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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第2章 〈アンミール学園入学〉あるいは〈都会生活の始まり〉

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第二十二話 初めてのトイレあるいはスキル授与

 

 同級生君の意識がハッキリし出した。


「ハァ、ハァ、ハァ、ンッ、何だこれ、ハァ、トイレは何処だー!?」

 第一声はこれであった。

 惚れ薬で腹を下したのだろうか? しかし前を押さえている。利尿作用でもあったのかな?


 同級生君、ステータスによるとミラス君はトイレを探して駆けて行く。

 そう言えば僕はトイレに行った事が無い。都会に来たのだし英雄譚(ライトサーガ)にも良く書かれているトイレとやらに行ってみよう。基本知識しかないので楽しみだ。


 惚れ薬を作った先輩もミラス君について行くようだ。

 他の先輩達は新たな獲物を探しに散らばる。


「コアさん、ミラス君の後をつけよう」

 僕はいつも通り元気になったコアさんに話しかける。

(わたくし)はトイレに行った事がありませんが、トイレとは尾行して入ってはいけない場所だと思うのですが?」

「僕も入った事無いけど大丈夫だよ。トイレに行かない人はいない、だから我慢するな文句言うなって異世界では言われているみたいだから」

 異世界の小学校の先生が良く言う言葉らしい。


「それ、絶対に違う意味だと思いますよ…」

「そんな事気にしてたら何時までもトイレに行けないよ? 別に必要な場所じゃないんだから」

「……解りました。行きましょう」



 見失わないように僕達は飛行する。

 そこまで高く無い所から俯瞰する景色もなかなか良い。日常といえる何の変哲もない人の流れを見る、今初めてやった事だが僕はこれが好きだと確信した。とても安らぐ。

 さっきまではこれに気付かずただ全貌だけを視ていた。損した気分だ。これからは細かく視ていこう。


「コアさん、トイレを我慢して走る人って良いよね」

「急にどうしました? 性格悪いですよ」

「そう? 人間味が有るって言うのかな? 世界が動いてるって気がするんだよね」

 まだ上手く言葉に出来ないので曖昧だが、思ったままの事をコアさんに伝えた。


「ああ、そういうことですか。(わたくし)はついマスターが人の不幸を喜ぶ方なのかと思いましたよ。確かに景色の一部として視ると良いですね。(わたくし)も好きです」

 コアさんは共感してくれていたようだ。嬉しい。また一つコアさんが近くなった気がする。


 しかしどうやら僕達の間には認識の齟齬があったようだ。

「どうしてトイレを我慢して走るのが不幸な事だと思ったの?」

「本の知識ですよ。なんでもトイレを我慢するればする程、精神的にも身体的にも相当追い詰められるとか? 生物にとって当然の事だそうです」

 そう言えば僕もそんな文章を読んだことがある。しかしトイレに行った事がそもそも無いのだから理解出来ない。


「何で追い詰められるのかな? 少なくとも僕はそんな経験無いけど?」

(わたくし)も無いので詳しくは解りませんが、恐らくは多くの方々が嗜む趣味のようなものなのでは? 禁断症状が出る事のある娯楽なのですよきっと」

 このコアさんの推測で僕の疑問は晴れた。


「確かに糞尿って肥料だったね。僕もトイレはした事無いけど、肥料を調合するのは好きだから気持ちが解るかも」

 都会でも農業が流行っているようで良かった。

「肥料作りだからって趣味にしているかは判りませんが、起源は農業かもしれませんね」


 そうこう会話している間にトイレが見えてきた。

 色々なトイレにまつわる彫刻だらけの建物なのですぐ判る。水の流れと白い大理石が合わさり清潔な雰囲気の建物だ。


 入口は二つ存在し、トイレの女神ウォッシュレーテの石像が別けている。

 石像の下にはトイレ研究部寄贈と書かれていた。


 トイレから出てくる人は殆どがすっきりとした表情。

 コアさんの推測通り、トイレは娯楽なのだろう。

 だとすると利尿作用や腹下しとやらは技か何かなのであろうか?


 しかし逆にトイレに入って行く者には、鬼気迫る表情で走って中に入る者がいる。

 全身から汗を噴き出し歯を食い縛り、目は血走っている者までいた。……女の子がその顔をしてはいけないと思う。後、進路上の人を吹き飛ばしてはいけない。

 これ程までに中毒性がある娯楽なのだろうか?


