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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第2章 〈アンミール学園入学〉あるいは〈都会生活の始まり〉

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第二十三話 縁結びは簡単あるいは天災の予兆

申し訳ありません。更新がかなり遅くなりました。

今後も暫く更新が遅くなるかもしれません。

 

 僕達は気絶しているミラス君を建物の屋上に寝かせて、再び空を飛んでいる。


「惚れ薬作戦はもう諦めた方が良いかな?」

「よぼど良い惚れ薬が見つかるまでは止めにしましょう。炭火の店主さんには一先ずスキルでも与えましょう」

「じゃあ一回あの屋台に戻ろうか」


 戻る前にトイレを見ると衛兵さん達が来ていた。

 変態達が沢山居たのだから当然だ。

 しかし様子がおかしい。

 変態があんなに沢山居たのに殆どが捕まっていないのだ。それに先生が率いていて建築科らしき先輩達も居る。


 そう言えばトイレの壁を戻すのを忘れていた。

 もしかしたらそれで来たのかもしれない。変態達は衛兵さんが来るのを察知して服を着たのだろう。それなら納得だ。

 危なかった。もう少し遅く出ていたら先生に怒られていただろう。


 衛兵さんに真っ先に捕まったのは僕達の眷属、温泉ジジイことユジーラなので何かあったら代わりに怒られてもらおう。

 これも君の仕事だ。


 さて、もう行こう。


「……ところでコアさん、ここ何処?」

「……屋台までは(わたくし)が案内します」



 コアさんのおかげで無事に辿り着いた。

 因みに屋台はトイレから一本道で、見えるところに在った。何故迷ったのだろうか? 都会だから?


 串焼きの屋台の前に戻るとナギとサカキが大量の串焼きを持って待って居た。

 トイレまでついてこないな~と思っていたが、ここに居たようだ。何故トイレまで串焼きを持って来なかったのだろうか?

