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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第1章 〈都会までの道程〉あるいは〈逆向きに最果て攻略〉

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第十二話 温泉ジジイあるいは変態誕生祭

申し訳ありません。全く話しの進まないギャグ回になってしまいました。

 

 未だに再生しきっていない木々の中を、僕達は神輿で進んでいる。

 僕の生い茂らした草原のせいで森の再生は遅れているようだ。そのおかげで迷わず真っ直ぐスイスイと進んでいる。今度から進む先に木々があったら毎回回収しようかな?


 眷属達の神輿使いは前回と比べて大幅に上がっていた。速度も、そして乗り心地も、全く違うのだ。


 まだ朝日も昇らないような時間帯にもかかわらず千五百キロメートル以上も進んでいる。神輿で出発したのが三、四時間前であるから驚くべき速度だ。

 徒歩で、しかも重そうな神輿を担いだ状態でこの速度……眷属とは一体?


 非常に速い速度にもかかわらず、神輿の乗り心地は最高だ。

 前に乗った時は完全に揺れが無かったが、今回はわざと心地良い揺れを起こしながら眷属達は神輿を担いでいる。

 この速度で移動すると強い強風が吹き荒れそうだがそれもなく、丁度良い風のみが僕達の元に届いている。見かけは変わっていないが、神輿自体の性能も上がっているのだろう。

 浴場ではいろいろあったが、今はそれが嘘だったかのようにゆったりと快適に神輿は進む。


「コアさん、スキルに神輿術でもあるのかな?」

 神輿での移動があまりにも快適で、つい隣のコアさんに聞いてみた。

わたくしは無いと思いますが、スキル大百科事典“風の到着天(タントシード)”の情報を復元して調べてみますか?」

「そうだね、暇だから調べてみて」

 眷属達がもしこのスキルを持っているのならば、鑑定するだけで有るか無いかすぐに判るが、そんなことはしない。時間は無限に在るからね。


「…復元が完了しました。まずは結果から、スキルに〈神輿術〉は存在します」

「……あるんだ、スキルって凄いね」

 僕から聞いたことだが、まさか存在するとは思わなかった。でもよく考えると神輿の乗り心地は素晴らしいし、都会には神輿を担ぐ仕事をする人が多く居そうだから、存在してもそんなに変なことじゃないかもしれない。

 神輿は乗り物じゃないという先入観を消しておかないと、田舎者だとすぐにバレそうだ。気を付けないと。


「効果は主に神輿担ぎ技術の補助・強化、神輿を担ぐ際の筋力や持久力の増加ですね。武技・文技は“わっしょい”と唱えて発動するものが多いみたいです。“気合”という文技は“わっしょい”と連呼する限りどんなに重い神輿でも、体力の消費無しに担ぎ歩き続けられるものらしいですよ」

 コアさんが本の形をした残像のようなものを読みながら説明してくれる。


「凄いスキルだね。眷属の皆は持っているのかな?」

 そう言いながら僕は今神輿を担いでいる、ここからはよく見えない先頭の眷属を鑑定した。

 僕が鑑定すると、眷属のステータスが光りの文字となって僕達の前に表れる。その膨大な文字の中から知りたい情報だけを残して他を消す。



 名前:無し

 称号:温泉ジジイ、アークの眷属、コセルシアの眷属

 種族:眷属魔術人Lv0(人種)

 年齢:0歳

 能力値アビリティ

 生命力 100000/100000

 魔力 100000/100000

 体力 100000/100000

 力 5000

 頑丈 5000

 俊敏 5000

 器用 5000

 知力 5000

 精神力 10000

 運 5000


 職業ジョブ:無し


 権能:浴場造営Lv3


 魔法:浴場魔法Lv3


 加護:アークの加護、コセルシアの加護、大賢者の加護


 スキル:

 〈固有スキル〉

 浴場造営Lv3

 植物身体Lv5

 入浴Lv3


 〈パッシブスキル〉

 忠誠Lv5

 光合成Lv1

 再生Lv1

 環境適応Lv1

 全裸強化Lv2


 〈アクティブスキル〉

 密林収納Lv1

 浴場魔法Lv1

 温泉魔法Lv1

 源泉魔法Lv1

 土属性魔術Lv7

 戦湯Lv1

 湯治Lv1

 神輿術Lv4



「「……」」

 僕達の間に何とも言えない間が空く。


「…えーまず始めにマスター、何故温泉ジジイのステータスを選んだのですか?」

「……いや、選んでないよ。先頭に居た人を鑑定しただけだから」

「どれ……先頭に温泉ジジイは居ませんが」

「えっ!? 本当だ……頭にタオルを乗っけて全裸だけど違う人が居る……」

 コアさんに言われたことを確認する為に神輿の先頭をよく見ると、そこには温泉ジジイと同じ格好だが、ジジイよりも遥かに若い二十歳に行くか行かないかぐらいの年齢に見える、まるで彫刻のような男の人が居た。

 僕達の眷属に普通と呼べる存在は居ないのだろうか? ……うーん……深く考えるのは止めよう。


「どうします、とりあえずあの方をここに呼び出して服でも着させますか?」

「今はまだ止めておこう。何だかんだあの人を呼び出して話しをすると、収集をつけるのが大変そうだから」

「それもそうですね。ではまず本題を片付けますか?」

「そうだね。へー、〈神輿術〉って本当にあるんだね」

 僕が無感情で言う。

「本当ですね。わたくしも驚きましたよ」

 コアさんも無感情で言う。


「はい、次に行こう」

 テンポよく進める。

「了解です。眷属のステータスとはこうなっているのですね」

「元の魔術がそのままスキルに成っていたり、植物系のスキルが多かったりするね」


「次に行きますね。ふぅ……変なスキルが多すぎません!? と言うか温泉ジジイのステータス凄くないですか!? 一人でも浴場等湯脈付きで造れますよ!? それなのに何故、先程は温泉に浸かって居ただけだったのですか!?」

