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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第2章 〈アンミール学園入学〉あるいは〈都会生活の始まり〉

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第二十七話 おやつあるいはクリスマスを憎悪する者達

クリスマスに書こうとしていた短編の主人公登場です。

間に合えば短編はバレンタインに投稿したいと思いますが、期待はしないでください。

 

 僕はアンミールお婆ちゃん達のところに戻って来た。


 帰路の途中で壊れた設備が幾つかあったので治しながら帰って来たので遅くなったが、まだ日は暮れていない。丁度おやつの時間だ。


「アーク、おやつのクッキーが焼けましたよ。【黄金ヶ原(こがねがはら)】から取り寄せた最上級小麦を使った一品です」

 アンミールお婆ちゃんが手招きしながら言ってきた。

 見るととても美味しそうなクッキーが大皿に盛られている。ここまで甘い香りがした。


 早速もらおう。

 サクサク。


「わぁ、凄く美味しいや。この小麦、僕の小麦よりも美味しい気がする。深いね」

 味と品種は僕の持っている小麦と同じなのだが深いのだ。いろいろと詰まっている。


「【黄金ヶ原】ってあの麦の聖地の?」

 僕は小麦の産地について確認した。

「【黄金ヶ原】を小麦の聖地扱いですか、アークは本当に植物が好きですね。そうです。あの特級ダンジョン【黄金ヶ原】で間違い無いですよ」


 特級ダンジョン【黄金ヶ原】とは麦畑で構成されたダンジョンだ。毎日麦が収穫出来る理想郷の畑と評される。

 毎日収穫出来ると言う当たり前のどこが凄いのかは疑問だか、冒険者ギルドの等級で判断不可の特級ダンジョンと言う特殊なダンジョンである。何でも絶対に攻略出来ないらしい。

 多くの英雄譚(ライトサーガ)に出てくる有名なダンジョンだ。


「ふーん、今度行ってみたいな」

 麦畑のダンジョン、是非ともこの目で見てみたい。

「校舎があるので何時でも行けますよ。知りませんでしたか? この学都で使われている麦は殆どそこのものです」

 どうやら食べ物とかが安く売っていたのは大量に確保できるかららしい。この分だと他の特級ダンジョンにも校舎か分校があるのかな?


 サクサク、うん美味しい。

 校舎が無い場所でも食べ物の特級ダンジョンはそのうち全部行ってみたいな。


(わたくし)も是非有名なダンジョンを見学したいですね。いつか参考にさせて頂きましょう」

 コアさんもダンジョンコアとして行きたいようだ。


「そう言えばコアさんは何級ダンジョンだったの?」

「定められた事が無いので判りませんが、適当に鑑定しているときに、【永久不可変第零位階】とか言う長ったらしい変な称号みたいなのが出て来ましたよ。恐らく永年攻略されなかったので最下位に固定されてしまったのだと思います。つまり(わたくし)はただの未熟なド田舎ダンジョンですよ」


