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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第2章 〈アンミール学園入学〉あるいは〈都会生活の始まり〉

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第三十一話 縁結びの配置あるいは吊り橋効果の準備

 

 灯籠の光に照らされた桜の花びらがひらひらと世界を飾る。灯籠の無い場所では月と星の静かな光に照らされて。

 この桜達は咲いては散っての春を途切れる事なく永久に繰り返す。桜の醍醐味はその華やかさ、そしてその儚さであろう。

 ここの桜にはその儚さは無い。儚さを引き立てる月光もここでは、言ってしまえばただの照明だ。

 だがそれでも言葉に出来ない程美しい。心のどこかに刻まれているかのように、理由も無く美しいと想える。


「もぐもぐ……ムシャムシャ」


 そんな風景を眺めながら、僕は皆が永久に続く春の景色に慣れるまでお茶をしていた。

 この御団子美味しいな。御餅も美味しい。

 夜桜を視ながらだとなお良い気がする。


「…もぐ…もぐ…」

 コアさんは先輩達とは違いほぼ正気に戻っていたが、どこか無心で機械のように御団子を食べている。


 いつまで放心しているのだろうか? もう結構な時間が流れている。僕が春を広げた時はまだここの空の端っこが茜色だったのに、今は星の明りが世界を照らしている。

 正確な時間で言えばそんなに経っていないだろうが、流石にそろそろ元に戻って欲しい。


 まだ魔物との戦闘中だし、誰も戦って無いけど……。


 誰も困って無いから良いのかな?

 それにとても良い光景だけど、そんなに唖然とした顔で見続ける程? もしかして儚さが足りないから、自分達が静かにして少しでも演出しようとしているのかな? 動きまで停める必要は無いと思うけど……。


 でも皆が静かにしている時にしかこの光景は視れないから、それを存分に楽しむのも良いかも知れない。

 桜の醍醐味の一つだしね。そうだ、今度は醍醐でも食べようかな? 桜を見ながら乳製品を食べる人はなかなか居ないだろうけど、洒落ていて良いかも知れない。


「ねえそこの君、醍醐を買ってきてくれるかな?」

 僕は近くの眷属に頼んだ。

「醍醐ですね? すぐさま眷属総出でお探しします」

 そう言って眷属の一人は姿を消した。


 そして数秒後に何故かナギとサカキが現れた。


「申し訳ございません。醍醐を見つける事は叶いませんでした。この時間、この状況でやっている店は数少ない有り様です。個人的に作られたものが無いかと探しましたが、そちらも発見できませんでした」

 とナギが報告をしてくる。どうやら見つけられなかったのを、眷属達のトップである二人が代わりに報告しに来たようだ。

 それにしても恐ろしく仕事が早い。しかも売り物だけでなく家庭(?)の中まで探して来るなんて。


「つきましては我々が代わりに御作りしようと思うのですが、宜しいでしょうか? 御不満でしたらこの一帯の全料理人に作らせますが?」

 とサカキが提案してくる。後の提案は耳を疑わずにはいられないが、どう見ても眷属達は本気だ。僕が料理人に作って欲しいと言ったら直ちに実行するだろう。


「いや、君達が作ってよ」

 即座に、僕は努めて笑顔で前者を頼んだ。

 返事をグダグダしていたら何を勝手にされるか解らないからだ。


「「畏まりました」」


 早速眷属達は動いた。

 どこからか様々な動物魔物等の乳に、大鍋大釜と小鍋小釜その他調理器具。

 何人居るか判らない数の眷属達が別々の方法で調理に取り掛かる。僕は醍醐の作り方を知らないけど、ここまで大がかりなものでは無いと思う。

 恐らく試行錯誤する為だろう。完璧主義なのかな?


