ベストカップル、誕生?
「雨音~、ご飯一緒に食べよ!!」
うわっ………厄介なのが来た。
声の主は言うまでも無く晴山、昨日の私の暴言の事なんてすっかり忘れたような顔をしている。
ようなではなく、実際忘れているんだろうけど。
はぁ……今回もまた、私の株が下がっただけか……
分かってはいるけど、虚しい。
「あれ……雨音………」
ジーッと晴山は、私の前を陣取る転校生を見た。
ジーッ。
「…………………」
ジーッ。
「…………………」
おい、どうした?
何黙ってガン見してんだよ?
晴山は首を傾げて、
「この人、誰?」
そう言ってきた。
いつもニコニコしている晴山にしては珍しい強張った表情で。
「転校生」
「転校生?」
「そう」
「こんにちは、転校生の曇井拓真です、よろしく」
そう転校生はニッコリ笑った。
「ええ、よ、よろしく」
晴山は強張った笑みを浮かべた。
どーしたんだろうか、こいつは。
そんな晴山を無視して転校生は私に視線を戻して言った。
「なんだ、いるじゃないか友達」
「こいつがそう自称しているだけだ」
「ふーん……じゃあオレも真似しよう」
「はぁ?」
何を真似するって?
文脈から言うと晴山の真似?
何の真似だ?
晴山の真似なんかしたところで、何の利益にもならないと思うが。
そんな事を考えつつもサンドイッチを食べ続ける、サンドイッチはあと三口ほどで食べ終わるくらいの量になっていた。
話してる間も食べることを止めない私に転校生はとんでもない事を言ってきた。
「オレは今から自称君の彼氏になるよ」
イマコイツハナンテイッタ?
カレシニナルッテ?
アホウナノカ、バカナノカ?
ソレトモ、チホウナノカ?
「…………………は?」
思わず片言になってる。
その時、背筋がゾワッとした。
ギャッ……クラスの女子共が殺気立った目で見てくる!!
恐………恐恐恐。
「な、何言ってるのよ!!」
晴山が声を荒立てた。
うん、その反応は正しい。
けどあんまりこいつらしく無いな、むしろ盛り上がりそうな……
「…………………誰が誰の彼氏になるって? お前が私の彼氏になるなんて妄言、まさか吐いていないだろうな? 今のは完全に私の空耳だよな? 全く、私の耳はどうかしている……とんでもない聞き間違えもあるものだな」
ハハハと笑いながら自分の目が笑って無い事は自覚していた。
「妄言って……ひどいなぁ、それに聞き間違ってないよ」
「言葉が悪かったなら訂正する、くだらない戯言を言うな、馬鹿馬鹿しい、阿呆か、この悪趣味野郎」
訂正するとか言っておいて、さらにひどい言葉を浴びせる。
更に言い募る。
「全く、お前とことん趣味が無いな………この私ですら同情するレベルだぞ? それともあれか? 人付き合いが無い私をからかっているつもりか? ホント趣味悪いな……最低だな、お前。まあそんなからかいなんか痛くも痒くも無いが、不愉快だからとっとと消えろ。自分の顔が他人よりちょっとばかし良いからって何でも許されると思うなよ? それと誰でもお前の思い通りになるなんて下らない勘違いして無いだろうな?」
うーん、こんな長いセリフを言ったの久しぶりだな……
サンドイッチを口に運ぶ、あと二口で食べ終わる。
あと二口って言ってもかなり大口でって意味だけど。
サンドイッチを咀嚼していたら反論された。
「いや、そんなつもりじゃ………からかってないし、そんな勘違いしてないし……」
そんな事をモゴモゴと言われた。
当然と言ったら当然だが周囲の視線が半端ない、ついでに物凄いしーんとしてる。
止めてくれ、その沈黙痛いから、そんな注目しなくても私はこんな男となんかくっついたりしないから、そこは安心しとけよ女子共。
「じゃあ、何だ? もしかしてお前、ただ単に彼女が欲しかっただけか? なら私以外にしろ、私は恋愛に全く興味は無い、女子なんてそこら中にいるじゃないか……………あ、何ならこいつと付き合ってみたらどうだ? 割とお似合いだと思うぞ?」
そう言って指し示したしたのは晴山。
見ているうちになんとなくこう思った、はた目から見ても、この二人はお似合いだ、どっちも美形、文句なし。
何処の漫画のカップルですかって感じの、それも主人公とかじゃなくてその親友とかで主人公に劣等感を与えてる様な感じの。
これぞまさにベストカップル。
そこで私はちょっとした案を思いついた、唐突だけど、急にそんな考えが降ってきた、たまにあるよな、こういう考えがふっと湧いてくる事。
この二人がくっついてしまえば、学校中スキャンダルになる、さっきこの転校生が発言した問題発言が軽く吹っ飛んで地球の裏側まで飛んでいくくらいの大スキャンダルだ。
しばらく校内は混乱状態になるだろう。
しかしこの二人がくっつけばそれは私にとって大変都合のいい事になる、なんてたって厄介者を二人同時に私から引き離す事が出来るんだから。
晴山に彼氏が出来れば私に構わなくなるだろうなとは常々思っていたがなんせ相手がいなかった、しかしどうだ、この転校生とだったらピッタリじゃないか。
そして転校生も彼女が出来れば当然私になんて関わって来なくなるだろう。
しかも、この二人、というか晴山が私に構わなくなったら、ファンの連中から嫌がらせを受ける事は無くなるだろう。
