第十七話 理想の武器あるいは学都へ
僕達は飛行を続け既に次の領域に入って居た。
予想外の速さだ。
これには椎の二の働きが大きく関わっている。生み出した化け物が順従に僕達に従い、道を塞ごうとする存在を尽く倒したのだ。
化け物が生み出した化け物も僕達に従い、力は弱まっているが十分な戦力として活躍していた。
そこに触発されたのか眷属達も自発的に現れ参戦した。これにより遠く離れ場所からも道を塞ぐ存在はいなくなり、飛行速度を上げられるようになった。
しかし実に快適な飛行にも一つだけ問題がある。
景色が終末戦争のようなものになってしまったのだ。
大地は血と臓物で汚れ、空は絶叫で支配されている。鉄錆びの匂いが凄い。
そして其処らじゅうに増殖した樫の化け物が闊歩している。黒く変色した返り血に塗装され、幾度もの戦闘で肉体も崩れかけ、景色をより恐ろしいものへと変えていた。
この領域に現れるのはフェンリルやドラゴン、キマイラにスキュラ、ケルベロス等の亜種のようで、完全に名前負けした動物に劣った何かだった。
物語ではとても強い存在の名だった気がするが、此処のは田舎モデルなのかそんなに強くない。眷属達でも数人いれば倒せる程度の強さだ。さっきは料理眷属達に倒されていた。
その代わりに数はかなり多いが、化け物達の能力や僕達の射撃で味方の数の方が圧倒的に多い。既に戦闘がタコ殴り状態だ。
しかし化け物達の数は次第に減っていた。よく観察してみると激しい戦闘をするごとに、化け物の元となった肉体は痩せ細り、最後は椎の木だけになってしまうのだ。肉体の再生もしない。
木の部分は幾らでも再生するが、肉体の養分を使っているために肉体が無くなると木も枯れてしまう。
世代を経た個体程、元の肉体が弱い程早く倒れてしまい、当然早くに生れた個体も時間の経過で崩壊してしまう。数は減り続けていた。
だが問題は無いだろう。もう周囲を視ても敵が殆ど居ない。
大地から突き出す土人形に光る風が入り込み、新たに現れることもあるがそれも大した数ではない。
「コアさん、そろそろ眷属達に帰ってもらう?」
「何故ですか? 居たままでも良いと思いますが」
「ほら、もうすぐ次の領域に入るでしょ。もし其処に強力な魔物でも居たら、僕達二人の方が逃げやすいから」
「ああ、次の領域は魔物が出ますからね。確かに素早く動くには二人の方がいいかもしれません。引っ込めて良いと思いますよ」
僕達がそんな話をしていると、目の前にサカキとナギが姿を現した。恐らく内容をどうやってか知って来たのだろう。相変わらず仕事が早い。そしてビックリする。
二人は僕達の方を見ながら一定間隔を空け、後ろ向きに飛行している。しかも直立したような姿勢で……。
この二人を僕はどう評価すればいいのだろうか。優秀の一言で済ませて良いこと、ではないことだけは確かだ。
「我等眷属達への帰還命令、全眷属に通達致しますか?」
「うん、お願い」
「「畏まりました」」
二人はそう言い残すと僕達の前から姿を消した。
それから数分もしない内に眷属達は僕の無限収納に帰還した。
「じゃあ、次の領域までは新しく作った武器の試し撃ちをしよう。さっきは殆ど使えなかったから」
「使うのは私の好みので良いですか?」
「勿論それで良いよ。じゃあ今まで開発した武器一式を渡すね」
僕はそう言うと一本の椎の木を生やし、枝一つ一つを品種改良して新たに“椎シリーズ”を作り出した。
「……本当に作るのが早いですね」
「木工は僕の得意分野だからね。同じような材質なら一本の木から枝の数だけ同時に作れるよ」
そう言いながら僕は銃を渡した。コアさんは二つだけ残してそれ以外を異空間にしまう。
「ありがとうございます。では早速使わせてもらいますね」
コアさんはドォゴーンと言う音と共に、銃から爆炎とメタリックなどんぐりを撃ち出した。
