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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第2章 〈アンミール学園入学〉あるいは〈都会生活の始まり〉

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第十九話 学園ぐるみの誘拐あるいは嫁探しスタート

投稿が遅くなってしまいました。申し訳ありません。

 

 何故か僕はアンミールお婆ちゃんからお叱りを受けている。

 一方的な口撃だ。


 理不尽だ。理不尽である。

 僕はただ休憩するために豊穣の力を振り撒いただけなのに。

 学都が少し緑に溢れただけじゃないか。


 だが僕はこの理不尽から簡単に抜け出す方法を知っている。

 早速使おう。


「これはアンミールお婆ちゃんへのプレゼントだよ。僕の植物は嫌いだった?」

 僕は努めて無垢な笑顔でそう言う。

「まあ、そうでしたか。ふふふ、ありがとうございますね。でも無闇矢鱈に力を使ってはいけませんよ。皆驚きますからね」

 アンミールお婆ちゃんはとても嬉しそうに陥落した。

 ふぅ、これで一件落着だ。


 周りの皆はアンミールお婆ちゃんをジト目で見ているが無視しよう。



「そう言えばさっき護送車を視たんだけど、あれは何?」

 アンミールお婆ちゃんのお叱りが再開しないように、僕は素早く話しを変えた。

 一応知りたかった事なので丁度良い。


「護送車? そんなものがありましたか? どれどれ…ありましたね。新入生を運んでいるようです」

 アンミールお婆ちゃんは目を数秒つむるとそう言った。

 詳しくは知らなかったようだ。恐らく今調べたのだろう。学都内のことならそうやって調べられるのかな?


「何で新入生が護送車なんかに乗っているの?」

「それは私にも解りません。あれはうちの新入生用の護送車じゃありませんからね」

 アンミールお婆ちゃんは何でもないという口調で言ったが、気になる単語があった。

「……新入生用の護送車?」

「見たかったですか? まだ全車迎えに行っている途中なのでもう少し待ってください」

 使用中なんだ……。しかも複数……。


「そうじゃなくて、何でそんなものがあるの?」

「必要だからですよ。ほら戦闘中に連れて行こうとしたりすると危ないじゃないですか。それに事前に何も言わずに連れて行こうとすると、よく暴れられるんですよね」

 アンミールお婆ちゃんは世間話のように教えてくれた。とんでもない内容を……。


「……アンミールお婆ちゃん、それ、誘拐じゃない?」

「えー……あー…………アーク、そろそろ眠る時間ではないですか?」

 アンミールお婆ちゃんが冷や汗をかきながら必死で言葉を探し、口を開いたと思ったら話しを変えにきた。

「その反応、もう誤魔化しても無駄だよ」

 僕は冷めた目でアンミールお婆ちゃんを見る。


 アンミールお婆ちゃんは周囲に助けを求めるが。

「潔く認めるんだな、ロリババア」

「日頃の行いが悪いからそうなるのです」

「アンミール様、自首しよう」

「貴女が居ない間は任せてください」

 誰も助けようとしない。多分、自業自得なのだろう。


「貴方達! 実行しているのは貴方達でしょう! 何私一人を生け贄に捧げようとしているのですか!」

 アンミールお婆ちゃんは抗議する。

 内容からして間違いなく誘拐はしているのだろう。そして新に暴露された事が真実ならばここには共犯者が大勢居る。


 僕は周囲にも冷めた視線を送る。

「ナンノコトデスカ」

「う、嘘は、い、いけませんよ。アンミール様」

「い、イタタタタ。急に持病の仮病が」

 うん、ほぼ黒だ。


 僕の意見を肯定するかのように、真っ黒な煙に包まれた何かが転移してきた。

 漆黒の鎧の上に、フード付きのこれまた真っ黒なマントを羽織ったひょろっと背の高い人だ。背には黒く輝く巨大な音叉のようなものを背負っている。

 全体的に真っ黒な人だ。唯一の違う色はフードから覗く病的に白い肌だけ。この人の出現はアンミールお婆ちゃん達が真っ黒だと言うお告げかな?


