裏あるいは表の一から十七話
~アークが旅立った直後のユートピア村~
そこでは皆等しく涙を流していた。
村唯一の子、アークが旅立ってしまったからだ。
その感情の正体は複雑過ぎて判らない。
既に旅立ってしまったのにもかかわらず、浮かび上がってくるアークとの思い出が途切れることは無かった。
アークが生まれてから今日まで、村人達の中心にはいつもアークが居た。
寿命が無いに等しい彼等の出生率は極端に低く、アークが生まれた日の事を忘れる者など存在しない。その日は、いやその日から彼等はお祭り騒ぎだった。
アークの事で村人は何回も争った。
名前は誰が決めるか、どの順で抱き上げるか、誰が一番最初に名前を呼ばれるか、数えたら切りがない。
毎日アークとふれあい、成長を見届けてきた。
初めて自分の名前を呼んでくれた日の事、アークが育てた作物を初めて貰った日の事、アークが技を教えてと初めてきた日の事、思い浮かぶ度に目が潤む。
潤みはすぐに溜り、涙が止まることは無い。
やがて村人達は自分の家へと解散していく。
同じ想いの村人達と一緒にいると、込み上げるものが止りそうに無かった。
村人達は家まで帰っても涙を流し続けた。
皆で集まるとさらに込み上げるものがあると思い帰ったが、家を見るとそこでもアークとの思い出が浮かんできてしまったからだ。
ある村人は周囲に悟られないよう家に現身を残し、村から姿を消した。
普段ならばすぐにその行いは見つかっただろう。しかしそれに気が付く者は居なかった。
何故なら村には現身しか残って居なかったからだ。
「ふふふ、アークったら、ちゃんとお母さんの作ったお弁当を食べてくれているわね」
アークがお弁当を食べている頃、近くに姿を消した村人の一人が居た。
アークの母親である。
村から姿を消した彼女はアークからも、他の村人からも気付かれないように、アークの跡をつけて来たのだ。
彼女も他の村人も知らないが、実は村人達が姿を消してここに全員集まっている。
「そろそろ食べ終わりそうね。手紙を書いて置かなくちゃ」
お弁当箱にはアークとの文通が出来る仕掛けが施されているのだ。村人達は取り決めで、自分の作ったお弁当がアークに食べられたら手紙をやり取り出来る権利を獲得できる。
今回のお弁当は彼女が作ったものだったから、彼女は手紙を書くのだ。
「私がここに居ると悟られないように、無難な内容の方が良いわよね」
宙にさらさらさらとっと文字を綴り、それを縮めて紙に転写する。そしてお弁当のそこに出てくるようにその手紙を、特殊な術式でお弁当箱の中に忍ばせる。
そして無事に手紙も読んでもらい、返事の手紙も受け取った彼女は、ホクホク顔でアークの跡をつけて行った。
姿を消した他の村人達がネクタイを噛んで悔しがっていたのを、彼女は知らない。
ついていく内にユートピア高原の果てに到着した。
そしてアークは最果てに降りる。
村人達は共に降りない。慎重に降りなくては色々と不味いからだ。まずバレる。
村人達はアークが降り立つまで見届け続けた。
村人達は思い出に浸った。
そしてアークが最果ての地に足をつけると、ステータスの声と共に意識を戻した。
アークを追って慎重に村人達は降り立った。
しかしアークは既に視える範囲に居なかった。森の中に進んでしまったのだ。
再び思い出に浸りながらも、彼等はすぐさま追いかけた。
道に沿って何度も探すが何処にも居ない。
最果ての龍が倒されるまで、彼等はアークの居場所が判らなかった。
~ダンジョン《最果て》:境界~
アンミール達はダンジョン《最果て》の入口に転移してきた。
入口は波紋一つ無い湖に浮かぶ遺跡のようなものだ。中心に円形の青空が泉のようにして存在し、その泉よりも高い位置の周りを柱が囲んでいる。
彼女達はその泉から浮上してくる。
「此処に来るのも久しぶりですね」