「そうなんだ。一緒に高みを目指そうね」

 僕は農業で、コアさんはダンジョンで、特級ダンジョンには見習うべきところが多そうだ。

 あれ? そう言えば位階って小さい数字の方が高かったような? 気のせいだよね。


 さて、僕が話終えると静かになった。


「「「…………」」」

 何故か皆の方ではコアさんの発言の後に沈黙が広がっていた。皆目線をコアさんに向けており、呆れや探るような沈黙だ。中には冷汗を静かに流す人もいる。

「…?」

 沈黙の原因と思われるコアさんは皆の真意が解らないようだ。僕にも解らない。


「あ、そうだ紅茶飲む?」

 変な空気を変える為に僕は紅茶を勧めた。仙茶の茶葉から作った紅茶だ。

 僕は紅茶を注ぐ。見事に紅い紅茶は芳香を伴った湯気を撒き散らしながらカップに注がれていく。急いで淹れたが超軟水のお湯を使ったから味はしっかり出ている筈だ。


「ありがとうございます」

「頂きます」

 皆僕の意図を理解してくれたようで雰囲気はすぐに変わった。


「ほおー、これまた美味しいですね。なんと言う紅茶ですか?」

「仙茶をから作った“真生命の紅(トゥルーブラッティー)”だよ」

「……吸血鬼の曰く付きのアレですか?」

 ホッと紅茶に息を付きながら穏やかな様子だったコアさんがぎょっとする。他の皆も同じだ。

 沈黙よりは全然良いのでこのまま紅茶の話をしよう。


「それは“囚われの生命の紅(ブラッティー)”だからこれじゃないよ。どちらも仙茶から出来るけど、あれは仙茶を腐らせたものでこれは発酵させたものだからね」

 そもそも作り話だと思う。紅茶を飲んだくらいで吸血鬼の始祖になる訳無い。多分色が紅いからそう言われているだけだろう。


「それにもう皆飲んでるから判るでしょ?」

 そもそも騒いでも無意味だ。

「確かにとてつもない生命力が溢れて来ましたがなんともありませんね。そもそもアークの育てたお茶ですから私達に悪影響がある筈ありません」

 アンミールお婆ちゃんや村の皆、コアさんはすぐに納得してくれた。


 しかし僕の親族の先生達は違うようだ。

「……ですがどう考えても普通の常識はずれの紅茶ではありませんよね」

「……絶対に普通のとんでもない茶ではないな」

「……普通の超常的なお茶ではないです」

 普通の常識はずれの紅茶とはなんだろうか? 皆どこか諦めるような様子でいた。


「そんな心配しなくても大丈夫だよ。何回も飲んでる僕がなんとも無いんだから。それよりもレモンや砂糖でお代わりは?」

 僕は二杯を勧める。


 こんなこともあろうと用意していた蒸らした紅茶を――。


「あっ!」

 新しい紅茶のポットを取ろうとしていたら手を滑らせてしまった。

 慌てて取ろうとして高く飛ばしてしまう。


 そしてなんと外に落ちて行ってしまった。



 僕はすぐに下を視る。

 怪我人とか居ないよね?


「…………」

 紅茶の落下点には見事に人が居た。頭から被ってしまっている。

 その人物は一方的だか僕の知っている人だった。惚れ薬の実験台になってもらった同級生のミラス君である。


 どちらの原因も僕かも知れないけど、君、ついてないね……。

 そう言えば初めて見掛けたときも片腕が無かったし、それで先輩の勧誘を受けてたし……。


 兎も角ミラス君の状態は?

 ステータスを視る。


 状態異常:疲労、黒歴史、種族進化


 疲労、これは惚れ薬の作用で暴れて体力を消費してしまったのだろう。紅茶のせいではない。でもごめん。

 黒歴史、これも紅茶のせいではないだろう。多分あのときの記憶が残っていて精神をやられたのだと思う。それにしてもステータスの状態異常に出るんだね、黒歴史って。そしてごめん。


 種族進化…………。

 これは、多分偶然、だよ、ね?


「ギィァァアアァァーー!!」

 ミラス君が絶叫しながら転がり出す。今から進化が始まるらしい。


 残念なことに偶然では無さそうだ。

 耳を澄ますと身体からミシミシと音がしていた。身体が作り替えられるのであろう。痛くない訳がない。


 肌からはどんどん色が抜けて白く変化し、背中からは白銀のコウモリ型の羽が現れ、口には尖った長い牙が生えてくる。

 視た感じ吸血鬼のようだ。しかし健康的な白さで夜のイメージを感じられない。


 暫くすると突然絶叫を止めた。そして立ち上り手をグーパーしながら自分を見る。

 進化が終わったようだ。早い。


 ステータスを視よう。



 名前:ミラス・フォン・バラムド・カークツハイト

 称号:カークツハイト王国第三王子、→ついてない子

 種族:人族Lv1(人種)→愚人族Lv1(人種)