「任務完了だ。名簿にあった連中は全員拐ってきた。ん? お前達、ここに居るということはもう新入生を誘拐してきたのか? 仕事が早いな。もしかして俺の担当した新入生が曲者だっただけか? そうだ学園精霊、連中が運ばれていた護送車ごと連れて来たんだが、その護送車はどこへ置けばいい? ついでにその護送車を引く為にミノタンブルもテイムしたのだが?」

 黒い人が全部教えてくれた。お告げどころではない。

 この人を含めて全員誘拐事件の真っ黒な容疑者、犯罪者だ。


「「「…………」」」

 誘拐犯達は犯罪の全てが暴露された事で冷や汗を流しながら固まった。皆僕から目をそらそうとしている。


「…マスター、衛兵の方々を呼びましょうか?」

 コアさんが小さな声で提案してきた。

 周りには誕生させたばかりの新たな眷属達が居る。伝令兵のような眷属から狼煙を上げる道具を持った眷属まで、如何にも情報伝達に特化した眷属達だ。

 通報する準備万端である。


「まだいいよ。まず話しを聞こう。アンミールお婆ちゃん達、何で誘拐なんてしたの?」

 僕は腕を組んで尋問する。今度は僕がお説教モードだ。

「新入生を集める為です。一応私の力が完全に及ぶ範囲では周知されています。なので誘拐ではないです」

 アンミールお婆ちゃんは開き直って答えた。まだ誘拐ではないと言い張っている。


「本人の許可なく勝手に連れて行ったら誘拐でしょう」

 僕は呆れながらも正論を言う。

「「「はい、そうです。申し訳なく思っています」」」

「ちょっ! 貴方達!」

 アンミールお婆ちゃん以外は罪を認めた。アンミールお婆ちゃんは孤立無援だ。


「それで何で誘拐が周知の事実? 一体いつからやっていたの?」

「むむむ、……はぁー、正直に答えます。私が誕生して間もない頃からです」

 アンミールお婆ちゃんは観念したのか答え始めた。すぐに誤魔化そうとするかもしれないから詳しく聞こう。


「具体的にはどれくらい前の事?」

「……千やそこらだと」

「千!? 千年も生きているの!?」

 また衝撃事実が一つ判明した。本当に都会には目移りする事柄が多い。気を強く持たなければ!