黒髪の幼女、アンミールは真っ直ぐユートピア村の方向を見ながら呟いた。その一つの呟きには様々な感情が籠っている。
「アンミール様はまだいいですよ。我等は一人で此処を攻略出来ませんから。来たくても来れませんよ」
アンミールの後ろに控えて居た男、彼女の側近が実感の籠った声で言う。
男は一言で表すとレガリアのような男だ。存在するだけで他者に認めさせる力を持つ、象徴のような力を素で放っている。
美しい金の髪に顎髭、全てを見透かすような緑の瞳。白いマントに数多の勲章を身に付け、腰には何本もの剣を差す。体躯はマントに隠れて見えないが、一目でただ者ではないと判る男だ。
誰もが彼を王者・覇者・英雄、そのような存在だと確信するだろう。
「情けないですね。それだからあの子達は相手を探すのに苦労するのですよ。あんなに騒いでいたのに、この人数しかついて来ないですし」
「迎えに行って死ぬ訳にはいきませんから」
「死んだら私が蘇らしますよ」
「……そう言う問題ではないです」
そんな彼が幼女の前で冷汗を流し、疲れたような様子で居た。気のせいか腰も低い。
この男、エルガインが見掛け倒しという訳ではない。
代々英雄を輩出しユートピア村に選ばれて来た家系の出身にして、【最高学都 エル・アンミール】の表の支配者だった男だ。見掛け通りと言っていい。
種族まで“王種人間”である。
しかしこの領域でそれは通用しないのだ。
別に彼の実力でも最果ての龍以外なら、世界を消失させる威力を持つ厄を形にしたような原獣でも何とか倒せる。だがぎりぎり倒せるに過ぎない。何体も倒して進むなど到底不可能だ。
此処で彼は弱い存在なのだ。此処についてきたのは、あくまでうっかり死なない実力を持つからである。戦力としては当てにされていない。
まあ、この事情を抜きにしても、今のメンバーの中に彼の頭が上がる存在は非常に少ないのだが……。
今のエルガインの立ち位置は、アンミールの御付きの人である。
「ところで【露出卿】、やはり服は着て下されないので?」
そして実力と共に性格も突き抜けている面子の中で、彼は比較的普通の人、つまり苦労人である。
「僕に服を着ろって、それ僕に死ねと言っているのと同義だよね。この領域で服なんて着たらコロッと逝ってしまうよ」
「いえ、そんなつもりでは」
エルガインは全裸の十代中頃に見える少年にペコペコとしながら説得する。【露出卿】の能力は彼も知っているが、常識的な彼は触れずにはいられなかったのだ。
全裸の少年にペコペコしながら服を着てくれと頼む王者とは一体……。
「私は大丈夫だよ。レイシャル君の裸なんて見飽きているし」
「妾もこう見えて歳じゃからの。性欲も衰えたわ。気遣いは無用じゃ。こやつは食べ飽きたしの」
「人のアイデンティティーを奪うのは良くないと思うな~」
本来はエルガインよりも気にしなくてはいけない筈の女性陣は、全裸の少年の事を気にしていないようだ。この一面からも彼の苦労は解るだろう。
「僕だって好きでこの格好している訳では無いんだからね。我慢してよ。それに君もよく全裸になっていたじゃないか」
「そ、それは若い頃の事です。それに貴方が我を連れ回したせいでしょう!」
「なんだいその反抗的な態度は、此処が危険な領域だということを忘れたのかい? ふっふっふっ、安心するといい。ピンチになったら僕の力で強化してあげるよ。存分に僕の気持ちを理解したまえ」
「も、申し訳ありませんでした!!」
エルガインは全力で頭を下げる。
「そこら辺で許してあげなさい。エルガインの見苦しいモノを見せられる、私達の気持ちにもなりなさい。少年の外見を持つ貴方でも思うところが無い訳ではないのに、エルガインはおっさんなのですから」
「エルガイン君、外見年齢変えるの下手だしね。年齢変えてもすぐボロ出しておっさんに戻りそうだよ。全裸にするのは止めてあげて」
「…………御気遣い、感謝致します」
