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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第2章 〈アンミール学園入学〉あるいは〈都会生活の始まり〉

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第二十六話 戦闘開始あるいは一時終戦

更新が遅くなってしまいました。申し訳ありません。軽い挫折中で思うように書けませんでした。

まだ本作の時間軸では二日目のままですがそろそろ進められそうです。

 

 ガコーン!! ガラガラ。コンコンコンコンッ! ガコーン!! ガラガラ。コンコンコンコンッ! ガコーン!! ガラガラ。コンコンコンコンッ!


 カタパルトから放たれた岩が先輩達の壁に衝突し砕け散り、ゴブリンアーチャーの矢は壁に弾かれる。


 やっと戦闘が始まった。

 戦闘が始まるのを待っていた訳でも、そんなに時間が経っている訳でもないのにやっとと感じるのが不思議だ。


 ゴブリン達のその岩と矢、一体どこにあった!? と叫びたい程の物量による猛攻が嵐のように壁に衝突していくが、壁が傷付く事はない。

 壁の上まで到達した攻撃も結界に防がれ地に落下していく。


 少しずつゴブリンキャスターの魔術も混じり出す。

 遠距離に特化したファイアアローやウィンドアロー、アイスアロー等が飛来する。

 しかしそれも簡単に壁は防いだ。


 遠距離攻撃が続く間にゴブリンの大軍も壁に迫り、草原を汚い深緑色で塗り替えて行く。


 ゴブリンが壁に到達する前に先輩達が動き出した。


 展開されていた巨大な魔法陣の魔力が高まる。

 どうやらまずは広範囲魔法で一気に数を減らすようだ。

 詠唱の終わった先輩から魔術を発動する。


「“焔天槍”」

 晴れ男なシャクトラ先輩はゴブリンの上空に現れた魔法陣から太陽のような槍を放つ。

 シュッファァーーーーンッッ!!

 直撃したゴブリンや周囲のゴブリンは砦や大地と共に昇華し、気体になることを免れたものも融解し、辺りは灼熱の海へと変わった。


「“霜の巨人の足跡(ヨトゥンフィヨルド)”」

 白い冷気で殆ど隠れているが全裸のヒュー先輩は絶対零度の巨人を生み出す。

 バギバギビギッッ!!

 這うように現れた絶対零度の巨人は触れるものを例外なく凍らせ、草原ごと大きく削りながら進む。


「“大地踏破ロードヘラクレス”」

 ドワーフのような体型だが人種の火山精霊であるレインフォード先輩は豪華な斧に見える杖で大地を粉砕する波動を放つ。

 ガラゴラガガゴゴッッ!!

 大地は一直線に崩落していきそこに多数のゴブリンが巻き込まれる。


「“アブソリュートジャスティス”」

 美徳スキル〈正義〉を持つソフィア先輩は正義の名のもとに徴収した光の波動を放つ。

 この魔術はゴブリン以外に影響を及ぼす事なく、ゴブリンのみを分解していく。


「“ライトニングローズ”」

 ザ魔女な格好過ぎてコスプレをしている感のあるメニファ先輩は巨大な雷撃を撃ち込む。

 ズッシャーーーーンッッ!!

 雷撃が直撃した周辺は確かに薔薇に見える赤熱した大地のみが残る。


 他にも大規模な殲滅魔法がが各所で炸裂していた。

 単純な大爆撃魔法、巨大隕石によるインパクト、拡がる炎の侵食、引き寄せ切り裂き押し潰す大竜巻、湖が落ちていると錯覚する大雨、命を直接奪う無数の黒い手、等々街中で絶対に使ってはいけない類いの魔術がゴブリンの大軍を殲滅している。


「凄いね……もうゴブリンが半数以下になっているよ。普通のゴブリンはもうほぼ居ないし……」

 僕は英雄譚(ライトサーガ)に語られるような光景を目にして、唖然と驚愕しつつも感動していた。

「はい、素晴らしいと思います。まさか先輩方がこれ程までとは……」

 コアさんも先輩達の魔術に目を奪われながら感嘆する。


「先輩達に心の中で阿呆だと思っていた事を謝りたいよ」

「そうですね。……ん?」

 僕に共感しつつも戦闘を眺め続けていたコアさんが困惑したように目を細める。たかが数十キロの距離でしっかりと視えている筈なのに目を細めると言うことは、何か変なものを視たのだろう。