 まあいいや。今は串焼きを食べよう。


 皿に盛られた串焼きの数と店主のアベル先輩から察するに、注文した二万本の串焼きは全て完成したようだ。

 僕達がふらついてからそんなに時間は経っていないに、先輩凄い。

 しかし代償として先輩は息を荒くして如何にも疲れている様子だ。


「「お待ちしておりました。主よ」」

 二人とも両手に特大の皿に盛られた串焼きを持っているのに、実に見事なお辞儀を僕達にした。

 誕生して間もない筈だけど相変わらずその道を極めたプロに見える。


「ありがとう。貰うね」

(わたくし)も頂きます」

 僕達は串焼きに手を伸ばした。

「あぐっ、この串焼き凄いね。全然冷めて無い」

「はむっ、やはりあの炭火が売りなのでしょう。都会の串焼きは凄いですね」


 僕達が食べているとアベル先輩は屋台を片付け始めた。

 見かけ通り疲れたのだろう。

 うちの眷属が過剰に注文してごめんなさい。


 先輩は火属性と風属性を混ぜた生活魔法で汚れを消し、赤熱している炭火を自身の身体で吸収した。

 そして売上を軽く計算し小さな宝箱に売上をいれると短い呪文を唱える。


「“夢は覚め現実に戻る”」

 屋台全体がボヤけるように霧になると先輩の手の中に集束した。そして屋台は完全に姿を消す。

 先輩の手には元屋台だったらしい水晶の結晶のようなクリスタルが在った。


「モグモグ、面白い屋台だね。ムシャムシャ、折り畳み式って言うのかな?」

「ハフハフ、(わたくし)に通ずるものを感じますね。モグモグ、簡易ダンジョンとでも言えるものですよ。アレは。ハムハム、あの方自身の能力ではないようですね」

「ぱくり、何処かで売っているのかな? コアさんは造れる? モグモグ」

「後で探してみましょう。モグモグ、(わたくし)にもこの程度造れますから、ハフハフ、なんなら今造りますよ?」

「モグモグ、ムシャムシャ、使うところがないからいいや。ハフハフ」


 そんなこんな雑談をしているうちに串焼きは全て無くなった。

 ハンカチで口を拭く。

「ご馳走さま。美味しかったね」

「……ほんの数秒前まで、ここに軽く一万本以上の串焼きがありましたよね? (わたくし)はまだ三本しか食べていないのですが……」

 コアさんは呆れたように言う。早く慣れて欲しいものだ。


「そんなことよりアベル先輩へのお詫びでもしよう。結果的に店を早仕舞いさせる事になっちゃったんだし」

「そうですね。どんなスキルが良いですかね?」

 コアさんの切り替えは早かった。

 どうやら既に僕の食事風景に慣れていたらしい。それでも口に出してしまう程、僕の食事はおかしいのだろうか?

 ……今はアベル先輩の事を考えよう。


 アベル先輩はクリスタルに集束しなかった道具等をアイテムボックスに仕舞いながら、タイミングを見計らったように来た先輩と話していた。


 相手の先輩はほんわかとした印象のお姉さん。服装は作業着で工具らしきものが装備されているのだが、可愛らしい花の刺繍や身体よりも大きなサイズで先輩の雰囲気を邪魔していない。


「アベル~、今度の屋台はどうだった~?」

 眠たそうに瞼を半分ほど下ろしながら、こちらまで眠たくなりそうな声音でアベル先輩に聞く。

「ああ、また腕が上がっていたぞ。換気能力も強化されていたし片付けるのも前より楽だった」

 会話からするとこのほんわかとした先輩が、アベル先輩の屋台を造ったらしい。


「だがなアリーゼ、オルゴール機能とか春風機能で眠くなる。毎回言ってるがはずせないのか? 後肉の調達の為の魔物召喚機能だがもっと別の魔物は出せないのか? とてもじゃないがスリーピーアリエスなんて可愛らしい生き物、俺には倒せん」

「う~ん、そこら辺は厳しいな~。わたしは眠りに特化しているから~。その個人用ダンジョンも夢みたいなものなんだよね~」

 どうやらあの屋台はコアさんの予想通り、ダンジョンの一種だったようだ。

 そしてアリーゼ先輩は見た目通りの力を持っているらしい。


 アリーゼ先輩のステータスを見ると面白いものがあった。【レクスリーエ】の〈怠惰〉、大罪スキルだ。

 どうやらこの力で屋台を造ったらしい。


 ……伝説のスキル保持者が目の前に居る。

 語り継がれる強者の証、それを持つ者が僕達の前に……。


「コアさんコアさん、アリーゼ先輩〈怠惰〉スキルを持ってるよ。大罪スキルだよ! 伝説のスキルだよ! サイン貰って来ようかな?」

「マ、マスター、一旦落ち着きましょう。強力なスキルを持つからと言って有名人とは限りませんから。ほら見てください。伝説に語られる人はその強力なスキルで屋台を造ったりしません」


 コアさんの言葉で少し落ち着いた。

 確かに能力の無駄遣いをするような偉人は……。


「コアさん、結構な人数の偉人が能力の無駄遣いをしている時があったと思うんだけど?」

「……そう言えばそうですね。どうしましょうマスター!? 本当に凄い人かもしれません! サイン貰って来ます!?」


 今度はコアさんが興奮しだした。

 自分がやっていた事を客観的に見ると落ち着いてくる。


 でもサインが欲しい!