 ミラス君は吹き飛ばされながらも、すぐに立ち上がってトイレに突入した。

 兎も角僕達も入ろう。僕達はミラス君を追う。


 中では予想と違って文字には出来ない汚い音が響き渡っていた。防音魔法を使って欲しい音だ。

 臭いも変わっている。過剰に花の匂いを強くしたものだった。僕は好きじゃない。

 しかしここに居る殆どの者がすっきりとした表情だ。何が良いのだろう?


 見ると人々は扉で遮られた個室と、白い大理石で作られた水の流れる容器の方へ別れて進む。

 あの容器が便器だろうか? 何処か清潔感のある彫刻が彫られていてキレイだ。芸術的である。


 便器の前に立った人達は腰や股間付近に手を添えていた。良く見えないが彼等がそこに立った後、水の音がする。

 手から水を出しているのであろうか? それがトイレ? 便器に水を容れれば肥料になるのだろうか?

 そう言えば異世界の本で、こんな感じの石像のイラストを見た気がする。全裸の少年の石像だ。


「コアさん、とりあえず真似てやってみる?」

「そうですね。前を隠すようにして、手から水を出せば良いのですよね?」

「多分そうだと思うよ? まあ、近くの人を見ながらやってみようか?」


 僕達は便器の前に立つ。

 体勢を真似て手から魔術で水を出す。

 …………何が良いのか全く解らない。水が肥料になったりもしない。

 間違っているのかと思い隣の人を見る。


 …………都会って本当に変態が多い。

 唯一弁護出来るのは肥料を出していた事くらいだ。


「コアさんどうだった?」

「さっぱりです。何が良いのだか? ……変態も居ますし」

 コアさんも僕と同じ感想のようだ。

 僕達に都会の娯楽は解らない。


 個室の方を今度は見てみる。

 まずはミラス君の入ったところを透視。

 あっ!?

 透視し過ぎてさっきの女の子が踏ん張っているところが視えた。両拳を握り女の子が絶対にしてはいけない表情をしている。

 ……視なかった事にしてあげよう。


 気を取り直してミラス君を視る。

 紅く高揚した顔、だらしなく開いた口に唾液、そしてトロンと潤んだ瞳……視てはいけないものを視てしまった。ささっと透視を止める。

 ミラス君だけ何だか仕様が違う。


 ミラス君の個室からは栗の花の匂いもするし?


 どう考えても惚れ薬のせいだ。

 催淫効果の一部かどうかまでは解らないが薬の影響であることには間違いない。

 しかし現時点では変になるとしか解っていない。肝心の惚れ薬の効果自体は未知数だ。

 悪いがもう少しの間は犠牲になってもらおう。


「これが惚れ薬の効果なのですかね?」

 一応という様子でコアさんは僕に意見を求めてきた。

「違うと思うよ? だって人を好きになる薬と関係無さそうだから」

 人を好きになる感情と変態に関係がある筈ない。


「やはりそうですよね。催淫効果で性欲が強くなるそうですが、これも関係無さそうですし」

「性欲は子供を産む為のものだから変態とは関係無いよ」

 そう言えば性欲はどのような形で見れるのだろうか? 花みたいに咲くのかな?



 兎も角早めに惚れ薬の効果を確認して、ミラス君の変態モードを解いてあげよう。


 その為には女の子が必要だ。

 この部屋にも個室の中にも女の子は居ないが、入口で僕達と違う部屋に入ったのを見た。透視をし過ぎた先にも女の子が居たので、恐らくトイレでは男女部屋が別れて居るのだろう。


 隣が女の子の部屋みたいだから、壁を取り払えばミラス君と女の子の接触が出来る。

 これで惚れ薬の効果が確かめられる筈。


「じゃあコアさん、壁を消そうか?」

「ミラスさんを女子生徒の方々と引き合わせる為ですね? ですが勝手に壁を取り払ったら怒られませんかね? トイレは娯楽だと思うので使用者に不都合は無いと思いますが、先生方には怒られるかもしれませんよ?」