本当にエルガインの苦労が解る。余談だが彼は頭部のあるところの為に、万能薬エリクサーを探す冒険に何度も出たことがある。
そんなアンミール御一行は緩い階段を上り遺跡の外に出る。
出ると辺りは揺れの一つ無い空のような湖で、陸地に向かって真っ直ぐな橋、いや道が在った。
湖のギリギリ上、もしくは同じ高さに在る道で、湖に動きが全く無い為に水で濡れている箇所は無い。湖が実は平らなクリスタルで、道はそこに色を塗っただけだと言われても納得してしまうだろう。
波紋すら起こさないが湖を流れる花や花弁のみが、本当に湖だと証明してくれる。
陸地は途中幾つもの平野を挟んだ巨大過ぎる山脈で、仮に全貌の視えるところから視たら一つの山にしか見えないだろう。しかし普通に見える範囲で見ると広大過ぎて、場所によっては平野にしか見えないかもしれない。
沿岸にはどう考えても実用的には見えない建造物が建ち並び、これだけでも此処がただの土地でないことが解る。
面白いのが山脈から流れる河川で、結構な急流のものも流れの殆ど無いものも湖に合流する際、何事も無かったかのように実に静かに流れている。
湖側には波紋の一つできていない。まるで水が消えたかのように見える。
アンミール達はそんな領域へ道を進む。
決して湖に落ちないように、水に濡れないように、五人は横に並んで通れる道を一列で進んで行く。
「では改めて今後の予定、注意事項の確認をします」
アンミールは道の先頭を歩きながら振り向きもせずに話し出す。
後ろにも何の問題もなくよく響きよく聞こえる、不思議なとても優しい声だ。見掛けは幼女だが慈母にしか思えなくなる。
伊達に学園の精霊をやっていない。
「今回の目的はアークの迎えです。その為に今からアークを捜します。アークはユートピア村の子、よってどのような手段で外に出ようとするか判りません。早急に捜しだす必要があります」
アンミールは後ろの者達の反応を伺い、問題無いと判断すると話しを続けた。
最後の部分に反応して、迎えに慣れた者達が少し青い顔で何度も頷くがそこは気にしない。
「一刻も早く見つけ出すため、今回は幾つかの班に分けてます。まずは留守番組、この道の真ん中附近で待機してもらいます。この道は魔物の類いが襲いかかって来ないので、比較的力の弱い者一人に任せます。誰か志願したい者はいますか?」
アンミールは問う。すると真っ先にエルガインが挙手した。
背中を見せている相手に挙手はどうかと思うかもしれないが、アンミール相手では何の問題も無い。
「ではエルガインに任せてもいいですか?」
「アンミール様、僕はエルガインと組みたいので、他の人にしてもらえませんか?」
エルガインに決まりそうなところを、【露出卿】レイシャルが待ったをかける。
「ちょっ!! アンミール様! 我では力不足です!! 迷惑をかけない為に留守番をしたいです!!」
「確かに貴方では少し力不足かもしれませんね」
アンミールの口から少し心痛む発言が出るが、それよりも恐ろしい未来が待っているエルガインはその発言に乗っかる。
「そ、そうです! 我では役に立ちません!」
少し勢いを落としながら。
「大丈夫だよー、エルガイン君。僕が君に力をあげるから」
含みのある声でレイシャルがエルガインに言う。まだ根に持っているようだ。
「それならば大丈夫そうですね。では留守番組に成りたい者は?」
アンミールはレイシャルの意見に乗ってしまう。
彼女が賛成してしまうとエルガインは、この世の終わりを迎えたかのように脱力する。
しかしそんな彼を助ける存在が現れた。
「えー、エルガイン君の醜いモノが見えてしまうじゃないか。そんなもの見たくないよ」
「男の私も嫌ですよ。アンミール様、何とかなりませんか? このままではアーク様捜索に支障が出ます」
実際には助けられていると言うよりも、ボロクソ言われているのだが、今の彼には感謝の念しかない。