 年齢:12

 能力値アビリティ

 生命力 136/136

 魔力 96/96

 体力 102/102

 力 19

 頑丈 23

 俊敏 10

 器用 13

 知力 9

 精神力 24

 運 7


 職業ジョブ:見習い騎士Lv12

 職歴:無し


 魔法:光属性魔法Lv1、→闇属性魔法Lv1


 加護:無し


 スキル:

 〈固有スキル〉

 →催淫狂化Lv1

 →不老不死Lv1

 →始祖Lv1


 〈パッシブスキル〉

 →再生Lv5

 →怪力Lv1

 →飛行Lv1

 →変化Lv1


 〈アクティブスキル〉

 剣術Lv3

 盾術Lv2

 鎧術Lv1

 身体強化Lv1

 宮廷作法Lv1

 →精霊魔法Lv1




 うん、色々と変化している。

 ……吸血鬼族ではなく愚人族に進化したらしい。

 能力値アビリティに変化は無いが大量にスキルを獲得している。どれも吸血鬼っぽいのに種族は愚人族。太陽の光りは大丈夫みたいだ。

 そもそも愚人族なんてよくない名前だけど大丈夫かな? 文字からすると愚かな人ってことだよね?


 それに同じ紅茶を僕も含めて飲んでるけど本当に大丈夫?


「コアさん、愚人族って知ってる?」

 僕は恐る恐るコアさんに聞く。

「知っていますよ。精神力が足りないのに不老不死になってしまった者がなる種族ですね。仙人族の下位互換、吸血貴族の上位互換といったところです」

 一応特別不味い種族では無さそうだ。


「何で愚かな人?」

 しかし名前が悪いことに違いはない。


 この質問に答えてくれたのは村長だ。村長は僕の知っている人の中で一番物知りで、僕を一番甘やかしてくるのも村長だ。


「人の精神が永い年月に耐えきれず後悔することになるからです。不老不死とは死なない事ではなく死ねないこと、家族が友人が家が国が土地が無くなっても共にいく事は出来ません。ただ一人残され続けるのです。

 勿論良いこともあるでしょうが感動と刺激は時と共に薄れ、かつての幸せも忘れた時そんな自分が嫌いになります。ならなければ化け物となり周りから疎まれ続けるようになるのです。どちらにしても人と共に生きてはいけなくなります。人の不老不死に救いはありません」

 村長はまるで視てきたかのように語ってくれた。


「……それって僕、ミラス君にかなり不味いことをしちゃったんじゃ?」

「いや、大丈夫だよアーク」

 視てきたかのように語っていたくせに軽く村長は答えた。

 どうやら村長の経験談ではなかったようだ。


「彼はまだ若い。だから永遠に耐える精神を身につければ良いのです。あくまであれは常人の話ですからね。そして不老不死仲間や転生したかつての仲間、後は目標があれば楽しいものですよ。可愛い子孫がいれば不幸などある筈がない」

 これは実感の籠った言葉だ。特に最後のところが。


「もしかして村長、不老不死だったりする?」

「死にかけた事が無いので判りませんね」

 村長はぼやかして言ったりして僕に考えさせるのが好きだ。一般知識くらいしか素直には答えてくれない。


「因みに村長って何歳?」

「アンミール、コセルシアよりは歳上ですよ」

 つまり文明単位とかでないと数えられない年齢と。

 例え不老不死でなくても誰もが不老不死と認めるレベルではあるようだ。


「……僕ってどうなの?」

 僕は恐る恐る聞いた。

「アークは首を斬られて死にますか?」

「そんなので死ぬ訳無いよ」

「心臓を破壊されて死にますか?」

「全身が消滅しても死なないよ。それがどうしたの?」


 身体も精神も魂も、どうなっても死ぬ事は無いのに村長は何を言いたいのだろうか?