「じゃあ先生らしき人が居ないか確認してからにしようか」


 まずはこの男子の部屋、大部屋には居ない。

 個室も全て透視する。

 ……パンツを下ろした変態達が大勢居た。

 トイレの女神ウォッシュレーテの像が吐く水を尻に浴びて、頬を紅く染める変態まで大勢居た。

 しかし先生は居ない。


 次に女子の部屋を覗く。

 女子の部屋は全て個室のようだ。


 まずは一部屋目。


「アアンッ! 今日のカイルード様も素敵ですわ! 新聞を読むそのお姿、ウウンッ! さあ、今日こそは私のモノになるマツタケ、見せてもらいますわ!」

 うん、一発目から男子の個室を覗く変質者が居た。魔人族のお嬢様っぽい先輩だ。

 壁に開けた穴から聖騎士のような先輩を覗きながら悶えている。因みに覗かれている先輩もパンツを下ろした変態だ。


 気を取り直して二部屋目。


「ンンッ! カイルード先輩を見るエリーゼお姉様、今日も素敵ですわ! あんな前のめりに覗いて! おパンツが丸見えですわ!」

 ストーカーのストーカー的存在が居た。これまたお嬢様のようなエルフ族の先輩だ。

 人の事を全く言えない同じ状態で覗いている。


 ここはあまり時間を掛けて視ると狂いそうだ。

 さっさと確認しよう。


 全体を透視しながら俯瞰。

 うん、パンツを下ろした変態ばかり……先生は居ない。


「コアさん、変態ばかりで先生は居ないみたいだね。壁を消そうか」

「そうですね。ですがパンツを下ろした変態を大勢に見えるようにして問題ありませんかね?」

「見る側の殆どが変態だから問題無いよ」

 例え問題が有ったとしても変態の事を気にかける義理は無い。寧ろ変態に都合が悪い方が世界に平穏を招くと思う。


「そうでしたね。では(わたくし)が壁を消しましょう」

 コアさんは少しずらして建物内全ての壁を消した。すぐに修復できる消し方だ。


「「「「「はぁっ!!??」」」」」

 トイレ使用者の反応はすぐに表れた。


 パンツを上げようとするが、肥料を出していたせいか上げる決断を出来ず、手で恥部を隠す。

 男子の大部屋の便器の前で立って居た人達ぐらいしかパンツをはけてない。


 便器付近で恥部を出す変態達も大勢に見られるのは恥ずかしいらしい。

 要因は色々と考えられるがほぼ全員、顔が真赤だ。


 変態達は暫く周囲を見ながら沈黙する。


 そして少しずつ騒ぎ出した。


 一部では悲惨な光景もある。


 壁に開けた穴から覗きをしてたお嬢様のようなエリーゼ先輩は、覗かれていた聖騎士っぽいカイルード先輩の股間に顔面からダイブしていた。

 どう転けたのかエリーゼ先輩の股の下には、彼女を覗きしていた先輩の顔面が挟まっている。


「エ、エリーゼ! また君か! や、止めたまえ! 何てトコロに顔を埋めているのだ!」

「ウウンッ! ほれはふはほふりょふでふわ! ンンッ! そふほふがないのでふわ! アンッ! こほはひいかおひ! ンンッ~!」

「ほ、本当に、や、止めたまえっ! 埋めたまま喋るなっ! し、震動が、じ、直にっ! そして吸うなっ!」

「エリーへおほうはまのおまは! フンハフンハッ! ンンンッ~!」


 ……僕達は謀らずも変態達の願望を叶えてしまった。

 忘れよう。不可抗力なのだから。


 全く気が付いていない先輩も居た。


「フンヌ! グヌヌ! ウオオァアアー!」

 入口付近でミラス君を吹き飛ばした女の子だ。相変わらず鬼気迫る表情で踏ん張っている。

 恐らく便秘とか言う技だと思う。

 よく解らないけど頑張って。


 また驚いてはいるがそのままトイレを続ける先輩も何人か居た。

 堂々とした態度だ。

 便器が玉座に見えてくる。


 そしてパンツを履いていない変態達の中にいて変態、変態の中の変態も居た。


「なんと言う羞恥プレイ、なんと言う快感! アンッ! 存分に見がいい! そしてお前達の荒ぶる雄で嬲るといい! ハァ、ハァ、ハァ。早く色慾を解放するのだ!」

 何故か自ら上まで脱ぐアマゾネス族の女帝みたいな先輩。招くように両手を広げる。

 因みに処女だ。


「何よアンタ達! 私の恥ずかしいところが見たいって言うの! アンタ達の思い通りになるとは思わないことね!」

 これまた自分で上まで脱ぎ始める先輩。ツンデレ系変態だ。

 因みに処女である。


「ついにワタシを襲いにきたのかしらぁ? 壁まで消しちゃって~。いいわぁ、全力で襲いなさい!」

 自ら服を脱ぐのは何も女子生徒だけでは無い。

 どうやら男女だけでは無く漢女の部屋も在ったようだ。男装女子の部屋も在った。

 それらが解放されている。


 ……プライバシースキルに〈処女喪失〉何てあるんだね。後〈童貞〉を持つのに〈童貞喪失〉を持つ矛盾している人もいた。逆も居る。

 うん、深く考えるのは止めよう。


 そしていつの間にか見覚えのある男も居た。

「全裸の香りを辿ってみればやはり!」

 温泉ジジイこと僕達の眷属ユジーラだ。

 一体どんな嗅覚を持っているのだろうか? そしてどうやって衛兵さんから逃れた!?