これは“椎の八”、金属質な重いどんぐりの銃弾を打ち出せる銃だ。銃身の仕組みは椎の一などとほぼ同じだが、弾が燃えにくいので本物みたいに火薬のオプションが付いている。その為従来のものよりも弾の速度が速い。
因みに“椎の七”はこれに火薬のオプションが付いていないもので、どちらもコアさん発案の“椎の銃”だ。
爆炎に包まれた銃弾は赤熱し、やがて爆炎を突き抜け加速し続ける。
進む先の遠方に居るのはデーモンだ。
人を馬鹿にし見下すような表情を浮かべる頭部には、山羊のような形の漆黒の角が生え、眼は赤黒く光っている。痩せた人間のような形状の身体からは蝙蝠のような翼、長い鞭のような尾を生やし、指先にはナイフのような鉤爪が伸びる。
何故か何処か怯えているように見えるが、流石に気のせいだろう。
紅い光りで軌道を描く弾丸はデーモンを貫かんと突き進むが、デーモンが纏わりつく煙のような結界を発動したことで防がれてしまった。
防げたことに満足したのか、デーモンはさっきまでの表情がまともな表情に見える程に、ニターと悍ましい笑みを浮かべる。
ドォゴーン! ドォゴーン! ドォゴーン! とコアさんは続けて撃つが、今度は結界を張ることなく自然体ではじいてしまった。
今の表情はこちらを嘗めたものだったようだ。
「う~ん、やっぱり本物の武器に全然及ばないね。見掛けは良いと思うんだけど、実戦だとゴブリンも倒せないかも」
少し不安になりながらも、僕は心情抜きで銃を評価した。
「……そうですかね。私は魔物相手に使えると思うのですが……」
「コアさんもそろそろ正確に魔物のことを知った方が良いよ。命に関わる事だし、都会だと田舎者だってバレるかもよ」
「……次は“椎の九”で撃ってみますね」
コアさんは僕の話を真剣に聞いていないようだ。すぐに話を変えた。
ドゥォゴォーン! コアさんが椎の九の引き金を引くと、大爆音が鳴り響いた。吹き飛びそうな音だ。
銃口からは完全燃焼により生み出された澄んだ爆炎が吹き荒れ、そこから今にも崩れそうな灼熱の銃弾が貫く。銃弾は前方の養分を吸収し巨大に成長していくことでかろうじて形を保つことに成功する。
デーモンはこの攻撃には驚き結界を発動し、銃弾は結界にぶち当たり熔けた鉄として辺りに飛び散ってしまった。何発か連射するが結果は同じだ。
椎の九は巨大に成長する鉄のどんぐりを撃ち出す武器だ。
重力で撃ち出したどんぐりが成長して巨大化する“椎の六”の改良品で、どんぐりに鉄の性質を持たせ、巨大化することで銃弾の速度が下がらないよう、莫大な量の火薬で速度を上げている。
これらの結果、熔けた鉄を相手にぶつける武器となった。
「これも使えないね。熔けた鉄なら足止めには丁度良いと思ったんだけど、結界を張られたら意味が無いね」
「……武器に問題があるのではなく、デーモンが強いだけと思うのは間違いですか」
「そんな筈が無いよ。さっき料理眷属達に手も足も出ずに倒されていたから」
「う~ん、それもそうなんですが。私の規準がおかしいのですかね」
おっ、少しはコアさんも解ってきてくれたようだ。まだ完全には納得がいかないようだが、この調子ならばもうじき理解してくれるだろう。
「じゃあ次は僕が撃つね。まずは“椎の五”から、バン!」
僕が引き金を引くと銃口から無音でどんぐりが飛び出し、周囲の重力加速度を奪いながら加速度を上げていゆく。
そして茶色の軌跡を描く超スピードの銃弾は、慌てて結界を張ろうとして突き出されたデーモンの手に突き刺さった。どんぐりは手で炸裂している。貫通こそしていないが初めてのダメージだ。
「これは惜しいね。でもやっぱり使えないかな」
ダメージは与えられたが僕はそれを素直に喜べない。何故ならこの銃は連発が効かないからだ。
周りの重力加速度を奪い動力としている為、一発放つと同じ場所では銃弾が壊れ重力が元に戻るまで使えない。一撃必殺の威力を持っていなければ割に合わないのだ。