 そう言えば人ってどうしたら死んでしまうのだろうか? 確か英雄譚(ライトサーガ)では――――。


 ……………。


「もしかして、僕って不老不死?」

「そんなところですね」

 村長が笑いながら言う。


 まさかこんな事にも今まで気が付かなかったなんて。

 そう、田舎者は永生きなのだ。

 不老不死って物語みたいに凄いものじゃなかったんだな。


「村の皆もアークと同じです。そしてここに居る殆どの存在も同じようなものです。アーク、我達は不幸に、後悔しているように見えますか?」

 村長は優しく言う。

「見えないよ」

 皆どこからどう見ても僕に明るい感情を向けている。


「そう、なら彼を不老不死にしたことを悔やまなくても大丈夫です。仲間が増えたと思えばいい。

 それに人の不老不死が本当に死なない訳ではありませんから。あくまで人の世界での不老不死で核兵器浴びても大丈夫、竜のブレス浴びても大丈夫程度でしかありません。神の領域に居る者なら滅びを与えられます。なんなら輪廻に直接送ればいい」

 村長は紅茶を飲みながら微笑む。


 そういう事なら後悔はしなくても良いかも知れない。でも神様なんか会えるものではないから結局は不老不死に変り無いだろう。


「でも不老不死だからと言って安心しちゃ駄目なんだね。神様ってとんでもなく遠い存在だけど安全第一で過ごさなきゃ」

「我達からは確かに遠い存在ですね。ここの生徒達の方が神に遥かに近いですから」

 村長が悪戯をするようにニヤッと笑いながら言う。

「「「…………確かにそうですね」」」


「……先輩達、そんなに凄い人だったんだね」

 先生達の反応が弱冠気になるがそれよりも衝撃事実だ。先輩達が神様に近い人だったなんて。

 そう言えば勇者とかがゴロゴロと居た。都会で不老不死は些細な事のようだ。


「兎も角アーク、君は好きにしなさい。それが唯一正しい」

 村長が僕の頭をわしゃわしゃと撫でながら宣言した。

 とても心地がいい暖かさだ。



 僕はおやつにしながらも、再び先輩とゴブリンの戦闘を視る事にした。

 少しでも神様に近くて凄い先輩達を見習わなければ。


 それにしてもそんな凄い先輩達が倒しきれないゴブリンの大軍は相当厄介なようだ。魔物もそれほど危険な存在と言う事だろう。

 そんな魔物を軽くあしらう僕達の眷属って一体……? 変態なのに…………。


 何にしろ僕達が戦闘に参加するのは十分ここで学んでからにしよう。

 僕は戦場を視る。


 ゴブリンはまた増えていた。

 下級のゴブリンは砦内に居場所が無いようで外に漏れ出している。殲滅前とは比べものにならない程数は少ないが、五千匹ほどのゴブリンが野に放たれていた。


 そして新たな敵として凄い勢いでゴブリンのゾンビやスケルトン等のアンデッドが増産されていた。

 アンデッドは何体もの死骸と霊体を繋いで造ったようで元のゴブリンとは似ても似つかない威圧を放っている。かなり危険だろう。

 死骸がそれほど残っていなかったのか、数が数百程度なのがせめてもの救いだ。


 一方先輩達はまだ戦闘不能の人は少ないが、残った近接戦闘の得意そうな先輩と、いつの間にか展開されていたゴーレムや使い魔が壁の外を固めて居た。

 まだ使われて居なかった砲台等の兵器もゴブリンに標準を合わさせている。


 巨大を人型アンデッドがゴブリンが攻め上がってきた。

 ジュファーン!!