「何でこんなに行程が違うの?」

 素直に聞いてみた。

「醍醐のレシピが失伝している為です。恐らく牛乳を煮詰め固めたものを発酵させるのですが、間違っている可能性もあるので」

 そう言う事らしい。僕はそのあやふやなものでも美味しければ何でも良いのだが……でももしも醍醐が調味料とかだったらどうしよう? 本物が出来たとしてもそれは困る。


 そうほんの少し思っている間にも試作品が次々と持ってこられる。これは僕が食べて美味しかったものを採用するってことかな? 一応明らかな失敗作は省いているようだし、早速頂こう。




「マスター、何を食べているのですか?」

 醍醐作りからまた暫く時間が経ち、コアさんはいつも通りに戻った。そして僕がお茶をしているのにも興味がいくようになったらしい。


 だが僕はコアさんの質問に正確には答えられなかった。


「何って、多分チーズケーキだよ?」

 そう、僕が今食べているのはチーズケーキ、に近いものだ。

「先程、虚ろながらも醍醐を所望していたのを聞いていたのですが?」

「それがね、途中でとっても美味しいチーズケーキ、みたいなのが出来たんだよ。だからそれから醍醐じゃなくてこっちを作って貰ったんだ。それに答えを知らないから何時まで経っても醍醐が完成しなかったんだよね」


 あれから色んな醍醐、らしきものが出来た。醍醐チーズや醍醐ヨーグルト、醍醐ソース等固体や液体、果ては気体まで様々なものが作られたが、結局答えが解らなかったからその中で一番美味しかったものを作って貰っていたのだ。

 そしてそれをよくよく見ればほぼチーズケーキだったと言うわけである。因みに試作品の醍醐もアクセントとしてチーズケーキに使われている。


「ムグムグ、コアさんも食べなよ。普通のチーズケーキよりも美味しいかもよ?」

 そう言いながら僕はコアさんにお皿を一つ渡す。

「どうも、では頂きますね…ハムッ…美味ひいでふね」

 実はコアさんもさっき食べていたのだが、虚ろだったので覚えていなかったようだ。そうだと思って勧めて良かった。

 美味しいものは共用しなくちゃね。


「ところでコアさん、先輩達全然正気に戻らないけど、もう縁結びを再開しても良いと思う?」

 コアさんが元に戻ったし、多分そろそろ先輩達も元に戻るだろう。だったら何時までも春を満喫する訳にもいかないしもう再開したい。そもそもまだ戦闘中だし……先輩達が暇な間にしてしまった方が良いだろう。


「問題無いと思いますよ。元々先輩方に許可を取ってやった事ではありませんから、今の状態で縁結びしても大して変わりませんよ。

 それに……寧ろ何かをしないと先輩方が正気に戻らないかも知れませんし……」

 コアさんは遠くを見ながらそう言った。春の景色って良いよね。

「確かに許可なんか元々取って無かったね。さっさと始めようか」


 僕は一旦お花見を止めて先輩達を見渡す。

 相変わらず胸が上下していなければ死んでいるとしか思えない程、永久に続く春の景色に目を奪われ停止している。


 さて、この状況だとどんな縁結びのしかたが良いかな? どうせならこの状況が活かせる方が良い。

 そうだ。止まっているし、場所を動かしてしまおう。目覚めた時についつい縁が結ばれてしまいそうな形にして。


 そうと決まれば行動開始だ。

 まず先輩に近付く。あ、少し濡れている。そこそこ時間が経ったがここ自体が御風呂なので乾きはしなかったらしい。

 これじゃ僕が濡れてしまいそうだ。手で動かすのはよそう。だったら念動で……いや、また石鹸と反応したら嫌だからそれもよそう。

 だったら植物を使ってと。


「よいしょ」

 僕は植物を生やそうと、指をくいっと上げる動作をする。別に必要な事では無いが気分的に良い。

 植物は僕の思い通りに先輩達の下に芽生え始めた。


「マスター、何です? その指のくいっとした動作は?」

 コアさんは僕の指の動作に気になったようだ。少し格好つけ過ぎたかな?