「そういえばその銃の銃弾が金属版は無いのですか? あればデーモンを貫けるそうですが」
「無いし作る予定も無いよ。この銃は銃身じゃなくてどんぐりの方に重力加速度を集める細工をしているから、どんぐりが壊れるまで奪われた場所に重力が戻らないんだよ。金属質のどんぐりじゃ壊れるか怪しいからね」
僕が製造を断念した理由を告げる。
「重力が戻らないと考えると恐ろしいですね。この銃の仕組みだと壁でもない限り止らず銃弾を回収するのは困難、つまり重力を戻せないどころか被害が増え続ける。ですが金属どんぐりは本当に壊れないのですか? 簡単に凹むぐらいしそうですけど」
コアさんは被害を想像したのか冷や汗を流しながら理解を示した。しかし一部引っ掛かるようだ。
「実は金属質にした植物の種で作った物から芽が出て育つんだよね。多分凹む程度だと全然壊れた内に入らないよ。火で融かして鎚で叩いて作った物から芽が出たんだから」
僕は種の生命力ことを誇らしげに言う。普通に説明するつもりだったが自然とこうなっていた。
「…………永遠に重力は戻りませんね」
しかし少し長い沈黙の後、ボソッとコアさんの口から出たのはこれだけだった。
「じゃあ、本命の武器、“椎の三”と“椎の四”の試し撃ちに移ろうか」
コアさんの種の凄さに意識が向けない、無理に逸らしているかのような反応で、少し落ちこんだ僕の気を入れ換える為に次に進んだ。
“椎の三”と“椎の四”、この二つの武器は敵を倒す為の物ではなく、敵を追い払うもしくは逃げる時間を稼ぐ為の物だ。
「バン!」
僕は椎の四の引き金を引く。椎の実の銃弾は無音で銃口から飛び出すと速度を増しながらデーモンに向かって進む。
デーモンは防ぐ素振りを全く見せない。
結構距離は離れているが銃弾の速度はどうやっても先程までの速度と比べて劣っている。銃弾も金属質ではなく普通のどんぐりだ。警戒しないのも無理はない。
デーモンはこちらを見ながらニタニタと三日月のように口角を上げ、僕達を嘲笑っていた。
しかし銃弾が鈍くコツン当たり跳ね返った次の瞬間、デーモンは嘲笑を止め慌てて結界を張った。
どんぐりが発芽したのだ。一瞬で生えてきた無数の根やら枝やらは結界の上からデーモンを拘束しようと覆う。
結界はミシリミシリと亀裂が入り、デーモンはそれを必死の形相で修復し維持をしている。
「おおー、これは成功だね。ちゃんとデーモンを拘束して足止めができているし」
僕は笑顔でコアさんの方を向きながらこの結果を喜ぶ。
「そうですね。ですが……これ、足止めではなく攻撃ではないですかね?」
コアさんはデーモンから目を離さずに答えた。
ん? 攻撃? そういえば叫び声が聞こえる。
僕がコアさんの見る方向を見ると、あちらこちらを椎に締め付けられたデーモンが咆哮を上げ暴れまわっていた。椎を引き剥がそうと必死だ。
椎にやられたのか自分でやったのかは判らないが、口等から黒に近い赤色の血を流している。
確かにこれは足止めと言うよりも攻撃だ。さっき試したどの武器よりもダメージを与えている。
「……何で?」
僕はデーモンを見たまま疑問を口にする。
「私が知る訳ないではありませんか。私の方が聞きたいですよ」
少し非難するような言い方でコアさんに言われた。僕も混乱しているのだから人のせいにしないで欲しい。
『ギュワァァーー』
一際大きい咆哮と共にデーモンは椎の拘束を破った。
椎とデーモンは黒い焔で燃えていた。デーモンは自分ごと椎を焼き払ったようだ。デーモンはぼろぼろである。
「……うん、拘束は解けたしそんなに大したものじゃないよ。攻撃じゃない、きっと……」
「マスター、現実逃避は止めてください」
「さて、椎の三の試し撃ちをしようか」
「マスター、話を変えるのは止めてください」
敵を倒す武器を作れば失敗し、敵を追い払う武器を作れば倒す武器ができる、僕は一体どうすれば良いのだろうか?
