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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第2章 〈アンミール学園入学〉あるいは〈都会生活の始まり〉

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第二十一話 現状把握あるいは大怪我には注意

申し訳ありません。

投稿が遅くなりました。

 

「さてコアさん、結局どうやって縁結びをする?」

 店主のアベルさんがどういうタイプかは大体解ったが、恋愛に疎そうなので進展させるというような手が使えない。

「まずは誰と結びつけるかを決めた方が良いかと」

「そうだね。じゃあ〈処女〉のプライバシースキル持ちでも探そうか」


 僕は学都全体を視た。

 〈童貞〉を鑑定したせいか処女が感覚的に判る。


 ……………………ん?


 見間違いかもしれない。今度は“鑑定”しながら視る。


 ……………………間違いじゃ無いようだ。


 試しに童貞も探してみよう。


 ……………………はぁー。


「コアさん、この都市、処女と童貞だらけなんだけど?」

(わたくし)も確認しました。その様ですね。……ですがまだ学生なので不思議な事では無いのでは?」

「ここの人口も視たから解るよね。一万人に一人しか経験していなくても結構な人数がいる筈だよ。それに年齢も二十歳以上の学院生とかも多いからね」

「そうですね……。学則が厳しいとかですかね?」

「コアさん、現実を見よう。アンミールお婆ちゃんが僕の為に子を産んでもらうとか言っていたんだよ。そんな学則なんか定める筈が無いよ」


 つまり学都の人達はそうだという事だ。


「……認めるしかありませんか。ここの方々はとんでもなく恋愛に疎いのですね」

「そういう事だね。どうしよう。僕のお嫁さん探し、道が険し過ぎそうなんだけど……」

「そこは頑張るしか無いかと……(わたくし)は最後まで付き合いますから一緒に頑張りましょう」

 落ち込み気味の僕をコアさんは慰めてくれる。


「それにまだ初日ですから、何とでもなりますよ」

「そうだね。ありがとう、コアさん。それでまずは何をした方が良いかな?」

 気を取り直してアベルさんの縁結びを続けよう。


「経験のある方々を手本にすれば良いのでは?」

「確かにまずはそこからだね」



 僕は再び学都中を視渡した。丁度カップルが居ないか捜す。

 やはり処女や童貞で無い人は人口に比べてかなり少ない。


 そしてまた、視ていると残念な事実を発見してしまった。


「ここのカップル、殆どが王侯貴族なんだけど……結婚までしているし……」

「これは……政略結婚ですかね?」

「認めたく無いけど多分そうだと思うよ」

「「……」」

 暫く会話が途切れた。僕達を冬の残り風が吹き抜けていく。


 夫婦、婚約者にしてはどこか余所余所しく接している人が多い。互いに敬語だ。

 多分彼等が経験済みなのは半ば義務からだろう。

 政治的理由から家と家を血で繋ぐ為、家を途絶えさせない為に彼等はやらなければならなかったのだ。


 これじゃ縁結びの宛になら無い。僕達には恋愛の切っ掛けを与える事ぐらいしか出来ないからだ。

 普通のお見合いならさせる事が出来るかもしれないが、政治的なものとそれは明らかに違う。政治的なものには強制力が存在する。全く手本にする事は出来ない。


 この学都に普通の恋愛と言うものは存在しないのだろうか?