「本当だよ、〈入浴〉って何!? それに〈全裸強化〉って一体何さ!? 何より何で僕に無い人種認定と“大賢者の加護”を持っているの!?」

 僕達は溜まりに溜まった疑問を、ジジイ本人が居ないにもかかわらず爆発させた。

 濃い突っ込みどころが満載過ぎる。おかげで本題を、普通ならば本題になったであろう情報を軽く触れただけですっ飛ばしてしまった。


「もーう、何で君達は人種なんだよー! 僕には“大賢者の加護”すらないのに!」

 本当に突っ込みどころが満載過ぎる。

「一番気になるところ、そこですか!?」

 何故かコアさんに突っ込まれた。

「当たり前じゃないか。他のが気にならなくなる程重要だよ」

 そんな様子のコアさんを不思議に思いながら一応答える。


「……さて、変な方向に話しが進みそうなので温泉ジジイをここに喚びましょう」

 コアさんは僕を完全に無視するような、まるで決して正面から対峙しないように必死に意識をそらすような態度で僕に言った。

 何故そのような態度でいるのか解らないが、温泉ジジイを喚び出すのは良いアイデアだ、と言うよりも避けては通れない道だろう。なので早速喚び出すことにした。



「“我が前に”」

 一言、温泉ジジイに向けて命じる。


 すると元から其処に居たように姿を現した。

 神輿の先頭に居た全裸の人が……。


「「……ん?」」

 理解が追い付かない、と言うよりも理解したくない。

「参上致しました」

「……“召喚サモン【温泉ジジイ】”」

 コアさんは現れた人を無視して別の召喚方法を試す。

 すると僕の召喚した人に魔法陣が上から降り、そこに彼は消えていった。そしてそのすぐ隣に魔法陣が現れ、そこからスーと彼は現れる。

 間違いない、温泉ジジイと彼は同一人物だ。


「……君は温泉ジジイ?」

 一応聞いてみる。

「はい、御二方から温泉ジジイと呼ばれているのは儂です」

 やはりそうだった。姿は二十歳にも見えない若い姿をしているが、間違いなく温泉ジジイだったようだ。

「何故、姿が変わっているのですか?」

 コアさんがそう聞く。何時もならこういう時に突っ込みながら聞きそうなのだが、今は驚きが勝り一周回って冷静になっている。


「あれはスキル〈入浴〉の力でなった姿です」

「わざわざ歳をとった姿になる必要があるの?」

「はい、入浴時にあの姿になると力が激増するのです」

「そうなんだ……変わったスキルだね。そう言えばあの時は語尾にじゃを付けていたけど、あれも何か効果でもあるの?」

「有ります。こちらも能力を強化する事ができます」

 〈入浴〉の事は大体解った。まとめると何故か姿と語尾の制限があるが、入浴している限り力を強化することが出来るスキルのようだ。

 入浴中に強化されるって、このスキルに利用価値はあるのかな?それに……。


「同じ魔術の方々が浴場を造る際に入浴していたのは、そのスキルに何か関係があるのですか? 例えば温泉の効能を強化するとか」

 僕の言いたかった事をコアさんが代わりに言ってくれた。

「いえ、全く関係ありません。ただ湯に浸かりたかっただけです! 欲望に負けました!」

 何故か彼は拳を握り、力説するかのように全裸で堂々と言った。あの行為を正しいと信じて疑わないようだ。

「「……」」

 何となく予想できていた答えだったが僕達は何も言えなかった。


「……少し遅いかもしれないけど、君何で全裸なの?」

 何故ジジイが入浴していたのか、これ以上追及しても不毛でしかなさそうなので話題を変えた。

「腰に布など、風呂を愛する者にとって外道です!」

「……ここは風呂ではないのですが?」

「ハハハ、そんなこと関係ありません! 風呂を愛する者は常に全裸でいるべきなのです!」

 ジジイはまるで演劇のような大袈裟な仕草で力説してくる。

「「…………」」

 腰のモノをプランプランさせながらのこの行為は、僕達二人を黙らせるのに十分過ぎた。


「……“服植”」

「……“服飾”」

 何を言っても無駄そうだったので、問答無用でジジイに服を着せることにした。


 僕とコアさんはほぼ同時に技を使う。

 僕は植物繊維で服をジジイが着た状態になるように、繊維でジジイを囲いその場で服を作る。

 コアさんは生活魔術の一つを使い、ジジイを光りで囲う。光りは服の形に変わり、光りが晴れると共に服へと変化する。

 無事に服を着せることに成功した。


「ふんっ!」

 しかしジジイが気合の入った声を上げると、服は湯気のように消えてしまった。彼の近くには気絶した服の魔術の眷属が転がる。

「「一体どんな能力(ですか)!?」」

「ハハハ、風呂を愛する力の前では服など無に還るのです!」

 ジジイは両手を広げ堂々と語る。

「「一体どんな理屈(ですか)!?」」


「どうです、御二方も衣服から解き放たれたくはありませんか?」

 ジジイは両手を広げたまま、ゆっくりとそう言いながら近づいて来る。

 完全に変質者の発言だが、悪意は全く感じない。それが余計に恐怖を引き立てる。


「「結構です!!」」

 当然僕達は全力で断った。

「そうですか。気が向いたら御声を御掛け下さい」

 すると意外にもすんなりとジジイは引き下がった。


 恐らくお風呂愛云々よりも、僕達の眷属としての側面の方が強いのだろう。

 良かった。めでたしめでたし…じゃない、服を着させなければ!

