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第三話 友達あるいは誕生

 


 何故かコアさんに変な反応をされたが、僕は夕食を再び食べることにした。今度は軽く料理するつもりなので神殿(?)の外に出る。

『あそこは神殿ではなくわたくしだったダンジョンのコアルームです。神殿と思って頂きありがとうございます』

 おっ、コアさんが説明してくれた。なんだかんだコアさんは僕をサポートしてくれる。優秀やら完璧やらはさておき良い人(?)であることは確かなようだ。


 外に出た僕はまず“永久の灯火”と呼ばれる永久に燃え尽きない木の枝を無限収納から取り出す。見かけはただの枝だ。燃え尽きないだけで火が消えない訳ではないので今は火が付いてない。

 因みにもちろん僕が育てた木だ。品種改良をして息を吹きかける以外では火が消えないようにした。この木は火さえ触れさせればすぐに火が付くから何処でも使える素晴らしいものに仕上げられたと思う。


 そういえば何故か村の皆は品種改良したことよりも“永久の灯火”を育てたことを褒めてくれたけどなんでだろう?

『それはおそらく“永久の灯火”の育成が困難であるからだと思われます。その為、品種改良の難易度等がそもそも解らなかったのでしょう。わたくしの宝物記録にもその木の情報が有りましたので素晴らしい偉業だと思われます。

 さすがわたくしのマスターですね。わたくしに似て優秀で素晴らしいです』

「……ありがとう」

 なんだか最後の方に納得がいかないが褒められたので素直に受け取っておこう。


「“火種”」

 僕がそう唱えると人差し指から少し離れたところに小さな炎が現れる。生活魔術の“火種”だ。

 僕が指先を山型に積んだ永久の灯火の枝に向けると、炎がそちらに飛んで行き火が灯った。


 “火種”以外にも生活魔術には“点火”という魔術もあるのだが“点火”は物を直接燃やす魔術で、練習した時に気合いを入れすぎ大変なことになったので、それ以来使わないことにしている。

 “火種“はどんなに気合いを入れても火種の温度が上がるぐらいしか起こらないので愛用している。

『“点火”で一体何をしでかしたのですか?』

「聞かないで……」

『?』


「と、ところでさっき能力値の説明で豊穣と食事がなかったから料理を作っている間、軽くでいいから説明して欲しいな」

 コアさんがしつこく聞いてきそうだったので僕は話題を変えた。少し強引かもしれないけど多分コアさん相手なら十分な気がする。


『マスターが望むのであればもちろんご説明したいのですが、能力値アビリティに豊穣や食事というものは存在しませんよ』

「えっ!? ないの? さっきステータスに書いてあったよ」

『それは見間違いではないでしょうか? 優秀なわたくしならともかくマスターなら十分あり得ます。そんなマスターの為にわたくしは存在するのですから気にしないでください。自分の優秀な能力に劣っていても恥ではありません』

「…………『『『『『“罰するよ?”』』』』』」

『ヒイィィーーー、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って、く、く、ください。ほ、ほらステータスを出しました。ご、ご確認ください』

 少しイラッとして訛りが混じった低い声を出してしまった。注意しなくては。……コアさん怯え過ぎだよ。

 とりあえず僕はコアさんが出したステータスを見る。



 名前:アーク以下略

 種族:過超人オーバー・ハイヒューマンLv1

 年齢:12

 能力値アビリティ

 生命力 1200/1200

 魔力 830/830

 体力 1500/1500

 力 1

 頑丈 1

 俊敏 1

 器用 1

 知力 1

 運 1200

 豊穣 25

 食事 12


 職業ジョブ:生命士Lv4、時空間魔法使いLv26、ダンジョンマスターLv1


 権威オーソリティ:農家、大農家、庭師、造園家、植物学者、生命学者、操植士、操植師、創植士、創植師、創植主、豊穣士、豊穣師、豊穣主、

 大食い家、美食家、料理人、貯蓄家、貯蓄主、食士、食師、食主、

 空間魔術師、時間魔術師、時空間魔術師、空間魔法使い、時間魔法使い


 固有世界ダンジョン:無限収納Lv1、豊穣Lv1


 魔法:時空間Lv5


 加護:境界の超越者の愛、高原の守り人の加護、超越者の加護


 スキル:

 〈固有スキル〉

 世間知らずLv5

 豊穣Lv10

 創植Lv2

 食事Lv10

 千里眼Lv1

 世界創造クリエイト・ダンジョンLv1


 〈パッシブスキル〉

 貯蓄Lv6

 過食Lv4

 呼吸Lv1

 光合成Lv1


 〈アクティブスキル〉

 操植術Lv5

 生活魔法Lv2

 鑑定Lv9

 料理Lv2

 付与魔法Lv2

 魔法道具作成Lv2

 時空間魔法Lv3

 重力操作Lv2


「……やっぱりあるけど……」

『へっ? そんな馬鹿な……ありますね。も、も、申し訳ありませんでした』

「……まあいいよ。ところで豊穣と食事が何だか解る?」

 どこについて僕がイラッときたのか、コアさんが理解できたか判らないがとりあえず許しておく。


『ありがとうございます。豊穣と食事については、おそらく効果は名称に近いものだと思われますが、詳しいことは解りません。ただ、通常は存在しない能力値アビリティです』

「普通はないのに何で僕にはあるの?」

『推測ですが、スキルの最大を超えてしまったからだと思われます。スキルレベルは最大10ですので』

「スキルがレベル10を超えると上位スキルになるんじゃないの?」

 スキルはレベル10を超えると上位スキルと呼ばれる強力なスキルに覚醒する。超人と呼ばれる人物は必ずと言っていい程これを持っていて、英雄譚ライトサーガにたびたび登場する凄い存在だ。


「あれ? もしかして僕には上位スキルに覚醒する程の力がなかったから能力値アビリティにいったってこと?」

『いえ、違うと思われます。スキルはその技能を伸ばすことでしか上げることが不可能です。一方、能力値アビリティは先程ご説明した通り、職業ジョブレベルや種族レベルが上昇する度に必ず上がります。このことから豊穣と食事の能力値アビリティはスキルの上位に存在していると考えられます。

 実際に【剣】の二つ名で知られていた大英雄のステータスにも、通常は存在しない能力値アビリティの“剣”があったと記録にあります』

 【剣】の大英雄の話は英雄譚ライトサーガにもあるから僕も知っている。確かにそんなことが書かれていた。かなり有名な英雄譚だと思う。なんてったって【大人災】の一つ【斬】を生み出した人の話だ。

 でも尚更僕の能力値にあるのは実力不足のせいだと思う。大英雄と並び立つような力が僕にあるはずがない。

 それに実際、僕の農業の腕はまだまだだと思うし、食事に関しては絶対に……そう絶対にスキルの枠を超えるようなことはないと思う。僕はそんなに食いしん坊じゃないからね。モグモグ、ムシャムシャ…料理の準備しながら食べる果物も美味しいな。


『……残念ながらマスター特に食事の能力値アビリティについてはスキルの枠を超えていると思いますが……』

「モグモグ! ムシャムシャムシャ!(失礼な! 僕の何処が食いしん坊だって言うんだ!)」

『食べながら話さないでください。逆に何処をどう考えたら食いしん坊じゃないと言えるのですか。そもそもスキルに食事関連のものがある時点でマスターの食い意地が凄いことは決定しています』

「ムグッ、ムシャムシャムシャ!(うっ、食い意地なんかはってないよ!)」

『そう思って欲しいのならまず、口の中にあるものを飲み込んでください』


「ゴクン、と、とにかく僕は超人を超えた超人レベルの存在じゃないからスキルの枠を超える程食いしん坊じゃないよ!」

 何はともあれ僕は超人じゃないからスキルの枠だけは、超えていることがない筈だ。それなら僕はただの食事スキルをカンストさせただけの少し…ほんの少し食いしん坊な一般人。これでコアさんも納得するだろう。