「コアさん、どうしたの?」

「魔術ばかり気を取られて気が付かなかったのですが、先輩方が自分の攻撃に驚愕しているのですよ」

「え?」



 僕は先輩達に目を向けた。


 シャクトラ先輩のいる三年五組では誰の力かで喧嘩に発展しそうになっている。


「ちょっとシャクトラ! あの魔術は何!? あんた一体何時そんなに強くなったのよ!?」

「はははっ! さっぱり分からん! 皆の支援のお蔭じゃないかな! 俺は練習場と同じくやっただけさ!」

「僕の強化魔法にはそんな力無いですよ~、だからこっちに恐い視線向けないでくださいよ~」

「俺の作った槍杖も違うぞ。そんな力ある武器を作れるのは世界トップレベルの鍛冶師ぐらいだ。テティ、お前の装飾品の力ではないのか?」

「そんな訳無いじゃない!」


 僕は初めから視ていたが、外部からの強化や突然の覚醒などは無かった。

 シャクトラ先輩にかかっている強化魔法や装備品を作った先輩を辿っても全員クラス内の人だ。その中に他の人より飛び抜けて凄い人は居ない。

 つまり普通に三年五組の連携の結果である。


 二年四組でも同じように困惑している。


「ヒューさん、これは、何時の間に?」

「…俺…してない…これ…いつもの…」

「“敵対する者に対してしか存在しない鎧”にもこれ程の強化能力はありません」

「…そう…」

「ヒューがそう言うのだから間違いないだろう。なら何故?」


 聞き捨てる事の出来ない言葉があった。

 “敵対する者に対してしか存在しない鎧”多分ヒュー先輩が全裸で居ても怒られない理由だ。元々冷気を纏っていて見えないが、全裸でいることに嫌悪感を覚える人には鎧を着ているように見えるのだろ。

