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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第2章 〈アンミール学園入学〉あるいは〈都会生活の始まり〉

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第十八話 アンミール学園到着あるいは都会の喧騒

投稿が遅くなりました。

申し訳ありません。

主人公一行、やっと都会に到着です。

 

 アンミールお婆ちゃんの開いた門をくぐり、僕達は都会に辿り着いた。


 辿り着いた先は学都を見渡せる空中庭園だ。

 僕にいきなり人混みの中は辛いと判断してくれたのか、周りには一緒に来た人達と、僕を待っていたらしい思い出せないがどこか懐かしい人々だけが居た。


 僕達と一緒に来た人達も元からここに居た人達と合流し、僕達の方向を向いた。

 そして笑顔で歓迎の言葉を掛けてくれた。


「「「「「「ようこそ! 【最高学都 エル・アンミール】へ!」」」」」」



「さてアーク、さっきから気になっていたのですが、隣に居る方は何方ですか?」

 アンミールお婆ちゃんはコアさんの方を向きながら聞いてきた。

「元ダンジョン《最果て》のダンジョンコアで僕の友達だよ。コセルシアって言う名前なんだ。僕はコアさんって呼んでる」

 僕はコアさんを紹介した。


「なるほどダンジョンコアですか。道理で私と同じような気配を感じた訳ですね」

「コセルシアと申します。マスター、アーク様の友達兼能力として付き添わせて頂いております」

 コアさんは丁寧に皆に挨拶をする。

「これはご丁寧に、私はアンミールと言います。アークの高祖母でこの学園そのものです。アークがお世話になっているそうで、これからもアークの事を宜しくお願いしますね」

 アンミールお婆ちゃんも丁寧に返した。


「初めての友達出来て良かったわね。コアさん、アークと仲良くしてあげてね」

「アークに友達が出来るかと心配しておったが安心したぞ。コアさんとやら、アークを頼みますぞ」

「旅立ってからすぐに友達を作る何てやるな。流石はアタシのアークだ」

 村の皆もコアさんを歓迎してくれたようだ。僕に友達が出来た事が相当嬉しいようで、表にそれが溢れ出ている。


「何がアタシのアークだ。我輩のアークだ」

 しかし雲行きが怪しくなった。

「違いますよ。わたくしのアークです」

「いいえ、此方のアークです」

「何を言っているのですか。我のアークに決まっているではないですか」

 下らない喧嘩が始まった。


「……またですか。放っておきましょう」

 アンミールお婆ちゃんは村の皆に呆れた視線を送りながら無視することに決めたようだ。いちいち気にすると切りがないので英断だと思う。


「それにしてもアンミールお婆ちゃんは本当に学園の偉い人だったんだね。僕は名前が同じだからって話を盛っていたんだと思っていたよ」

 僕はアンミールお婆ちゃんに尊敬の眼差しを向ける。

 まだ全景を見ていないが、この空中庭園と周囲に居る人達だけでもアンミールお婆ちゃんの凄さが解る。全域からアンミールお婆ちゃんの力を感じるのでこの学園の偉い人という事に間違いはない。


