら覚えたらしい。

 さっきから色々と感情が忙しい人達だ。


 視線を逸らした二人だが、またそーとお互いの顔色を伺い、ついに自分達の体勢に気が付く。

 まず顔が異様に近い事に、お互いの手が自分達を引き寄せる形であることに。それはまるで愛の通じた男女がキスをする直前の様だと。

 さらに二人は顔を赤く染めた。


「ま、まだこういうのは早いと思うんだ。ぼ、僕達まだ、付き合ってもいないだろ?」

「そ、そうですよね。ま、まだ付き合っていませんし」


 そして顔を離す。

 残念キスまで行かなかった。

 しかし縁結びとしてはかなり成功したと思う。いきなりほぼゼロからまだ付き合っていないと言う関係まで進める事が出来た。これは成功と言っていいだろう。


 まあ、まだキスする可能性は残っているから、暫く拘束したままにしておこう。



「コアさん、縁結び成功だね」

「成功ですね。流石に子作りまでは行きませんでしたが十分な成果です」


 コアさんと喜びを分かち合った後はアンミールお婆ちゃんを見る。

 アンミールお婆ちゃんは満足そうに、そして嬉しそうに二人の先輩達を眺めていた。

 僕の視線に気が付くと口を開いた。


「アーク、良くできましたね。これで私が生きている内に新たな子孫の顔が見れそうです」

 そう言いながら僕の頭を撫でてくれた。

 一瞬、アンミールお婆ちゃんって全ての存在が殺しにかかっても絶対に死なないよね?と口から出かかるが、大人しく頭を撫でてもらう。


 そして撫でられながらチラりと他の正気を失っている先輩達を視た。

 無作為に組み合わされた男女。一体この中からどれだけの人が結ばれるのだろうか? 一体どれだけの未来が生まれるのだろうか? 楽しみで仕方がない。







 《用語解説》

 ・汝、死を求める(ステュクスヒュドール)

 水属性気絶回復魔法。

 一応回復系の魔術である。バケツ一杯分の水を何度も対象者にかけて気絶から目覚めさせる。目覚められない程の損傷が原因でも、目覚める最低限度までは回復させる為、実質気絶ならばどんなものからでも目覚めさせる強力な魔術だ。

 因みに冷水の冷たさで直接起こすのではなく、冷水が気絶回復効果を持っている。さらには気絶前の記憶維持効果、若干の恐怖絶望効果等がある。何よりも正気維持効果がある。


 元々最高の拷問を継続する為に造られた魔術で、被拷問者が如何に意識を飛ばそうと拷問から逃れる事は出来ない。

 しかし物騒な気付け薬に近い効果しかない割りに、この魔術の発動には相当な魔術の腕前が必要。最低でも一国の筆頭宮廷魔術師及び同等の立場に成れる実力が無いと発動出来ないので実際に拷問で使われる事はまず無い。

 そんな魔術の存在が記録されることも同様にほぼ無い為、この魔術の存在はマニア、それも異常な者もしくは全智なる存在しか知らない。



 ・ファイアヒール

 火属性回復魔法。

 回復の魔術が一般的に無いとされる火属性魔法にある稀有な魔術。使い手にもよるが軽傷を治す程度の威力しかない。しかし精神的消耗も回復できる隠れた効果がある。


 この魔術の難易度は比較的低く、魔法式を知っていて理解すれば大抵の者が使える。

 しかし火属性魔法に回復魔法は無いとの先入観からか、存在が殆ど知られていない。魔術先進国でもなければまず使い手は居ないと思っていい程度の魔術だ。


 もし仮に存在の知らない地域にこの魔術を紹介する者が居たら、火属性魔法には攻撃魔法以外殆ど無いと言う今までの常識を覆したとして、その地域のノーベルな賞に値する賞も軽く受賞できる。

 少なくとも世界規模の大きな衝撃が走るだろう。



 ・夢幻

 遠距離夢創作魔法。

 遠距離からでも対象者を眠らせ、その夢を自在に操れる魔術。既に寝ている相手にも自らの作った夢を見せる事ができ、現在対象者が見ている夢を覗く事もできる。ある程度の現実への干渉も可能。

 かなり高等な魔術で、その地域で最も魔術に秀でた者、もしくは夢魔族等の特殊な種族にのみ使用可能と言うレベルで、世間ではまず知られていない。


 世間に知られていないのは、故意に隠蔽している為で、古来より神託と称して人を操る勢力が歴史の各所で存在している。

 実際に神霊の類いがこの魔術に近い方法でメッセージを送る事もよくあり、極めて特殊な魔術と言える。


 因みに夢を見させる魔術は他にも存在するが、その殆どは手の届く範囲で魔術を行使する必要があり、現実には干渉できない。

 また神々の使用する“神託”はこれの上位魔術の一種と言われている。


 余談だが、アンミール学園では生徒への連絡に使用する事も多いとか。



 ・消せぬ歩み(ブラックレコード)

 黒歴史顕現魔法。

 対象者の黒歴史を覗き、それを対象者に見せる魔術。

 鑑定系スキルの奥義とも言える武技を魔術で再現したもので、これの発動の難易度は歴史に確実に残るレベルの、史上稀に見る賢者が束になって儀式をしてもほぼ失敗する程。“神託”を発動するよりも遥かに難しい。最高難易度魔術の一つ。


 もし使えたらアンミール学園を始めとした、ユートピア関係者が確実にスカウトに来る。

 もしどのスカウトも嫌なら、一度発動すると来来来世ぐらいまでは狙われるので、発動できる能力が有っても使用しない方がいい。

 後、使える者はふざけて自分の名に貴族号を入れて口に出すと、本当に名前に入ってしまう為、注意が必要。


最後までお読み頂き、ありがとうございます。

次話は第三十三話か裏あるいは表の十八から三十二話にするか決めていません。先に完成した方を投稿しようと思います。

またモブ達の物語の第一弾もそろそろ完成するのでそちらを先に投稿するかも知れません。

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