 先輩のレーザー砲から強烈な熱量を持つ光線が放たれ、そのアンデッドを塵も遺さず焼却した。


 これを新たな戦いの烽火として、両者一斉に動き出す。


 ここで先輩達の先陣を切ったのは真っ赤なオープンカー、に見える張りぼて着き自転車を漕ぐ男女。

 年齢的に今年から五年生になるイタル=ゴトウ先輩とセントニコラ先輩。異世界勇者と転生担当女神のコンビだ。


 ……早速神様が生徒に居た。都会は凄い。


 僕が戦場を視たところ唯一の五年生だ。

 他は最大四年生の先輩しか居なかった。


「コアさん、神様と異世界勇者の先輩が彼処に居るよ!!」

 僕は興奮しながらコアさんに伝える。

「……確かに居ますね。この学園、一体どうなっているのですか?」

 コアさんは驚き過ぎて冷静になっている。


「アンミールお婆ちゃん、あの二人があそこのリーダー?」

「いえ、あの二人、後冬ゴトウイタルと女神セントニコラは今年から入る生徒ですね。異世界転生者は途中から入学する事が多いですから。

 恐らくあの二人は目立ちたがり屋なのでしょう」

 アンミールお婆ちゃんの解説で興奮が少し覚めた。


「そう言えばあの二人以外、何で四年生までの先輩しか居ないの?」

「こう言う騒ぎに五年生以上は慣れているからでしょう。参加は自由ですからね。どうとでも成ると判っていたのですよ」

「馴れるぐらいの回数が起こったんだね……」

 一応動じないように努力しよう。


 戦場では必死でオープンカー自転車を漕ぐ二人が後続を遠方に独走していた。

 アンミールお婆ちゃんの予想通り目立ちたがり屋のようだ。そして当然のように残念な先輩のようである。


「オゲェー、もっとましな道は無いのか! ウプッ」

「在るわけ無いでしょ! ゲボゲボゲ」

 二人は顔を青くさせ、嘔吐しながら爆走していた。

 攻撃魔術で荒らされガッタガタの荒野を全力で走っているのだから無理も無い。


 オープンカー自転車を漕ぐだけでも十分間抜けなのに、嘔吐まで入ると寧ろ凄いとまで錯覚してしまう。

 それでも全力疾走を続けるのにはもしや格好いい理由が?


「だかここで退くわけにはいかない! ウプッ、ここで良いところ見せてハーレムを作るんだ! オゲェー」

「ふふふウプッ、解っています! これはモテ期到来の大チャンス! 逃す訳にはいきません! オゲェー」

 吐きながら情けないがその目を野獣のようにギラついている。


 うん、ただの変な人達だ。

 例え異世界勇者だろが女神だろが、興奮していた僕を殴りたい。


「女神様、運転頼んだぜ!」

「ウプッ、任せてください! トラックの運転は事故を装う転生者確保の常套手段! オープンカーも同じようなものです! オゲェー、転生担当女神の私に任せてください!」

「それって事故を起こすのが得意って事だよな!? 安心出来ねえ! ゲオロロ、でも任せたぜ!」


 イタル=ゴトウ先輩が立ち上りゴブリンを見据える。

 そして憎悪を込めて叫ぶ。


「コノヤロォ! そんなポンポンポンポン増えやがって! どんだ盛んなんだ! このリア充め!!

  “リア充爆発しろ”!! “リア充爆発しろ”!! “リア充爆発しろ”!!

 “リア充、爆発しろぉ~!!”!!」


 バンッ! ボンッ! ダンッ! ドンッ! バンッ! ドォゴンッ!


 先輩の叫びに合わせて、ゴブリンの雄と雌の間に嫉妬グリーンの紐が渡るとその真中の位置で爆発を起こした。

 そこまで大規模な攻撃では無いもの一発で数十体は葬っていく。かなり連発がきくようなのでもう数百体が減っている。


 ……どうやらリア充を爆発する固有能力のようだ。

 異世界の嫉妬用語ってだけじゃ無かったんだね。多分彼は本気でそうなれと念じて能力に昇華させたのだろう。


「ヒァッハッハ! 死ね死ね死ね~いリア充どもぉ! “リア充爆発しろ”!! ヒァッハッハ!!」

「リア充は挽き肉デス(daeth)!! リア充は挽き肉デ~ス(daeth)!!」

 二人はゴブリンを惨殺し出すと嘔吐も忘れてハイな状態になった。関わりたくない人達だが恋愛の主義的に度々衝突する事になる気がする。


 ズドドドドドドンッ! バババババババンッ!


