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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第1章 〈都会までの道程〉あるいは〈逆向きに最果て攻略〉

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第十話 素材回収あるいは温泉発掘

 

 皆と勝利の喜びを分かち合った後、僕達は倒した龍を素材として回収する事にした。

 何でも龍の一部は様々な道具の素材になり、儀式でも使えるそうだ。


 そんな素材回収を眷属達に任せて僕は、龍が変化した土をを回収することにした。肥沃な土だからね。回収しないという選択肢は元よりない。

 実は龍を土に還すととてもいい土になると、前々から聞いていたのでずっと欲しかったものでもある。


「さてと、どうやってこの土を回収しようかな?」

 何しろ龍は比喩抜きで山のような大きさだった。龍まるごとが土に還った訳ではないが、それでもちょっとした山は造れる程ある。

 無限収納や豊穣世界アーク・ガーデンには幾らでも容れることはできるが、そこまで土を運ぶ方法が思い付かない。

 土を動かす方法なら幾らでもあるのだが、土と龍のままの部分が混ざっている為、無理に動かすと眷属達の邪魔になってしまう。


「土だけを眷属の邪魔にならないように回収する方法。うーん、植物ならそれだけ採取出来るんだけどな~。あっ、そうだ!」

 植物だけなら採取出来ると口に出して気が付いた。

 土を全て植物に吸収させてしまえばいいのだ。そして豊穣世界アーク・ガーデンに植物だけを持ってきて土に還せば、龍の土を全て回収することができる。

 早速実行しよう。


 まず掌でクイッと上に上げる動作をして、土に植物を生やす。

「“強制育成”」

 そして植物を強制的に成長させた。

 この技は豊穣の力で成長させるのではなく、元々植物が持つ力で強制的に成長させる技で、これを使うと植物が周りにある自分の成長に少しでも必要なものを、限界まで吸収してくれる。


 こうして土が完全に無くなったところで、僕は植物を豊穣世界アーク・ガーデンに持っていきたいと念じた。

 すると龍の亡骸が在る全域の下に僕の豊穣世界アーク・ガーデンが広がり、そこに植物のみが降りていく。



「ふう、成功したみたいだね。後は御茶でも飲みながら眷属の働きぶりを見ていようかな。あれ? 眷属の皆は?」

 僕の作戦が無事成功し土の回収が出来たと思ったら、あれだけ居た眷属達の姿が消えていた。休憩かな?