 僕達に変質者の手が及ばなかった安心感で忘れそうになったが、このまま全裸で都会に出たら確実に不味いだろう。露出狂の仲間として冷たい目で見られ、下手したらジジイと一緒に衛兵さんに捕まってしまう。

 ちゃんと僕達の眷属みたいだし、ここは普通に命令してみよう。



「温泉ジジイの想いは解ったけれど、このまま都会には行けないから服を着てくれない」

「えっ、確かにそうかもしれませんが……どうしてもですか?」

 温泉ジジイが瞳を潤ませながら、とても悲しそうな表情でそう言う。さっきまでの堂々とした元気の良さがまるで無くなった。

 なんだろう、どう考えても僕は正しい事をしている筈なのに、僕が悪者みたいに感じる。何故かコアさんもこちらを非難するような目で見てくるし……。


「そんな目をしているけど、コアさんはどうしたいの? まさか彼にずっと全裸で居させるき?」

 ジジイへの接し方が判らなかったので、コアさんに丸投げする。無責任なことをしているから自業自得だろう。

「えっ、わたくしですか? それはその~、服を着て貰うしかないですね……」

 コアさんがそう言うと、ジジイはその悲しそうな表情を深めた。


「うっ……そうです、服を着る代わりといってはなんですが、名前を差し上げましょう。どうです?」

 ジジイの悲しげな表情で精神的ダメージを負ったコアさんが、代わりに名前をあげようと提案する。服を着れば対価を貰えるって……どうなのだろうか?

 まあ温泉ジジイと呼んでいるが、どこからどう見てもジジイではなくむしろ若々しいので、正式な名前を与えるというのには賛成だ。


「えっ! 名前を下さるのですか!? ありがとうございます! それなら喜んで服を着させて頂きます!」

 名前を貰えると聞いたジジイは一瞬で明るい表情に変わった。

 切り替えが恐ろしく早い。もしかして名前を貰えるのがそんなにもうれしいのかな?


「という訳でマスター、温泉ジジイの名前どうしましょうか?」

「ん? 僕も一緒に考えるの?」

「当然です。二人の眷属なのですから二人で決めましょう」

 何だかんだで僕も名前を考えることになった。


「どうやって決める?」

「そうですね~、やはりイメージから考えた方が良いかと」

「そうだね。温泉ジジイのイメージ……変人、変態、変質者、全裸…」

 駄目だ。変なイメージしか出てこない。


「…もっと良いイメージは無いのですか? まあ、間違ってはいませんけれども……」

「後はお風呂が好きって言うこと位しか無いよ。そう言うコアさんは何かないの?」

「えー温泉好き、とかですかね」

「お風呂好きと同じじゃないか」

 どうやらコアさんのジジイに対するイメージも僕とさほど変わらないようだ。


「そうですよね。もうこの辺で切り上げて名前を考えましょうか?」

「名前を作れそうな気がしない要素しか無いけどやってみようか」

 お風呂好き、全裸、まとめるとこの二つのイメージしか出てこなかったが無いものは仕方がない。やれるだけやって駄目だったらありふれた名前にでもしよう。


「えーと、フロチン、チンフロー、チンブラ」

 とりあえず脳裏に浮かんだ名前を挙げていく。

「ラチン、ユチン、チンユー」

 コアさんも名前の候補を次々に挙げていく。


「あのー、儂の名前にチンが付くのは決定なのですか?」

 ずっと僕達の前に立っていたジジイが控えめに聞いてくる。

 彼は僕達が名前の相談をしている間ずっと、そんなに名前が気になるのかソワソワモジモジとしていた。堂々とした様子も無くそんな態度で全裸でいると、カツアゲや追い剥ぎに襲われた直後の人に見えてくる。

 服装によって人の印象が大きく変わることがあるそうだが、全裸の場合は態度で印象が大きく変わるようだ。……不毛な発見である。


「え? 全部にチンが入ってた?」

「そう言えばそうですね。気が付きませんでした」

 ジジイに指摘されて初めて気がついた。コアさんも同じようだ。

 今気がついた事だが理由はすぐに解る。ジジイの事を思い浮かべながら名前を考えたからだろう。座って居ると目線の先に丁度ジジイのアレが在るのだ。そこばかり脳裏に浮かんでしまう。


「まあ、それが君の印象でもあるし、チンが名前に入っていても良いんじゃない?」

「先程から聞いておりましたが、儂の印象はそのようなものなのですか?」

 ジジイが涙目で悲しそうに落ち込みながら聞いてくる。

「……はい、そうですよ」

 コアさんが僕の代わりに答える。


 もしかして……全裸だということ以外、感性は普通なのかな? アソコを出しているイメージを持たれたくない程度には……だったら服を着ろ!