「サカキ、ナギ。アリーゼ先輩からサインを貰って来て!」

「二枚お願いします!」

 結局サインを貰う事にした。


「「は、はい」」

 珍しく二人は戸惑いながら返事をした。

 どうやら詰め寄りすぎたらしい。

 もう少し落ち着こう。


 サカキとナギはアリーゼ先輩の前に瞬時に移動した。

 仕事にかかるのが早い。


「そこの眠そうな方、会話中失礼いたします。サインを頂きたいのですが?」

「二枚お願いします」

 サイン色紙と筆を差し出しながら二人は頼み込む。丁寧な口調だが有無を言わせない構えだ。


「えっ? 私の?」

 突然現れ突然サインを要求されたことでアリーゼ先輩は見て判るほど困惑している。

 相変わらず瞼を半分下ろしているが眠そうな口調まで崩れた。何故か頬も紅い。


 アリーゼ先輩はそんな様子だが二人は言葉を続けた。

「はい。我等の主が貴女のサインを求めて居られます」

「何でしたら御代の方もはずませて頂きます」

 ナギの片手には金貨の入っていそうな袋が握られている。行動が早い。


「あ、いえ、御代は結構です……」

 若干放心しながらもアリーゼ先輩は筆を走らせサインを書いてくれた。

 そしてそれを二人に渡した。

 二枚あるからサカキとナギが欲しがっていると勘違いしたらしい。二人は主の為と言っていたが頭に内容が入っていなかったようだ。それほど驚かしてしまったのだろう。


「「ありがとうございます。それでは失礼いたします」」

 サカキとナギはアリーゼ先輩に感謝の言葉と一礼すると姿を消した。


 そして僕達の元に戻って来た。


 僕達にサインを差し出してくれる。

「こちらサインです」

「これでよろしいでしょうか?」

「ありがとう」

「助かりました」

 僕達はアリーゼ先輩のサインを受けとると眺めた。


 “四年十二組 建築科 睡眠研究部 アリーゼ・フォン・セイティハウネ・ツングル”サインにはそう書かれていた。

 名刺に近いサインだが嬉しい。


「コアさん、アリーゼ先輩ってもしかしてあの“セイティハウネ”の子孫かな?」

「【怠惰な召喚士】セイティハウネ、彼女の英雄譚(ライトサーガ)からしてその確率は非常に高いですね。これは本当に凄い方のサインかもしれません!」

「そうだね! どこに飾ろうかな?」

 初めて有名人のサインを手にいれた! 都会生活初日は順調だ。嫌なこと(変態)を忘れられる……多分。



「さて、アリーゼ先輩にお礼しなくちゃね」

 丁度良いお礼の仕方も思い付いた。

「そうですね。今回のお礼ですがアリーゼさんとアベルさんの縁を結ぶというのはどうですか?」

 どうやらコアさんも僕と同じ事を考えていたらしい。


 あの二人は知らない仲ではないようだし、二人同時にお礼とお詫びを出来るので丁度良い。きっと喜んでくれる筈だ。

 それに二人からなら強力な子を誕生させる事が出来る気がする。そうなれば僕のお嫁さん創りを前進させる事が出来る。

 これはやらない理由が無い。


「どうやって縁結びをする?」

「先程トイレで成功した方式でやりましょう」

「え、そんなのあったっけ?」

「ほら、あったではないですか。マスターが転ばせて抱き合わせる形にしたやつですよ」

「ああー、確かにアレは成功と言えるかもね。……男同士だったけど」


 兎も角成功はしそうだ。試してみよう。


 僕がアリーゼ先輩の足を払い、コアさんがその背中を押しアベル先輩へと誘導する。

「きゃっ!」

 アリーゼ先輩はアベル先輩に飛び付くように抱きついた。


「ごめ~ん、アベル~」

 アリーゼ先輩は上目遣いでアベル先輩を見た。

「あ、ああ、気にするな」

 アベル先輩はアリーゼ先輩から視線を外せずにそう言った。顔が紅い。


 そして暫く見つめ合うとバッと離れて視線を反らした合った。


「なんだその、変な空気になったな」

「そ、そうだね~」

 二人は軽く笑った。

 よく解らないが良いこと展開だと思う。


 追撃ちをかけよう。