「安心してください。捜索班は幾つか作ります。レイシャルとエルガインの組ならば攻略は兎も角、アークを探すだけならこなせるでしょう。エルガインの汚いモノは見えないので安心してください」
エルガインの僅かな希望も、アンミールのこの言葉で消えた。
ボロクソ言われただけである。しかもアンミールも追撃付き。エルガインは泣いていい。あっ、もう泣いている。
そんな一コマを挟みつつ、班分けの終わったアンミール御一行は歩を進める。
そして先頭のアンミールが領域に入る直前にそれは見えた。
大爆発、轟音、極光、衝撃波、そして魔物か何かの絶叫。
「……アークは彼処にいますね。班分けをしてしまいましたが、無かった事にして全員で行きましょう」
その発生源の正体を確信しているアンミールによって、予定は変更になった。
その事にガッツポーズをしている者が約一名居たことに、目を奪われていた者達は気が付かなかった。
全員でダンジョンの領域に突入した。
其処に現れたのは魔物の軍勢だ。魔物でないところを探す方が難しいくらいの大軍だ。空まで覆っている。
ダンジョン入ってすぐにこの難易度は無いと思ってしまうが、このダンジョンではこれが一番簡単な試煉なのだ。
しかしそんな領域はまだ彼女達にとっては大したこと無いものだ。
音速よりも速い速度で進みながら、通った一帯の魔物を全滅させている。しかも跡には血も素材も残さない完璧な闘い方だ。かなりの余裕を感じる。
こうして彼女達はダンジョンを進み始めた。
~ダンジョン《最果て》:原界~
ユートピア村の面々はお互いに、アークの後をつけていたことに気が付いてしまっていた。
アークが最果ての龍と闘っている時に、アークの仲間と見なされずに結界が張られ、アークが領域から外に出ると同時に最果ての龍が再出現してしまったのだ。。
しょうがなく倒そうと姿を現すと、村人同士がはち合わせてしまい今に至る。
「あ、あらー、奇遇ね。皆どうしたの。私はアレよ、アレ」
「アレじゃ解らんぞ。さては抜け駆けしてアークに会おうとしていたのだろう。バレバレだぞ」
言い訳を始めたアークの母親に、アークの祖父は自分の事を棚にあげ、彼女の説教を始めた。
しかしそれでどうにかなる訳が無かった。当然彼女も反論する。
「な、何の事かしら。そう言うお父さんは何しに来たの?」
「わ、儂か。儂はアレだ、アレ」
彼も彼女と同じような言い訳をした似た者親子である。
「言い訳がましいですよ。反省してください」
「か、母さんこそ何をしていたのだ」
「わ、私ですか。私はアレですよ、アレ」
「アレで誤魔化しても無駄だぞ。潔く抜け駆けしようとしていたと認めなさい」
「お、お父様は何しに此処へ」
「お、俺はアレだ、アレ」
似た者一族である。
素直に皆で行くという選択しを選べずに、このやり取りは一周するまで続いた。
「も、もうこの辺で争うのは止めにしよう。全員悪いのですから」
最後に矛先を向けられた村長が初めてまともな事を言う。
「では我は一足先に村に帰ります」
しかし口だけだった。
「コラ村長! そっちは村の方向じゃないぞ!」
村長はアークの向かった方向に飛んで行く。
「こうなれば早い者勝ちです。アークの入学式を見逃す訳にはいきません。貴方達は其処でネクタイでも噛んで悔しがっていなさい」
村長は手の一振りで最果ての龍を消滅させると、猛スピードで飛び出した。
今の彼等の中にはアークのことしか無い。全員で行くという答えが出せない程、脳内をアークに占拠されているのだ。
慌てて村人達は村長を追いかける。
しかし彼等は村長も含め忘れていた。ユートピアの大鳥居の先、階段の周辺は飛行出来ないことに。
当然揃って墜落した。
墜落した村人達はムクリと起き上がると、無言で階段に向かって一斉攻撃を開始した。
何故かこんなところでは協調性を見せる村人達であった。
村人達の攻撃で大爆発、轟音、極光、衝撃波、等々が発生する。