 皆の姿を探しているとコアさんの姿だけはは見付けたので、皆が何処に行ったか聞いてみよう。知っているかもしれない。


「ねぇ、コアさん。眷属の皆が何処に行ったか知らない?」

「……彼処に居ますよ」

 コアさんが僕に呆れたような表情を向けると、指を差しながら答えてくれた。

 何故そんな表情をするのだろうか? コアさんの指が差す先を見ると一瞬でその答えが解った。


「……皆、僕の豊穣世界アーク・ガーデンに落ちちゃったんだ……」

「……そうです。あの方々にマスターの豊穣の力が籠っているのを忘れたのですか? 植物の特性を全員が持っているので落ちてしまいましたよ」

 コアさんの指先が示す所には、僕の世界に落ちていく眷属達の姿があった。


 眷属達は無抵抗で落ちていっている。

 採取した植物が駄目にならないように、重力とかで勢いよく落下してこないようになっているので、怪我等はしないと思うが、完全に彼等の邪魔をしてしまった。


「……あれ? でも皆植物の特性を持っていたっけ?」

「マスターが毎回植物の力を眷属に与えていたせいか、いつの間にか眷属が生まれる度に必ず自動で植物の力が、マスターの力から流れるようになっていました」

「えー、そんな現象が起きてたの!?」

「はい、何故そうなるのか完全な理由は解りませんが、確かにこの現象は起きています。恐らくこの方が眷属の存在が安定するからでしょう。一種の自然現象だと思います」

 どうやら僕達の眷属は全員植物の特性を持つようだ。余り信じたくないが、実際目の前でそうでなくては説明出来ない現象が起きているから、真実なのだろう。

 これからは植物にしか効かない力でも気を付けて使わないと。


「……皆が戻って来たら謝ろう」

「…………いえ、その必要はないかもしれませんよ。……あの表情からすると」

 とても遠い眼をしたコアさんの発言に疑問が浮かんだが、眷属達の表情を見て納得した。


 皆とても気持ち良さそうで幸せそうな顔をしているのだ。

 お風呂上がりのお爺ちゃん達の肩を揉んで上げたときの、お爺ちゃん達の表情とよく似ている。

 無抵抗で落ちているように見えたが、この表情からすると流れに身を任せていると言った方が正しい。もう自分から落ちているようにしか見えなくなってきた。


「……何で皆、あんな表情をしているの?」

「……わたくしに聞かれても。……多分マスターの世界が植物にとって最高の環境だからではないですか」

 コアさんの説を肯定するように、植物の特性が強い者程気持ち良さそうな顔をしていた。コアさんの考えが正解なのだろう。


「あれ……じゃあ元々一本の木から生み出したサカキとナギ…は?」

 僕の脳裏に恐ろしい推測が浮かんで来てしまったので、ゆっくりと引きつった作り笑顔をコアさんに向け、僕の推測をコアさんに言った。

「…………」

 すると横のコアさんの動きは完全に止まって居た。何故かは何となく予想できるたが、僕はコアさんの視線の先を見た。


 案の定そこには人様にお見せ出来ないような表情をしたサカキとナギが居た。

 二人はまだスーツ姿で手にそれぞれ御幣と鈴を持ったまま、普段の無表情を崩している。頬は熱を帯び紅らみ、眼はトロンと潤んでいて、口からは涎が漏れている。

 完全に関わっちゃ駄目な人状態だ。ただでさえ、あの表情だけでも近づいてはいけない人認定される仕上がりなのに、真面目そうな格好に神社の神具を持っていて、もはや一目でも見てはいけない類いの存在と化している。


「…………」

「…………」


「…………御茶でも飲もうか……」

「……はい……」


 ──ズズズ、ふぅ~。……ハァ~──



 御茶を飲みながら景色を視ると、とても美しい光景が広がっていた。

 僕の採取した植物の再生は、龍に邪魔されたことで未だに続いている。そしてその再生と共に、龍に破壊された大地の再生も行われていた。どちらも光りの粒子が元の形に集まり、時間と共に濃くなっていく。光りには色の違いもあり、闇夜を美しく飾っている。

 嫌なことを、見たくなかったものを忘れられそうだ……多分……。


 龍の遺骸も仄かに光り、不思議と美しい光景を生み出している。

 そこに下に広がる昼の明るさの僕の世界も合わさり、とてもこの世の風景とは思えない光景が鎮座していた。

 僕の世界を覗き過ぎないように注意が必要だが、僕の心を癒してくれる。

 嫌なことを、見たくなかったものを忘れられそうだ……多分……。


 今が真夜中で良かった。

 光りがとても美しい。

 静かな癒しがある。

 嫌なことを、見たくなかったものを忘れ─あれ!? 昼の明るさになっちゃった!?


「コアさん、急に明るくなったけど!?」

「あの龍を倒したからだと…、多分あの暗さは演出だったのですね…」

「演出なんだ……」

「はい、元でもダンジョンですから…。ここの自然環境はある程度操作できます。わたくしは設定した覚えがないので、あの龍がやったのかと……」

「「……」」

「「ズズッ」」


「「「「「ただいま戻りました! ありがとうございます!!」」」」」

 そうこうしているうちに眷属達が戻ってきた。

 そして何故か御礼を言われた。肌艶が良くなっている。どうやら彼等にとっては完全に御褒美の時間だったようだ。

「えーと、どういたしまして? でも仕事の邪魔してごめんね」

 とりあえず感謝を受け取り、一応謝っておいた。

「「「「「いえ、アーク様が謝る必要はございません。誠にありがとうございました!!」」」」」

「う、うん」

 眷属達は凄く元気一杯だ。

「「「「「では、龍の素材の回収に戻ります」」」」」

 そう言い残して眷属達は仕事に戻った。


「…サカキとナギの姿があの中になかったね」

「…そうですね」

「「…ズズッ」」

 あ~、仙茶は落ち着くな~。


「「ハァハァ、た、ただいま、戻り、ました。ハァハァ」」

「「ブフゥウッ!」」

 サカキとナギの二人が何の予兆もなく、いきなり僕達の前に現れたことで、二人揃って飲んでいた仙茶を吹き出してしまった。彼等の顔に御茶が吹きかかる。この“仙茶”の心を鎮める効果は凄まじいのに…。