 全裸で居ることには何の疑問を持たないのに、全裸野郎だとは思われたくない。一体どんな精神構造をしているのだろうか。親の顔が見てみたい…あっ、僕達だ。


「もっと良いイメージがあるではないですか。例えば、彫刻のように整った顔立ち、彫刻のように鍛えられた肉体とか」

 うわー、ナルシスト気質も混ざっているようだ。このまま都会に出したら非常に不味い。ここは一応とは言え親として指導してあげよう。

「他の眷属の皆と比べてそんなに整った顔立ちじゃないよ。なんと言うか普通?」

「肉体もそんなに鍛えられていませんよ。確かに全体的に彫刻のようではありますが、筋肉質というよりは飾り程度にしか筋肉は付いていませんし」

 僕達は正直にジジイの評価を告げる。現実をしっかり見て欲しい。


「ううっ、そんな…」

 本気でそう思っていたようだ。

「正当な評価です」

「さてと、名前を考えようか」

 もう付き合っているのが馬鹿馬鹿しく思えてきたので、さっさと名前を付けることにした。

 早く名前を付けて約束通り服を着てもらおう。よく考えたらそれで全てが丸く治まる。


「湯とジジイと全裸の頭文字でユジゼと言うのはどう?」

 いくら変な眷属でも流石にチンを名前に付けるのは可哀想なので、抜いて考える。

「少し呼びにくいので、全裸を裸だけにしてユジラと言うのはどうです?」

「そっちの方が良さそうだね。どうせならジを伸ばしてユジーラにしたら?」

「おお、それが良いですね。温泉ジジイの名前はユジーラにしましょう」

 勢いで考えていったが、なかなか良い名前が出来た。これなら多分都会でも通用する名前だろう。


「君の名前はユジーラで良い?」

「はい、ありがとうございます」

 ユジーラがとても嬉しそうに了承すると彼の身体が輝いた。そして宙に浮いたかと思うと辺りから同じ輝きを放つ温泉が涌き出て、そのお湯が彼の身体に入っていく。

 なかなか美しい光景だ。温泉を生み出す程嬉しかったのかな? 魔術も何も使ったようには見えないし、存在感も上がっているような気がするがきっと喜びの表れだろう。



「じゃあ、約束通り服を着てもらうね」

「はい」

 ユジーラが了承する。今回は悲しそうな表情をしていない。コアさんの服を着る代わりに名前を付けてあげよう作戦は成功したようだ。


「ではわたくしが、“服飾【カリスマ】”」

 コアさんが魔術名を唱えるとユジーラの足下に魔法陣が現れ、そこから糸の竜巻のようなものが放たれ、糸等が彼の身体を包んでゆく。

 糸はやがて服の形になり、そして湯気となり拡散した……ん? あれ!?


