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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第4章〈アーク主催イベント〉あるいは〈縁結びイベント〉

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第八十八話 料理あるいは世界を揺るがす戦い

あ、明けまして、おめでとうございます!

……また半年が経過していました。


もはや意地になるコアさんは止まらない。


どんな手を使ってでも◯☓ゲームで間違えを選んだ先輩達を止めようと、世界破壊活動を続けている。


本来どうやっても怪我人の一人も出る事が無い筈のクリームパイ砲は、パイ粒子の一粒に至るまで強引に超加速した結果、光速近くまで加速された原子ビームを照射する戦後を考えない超決戦兵器と化し地形を蒸発させている。


しかもそれをガトリング。


クリームパイの射線上にもはや固体は残っていない。地平線の果てまで見ても何もない。

◯☓ゲームの舞台世界を星型として創ったから良かったものの、もし平坦な世界として創っていたら更に被害はとんでも無い事になっていただろう。

まあ現時点でも、星が少し削れて球じゃなくなっているかも知れないが……。


そしてゲームの要、◯☓の書かれた壁自体の変化もあまりに酷い。


もう、山があった。

煉瓦とか石材の壁ではない。

そこに在ったのは8000メートル級の岩山。

百億歩譲って高さは要らないと思う。厚さだけで十分に、いや十億分に過剰だ。


その山の厚みを確保する為に伸ばした走行距離だけでも競技として有り得ない変更だと思う。

少なくとも短距離走が長距離走にいきなり変更になったイベントなんて世界のどこを探しても無い筈だ。


そして大問題はもう一つ。


「“五体裂強”!! “覇剣”!!」


何故か先輩達はこれでも止まらなかった。


筋肉が裂け骨にもヒビが入る限界を超えた超身体強化をしたアズラメイグ先輩は◯☓に飛び込む前に剣を構え、それを振り下ろす。


「うぉぉぉぉーーーーーー!!!」


そして、8000メートル級の岩山を斬った。


山が真っ二つとなり、生まれた渓谷を駆け抜けてゆく。


◯☓のマークは斬撃に巻き込まれてもはや存在していない。

どちらをアズラメイグ先輩が選んだのかは不明だ。

ゲームは欠片も成立していない。


完全に、違う競技になっている。


ただ、目の前の障害物を排除して前に進む謎レースだ。


コアさんも何故か、正解したのか不正解したのかも分からないアズラメイグ先輩に向けてクリームパイ原子ビーム砲を放つ。


光速付近まで加速された質量の暴威は語るまでもなく、強引に弾かれた原子から素粒子は弾き出され、連鎖的に恒星の如きエネルギーが取り出さてゆく。 


それは一瞬で8000メートル級の山を熔解、蒸発させ星にヒビを入れる程の破壊をもたらした。


しかしそこで終焉とはならない。


「“覇剣守儀”!!」


アズラメイグ先輩は瞬時に剣を大地に、いや空間領域に突き立て、そこを起点に結界を展開。


「ぐぅぅぅっっ!!」


空間をバキバキに砕きながら後退するも、何とかクリームパイ原子ビームの射線から脱出し耐えきる事に成功する。


そして、先輩達が乗り越えてしまうからこそ、コアさんも止まらない。


「光速で照射されるクリームパイの速度に補充速度が追いついていません! 補充機構を光速リボルバーに変更! 次こそは仕留めるのです!」


コアさんの方も仕留める事を目的とするなど、趣旨が変わって来てしまっている。


もう、暫く放っておこう。


流石に星が砕け散った頃には正気に戻るだろう。


僕は暫く、現実逃避に音楽料理イベントの方に集中していようかな……。

目を放すのも怖いが、まあ、星が砕け散る位が最悪の限度の筈だ。



音楽料理イベントの方は、今は主に料理の時間。


料理上手の先輩が所属しているチームは調理時間も早かったが、基本的にはまだ料理中の人達が大多数。

珍しい食材の獲得に失敗して、普通に料理に取り組んでいる人達はそもそも調理開始が遅れているから、イベント参加者の人数的にも偽カップルイベントの参加者の数倍だ。

新たに出したお題食材を取りに向かった人もいるが、時間的な制約から過半数は今、料理をしている。


会場中に様々な料理の良い香りが……、しない……。


料理上手な参加者達は、もう既に料理を完成させている。

つまり、料理が上手くない、そもそもした事が無い人が大多数なのだ。


ま、まあ、初めて料理をして天才的才能を発揮する人も居る筈だ。


そうでなくとも、世の中では感で料理を作る人がおそらくは大多数。

何故か、適当に作っているようにしか見えない人の料理の方がちゃんと計量して作った料理よりも美味しいなんて例、幾らでもある。

完全なレシピが守られる料理なんて、カップ麺くらいだろう。


と言う事で、適当にしか見えない調理風景を眺める。


豊富な海鮮を用意して調理を開始したのはアクセソプライヤ先輩。

料理未経験なのを食材の質で埋める作戦らしく、用意された海鮮はどれも先輩が獲ったばかりの新鮮なお魚ばかり。


ただ切るだけでとても美味しいお刺身の完成する素晴らしい食材だ。

早く盛り付けて持ってきて欲しい。


「油にィィぃーーーー、ドボォおぉぉぉーーーんッッ!!」


迷う事なく煮えたぎる油の中に投げ込まれる新鮮な海鮮達…………。


僕のお刺身ぃぃィィーーーーーーーッッ!!!


豪快に投げ込まれ溢れた油が引火し、あっという間に炎に包まれる僕の海鮮……。


僕の海鮮が、僕の海鮮が……。


まさか、まさか異世界に伝わると言う伝説、黄金伝説の悲劇が目の前で起きるなんて……。


「異世界の伝承通りの伝説の黄金料理! これで高得点間違いなしだぁ!」


わざとやったんかいっ!

そんなもん、参考にするなっ!

何を聞いて料理の参考になると思った!