 しかしこうなるのも無理はない。お互い手を伸ばせば届く距離に、神具を持った真面目そうなスーツ姿の眼を蕩けさせ頬を紅く染めた汗だくの変態…ゴホン、変人…ゴホン、変質者…ゴホン、……まあとにかく何かのような何かが居たのだ。

 この状況で御茶を飲めるのならば、飲んでもらいたい。


「「ペロリ、フフ、主の吹き出した御茶、ハァハァ」」

「「ヒッ!!」」

 ゾクリと凄まじい寒気が走る。口からは思わず短い悲鳴が漏れ、すぐさま隣に居たコアさんと抱き合った。

 なんとこの二人は顔にかかった僕達が吹き出した御茶を、ペロリと舌で舐めたのだ。そしてただでさえ紅くなっている頬をさらに染め、眼の奥の怪しい光りを爛々と輝かせる。


 そして二人は僕達に近づこうとしてくる。恐怖で身体がすくみ、この距離だとどうあがいても逃げ切れそうにない。彼等が一歩踏み出すだけで僕達に届いてしまう。

「「ヒィイイ~!!」」

 僕とコアさんはお互いに抱き合ったまま震え上がった。

 彼等は片足を上げ一歩を踏み出そうとしてくる。まるで恐怖が形を持ったようだ。あぁ、恐怖の代名詞【黒光の天災】ってこんな感じだったのかな……。


 そして二人は大地に上げた片足を着け、一歩を踏み出してしまった。両手を大きく広げ、僕達に何か恐ろしいことをしようとしてくる。

 もう駄目だ。


「「はっ、我等は一体何を? 申し訳ありません。仕事に戻ります」」

「「へ?」」

「「では、失礼致します」」

 急に二人は無表情に近い真面目な表情に戻ると、スタスタと持ち場に戻っていった。

 一体何が?


「何だか解らないけど、良かったねコアさん」

「はい、良かったです」

 なんか拍子抜けして、さっきまでの恐怖が何処かに消えていた。

「何で急に元に戻ったんだろうね?」

「そうですね、少し時間差がありますが、御茶が顔にかかったからかもしれませんね。目を覚まさせる時に水をかけるような要領で」

「あ~、成る程。そうかもしれないね。何はともあれ良かったねコアさん」

「はい、本当に良かったです」



「さて、また何かしたら皆の邪魔をしちゃいそうだし、土も回収し終わったから、このまま御茶でも飲んでいよう。コアさんも飲む?」

「では御言葉に甘えて御相伴にあずからせて頂きます。そういえば先程の御茶はとても落ち着くような素晴らしものでしたが、何と言う御茶なのですか?」

 コアさんが御茶について聞いてきた。どうやらコアさんは元ダンジョンコアなのに、僕がさっき渡した御茶が良いものだと判ったようだ。

 自分で育てた御茶を褒められるととても嬉しい。豊穣だ。


「あれは“仙茶”だよ」

「流石にあれが煎茶だということはわたくしにも判りましたよ。そうではなく御茶の銘柄…いえ、品種を御聞きしたいのですが?」

「ん? ああ、僕が言っているのは煎茶じゃなくて“仙茶”だよ。仙人の御茶って言えば判りやすいかな? 飲んだら仙人になれるって言う迷信付きの御茶なんだ。多分飲めばそれぐらい心が落ち着くから、そんな迷信が生まれたんだろうね」