「アーク様、ロリババアの策にはまっていますよ。単位を聞いてみてください」

「なっ! 余計なことを」

 しかしまだ僕が驚くのは早いらしい。

「アンミールお婆ちゃん、千の単位は?」

「……文明です」

「…………はい?」

 思った以上に疲れているようだ。空耳が聞こえる。


「(アークにまだロリババアは鯖を読んでいると伝えた方が良いだろうか)」

「(止めなさい。アーク様は既に放心していますよ)」

 小声で話しているがはっきりと聴こえた。

 うん、空耳ではない。アンミールお婆ちゃんだけの証言ではなくその他大勢の証言だから事実なのだろう。

「…………」



「えーと、何の話しだったっけ?」

 暫く放心した後、僕は正気を取り戻した。

「マスター、新入生誘拐の件についてです」

「そうだった。とんでもなく大昔から新入生の誘拐をしているんだったね。どういう経緯で誘拐なんて始めたの?」

 少し僕のお説教モードが解けてしまったが構わず続ける。


「まず言っておきますが最初に始めたのは私ではありません。誘拐を始めたのは私を創造した御方です。初期の生徒達は全員その御方が拐ってきた子供達でした」

 僕の隙を利用することなくアンミールお婆ちゃんは普通に語りだした。本当に正直に語ってくれそうだ。

 それにしてもまた凄い内容だな。誘拐をしたってことは確定しているし、もう深く考えるのは止めよう。田舎者な僕の精神では持ちそうにない。


「初期生徒が全員誘拐された子供って、アンミールお婆ちゃんは一体何として創造されたの? 学園じゃなかったの?」

 僕は質問した。方針を決めたばかりだが、残念ながらこれは深く考えずにスルーできる内容ではない。


「初めから学園として創造されましたよ。別に拐った子供を集めておく場所等ではありません。しかし孤児院に近い学園でした。親が存在しない子供、親の力が及ばない子供が当時は大勢いたのです。そしてそんな子供に対する扱いも酷いものでした。ですから私の創造主、大賢者と呼ばれている存在は子供達を保護する為に私を創ったのです」

「それは誘拐と言うよりも保護じゃない? 僕が聞きたいのは強引に連れて来るようになった経緯を知りたいんだけど?」

 僕を誤魔化そうとしている様子はないが、違うことを語っているように思えたので指摘した。


「いえ、あまり言いたくはありませんが十分誘拐と呼べるものでした。当時の子供達は自分達の現状がどんなものであろうが何の疑問も抱いていなかったのです。しかも大人達も。普通に保護しようとしても抵抗されるだけでした。ですから強引に保護したのです」

「その時代に何があったの? 今と随分違うみたいだけど」

 誘拐してまで保護する理由が存在したなんて想像するのも難しい。しかもそれを大賢者以外は何とも思わなかった何て。


「力有る者は不自由を知らなかったのです。そして当たり前はその者達が築いてしまいました。つまり当時の人々は知らずに傲慢だったのです。自分達を全能とでも勘違いして」

 なんだか難しい理由を答えてくれた。

 まとめると昔の人は自分も他人も何があっても大丈夫だと慢心していて、実際はそうじゃないから子供がその被害を大きく受けていたって事かな? まだ気になるけど話が脱線する前に元の話に戻そう。


「誘拐を始めた理由は一応解ったけれど、何でそれを今もやっているの?」

「それはですね。私達の教育が予想以上に成功したのですよ。子供達は無事に無かったものを得て立派に成長していきました。それで巣立った子が外の現状を知って子供を拐って来るようになったのです。それで教育の質と受入れ可能な人数も増えて、いつの間にかこのようになりました」


「別に本当に困っていない人達も今は拐っているんだよね。何で?」

 これまでの話を聞くとあまり誘拐と言う印象は少ないが、今の現状は普通の誘拐にしか見えない。聞いた内容と今が繋がらなかったので改めて聞いた。

 本当ならこれまでの質問で解る筈なんだけどな。


「全ての水準が大幅に上昇したからですよ。例えるならば猫に高級な餌さをあげたら安物を食べなくなったとでも言いますか、相対的に不憫に思える子供が増えたのです。それにいつしかうちの子達と他の子達との格差がとんでもないことになったのですよね。いつの間にか私の力が及ぶ範囲に居る親は子を絶対に預けるほどに。だったら全員拐っちゃえとなりました」

「やっぱりそれ、普通に誘拐犯罪なんじゃ?」

 と言うか全員拐っちゃってるんだ。


「悪いことは殆どありませんよ。私の支配領域では結果的に十八歳以下に死者は存在しませんから。それに何処から通うのも自由です。家からでも寮からでも、入学手続きが終わった後ならば自由です」