視てみると、伝説の料理と、その言葉だけ切り取って作ってしまったらしい……。

まあ、色々と省略して略せば伝説の料理なのかも知れないが……。


英雄譚にも、まさかこんな負の面があったとは……。


「油にどぼーーんっっ!!」

「油をどぼんーーん!!」

「油にどぼーーーーん!!」


……まさかの、海鮮投げ込み派は複数いる始末。

色々な意味で英雄譚の力は馬鹿に出来ない。


そして英雄譚の伝承としての性質も。

歴史ではなく伝説と化したそれは、答えを半ば無きものとしている。


ウリベル先輩は食用ではない燃料油に海鮮を捨て、どう伝わり解釈したのかクラチラ先輩は火に投げ込んだ海鮮に油をぶっかけて海鮮を焼却。

揚げ物文化自体が地元に無いらしいアルミス先輩は火に焚べてもいない油にただ海鮮を浸漬していた。


……何れも先輩達が獲ったばかりのとても美味しい筈の新鮮な海鮮なのに……。


アクセソプライヤ先輩は、まだマシな部類だったらしい。


奇跡的に、いやもはや喜劇的に美味しい揚げ物になっている事を祈ろう。


ただ、海鮮を食材として選んだ全員が全員、油にどぼーんをしている訳ではない。

ちゃんと誰でも出来るはずのお刺身に挑戦している人もいた。


エストーニア先輩はそんな人達の一人。


直剣を振るうと瞬きする間にも魚は細かく斬られ、皿の上に花びらのように舞い落ち、頭を中央にしてその周りに花弁の様に盛られてゆく。

包丁ではなく剣で斬っていたのは少し気になるが、実に見事な腕前だ。


……まあ、刺し身になったのが猛毒と言う言葉で済ませて良いのかも分からない程の有毒性を持つ事で知られるビャッコフグでなければの話だが……。


もちろん当然のように、毒の処理はされていない。


一流の料理人どころか超一流を越え、歴史に刻まれるレベルの調理技術が無ければ調理出来ない特級毒物に素人が立ち向かえる訳が無い。

いや、実のところエストーニア先輩程の剣の腕前と、毒に侵されない剣があれば調理可能でも有るのだが、毒を全く気にすることなく調理している。

そもそも毒をどうにかしなければ食べれない事を知らないらしい。

腕前と言うよりもそれ以前の問題だ。


漏れ出た毒で花のように持った刺し身が一瞬で紫ピンクに変色し、皿が毒々しい煙を上げながら溶けているが、それすら気にした様子がない。


エストーニア先輩自身は大精霊であり、毒の効かない存在だ。

しかしだからと言って、何故ここまで毒々しいものを無視出来るのだろうか。

もはや真正面から問うてみたいレベルだ。


しかし、残念な事に毒物を取り扱っているのはエストーニア先輩だけでは無かった。


「料理とは芸術! 味だけではなく見かけも大切なのだ!」


そう言いながらシーゼ先輩が作るのは確かに見かけは良い、極彩色のパスタ。

とてもカラフルなキノコでキレイに盛られている。まるで絵本の中の料理かのようにとても色とりどりで確かに芸術的に作品になっている。

が、食欲は一切湧かない。何故ならば極彩色のカラフルキノコとはもはや説明不要であるが、毒キノコだからだ。