「ふふふ、やっと解ってくれたようですね」

 アンミールお婆ちゃんはイタズラが成功したような笑顔で嬉しそうに言う。

 僕が今まで信じていなかった事を気にしていないようだ。初めから全て解っていたのかもしれない。


「周りの人達はアンミールお婆ちゃんの部下?」

 僕は改めて周りの人達を見ながら確認する。

「一部違いますが教員と言う意味では皆部下ですね」

「やっぱり凄いね。こんなに大勢の人達の上に立っているなんて、村の人口の何倍も居るよ」

 僕は初めて見る人の数に少し放心しながら、アンミールお婆ちゃんの凄さを再確認した。


「ここに居る者達はアークの為に集まったのですよ」

「とても嬉しいけど、こんな大人数集めてくれなくても良かったのに」

 アンミールお婆ちゃんに集められた人に少し悪い気がする。

「いえ、そうではなく。この者達は私が集めたのではなく自主的に集まって来たのですよ」

「……え?」

 予想していなかった言葉に僕は反応が遅れた。


「ここに居るのは皆アークの親族、アークの名に連なる者です。私が集めた訳ではありませんよ」

「僕の為に集まって来てくれたの? ……ありがとう、皆」

 僕は感極まる。皆は僕の感謝の言葉に対して優しい笑顔で応えてくれた。

 僕は皆の事を覚えていないが記憶には自信がある。つまり会っていたとしても一回やそこらなのだ。それにもかかわらずこんなに大勢集まって僕を迎えてくれた。嬉しくない筈がない。


「そんなに気にしなくて良いですよ。全くこの者達ときたら、私が妨害工作をして来なくて良いと言ったにもかかわらず来たのです。せっかくアークと二人仲良く暮らそうと思っていたのに」

 感極まっている僕とは対称的に、アンミールお婆ちゃんは頬を膨らませながら不服そうにそう言った。

 ……妨害工作って聞こえたのは気のせいだよね?


「「「「「アレはあんたのせいか!!」」」」」

 気のせいでは無かったようだ。大勢の被害者達が居た。

「…………なんの事ですか?」

 暫く考えるような素振りを見せた後、アンミールお婆ちゃんはそう言った。良い言い訳が見つからなかったので知らぬ存ぜぬを通す事に決めたのだろう。


「惚けないでください。ここに泊まって居た私をダンジョンの中に移動させたのは貴方ですね。通りで急いで攻略してここに戻って来た私を見て舌打ちした訳だ」

「俺なんか扉開けたら焔龍の住み処だったぞ! 殺す気か!」

「アンミール様、寝ている間に私の服を全部とても外に着ていけない物に変えたね。お陰で長い時間皆に恥ずかしい姿を見られたんだから!」

「それは部屋を出る前に気がつけよ。と言うか寝間着から着替えろ。俺は亀甲縛りで美容筋肉部の部室に置き去りにされていたんだからな。あの時の恐怖と言ったら……せめてもっとましな足止めをしろ!」


 皆相当な被害を受けていたようだ。

 美容筋肉部って何だろう? 漢女が生息していそうな名前だ。都会の学園にはそんな部活もあるのか。都会って怖い。


「…………それがどうかしましたか? 私は当然の事をしたまでです。アークとの私の仲を邪魔するのがいけないのですよ」

 今度は開き直る事にしたようだ。素直に謝れないのだろうか。

「「「「「黙れロリババア!!」」」」」

 被害者達は当然怒る。アンミールお婆ちゃんをロリババア扱いだ。まあ、間違っていないけど。


「ロリババアとは失礼な。貴方達も私と大差が無いのに」

「あるわ! 俺達の年齢を合わせて数倍してもあんたの歳に届かないだろ!」

「一般的に見たらそんなに変わりません。それに生物(ナマモノ)の貴方達とは違って、学園である私は時と共に魅力が増し続けるのです。むしろロリババアやショタジジイであるのは貴方達ですよ」

「「「「「黙れロリクソババア」」」」」

 アンミールお婆ちゃんがロリババアからロリクソババアに進化(?)した。


 アンミールお婆ちゃん達の言い争いは終息することなく激しさを増していく。

 村の皆もまだ言い争いをしている。

 皆僕の為に集まって来てくれたようだが、僕はすっかり蚊帳の外だ。


「……コアさん、二人で学都見学していようか」

「……そうですね」

 僕達は下手に争いに巻き込まれたくないので、このまま見なかった事にして都会に触れる事にした。



 いきなり都会に飛び込むのもあれなので、まずはこの都市を見渡してみる事にした。

 景色がとてもよく見える。ここは学都の中心かつ最も高い建物の一部のようだ。

 やはり都会は凄い。

 僕が想像をしたこともない光景が広がっていた。


 一言で表すとしたらここは文明だ。

 異世界にあるような高層ビル、歴史を感じさせる増築を繰り返したような城、用途不明のピラミッド、木々をそのまま利用した塔、船のような巨大建造物、数えたら切りがない、数多の文化が感じられる建造物の嵐がそこにはあった。