 変態眷属達に是非とも欲しい。後で作ってもらいに行こう。


 おっと、視点がずれてしまった。


 先輩達は多少反応が違うが、皆同様に戦闘から注意を自分達の力に移している。


「うぉー! やっと俺の眠っていた力が目覚めたようだな! 見たか俺の真の力を!」

「何言っているのよ。私の杖のお蔭でしょ。あんたにそんな力有る訳無いじゃない」

「いやいや! 僕の最新超古代ローブの力さ!」

 とすぐに天狗になる二年五組の先輩達。


「凄いよソフィアちゃん!」

「これならお前の念願も叶うんじゃないか!」

「おめでとうソフィア!」

「え、あの、その……ありがとうございます!」

 称賛ムードで否定意見が消えてそのまま一緒に喜ぶ三年二組の先輩達。


「はははっ、これが俺の爆発大爆発! ついに力を手にしたぞ!」

「不味いぞ! アルザードが強くなってしまった!」

「先生はどこー!?」

 四年八組、よく分からないが暫く近づかないでおこう。


「これは本当に…俺の力か?」

「先輩達凄かったわね~」

「俺達も頑張らなくちゃな!」

「「「オオー!!」」」

「俺の評価は~!?」

 二年七組の先輩達は異世界勇者のハルト・サトウ先輩の魔術には気が付いていない様子だが、他の先輩達の力に感心していた。

 暗殺者に大規模魔術の才能はいらないと思う。



「本当だね。何で自分のしたことに驚いているのだろう?」

 少し流れ出した経験値からしても先輩達の力に間違いない。外に流れ出していないと言うことは外から力を受け取っていないと言うことだ。


「単純に初めて使った魔術だったのですかね?」

 コアさんは首を傾けながら言った。

「確かにそんな反応だよね? でも初めてで使えそうな魔術じゃないし?」

 僕も首を傾けながら考えるが答えは出ない。


 先輩達を眺めながら考え続けていると戦場に動きがあった。


「あっ、ゴブリンが動き出したよ」

 先輩達がそんなこんなで気を取られているうちに無事だったゴブリンが攻め上がってきた。

 数は減っているがハイゴブリン、キングゴブリンの大軍だ。


「先輩方は気が付いていませんね」

 先輩達はそれにまだ気が付いてもいない。やっぱり強くても先輩達は残念な存在だと思う。


「大丈夫かな?」

 僕は先輩達に呆れながらも心配になる。

「大丈夫ですよ。多分」


 そんな時にあの男達が動いた。


「「……!?」」


 あの男達だ。


「ホォ、ホォ、ホォ、温泉は騒ぐ場所では無いですぞ。静かにしなされ」

 戦場の真ん中に温泉を造って寛いでいた温泉ジジイこと僕達の眷属ユジーラだ。青年の姿ではなくジジイの姿だ。

 温泉で騒ぐなって…戦場に温泉を造るなって僕は言いたい。


「さて行きますぞ。“フィリアティックエクスプロージョン”、“アシッドレイン”、“アシッドスチーム”、“バーンフラワー”」


 ユジーラが手をかざすとその先がドゴーンと水蒸気爆発を起こした。ゴブリンはたまらず蒸し上がりながら木端微塵になる。

 連鎖的に起る水蒸気爆発は大量の熱湯を空に上げ、熱湯は酸の雨や酸の蒸気となり爆発よりさらに広範囲のゴブリンを焼く。

 そしてかろうじて生き残ったゴブリンには湯気が結晶化しこびりついた。そして発火し爆発を起こす。


 ユジーラ一人の力でもう先輩四五人分の働きだ。

 しかも先輩達とは違い詠唱もなしにやってのけた。魔術の名前がカッコつけている以外にはとても素晴らしい働きだ。


「「何故?」」

 そんなユジーラを視て僕達は揃って疑問の声を上げてしまった。

 僕達はゴブリン一匹しか倒せていないのに、戦闘とは関係ない浴場を造る為の魔術から生まれた、しかも全裸で変態な眷属が僕達を越える働きをしたのだ。


 ユジーラの他にも眷属達が動き出した。


「熟してない熟してない熟してない!! 何故未完成で良しとする!! “超速熟成ランアップヴィンテージ”、“熟成発酵ヴィンテージスメル”、“ヴィンテージインパクト”」

 優男な熟女好き眷属は熟成魔法を駆使してゴブリンを生きたまま熟成させ発酵させ、発生したガスに着火して爆破する。

 熟成魔法とは何であろうか? 少なくとも一般的な魔法では無いし、使い方も間違っていると思う。


「いや、未成熟こそが至高でありますぞ。それはゴブリンであっても同じこと。そのまま保存して差し上げましょう。“絶対零度アブソリュートゼロ”、“エアリキッド”、“万年氷河クリスタルモニュメント”」

 ロリコン紳士眷属は普通の氷属性魔術で大規模殲滅を行う。

 ゴブリンは絶対零度の冷気や超低温の液体に熱を奪われ、水晶のような氷河に囚われる。


「そう! 未熟なのが良いの! 純粋な命身体魂意志! これに優るものは無いわ! だからそのまま私に捧げなさい! “真水散解”、“真風散解”、“純浄化”」

「いえ、おじ様こそが至高よ。“荒塵風”、“荒雷”、“荒大波”」

「好き嫌いは駄目。愛とは鞭、自分から見つけるものでは無いのよ。与えてあげるものなの。ホーッホホホ! “等活赤銅”、“等活乱斬”、“等活意志”」

「腰に巻いた布、全てはおパンティなのであろうか? ズボンスカートの類いなのか? 私はそれも愛すべきなのか? 兎も角その腰布は頂きましょう。“ソールスティール”、“ドッペルダークネス”」


 ゴブリンは純粋なものに溶かされ、荒い暴風や雷に散らされ、灼熱の銅や斬撃を浴び自ら傷つけ合う地獄の責め苦を受け、魂を奪われ屍から動く闇に腰布を盗られる。

 何故かどれもゴブリンが可哀想に視える魔術だ。しかも変態が発動した魔術。ゴブリンは泣いていい。


 変態な眷属達によってゴブリンの大軍は瞬く間に殲滅されていった。どうやら魔術の連発も可能らしい。

 もう早くも生き残っているのがほぼグレートゴブリン以上と言う有り様だ。


 二つの命を持つゴブリンアルターエゴやダメージを受けることにより強くなるゴブリンアヴェンジャー等の一部はまだ残っているが誤差程度にしか残っていない。

 それにしても本当にゴブリンの名前を考えたのは誰だろう? どこかにゴブリンの聖杯でもあるのかな?