そして、和食のテーマの筈なのに何故かパスタ。

いや、本人はうどんを作っているつもりの様だが、麺はパスタ麺だし汁は毒キノコに吸い取られて完全にパスタになっている。


確かに料理は盛り付けも大切だとは言うが、それを言って良いのは味を極めた人だけとよく分かる例だ。


そんな料理の基本を分かっていないシーゼ先輩だが、流石に味見の必要性くらいは知っているらしく、小さく盛った極彩色パスタを一口。


「うっ……ブクブクブク…………」


当然の様に泡を吹いて倒れた。

その全身からは食べたのと同じ様な、カラフルなキノコが生えてくる。


見た目通りの猛毒キノコだったらしい。

猛毒を人に食べさせようとしていたのだから、自業自得と言って良い。


それにしても、まさか世界を壊し得る程の衝突をしても先輩達は何故かピンピンしているのに、調理工程で瀕死になるとは……。


倒れたシーゼ先輩に幾人かの先輩達が観客席を飛び越え駆け寄る。


選手達は全く気にせず料理中だ。


「うん、良かった良かった。料理を途中で放り出されなくて。素晴らしい料理人精神だね」

「……そこは、寧ろ人命を軽視した事に叱責するべきかと」

「本当は助けに行きたいのに料理に全てを注ぐ。動かない事にも並外れた精神が必要だから、その心意気は助けに行った行かないで貴賤は無いものなんだよ。火消しの人が大災害の時、目の前で救助を頼まれても多くを救う為、彼等にしか出来ない火消しの為、涙を呑んでただ火を消しに向かう。それは紛れもない英雄の行動だ。だから僕は審査委員として動かなかった彼らを、料理を続けた彼等を評価するよ」

「……料理と人命は比較するべきでは無いかと」


タナカ=タロウが何か言っているが、僕は審査委員として料理の良し悪し、料理に取り組む姿勢を評価する立場。

だからこれは当然の判断。

決して、僕が食い意地を張っている訳ではないのだ。


「でも、後で観客席から来た人達には感謝を言っておかないとね」

「では、我々が後ほどお伝えしておきます」

「ありがとう。じゃあ、イベント進行を助けてくれてありがとうって、伝えておいてね」


眷属が代わりに行ってくれる様なのでお願いする。


「……本当に人命、軽視していませんか?」

「気の所為だと思うよ」


兎も角、シーゼ先輩に助けは来たのだ。

何か治療方針で揉めているのか、まだ泡を吹いていて倒れたままだが、直に回復するだろう。

まるで問題はない。


「この培地は私のものだ!」

「何を言うか! このキノコは先に吾輩が目をつけたものである!」

「検体に先に辿り着いたのは私よ!」


……誰一人、治す気が無かった。

観客席から駆け付けて来た先輩は八人もいるのに、誰一人として治療する気が無い。


「話し合いと行きましょう。“それは私のも――”」「させるか! 何が話し合いだ! 言霊の幻霊!」


話し合いと見せかけて言葉で現実を縛る事が出来るセアノト先輩が言霊の力を行使しようとした所で、それを察知したクロイト先輩がナイフを投げそこに込められた雷が炸裂し武力衝突が発生。