 今度は逆にコアさんがアベル先輩の足を払い、僕がアリーゼ先輩の胸にアベル先輩の頭を押し付ける。


「どわっ!? んもー!? んんー!?」

 おっと、押え付け過ぎた。二人はそのまま倒れ、アベル先輩はアリーゼ先輩の作業着に収まりきらない豊満な双峰で溺れてしまっている。

「きゃっ、も~な~に~? そんなところに顔を埋めて~。よく視線を向けてると思ったら~、アベルも男の子だったんだね~」

 アリーゼ先輩は暢気に言う。


 一方アベル先輩は慌てて離れようとした。

「っはー! すすす、すまん! こんなつもりじゃなかったんだ! 偶然だ偶然!」

 そして必死で弁明しようとする。

 顔は鼻血を流さないのが不思議なくらいに真っ赤だ。


「じゃあその手は何かな~?」

「へっ?」

 アベル先輩は両手でフニョンフニョンとその何かを揉む。


 揉んでいるものの正体を知ると処理しきれなかったのか固まった。無意識に揉み続けたままで。


「いつまで揉んでるのかな~? 流石に怒るよ~」

 アリーゼ先輩は照れながら言う。本当に怒っている訳ではないようだ。

「あっ、いやっ、これは、ほ、本当にすまん!」

 しかしアベル先輩はそれに気が付かないほど狼狽していた。バッと離れて必死に謝る。


 それに対しアリーゼ先輩はアベル先輩を直接見ないで言った。

「も~、許してあげる。さ~行こう。クラスの皆が待ってるよ」

 その顔は仄かに紅い。


「あ、ああ、本当にすまない。今日は豪華な昼食を作ってやるぞ!」

「楽しみに待ってるね」

「待ってろ!」


 照れ隠しのような和解の後、二人は去って行く。


「コアさん、これは成功だよね」

「はい、そうですね」

「豊穣だね」

「豊穣ですね」

 僕達は暖かな目で二人を見送る。


 お礼兼お詫びは無事機能した。

 結構簡単だった。

 これからも同じような事をしていこう。



「次は何をしようか? 他の屋台で食べ物を買う?」

「まだ食べる気ですか。ですが賛成です。もう少し見て周りましょう」


 そう決め僕達が再び歩こうとしていると、学都中に音楽が流れてきた。

 各地に点在する鐘やよく解らないが巨大な楽器らしきものを一斉に演奏している。


 何の音楽だろうと思っていると時計が目に入った。針は十二時を差している。

 どうやら都会の学校に流れると言う、あのお昼の放送のようだ。


 少し経つと演奏は終わった。結構短い。

 恐らくお昼の放送の前座的ものなのだろう。


 この考えが正しいと証明するように、人の声で放送が流れてきた。

 静かでいて覇気溢れるような声だ。


『我はアンミール学園連盟国永久盟主、エルガイン・バルリエ・フォン・クオン・トゥミニエルである。此度は遥か尊き御方より御言葉がある。皆の者、心して拝聴するように』


 この放送を生徒達は時が止まったように動きを止め、聴き入っていた。

 もしかして僕達も同じようにした方が良いのかな?


 静まりが支配している間に次の放送が流れた。

 声の主はアンミールお婆ちゃんだ。


『当校の名はアンミール。学園精霊アカデミア・ブラウニー、この学園そのものです。

 連絡します。入学式及び始業式の日程が決まりました。一週間後に執り行います。

 皆さん、それまでにしっかり準備をするように。

 以上です』


 うん、普通の連絡だ。

 皆そこまで静まる必要は皆無だと思うんだけどな?


 改めて周りを見ると皆泣いていた。

 膝を地面に着いて訳が解らない、しかし涙を流さずにはいられない、と言う様子だ。

 手を組んで祈っている人までいる。


 学都全体を視てみてもそれは変わらなかった。


「……コアさん、何これ?」

「……さあ?」

「……不毛だね」

「……そうですね」


 計画を変更してアンミールお婆ちゃん達のところに戻る事にした。


 僕達は空を飛ぶ。

 街自体の見事さは変わらないが人々は泣いていて異様な雰囲気だ。

 これは落ち着くまでかなり時間が掛りそうだ。何時になったら普通に戻るのだろうか?