「確かにあの時、飲んだだけで心が落ち着きましたね。すぐに心が乱れましたが……」

「仙茶より心を落ち着けさせれる飲み物なんて、存在しないんだけどね……」


「気を取り直して一緒に御茶を飲もう。また仙茶でいい?」

「はい」

 コアさんの返事を聞いた僕は御茶を淹れる。


 まずは水と火を一つにして湯を創り、それを既に仙茶を容れてある急須に注ぐ。

 これだけで御茶の薫りが辺りに広がり、その広がりを示すかのように薄い霧のような湯気が現れた。


 そして湯飲みに御茶を注ぐ。

 すると湯気がさらに広がり、御茶を注ぎ終わると同時に全ての湯気が消える。

 湯気の消えた跡には、龍に荒らされた大地が嘘だったかのように碧の草が、ずっと昔から存在したかのように鎮座していた。


「はいどうぞ、コアさん」

 最後に僕は足元に畳を直接作り出してから、コアさんに淹れた御茶を渡す。

「……いろいろと聞きたいことがありますが、今は落ち着きたい気分なので大人しく頂きます」

 ん? 何かあった? まあいいや、僕も落ち着きたい気分だから御茶を飲もう。

「「ズズッ、フ~」」




「「龍の回収作業、終了致しました」」

 僕達が御茶を飲みはじめて暫くすると、眷属達を代表してサカキとナギの二人が報告にきた。

「ご苦労様、ありがとうね」

「「有り難き御言葉、ありがとうございます」」

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

 感謝の言葉を言ったら、何故か感謝の言葉で返された…。


「そうだ、御茶でも飲む?」

 何だかしてもらってばかりで悪い気がしたので御茶を勧める。さっきも本人達がどう思っているかはともかく、作業の邪魔をしちゃったしね。

「申し訳ありません。大変に光栄なのですが、辞退させて頂きたく」

「遠慮しなくてもいいよ。御茶なら幾らでも、それこそ望めば無限にあるからね」

「いえ遠慮ではなく、我等にその御茶は過ぎたものでありまして」

 よく見ると眷属達の顔からは申し訳なさそうな感情と、残念そうな感情が表れている。恐らく心情的にではなく身体的に飲めないのだろう。


「では皆さんお疲れのよう…という訳でもなさそうですが、汗はかいて…もいませんね。兎も角、仕事終わりに御風呂に入るというのはどうでしょう?」

 僕が頑張った眷属達に何かしてあげたいなと思っても、方法を思い付けずにいると、コアさんが助け船を出してくれた。

「そうだね、それがいいよ」

 すかさず僕もコアさんの話しに乗る。

『コアさん、ありがとう』

『いいえ、当然のことをしたまでです。わたくしも彼等にお礼がしたいと思っていましたし』

 そして僕は念話でコアさんに御礼を言った。実は御茶を飲んでいる時に念話が出来ると判ったのだ。


「我等の存在意義は主に仕えること。そんな我等に労い等不用です。存分に我等を御使い下さい」

「うーん、じゃあ、僕達の命令は何でも聞いてくれるの?」

「勿論です」

「だったら御風呂に入ってよ」

 どうやっても僕達の御礼を受け取ってくれそうになかったので、僕は英雄譚ライトサーガを参考にして命令として言ってみる。常套手段だ。


「しかし…」

「命令が聞けないの?」

「決してそういう訳では…」

わたくし達の苦労を思って断っているのならば気にしないでください。御風呂等すぐに造れます」

「そうだよ、それに僕達も入るからね。二人だけで入るなんて勿体無いから、御風呂を有効活用する為にも入ってよ」

 僕もコアさんに合わせて言う。本当は僕が御風呂に入る必要はないのだが、この際一緒に入ろう。


「「「「「「「…主と同じ御湯に入れる。…ゴクリッ」」」」」」」

 一つ一つの声は呟きだったが、全員の声が一つになりハッキリと聞こえた。

 なんだろう、とても不味いことを言ってしまった気がする……。


「そ、そこまで、言ってくださるのに、これ以上、断るのは失礼にあたり、ますよね」

「そ、そうですね。これ以上、断る訳にはいきませんね」

 いつも無表情のサカキとナギが、何か後ろめたいことがあるかのように目線をそらしながら、動揺した口調でついに僕達の申し出に応える。

「「……うん、それは良かった。今すぐ準備するね(しますね)」」

 何か引っ掛かるものを感じながら、僕達はそう応えた。



「“農具創造【つるはし】”」

 僕は手につるはしを創り出す。

「ん? 何ですか? そのつるはしは?」

「何って、温泉を掘る為の農具だけど」

「……手動で温泉を掘るつもりだったのですね。わたくしは魔術で浴場を造ってそこにお湯を容れようかと思っていたのですが……」

 コアさんが呆れたように言う。あれ? 僕、変なこと言った?