 これ程の文明が溢れていても景観は乱れていない。

 これ等の建造物は全て一つの建造物の中、もしくは上に存在しているのだ。

 その建造物は大地まるごとを建材として利用したかのような巨大建造物で、自然との調和が完全に取れており、まるで世の必要不可欠な要素の一つのようだ。


 幾つかの浮かぶ陸を中心にその巨大建造物は存在しており、元々はこの陸地が学都の範囲だったように見える。

 巨大建造物により陸地は繋げられ、その建造物の上に後から人工的に創られたような大地が広がり、そしてその上に数多の文化の流れを持つ建造物が存在していた。


 まるで人工的に創った世界のようだ。実際にそうかもしれないが僕にはとても人が創ったものには見えなかった。

 どう見ても自然物にしか見えない、しかし後から創りあげたようにしか見えない山々や湖が存在するのだ。それに下の建造物もとても人には創れないと思える仕上がりだ。

 仮に生物学上は人である存在が創りあげたとしても、その者は人では無いと僕には思える。


 いや、田舎で不可能と思えることを簡単に成すのが都会では普通なのかもしれない。そうに違いない。

 そう考えると不安になってきた。でも同時に期待感も溢れ出してくる。

 これが都会。


「都会がこんなにも凄いなんて、僕は都会に憧れていたけどここまでとは思わなかったよ」

(わたくし)もマスターと同じです。こんなにも素晴らし場所だったのですね」

「コアさん、僕達都会で上手くやっていけるかな?」

「大丈夫ですよ。きっと。それにほら……治安もとても良いみたいですし…………」

 そう言ってコアさんは一点を指した。


 普通には見えなかったので僕は〈千里眼〉でそこを視た。

「…………治安が良いね…………」

 その治安の良い光景に、僕はこの言葉しか言えなかった。


 僕達の変態眷属達が衛兵さん達に連行されていたのだ。

 実に優秀な衛兵さん達だ。僕が眷属達をどっかに行かせる口実で出来た隠密部隊だが、あの眷属達はいつの間にか隠密行動を本当に出来るようになっていた。それを見つけ出し捕まえるとは本当に優秀だ。

 衛兵さん、ご苦労様です。


「都会って良いところだね」

 よくよく考えてみると良いことしか起きていないので僕は立ち直った。世界が一歩平穏への道を進んだだけだ。

「……清々しい程の切り替えの早さですね。まあ確かに良いことですからわたくしも切り替えましょうか」


「でもどういう経緯でああなったか気になるね。何を話しているのか聞こえないかな?」

 僕は耳を澄ます。あの場所に行く気にはなれないので、状況を知る為にはこうするしかない。

「この距離では流石に聞こえないと思いますよ。あっ、マスター、〈地獄耳〉スキルを獲得しました……」

 コアさんの言葉と共にあらゆる声が聴こえるようになってきた。


 ~


「ハァー、今日は何故こんなにも変質者が出るのだか」

「本当だな。しかもいつもの連中じゃない。こいつらが今年の新入生だったら不味いぞ。一体いつまで付き合う事になるのだか判ったもんじゃない」

 心底疲れた様子で変態達を連行している衛兵さん達は愚痴を言い合う。

 ご迷惑お掛けしております。


「待ってくだされ。我輩は変質者ではありませぬぞ。ただ幼女の着ている下着を買い取ろうとしていただけではありませぬか」

 紳士風の青年眷属が抗議する。

 この言葉だけで変態だという事は間違い無い。口調は抗議しているようだが実際は罪を自白している。馬鹿なのかな?