こうなれば力尽くで勝ち取ると全員が武器を抜き術式を構築する。


「“命叫紫水”! 死にたく無ければ離れるがよい!」


蠱毒のグルメ家でありその結果、全身に猛毒を有するリズモンド先輩が猛毒の鎧を纏い正面からシーゼ先輩の獲得に動く。

踏み込んだ地面は紫煙を上げながら溶け、触れた空気も毒に侵され炎の様な形態に。


それは攻防一体の走る不可侵領域。

街も浴びればやがて侵食され滅びる致死そのもの。


「“超娜衣フローラ”、“超活”!」


が、何の躊躇もなくカーラ先輩は飛び込む。

それも凄まじい速度で。


触れただけで侵食される毒の中、花の様な魔装を身に纏ったカーラ先輩は無傷。

毒を絶つのではなく、寧ろ吸収して無害化しエネルギーに転換している。


その速度、パワーはリズモンド先輩を上回るり、抜き際に杖、いや撹拌棒で殴りつけた。


「ぐっ」


リズモンド先輩は毒の操作を防御に回すが激しく吹き飛ばされる。

吹き飛ばされる先々が毒に侵食されているが、何故か誰も気にしない。


「おお、ちょうど火が! 紫色の炎とは、旨い料理ができること間違いなしだ!」


戦闘が開始されたのに目も向けず料理に取り組む先輩までもいる始末……。

ただ、毒に侵食され溶けているのは本人曰く特製卵焼きの材料だとか言う謎の混沌液体。具沢山が良いとこれまた当たり前のようにカラフルなキノコやカラフルなクラゲが入った、ミスリル製のボールすらも侵食し始めている世界汚染物質。

猛毒に猛毒が呑まれて相互侵食して対消滅して世界的には素晴らしい結果となっている。


尚、そんな毒を二つとも浴びている筈のクレイ先輩はまだ何も気が付いていない。

いや、冷や汗を流している。


視ればクレイ先輩は霊が見えそれ故に引き寄せるが除霊できない知覚のみの霊能力者。生まれた時からその知覚能力のみがあるが故に、唯一の対抗策として見て見ぬ振りをするという技能を無意識下で身に着けたらしい。

その見て見ぬ振り、気が付かないと言う行為の強制を肉体にも適用出来るらしく、毒を気が付かない振りして無害化しているようだ。


単にこんな事になる前に逃げれば良いと思う、と言うよりもそれしか答えは無かったと思うが、そもそもが能力に引きずられて鈍感になってしまったらしい。

だとしても限度があると思うが……。


やはりと言うべきか、他の無視していた先輩達の中にはこれ以上無関心でいられず参戦する人達も現れ始める。


原因は自らの身の危険を感じた為、ではなく先輩達自身が無事でも食材にまで被害が広がって来たからだ。


「止めろ! タコが撒き散らされる毒で溶けたじゃねぇか! どうしてくれる!」

「毒キノコ、こっちにまで生えて来たわよ!」

「味見したルガーさんが倒れた責任は必ず取ってもらいます!」


尚、参戦してきた先輩達の参戦理由は全部冤罪だ……。


僕が会場の屋台料理に高得点をつけているのを見て急遽たこ焼きを作っていた召喚術士のエラゴノート先輩の調理台の上には、確かに激しく黒煙のようなものを撒き散らすナニカが溶けた半個体半液体の物体があるが、これはそもそもタコでは無い。

タコっぽい触手を持つ、されどよく見なくとも見間違いようの無い異星の邪神の一部だ。


本体から切り離されたソレはこの世のものでは無く、時間経過で崩れ去っただけであり、毒などはまるで関与していない。


まな板から大量のキノコが発生し参戦を決めたナターニア先輩の場合も冤罪であり、キノコが生えたのはまな板の材料が腐界の魔王を封印していた聖樹であり、斬った枝から封印の効力が失われ封印の一部が解けかかっているからである。


そしてルガー先輩が倒れたのは、単純に作った料理が猛毒だっただけだ。


しかし真実とは関係なく戦火は広がる一方。


何よりまずい事に、タコっぽい触手の邪神と腐界の魔王が、切り離された一部を呼び水にこの世界に現れようとしている。


……何故だろう?

コアさんの世界を破壊する地獄絵図から現実逃避しようとしていた筈なのに、それに匹敵する地獄がこの場に顕現しようとしている。

ただ、料理をしていただけの場所で、何故、こんな事に……。


唯一の救いは、美味しそうな料理、と言うよりも食べられるものが作るられていない事だろうか?


……何故だろう?

何故、料理が作られている筈なのに食べられるものが存在しないのだろうか?