「もしかして僕達も真似した方が良いのかな?」

 ここまでの人数が泣いていると少し心配になってくる。

「別に都会の常識では無いと思いますよ。皆さん泣き真似をしている様子では無いですし」

「そうだよね。でも何で新入生まで泣いていたんだろう?」

 コアさんの言葉で安心はしたが、疑問が尽きることは無い。都会は奥が深いのだろうか?


「そんな事よりもマスター、どこに向かっているのですか? ここ、街の外の草原ですよ」

「あれ? 何でだろう? アンミールお婆ちゃん達のところに戻るつもりだったのに? 都会は道が入り組んでいるんだね」

 元の場所を目指していたのに本当に不思議だ。


「……空を飛んでいるのですから道は関係ありませんよ。目指している場所はあれですよね」

 コアさんはそう言って遠くにある一番高い建物を指す。

「そうだよ。おかしいな? そこに飛んだ気がしたんだけど?」

「どんな方向感覚を持っているのですか……」


 そんな事を言うのなら途中で言って欲しかった。

 まあ、行き先を言っていなかったけど……。


「兎も角、折角来たんだから草原を見て周ろう」

 僕は笑顔を作りながら強引に話を変えた。

「……これ以上は疲れそうなので流されておきます」

 コアさんは優しかった。同情が混じっている。

 僕も今の皆みたいになりそうだ。


 僕達は低めに飛びながら草原を見る。

 風になびく艶々の新緑の草が美しい。

 草の匂いが風の匂いとなり僕達の元に運ばれてくる。

 やはり僕は都会よりもこういう場所が好きだ。




 暫く飛ぶと面白いものが見えた。


 無人の城だ。

 城と言っても巨大な一枚岩を削って造ったようなもので、本当にそう呼んでいいか怪しい。

 デザインだけ見ると子供の作った砂の城程度だ。

 扉のような簡単な仕組みもない。


 しかし実用性の面で見ると最低限は揃っている。

 全体を囲む高い城壁、それを囲う深い掘り。所々にある高い塔。それらが三重に設置され、極端な階段ピラミッドのようだ。

 シンプルだが飛べない人は落とすのに苦労するだろう。


「これはかなり雑ですがダンジョンですね。何故このような場所に?」

「へー、これもダンジョンなんだね。でも魔物も居ないし大して力も感じないね」

「はい、どうやら壊れているようですね。治します? 簡単に出来ますが?」

 ダンジョンって壊れるんだ。


「じゃあ治してあげようか。街中の人達は泣いていて動けそうに無いからね」

「ではまずダンジョンコアを探しましょう。多分中心にある筈です」


 僕達はこの城の中心付近に降りた。

 中心には何の装飾もない四角い建物がある。


 その建物の中に足を踏み入れる。


 ダンジョンコアはすぐに見つかった。

 建物の中心に浮いている。

 ダンジョンコアは人の頭程の大きさの濃過ぎる深緑色をした球体で、僅かに光っている。

 その光りとても弱い。コアさんの言う通り壊れているようだ。


「では修理を始めますね」

 コンコンコン、コンコンコン、コアさんはダンジョンコアを叩く。

「駄目ですね」

「!?」

 衝撃事実だ。まさかこれが修理方法なんて。


「……そんな旧い電化製品みたいに治るの?」

 僕は恐る恐る聞く。

「はい、大体これで治りますよ。ですがこれは無理みたいですね。手の込んだ方法でやることにします」


 コアさんはそう言ってダンジョンコアに手をかざした。

 するとダンジョンコアを何重にも囲うように術式がリング状に次々と現れる。

 初めからこっちの方法で治して欲しかった。世の中には神秘のままでいい事もあるのだから。


 そんな僕の様子に気が付かないコアさんは新たな術式を書き込み作業を続ける。


「どうやらこのダンジョンコアの元となった宝玉は容量が少ないようですね。治すにしてもそこまで良質なものは造れないでしょう」

 コアさんはそう言うがダンジョンコアの輝きはコアさんが手を加える度に強くなっていく。