 暫く放心気味に惨状を見ていると、パンツを履いていないだけの変態は腰を魔術等で隠し出した。

 変態達は恥部を隠すだけで便座に座ったままトイレを続ける。


「全く、恥ずかしいなら初めからパンツを履いていれば良いのに」

「もしかしてトイレではパンツを脱いで良いのですかね?」

 コアさんは世迷言を言う。ここまで変態の数が多ければそう考えても無理は無いだろう。


「下を脱いで良いのは御風呂の時だけだよ。御風呂は脱がなきゃ成り立たないから仕方がないけど、トイレは肥料を出すだけで良いんだから」

 同じ娯楽でも両者は全く違うのだ。御風呂が下を脱ぐ唯一の瞬間だからこそ、裸の付き合いと言う言葉もあるのだとも思う。

「やはりそうですよね」

 コアさんは簡単に引き下がった。最初から答えは解っていたのだろう。


「じゃあ余計な事に気を取られたけど、ミラス君の話に戻そう」

 本来の目的はミラス君で惚れ薬の効果を試す事だ。

「もしかしたら既に誰かに惚れているかもしれませんね」


 僕達はミラス君の方を見た。


 ……どういう経緯かミラス君は前のめりに気絶していた。

 目を離した隙に一体何が?


 近いてみると痙攣している事が判った。

 汗でぐっしょりだ。

 そして何故か栗の花のような匂いがする。


 何があったか推測も出来ない。

 起こして正面を調べれば何か解るかもしれないが、ミラス君もパンツを下ろした状態なので起こす訳にはいかない。恥部が見えてしまう。

 恐らくミラス君は惚れ薬のせいでパンツを脱いでしまった被害者だから、勝手に変態の仲間入りをさせる訳にはいかない。


「どうしようコアさん? 回復魔法でもかけてみる?」

「惚れ薬の詳細が解らないので、とりあえず開発者を連れてきた方が良いかと」

「そうだね。あっ、誰かこっちに来るよ」


 僕達が相談をしているとミラス君の異変を感じ取ったのか、一人の先輩が来た。

 相変わらず僕達は気付かれていない。


「ハッハッハッ! 気絶するまで興奮してカワイイな! 俺が喰ってやろう! きっと素質があるぞ!」

 来た先輩はさっぱりとした感じの普通に見える男の人だ。しかし言葉からして純粋な善意から助けに来た人では無い。漢女に近い存在だ。


 どう考えてもミラス君にとって危険人物である。このままでは惚れ薬が掘れ薬になってしまう。


 僕達は大急ぎで惚れ薬の開発者を探す。

 そして見つけると二人で抱えてミラス君に投げつけた。

 少し雑だが致し方あるまい。


「うわぁー! あがっ! いてて、何が起きたんだぁ~? おお~、これは被験者君。薬の調子はどうだ~い? お~い? お~い?」

 開発者の先輩、モルト先輩はトイレの個室まで尾行出来なかったらしい。ミラス君を見つけるなり質問攻めにした。

 ペチペチと叩いて起こそうと試みる。その度にミラス君はビクンビクンと痙攣するがモルト先輩は無視して続ける。


 そしていつまで経っても目覚めないのを診ると結論を口にした。

「腕はもうだいぶ生えてきてるし、どうやら催淫効果が強すぎたみたいだね~。体力を消費し過ぎたらしい~。使うときは精力剤も処方した方がよさそうだね~」

 モルト先輩はおもむろに新たな怪しい薬を取り出した。


「オークの睾丸を超希少素材マザーアントの子宮で造った鍋で煮込み凝縮させた粉に、魔術を付与させたシンプルな一品。これを飲ませてみようか~」

 マザーアントの子宮とは何であろうか? 虫は卵生だよね?