「コアさん、子作りに恋愛は必要かな?」

 僕は考えを一度変えてみる事にした。遠くを眺めながらコアさんに問う。


「急に何を? 子を作るだけなら必要無いと思いますが? 先程探していたプライバシースキルを失うような事を続ければ良いだけですから」

 少し困惑しながらもコアさんは答える。


「そうだよね。なら、惚れ薬でも一服盛れば良いんじゃないかな?」

「ちょっ!? 何を言っているのですか!?」

「僕達の目的はいずれ子を産んでもらう事だよ。だったら別に、恋愛の結果でカップルを誕生させる必要は無い、と思うんだよね」

「いやいやいや! 確かに目的は達成出来るかもしれませんが、普通に犯罪ですから! それに産むためには必要無くても夫婦間には愛が必要ですから!」

 僕の提案に予想通りコアさんは突っ込んできたが、目を合わせないようにしながら僕は話しを続けた。


「本当に夫婦には愛が必要かな? じゃあ政略結婚は悪?」

 再び僕は問う。

「それは…後から愛を育めば良いのでは?」

 コアさんが少し言い淀みながら答える。

「だったら惚れ薬が切っ掛けでも良いんじゃないかな? 寧ろ政略結婚よりもお互いに惚れている分だけ良心的だと思うよ。強制力がある訳でも無いし」

「……やはり政略結婚は悪かもしれません」

 コアさんは答え直した。


「本当に政略結婚は悪かな? 本人同士の愛は無くても親の愛は有ると思うよ? 少なくとも自分の家の為になる力があると認めた人との婚姻だからね。

 かなり歳上の人に妾として出されるなら兎も角、殆どの場合は子を案じているんだと思うよ。政略結婚の成果が大きく表れるのは多分数代後の事だし、知った者同士って事も多いだろうからね」

 僕は問続ける。

「えー……親がどう思っていようが本人達の気持ちが一番大切かと」

 コアさんは考えた結果ありきたりな答えを出した。半ば考える事を放棄したのだろう。後もう一歩だ。


「そうとも限らないんじゃないかな? 知り合ってから数年程度で結婚するのは良い事だと思う? 親が間に入ったとしても素性がしっかり解っている人同士の方が、最終的には上手くいくかもよ? 一時の感情に流されて進んだら後悔するかもしれない」

「それは……人の寿命からしたら致し方ない事なのでは? 人を知るには時間が掛かり過ぎます。それに知り過ぎると相手の欠点を見つける事になりますし」

 コアさんは僕の問いを考えてから答えた。


「でも結局は知った者同士の方が結果的には上手くいくんじゃないかな? どちらにしろ結婚でもすれば相手の欠点は山ほど知ることになるし。

 何故多くの人は恋愛をして良く知らない人と結ばれるのだろう? 何故理性よりも感情を優先するのかな?」

「……ここで言う上手く行くか行かないかの判断基準は感情です。理性によって最終的に得られる幸福は多くなるかもしれませんが、理性は良いと言える感情を集める手段に過ぎません。

 強い恋愛という感情に流されるのも道理では?」

 コアさんが少し真剣に考え始める。


「そう、強い感情だからだよ。流されるのも当然かもしれない」

 僕は未だにコアさんの顔を見ないままそう言う。少しでも真剣なそぶりを見せられた事でさらにコアさんの顔を見辛くなった。

 僕は結婚や恋愛について議論したいのではなく、ただコアさんを完全な共犯者に仕立てあげたいだけだからだ。


「でもさ、何故恋愛感情は強いのだろう? いつかは冷める、永くは続かない感情だと聞くよ? 根本的にそうあれと創られた訳でも無いの強い、何でかな? 運命子(デスティニウム)も大量に発生するみたいだし」

 誘導するように僕は問う。

「大きな運命の分岐点だからでは? 牽かれてしまうのだと」

 よし、生物学の方向に行った。


「何故その恋愛感情はあまり会った事もない人に向いたりするのかな? 幼なじみ、親族、ここら辺での恋愛は物語になる程稀有だと聞くよ? 一緒にいる年月分恋する機会も多い筈なのに」

「……恋愛が子孫を残す為の感情だとすると、血が濃くならないようにではないでしょうか? 子孫が残し難くなりますし、何より人の多様性が下手すると無くなります。

 もしかするとこの世に異世界人の血が何度も入っていますから、人は本能的に離れた人を好きになるのかもしれません」


 さて、そろそろ本題に戻ろう。


「コアさん、恋愛感情が本能の一端であるのなら、優れた子を生み出せる事が確定しているれば誰とでも恋愛する事が出来るんじゃないのかな?