「バン!」
僕は気を紛らわす為に椎の三を撃った。
デーモンはまた必死の形相で結界を張るが、銃弾は当たっても何も起きなかった。結界に当たった銃弾はポトリと地面に落ちた。
「バン!」
二射目を撃つ。
「バン!」
続けて三射目も。
「バン!」
僕はデーモンに直接当たるまで撃ち続けた。
そして結界が必要ないと判断し解いたデーモンにどんぐりが当たる。
するとどんぐりはポトリと地面に落ち、デーモンは銃弾の進んでいた方向に動き始めた。
椎の三は相手の重力ベクトルの方向を当たった瞬間の銃弾と同じ向きにする銃弾を放つ、相手を追い払う武器だ。
デーモンは動かないように地に足を着け踏ん張ろうとするが、逆に上方へと行ってしまう。重力ベクトルが変り通常の重力が無くなったからだ。
重力の向きが変わった今のデーモンにとって地に足を着ける行為は、垂直の崖に真っ直ぐ立つのと変わりない。しかも落ちる先に限りが無い状態だ。
そしてデーモンは見えなくなるまで加速し、どこかへ消えていった。
「大成功だね、コアさん」
僕は満面の笑みを浮かべてコアさんに言った。
これは完全に想定通りの完璧な結果だ。しかも二人で考えて作った作品である。嬉しく無い筈が無い。
「ええ、これは大成功ですね」
そんな僕にコアさんも満面の笑みで応えてくれた。
「ですが、改良すべき点が一つ」
「うん? 何?」
思い通りの品だったのにどこに欠点があったか判らない僕は、少し困惑しながら聞いた。
「口でバン!と言わない方が良いという事です」
下らない事だった。
「パン!とかズキューン!の方が良い?」
「口で言う音の問題ではありません。それにズキューン!は違うと思います」
「じゃあバキューン!の方が良い?」
「だからそこではありません。口で言うのはどうかと思うと言うことです」
どうやらコアさんは口で効果音を入れるのが嫌なようだ。そういえばコアさんの使った銃は全て火薬の音付きの物だった。
「そこは好みの問題じゃない?」
「まあそうですが、世間的にやらない事だと思いますよ」
「僕は武器と言うよりも玩具に近い銃に火薬を容れて、威力に全く釣り合わない大砲よりも大きい音を出す方がどうかと思うよ」
「すみませんでした。この話は無かったことにしましょう」
好みは人それぞれなのだ。強要するのは良くない。
椎の三を駆使しながら進む内に、僕達は次の領域に入った。
「コアさん、ここには魔物が出るんだよね。慎重に移動しよう。因みにどんな魔物が出てくるの?」
僕は辺りを警戒しながら聞いた。
「……あんなのが出ます」
コアさんは遠方の草原を指差した。
僕は指差す先をを視る。
そこに居たのはゴブリンだった。
あらゆる物語に出てくるあのゴブリンだ。濃いめの緑色の肌をした小さい人型、尖った耳に尖った鼻に尖った爪、服装は葉で出来た腰巻き武器は棍棒。想像通りで書いてある通りの姿をしていた。
僕はゴブリンの情報を思い出す。
スライムと並び最弱の魔物と言われるが、スライム同様進化した種族が無数に存在し、世界中何処にでも現れる。
最大の強みはその繁殖力による数の力で、最弱と言えど何度も人類を脅かし、時には国一つ亡ぼすこともあると言う。
人類に一番被害を与えてきた魔物だとも言われている。
そんな魔物が僕達の比較的近くに存在していた。
「ど、どうしようコアさん。ゴブリンだよ、ゴブリンがいるよ」
僕は喜びと興奮、そして緊張の混ざった声で言う。
物語の人々と同じ場所に立てたのだ。しかし危険な魔物である。どう反応するのが正しいのか判らない。
「そ、そうですね」
コアさんが少し脅えたような声音で言う。
「どうしたの、コアさん?」
「あれ、私の知っているゴブリンと違うのですが……。何です、あの邪悪な存在は」
「ゴブリン、魔物だよ」
「魔物とはあのような存在なのですか。マスター、ここは慎重に行動しましょう!」
コアさんがやっと魔物の怖さを理解してくれた。すでに僕よりも警戒している。
でも何で今更? ゴブリンを配置するときにカタログを見ただけで召喚したのかな?