 兎も角繁殖力の強い魔物から作った薬のようだ。効き過ぎそうで怖い。


 モルト先輩は粉を固めたらしい灰色の錠剤をミラス君の口に入れる。


 薬の効果はすぐに表れた。


 まず大量の蒸気がミラス君から噴出する。

 特に股間付近からの蒸気が多くミラス君の股間は完全に見えない。

 そして喪った腕の付け根からも大量の蒸気が発生し、晴れるとその中から新品の腕が現れた。


「なるほど~、どうやら原初回帰ユミルボーンは精力を消費すればするほど効力が上がるみたいだね~。催淫効果はその副作用として現れるようだ~。それにしては目覚めないが、これは初めてだったのかな~? 精神の疲労からかもしれないね~」

 モルト先輩はのほほんと分析をする。


 さて、出来る限りの処置は終わった。

 これでミラス君がアブナイ先輩に連れて行かれる事は無さそうだ。


「ハハハッ! どうやら応急手当は終わったよだな! 後は俺が運んでやろう!」

 うん、危機は回避されていない。


 こうなれば仕方あるまい。


 僕はモルト先輩の足を払った。

「うわぁっ!」

「なんだ?」

 そしてモルト先輩はアブナイ先輩、カイモン先輩に抱きつく形で倒れ込んだ。


「ハハハッ! 嫉妬かい! 良いだろう! 君の想いに答えよう!」

「えっ、やっ、これは……」

「ハハハッ! 今さら照れる必要は無い! 力むと痛むぞ! さあ行こう!」

「やめろー!! 放せー!! 僕は二次元の嫁しか愛せないんだー!!」


 僕の計算通りモルト先輩はカイモン先輩に担がれ連れ去られて逝く。

 マッドサイエンティストと言う安い犠牲と引き換えに、ミラス君を魔の手から救い出す事が出来た。

 ふう、良かった良かった。



 モルト先輩が見えなくなると丁度ミラス君が目覚めた。

 しかし相変わらず薬の効果が残っているようで息がとても荒い。

 この様子だとまだ惚れ薬の効果を調べられそうだ。


 ミラス君は亡霊のようにゆらりと立ち上がる。

「……んっ!」

 顔は紅く高揚し涎を流しているが、歯にグッと力を入れ何かを耐えている様子だ。

 目は潤んでいるのだか泣いているのだか判らない。

 兎も角何かを堪えていて必死なのは伝わってくる。


 ごめんねミラス君。

 後で叶えられる望みなら叶えてあげよう。


 暫くの間耐えていたミラス君だが、急に倒れてしまった

 また気絶してしまったらしい。

 限界のようだ。


 流石に可哀相だからそろそろ惚れ薬を解薬しよう。


 そう思ったところでまた起き出した。

 今度は様子がおかしい。さっきまでとは何かが違う。

 目には光りが無い。気絶したまま動いているようだ。


「アガァアァーーー!!」

 ミラス君の身体は人が出すとは思えない咆哮を上げた。

 蒸気の量も増えトイレ中に広がる。壁を消していなかったら建物が吹っ飛んでいたかもしれない。


 そして四足歩行で飛び出す。

 足で走るのよりも断然速い。

 ミラス君は自ら服を脱いでいた女帝風の先輩、キュラリス先輩の豊満な胸に向かって飛び付こうとする。


「きゃあー!?」

 それを見たキュラリス先輩は普通の女子が出す悲鳴を上げた。

 見事な回し蹴りでミラス君を吹き跳ばす。

 ……何故この先輩はさっき自分で服を脱いだのだろうか? 行動と中身が合っていない。


 ミラス君はくの字で跳ばされて行く。

 蹴りが大切なところに直撃したようだが大丈夫かな?