 僕は一瞬でも変態達を忘れる為にコアさんに質問した。


「コアさん、魔物の名前ってどうやって決まるのかな?」

「何故それをこのタイミングで? ああ、現実逃避ですか。では(わたくし)も乗らせて頂きます。丁度専門なので。

 魔物の命名権第一位は魔物の創造者にあります。一番初めにその魔物を造り出した者が名前を優先的に付けられると言うことですね。つまりダンジョンマスターやダンジョンコアがこの権利を持っています。

 命名権第二位は魔物の第一発見者です。しかしこれは意識して名付ける事はできません。第一印象やたまたま呟いた言葉がそのまま名前になる場合が多いです。

 そして命名権第三位は人々、大人数の認識によって決定されます。三位ですがこれが一番多いですね。ダンジョンマスターやダンジョンコアに名付けをする知恵がない場合が多く、第一発見者も多人数の場合優先権が弱くなってしまうので」


 適当に聞いたのだがしっかりと教えてくれた。ついでだから聞いてみよう。


「コアさんは名付けたことあるの?」

「はい、暇な時間が無限に近くあったので半ば趣味にしていました。(わたくし)は魔物を創造する事も遠くの魔物を見つける事も出来たので、恐らく世で一番魔物に名を付けたのは(わたくし)ですよ」

 然り気無く凄い情報が飛び込んできた。でもかなり寂しく悲しい内容にも聞こえる……。


「そ、そうなんだ。名付けにコツとかあるの?」

 僕は努めて笑顔で会話を続ける。哀れみは必要ないのだ。

「ありますよ。例えばゴブリンのアーチャーやランサーやセイバーは(わたくし)が名付けたのですが、異世界の英雄が沢山登場する物語から付けました。日本語に訳すと悲しい運命と言う題名の」

「……へー」


 ゴブリンの名前の経緯は僕の想像通りで、それを行ったのはかなり身近な人だった。

 現実逃避先にさらなる逃避したくなる現実がある。世の中厳しいようだ。

 目を背けるのは良くないと言うことかな?



 ゴブリンの居た草原はドロップアイテムと硬貨の散らばる荒野へと変わっていた。


 魔物は一部例外を除きどんな攻撃で倒しても倒されると魔石が出てくる。運が良ければドロップアイテムと呼ばれる魔物の身体の一部や硬貨も出てくる。

 しかしどんな攻撃の後でもそれらの戦利品が遺っても、その後に強い力を与えればそれらの戦利品は壊れてしまう。


 だがゴブリンの戦利品は殆ど破壊されていなかった。あれだけ大規模な魔術を使っておいてこれはおかしい。

 明らかに壊さないように気遣いしていたのだろう。

 皆やはりどこまでも余裕があるようだ。もしくはケチである。


 僕がどんなに心配しようが、どんなに先輩達が変な事をしても時間が経てば確実にゴブリンを討伐できるだろう。


 ゴブリンの攻勢は一旦止まった。

 ゴブリンは砦に籠城している。流石に近付けば殲滅されると学んだのだろう。自分達から出撃する気は無さそうだ。


 第一戦は終わりと言っていいだろう。

 それに伴い少ししか流れていなかった経験値が先輩達に流れ出した。

 経験値は自分で望まない限り戦闘が終わるなど、遅いタイミングで獲得できる。


「コアさん、何で戦闘が終わった時に経験値がもらえるんだろうね? 直後じゃなくて?」

「そう言えば何故でしょうね? 魔物を倒した直後に経験値は現れるのに態々留まって待っていますし?」


 この疑問に答えてくれたのはアンミールお婆ちゃんだった。今まで先輩達をじっと眺めていたが、一先ず終わったと視ると僕達を呼びに来ていた。


「サービスですよサービス。ほら、経験値はあらゆるものを成長させることが出来ますから、最後まで戦いきった後の方が素の技量も上がるでしょう? そうした方がより高く成長するのですよ。経験値の獲得量も上がりますし」

 なるほど、つまり後の方がスキルとかも伸ばせると言う事のようだ。


「サービスって何の?」

「私や大賢者を含めいろいろな人のです。例えば加護にはこの効果が必ずと言っていいほど付いてきますね。後今回はアーク、あなた力でもありますよ。しかっりあの子達を視ていたようですから」

 誰の力かは大体解ったが最後に聞き捨てできない言葉があった。


「「……え!?」」

 隣のコアさんと共に僕は驚く。


「僕はただ先輩達を視ていただけだよ?」

「はい、だからです」

「たったそれだけで!?」

「私も村の皆も出来ますから」


 遺伝、だったら仕方がないのかな?