『そもそもマスターの種族は過超人オーバー・ハイヒューマンですので、すでに超人の枠を超えていると思うのですが』

「あっ……」

『もしかして豊穣と食事の能力値アビリティを持っているからマスターの種族が過超人オーバー・ハイヒューマンになったのでは……』

「……」

 もう何も言うのを止めよう。モグモグ、ムシャムシャ……あー豊穣がスキルの枠を突破できて嬉しいな。



「…そういえばコアさんはどんなことができるの?」

 コミュニケーション能力が低く、空気を読まずに僕の傷ついた心に追い打ちをかけてきそうなコアさん対策に僕は話を変えた。

 もう僕がとんでもなく食いしん坊なことを認めるしかないが、せめて心を落ち着ける時間が欲しい。


『申し訳ありませんでした。まだわたくしについてのご説明をそんなにしていませんでしたね』

「ん? そういえばそうだったね」

 まだコアさんについては来歴ぐらいしか知らなかった。結構大切なことをすっかり忘れていた。いつの間にかコアさんと呼んでいるけど名前すら聞いてない。


『何ですかその反応は? マスターからご質問なされたのに』

「そんなことよりコアさんの名前を教えてよ」

『いいですけど…』

 話題を上手く変えられたことに安心して、今気が付いたという態度を出してしまった。

 コアさん相手で良かった。すぐに誤魔化せられるからね。普通の人に対してのコミュニケーション能力を磨かなくては。


わたくしの名前はダンジョンコアです』

「…そのままなんだ。それって名前でいいの?」

『それでわたくしと今まで判別できたので良いのかと』

「やっぱりコアさん相当なボッチなんだね…」

『ちょっ!! 何でそうなるのですか!?』

「だって呼ばれなかったから、それで済んだんでしょう?」


『うっ、とにかくわたくしはボッチではありませんから! マスターの方こそボッチなのではありませんか?』

「なっ! 僕には村の皆がいたからボッチじゃないよ!」

『マスターの村の皆様はマスターのお友達なのですか?』

「と、友達ではないけど…とにかく僕はボッチじゃないよ! ただ…周りに人がいなかっただけだよ!」

『それを言うならわたくしも周りに会話できる存在がいなかっただけです! 見苦しいですよマスター、諦めてボッチだと認めてください』

「コアさんこそ、諦めて認めなよ!」


「…………」

『…………』

「…不毛だね」

『…不毛ですね』

「…………」

『…………』

 僕は豊穣を愛する存在、不毛なことは嫌いなのだ。



「そうだコアさん、僕の友達になってよ。そうすれば二人共ボッチじゃなくなるしさ! あっ! ぼ、僕はボッチじゃないけれど」

『……わたくしでよければ喜んで、これで二人共ボッチじゃなくなりましたね。あっ! わたくしはボッチではありませんでしたが』

「これで豊穣だね。改めて、これからよろしく!」

『こちらこそ宜しくお願いします!』

 きっと今の僕は満面の笑みを浮かべている。そしてコアさんも、姿があるのなら同じ表情を浮かべているだろう。

 能力とその主という不思議な関係だけど上手くやっていける、そう確信できた。


「せっかくだから記念にコアさんの名前を考えてあげるよ。どんな名前がいい?」

『ありがとうございます。そうですね~わたくし、実はコアさん呼びが気に入っておりましたので、そう呼べる名前にして頂きたいです』

「そうなんだ、じゃあダンジョンコアだから同じく世界を造れる世界樹の名前からとって、ユグドラシル、トネリコ、エクセルシオール、エクセルシア、うーん、コセルシアってのはどう?」

『はい! 気に入りました。ありがとうございます。』


「『っ!?』」

 僕が名付け、コアさん…コセルシアがそれを受け入れると同時に、僕の中の何が離れ、そしてその何かが元より強く繋がるような感覚を感じた。

 コセルシア…コアさんの反応からして、コアさんも何かを感じたのだろう。

 何故か僕の中から離れ、そして元に戻って来た何かがコアさんだと確信が持てる。


「…コアさん、今何が起きたのか判る?」

『はい、恐らく先ほどまでマスターの一能力に過ぎなかったわたくしが、マスターに“友達”と認められたことで一つのマスターとは異なる存在と半ば化したのだと思われます』

 コアさんは初めて出会った時より、遥かに人間みたいな口調でそう答えた。

 出会ってからだんだんと柔らかい口調に成っていたが、名前を付けて一気に変わっている。異なる存在に成ったとはどういうことかよく解らないが、大きく変化したことだけは確かなようだ。


「それで何が変わったの?」

『実を言うとそこまで変化していません。先ほどまで魔力や生命力等は全てマスターから頂かなければ使えなかったのが、わたくし単体でも魔力や生命力等を生み出し、それを行使できるようになっただけです』