せめて、どうにかこうにかして縁結びに繋がってくれる事を祈るばかりだ。



徐々に徐々に激しくなる調理場の戦場。

料理をする会場なのに、もはや武道大会の会場にしか見えなくなっている。


いや、そんなものですら無い。


空間を割りこちらに出現しようとするタコモドキによって会場中に異空の穴が空き、腐界の魔王の領域が侵食し、乱れ不安定となった空間が相乗効果でもはや異界そのものへと変異しつつある。


しかしそんな事、お構いなしの先輩達。


激しく衝突する毎に空間の亀裂は大きくなり、加速的に侵食が激しくなるが気にせずにぶつかり続ける。


「“セイントブレイク”! “セイントブレイク”!

“セイントブレイク”!」

「“レギオン”! “デス・リ・レギオン”!」


ラーミュナ先輩は贄から搾り取った潤沢な魔力を惜しむ事なく注ぎ込み、戦略級の魔法かと見紛うばかりのエネルギーと結果をもたらす斬撃を放ち続け、そんな斬撃に襲われたエラゴノート先輩は大量の魔獣を召喚し盾とし、更にはアンデッド召喚魔法を重ねがけし潰された魔獣をアンデッドとして再利用。

斬るのでは無く莫大なエネルギーで焼き潰す斬撃の嵐と、魔物による大波がぶつかり、たった二人の衝突なのに戦場の様な光景が展開される。


腐った海藻を纏った巨人のゾンビの様な姿の怪物の五つある腕が迫るも、イソギンチャクの様な無数の指は剣から飛ばされた紫紺の斬撃により焼き斬り吹き飛ばす。

圧縮されたエネルギーが形を持った斬撃は止まらずに腕を走り、焼き払い爆散させながらそのまま百メートルほど先の本体を真っ二つに。


しかし炎の中から飛び出るのは歪な骨。

瞬間的にアンデッド化した異界の怪物は何事も無かったかのようにラーミュナ先輩を握り潰そうと迫り、ラミューナ先輩の姿を完全に覆い隠す。


「“剛破連鎖(ブレイクチェイン)”」


歪な骨の手はクロイト先輩の地面を揺るがす程の斧の一撃で粉砕。

離れた距離ほどドミノ倒しの様な連鎖により威力が増すその轟撃により、手のみならずアンデッドの本体も打ち砕かれる。


ラミューナ先輩は砕け散った骨の中から瞬時に脱出。


これは見事な援護、ではない。

クロイト先輩の目的は援護ではなくラミューナ先輩の排除。

動きが止まった隙にトドメを刺そうとしたのだ。


「“セイントブレイク”!」

「“硬防連鎖(ブロックチェイン)”!」


だから争いは激化する一方。

一対一から三つ巴に。


一発一発が攻城級を越える威力の斬撃や打撃と異界より魔獣を喚び出す召喚魔法のぶつかり合いは空間を砕き揺るがし、異星の邪神達のつけ入る隙を与え、周囲が加速的に侵食されているが、誰も気にする事は無い。