「後コアさん、貴方も出来ていましたよ」

「きっとマスターのせいですね」

 コアさんは速攻で僕の仕業にしてくる。精神安定の為でも酷い。


「だったらあまり視ない方が良いのかな?」

 勝手に変な効果を与えて良いものか迷う。

「いえ、遠慮なく視てあげてください。それがあの子達の為になりますから。むしろ常に視ていて欲しいぐらいです」

 だったら遠慮なく視せてもらおう。


 と言うことはもしかして……。


「アンミールお婆ちゃん、だったら先輩達に勝手に経験値を多くあげたり、スキルをあげたりしても良い?」

 実はさっきから疼くのだ。先輩達に力をあげたいと本能が言っている。拡散してしまう分の経験値も集めてあげたい。


「ええ、勿論です。大きくなりましたね。アーク」

 アンミールお婆ちゃんはとても優しく温かく微笑んだ。

 何故その表情を見せるのか僕には解らないがくすぐったいような気がして嬉しかった。


「うう、アーク、親離れしていくのね」

「分かりきっていた事だろう。ぐすっ、喜べ」

「早く子供の顔を見せてね」

「青春だな」


 よく解らないが村の皆はアンミールお婆ちゃんをもっと進めたような雰囲気を出していた。

 僕、何かした?


「と、兎も角行って来るね」

 僕は先輩の方へ逃げるように飛んでいく。


「あ、お供します!」

 コアさんは慌ててついてきてくれた。


「嫁創り頑張ってくださ~い!」

「「「頑張ってね~!」」」

 なるほど何となく理解した。



 先輩達のところまで来た。


 まだ経験値の獲得は終わっていない。

 自然と手にはいる分の獲得は既に終わりかけているのだが、残しが大量にあった。

 まずはそれを先輩達に馴染ませて使えるようにしよう。


「“春風”」

 僕は先輩達を中心に優しい風で包んだ。


 鋼鉄の砦に草花が芽吹き出して春を迎える。まるで冬の戦乱から春の平和へと変化しているようだ。

 魔術で荒れ果てた荒野も草花が咲き誇る美しい草原へと変化し、花びらや香りが風を飾る。

 戦場の真ん中にあった温泉は楽園のようだ。……これは余計だったかな?


「マスター、これは?」

 コアさんはこの光景に見とれながら聞いてきた。

「殺風景だったから」

 僕は笑顔で答えた。


「……先輩方とは関係無いのですね?」

 コアさんは数秒間考える間を開けてから言った。

「若干僕の力が使いやすくなるから関係あるよ」

 それに植物が少ないとストレスがたまって集中しにくい。


「さて、始めようか」

 まだ何か言いたそうにしているコアさんを無視して僕は始めた。

 先輩達も驚いて固まっているが、やはり僕達に気が付いていないようなので気にせず始めよう。


 ゴブリンの消滅後のエネルギーを弄る。

 経験値とは自分の力にしやすいエネルギーの総称であるから、獲得する者に馴染みがあるエネルギーならば全て経験値となる可能性がある。つまり先輩達に敗けたゴブリンのエネルギーは全て先輩達のものになる可能性があるのだ。

 僕はゴブリンのエネルギーを先輩達と同調させながら浄化し、経験値を作り上げてゆく。


 やがて経験値を見れない者でも見える程、経験値は集り輝き出して来た。

 各々先輩達に同調した色をしておりとても綺麗だ。


「コアさん、そろそろ手伝って」

「……はい、お手伝いします」

 まだコアさんはどこか納得していない様子だが、少し僕を見つめると了承してくれた。


 僕達は協力しながら新たに出来上がった経験値を先輩達に流し込む。

 可視できる経験値が流れて来る事に先輩達はかなり驚いているが、僕達は気にせずに流し込む。


「あー、あー、ごほん、


 《ステータスを更新します》


 これで良しと」


 ステータスの真似もした。何故かこれをやるとステータスを更新しやすくなるのだ。個別のは僕の分身が続ける。


「「「「――――っ!?!?」」」」


 大量の経験値を受け取った事が無いのか、そもそも身体がそういう風に出来ていないのか、大量経験値を受け取った先輩達は様々な反応を見せた。


「「ギィッヤァァァーーーー!!」」

 経験値によるレベルアップで身体が強化される変化で、肉体の作り替えられる痛みに絶叫をあげる先輩達。


「「ンアァ~~ーーンッ!!」」

 どういう訳か快感に喘ぎ声をあげる先輩達。


「「ドゥワハハハハッ!!」」

 これまた何故かくすぐったいのか笑い声をあげる先輩達。


 この個人差は一体何なのであろうか?