「だから詰所まで連行している」

 当然衛兵さんは抗議を受け入れない。


「幼女は女性が長い人生の中で一瞬だけしか許されない至宝の極み。すぐに穢れ消える奇跡の瞬間なのです。貴殿方は林檎を腐るまで収穫せずに腐らせるのですか? そんなことはしないでしょう。今すぐに幼女の下着を集めないでどうします! 我輩のどこが悪いと言うのですか!?」

 紳士眷属は両手を拘束用のロープで縛られたまま、演劇のように派手な身振り手振りで熱説する。

 この眷属は馬鹿ではなかった。変態と言う名のもっと酷い存在だ。


「全部だよ! 黙ってついてこい!」

 衛兵さんは眷属を拘束しているロープをグイグイと引っ張りながら連行を続ける。

「そんな横暴な! 我輩はそんな弾圧に屈しない! イエス! ロリータ! ノータッチ! いや! ワンタッチ!」

 眷属は狂信者のように狂った信念を訴えながら連行されて行く。


「そうです横暴です! 儂が何をしたと言うのですか? 全裸の何が悪い。人はこれが自然の状態です。貴殿方は人が産まれながらに罪人だと言っているのですぞ! 赤ん坊に罪がある筈無いでしょう! それに貴殿方は身体を洗わないのですか? 皆全裸になるでしょうに! 全裸が犯罪だと言うのならそれを隠す服を着た者達の方がよっぽど悪質だ! 恥を知りなさい!」

 ユジーラも抗議する。最後の方は何故か説教風だ。

「「「そうだそうだ!」」」

 他の全裸な眷属達もそれに同調した。

「時と場合を選べ! この変態共が! 大人しく恥部を隠してついてこい!」

 流石に衛兵さんはキレた。しかし勢い的に衛兵さんの方が劣勢に見える。心身の疲れが影響してしまったのだろう。


 しかしもっと心身共に被害を受けている衛兵さんも居る。

「それにしても貴方、良い身体よぉねぇ~。ス・テ・キよぉ~。引き締まったお尻。ワタシ大好きなのぉ~。後でゆーっくり取り調べしましょぉ~」

「ヒィッ! 触るな! 離せ! 誰かー! 衛兵さーん!」

 太い口紅を引いたムキムキのオネェ系眷属が衛兵さんを弄って……お触りしていた。

 衛兵さんは恐慌状態に陥り自分の職業を忘れ、衛兵を呼ぶ始末だ。周りの同僚達はそんな彼から離れ機械のように職務をこなしている。……きっと忙しいのだろう。オネェ系眷属の目線から逃げているように見えるのは気のせいだ。


 他にも多数の変態眷属達が衛兵さん達に迷惑をかけていた。

 後でお詫びに行った方が良いかな? いや、止めよう。僕達が変態の関係者だとバレてしまう。そうなれば僕達の都会生活は社会的におしまいだ。それにこれが彼等の仕事だ。そう、しょうがないのだ。きっと……。

 こっそり作物を届けるぐらいにしておこう。アンミールお婆ちゃんに頼めば衛兵さんの給料上がるかな? 頼んでみよう。

 ごめんね。衛兵さん。貴方達の犠牲は忘れない。


 ~


「……それにしても、変態達があんなに騒いでいるのに都会の人達はあまり気にしていないね。明らかに動揺している人達は僕達と同じ今年の新入生に視えるし、都会の人達は精神力も強いのかな?」

「……多分……あれが原因ではないですかね」

 コアさんは心ここにあらずといった様子である場所を視ている。


 僕もそこを視ると原因が解った。

 僕達が何も関わっていない変態達がいたのだ。視界を広げるとあちらこちらにいる。

 変人を入れたら比喩抜きで数えきれない程居た。


 美術科と書かれたプラカードを持ち新入生を勧誘する、化粧をした男子生徒。同じプラカードを持ちながらこっそり薄い本を配る女子生徒。配られた新入生が顔を赤くしている事からまともな本では無いのだろう。

