後悔のない、私の人生
そもそも何故夫が借金をしていたのか。マンションの購入で必要だったというが、そんなに借金してまでマンションを買う必要があるのだろうか。
恐らく別の理由だ。私には心当たりがあった。
まだ夫と付き合っている頃、奇妙なメモを見つけた。メモには、女の人の服装と特徴が書かれていた。当時は夫に誤魔化されていたが、風俗にでもはまっていたのだろう。今更追及する気力もないし、怒ることさえ馬鹿馬鹿しいと思った。
私も、夫の嘘を真に受けていたのだから自業自得だ。結婚前は夜10時までに帰る門限があったから、その時間以降は夫が何をしているか全くわからなかった。夫にしてみれば、自由な快楽のひとときだったに違いない。そう思うと、夫を責める気にはならなかった。
私にとって憩いのひとときは実家だった。実家にいると心の底から居心地が良かった。しばし、辛い現実を忘れる事が出来た。私には四歳上の姉がいて、姉の存在も大きな支えとなっていた。明るい姉と話すだけで楽しい気持ちになれた。母は、私の状況は知らないが、帰る時には色々持たせてくれた。食品、普段は買わない果物等、本当にありがたかった。帰り道は気が重く、また現実に戻る恐怖でいっぱいだった。
夫の給料日は、借金を振り込むと、ほんの数万円しか残らず、どうにかやりくりするのがやっとだった。スーパーでは、いかに安い食材を買えるかだけで、質などどうでも良かった。それでも底を尽きると、財布にはわずかな小銭しか残らず、買い物さえ行けない日もあった。こんな生活が毎月毎月繰り返され、私の生きがいは日に日に大きくなるお腹の子供だけだった。私にはこの子がいる。そう思うと、孤独感が和らいだ。
無事に子供が産まれた時は、本当に嬉しくてこんなに愛しいものなのかと涙が止まらなかった。
ただ、驚くほど夫にそっくりで、実家の家族が抱くのを少しためらうほどだったのは苦笑いだった。しばらくは実家で過ごし、子供が二ヶ月を過ぎた頃、我が家に戻った。それからは、以前のような孤独感は全くなく、世話の忙しさと可愛さに気も紛れていた。この子の為に、強くならなきゃ。心の中で何度も何度も言い聞かせた。