 多分痛がるの本来の反応だと思う。快感を感じている人達は痛いの大好きな変態もこの反応ならば理解できる。

 しかしそれらしいそぶりを視せなかった人達も快感に喘いだり、それらしいのに普通に痛がっている先輩達もいるのだ。

 笑っている先輩達に関しては本当に訳が解らない。


 種族差や性差は関係無いようだ。

 ……何故か喘いでいる人にオネェ系の人が多い気がするのは気のせいだろう。そうに違い無い。そうであって欲しい。


 先輩達の様子は無視してさっさと終わらせよう。

 経験値の流れを速める。


「「「「――――っ!!!! アァァァーーーーッッ!!!!」」」」


 奇しくもそれぞれの叫びが大きくなり、同じ叫びになった。

 戦闘に関係した先輩達は皆床に転がって悶え出す。立っていることも出来ないらしい。

 笑い死にしそうな人、初めて視たよ。


「早く終わらせてあげた方が良いかな? 経験値の流れをもっと速める?」

「……悪魔ですか? そんなことしたら違う意味で終わってしまいますよ」

「じわじわとヤる?」

「言い方が悪いです。じわじわではなくゆっくりと言ってください」


 現状維持する事にした。


 経験値を一定の速度で流し続ける。


 途中先輩に経験値の限界が来る事もあったが、丁度大量に出現していた運命子(デスティニウム)を使って可能性を導いた。

 結構な経験値を獲得したが覚醒する先輩はいないようだ。大量に倒しても所詮はゴブリンなのだろう。職業(ジョブ)レベルは50辺りからあげるのが極端に大変らしい。


 ゴブリンのスキルだったものも経験値になったがこれは先輩に与えられなかった。出来ない事も無いが無理にやると大きな負担がかかってしまうだろう。

 これらは暫く僕が預かっておく。ほんの少しでもスキルに関わる事をしたらねじ込むつもりだ。


 こうして先輩達に無事…兎も角経験値を与える事が出来た。

 先輩達は殆ど気絶してしまっている。残っているのは戦闘も補助もしていなかった先輩達だけだ。

 近接戦闘の得意そうな先輩が大部分残っているからこのまま放っておいても大丈夫だろう。


「じゃあ戻ろうか?」

「戦闘では邪魔なだけですからね」


 僕達は先輩達のもとを離れた。


 最後に変態眷属達を視ると戦闘していた。

 変態眷属とそれを隠す為に僕達が生み出した公共眷属が激しい近接戦闘を繰り広げている。

 何故か英雄達の戦いのように見事だ。


 全然変態が隠れていないと思ったら公共眷属達は妨害されていたらしい。

 兎も角元気そうだ。こちらも放っておいて問題無いだろう。



 僕達は帰る途中、また設備の不備を見つけてしまった。

 先輩達が出払っていて治す時間が無かったのだろう。


「治してから帰ろうか」

「そうですね」

 僕達は治す事にした。


 皆、喜んでくれるかな?





 《用語解説》

 ・熟成魔法

 熟成に特化した魔法スキル。

 激レアスキルどころか両手で数えきれる数しか使い手のいないスキル。料理などに使う魔法スキルである。

 あくまで熟成させる魔法なので腐らせる等には向いていない。戦闘には向かない筈のスキルである。



 ・純粋魔法

 純粋を司る魔法スキル。

 純粋な水や純粋な風などを操り浄化することができる。〈浄化魔法〉との違いは浄化が邪を払う事に特化している事に対し、こちらは掃除など幅広く使える。邪を払うのにはそんなに向いていない。

 そこそこ使い手のいるスキルである。進んだ都市では浄水場等には使い手が配備されている事がある。



 ・荒道魔法

 荒い魔法スキル。

 荒く制御があまり出来ないが強い魔法を使う事ができる。効果が強いためほぼ戦闘にしか使えない。

 魔術士等には使い手が少なく騎士にも人気が無い。しかし冒険者には使い手がそこそこいる。

 使用には通常よりも大量の魔力を必要とする為に、獲得には多い魔力量が必要だ。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。


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