「死者が居ないってのは凄いね。それに帰れたんだ」

 僕のこの誘拐に対する意識が揺らいでいく。

「因みに学費は全て無料です。教材費も取りません」

「なら良いの、かな?」

 全て持ち出してまでやっているのなら良いのかもしれない。



「あれ? でも暴れるから護送車が有るとか言っていなかった? それに戦闘中に連れ去る事もあるって?」

 周知の事実でそこまで損する事も無いのならば暴れたりしない筈だ。戦闘中に誘拐する必要も皆無である。


「あー、……えー、街中の散策はしないのですか?」

 あからさまに話を変えにきた。怪しい。

「もしかしてその新入生達はこの学都の支配領域じゃないところから誘拐して来たとか?」

「それはですね……そのー……記憶に無いので、事実関係を確認中です」

 異世界の政治家みたいな事を言ってきた。僕の予想は正しいのだろう。


「そこの実行犯達」

 僕は少し強めの声で聞いた。

「「「「はい、支配領域の外から拐って来ました」」」」

「自白することは良い事だよ。衛兵さんに伝えておくね」

「「「「ありがとうございます」」」」

「この裏切り者ー!!」


「コアさん」

 続いて僕はコアさんに指示を出す。

「はい、通報しますか?」

 これだけでコアさんは理解してくれたようだ。

「よろし――」

「待ってください!」

 アンミールお婆ちゃんは止めにきた。

「まだ何かあるの? 往生際が悪いよ」


「実はアークの為なのです」

「コアさん」

「だから待ってください。これはアークの為なのです」

「コアさん」

「ちょっと待って! 貴方達! 何とか言ってください!」

 アンミールお婆ちゃんの言い訳があまりにも酷い。僕の名前を出すなんて。


「さてこのロリババアをどう調理致しましょう」

「アーク、良い牢獄知ってるよ。紹介しようか?」

「次は誰がこの学園を率いるのでしょうか?」

 皆アンミールお婆ちゃんを助けようとはしない。

「こらそこの実行犯達! 何故私を売り渡す気満々なのですか!? 貴方達もほぼ同罪ですからね! 早く弁護しなさい!」


 早く衛兵さんに引き取ってもらおう。でも一応確認した方が良いかな? 多分嘘だけど。

「アンミールお婆ちゃん達の言っていることは本当?」

「「「「本当です」」」」

「……本当だったんだ」

 本当の事なのに簡単にアンミールお婆ちゃんを見捨てようとする態度、実行犯達も相当な曲者だ。


「これで解ってくれましたか?」

 アンミールお婆ちゃんが胸を張りながら言ってくる。

「いや、解らないよ。何処が僕の為?」


「実はあの子達はアークのお嫁さんの先祖候補なのです」

「コアさん、通報」

「だから最後まで聞いてください。アーク、自分の種族は知っていますか? 私はアークのステータスを見れないので推測になりますが、ユートピア村の歴代の村人達は“過超人オーバー・ハイヒューマン”という種族なのです」

 あれ? 意外と心当たりがある内容だ。


「確かに僕は過超人だったけど、それがどうかしたの?」

「実はこの種族、子作り可能な者が居ないに等しいのですよ。普通に探していては何文明かかるか解ったものではありません」

「……文明単位の時間が掛かるんだ。じゃあ僕、お嫁さん見つけられないんだね」

 せっかくお嫁さんを探そうと都会まで来たのに。僕の村は滅びるしかないのかな、グスン。


「その為に居ないなら産んでもらおうと考えた訳です」

 雨雲に光が差した。

「本当に……それなら見つけられるの?」

 まだ不安ながらも聞くと、いつの間にか喧嘩を終えていた村の皆も含めて、この場に居る全員が頷いてくれた。

 これなら必ずお嫁さんも見つかりそうだ。頑張ろう。


「だから誘拐するのはしょうがないとは思いませんか?」

「そうだね。仕方がないね。じゃんじゃん連れ去って来て」

「「「「「はっ! じゃんじゃん連れ去って来ます!!」」」」」

「……マスターを主犯として通報しますか?」

 コアさんが冷たい目つきで僕を見る。

「世の中には必要悪というものがあるんだよ。僕はそれを都会で学んだんだ。コアさんもそのうち解るよ」

 コアさんの目つきがさらに冷たくなった。静かにしていよう。



「ところでその嫁候補を誕生させるにはどうすれば良いのですか?」

 コアさんが自分から話題を変えてくれた。誘拐云々はあまり気にしないでいてくれるようだ。一応僕のお嫁さん探しに協力してくれるらしい。


「今のところの方針としては先祖候補の力を蓄えさせ、とにかく子を産んでもらう。これだけですね」

「え、それだけなの? 誘拐する程じゃないんじゃない?」

「簡単に思えるかもしれませんが大変ですよ。何世代にも渡り強力な存在にし続けなければいけませんから。最終的に強大な存在が誕生すれば良いのですが、その目標が遠すぎるのです。なので数の力に頼る事が一番の近道。とにかく数を増やして沢山子を産んでもらう。人数がいれば候補の産まれる確率が大幅に上がりますからね」

