いっち
今まで誰かに何かを尋ねたこともないのだが、そなたに関してだけは是非とも尋ねたい疑問がある。何ということではない、そなたは何故生きることをそうも簡単に諦めることができるのじゃ、そなたは死にたがりではない、自ら望んだ自殺はこれまでの生でおそらくなかったと言える。そなたは笑うこともでき泣くこともできる、家族を思うことができ友人を作ることもできる、決して欠陥の多い人間ではないはずだというのに何故執着しない、何故行動しない、生命をもつものとはその生命にしがみついて執着して死を恐れるようになっている、なのにそなたは生きるか死ぬかという選択を前に必ず死を選ぶ。そうだ、世界の時を止めたとき、そなただけの時を動かしていたあの時も、女を犯してまわるでもなく、時を動かす何か打開案を探すでもなく、それこそ時が止まっていることに驚いただけ!結局時を止めたまま、そなただけ老衰で死んだな。あまりにも普通に生活をしていたな。ギルドやモンスターといったものがある世界に転生させた時もそうだ、あの時もそうだ、せっかく素晴らしい勇者をも凌ぐ魔法や剣を与えたのに結局は農民のままで、誰かに力を誇示することもなく手元のあるものを守るために少し能力を使っただけ、ならばと思い相性の悪い強敵を向かわせればあっさりと家族を守り散っていくことにして、なんともったいない、うまくすれば冒険への旅が待っていたかもしれないのに。まだあるぞ、中世ヨーロッパに放り込んだ時もそうだな、いい加減お前が何故なんの波乱もなく死ぬのかわからず魂に異能を刻み込み、記憶を持たせて転生させることをした時だ。記憶があれば何か意義のある生を真っ当するだろうと思った次第だったが、貴族になったところで、魔法が使えたところでなにもしなかったな。いや、自分のやれる範囲ではやっていたかもしれない。あの時のお前の時代は素晴らしい繁栄だった。だがあくまで常識の範囲内であった。そうではない、そうでないのだ、常識の範囲に収まる力は与えなかったはずだ。その上宗教裁判にかけられたとき何故抗わなかった。死ぬ必要などなかっただろう、周りにいた坊主どもなどまとめて消し炭にでもしてやればよかったのだ。何故諦めた、何故死を選ぶ。どうにかできただろうに死にたくなかっただろうに、お前は絶望もせず!死を選択する!あぁ何故だ、勇者となりたくないのか、英雄になりたくないのか、神話となりなくないのか、自ら死ななくとも理由があれば死を選ぶ。先ほど自殺はしていないとはいったが、訂正しよう、これは立派な自殺だ。そなたはずっと死に続けている。あがけ、足掻かなければならないのだよ、それこそが命をもつものの使命。幾度繰り返した。幾度自殺した。記憶を消そうが持たせようが、能力を与えようが与えまいが、そなたはまるで柳のようにすべてを受け流し、ただそこにあろうとした。誰にも流されず、ある意味ですべてを見捨ててすべてを受け入れていたな。ずいぶん前の獣人の世界に転生させたときか、うさぎの獣人に助けを求められ、助けた。しかしその後うさぎの獣人が旅についてこようとするとお前は振り切って置いていった。猫の獣人に財布をスられたときも、追いかけなかったな。まぁその財布はダミーだったらしいが。病弱な犬の獣人も結局薬を与えてそのまま姿を消して関わろうとしなかった。ギルドにも王宮にもいかず、そのまま森で過ごし魔王の瘴気により森が朽ちていくことに身を任せた。どうにかできるかもしれない力を持っているのに、良心の呵責はなかったかね。もしかしたらそなたの欠陥はそれかもしれぬ。そう思い男よりも情感豊かな女にしたところでなにも変わらぬ、男女の違いに戸惑うこともなく女どもとも友人となり、しかし周りからの好意を受け流し、それらを逆手に取られいじめの犯人とされようとも否定もせず受け入れ、それを救ってくれた男に惚れるでもなく、嵌めた真犯人を追い詰めるでもなく、結局嫉妬に狂った女に刺されて死を選んだ。そなたは、変わらぬ。魂をいくらいじろうと、そなたはそなたであった。これ以上そなたを面倒見切れぬ。そなたはもうそれでよい、これからもすべてを見捨てすべてを受けいれ死に続けるがよい。だが是非教えて欲しい。何故、死を選ぶ。
「そうだね、誰かに遊ばれてる、と感じたからかな」