 僕は切っ掛けの時点で何の感情も無くてもその切っ掛けさえ有れば、どんな形からでも同じ幸せと言えるものは創れると思うんだ。

 だから本人同士が嫌がらない限り、子を作る切っ掛けに善悪は存在しないんじゃないかな?」

「それはそうかもしれませんが、優れた子が絶対に生まれる事など無いのでは? 前提として優れた子を生み出せなければ、恐らく善悪は存在してしまいますよ」


 僕はゆっくりとコアさんの顔を見る。


「僕は出来るよ」

 穏やかに僕は明かす。

「……え?」

「僕には誰にでも親よりも優れた子を生ませる事が出来る」

 コアさんが理解しやすいようにもう一度告げた。


「だから惚れ薬を使っても良いんじゃないかな? 本能のせいで結ばれない人同士も繋げる事が出来るよ」

「ですが……実は秘めた奥底に本当に好きな人がいるかもしれません。勝手に結んでは不味いのでは?」

 コアさんは心を揺さぶられながらも反論する。


「別に一対一である必要は無いんじゃないかな? 何人とも愛を育めば良いと思うよ。そうしやすい環境を創ってあげれば良いんじゃないのかな?」

「ですが……」

 まだコアさんは反論しようとする。元々ある善悪の観念が惚れ薬を許せないのだろう。


 最後の一押をしよう。


「善悪は人によって違うからコアさんが迷うのは当然だよ。そしてそれに絶対的な答えは出せないと思う。

 だから僕が決めるよ。幸せに導けるならどんな切っ掛けでも善だ。僕がそう保証する」

 僕は笑顔で告げる。


「……惚れ薬を使いましょう」

 コアさんは真っ直ぐな目で賛同してくれた。



 話している間に出来上がった串焼きが貯まっていたので齧り付く。

「ムシャムシャ、ゴクン、それで惚れ薬ってどうやったら手に入るかな?」

 僕はコアさんに聞いてみる。

「……持っていないのですか? そういう植物とか?」

 コアさんも串焼きを食べながら聞き返してくる。


「有るけど全然効かないんだよね。モグモグ、ムシャムシャ……ゴクン、“アフロディーテの黄金林檎”、“アフロディーテのオレンジ”、“アフロディーテのマルメロ”とかそういう効果があるって言われているのは色々持ってんだけど、実際に食べると普通に美味しいだけの果物なんだ」

 村の皆にも実験台……食べてもらったが美味しいと言ってくれただけで何も起こらなかった。


「ゴクン…そうなのですか残念ですね。ところで何故全て似たような名前なのですか?」

「元々異世界人が持ち込んだものなんだけど元となった概念が不確かだったんだって、黄金林檎が文字通りのものを差すのかオレンジやマルメロなのか。だから黄金林檎と名の付くものには亜種があることが多いんだ」


「そんな起源をもつ植物があるのですね。と言うか黄金林檎って何種類か存在したのですね。一種類だけだと思っていましたよ」

 コアさんが変な事を言う。

「赤林檎だって何種類もあるでしょ? それと同じだよ」

 僕は当たり前だよと教えてあげた。


「……(わたくし)の智識で黄金林檎は伝説で語られる力有る秘宝だった筈なのですが?」

「迷信だよ迷信。確かに黄金の林檎は全部不老になるとか不死になるとか言われているけど、食べても何も起こらなかったよ。村の皆で実験して……食べてもらったけど変化はなかったし。コアさんも食べてみる?」