「ほら、よく英雄達が技の前にポーズを決めたりするでしょ? それの真似だよ。都会に来たから田舎者だと思われないようにね」

 僕はとりあえず自信を持って説明した。


「それに都会って、関係ありますかね?」

 コアさんは納得がいかないようだ。

「あるよ。英雄は皆の憧れ、目指すべき到達点の一つだからね。正しいに決まっているよ。コアさんもやった方が良いよ?」

 やり過ぎは厨二病になってしまうし、少し恥ずかしいが正しいからやるしか無いのだ。

「確かにそうかも知れませんね。分かりました。今度から試してみます」

 納得してくれた。魔術名とかはコアさんも初めから意味もなく言葉に出しているし、きっと上手く出来るだろう。


「ところでコアさん、先輩達を今の内に縁結びな形に配置したいんだけど、どんなのが良いと思う?」

 僕は話を戻し本題に入った。

「縁結びな形って、あれですか? 先程も起こった胸に顔を埋めるような体形の事ですか?」


「うん、そのトーリ先輩達が体験した格好に先にしてみようかなって思ってね」

 ラッキースケベで考えると偶然と言う要素が大分抜けてしまうが、縁結びとしてなら成功するかも知れない。それにそもそも先輩達は意識を取られているので、ラッキースケベとして成功する可能性もある。

 どちらにしろラッキースケベの先にあるものを初めから用意したらどうなるか? 実験と言う意味で言えばやらない理由は無い。そもそも縁結びの教科書等存在しないのだから、やってみるしか無いのだ。


「それは良い考えですね。では壁ドンの形でもやってみるのはどうでしょう? 今日だけで様々な形の縁結びを試しましたが、壁ドンと言う形は中々誘導できるものではありません。是非とも今の機会に試すべきです」

 確かに壁ドンの形に導くのは難しい。床なら割りと出来そうだけど、壁に手を着く形はやろうとしたら変なところに手を着くのが精々だろう。

「でも壁ドンってあの形に意味があるのかな? ドンってやる強気なところに惹かれるんじゃないのかな? 形だけだとドンの部分が無いし、でもやってみようか」

「はい、どの道全て通常では起こらない現象なので、兎に角思い付く限りの方法は試してみましょう」


 少し疑問が残るが僕達は早速行動に移した。


 生やした植物を手足のように動かして配置を試みる。


 うん、皆硬い。思考だけでは無く身体もしっかり停止してしまっているようだ。

 それでも頑張って壁ドン後の形に配置してみる。


「コアさん、先輩達、しっかり立ってくれないんだけど?」

 何度もバランスを取って植物を取るが何度もグラついてしまう。

「初めの立っていたバランスを保ったままのようですね。流石に植物を残したままと言うのもどうかと……それでいきましょう。植物をそのまま残して置けば良いのですよ」

「そうだね。このままにしてみようか」


 結局そのまま放置することにした。


「性別を逆とかもしてみようか?」

「どうせなら床ドンや色んなところへのドンを試してみましょう」


 僕達は作業を続ける。

 先輩達が元に戻る様子が無いからまだまだやれる。

 時間が許す限り続けよう。


 ドンシリーズだけじゃつまらないから他のも。

 え~と、キスでもさせてみようかな? 他にはかなり緩いけど手を繋がせてと。時限式も作ってみよう。

 御風呂をうっかり覗いちゃった感じのも……ここ御風呂だ。よくよく考えたらどんな形でも皆ほぼ全裸だから、縁結びの第一段階としては成功しているんじゃ?



「他には何か良い縁結びのシチュエーションってある?」

「形だけならもう大体が出来ましたからね。後は……魔物の前に二人セットで配置してみると言うのはどうですか?」

 大体の先輩達を配置し終わってアイデアが無くなりかけていたところ、コアさんに聞いたら平然と凶悪なアイデアを出してくれた。


「流石にそれは止めた方が良いんじゃ?」

 僕は暗に駄目だよと告げる。

 倫理的にヤってはいけない事だと思う。


「いえ、結ばれる初めはラッキースケベ等が多いですが、お互いを意識し、真に結ばれるきっかけになるのは危機的状況を助けられる、二人で乗り越えることからの方が多いと思います。寧ろ強いハーレム、逆ハーレムの命運の元に無い英雄達にとっては結ばれる必須条件と言えます」