「だって普通のお湯よりも温泉の方が気持ちいいでしょ?」

「それはそうですが、温泉を掘り当てるには魔術を使っても簡単にはいきませんよ。穴を掘るだけならば幾らでも方法がありますが、湯脈を見つけなければ温泉は出てきませんし、湯脈がなければ“温泉顕現オホナムチ”等の相当高度な魔術が必要です。つるはし等では温泉は出てきませんよ」

「え、つるはしでもすぐに温泉は出てくるよ。ほら」

 カツンと僕は足元につるはしを振り下ろす。するとつるはしを中心に大地にヒビが入る。

 ヒビが入ったことを確認した僕は、つるはしを回収してその場から離れる。


「コアさんも早く離れた方がいいよ」

「何故で─」

 プッシャーン、コアさんが最後まで言う前に大地のヒビから温泉が吹き出した。その音でコアさんの言葉の続きも姿もかき消えた。こりゃ完全に直撃していそうだ。

 もっと早く注意するべきだったかな。半熟の温泉コアさんになっていなければいいけど。


「ブハッ! …………本当に温泉が出てきましたね……」

 温泉の勢いが収まってくると、中からびしょ濡れのコアさんが姿を現した。良かった、見た感じ温泉コアさんになっていない。

 いつもならここでびしょ濡れになったと、怒り出しそうなところだが、今のコアさんにそんな様子はない。呆然とした様子だ。

「大丈夫、コアさん? 中身が半熟になったりしていない?」

「卵みたい扱いをしないでください。わたくしは大丈夫です」

 コアさんはそう言うと、一瞬半透明になり乾いた姿に戻った。身体が透けたことで水分が下に落ちたのだろう。随分と便利な身体だな~。


「それにしても凄いですね。つるはし一振で温泉を堀当てるとは…」

「そう? 水と温泉ならどこからでも出てくるよ」

「…いえ、絶対にどこからでも出てきませんからね。魔力も生命力も使っていないようですし、本当にどうやったのですか…」

 そう言うとコアさんは、はぁーとため息を吐いた。

「つるはしを振り下ろしただけだよ。そんなことよりも温泉が出たから浴場を造ろう」

 本当につるはしを振り下ろしただけなので、何故と聞かれても解らない。もしかして都会とかだと出てこないのかな?


「そうですね。では“浴場造営”」

 コアさんが聞いたことも想像したこともない魔術を発動した。スキルで言うと何なのだろうか?