 もう既に初めの状態と比べ物にならない。コアさん凄い。


 僕も術式を調べてみた。

 コアさんが僕の一部となった事で手に取るように解る。


「ゴブリン特化のダンジョン?」

「はい、そのようですね。異なる性質を折り込むと術式の術量が大きくなってしまうので、容量の小さなダンジョンコアにはよく使われる手法です。

 このダンジョン、その辺りはしっかりしているのに術式自体の無駄が多すぎるのですよね」


 コアさんはそう話している間にもてきぱきと作業を続ける。

 僕も手伝おう。

 基本術式はコアさんが修正しているので、邪魔をしないようダンジョンの仕様を少し弄る。


 ゴブリン特化のダンジョンと言うところは変えない。ダンジョンコアの依り代としているものがそもそもゴブリン系の魔物の魔石のようで、変えると大きく燃費が悪くなる。

 この辺りはコアさんの言う通り上手く出来ている。しかし本当に基本が出来ていない。コアさんがこれまで修正しただけで格段に能力が上がった。

 これならゴブリン以外にもゴブリン系の魔物なら大抵は出現させられるだろう。


 誰が書いたのか解らないが丁度“ゴブリン全集”と言う本が有ったので、読みながら出現するゴブリンを決める。


 まずはゴブリンキングとゴブリンクイーン。

 特筆すべき点はゴブリンを大量に産み出せる事だ。これでダンジョンのエネルギーを消費せずにゴブリンを殖やせる。

 うん? 名前が若干違う。まあいいか。


 エネルギーの代わりに食糧が大量に必要だそうなので、不味いが栄養だけはあり繁殖力も強いゴブリン兵糧大根をセットで自然出現するようにする。

 繁殖力の強い植物は少ないエネルギーで出現させられるようなので丁度いい。


 次はゴブリンベビーシッター。

 なんとただでさえ成長速度の早いゴブリンの成長を早める事が出来るそうだ。このゴブリンがいればキングとクイーンの子を即戦力にする事が出来る。

 かなりの稀少種らしいがダンジョンには関係無い。問題なく出現させられる。


 そしてゴブリンアーキテクトにゴブリンスミス。

 ゴブリンの建築家とゴブリンの職人であるこの種が居れば、これまたダンジョンのエネルギーの消費を抑えて設備を増やせる。


 後はゴブリンネクロマンサー。

 ゴブリンの死霊使いだ。弱いゴブリンは簡単に倒されるので強い戦力になる。


 他には面白そうなのを適当に決めてと。


「コアさん、どのくらい作業が進んだ?」

「もう少し待って下さい……出来ました。修理完了です」


 原型をほぼ留めていないが無事に終わった。

 良いことした後は気持ちが良い。


「では魔物が出現しない内にここを発ちましょう」


 僕達は再びアンミールお婆ちゃんの元を目指して飛んだ。

 今度はコアさんを先頭にして。




 僕達はアンミールお婆ちゃん達の元に到着した。


「アーク、この学都はどうでしたか?」

「色々な人が居て面白かったよ。変な人も多かったけど……」

「……そこは慣れるしかないです。楽しんでください。それにしても早く戻って来ましたね?」

 複雑な僕の心情を汲み取ってくれたのかすぐに話を変えてくれた。単純に何かを誤魔化したいだけかもしれないが、ありがたく乗せてもらおう。


「皆泣き出してお店も何も機能しなくなったんだよ。だから戻って来たんだ」

「確かにそれではつまらないですよね」

「アンミールお婆ちゃんはあれの原因知ってる?」

「あれはアークのスピーチの為の馴らしですよ」


「……ん?」

 よく解らないが聞捨て出来ない単語が聞こえた。


「スピーチ? 僕の?」

「はい、アークのスピーチの為の馴らしです。ほら新入生代表として、全校生徒の前でスピーチするじゃないですか」

 やだな~惚けちゃって、とでも言うかのようにアンミールお婆ちゃんは言う。


 ……はっ!? 僕が全校生徒の前でスピーチ!?