 コアさんの言う事を英雄譚(ライトサーガ)で思い出してみると確かにそうだ。あくまでラッキースケベとかは始りに過ぎない。

 勿論ラッキースケベもお互いの意識する大きな要因である事は否定出来ない。


「そうだね。迷わずヤっちゃおうか」

 ならばと僕はすんなり決断した。

「そうですマスター、貴方はこれから幾多もの人々を結んでいかなければなりません。何れ避けては通れない道です。

 と言うか今までヤってきたと大して変わりませんよ」

 と身に覚えの無い事をコアさんは言ってくるが、兎も角躊躇する僕の背中を押してくれている。

 押してくれた先が最難関ダンジョンの深淵に続く穴かもしれないが、コアさんを信じて進もう。


「よくよく考えたら倫理なんて僕達には関係無いしね。村長も毎回倫理の試験は0点だったって言ってたし」

 そもそも倫理とは村一番物知りな村長でも0点しか取れない難しすぎるものなのだ。そんなものを田舎から出てきたばかりの僕が気にしても仕方がない。

 だったら迷うよりも前に突き進もう。


「…………倫理の試験って、0点取れるのですかね…………」

 あれ? 何故かコアさんの反応がおかしい。変なところに反応している。少し思考が追い付かないといった様子だ。

「アンミールお婆ちゃんも言ってたよ。家の学園は倫理の出来だけは物凄く悪いって。だから倫理は都会でも難しいものなんだよ」

 僕はコアさんに解り易いように説明した。

 曰く選択問題でも0点が頻発するらしい。


「それってこの学園が恐ろしく不味いところなだけなのでは……?」

 コアさんは困惑等を通り越して戦慄し始めた。

 コアさんってある意味切り替えが早いよね。ダンジョンコアとしての処理能力が高いからかな?


「じゃあコアさんに一つ倫理の問題ね。許可の無い他人への鑑定の問題点を次の選択肢から選べ」

 僕はそう言いながら宙に問題を綴る。

「①プライバシーの侵害である。

 ②魔力等の燃費が悪い。

 ③後ろ暗い秘密を覗いてしまった場合に襲われる可能性がある。

 ④情報が局所的で間違っている場合がある」

 因みに僕は答えが判らなかった。何でも①が正解らしい。プライバシーってプライバシースキルのプライバシーと同じものだとは思うけど、一体何なのであろうか?


 コアさんは少し考えてから自信満満に答えた。


「判りました。さては引っ掛け問題ですね。答えたは②③④です。いやぁ~マスターも意地が悪い。いきなり答えが3つもあるなんて~」

「コアさん、残念だけど倫理の問題では答えが①何だって」

 僕はその気持ちはよく解ると頷きながらも真実を教えた。


「はいっ!? そうなのですか!? な、何故? と言うかプライバシーとは一体?」

 余程自分の答えに自信があったのだろう。コアさんのその動揺し振りはイカサマをしたのに完膚なきまでに負けた賭博師のそれに近い。

「ね、難しすぎるでしょ?」

「はい、倫理とはわたくし達の手の及ばないものなのですね」

 今度は完全に納得がいったようだ。


「じゃあ、先輩達の配置を進めちゃおうか?」

「そうですね」


 僕は植物を操作して先輩達を運び出した。御風呂に入っていたからほぼ全裸のままだが、縁結びの配置をするので気にせずこのまま移動させる。

 だが永久に繰り返す春の中を抜けて行く全裸の先輩達は中々に…斬新?だ。奇妙にも程がある。何度も中止しそうになる。

 しかし魔物も含めて僕達以外にこの光景を見るものは居ないと自分に言い聞かせて続行した。

 視ているとしてもアンミールお婆ちゃん達ぐらいだろう。身内なら多分気にしないでいてくれる。


 なんにしろ長時間やれる自信は無いからさっさと移動させてしまおう。


「魔物は一応植物で拘束しといた方が良いかな?」

 僕は先輩達が魔物の大軍の中にたどり着く前に、コアさんに聞いた。

 吊り橋効果(?)が弱まってしまう可能性があるが、当然先輩達の安全と縁結びの成功を天秤にかけるのなら安全が優先だ。魔物を完全に拘束出来るのならば拘束して置くべきだろう。

