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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第2章 〈アンミール学園入学〉あるいは〈都会生活の始まり〉

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第二十四話 ゴブリン大侵攻あるいはお祭り騒ぎ

申し訳ありません。予告通り投稿が遅くなりました。

暫くこの状況が続くと思います。

 

 スピーチの現実逃避に果物を食べていると不意に放送が流れた。


『緊急連絡! 緊急連絡! 南正門の先、三十キロ付近にてゴブリンの大量発生を確認! 本校舎に向かって進軍しています! 皆さん、先生の指示に従って行動ください!』


 どうやら非常事態らしい。


「どれ……何ですか? あの大群は? 中心にかなり強力なダンジョンが在りますね。一体何が起こったのでしょう? 彼処には試験用のダンジョンが在った筈」

 アンミールお婆ちゃんは確認したようだ。

 学園そのものって言っていたけど確認しなきゃ判らないのかな?


 まあ今はそんな事どうでもいい。僕も確認しよう。


 草原を覆い尽くすゴブリン達。


 先頭を進むのは普通のゴブリンの大群。

 手には各々新品の武器を持ち、ケタケタと醜悪な嗤いを浮かべながら群れる。

 その大群の各所には魔術士や神官らしきゴブリン。ゴブリンに担がれ怪しげな儀式を行っている。


 その後方には完全武装をしたゴブリンの大軍。

 隊列を組み行進している。全身鎧に被われ中身は見えないが、明らかに普通のゴブリンよりも大きい。ゴブリンの上位種なのだろう。

 中には工兵らしきゴブリンまでいて、簡単な砦や堀の建築工事を進めていた。何と攻城兵器まで設置されている。


 さらに後方には砦の郡。

 もはや迷路のような街だ。どこもかしこも高い壁に囲われ、軍勢を組んでいたゴブリンよりもさらに一回り大きいゴブリンが巡回している。

 視るとここに居る全てのゴブリンは魔術を使えるようだ。それで今も砦の増築と強化をしている。ここのゴブリンも完全武装している事から武術もこなせるのだろう。

 大軍のゴブリンの完全な上位互換だ。


 そして最奥に広がるのは魔界。

 空からして違う。瘴気の塊である暗雲が赤黒い雷を発生させ続けている。全体が目に見える速度で拡がるダンジョンだ。

 様々なゴブリンが雨のように発生し続けている。


 そこを管理するのは禍禍しいゴブリン。

 濃い瘴気を撒き散らしている。

 その姿は千姿万態。武器から大きさまで同じ姿を持つゴブリンは少ない。中には破れたコウモリのような羽や角まで持つ個体も居る。どこからどこまで同じ種か見分けられない。

 ここでも砦建設が行われており、その作業でやっと種が判別できる。明らかに力量が違う。これで分けるとかなり姿が違っても同じ種である事も判る。


 最奥で管理される側のゴブリンも凄い。

 まず大きさから人よりも大きい。人の二倍はある。ゴブリンキングよりも巨大なサイズだ。

 装備もそれに合わせて分厚い鎧に分厚い武器。体当たりされるだけで致命傷になってしまうかもしれない。

 当然のように魔術も使える。化け物だ。


 最奥の中心部にはどこかで見たことのある色で発光する城。

 濃すぎる深緑の光は分厚い鈍重な壁を貫き、魔界を妖しく照らす。

 城には邪悪な巨人のようなゴブリンが複数、居を構えていた。恐らくこのゴブリンがこのゴブリン達の最強種だろう。

 城の内部にはどこか見覚えのある球体が在った。


 それにしても…………。


「コアさん、さっき僕達が居たのって、あの城辺りだよね?」

「……そうですね。いつの間にゴブリンが?」

 僕達は身震いする。