 コアさんを中心に半径50メートルはありそうな巨大な魔法陣が現れ、スゥーと数十人もの眷属達が現れた。

 そして僕から黄緑色の風が流れて彼等に優しく入っていく。龍との戦いでは全く気付かなかったが、本当に眷属が生まれると自動的に僕の力が流れていたようだ。


 新たな眷属達はデザインこそ数有るものの、皆一様にバスタオルで作られたような薄着(?)を着ていて、今すぐにそのまま御風呂に入れそうな格好をしている。

 顔つき等も大工さんのような人は少なく、神官っぽい人の方が多いい。見るとリーダー格は頭にタオルを乗せただけの服装(?)をした、温泉好きそうなお爺さんのようだ。

 君達、御風呂を造る側の人だよね……。


 そんな彼等は早速浴場の造営に取りかかった。


 ある者はスコップで浴槽の形に地面を堀ながら土を上に放り投げ、ある者はその土を煉瓦に変える。そしてある者は浴槽の形に沿って出来た煉瓦を並べていく。

 ある者は土を石材に変え、ある者はそれを浴槽の形に彫っていく。

 ある者は窪地に石を並べて浴槽を造る。


 そしてある者は彫刻を彫り、ある者は何処からか植物を持って来て植える。

 ある者は出来上がった浴槽に儀式を施し、そしてある者が温泉を引く。

 最後にリーダー格のお爺さんが湯に浸かり、最終確認をする。


 このような作業が凄まじい速度で行われ、一分と経たずに様々な御風呂が完成した。

 一部余計なお爺さんが居たような気がするが、兎も角御風呂は完成した。


「浴場の造営、無事成功致しましたのですじゃ」

 全ての作業が終わったところで、リーダー格のお爺さんが報告にきた。その顔は自信に満ちた誇らしげなものだ。

 ……君、殆ど何もしていないよね。あと報告の時ぐらいは股間のモノを隠そう。


「…ご苦労様です」

 コアさんが腑に落ちない様子でそう感謝の言葉を伝えた。コアさんも僕と思いは同じようだ。

「いえいえ、ワシは当然のことをしたまでですじゃ」

 だから君、温泉に浸かってただけだよね……。

「では御ゆっくりと温泉を御堪能ください。ホォッ、ホォッ、ホォ」

 そう言い残し温泉のお爺さん、いや温泉爺さんは笑い声を上げて去っていった。


「…まあ、温泉が出来て良かったね」

「…そうですね」

 早く温泉に入って忘れよう。






 《用語解説》

 ・仙茶

 飲めば仙人に至れる御茶。迷信等ではない。

 コセルシアが存在を知らなかった程希少な御茶であり、大災害【漠】に護られた仙境に自生している。


 アークやコセルシアが飲んでも、ただの落ち着く御茶でしかないのは、そもそも二人が仙人の住むような秘境等比べものにならない程の果てに住む存在だからである。

 同じような理由でアークの育てた仙茶は、非常に強大な力を持ち飲める者が殆ど居ない。


 実はダンジョン【最果て】に自生する普通の草の方が、仙境に自生する仙茶より強力な力を持っている。



 ・農具創造

 農具を創造する技。

 効果は簡単だが、難易度は非常に高い。


 文技として使うのならば、〈農業〉の上位スキル〈大農業〉のさらに上、〈開拓農業〉のスキル又は〈無手農業〉が必要だ。

 しかし結局のところ、文技を使えるようになるまでも訓練が必要なので、この技を覚えた存在はアーク以外に居ない。農具を買うなり作るなりすればいいからである。



 ・温泉顕現オホナムチ

 温泉を湯脈ごと創り出す魔術。

 スキルで言うと〈温泉魔法〉、〈浴場魔法〉、そして〈源泉魔法〉とかつて実在したか調べるだけで、学者系スキルをいくつか獲得出来る程稀少なスキルの枠組みに入るが、〈治療魔法〉の上位スキルや、勇者や聖人の持つことがある〈聖属性魔術〉の上位スキル〈聖魔術〉でも極めればギリギリ発動できる。

 通常魔術は魔術式さえ合っていれば発動できるが、この魔術はスキルがなければ人智を越える魔力を必要とする為、スキルがない場合生贄を百単位で用意しなければ発動できない。


 上記のように発動条件が極めて難しい割に、ただ温泉を湯脈ごと創り出す魔術である為、使用したらいろいろな意味で歴史に残る超高等魔術である。

 有名な温泉郷だと、実はこの魔術で創られたものも多いい。そのような土地だと、この魔術の使用者は神の如く奉られている。


 尚、温泉の効能等は使用者の力量に依って変わる。

 またアークは豊穣の力で、コセルシアは領域創造の力で、当たり前のように使える。本人達にとっては派手な生活魔法である。



 ・浴場造営

 浴場を造営する魔術。

 何故存在するのか、そもそも誰か使ったことがあるのか、全てがどうでもいい謎に包まれた魔術である。少なくともコセルシアを合わせて、片手で数えられる数の存在しか使用したことがない。

 スキルでは浴場の形を造るだけの魔術なので〈地属性魔術〉の枠組みに入る。




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