 しかし今の僕には植物で無いも同然の拘束をする事ぐらいしか出来ない。下手したらそれが刺激になって魔物が目覚めてしまう可能性もある。


「別に必要無いと思いますよ。この学都中は今もアキホ先生の喜劇の力で満ちていますし、先輩方に最悪の事態が訪れる事は無いでしょう。それに先輩方ならきっと、なんとかしますよ」

 確かに喜劇の力であれば最悪の事態、縁結びの永久不可等にならないであろうし、先輩達ならどうにでも出来そうだ。


「じゃあこのまま先輩達を進めるね。配置場所には石鹸も無いだろうから、今度はコアさんも手伝ってね」

 僕は縁結びな配置にする前に、固まったままの先輩達を適度な距離を離して男女ペアを置いておく。

 細かいポーズやシチュエーションは後だ。


「ではわたくしもお手伝いします。まず初めはシンプルに魔物からヒロインを庇う主人公みたいな感じにしてみますね」

 コアさんはそう言いながらも念動で作業を始める。


 その配置はコアさんの言った通りのもので、魔物の脅威に尻もちを着いてしまったヒロイン役のお姫様なスウェーヒル先輩を、主人公役の騎士を目指しているデュートレー先輩が魔物との間に入って守ろうとすると言った形だ。

 先輩達の身体で状況がありありと表現されている。もはや一種の作品のように見事な配置である。


 ただ残念な事に先輩達の表情が唖然としたままであるが。念動ではどうにもならないので致し方あるまい。

 後、全裸なのも残念な点だ。スウェーヒル先輩の方は始めタオルを巻いていたのだが運んでいる最中にいつの間にか無くなっていた。つまり二人共全裸だ。

 さらに言えばデュートレー先輩は剣を持って魔物に立ち向かう形だ。剣、持っていないのに……。


 と言うか残念な点多いな……プラスマイナスで言うとマイナスのような? いや、芸術点を求めているのでは無いから問題無い。そう言う事にしておこう。

 でも少しでもましになるように僕も。


「コアさん、魔物の方の迫力が足りなくない? そっちも動かした方が良いよ」

 僕はそう言いながら魔物を動かす。近くなら絶対に出来ない事だが、念動で遠くから動かしているので安全に安心して出来る。

「確かに迫力が足りなかったかも知れません。ついでに魔物の数も増やして置きましょう」


 こうして僕達は魔物を配置して行く。

 まずは先輩達の正面に禍禍しい魔王のごときオーラを放つ、黒いオークの上位種を下に吼えるような形で置いた。そしてその回りに一定以上は禍禍しいが、正面のオークには劣るオークを置く。これで何となくオークの軍勢が姫を奪おうと侵攻、それを守る騎士見習いの構図になる。

 なかなかの出来だ。ここはこれくらいで良いかな。


「コアさん、次の配置に行こう。今度はとりあえず男女逆転させてみようか?」

「解りました。ではあそこの方々を」

 コアさんは配置が完成したペアの近くの先輩ペアを差しながら言った。

 筋肉隆々で如何にも強そうなゴリアディウス先輩と、触ったら壊れてしまいそうな儚い雰囲気のラティア先輩のペアだ。


「……コアさん、人も選ぼう。あの筋肉隆々なゴリアディウス先輩が儚そうなラティア先輩に助けられるところ、想像できる? そもそも魔物も先輩達も正気に戻ったらどうなるの? 多分ラティア先輩じゃどうにもならないよ?」

 人選が悪すぎる。例えるならパンツを頭に被って、下半身は丸出しのようなものだ。


「適当にこの配役を選んだ訳ではありませんよ。マスター、ゴリアディウス先輩とラティア先輩のステータスを視てください」

「ステータス? どれ……」

 僕は二人のステータスを視た。


 えーと、ゴリアディウス先輩は人種の魔王族。

 ラティア先輩は人種の精霊族と。


「種族が見た目通りだけど?」

 凄い種族だが特段不思議な点は無い。

職業(ジョブ)を視てください」

職業(ジョブ)? …………」


 ゴリアディウス先輩、“家事師”、“裁縫師”、“料理人”、“掃除屋”、“保育師”。…………んっ!?