剰りの威力のそれは広範囲に及び、辺りから原獣の絶叫が響き渡った。まるで世界の果てまで届きそうな絶叫だ。まあ、この場所は世界の果ての一部なのだが。
そんな惨事になっても村人達は攻撃を止めない。この程度で階段が崩れないと知っているからだ。何回ネクタイを噛んで悔しがったことか判らない。
裂いてはいけないものを裂きながら繰り出される鞭、そもそも作ってはいけない類いの剣の群れ、常に進化し至ってはいけない領域を進み続ける何か、放ってはいけない類いのものが階段に放たれ続ける。
しかしこれだけやっても階段には傷一つつかない。流れ弾の当たる鳥居も同様だ。
土の中に埋めようと企んでも無駄に終わった。本当にこの階段は何なのだろうか。
因みに村人からこの階段は憤怒の階段と呼ばれている。正式名称は【終わり無き階段】である。
「……貴方方でしたか。アークだと思いましたよ。紛らわしい」
村人達が階段の破壊に集中していると、後ろからアンミール御一行が現れた。
この攻撃の発生源をアークだと思い来てしまったのだ。時間が少しずれていれば正かったのに惜しい。
「あら、アンミールお婆ちゃん久しぶり」
「ふふふ、一年ぶりくらいですね。元気そうでなのよりです」
アンミールはアークで無くて少し残念そうな様子だったが、自分の曾孫であるアークの母親を見ると、すっかりお婆ちゃんモードに早変りした。
まあお婆ちゃんモードといっても端から見たら、年相応にはしゃいでいる幼女にしか見えないかもしれないが。
そんな彼女は宙に浮きアークの母親の、黄色の混じった白髪の頭を撫ではじめる。
「も~、アンミールお婆ちゃん、止めてよ。私はもうそんな歳じゃ無いんだから」
文句を言いつつもそんなに嫌そうではない様子だ。むしろ少し嬉しそうに撫でられている。
「私からしたら貴女もまだまだ子供です。気にしないでください」
そして存分に頭を撫でた彼女は次のターゲットに目を向ける。アークの祖父にである。
「ば、ばあちゃん、儂は遠慮するぞ。こんなジジイにすることではない」
彼はその視線に気が付くと後退った。
「ふふふ、大丈夫ですよ。見掛けは学生に見えるくらい若いではないですか。問題ありません」
「わ、儂にとっては大問題だ!」
結局彼も抵抗むなしく、その赤色の混ざった白髪の頭を撫でられた。彼は耳を真っ赤にさせて耐える。
幼女に頭を撫でられ耳を真っ赤にさせる青年、色々と思ってしまう光景だ。
そしてアンミールはこのまま娘、夫と撫で続け、アンミールについてきた者達は村人達との再開を喜び団欒した。
秘宝の類いを使えば会話はいつでも出来るが、やはり直接会うのには到底及ばない。
そうした時間を過ごしていると、不意に大空が黄緑色の光で染まった。
光の発生源を視ると凄まじい力を感じる、彗星のような巨大槍が飛んでいた。
槍はある程度斜め上に飛ぶと途中水平になり、周りに在るもの全てを消し去りながら飛んでいき、やがて湖まで到達した。波紋一つ無かった湖の水が大きな水飛沫をあげ霧散する。
そして槍は湖の奥地に在った霧を消失させ、遥か彼方まで飛んで行った。
「……早急にアークを見つけましょう。取り返しのつくうちに」
アンミールはそう呟き、周りの者は一斉に頷いた。
《用語解説》
・終わり無き階段
逆柱。
通称、憤怒の階段。
階段の見掛けをしているが使おうとすると痛い目に合う。
不完全にするための力が、どういう訳か不滅と飛行不壊等の力になっている。
尚、多少離れた場所からならば飛行可能である。
・境界の湖
ダンジョン《最果て》の入口附近に存在する湖。
波はおろか波紋すら無い大空のような湖である。
比較的近い【最果て】のようなもので、水も花も花弁も自然と近寄ってこない限り触れない方が良い。特に自らの力で辿り着けない者は絶対に触るべきではない。
お読み頂き、ありがとうございます。
次の話が第一章の最終話になる予定です。