 耳を澄ませると「あなたも新しい世界への扉、開かない?」や「可愛いわ~。カワイガッてあげるからうちに来てね」、「腐腐腐、男同士って興味ない? こういう本がいっぱいあるわよ。まれに見れるし」等と不吉なことを言っている。


 他には騎士科と書かれたプラカードを持っている重装備の生徒達は、「私の防御力を見せてやろう! さあ私を攻撃したまえ!」と叫び、攻撃を受けては顔を紅潮させ息を荒くしている。

 男女問わず大勢この状況になっているが、とくに姫騎士さん達なんかは色々と凄い。絶対に近づいてはいけない……見てはいけない類いの状態になっている。


 王侯科の女子生徒達は騎士科とは逆に、プラカードを持っただけで勧誘する事なく、騎士科に鞭を浴びせる事に夢中になっている。

 彼女達が「オホホホホッ!」と悦に入った笑い声をあげながら鞭を振るい、受けた者達が「ありがとうございます! ありがとうございます!」と叫んでいる光景は異常過ぎた。

 周りにそんな学科に入りたそうにしている新入生がいるのはさらに異常だと思う。


 まあどの学科にも止めている人がいるから全員が変態という訳では無いだろう。

 しかし偏った人材が多すぎる。

 これは都会の多様性に起因するのだろうか?


「……都会って凄いね」

 僕はこの一言で心を落ち着けさせた。変態眷属達のせいか変態による衝撃からすぐに立ち直れる自分が怖い。

「……そうですね。深く考えるのは止めましょう」

「元々は都会がどういうところなのか調べていたんだもんね。そっちの方を視ようか」



「まず気になったのですが、何故この時期に学科の勧誘をしているのでしょうか? 異世界情報ですが、春は入学式の季節だと思うのですが?」

 コアさんが早速気持ちを切り替え着目点を変える。

「そう言えば変だね。異世界の入学式は違う季節でもやるみたいだけど、ここは僕の知っている限りだと近々入学式みたいだし、この季節だったら部活動の勧誘だよね。なんで学科の勧誘なんかしているのだろう? そもそも幾つ学科があるんだろうね?」


 学科はプラカードを軽く視渡す限りでも、冒険科、魔術科、武術科等の戦闘系。貴族科、王侯科、騎士科等の身分系。他にも農耕科、商業科、美術科、建築科等数多に学科が存在していた。

 変わり種では勇者科や魔王科まで存在している。

 何故か普通科のプラカードは視当たらない。プラカードを掲げるまでもないのか、存在しないのか僕には判らない。


「そう言えば、この学園に入るのに試験等は存在するのですか?」

「……無いと思うよ。アンミールお婆ちゃんからは何も言われて無いし、英雄譚(ライトサーガ)の中でもアンミール学園の試験なんて聞いたことが無いからね。試験なんか無いよ……きっと」