 ラティア先輩、“時精霊”、“終焉精霊”、“破滅使者”。………………はいっ!?


 ……目を擦りながら称号を視る。どうも疲れが貯まっているらしい。


 ゴリアディウス先輩、【家事魔王】、【オカン魔王】、【未来の良いお嫁さん】、【自称家事得意女子の今一番欲しいもの】。

 ラティア先輩、【終焉の執行者】、【破滅の精霊】、【魔神精霊】。


「……正しい配役だね」

「はい、わたくしも何度も視なおしましたが、残念ながら間違いでは無いようなのでどうせならと」

「とっとと済ませちゃおうか」

「ですね」


 先輩二人を砂埃が包み込む。


 僕達は神速の息ピッタリコンビネーションで先輩二人の配置を終わらせた。

 完成した時の姿が一瞬でも精神に攻撃してきたので、かなり多めの魔物で視界を塞いだ。

 ここまで一秒もかかっていない。


「これで一件落着だね」

「はい」


 あ、先輩と魔物達が倒れた。

 そうだ。変な形で硬直しているから固定しないと立てないのだった。

 ……やり直しだ。




 一時間程かけて、御風呂に居た先輩達ほぼ全員の配置が終わった。


 しかしまだ配置していない人がいる。


「イタル先輩、どうしようか?」

 僕は植物(薔薇)で固まったイタル先輩を動かしながら言った。

「まず、いばらで運ぶのを止めて差し上げたらどうです?」

「本当だ。荊で運んじゃってたね。まあすぐに傷は治っているし良いんじゃない?」

 それに女子達が何となくこう運べと言っている気がする。

 と言うか植物は無作為だったのに荊を引いたのはもしかして女子の念なんじゃ?


「そうですか。で、イタル先輩をどうするかでしたね。そもそも御風呂に居た女子の先輩方はもうペアを組んでいますので、放置するしか無いのでは?」

 実は脱童貞願望の強すぎて女子に嫌われているらしいイタル先輩の為に、強めの縁結びをしようとしていたらいつの間にか余ってしまったのだ。


「でも流石に可哀相だよね」

「はい、では他のところに居る女子の方と結んでみましょう。丁度イタル先輩と因縁深そうな転生担当女神の方もいますし」

「そうだね。ついでだから永久の春を見ながら固まっている人達、全員縁結びしてみようか?」


 僕達が今まで縁結びの準備をしていたのは御風呂に居た先輩達だけだ。

 他のところに居た人達には手を入れていない。


「どうせなら目覚めるまで縁結びを続けてしまいましょう。今のような好機はなかなか無いですからね」


 という事で僕達は縁結びを続ける事にした。


 後二、三時間は縁結び出来るかな?





 《アーク&コセルシア+その他の見解》


 倫理とは?


 アーク:「到底僕の理解が及ばない難解な何か?」

 コセルシア:「書物か何かに出てくるルールですかね?」


 アンミール:「同等存在同士の遥か太古から続く約束事。守るに値すると数多の者が認め定着した言うまでも無いルール。そんなところでしょう。

 同等存在が存在しないに等しいアーク達には理解出来ないのも道理かも知れません。恐らく当校の生徒達の倫理の出来が悪いのもそれが原因でしょう。死の概念すら生徒によって違うのですから、生徒達に倫理感が足りないと言うよりも人間の倫理感が無いと言った方が正しいかも知れませんね。

 え? 私ですか? 理解はできますよ。在りはしませんが。そもそも対象外ですね」



 善悪とは?