 そう言いながら僕は黄金林檎を差し出す。

「では頂きます」


 コアさんは僕が出した何種類かの黄金林檎を食べる。

 僕も食べよう。串焼きばかりよりも良い。

 カキュッ、黄金林檎を一齧りすると濃い果汁が湧き出し、清らかな芳香が辺りに拡がる。


「カキュッ、シャキシャキ、本能が明らかにおかしいと言っている気がするのですが、特に何ともありませんね。とても美味しい林檎です」

 満足してくれたみたいで良かった。


「実は今コアさんが食べた中にアフロディーテの黄金林檎も混ざっていたんだ。ほら、何ともないでしょ?」

「何してくれているのですか……。シャキシャキ、でも確かに惚れ薬と使える力は無さそうですね」

 文句を言いながらもコアさんは黄金林檎を食べ続ける。気に入ってくれたようだ。


「そんな訳だから惚れ薬が欲しいんだけど、ここで売っているかな?」

 僕は話しを戻した。

「もし有れば童貞も処女ももっと少ないと思いますよ。一応探してみますか?」


「そうしよう。でもまた大金貨を渡したら凄い量の薬を買ってきそうだから、両替が出来る場所はないかな?」

 食べ物は幾ら有っても良いが流石に惚れ薬はそんなに要らない。

 僕はキョロキョロとそれらしい場所を探す。これ程までの都会になら絶対に在る筈だ。


「少なくとも露店には無いようですね。少し高めの買い物をして崩します?」

「そうだね。ナギは何処までも僕達に串焼きを届けてくれるだろうから、移動してそんなお店を探そう。上手くいけば両替できる場所も在るかもしれないし」



 僕達は歩き出す。

 本来なら嬉しい事にお手頃価格の商品が多く、丁度良くお金を崩せそうなお店はなかなか無い。

 武器屋さんや服屋さんのオーダーメイドなら高めのものもあるようだが、僕達にそんなやり取りをする勇気は無い。有れば自分で串焼きを買っている。


 平行して惚れ薬が売っていないか探すがこちらも見つからない。

 薬屋さんは結構あるが判らないのだ。何故か何の薬か書いて無く、直接店員さんが紹介している物以外は聞かないと何が何だか判らない。

 見た感じ症状を聞いたり見たりしてから処方するようだ。


 ……主に薬屋さんは怪我人等を見掛けると自分から売り込みに行っている。

 今近くでターゲットにされているのは片腕が無い新入生。沢山の先輩達が群がっている。


「吾が輩達、呪薬研究部の造り上げたこの“漆黒呪花アビステンタクル”! これさえ有れば君にも素敵な触腕が! 今ならお代は結構! クククッ、さぁ、飲みたまえ」

 そう言うのは黒ローブを羽織って髑髏の飾りをあちらこちらに身に付けた先輩。口調と格好から判りにくいが女の人のようだ。目をギラつかせながら試験管を差し出している。

 黒に近い紫色をした薬はプクプクと泡を発生させながら触手を伸ばしており、絶対に飲んではいけませんよーと周囲にアピールしている。溢してもいけない類いの物だ。


「んなもん飲めるかー!! 俺は腕を治してもらう約束でここに来たがそんなのは嫌だー!! 普通のにしろー!!」

 新入生、つまり僕の同級生君は全力でお断りしている。当然の反応だ。魔物でも飲まないと思う。


「そうだ。そんな輩は放って置いて我ら第8危険薬学部の薬の臨床試験に付き合うのだ」

 血のこびり付いたり焦げたりしている白衣を着る先輩は、同級生君に落ち着く隙も与えずに自分の薬を勧める。

 勧めるのは妖しい緑の炎を上げている粉薬だ。見掛けからも部活の名前からも危険物だ。


「ヤダよ! 臨床試験って言う奴の事が信用出来るか!」

「安心しろ。我ら第8危険薬学部の作りあげた薬“邪妖精の脅威(トロールディザスター)3”の実験台になれるのだ。失敗してもそれがお前の生まれた意味になる」

「どこに安心できる要素があるんだよー!! それに3って何だ!? 3って!? 1と2はどこに行ったー!?」

 僕は第8の方も気になる。


「発展には犠牲がつきものなのだよ。仕方がない、少し安くしてやろう」

「人を実験台にして金まで取る気だったのか!? ハァ、ハァ、ハァ」

 早くも声を出しすぎて同級生君は息を切らしてしまった。


「危ない薬は止めて拙者達、第2美少女開発部が作った生体義手をお勧めするでござる。“サユリちゃん試作八型の腕”性能は保証するでござるよ」

 こう言うのは少女の描かれた服や少女のグッズを身に纏った先輩だ。因みに女の人である。造っていると思われる美少女の名前に含まれている性癖を持っているのだろう。

 持っている義手は禍々しく赤黒い巨大な腕で、緑の液体で満たされたカプセルに浮かんでいる。彼女の願望が実現するのは当分先のようだ。


「まて変態。そこの新入生には素人のお前達が造った物体より、俺達第16人型機械兵器部の造った“アルティメットアームズ六号”が相応しいに決まっている。大人しく手を引くんだな」