「本当に?」

「あれ? 聞いていませんでしたか? 村の皆もやっていましたよ」

「…………僕を殺す気? ……そもそも何も考えていないよ……」

「そう言いつつ皆やり遂げたので大丈夫ですよ」


 僕が絶望に近い精神状態でいるのにアンミールお婆ちゃんは相手にしてくれない。

 僕は周りに助けを求める。


「アーク、応援してるからね。カメラ何台用意しようかしら?」

「儂が特性のカメラを創ろう。なんせアークの晴れ舞台だからの」

「ううっ、アーク、立派になって……」

「アンミール、特等席の用意は出来ているかい? 一緒に観ようね」


 駄目だ。全く宛に出来ない。

 それどころか出来ないとも言い出しにくい展開だ。


 ここはコアさんに助けを求める。


「頑張ってください」

 完全に人事だ。


 もう、何か食べて現実逃避でもしていよう。





 《用語解説》

 ・個人用ダンジョン

 アンミール学園関係者しか使われない言葉。

 ダンジョンの力を利用した領域や道具で、正確にはダンジョンでは無い。

 建築科の生徒がよく造る。



 ・スリーピーアリエス

 羊型の魔物。

 羊を可愛らしくキャラクター化したような姿を持つ。

 その毛は寝具の上質な素材となり、飼育される事もある魔物である。

 肉も優しい味で旨いのだが、その外見から狩られることは少ない。特に飼育されている個体に関しては、非難が集中するので飢餓にでもならない限りまず肉になることはない。


 非常に温厚な草食性の魔物で、単体での危険度はゴブリン以下だ。

 しかし襲おうとすると睡眠系の魔法を仕掛けて来るので、魔物が闊歩する土地では非常に危険だ。スリーピーアリエス自体に襲われなくても他の魔物のエサとなるだろう。

 このため肉体的にも社会的にも戦闘は避けるべき魔物である。



 ・大罪スキル

 スキルであってスキルでない強大なスキル。

 基本的に同じ大罪スキルは世界に一つしか存在しない。所有者が居ない時代もあるので超激レアスキルである。


 特筆すべき点は人の身で人を越えられる事だ。

 特定の行為による“カルマ”の加減が無くなる。


 獲得条件は不明な点も多いが、世界に認められれば良い。

 世界で一番その大罪を犯した者が獲得出来る訳ではない。



 ・レクスリーエ

 英雄譚(ライトサーガ)【怠惰な召喚士】の舞台となった地。



 ・アンミール学園連盟国

 アンミール学園をトップとする国。

 正確には幾多もの国々の集合体。しかしアンミール学園が政務の全てを決定する事が出来るので、実質は国が市町村の立場にある超巨大国家である。

 国民全員アンミール学園の卒業生と言う驚異的な超人達の国だ。

 国力は国の基準がアンミール学園連盟国ならば他に国は無いと断言できる。


 しかし国民一人一人の力が強大で子孫を作る必要がほぼ無い為、極度の少子化に悩まされている。

 特に最近では遺伝的な要素もあり国民同士ではほぼ子供が産まれない。その為他国から来た学生と結ばれる事が奨励されている。学園の選択授業にお見合いがあるほどだ。

 他国に出る若者も増えている。因みに逆は無い。相手の事を考えて……国民がアンミール学園の卒業生なのだから仕方がない。


 他に最近の出来事では植物が異常な成長速度を持つようになったとか……ユートピア村の影響を強く受け続けてきた国でもあるのだ。



 ・魔物

 ダンジョン等から出現する人類の敵。

 魔石と呼ばれる核を中心に身体が構成されおり、倒す方法は他の生き物とほぼ変わらないが、魔石を破壊すれば消滅し魔石を破壊しなくても死亡すれば消滅する。

 稀に消えない部位はドロップアイテムと呼ばれ、様々な素材として利用される。


 ダンジョンの外等で長時間活動すると魔獣になる。


最後までお読み頂き、ありがとうございます。

申し訳ありませんが、前書きでも書いたように次回も更新が遅くなるかもしれません。

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