そしてゴブリンを視ているとその隣に光が集まりある形を形成してゆく。
プルプルとした半透明水色のゼリー状、中に何の臓器も視られない、しかし生きている。
スライムだ。あらゆる物語に出てくるあのスライムだ。
繁殖力こそゴブリンに及ばないが、その種族の多さは全ての生物に勝り、人と共存することも多いあの魔物だ。
「コアさん、スライムだよ、あのスライムが彼処にいるよ」
僕は最弱の魔物コンビの出現に緊張感は薄れ、喜びと興奮を抑えられなかった。
「マスター! 何をしているのですか! 魔物が二体ですよ! 二体! もっと緊張感を持ってください!」
一方コアさんは大慌てだ。完全にさっきと立場が逆転している。
「解っているよ。あの二体を倒してこそ、物語の人達に並び立てるからね」
僕は真剣に力ある言葉でコアさんを落ち着かせる。
「どう倒しますか? 作った銃では手も足も出せそうにありませんが」
「村で貰った武器を使うよ」
僕は思い描く。
理想の光景は、障害を打ち破ること。
僕達の邪魔は誰にもさせない。何処までも道を拓け。
僕は思い描く。
理想の道、勝利への道を。
勝利に犠牲は必要ない。むしろ豊穣を。
僕は思い描く。
理想の武器、僕の武器。
全てに豊穣あれ。
「我が元に顕現せよ“理想の豊穣”」
僕の中に新たな力が生まれた。豊穣なる武器、僕の名の一部を持つ力だ。
凄まじい力が目覚め、僕の周囲に溢れだす。
僕が村の皆から貰った武器、“理想の武器”は形の無い武器である。目覚めさせた瞬間に持ち主の望んだスキルのような力となり、理想に沿った武器を使えるようになる。
村を出る少し前に儀式のようなものをして授けられた。
「“我が武器よ汝は弓矢なり”」
僕の武器に形を与える。僕が望む形状は弓矢だ。
僕から力ある光が溢れだし、武器の形に集まり出していく。
そして姿を現した。
………………巨大なバリスタが。
「マスター、この非常時にふざけているのですか。こんな巨大なバリスタでどう闘うというのです」
コアさんが呆れた視線を僕に向ける。
ご意見ごもっともです。
僕だってどう闘えば良いのか聞きたい。
しかしコアさんの口撃は止まらない。
「バリスタは攻城兵器の類いですよ。巨大なものを相手にする時に使う武器です。しかもこれはその中でも巨大なものですよ。どうやって小さな魔物に当てるというのですか? こんなに巨大な槍が飛んで行ったら少し動ければ避けられますよ。そもそもこれはどう使うのですか? 人力では使えないと思いますが」
コアさんからみたら僕がバリスタを選んで出したように見えたのだろう。
「僕もそう思うけど貰った武器を使ってみたらこうなったんだよ。普段は形が無い武器で望んだ形になるんだけど、弓矢を思い浮かべたらこれが出てきたんだ」
「普段は形が無いのですか。全くマスターは普通の物を持っていないのですか。では他の形に出来ないのですか?」
コアさんは僕の言い分を解ってくれたようだ。早速解決案を出してくれた。
「やってみるよ。“我が武器よ汝は剣なり”」
本当は遠距離から安全に闘いたかったが、結局倒せなければどうにもならないので剣を選んだ。
バリスタは光に戻り、剣の形に再集合していく。
そして姿を現した。
………………巨大過ぎる大剣が。
「何これ? 何キロメートルあるの? 横も長いし」
大剣の先は雲を突きぬけ何処まで在るか判らない。
「これは武器なのですか? この持ち手は巨人でも持てないですよ。山や都市をかち割る用ですかね?」
「他の武器にしてみるね」