 都会の恐怖である。何事も無かった場所に魔物の大軍が出るなんて。危険がこんなにも近くにあったとは恐ろしい。


 僕達が戦慄している間にも、アンミールお婆ちゃん達は今後の対応を話し合っていた。


「アンミール様、我等が討伐して来ましょうか?」

 王者みたいな人が言う。声からしてこの人がエルガイン先生だろう。この人なら問題なくゴブリンを殲滅できる気がする。


「駄目だよ~、エルガイン。ほら、生徒の皆はあんなにヤル気だよ~。楽しみを取っちゃ駄目だよ~」

 朗らかな黒髪の女の人がエルガイン先生の案を却下する。

 驚く事に如何にも王者らしいエルガイン先生よりもこの人は強大な力を持っている。エルガイン先生が池ならこの人は大海だ。


「アキホ様、我はそれが心配なのです。生徒達が一体何をやらかす事か」

 エルガインは溜息をつきながらそう言う。

 ゴブリンに殺られるとかそういう心配はしていないようだ。


 やはり都会って凄い。

 僕達が戦慄する程の軍勢を何とも思わないなんて。


 それに二人の名前も有名な英雄と同じだ。

 都会では名前まで凄い。

 雰囲気までそれらしいし……まさかね。


 その後もいろいろと意見が出る。


 そしてアンミールお婆ちゃんは方針を決めた。

 近くにいた先生はそれを聞いて走ってどこかに行く。



 暫くして放送が流れた。


『えー、先生から発表がありました。これよりクラス対抗戦を実施するとの事です。

 ルールは簡単。ゴブリンをより多く倒し得点の高いクラスの勝ち、武器や技に制限は無し、ただし他クラスの妨害行為になる行為は全面禁止です。

 ゴブリン事の得点は学年毎で違います。詳しくは担任の先生から話しがあるそうです。

 尚、優勝したクラスにはとても豪華な賞品があるそうです』


 と言うことらしい。

 僕達には厄災にしか思えない軍勢を競技にするようだ。


 それに対して生徒達は。


「ウオオー! 新学期始まる前から祭りだー!」

「はははははっ! こんなにも早く新兵器を試す機会が来るとは!」

「魔石魔石~♪」


 大盛り上がりだ。

 まさにお祭騒ぎである。


 しかし次の放送で静かになった。


『クラス対抗戦を開始する前にゴブリンに関する情報が入って来ました。

 一番手前に迫っているのはゴブリンですが、原則として奥に行くほど強い個体が居るそうです。そしてその中にはゴブリンの上位種ハイゴブリン、そのさらに上位種キングゴブリン、そのまたさらに上位種グレートゴブリン、そして、その上位種イビルゴブリンが確認されました。

 危険度ランクで分けるとゴブリンはランク1、ハイゴブリンはランク3、キングゴブリンはランク5、グレートゴブリンはランク7、イビルゴブリンはランク9だそうです。確認されている最も強い種はイビルゴブリンキング、ランクは12になります』


 恐らく全て普通のゴブリンだと思っていたのだろう。

 この放送を聞いて先輩達は真剣な表情になっている。

 能天気なのは先生達だけで、やはり結構な危機的情況のようだ。


 それにしてもイビルゴブリンキング、どこかで聞いた名前だな?

 これは深く考えない方がいい気がする。


『冒険者ギルドの等級で言うとゴブリンはF級、ハイゴブリンはD級、キングゴブリンはC級、グレートゴブリンはB級、イビルゴブリンはA級冒険者が相手する強さとの事です。

 そして各種ランクが一つ高いセイバーやアーチャーにランサー、ランクが二つ高いアサシンやキャスターにライダーとバーサーカー、ランクが三つ高いジェネラルやキング等が確認されています』


 この放送を聞いて真剣な表情になる先輩の数が増えた。

 あまり動じていない先輩も居ると思ったら脅威の基準が解っていなかっただけらしい。

 因みに僕はまだ放送を聞いただけでは、いまいち正確な脅威度が解らない。


 それにしてもゴブリン名称、なんか聖杯が出て来そうだ。

 ルーラーとかアベンジャーも居るのかな?