それどころか激しさは増す一方で、侵食の加速を加速させる始末。対数的に異常が積み重なる。


そして、ソレは繋がってしまった。


ソレは異界。

異世界ではなく異界。

管理者なき世界の成れの果て。

物理法則を含めた全ての秩序が失われたかつての世界。


世界を管理しない存在が世界を管理する権能を手に入れてしまった末路。

起源と結果には様々な種類があるが、一言で言ってしまえばそれが異界だ。


繋がってしまった異界は、神性が創世初期の本星ごと原始生物に喰い荒らされ、喰らう本能しか存在しない原始生物が世界を管理する神となってしまった滅びた世界だ。

創造神が人を創造するのではなく、創造神の力を持つ星が進化によって人を生み出そうとして失敗してしまった果てであり、異界の中では割と多い起源と言える。


厄介なのはその神性を喰らってしまった原始生物。

外なる神、異星の神、外界の神、異界の神、異教の神、あるいは単純に邪神。

その様に呼ばれる存在に、神性を己のものとした原始生物は至っている。


ただ喰らう事のみを目的とする侵略の神。


更に厄介な特性として喰らう対象には神として加わった性質、信仰が含まれている。

だが、外なる邪神は神の力を手に入れたとしても本質は原始生物。教義を教え信仰を育む事などまず無い。

邪神と言う存在そのものがもたらす根源的絶望や根源的恐怖が幾らでも手に入るのだから、ただそれを求め世界に破滅をもたらそうと侵略を行う。


そして何よりも、強大。

世界を喰らった程の存在なのだから当然だ。


神々よりも力を有している事も多々ある。

加えて原始生物が起源である事から神々には無い肉体を有する存在まで多い始末だ。


まあ、異界を棲家にしている関係上、壊れていない世界には適応しておらず、完全な肉体を持っている訳でもない。

しかし神々が地上に降臨するのとどちらが消耗するかと言うと、基本的には異界より邪神が侵食する方が消耗は少ないだろう。


神々ですらも恐れる程の脅威。

それが異界の邪神だ。


そんな邪神がうじゃうじゃと巣食っている異界が、エラゴノート先輩の召喚術を基点として繋がってしまった。


邪神はあっという間に空間の穴を侵食し拡げ、溢れる様にこの世界に降臨する。


…………ただ料理していただけな筈のこの会場に星どころか世界を喰らう様な邪神が何体も降臨してゆく。


コアさんが進めている星を滅ぼす勢いの◯☓ゲームよりも、何故か酷い地獄が、この世に広がろうとしている…………。


「活きの良いタコだ。刺し身にしてやろう」

「イカの素麺、これなら勝てる」

「あれは海藻? 味噌汁の具材にぴったり」

「あの緑色のネバネバはソースにできそう」

「よく分からん海鮮だが、高得点間違いなし」


…………絶望で頭がおかしくなってしまったのだろうか?

何故か、戦闘に参戦していなかった先輩達が、眼を爛々と輝かせ、獲物を取る。


そして、異界の邪神に全く恐れる様子もなく突っ込んで征く。


「――また、禁忌を侵す――」


星を喰らう邪神の蛸のような触腕がただ一太刀で斬り落とされる。

邪悪な破滅的エネルギーが高密度で束ねられ、神の依代以上に頑丈なそれが、十全に力を発揮出来る筈のまだこの世に顕現していない部分も含めて、何の抵抗も許されずに斬り落とされた。


他の触腕も、次々と斬られてゆく。

まな板の上でタコを切るのにかかる時間よりも短い短時間で、次々と。


光を纏い放つその姿は神話の英雄の様。

まあ、目的はタコ刺しみたいだが……。

それでもその戦う姿は神話を見ている様だ。


しかし、リファイゼ先輩は零落した神。

人を直接救う事が禁忌とされている世界において、人を助ける為に禁忌を侵し続け、神格を失った存在。

もはや信仰を得る力すらも無いが、唯一自分の行いを信じる事でその信念の分だけ力を取り戻す事が出来る。


何故か、タコ刺しの為に神の力を取り戻しているが、その力は神の力、異界の邪神に対抗出来て何ら不思議では無い。


「“リベンジ・オブ・アビス”!」


展開された異界以上に邪悪そうな深淵に落とされ、そこに潜む怪物に切り裂かれて逝く異界の邪神。

……神の力が無くても簡単に倒せるらしい。


いやいや、レウィン先輩は退職代行サービスをしていた筈が何故か追放代行サービスをする事になってしまった代行者。

何故か追放される筈だった人の代わりに最難関ダンジョンの奥地に置き去りにされたり、魔獣しかいない前人未到の魔境に追放されたり、通常なら有り得ない死が前提の追放を何度も何度も体験し、その結果として追放系英雄が束になった様な実力を身に着けた主人公数人分の実力者だ。