 栗の花の匂いが広がった。


 跳んで行く先にはツンデレ系変態のウィーネリア先輩が。

 ミラス君は跳ばされながらもそれを確認すると、くるりと身体を捻り地面を蹴り加速し飛び込もうとする。

 しかし途中で胸に目をやるとキュラリス先輩のとは違いフラットな事に気が付いたのか、中断し次の標的を探しだした。


「何で来ないよ! どこ見て中断してるのよー! 最後で襲いに来なさーい! この巨乳好きのド変態が、喰らいなさい文技“往復ビンタ”!」

 ウィーネリア先輩はツンツンし出し、自分から手を出しに行った。パチンパチンと凄い良い音が出る往復ビンタを繰り出す。

 往復ビンタって文技なんだね。後、あなたも十分にド変態だと思います。


 ウィーネリア先輩は仕上げにと強力なビンタを浴びせ、ミラス君は再び吹き跳ばされた。


 次に向かう先には漢女達が。

 ミラス君は全力で回避した。

 火事場の馬鹿力は実在したらしい。吹き出る蒸気を利用し宙を蹴ったように見えた。


 その後もミラス君は女子であれば……ある程度胸があれば襲いかかって行ったが全て軽く返り討ちにされた。

 力量が違い過ぎる。

 何だかんだエリーゼ先輩達を守ろうとしたカイルード先輩の丸めた新聞による一撃は見事だった。

 ここまで来ると薬の効果で傷は残らないとは言え、ミラス君が可哀想に思えてくる。

 ミラス君の方が間違っているのに不思議だ。


 現在ではミラス君は踏ん張っていた女の子にぶん殴られ、地に伏している。


 流石にもう薬を解薬してお詫びでも渡そう。

 薬が全く使えないと言う事も判ったし。



「コアさん、ミラス君を解薬してあげて」

「はい、“アンチドラッグ”」

 コアさんは掌をミラス君に向けて魔術を発動した。

 ミラス君は仄かにライトグリーンに輝き、呼吸は整い頬の紅みも引き正常に戻って行く。

 蒸気も収まりそうなのでその前にシーツを被せて恥部を隠す。


 これで一安心。

 因みにアンチドラッグで現れた眷属は鎧のような防護服を着て、火炎放射器のようなものを背負った姿だった。何故?


 さて、お詫びをしよう。

 本命は直接本人に願いを聞くとして、今は思い付く事を。


「コアさん、ミラスへのお詫びとして何かスキルをあげたいんだけど、何が良いかな?」

「身体の欠損をしてマッドな先輩方に二度と実験台にされないように、再生系のスキルが良いと思います」

「じゃあそうしようか」


 このトイレは騒がしいので、ミラス君を浮かしながら外に出る。

 外も人が多い。空に出よう。

 僕達は建物よりも多少高い程度のところに陣取った。


 えーと“風杯”はと……何か違う気がする。

 都会の風を使ってみよう。

 コネコネコネ。


「う~ん、〈再生〉は素質が無くちゃ駄目そうだね」

 シンプルに〈再生〉のスキルを渡そうとしたが断念した。獲得させる事は出来そうだが存在が変質してしまうように感じたからだ。


「この調子だと、少なくとも本人に関りがなくては駄目そうですね。先程の薬の再生能力を再現してみましょう。幸運にも運命子(デスティニウム)が大量に発生しましたし」

 コアさんのアイデア通り、今度は運命子(デスティニウム)も捏ねながらスキルを生み出す。


「まずは再生能力以外を除いてと」

「完全には除けませんね。似たものを織り混ぜて薄めましょう」

「あ、催淫効果も回復力よりに出来そうだよ」

「ではそれも混ぜましょう。意識を失わないように再生能力の一部を精神保護に廻しますね」

「身体能力の強化も残して混ぜるね」


 コネコネコネと。

 出来た!


「じゃあミラス君に与えるね。あーあー、ごほん、


 《ステータスを更新します。プライバシースキル〈被虐再生〉、固有スキル〈催淫狂化〉を獲得しました》


 ふー、これで良し!」


 ミラス君は地上を照らす程光り輝き、スキルの授与は完了した。

 無事に成功だ。これで一件落着。


「…………マスター、今、ステータスのアナウンス的なものが聞こえたのですが?」

「気分だよ気分。急にやりたくなる時があるよね」

 時間を止めてよくやってしまう。


「一度もないです。真似しようとした事もありません」

「そう? 僕の村だとお小遣いが貰えたよ」

 何故か読み上げるだけで貰えたのでかなりやった。もしかしたらこの世の全てのステータスを読む勢いでやっていた時期があった。

 そのせいか今でも疼きやってしまう。


「……通りでマスターのステータスは更新のアナウンスが無い訳ですね」





 《アーク&コセルシアによる簡易用語解説》

 ・トイレ

 アーク:「理解したよ。娯楽だよね」

 コセルシア:「そうです。趣味のようなものです」



 ・トイレ利用者

 アーク:「下半身を曝した変態」

 コセルシア:「下半身を曝した変態」



 ・ステータス

 アーク:「都会の人のは簡単に更新出来るね」

 コセルシア:「そうですね」




 《用語解説》

 ・ステータスのアナウンス

 ステータスの更新を教えてくれる謎の声。

 万人に聴こえる。筈。


 世界七不思議を決めるとしたら確実に入る謎の声。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

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