「ユジーラ、また服を弾いちゃ駄目だよ。名前を付けたら着るって約束したでしょ」

「いえ、あの、儂は何もしていないのですが…」

「そんな筈はありません。わたくしはまた弾かれる可能性を考慮して強めの魔術を使ったのですよ。多少気合を入れた位では破られませんよ。大人しくしていてください」

 そう言ってコアさんは次々と服を着せる魔術を放っていく。しかし全て服が完成する直前に湯気として拡散してしまう。

 対するユジーラは困った表情でただ立ち尽くしている。本当に何もしていないようだ。


「何故、服が消えるのですか…」

「恐らく名付けによって儂の力が強まったからだと…」

「何でよりにもよって全裸の能力部分が強化されているの…。と言うか君の全裸って名付けで強化される程、君の一部だったんだね……」

 ここまでやっても服を着れないということは、多分どうやっても全裸で居るしか無いということだ。一体どうすれば良いのだろう……。


「あのー、これはもう全裸でいて良いと言うことでよろしいでしょうか?」

 何処と無く嬉しそうな雰囲気で聞いてくる。

「良い訳無いでしょ!」

「どこに全裸でいて良いよと許可する人が居るのですか!」

「え、ですが服は着れませんでしたし、それに全裸の者など大勢居るので良いではないですか」


「全裸の人なんか大勢居る訳無いでしょ。一体どんな理屈?」

 全く、どんだけ服を着たくないのだか。

「いえ、全裸の者は大勢居ますよ。儂の周りにも」

「「へ? わっ!?」」

 ユジーラにばかり注意がいっていて気が付かったが、いつの間にか彼の周りに全裸の変態…眷属が大勢居た。いつの間に!?


「一体何ですかこの方達は!?」

「何と言われましても、コセルシア様が儂に服を着せようとして発動した魔術で生まれた新たな御二方の眷属ですが」

「……コアさん、一体どうして全裸の眷属が生まれる魔術を使ったの?」

 僕は呆れと非難の籠った冷たい眼差しをコアさんに向け言った。

 何だか女の人の割合が高いし、邪な理由で生み出したんじゃ?


「使っていませんよ! 使う訳無いではありませんか! わたくしが使ったのはどれも服を着せるような魔術ですよ。どこをどうやったら服の要素が全く無い眷属が生まれるのですか!?」