これぞ一石三鳥、二鳥以上の利益が得られる、まさに名案。
まあ、この二人がくっつくように煽った私は多少叩かれるかもしれないが、慣れているからそんな事は痛くも痒くも無い、むしろ現状維持するよりも最終的に被害は大幅に減少するだろう。
ペットボトルの紅茶のふたを開け、一口飲む、口が潤ったところでさらに押す。
「なあ、そうしろよ、なんか凄い名案じゃないか? これ。いやー見れば見るほどお似合いだよお前等、学校一の美少女と美形の転校生、てゆうか最初に転校生を見た時から晴山とお似合いだなーと思ってたんだ、私の目に狂いは無かった、ホントに本当にお似合いだぞお前等、なあ?」
若干嘘と誇張が入っているが大体本音だった、最後の一言でクラスの連中の方を向き、同意を求めてみた。
私が学校で他人の同意を求めるなんてことはほぼ皆無である。
実は物凄いレアな事だったりする。
その問いかけによって教室中がザワザワし始めた。
私はサンドイッチを一口食べる、あと一口で完食。
そんな中一人の生徒が言った。
「確かに………似合ってるかも………」
そう言ったのはどちらかというと地味な女子だった、確か去年晴山と同じクラスだった女子だ。
クラスの女子達は、是非とも転校生の心を射止めたいとか思っている奴が大半みたいだが、地味な奴等はそんな事を考えてもいないらしい。
この場合の地味というのは見た目が地味とかそういう意味でもあるが、自分の趣味以外にはあんまり興味が無い様な奴らの事だ、私もその分類なんだが晴山のせいで悪目立ちしてるからあまりそう言った感じには見られていないようだが。
その女子の言葉を引鉄に次々とクラスメイト共が言い出した。
「確かに……お似合いだわ……」
「悔しいが似合ってる……」
「そうよ……私なんかがあんな美形と付き合えるはずなかったんだわ……てるてるくらいじゃないと釣り合わない……」
「ううぅ……しかしてるてるが誰かの彼女になるなんて………認めたくないぜ……」
「確かに似合ってるよねー」
「似合ってる似合ってる」
「今週のネタはこれで決まりね! スクープ!! 学校一の美少女がイケメン転校生とゴールイン!」
「おぉー、ベストカップル誕生だな」
「Yes they are best couple!!」
「なんでそんな無駄に流暢な英語で言うんだよ?」
「なんとなく~♪」
お、思ってたより肯定的に受け止められてる。
このまま外堀を埋めてしまえ。
「皆もそう言ってるし試しに付き合ってみたらどうだ? お前等。正式に付き合うかはともかく、一か月くらいお試しで」
おかしな方向に吹き出した風向きに二人とも慌てだした。
「い、嫌よ、何で私がその転校生と………全然知らない人だし………付き合うなら雨音みたいな人と………」
ちょっと待った……私みたいな人ってどんな奴だ………
私お前に対してきつくあたった事しかないぞ?
お前Мなのか、結構前からそんな気がしてたけど。
「そ………そうだよ……互いに何も知らないし………それに僕は君が」
「互いに何も知らないって、お前な、それは私だって同じだろう。私の事なんか何にも知らない癖にそんなこと言うくらいなんだから、別に誰だっていいんだろう? ならこいつでもいいじゃないか? お前等案外気が合うんじゃないか?」
空気読まない事とか、どういうわけか私に突っかかってくるところとか。
割と似てるところがあると思うんだが。
サンドイッチを口の中に詰め込んだ。最後の方は具が少ないなとか思いながら飲み込んだ。
はい、完食。
「う………それは………」
転校生が口籠った。
「ま、そういうわけで」
ペットボトルを鞄に仕舞い、サンドイッチのビニールをコンビニの袋に入れる。
そして立ち上がって、空いた席に晴山を(無理矢理)座らせた。
「ちょっ……雨音!?」
「その席使っていいから、取り敢えず今後の事を話してみたら? 授業始まるまでに退いてくれれば構わないからさ」
そう言ってニッコリ笑って立ち去ろうとした。
無論作り笑いだが、作り笑いであっても私が誰かに対して笑みを浮かべる事なんて滅多に無い。
立ち去ろうとして、ふともう一つちょっとした事を思いついて言ってみた。
「あぁ……そういえばさっき恋愛には全く興味が無いと言ったが………実は米一粒分くらい気になっている奴がいないわけでも無い」
勿論そんな奴はいない、しかしちょっとでも気になっている奴がいるという事にしておけば今回のようにおかしなことを言われる事は無いだろうなと思って言ってみた。
思っていたよりも凄いリアクションが返された。
「ちょっと待って!! そんなの一回も聞いたことない!!」
これは晴山の絶叫。
その他クラスメイトも上から雹……いや、槍が降って来たかのような驚愕した表情を浮かべている。
あー………これは言わない方がよかったか?
蛇足だったかもしれない。
ま、いいか。
「というわけで、ごゆっくり」
そう言い捨てて教室を出る、ドアの近くに置いてあるごみ箱にビニール袋を放り込む事も忘れない。
最後に教室の中を横目に見ると、晴山と転校生の周りに群がるクラスメイト共も姿が見えた。
その翌日は大変な騒ぎになっていた。