「そうなんだ、でも口調が変わったのは何で?」

 魔力、生命力が生み出せるようになっても口調が変わるとは思えない。それに今の感覚はその程度のことで感じるものではないと思う。


『口調が変わってましたか?』

 そもそも気付いていなかったようだ。

「結構変わっているよ。なんというか人みたいな口調に成った」

 何故、最初は人ではない口調と感じ、何故、今は人みたいだと感じているのかは解らないが、確信を持ってそうだと言える。


『うーん、判りませんね~。魔力、生命力が創れるようになった以外は姿を持てるようになったぐらいですからね~』

「……コアさん、絶対それに関係があると思う。…と言うか一番大きな変化、多分それだよね!! 何で説明するまでもない些細なことみたいな扱いしてるの!?」

 僕はコアさんに呆れ唖然し、立ち直ると一気に突っ込んだ。


 外から見るときっと僕が一人芝居しているように見えるだろう、恥ずかしい。コアさんの姿はないからね……いや、多分他の人にコアさんの声は聞こえないだろうから一人芝居より酷いか……。

 あ、そう言えば今までもそうだ……人が居なくて良かった。

 コアさんには早いところ姿を見せて貰おう。


『え、そんなに大切なことでしたか?』

 コアさんが今気が付いたというような口調でそう言った。コアさんは本気で姿を持てることをどうでもいいと思っているようだ。

「大切だよ、今すぐに姿を出せる?」

『はい、すぐにでも出せますよ』

 コアさんは当たり前のことのように言った。


 僕は自然と笑みを浮かべていた。そしてこんなやり取りでも、何だかんだ楽しく感じていることに気が付いた。

 きっと、友達という意識を持ったからだろう。最初の方から同じ気持ちだったのを、初めて気が付けたのだと判った。



 このまま話題を発展させるのもいいけれど、今は好奇心が勝っているからこれ以上突っ込むのは止めよう。冷静になってくると、コアさんの姿が凄く気になる。

 性別は? 髪や目、肌の色は? 体型は? そもそも人型?

 好奇心が止まらない。


『では、姿を見せますね』


 コアさんがそう言うと同時に僕の前方、ちょうど人一人の全身が見える位置に、やや透けている姿が現れた。


 性別は判らない。僕と同じくらいの年齢に見えるから、まだはっきりと判らないだけかもしれないけれど、それを抜きにしてもかなり中性的な外見だと思う。と言うよりも性別がないように感じる。

 最も美しい人間を創れ、と世界最高…いや、史上最高の腕前を持つ芸術家に創らせたようだ。


 髪と瞳は美しい黒色をしている。そこまで濃くない、どこか銀を感じさせる色だ。

 髪は肩を過ぎる程度に長く、一本に纏めている。

 肌は色白で瞳と髪の色を引き立てていた。


 服装はよく解らない。どこか執事のような格好だが、神聖な雰囲気を感じる、そんな服だ。下半身の部分がロングスカートのようにも見えメイドのようだとも言える。


 全体の印象をまとめると、世界の管理人と言った感じだ。

 ダンジョンだったからかな? コアさんの中身を考えるともったいない外見だ。


『何か失礼なことを思ってないですか?』

 コアさんの姿が口を動かしながらそう言ったが、音としてではなく、頭の中に直接伝わってきた。

 少し透けているし、姿は声を出せないのかもしれない。


「そんなことよりもコアさんの姿、とても素敵だね」

 妙なところだけは鋭いコアさんを誤魔化しつつ、僕は正直な感想を述べた。

 具体的にどこがどういいかは、まだうまく理解しきれていないが、そう思ったことは確かだ。

『ふふふ、ありがとうございます。ですが実はこの姿、マスターのお姿を元にしたものなんですよ』

 コアさんが嬉しそうに頬をほんのり赤く染めながらそう言った。肌が色白だからよく判る。

 本当に出会ったと比べて変わった。口調も仕草も反応も、完全に人に見える。


「僕の姿って、そんな感じなの?」

『……え、マスターは御自分のお姿を知らないのですか?』

 コアさんは僕の言葉を聞いて固まった後、ひどく驚いた表情でそう言った。

 何でそんなに驚くのだろう?


「僕は高等な生活魔法の“現身”何て使えないよ」

 自分の姿を見るとなると、僕が知っている中ではこの魔法ぐらいしかない。ただ、この魔法はかなり難しいし、そもそも自分の全身を見て、身嗜みを整える為の魔法、主に女の人が習得する魔法だ。

 だから僕が使えないのは薄々判っているはずなのに、何であんなに驚くのだろう?


『…鏡を見たことがないのですか?』

 コアさんが呆れたように言う。

 何で呆れるのだろう?