『ゴブリンの総数は現在も増殖し続けている為、測定不能ですが今の時点で百万を越えているそうです。

 中心にはダンジョンが在り推定S級ダンジョン以上との事、攻略すると高得点が得られます。

 それでは皆さん御武運を!』


 放送が終わった。

 次第に人々の声が戻ってくる。


 まずはクラス毎に集まるようだ。



「おい、どうする?」

「どうするって決まっているだろ。戦うんだ! S級冒険者程の力は僕にはない。だけど、ゴブリンはどちらにしろここに攻めてくる。僕はもう、誰も喪いたくない! その為に僕はここに来たんだ!」

 現実を知ったが理想だけは捨てられない系勇者のミカルス先輩がそう言う。

 ん、勇者? 後でサインをもらおう。


「そう言うと思った。俺も戦うぜ。大切なダチを喪う訳にはいかないからな! 勘違いするなよ。俺は人を救いたいんじゃなくて、お前達を助けたいんだからな!」

 ミカルス先輩に質問したツンデレ系魔王のゲイルスアース先輩は、答えを聞き嬉しそうに言った。照れ隠しも混ざっている。

 ん、魔王? 後でサインをもらおう。


「私も協力するよ。ミカとゲイルはいつも無茶するんだから。回復役の私が居なきゃ駄目でしょ」

「妾も微力ながら助力します。武器の手入れなら任せてください」

「俺も防御位なら任せろ。ダンジョンで守ってやる」

「私も……ゴブリンなんて喰らい尽くす……」

 他の人達もミカルス先輩に賛同していく。皆お互いを信じているようだ。

 因みに皆、僕の一つ上の先輩である。どこかしらに二年六組と書かれた紋章があった。


 他のクラスでも同様、いや異様に話し合いが行われている。


「高貴な身分である以上、下々の者を守るのは当然の義務。ハアハア、例えこの身がゴブリン達に滅茶苦茶にされても、ハアハア、私は屈しない!」

 怪しく息を荒くさせながら立派に聞こえる言葉で意思表示をする、王子で騎士なローグカルロ先輩。


「ローグ殿下、ハアハア、私も最後まで御供させて頂きます。ハアハア、共に逝きましょう」

 ローグカルロ先輩と同類な性癖を持っていそうな、貴族令嬢で騎士なベーティア先輩。


「俺も協力しますぜ殿下。ハアハア、隠密の俺はあんな大軍だと役に立たないかもしれねいが、ハアハア、例え拷問されても殿下達の情報を吐いたりしないから安心してくれ。ハアハア」

