ぼくとおかあさん1
「あなたはおかあさんにそっくりね」
おかあさんはぼくの顔を見ながら、優しく抱き締めてくれる。大好きなおかあさんに似ていて、ぼくは嬉しかった。
たまに怒って恐いときがあるけど、それはぼくが悪いことをしたからだ。
幼稚園に通うようになって友達ができて嬉しいけど、おかあさんとお別れするとき、いつも悲しくて嫌なんだ。でも、幼稚園から帰ると、また会えるから、我慢しているんだよ。
今日もおかあさんと一緒にお散歩に行くんだ。天気が良いと、公園にぼくを連れて行ってくれる。
お外を歩くときは、おかあさんはいつもぼくの手を握ってくれる。車が来たら危ないよって、ぼくを守ってくれるんだ。
「ねぇ、おかあさん」
ぼくが話しかけると、「なあに?」とおかあさんは必ず返事をしてくれる。
「あの子、どうしてずっと道路に飛び出しているの?」
ぼくが指差した先には、ぼくより少し大きいおねえちゃんが、道路に走り出して車にぶつかって倒れていた。そして、姿が消えたと思ったら、また歩道に戻っていて、再び道路に飛び出していた。ずーと、その繰り返し。
おかあさんからの返事がなくて、ぼくは「ねぇ、おかあさん、どうして?」とまた尋ねてみた。それから、おかあさんを見上げる。
おかあさんは、ぼくが差す方向とぼくを交互に見て、困ったような顔をしていた。
「おかあさん、聞いてる?」
何も話してくれないおかあさんにぼくが少し怒ると、「ああ、ごめんね、おかあさんには何も見えないわ」とやっと答えてくれた。
でも、それを聞いてぼくは驚いた。
「ええ? どうして?」
「どうしてじゃないわ。駄目よ、怖いことを言って困らせちゃ。もう二度と、そんなこと言わないで」
おかあさんは、ぼくを見ながら怖い顔をしている。
どうして? ただ、女の子が目の前で変なことをしているから、聞いただけなのに。それに、おかあさんが見えないってどういうこと?
ぼくはなんで怒られなきゃいけないのか、全然分からなくて、とても悲しかった。