 コアさんの言葉で気が付いてしまった。入学試験というものの存在に。都会に出る事ばかりに意識を取られ、試験の準備どころか存在すら忘れていた。

 もし試験があったらどうしよう……。


「でしたらこの学園は誰でも入学できるのですかね?」

 コアさんのこの言葉で僕を包みかけていた暗雲に光りが見えた。

「さっき罪悪科って書いてあるプラカードがあったから、誰でも入学できると思うよ」

 この学科の存在を思い出したからだ。名前通りの学科ならば驚異の受け入れ体勢である。試験なんかが存在する筈が無い。

「……そんな学科まであるのですね」

 若干喜んでいる僕と違い、コアさんは通常通りの反応をした。呆れだ。


「そう言えば先程は視なかった事にしたのですが、斬新な新入生の方が居ましたよ」

 コアさんがそう言うので僕は年齢的に新入生で斬新な者を探してみた。


 各種変態、見た目だけで判る厨二病患者、コスプレイヤー、マッドな職業病患者、既に戦闘を始めている戦闘狂い、等々…………。


「……コアさん、どの斬新な新入生? どう少なく見積もっても半数以上が斬新なんだけど」

「……そうでしたね。……都会って凄いのですね」

 ついにコアさんまでもがこの言葉に頼りだした。

「「…………」」

 暫しの間、言葉的にも精神的にも僕を沈黙が支配した。


「ふぅー、で、どの人の事を言っていたの?」

 深呼吸をして落ち着いた僕は改めてコアさんに聞いた。

「ふぅー、あの護送車の中に居る方々です」

 コアさんはその場所を指差す。


 そこにはガチガチに堅めた護送車があった。

 重厚そうな黒紫色のアダマンタイトで形が造られ、銀よりも銀らしい白銀に輝くミスリルで簡単な装飾が施されている護送車だ。それがクレタの牡牛(クレタンブル)に引かれ、エンジェル達に護衛されている。

 アダマンタイトは物理対策、ミスリルは魔術対策、エンジェルはスキル対策であろうか? とにかく過剰な程の堅牢さだ。


 窓も一切なく、扉もどこにあるのか判らない。

 護送車全体がうっすら光っていることから魔術的な防御手段も何重にも施されているのだろう。

 一体何が幽閉されているのだろうか?


 中を覗いてみる。

 中にはギッシリと拘束具に固められた凶悪そうな人達が、動ける範囲で抵抗し暴れていた。

 ……もう視るのは止めよう。



「何の話しをしていたんだっけ?」

 都会では次から次へと新しい事に意識が持っていかれるようだ。

「何でしたっけ? 何にしろ今日はもう休みたいのですが」

 ダンジョンコアだったコアさんですら都会を視ただけで疲れたようだ。僕も疲れた。

「そうだね。休もうか。まだ皆は喧嘩しているみたいだから、勝手にそこら辺で休んでいようか」


 僕達は景色のあまり見えない奥の方へ移動する。


「これから暫くはあの人達とこの学園で暮らさなければいけないのかな?」

「その答えは聞かない方が良いと思いますよ」

「そうだね。ハァー、これから僕達は都会に揉まれていくんだね。精神的に持つかな?」

「その答えも聞かない方が良いですよ」

 僕達は黄昏ながら話し合う。コアさんなんか目が死んでいる。まるで機械のようだ。


「兎も角今はゆっくり休もうか。すぐに都会の人達に振り回されそうだし」

「ゆっくり休みましょう。精神力を回復させなければやっていけません」

「じゃあ休める環境を創ろうか。ここは植物が少ないからね」

「ん? 今何か不吉な事を言いませんでしたか」

 コアさんの目に少し光りが入った。回復早いね。僕も早く休まねば。


「“汝、豊穣なれ”」

 僕は制御ゆるゆるで豊穣の力を振り撒いた。いつもよりかなり多く出ている気がする。

「ちょっ! マスター! 今すぐに――――」

 豊穣の光りと共にコアさんの声はかき消えた。内容は後で聞こう。


 風のような豊穣の光が世界を撫でる。

 一瞬にして世界は豊穣となった。何故か静寂のおまけ付き。

 これで休める。静かで風が気持ちいい。癒される。


 しかし気の休まる静寂もすぐに終わった。


 周囲からすぐに激しい叫び声のような喧騒が聞こえて来た。

 地獄耳を使わなくても聞こえる程大きい。


 コアさんは突っ立ったまま放心。


「アーク!!」

 そして何故かアンミールお婆ちゃんの怒る声。


 はぁー、都会は騒がしい。

 僕の都会生活は今始まったばかりだ。




 《用語解説》

 ・アンミール学園の普通科

 無い。



 ・アンミール学園の入学試験

 無い。



 ・アンミール学園の普通の人

 全ての平均値から見たら居ない。




最後までお読み頂き、ありがとうございます。

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