 これまた同じ性癖を持つらしい暗殺者なシクス先輩。


 因みに三人共別々の国の人だ。

 なのに凄い連帯感である。


「皆様方、作戦はこれまで通りと同じで宜しいでしょうか?」

 変態三人をほったらかして、無表情真面目美人系のオートマタ族のヒラリー先輩が話し合いを進める。


 良かった。

 どうやらヤバイ人だけのクラスでは無いようだ。


「それでいいと思います。いつも通り三人が押さえている間に、三人ごと高火力で撃ちましょう」

 と執事で九尾族のハルマロ先輩。

「新しい魔術も完成した。広範囲爆撃魔法、試したい。今度こそあの三人を倒す」

 とマッドマジシャンのラフィール先輩。


 そんな二人の危険な発言に対し他の先輩達も全員、疑問すら挟む事なく同意していく。


「では私も最新の魔工学砲で焼却するとしましょう。打倒変態! 不慮の事故!」

「「「「打倒変態! 不慮の事故!」」」」

「「「や~め~ろ~、ハアハア」」」


 前言撤回。全員ヤバイ人のクラスだ。

 まともにゴブリンを倒そうとする人すら居ない。


 三年十一組、近付かないようにしよう。


 しかし残念な事にこのクラスのようなクラスが圧倒的に多い。

 僕がまともと思える人達は僅かしか居ない。その大多数は新入生だ。もしかして都会ではこれが常識なのかも知れない。


 自分と周りを勇気付ける為に自分を曝け出している面もあるのだろうが、演技では出来ない気持ちの入り方だ。

 彼等の性癖がこうであるのは間違い無いだろう。


 どちらにしろ、ここで暮らす以上慣れるしかなさそうだ。


 もう少し視てみよう。


「ゴブリン! あのサイズ、あの大きさ! ロリッ子に通ずるものがあるのでは! 調べれば本物にお近づきになれる方法も!」

「ゴブリン! あのサイズ、あの大きさ! ショタッ子に通ずるものがあるのでは! 調べれば本物にお近づきになれる方法も!」

 とゲスい表情を浮かべたそれぞれロリッ子ショタッ子の姉弟。年齢も見た目のままだ。

 一体何があったのだろうか? ただ変な言葉を使っているだけだと思いたい。


「くふふ、実験台があんなに。乱戦になれば事故が起きても不思議でない。人体実験も可能かも知れませんね~」

 とミダス君に飲ませた薬を開発したモルト先輩。お尻を押え涙の後が残っている。

 見た感じ逃げてきたばかりのようだが、その目にはもう薬の実験のことしか見えていない。凄い信念だ。


「ヒッヒヒ、大勢の怪我人が出る。血に臓物、悲鳴に断末魔! この手にこの手にこの手にー!!」

 と黒いローブを羽織った如何にも怪しい悪魔族のググドア先輩。指の間にメスを挟み舐めている。

 信じられない事にステータスが治療師の構成だ。本当に都会では怪我できない。


「ハッハッハ、ゴブリン諸君、何故君達は布でそのシンボルを隠すのかね。もっと開放しようではないか! さすれば我等と分かり合う事も出来よう! 自然と一体となり共存しようではないか!」

 と何も身に纏っていない騎士王のような雰囲気のギルシャール先輩。

「マインバッハ、それは間違っている! 開放感は確かに素晴らしい。だがそれは一瞬だ。その快感は常に薄れてしまう。未来が無いんだ! だから下着は着るべきだ! 見える見えないのギリギリの線で掻き立て続けられる妄想! 下着にははただの開放では味わえない無限の可能性が広がっている!」

 と全裸にシーツ一枚羽織った姫騎士のような雰囲気のエレクシア先輩が反論する。

 そして当然のように二人は口論を始める。

 衛兵さん、今がチャンスです!


「今こそ我が右腕に宿りし暗黒竜ベルファイアの封印を解き放つ時! ゴブリンどもよ、この闇黒聖帝タリムの力の前で塵と消えるがいい!」

「くわはははっ! ゴブリンよ、お前達は絶望的なミスを犯した! それはこの爆焔を支配する大魔王バスタエルがこの場に居たと言う事だ! 煉獄の焔の中で永遠に後悔するがいい!」

「我、深淵王ギルエスの魔眼、開く時がお前達の滅びる瞬間、愚か者共よ、恐怖に溺れて死ね」


 何故だろう? 無駄に拡張した事を言い、無駄にカッコいいポーズをとって居るのに、この人達が凄いまともに見える。


 あれ? 本当にまともなのかな?