 これを言ったのは作業着姿の先輩。

 勧めているのは如何にも機械ですと主張している義手だ。先輩はそれをドリルやビーム砲にして見せびらかしている。


 何故だろう。この先輩が凄い真面まともに見える。

 十分に非常識な筈なのに……随分と感覚が狂ってしまったようだ。欠点が今はアルティメットなのに六代目という事ぐらいしか出てこない。

 同級生君もこれなら良いかもという状態になってしまっている。


「俺は普通の腕が欲しいんだ! 普通の腕が!」

 しかし同級生君はそう口に出してロボットアームを拒否した。逆に言えば自分に言い聞かせなければいけない程追い詰められていたのだろう。


 そんな同級生君の動向を観察していた先輩達は、ささっと集り小声で相談を始めた。

 僕達は一部始終しか見ていなかったようで、集まると結構な人数が居た。あの同級生君の苦労は計り知れない。


「くっ、折角獲物…新入生が俺達の前に居るのに、このままだと回復専門の奴らのところに行っちまうぞ?」

「あの者達の所は授業の一環として患者が来るでござるが、部活動でやっている拙者達の所には来ないでござるからな。何としても実験台…患者になって欲しいでござるよ」

「やむを得ん。本命を勧めるのは止めて他の試作品を試させよう。少しでも利を得るのだ」


 お互いにライバルで喧嘩口調が交っているにもかかわらず、本当の喧嘩に突入しないのは最初から結託していたからであるようだ。

 先輩達は早速次の作戦を実行した。


「そう言うのではあれば仕方がない! 吾が輩達が作成した一月悪霊に襲われ続けるが3日で普通の腕が生えるこの呪薬を進呈しよう!」

「いや、我らの作った三日三晩の言葉に出来ない激痛と引き換えに普通の腕を生やすこの薬を使え」

「拙者達の回復カプセルに入るでござる。全身撫で回されるような違和感があるでござるが、慣れると癖になるでござるよ」

 先程の先輩達が勧めたのは副作用が強いが普通の腕が生える手段だ。


「普通の腕って何だ!? さっきから勧めてたのは義手みたいに変な腕を生やすやつだったのか!? 最初からこっちを勧めろ!?」

 同級生君は全力で抗議する。

 薄々気付いていたが彼等が勧めたい本命は全て、普通ではない腕を生やす手段だったようだ。


「いやぁ~、僕達の一週間強い催淫効果がある薬をお勧めするよぉ~。痛かったり不快な思いをせずに普通の腕を生やせるよぉ~」

 ぐるぐる眼鏡をかけ明らかに大きいサイズの白衣を着た先輩はそう言う。


 ん!? 催淫効果!?

 思わぬところで惚れ薬のような物を見つけた。


 僕はこのやり取りから一回視線を外し、コアさんに話しかけた。


「コアさん、催淫効果って惚れ薬の効果の一つだよね」

「はい、確かそうです。惚れ薬として使えそうですね」

「どうする? 買って来てもらう?」

「う~ん、まずは効果を知った方が良いと思います。お詫びとして変な薬を使う訳にはいきませんし、あの方々の薬はどれも怪しいですから」

「そうだね。あの同級生君に飲んでもらおうか」

 コアさんの意見は尤もだ。早速実験してこよう。


「それは強引では? あの方々と同じく危険思考ですよ」

「じゃあコアさんが飲んでみる?」

「……(わたくし)が飲ませて来ましょう」

 コアさんはすたすたとやり取りの現場に向かった。

 都会の人に気付かれないと知ったせいか行動が大胆だ。本当は僕がやるつもりだったので人の事は言えないが。


「あれ!?」

 コアさんは催淫効果のある薬を引ったくる。本当にコアさんの事は見えていないようだ。


「んぐっ!? んん~!? ハァ、ハァ。何するんだ!? 飲んじまったじゃないか!?」

 コアさんは強引に薬を飲ませた。さて、どうなるかな?