 どうやら誘拐しなければいけないほど嫁探しは難しいらしい。


「ではマスターの嫁候補は現在確認されていない程強力な実力者でなければいけない。そしてその候補の誕生には実力者に子を産んでもらうのが早い。だから実力者を集めてとにかく子を産んでもらえばいいと言う事ですか?」

「そう言う事です。アーク、良い友達を見つけましたね」

「そりゃ僕の友達だからね」

 意外とコアさんが褒められるのもうれしい。


「でもさアンミールお婆ちゃん、僕のお嫁さんの先祖候補……変な人が多くない?」

「……アーク、人は皆、変人なのです。普通と呼べるのはよくその人のことを知らないだけ、一部の側面しか知らないから普通に見えるだけです。心を開いた人は皆変人です。それは皆違う存在なのだから当然のこと。自分も他人から見たら変人なのです」

 変人の事を指摘したら急に、アンミールお婆ちゃんは哲学みたいな事を語りだした。

 でも正しい事なのかもしれない。僕の家族達、村人達は皆変な人ばかりだ。コアさんも一応眷属達も。それは彼等を深く知っているからかもしれない。


「何が言いたいの?」

「つまりですね。きっとアークに心を許しているから変人に見えるだけですよ。そう……きっと……」

 今の話はただ言い訳の為の前振りだったようだ。ちゃんと聞いて損した。

 あの生徒達が心を開いているからそう見えている訳がない。どう見ても生粋の変人だ。


「アンミールお婆ちゃん、あの変人な生徒達は百人が見て百人が通報する、結果的に衛兵さんも合わせて千人ぐらいが変人だと断言するレベルの変人だよ」

「……アーク、不可抗力なのです。本当です。誓って集めている訳ではありません。変人が多いことは認めますから私の趣味ではない事だけは知っておいてください」

 アンミールお婆ちゃんは目の光を消して亡霊のように言う。相当なトラウマがあるようだ。


「解るよその気持ち。気が付いたら周りが変人、辛いよね」

「本当です。望んでもいないのに決まって変人が来る。気が狂ってしまいそうです」

 眷属達について悩んでいた僕達はアンミールお婆ちゃんに同情した。

「「「うんうん」」」

 何故か村の皆も同情している。

「貴方達、解ってくれるのですね」


 僕達はまた一つ絆を深めた。




「それでアーク、この後はどうしますか? 昼食まで時間がありますが早めに食べますか? それとも軽く学都を散策したいですか?」

 少し落ち着いた頃にアンミールお婆ちゃんが聞いてきた。


「少し疲れたから早めの昼食が食べたいな」

「そうですか。早速準備しますね」

 アンミールお婆ちゃんがそう言い終わるのと同時に、この空中庭園に幾つものテーブルと簡単な調理場が現れた。


 テーブルは素材も様式も異なる様々なものがあったが、高さから全て椅子付きのテーブルだ。

 しかし椅子は一つも存在していない。座ることは前提として無いようだ。

 この場の人数にしてはテーブルの数が多く、調理場も広い事からバイキング形式なのかもしれない。


 僕の予想が正しい事を証明するように、大皿に盛られた料理が次々と運ばれて来た。

 よく見ると僕のお爺ちゃんやさっきまで近くにいた人が厨房に立っている。

 僕がテーブルを見ている間に料理を作れるなんて早い。手元に残像が出来ている。


「アンミールお婆ちゃん、この料理食べて良い? バイキング形式?」

「はい、自由に取って食べて良いですよ。そもそもアークの為に作らせたのですから」

「ありがとう。それじゃあ、いただきます!」

「「「「「いただきます!」」」」」

 僕がいただきますを言うと皆もそれに合わせて食事が始まった。