 そして二人の先輩はゴブリンの真っ只中に突入した。

 近くの敵はセントニコラ先輩がオープンカー自転車で引き殺し、離れた敵はイタル=ゴトウ先輩が嫉妬の炎で爆破する。

 何故だろうか? 魔物退治をしている二人はテロリストにしか視えない。


 ゴブリンをリア充扱いとは、どちらにしろとんでもない人達だ。

 しかし強い事は確かである。この二人を止められる者はゴブリンには居ない。一方的に嫉妬に殺られていく。

 後続の先輩に相手が殆ど居ないぐらいだ。



 あまり参考になる光景では無いと思う。

 ただ先輩二人の嫉妬による蹂躙劇だ。


 おやつの方が十分に豊穣である。

 おやつに集中しよう。





 《用語解説》

 ・黄金ヶ原(こがねがはら)

 特級ダンジョン。

 物理的にも政治的にも攻略不可と言われる強大なダンジョン。どこぞかの規格外ダンジョンを無視するとトップレベルのダンジョンである。

 その上層は広大な麦畑となっており、魔物も存在せず、ダンジョンの力で最低一日一回は麦の収穫が出来る夢の畑となっている。

 黄金ヶ原(こがねがはら)の黄金は黄金色の麦畑と言った意味で、純金のダンジョンと言う訳では無い。


 麦畑の麦の種類も非常に豊富で麦と名の付くものなら殆ど存在し、基本下層に行くほど上質な麦が収穫出来る。

 ダンジョン内にある街は麦料理の本場と詠われ、常に食欲誘う豊かな香りで満ちている。


 無限の食糧庫となる性質の為、成立当初からあらゆる勢力に狙われてきた。

 このダンジョンが物理的に攻略不可なまでに強大になったのは、このダンジョンを狙って国々が麦畑で平野状のダンジョン上層で、絶えず戦争を繰り広げた為である。

 ダンジョンは内部で死んだ者のエネルギーや内部に居る者の放出魔力等を主なエネルギー源とする為、驚くべき早さで急成長した。


 現在このダンジョンはアンミール学園の王侯科や貴族科が授業の一環で支配しているが、今も手に入れるために戦争を仕掛ける国が多くある。

 アンミール学園が表向きを支配しているのはダンジョンマスターが卒業生兼教師である為だ。因みにダンジョンマスターはアークに近い先祖なのだが、アンミールの策略に嵌められまだ学都に到着していない。


 有名な英雄譚(ライトサーガ)では【黄金ヶ原のダンジョンマスター】や【黄金ヶ原の守護神】がある。

 守護神の方もまだ学都に到着していない。



 ・真生命の紅(トゥルーブラッティー)

 仙茶から作られた生命力溢れる紅茶。

 澄んだルビー等の宝石よりも美しい紅色の紅茶で芳香も天下一品。

 飲んだ者に永遠の命を与える。既に持っている者には力の湧いてくる絶対的に美味しい紅茶。


 ありふれた品質の砂糖やミルク、レモンを使うと釣り合わずに後悔することになるので注意が必要。

 実はアークが製法を発見した紅茶で今のところアークにしか作れない。

 常人が飲むと愚人族になる。



 ・囚われの生命の紅(ブラッティー)

 仙茶を腐らせたもので淹れられる紅茶。

 血よりも血のような色をしている。以外と絶品。

 しかし飲む者に永遠の命を呪いとして与え、飲んだ者は吸血鬼の真祖になってしまう。永遠の命を他者から奪う事で本能的に無理矢理実行してしまう事になる。


 これらは元の仙茶の性質による。

 本来仙茶は仙境に生えそこでのみ飲める御茶なのだ。辿り着けた者にのみ飲む事の赦される秘宝。

 仙茶を仙境の外に持ち出そうとするとすぐに腐ってしまう。不老不死を求めるにも関わらず自力で成そうしない者は不老不死の皮肉と共に罰を受ける。それが吸血鬼化だ。


 つまりこの紅茶は紅茶であって呪いの塊だ。決して飲むべきではない。


最後までお読み頂き、ありがとうございます。

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