「僕は何も……何にしろ僕の薬を飲んでくれたねぇ~。ありがとう、試作品を試してくれて嬉しいよぉ~」

「試作品!? 本当に大丈夫だろうな!?」

「大丈夫だ。大失敗しても先生方が治してくれる。先生には死んでいようが、肉片になっていようが再生出来る方がいるから安心しろ。欠損くらいなら簡単に治してくれるぞ」

「そんな先生がいるなら初めからそっちを紹介しろーー!!」


 同級生君は一際大きい叫び声を上げると、膝から崩れ落ち地面に手を着いた。呼吸が荒くなり背中を激しく上下する。


 そして暫くしてふらつきながらも立ち上がった。

 その顔を見ると頬を紅く染まり、眼はトロンと潤んでいる。まだ呼吸は荒いが体調不良という風には見えない。多分健康上は問題無いのだろう。

 片腕が無い場所からは湯気があがっており、ちゃんと腕が生えてきそうだ。


 薬を造った先輩はそんな同級生君の様子を観察しながらメモをしている。

 驚いたり心配したりする事なくメモを取り続けている事から、恐らく今のところは成功しているのだろう。尤もこの先輩は同級生君が危険な状態になっても心配しないかもしれないが……兎も角大丈夫そうだ。


 他に異常は、何だかズボンの股間辺りがテントのように張っているぐらいだ。何故そうなっているのか謎だが恐らく薬が原因では無いだろう。

 少なくともそうなる要因を僕は思い当たらない。まさか催淫効果のある薬でそうなるとは思えないし? 倒れた時にズボンがこの形に寄ってしまったのだろう。


 後は同級生君の意識がハッキリとするのを待つだけだ。



「都会じゃ怪我出来ないみたいだね。僕は自力で再生出来るから良かったよ。でも再生能力が無いと本当に不便だよね。髪を切る時どうするんだろ?」

 同級生君が正気に戻るまでの間、僕はコアさんと雑談する事にした。


「あの方々に治療されそうですからね。それで散髪と再生能力って関係ありましたっけ?」

「ほら、よく髪を切ってもらう時、首ごとバッサリ斬られる事があるでしょ? 髪はそうそう切れるものじゃないし、どうやって髪を切るんだろうなって思って」

 村の皆は刀の扱いが下手だからよくヤられた。料理の時には普通に使えるのに不思議なものだ。


「……普通は散髪で首は斬れません。マスターこそ一体どうやったら首が事態になるのですか?」

「なかなか切れないから村で一番良く切れる刀でシュパッと。だから僕髪を切るのが嫌いなんだよね」

 僕の髪が長めなのはそういう理由だ。同じ理由で村の皆も髪は長めだ。


「……多分マスターは永久に他人に回復してもらう事が無いと思いますよ……良かったですね……」

 コアさんが仙人並みに達観した様子で呟く。

 初めての都会で少し疲れたのかな?


 コアさんとは暫く会話出来そうに無いから、丁度今持って来てくれた串焼きでも食べて休憩でもしていよう。


 ふぅ、まだまだ都会の喧騒は止みそうに無い。





 《用語解説》

 ・アークの倫理観

 アーク:「何それ? 美味しいの?」



 ・アークの性知識

 アーク:「雌しべに花粉を付ければ良いんだよね?」



 ・アフロディーテの黄金林檎

 一定時間食べた者の美を極限まで上げ、周囲の存在全てを魅了出来る黄金林檎。

 魅了する相手は選択出来ない。食した者を見た者は全員例外なく魅了する。


 手に入れる為に国々を巻き込み争い、手に入れてからは食した者を巡り争う。姿を現す度に戦乱の世を造って来た黄金林檎である。

 味以外ほぼ同じ力を持つオレンジやマルメロ(セイヨウカリン)が存在する。


 アーク曰くただの美味しい林檎。コセルシアの感想も同じである。



 ・黄金林檎

 黄金色の林檎の形や味等をした強大な力の密集体。

 事実上林檎では無い。

 どの黄金林檎も例外なく食した者に強大な力を与える。有名どころでは不老や不死の力を得る事が出来るものがある。

 継続的に食す事で不老を与える黄金林檎の木は幾本か世界的に周知されており、絶えずあらゆる存在が手にいれようとしている。


 アーク曰くただの美味しい林檎。コセルシアの感想も同じである。


最後までお読み頂き、ありがとうございます。

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