だからレウィン先輩が異界の邪神を普通のイカを捌く様な手軽さで切り裂いているものは例外。


「“火蝶楓月”」


舞のように見事な炎の剣術で触腕をぶつ切りにするシェラ先輩も例外。

女人禁制が行き過ぎて女性耐性マイナスの神仙住まう神山に迷い込み、行き過ぎた神の寵愛を受けた神仙見習いだ。

当然一部の例外である。


「イマジナリ・アンチエレクトロン砲、発射〜!!」


異界が邪神ごと超兵器から放たれたクリティカルな虚数空間を穿つ陽電子に相当する仮想素粒子のビームで抉り取られる。


ク、クリティカルだからこれも例外だ。


「ふんっ!」


ただの拳一つで異界の邪神に穴が……。


……ここには、そもそも例外な人しか居なかった……。


コアさんの星破壊よりも、世界を喰らう邪神の大量出現の方が大問題だと思っていたが、まさかの特に問題はなく、ただの食材として異界の邪神が消費されて逝く。


やはり、いつか英雄となる人々が大勢いるここでは、常識と言うものは何も意味を成さないらしい。

取り敢えず、頼もしいと理解しておこう。



さて、世界の状態としては何も問題ない事が分かったが、1つ深刻な問題がある。


「タコ刺しタコ刺し〜」

「素麺って、取り敢えず細かく切れば完成だったっけ?」

「この海藻の味噌汁、こんな綺麗な紫いるなんて思ってもいませんでした。きっと美味しい筈です」

「この緑の液体、食材を侵食して疑似生命を生む力が有るなんて。これなら栄養満点間違いなし!」

「捕って見たが結局これはなんて言う海鮮だ? まあ良い。油にぃぃ〜〜、ドボ〜ん!!」


……僕、邪神を食べなきゃいけないの?


邪神が食材だと、さっきまで嘆いていた油にどぼ〜んが一番マシに思えてくる……。

油にどぼ〜んは素晴らしい調理法だったのかも知れない……。


「あ〜っっ!? 油に引火した!? このままじゃ海鮮が消し炭になっちまう!!」


うん、油にどぼ〜んは素晴らしい調理法としか言い様が無い。


「あ、全然焦げてねぇな! この海鮮はスゲェぞ!」


……先輩達の前では次々と狩られていた異界の邪神だが、やはり邪神は邪神だったらしい。

油をかけて火をつけた程度ではどうにもなっていない……。


あれ?

と言う事は、そもそも邪神には火が通らないんじゃ……?

実質全部生の状態で出て来るんじゃ……?


誰だー!!

こんなイベント開催したのはーー!!

僕かぁーーーー!!


まさか、私利私欲に走ったイベントを開催した結果、こんな事になるなんて……。

異界の邪神が現れ食材になってしまったのは想定外だが、料理が下手な人の方が多い事くらいは少し考えれば、いやほんの少し視れば容易く分かった筈……。

食い意地さえ張っていなければ……。


いや、今は後悔している場合では無い。


何とか生き残る方法を模索しなければ。


「美味しいものは食べつつ不味いものは食べなくて済む、何か良い方法は……?」

「……一瞬だけ絶望した表情をしていましたが、実際のところは全く懲りていませんね?」


タナカ=タロウが何か言っている気がするが、きっと気の所為だ。


あっ、美味しそうなスープが運ばれて来た。


美味しいものを食べながら考えよう。


おっ、見かけ通り美味しい。

食べた事の無い複雑な味で、ピリピリとして痺れる香辛料盛り沢山のカレーの様な、しかしスープなのに何故かブロック肉を長時間煮込んだ肉料理の様な濃厚さで、何よりも通常の味覚では感じられない味が複数する。


うん、美味しいものを食べると元気が出る。


「100万点!」


そうだ。

僕一人で解決策を考える必要はない。

今ここには、頼れる世界神がいる。


「ねえ、何とか最低でも生死に関わる料理は食べないで済む様にしたいんだけれど、何か良い方法はあるかな?」

「……特に省く必要はないと思いますが?」


全く当てにならない答えが返って来た……。

確かに世界神ならば、毒なんて効く筈がないから省く必要はないだろうけど……。

極一般的なか弱い田舎者である僕には、毒対策は必須である。


「……異界の邪神が猛毒で溶けた液体、今、躊躇なく飲んでしかも高得点を付けていましたよね?」

「え?」


手元のスープを視る。


…………あっ、これ、異界の邪神すらも溶かす猛毒の液体だ……。


……へ〜、猛毒も異界の邪神も美味しいんだ……。


うん、イベントはこのまま続行で。





《用語解説》

・異世界黄金伝説

数多の世界で語り継がれる地球に伝わると言われる伝説。伝言ゲームの原理で原型は殆ど残っていないが、それ故に変形した形ではあるが非常に広く知られている。

その名称からかつて【金忌の黄金都市】のヒントがこの伝説に隠されていると、多くの英傑達がこの伝説を元に冒険した事から数多の世界で語り継がれる事となった。

現在でもこの伝説を元に冒険をする者が多くおり、実際に伝説を生んでいる事から伝説が消える兆しは無く、現在も様々な形に変形し広まり続けている。



最後までお読みいただき、ありがとうございます。

次話は9周年記念日までには投稿したいと思う今日この頃です。

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