 コアさんは必死に否定する。

 冷静に思い返してみれば、確かにコアさんがさっき発動したのは全て服関係の魔術だ。しかしユジーラに言われた通り、あの変態達からは眷属と同じ存在感を感じる。

 コアさんの魔術から生まれたと言うことに間違いは無いだろう。


「ちょっとそこの君、君はどんな魔術から生まれた眷属?」

 全裸集団の一人に聞いてみた。何の魔術で生まれたか分かれば原因が見えてくるだろう。

「私は“脱衣”の魔術から生まれた存在です」

「そんな魔術、わたくしは使用していませんよ」

 どうやら服を着せる魔術にもかかわらず全裸の人が現れた訳ではないようだ。


「うーん、全然原因が解らないね。コアさん、もう一度ユジーラに服を着せる魔術を使ってみて」

「了解です。“完全武装”」

 コアさんの発動した魔術をよく見る。ユジーラの胸辺りに小さめの魔法陣が出現し、大地から鎧が浮上し彼の身を包む。そしてやはり湯気のようになり拡散した。

 そして彼の近くに湯気が集まり眷属が生まれた。眷属は“完全武装”とは程遠い褌一丁、筋肉隆々の濃いおっさんの姿をしている。


「君は何の魔術から生まれた眷属?」

「オレは“裸一貫”から生まれた男よぉ」

 おっさんが癖のある口調で答える。

 これで解った。多分ユジーラに当たった服関係の魔術は反転してしまっているのだ。“完全武装”の逆に“裸一貫”が存在するのかは疑問だが……。



 兎も角もう少し調べてみよう。

 “裸一貫”のおっさんは褌を締めている。と言うことは別に当たった魔術が全裸の眷属を出す魔術に変化する訳ではないと言うことだ。服の薄い方向に反転するだけなのだろう。

 であれば直接服を着せる魔術以外なら効くものがあるかもしれない。

 ならばまず……。


「コアさん、ユジーラに“ライトニング”を当ててみて」

「“ライトニング”」

 僕がコアさんに頼むと何の躊躇いもなく雷の魔術をユジーラに当てた。

「あばばばばっ!!」

 紫電がユジーラを襲い、彼は悲鳴を上げる。


「どうやら服系の魔術以外は弾いたり出来ないみたいだね。コアさん、間接的に服を着せたり服を着たくなったりする魔術はない?」

「成る程、彼の能力は服を直接纏わせる魔術以外は弾けないと言うことですね。試してみましょう。“変態更正”」

 コアさんが指先に魔法陣を出現させ、そこから正義を表すかのように白い雷を出してユジーラに当てた。


「あばばばばっ!!」

 ふふふ、当たってる当たってる。湯気にして消していないから確実に効いているだろう。


「コアさん、この素敵な名前の魔術は?」

 僕はスッキリとした笑顔で、まだ雷を出しているコアさんに尋ねる。

「ええ、名前の通りの魔術ですとも。どんなに酷い変態もあら不思議、真っ当な聖人並に浄化出来る素敵魔術です」

 コアさんもスッキリとした笑顔で嬉しい答えを教えてくれる。


「こんなに素敵な魔術があるなら最初から使ってよ~」

「いやぁ~、すいません。服を着せる魔術で十分かと思っていましたから。さて、そろそろ綺麗に浄化されましたかね」

 そう言ってコアさんは魔術を止めた。


 ユジーラの周りにはコアさんの雷で焼けたのか、白い湯気のようなものが漂っている。相当効いた証拠だろう。

 白い湯気のようなものは僕達の悩みが完全に晴れたのを象徴するかのように、数ヶ所に集まり晴れてゆく。

 ん? 湯気…集まる……まさか!?


「「…………仙茶飲む(頂けます)?」」

 ガブゴブゴブ、グゥオックン……ガブゴブゴブ、グゥオックン

 一体何杯飲めば落ち着くことができるであろうか?


「「ゴックン、ふぅー」」

 やっとほんの少し落ち着いたところで新たな眷属達を見た。

 どういう姿の眷属なのかは……詳しく語りたくない。少なくとも百人が見て百人が目を反らす存在とだけ言っておこう。


「き、君達、な、何の魔術から生まれたの?」

 本当は聞きたくないが、仕方なく勇気を出して問う。

「“変態堕降”よぉ~、うぅんまっ!」

 えーと…印象的なメイクと印象的な服装(?)……まあとにかく変態な漢女の人が強烈なウインクと投げキッスをしてくる。


「「“隠せ(モザイク)”、“見せるな(不自然な光り)”」」

 僕達は一刻も早く彼等を隠すことにした。ここに議論や思考は必要ない。

 嫌そうな顔をした新たな眷属達が現れ、変態達を隠していく。この魔術は見せてはいけないモノを隠す魔術なのだが、“変態堕降”で生まれた眷属達は全身を隠されていく。

 だがこれでもまだ全然足りない、彼等を世界から隠さねば!


「君達に頼みたい仕事があるんだ。隠密部隊になって欲しい! 僕達以外の、出来れば僕達にも姿を決して、そう決して見せないように僕達のために働いて欲しい!」

 僕は今まで出したことのない程の迫力を振り撒きながら変態達に命令する。


「命令を頂けるのは大変光栄なのですが、儂等は隠密に向いた眷属ではありません。儂等などが御二方の御期待に応えることができるでしょうか?」

 変なところで謙遜しなくていい! するなら姿でして!


「出来ます! 皆さんのその自然の状態に近い姿、きっと隠密行動で役に立ちます! 是非隠密部隊になってください!」

 コアさんが思ってもいないことを言い、僕を助けてくれる。

「「「そこまで言って頂けるとは、ありがとうございます! 必ずや御期待に応えて見せます!」」」

 僕達の企み、いや賢明な判断は成功し、変態眷属達は姿を消して隠れていく。



「「ふぅーー」」

 そして僕達の元を離れて行ったのを確認してから、深い安堵の息を吐く。


「コアさん、今のうちに“変態更正”を大量に発動して」

 名前を付ける前に発動した服の魔術の人は、ユジーラのすぐそばにずっといたが、何の変化もしていないので先に魔術を発動して眷属化が完全に終わらせておけば変態に変わることはないだろう。

「はい」

 こうして変態から僕達を護る眷属が大量に誕生したのだった。


「あっ、人種について問い質すの忘れてた!」

 一番問い詰めねばならないことなのに忘れさせるとは、変態って恐ろしい。

「…………」




文章が長い為、《用語解説》はカットしました。近日中に載せたいと思います。

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