 アーク:「自分で決めるものだよ」

 コセルシア:「人々の決めるものです」


 アンミール学園の学者:「まずステータスにあるカルマの値が絶対正義と言う研究結果、証言が大半を占めており、現在でも最も有力な説です。つまり善悪の基準はここにあると見られています。

 しかし興味深い事に同じ行動をしてもカルマの変位が個人事に違います。また時代、地域によっても差異がある事が解っています。宗教も関連性があり、善神悪神の存在する領域ではその神々が定めるものが有効な場合も多いです。

 但しある程度の法則性を見出だす事が出来るので、明確に大きな基準が存在している事は確かであり――――



 ――――実際善神に昇華した研究者の研究結果も――――



 ――でありますからステータスの罰や罪の項目は特殊で――――




 ――――――つまり、アンミール学園創立当初から研究されている善悪についてですが、未だに未解明な点が多く、確かな答えは見つかっておりません。

 あれ? 皆さん寝てる……」


 オマケ(宗教家(?)達の見解)


 露出卿:「善とは何者にも迷惑をかけない事である。悪とは何者かに迷惑をかける事である。つまりこの世に善人などは存在しないと思え。何者にも迷惑をかけない者は存在しないのだから。

 だから人に尽くせ。自らの為した悪を償うのだ。特に信者おまえたち! 日頃全裸で他人様に迷惑かけてるんだからその部も人に尽くせ! 僕を敬う気持ちがあるなら悪評を評判で塗り潰せ!!」


 絶対正義の勇者:「善悪とは計算によって成り立つもの。1+1=2であり1-(-1)=2である。善を積み重ねれば善であり、悪を為し続ければ悪である。また悪を消せば善であり、善を消せば悪である。

 根本的な善悪の基準は知っている筈だ。そこから全ては導き出せる。知らなければ悪であるか汝の親が悪であるかである。そして逆は善である。また汝が教える立場に成ったとき、汝の善悪は汝のものとなる。

 汝善を、正義を成せ。さもなくば我が討とう。1-(-1)=2であるのだから。善なる汝が世界を悪と呪うのならば、我が世界を討とう。我は善の者が一人であろうとも、正義を成す。だから汝は善である限り決して間違っていない。安心して正義を成せ」


 必要悪の魔王:「善悪とは人々の感情です。負の感情を抱かせる行為が悪であり、正の感情を抱かせる行為が善です。よって完全な善悪などは存在しません。強いて言えば多数決で決まるようなものだからです。

 そして悪だから排除する、善だから擁護するでは人の社会は成立しません。私とあなた、感情と理性、結果と過程、何れも同じであるべきなのに異なっています。人から生まれる善悪も同様です。矛盾し複雑化している人から生まれたものなのですから、大抵の行為には善悪のどちらも含まれていまっています。故に容易く人の善悪はひっくり返ってしまう。

 だから偽ってください。自分は善であると。騙されてください。自分は善であると。常に自信を持って宣言し行動してください。そしてそれは私と言う悪のある限り正しい。

 私が唯一の悪です。だから他の人は信じてください。私の殺した人達は善人です。あなたに害を為したのは私のせい。あなた達は善き人です。だから人に害意を向けないで、私だけに向けてください」


 トイレの女神:「善悪ですか? トイレの邪魔する人は悪人、トイレを綺麗に使う人は善人、これくらいで良いでしょうか?」


 豊満なる双峰の構成員:「巨乳は正義!!」


 平らなる双丘の構成員:「貧乳は正義!!」


 叡智を集めている人:「善悪は全てを知った傍観者の決めるもの。幾多もの世界を知り人を知り、理を知り結末を知りやっと知れるものです。極論を言えば全ての終末にならなければ答えは出せません」



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

次の投稿からは毎度貧乏性なのか余計な話しを広げてしまい、なかなか本作の時間軸が進みませんでしたが、ついに学園生活二日目突入です。

因みに今章は学園生活八日目の入学式のおふざけ回で終わる予定です。先が長い……。

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