僕は色々と試した。
槍を望めば柱何本分もの太さと長さを誇る巨槍となり、鎚を望めば攻城鎚が現れ、籠手を望めば何故かカタパルトが現れた。
一個人として使うのにあまりに実用的ではないものばかりだ。バリスタがまともに思える。
「何故攻城兵器のようなものしか出ないのでしょう?」
「僕も知らないよ。取り扱い説明書でもないのかな?」
僕がそう呟くと砦の形になっていた僕の武器が光に戻り、一冊の本に成った。
「……説明書、出てきたね」
「……これは通常サイズなのですね」
開かれているページにはご丁寧に攻城兵器になる場合の事が書かれていた。
「えーと、なになに……使用者がダンジョンや都市等の領域の場合、もしくはその力を強く持つ場合、当器は攻城兵器に成ります……だってよ、コアさん」
僕はコアさんを作り笑顔で見ながら説明書を読み上げてあげた。
「わ、私のせいですか!?」
「ここに書いてあるけど」
僕は作り笑顔のままで言う。
「マ、マスター、ゴブリンとスライムが! 凶悪な魔物二体が彼処に! 早く倒しましょう!」
コアさんは見え見えの演技で話を変えようとする。
「どうやって? 僕の武器、攻城兵器だけど」
「そ、それは……バリスタでいきましょう! 城壁を破れるのなら魔物なんてすぐに倒せます! いやー良かったですねー、強い武器を手に入れられて」
「コアさん?」
僕は作り笑顔のまま力ある声で言った。
「ひっ!、不可抗力とは言え、申し訳ありません!!」
謝りながら自分を弁護することを忘れないところがコアさんらしい。
「コアさんが意図してやった事じゃないし、これ以上僕から言うことはないよ」
結局、今の僕達に魔物を倒す手段はバリスタぐらいしか存在しないので、コアさんの意見を採用した。
僕は説明書をバリスタに戻す。
説明書はすぐ光に変り、巨大な不死鳥のような形になる。
そしてバリスタの姿に成った。
僕のバリスタは首都の城門でも突っ掛かる程の大きさの弓部分と、巨大な槍を乗せるレールから構成されたものだ。宙に浮かんでいるので下に車などは存在しない。
所々にハンドルやレバー等があり、恐らくこれらをどうにか操作して槍を撃つのだろう。
青と白を基調としたその色合いと、翼を広げ羽ばたきそうな形状は大空を意識させる。
「コアさん、バリスタってどう撃つの?」
「確か一般的なバリスタは、牛等の力の強い生物に弦を引っ張らせて発射するのだと思いますが」
「そんな動物いないよ。それに操作する出来る部分が多いけど、ここら辺はいじらなくて良いの?」
「正直、正確な操作方法は全く解りません。宙に浮かんでいますし、意外と念じるだけで良いのかもしれませんよ」
「確かに普通のバリスタっぽくないよね。やってみるね“発射”!」
僕がそう命じてみると、僕の力がバリスタに流れていった。これは当りのようだ。
僕の力をある程度吸ったバリスタは優しい黄緑色に輝き、ゆっくりと作動し始めた。
まずハンドルやレバーやらが勝手に動き、レールが魔物の方を向き伸びた。そして巨大な槍は黄緑色の光で一際輝き、一番後ろにある歯車のようなものの回転により弦と共に後ろに下がる。
そして弦がレールの一番後ろに到達すると、一気に解き放たれた。
シュパンと光を放つ巨大な槍が発射される。
大空は優しい黄緑色に染まり、巨大な槍が通り過ぎた後には豊穣な土しか残らない。全てを穿ち土に還しながら突き進む。
進路上に何が在ろうと関係ない。草であろうと木であろうと、岩であろうと丘であろうと、速度も進路も変えることなく突き進む。