「いや、流石に僕だって鏡ぐらい見たことあるよ。鏡って世界とかいろいろなものを覗く為の道具でしょ。それと僕の姿がどう関係あるの?」

 僕は解らないという態度で答える。

 もしかして普通は鏡で自分のことを覗くのかな? 世界を見渡せるからそのくらい出来そうだ。


『……わたくしの認識が間違っていなければ鏡は主に自分を写し見る為の道具だったと思うのですが』

 コアさんはまた固まってからそう言った。口が半開きで間抜けな表情になっている。

「え、でも僕の村にはそんな鏡なかったよ。コアさんの勘違いじゃない?」

 他に僕の村にある鏡といえば、写し出した場所に移動出来る転移用の鏡や、写し出したものを増やせる鏡ぐらいしかない。


『マスターのお好きな英雄譚ライトサーガにもよく表現があるではないですか。“鏡の前で身嗜みを整える”や“鏡に写った自分は転生前と大きく異なっていた”等が』

「それって英雄の鏡だから特別って分けじゃなかったんだ……」

 今度は僕が口を半開きにして間抜けな顔になった。

 衝撃の事実だ。英雄の持っている鏡は自分を写すものばかりだな~と思っていたが、それが普通の鏡だったようだ。

 ……何で僕の村には変な鏡しかないのだろう?


『そもそも他にも自分を見る方法など、幾らでもあると思うのですが……』

 コアさんは呆れ顔のまま、溜息を吐くかのように顔を下に向けた。

『何故、全滅しているのですか!? それにわたくしは“現身”等と言う生活魔法を知らないのですが、相当特殊なものですよね! 魔術でしたら氷魔術や光魔術で簡単に自分の姿を見れますから! と言うか〈千里眼〉で見えるはずです!! 何故、マスターは今まで御自分のお姿を知らなかったのですか!?』

 顔を上げたと思ったら、此方に近づき一気に突っ込んできた。

 近いし怖い。


「コ、コアさん、落ち着こう。健康に悪そうだよ。それにそれ、僕のせいじゃないからね。豊穣にいこう、豊穣に」

 コアさんをなだめようと肩に手を置こうとして、手がコアさんの姿を透けていったのには驚いたが、なんとかなだめることに成功した。

『すいません、取り乱してしまいました』

 そう言うとコアさんは乱れた髪型と服装を整え始めた。透けているのにどうやって乱れたのだろう。手も使わずに髪と服が独りでに動き整っていく。

 僕のこと散々突っ込んでいるけど、コアさんも十分突っ込まれる側だと思う…。


『本当に見たことがないのですか? 鏡や〈千里眼〉を抜きにしても、自然と水や金属に写りこむことがあると思うのですが?』

 解らないという表情でコアさんが言ってきた。

「本当に見たことないよ。それに水にも金属にも自分の姿なんて写らないからね。どうやったら見れるの?」

 僕も解らないという表情で返す。

 いったいどこをどうしたら写るんだ?


『いや、なにもしなくても写りますからね! マスター、水でも金属でもいいので出してください』

 コアさんがまたもや呆れた表情でそう言った。目が半眼になっている。僕、何か疑われるようなことした?


「分かったよ。え~と、どこにいったかな~。あ、あった」

 僕はちょうど金属で創られた、無限に水を生み出すことができる“水杯”を持っているので、無限収納から取り出した。

 これは水筒替りに持たせてくれたもので、魔力もなにも使わなくても水がで続けるすぐれものだ。魔力等を込めるといつもより多く出せるし、ある程度水質を変えることもできる。

 欠点は水を止められないことぐらいしかない。昔は止められたみたいだけど、いつの間にか老朽化して壊れてしまったようだ。僕は無限収納に入れられるので問題ない。


『…………もう突っ込まないでおきます。とにかく、水でも金属部分でもいいので見てください。マスターのお姿が見れますよ』

 何故か疲れた様子でコアさんは言った。僕、何か変なことした?


 僕はコアさんに言われた通り“水杯”を見た。この杯はコップやグラスとは違い、液体を入れるような形状をしていない。自然がモチーフの美しい装飾が施された持ち手の上に、小皿のようなこれまた美しいものが乗っかっている。

 材質は理解できない金属で、神秘的で深い雰囲気を出している。


 この杯の中に僕の姿を探すがどこにもない。

 水杯から溢れ続ける水は清く冷たく、星のような光を発している。見れば見るほど吸い込まれそうだ。

 水杯自体も星のような光を発し、あらゆるものを惹き付けそうな雰囲気を出している。村の皆が代々使ってきた相当古いものだが、曇り等一切ない。


「……ほら、なにも写ってないよ」

 僕はコアさんに手招きしながらそう言った。

『そんな訳……ありましたね。…何ですかこの水と金属?』

 コアさんは水杯を見て固まっていた。

「何って普通の水と理解できない金属だけど?」

『どう見ても普通の水ではありませんし、理解できない金属って何ですか?』

 コアさんが再び突っ込んできた。たださっきよりもなんだか突っ込みに力が入っていない。なんでだろう?