  いや……でも……、……考えるのをやめよう。


 僕は静かに視線を外した。

 やはり僕にはまだこの光景は早い。



「コアさん、僕達はどうする?」

「流石にあそこに混ざっても、(わたくし)達は邪魔になるだけですからね。ここで応援していましょう」

「そうだね」


 いざとなったら先生達が殲滅出来るだろうから、そんなに心配はしなくてもいいだろう。

 そもそも僕達にゴブリン討伐できる程の力は無い。一匹や二匹なら何とかなるかも知れないが囲まれたら終りだ。

 いつかゴブリンを龍や原獣みたいに簡単に退治出来るようになりたい。


「コアさん、僕達は無力だね」

 これから変人達に助けられると思うと複雑な気分になる。

「ここは学園です。ここで学べばきっと力が身に付きますよ。少なくとも変人達に守られる事は無くせます。一緒に頑張りましょう」

「そうだね。いつか必ず助ける側になろうね」

「はい、必ずなりましょう」


 僕達が新たに決意するところを皆は見ていた。

 村の皆とアンミールお婆ちゃんは立派になったねと号泣し、ここに居る先生達はなんと謙虚な御方だとか、よく解らない事を言っている。

 恥ずかしい。


 兎も角先輩達の応援を頑張ろう。


 再び僕達は先輩達を視る。


 もう先輩達はゴブリン達の三キロメートル程手前で、ゴブリンを迎え討つ準備をしている。


「「「“ウォール”」」」

 魔術を使える先輩達は次々と土を隆起させ壁を作る。そしてあっという間に全長十キロメートルを超える長さになった。

 壁の作りは魔術を使った先輩毎に異なっているが、どれも高さ十五メートル以上、厚さ五メートル以上はある。


「「武技“錬鉄”」」

 錬金術の使える先輩は土の壁を鉄の壁に変えた。

 武技の“錬鉄”では簡単な代わりに暫く経つと土に戻ってしまうが、ゴブリン相手ではこれで十分だと判断したのだろう。


 それにしても何故わざわざ作業を分け、面倒な事をするのだろう? 壁の質もなんだか薄い気がする。

 初めから鋼鉄の山脈でも創ればいいのに。

 隣のコアさんも不思議そうに視ている。


 まさか先輩達が鋼鉄の山脈程度を創れない訳無いし……。


「マスター、何故先輩方はあんなに効率の悪い術式を使っているのでしょうか?」

 コアさんが口にした疑問で先輩達が何故面倒な事をするのかが解った。

「多分それで鍛えてるんだよ」

「なるほど、自ら難易度を上げてそれを乗り越える訳ですね」


 きっとこの推測は正しい。ここは学園であり力を見せびらかす場では無い、学ぶ場所なのだ。

 ただ壁を築くと言う簡単過ぎる作業をしても仕方が無い。


「だから壁もどこか薄いように感じるのですか」

「ん? どういう事?」

「異世界の書物で読みましたが、薄くて軽いもの程最新式だそうです。ですからあの魔術等も最新式の性能の良いものなのでしょう」

 なるほど、僕もそんなことを聞いた事がある。


 これで全ての疑問が解けた。

 お互いに補完し合える友達とは、実に豊穣なものだ。



 僕達が話している間に鉄の壁は増えていた。

 もう長さ十キロメートル以上の壁が三つもある。


 しかしまだ備えるようで先輩達の作業は続く。


「「「“ディグモウト”」」」

 先輩達は壁の前に大地を凹まし堀を掘る。

 あっという間に壁の前方は全て深さ五メートル、幅二十メートル以上の堀が出来た。


「「「“ウォーター”」」」

 続けて他の先輩達が堀を水で満たす。

 その方式はなかなか面白い。“ウォーター”は水を集める魔術のようで、堀から直接水を湧き出させたり、雲から絞り取ったり、土を砂にして集めたりしている。


 ここまで粗方出来上がると先輩達はクラス毎に別れる。

 壁や堀を自分達が使い易いように改良するのだろう。


 丁度その作業を始めたクラスがあった。

 三年十二組だ。


「おい、ここに攻城弩バリスタを置くから拡げてくれ」

「魔法陣を書ける場所もお願いね」

「このキャノン砲の設置台もセットしてくれ」


 クラスメイトの注文を受けて建築科のグランビルス先輩は、なにやら術式の刻まれたマントを脱いで広げた。

 そして呪文を唱える。


「ここら辺に造るぞ? “重く堅く押し止めよ 永く遠く鎮座せよ 人々への害意引き受ける盾 築く 一時の安寧”武技“スタンバイフォート”」

 呪文を唱え終えるとグランビルス先輩の魔力が周囲に拡がり、領域が築かれた。