 まずは都会の野菜を食べて見よう。

 素材を活かした鮮やかなサラダをパクリ、……あれ? 思っていたのと違う。

 何と言うか僕の野菜と比べてあらゆるところが薄い。幻影を食べているようだ。僕の野菜の方が遥かに美味しい。

 これが都会の野菜……僕の舌が田舎に慣れているからこう感じるだけかな?


 今度は果物を食べよう。

 僕は果物をデザートに食べる派だから酢豚のパイナップルをパクリ、……やっぱり薄い。

 豚肉の方を食べよう。パクリ、……あれ? これも幻影のようだ。お母さんの育てた肉の方が遥かに美味しい。


 不味くは無いんだけど物足りない。

「ムシャムシャ、モグモグ、ゴクン…ムシャムシャ、モグモグ」

 そう言えば食べ物って都会で育てないよね。もしかして都会のものよりも、田舎の食べ物の方が美味しいのかな?


「アンミールお婆ちゃん、何かここの食べ物、薄くない?」

「それはユートピア村の料理が美味し過ぎるだけですよ。美味しくなかったですか? ……随分と食べているようですが?」

「いや、ムシャムシャ、美味しくはあるんだけど、モグモグ、物足りないんだよね」

 やはり都会よりも田舎の食べ物の方が美味しいようだ。


「そうだ。僕の作物を料理で使わない?」

「良いのですか? ありがとうございますね。ふふふ、アークの作物、ふふふ」

 僕が提案するとアンミールお婆ちゃんはとても上機嫌になった。アンミールお婆ちゃんは僕からの贈り物ならなんでも喜んでくれる。

 そしてそんなに喜んでくれると僕も嬉しい。


「あら、だったら曾お婆ちゃん、私の育てたお肉も使う?」

「良いのですか? こんなに良い子孫を持って私は幸せです」

 お母さんもそう言うと、アンミールお婆ちゃんはさらに上機嫌になった。

 心なしか学都全体が艶々している。


 僕とお母さんは大量の食材を調理場に置いた。


 僕達の食材を使うようになってから厨房で気合の入った掛声やら爆音が聞こえ、強い光が見えるようになったが、料理の質がかなり上がった。


 そして料理を食べた皆は上機嫌になり、お肌艶々を通り越して発光するようになった。

 喜んでくれているようで良かった。作物の作りがいがあるというものだ。


 学都も発光し出し、外から大きな喧騒が聞こえてきたが、僕は都会で初めての食事を皆と一緒に満喫した。





 《用語解説》

 ・アンミール学園の入学手続き

 “アンミールの加護”の取得。

 十八歳以下の者が【最高学都 エル・アンミール】の支配領域に入れば手続きが出来る。望むだけだ。

 アンミールに認められると強制入学だ。


 入学は十二歳からで殆どの者は十二歳で入学する。学都の支配領域では強制だ。

 十二歳以下でも死にそうな者は連れてこられ、学都で育てられる。



 ・アンミールの加護

 アンミールより与えられる加護。

 死んでもどうにかなるとんでもない効果等があるが、一番使われる能力は転移能力である。何処からでもアンミール学園の“校門”に転移でき、能力を発動した場所に戻る事が出来る。

 これによって遠方の生徒でも自宅から通学することが可能だ。



 ・アンミール学園の校門

 アンミール学園の入口。“アンミールの加護”により転移出来る。

 校門と言っても様々な形があり、学都の各地や遠方の校舎、分校に設置されている。

 これは学都が空に浮かぶ陸だからである。転移して入るのが一番現実的なのだ。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

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