槍はゴブリンとスライムに何の抵抗も赦さず土に還した。
当たったという感じが全くしない。何事もなかったかのように魔物の存在を消し去った。
槍は何処までも彗星のように突き進んでいく。
僕達の勝利だ。
「コアさん、やったよ! あの魔物達に勝てたよ!」
僕は大喜びではしゃぎながらコアさんに笑顔を向けた。
「はい、やりましたね」
コアさんも笑顔で応えてくれた。短い言葉だがそれで十分だ。気持ちが伝わってくる。
僕達の勝利を祝うかのように、バリスタに荒らされた大地に花木が戻った。元よりもより豊穣に。
そして勝利の実りに浸っている僕達にふわりと風が吹いた。
発生源は僕達の前方だ。
「ふう、やっと見つけましたよ。アーク」
そこには笑顔で佇むアンミールお婆ちゃんが居た。
その周りにはよく思い出せないがどこか懐かしい人々が居た。
堂々とした態度の全裸少年、オドオドとした態度で股間を隠す涙目の偉丈夫、この辺りを懐かしいと思うのは悔しいが僕の何処かにしっかり刻まれている。
そして僕の村の皆が居た。
「アンミールお婆ちゃん、久しぶり。……皆、何で此処に居るの?」
僕はアンミールお婆ちゃんに笑顔を向け、村の皆を半眼で見た。
「そ、それはアークの入学式に出る為よ」
「偶々、そう偶々アンミールに会ったから一緒に来たんだ」
村の皆は目を泳がせながら口々に言う。
怪しい。もしかしてずっとつけてきたって事はないよね? 流石にそれはないか。じゃあ本当のことかな?
「……そうなんだ。アンミールお婆ちゃん、そっちの人達は?」
「貴方の親族みたいなものです。これから行く学園の教師でもあります」
アンミールお婆ちゃんがそう言うと、紹介された人達は僕に一礼した。僕もペコリとお辞儀する。
「さて、積もる話は学都に着いた後にしましょう。“校門”」
アンミールお婆ちゃんがそう口にすると、アンミールお婆ちゃんの後ろに光の穴が現れた。
僕達はその穴に一歩踏み入れた。
《椎の銃》
・椎の一
自然重力式どんぐり射出機。
・椎の二
自然重力式化け物製造どんぐり射出機。
・椎の三
自然重力式重力ベクトル変更どんぐり射出機。
・椎の四
自然重力式網状椎どんぐり射出機。
・椎の五
自然重力拘束式どんぐり射出機。
・椎の六
自然重力式巨大化どんぐり射出機。
・椎の七
自然重力式重金属どんぐり射出機。
・椎の八
自然重力火薬式重金属どんぐり射出機。
・椎の九
自然重力火薬式巨大化重金属どんぐり射出機。
全てに共通するのは銃弾であるどんぐりの重力ベクトルを、銃口方向に変更して銃弾を撃つという仕組みで、アークの付与により壊れるまでほぼコストなしで撃ち続けられる。
生きた銃であり陽の光と空気中の水分、そして空気を吸って力にしているため、それらが欠ける所に長年放置すると枯れてしまうが、大抵の環境では壊れても自己修復までする。
八と九は重力以外にも火薬を動力としている。
火薬は椎の木に生成された質の悪いものだが、椎の吐き出す酸素を爆発時に出る二酸化炭素と光りを原料に増産することで、完全燃焼させ威力を十分なものとしている。
アーク曰くただのオプションらしいが、そこらの銃よりもよほど威力がある。
尚アークとコセルシアは失念しているが、この銃弾のどんぐりは破壊困難な為、椎の五は使わない方が良い。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
次の投稿は登場人物紹介、その次は第二章に入ります。