 そして領域が展開された後はグランビルス先輩の手の一振りで壁が動きだし、だんだん注文通りの要塞が出来上がっていく。


 結構注文が細かくまだ途中の段階だが、使わなくなったら観光名所になるような出来栄えだ。

 住む場所としても人気が出るだろう。何故かクラスメイト各々の部屋がある。


 初め放送が流れた時、皆深刻そうな顔をしていたが大分余裕があるらしい。

 良かった。そこまで心配する必要は無さそうだ。


 おっ、アベル先輩とアリーゼ先輩のクラスも壁の改良を始めた。

 今度はこのクラス四年十二組を視てみよう。

 因みに二人は童貞と処女のままだった。残念。余談だがこのクラスは全員どちらかに該当する。


 ん? 戦場、危険、吊り橋効果。縁結び出来るかも知れない。


「アリーゼ、雨対策よろしくね」

 そう明るく頼むのはリーン先輩。

 〈雨〉と言う強力な天候スキルを持っている。


「バサスゲイン様の神像を奉る社もお願いしますわ」

 これは偶像と熱狂の神の巫女、縱ドリルが特徴的なシルフィア先輩。


「髪を切る用の鏡をよろしくね。アリーゼちゃん」

 これは化粧をした美容師、オネェ系ののベルグラン先輩。

 腰のベルトに大量の鋏を装備している。


「調理場の空調も頼むぞ」

 これはアベル先輩。


「も~ちょっと待ってね~」

 頼まれたアリーゼ先輩はもう既に一帯をダンジョンの領域で包んでいた。壁は夢のように姿を変えて行く。


 開閉可能なベッドの天蓋のような屋根、照明器具完備のステージとバサスゲインの神像、大きな鏡、屋外にある広い厨房。

 頼んだ先輩は各々満足そうだ。


 シルフィア先輩なんかは仕事服に着替え、光る短杖を振って祷りを捧げている。

 異世界ではヲタ芸って言うんだったかな? シルフィア先輩のはキレッキレだ。

 それにしても神像って祷りを捧げると歌って踊るんだね。



 アベル先輩も調理を始めた。

 まず腹ごしらえをするようだ。

 他の人達も砦を一通り見た後、料理を待ってアリーゼ先輩の出したテーブルに集り出し、食器等を準備する。


 やはりゴブリン討伐に余裕があるようだ。

 僕達も安心して応援できる。


 視ればどのクラスも食事から始めるようだ。


 そう言えば放送で慌ただしかったからまだ何も食べていないのだろう。


 さて、僕も何か食べよう。


「……何回食事を挟むのですか?」

「モシャモシャ?」




 《用語解説》

 ・ウォール

 土属性に属するもの、土や岩等を縱に上げる魔術。

 かなり難易度の低い魔術で使える者は非常に多い。しかし精々二メートル四方は壁を出すぐらいしか出来ない。


 混同される魔術にアースウォール等があるが全くの別物である。



 ・錬鉄

 岩や土を鉄に変換する技。

 〈錬金術〉〈鍛冶〉等のスキルがあれば使えるようになる。

 文技として発動した場合、時間が掛かるが本物の鉄に変換でき、武技として発動した場合、時間が掛からないが偽りの鉄となり時間が経てば元に戻ってしまう。


 難易度は大して高くないが使用に大量の魔力を必要とする為、実際に使える者は少ない。

 しかし鉄鉱石に使用する場合は魔力消費が少なく、鉄を精練できる為、世間一般では鉄の精練をする技だと思われている。



 ・ディグモウト

 堀を掘る魔術。

 難易度は高くなく工兵等に使える者が多い。

 造られる堀は水を貯める前提の為、底面と側面を堅くする術式が含まれているのだが、多くの者にとって広範囲に穴を空けやすい魔術と言う認識である。



 ・ウォーター

 水を周囲から集める魔術。

 難易度は低く一般人に使える者も多い。ただし普通はコップ一杯分の水しか集められない。

 昔はもっと難易度が低い水を出す魔術が広まっていたが現在では使われていない。



 ・スタンバイフォート

 砦を建造する技。

 国に使用できる者が一人いるかどうか判らない超高難易度の技。居るかどうかで大国と小国を分ける専門科も居る。

 立体的な建材がある所で使う技で、岩山等を動かし砦の形に整える事が出来る。建材が無くても使えない事は無いが、その場合は土の砦等になってしまう。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

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