「いや、僕に聞かれても。村の水は全部こんなのだし、金属は他のも村にあったけど僕の姿なんて写らなかったよ」

 理解できない金属に関しては解らない。だから理解できない金属なのだ。


『…もういいです。わたくしが鏡を用意します』

 疲れた様子でコアさんがそう言う。何で疲れているのだろう?

『“クリエイト・ミラー”』

 コアさんがそう魔術の名前を唱えると、僕の中のコアさんから魔力が身体の外に流れ、前方の地面に魔法陣を生み出した。

 まるで僕がこの魔術を使っているようだ。コアさんの姿って姿だけなんだ……。


 魔法陣からはゆっくりと、僕の横幅より直径の長い、真円の鏡が現れた。それを持った人と共に……。





 《用語説明》

 ・永久の灯火

 炎を付けても決して燃え尽きることのない木。

 炎のような葉を持つカエデの一種であり、紅葉した時に自然と落ちた枝が最も強い力を持つ。紅葉した葉は夕陽のような輝きを放ち、尽きない明かりとして利用できる。


 点火した炎をその性質のままで保ち続けることができ、一度付いた炎を消すには神ですら滅びを覚悟しなくてはならない。


 遥か太古の神代に、太陽神はこの木で神車(太陽)を創り、その神車(太陽)は永きに渡り、世界を照らし続けた。

 当然、創世級の価値がある。

 決して、薪として使用するものではない……。



 ・魔術

 魔力を用いた様々な現象具現化の技術、その多くを示す。

 魔術は主にその魔術への適性、詠唱や魔法陣等の魔術式、そして想像力によってその精度・威力が決まる。


 魔術式さえ正しければ、誰でも魔術を発動することはできるがその難易度は高い。

 魔術に適性がある者が発動する場合、詠唱や魔法陣が略式でも済み、そもそも魔術式を完全に理解しているものが少ないからだ。そして知っていても高等な魔術に成れば成る程、魔術式は複雑に成り、詠唱はともかく魔法陣は学者でもなければ再現することは難しい。


 学者に成れる程の適性があれば、その適性と魔術の適性は非常に近い為、鍛練を積ねで略式の発動ができる。相当な難易度の高等魔術でしか、この方法は用いない。

 その為、この方法で魔術を使うのはほとんどが魔術を自力で発動できない者達で、事前に専門家により難解な方の魔法陣を用意してもらい、詠唱だけを覚え発動している。


 ただ、基本的な魔術式は既に解き明かされ、魔術を覚える為の教材となっていることが多い。実際に発動して感覚を覚えるのだ。

 生活魔法の魔法陣等は、日用品と共に売られていて、そこから魔術を覚える者がほとんどである。

 尚、魔法陣は特殊な魔法道具でもなければ、一回の使用で消耗し、消えてしまう。

 また、魔法陣は魔力の籠ったものでなければ書けない。



 ・魔法

 魔術等を発動する際の適性を表す。主に属性等だ。

 ただ、日常会話等では魔術のことを魔法と呼ぶことが多々ある。特に生活魔法や治療魔法等のようにスキル名に魔法とあるものは、本当は魔術であるのだが魔法と呼ばれる。

 因みにスキルの〈~魔法〉は、魔法属性を得ている者と同等の魔術を、~に関連するものに限り発動できるスキルである。この為、スキル名が魔術ではなく魔法となっている。


 ステータスの魔法項目には属性ごとにレベルが有り、このレベルが高い程、その属性の魔術をより強力に、より簡単に発動することができる。魔法が高レベルであれば魔術式を使わず、イメージと魔力だけで魔術を行使することも可能だ。



 ・水杯

 常に“水”が溢れ続ける杯。


 決して水筒として使用するものではない。









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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初は誤字かと思いましたが何度も出てくるので… 「僕の性じゃないからね」 と、○○のせい、という場面でハイセンスな覚え違いをしているようですが、漢字で書きたいのなら性ではなく所為です。…
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