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通り雨  作者: 朝霧
6/13

転校生現る

 四月も半ば、新学期が始まってから今日でちょうど十日経った。

 もうすでに委員会決めとかは終わって、授業も始まっている今日この頃。

 そんな新学期が始まったばかりの時期にぶっ倒れた私は、悪目立ちしていた。

 朝、早めに来た教室で机に突っ伏して寝ているとクラスメイト達のひそひそとした会話が耳に入ってくる。

 「………ねぇ、知ってる? 昨日の天宮チョー嫌な奴だったんだけど」

 「あ、知ってる知ってる、私見てなかったけど噂聞いた、ぶっ倒れて、てるてるに助けられたのに感謝するどころか罵倒したんでしょ? 信じらんなーい」

 「ホントよねぇ………天宮の奴てるてるに気に入られてるからって生意気なのよ、自分は何言ってもいいとかって勘違いしてんじゃないの?」

 「ウワー、サイテー」

 と、こんな感じだ。

 うるせーな、陰口はもっと小さい声で言え。

 まあ、別にどうでもいいが。

 言ってるだけの奴なら何の害もないし。

 面倒なのは嫌がらせしてくる奴だ。

 今日もまた、登校中に生卵が飛んできた、それも二つ。

 食べ物を粗末にするなよ、もったいない。

 下駄箱とロッカーには鍵を掛けているからそっちは心配ないけど。

いちいち鍵を開けるの面倒臭い。

 机の中は常に空にしてあるので教科書類が被害に合う事は無いが、たまに虫の死骸が入っていたり、接着剤が塗られていたりすることもある。

 そういえば中学の時、一回だけ溝鼠の死骸が入ってた事もあった。

 あれは流石に絶句した、すぐにごみ箱に放り投げたけどな。

 未だにあれの犯人は分かってないんだよな……というかすでに迷宮入りしてるから本人が暴露しない限り犯人が分かることは無いんだろうけど。

 今日の机の中には何も入ってなかった。

 椅子の上にも画鋲が置いてないかチェックしてから座った。

 ………これは世間一般的に言うところのイジメというものではないかと思う、しかも結構ひどい分類に入るんじゃなかろうか。

 私は別に苦でもなんでもない、ただ面倒だと思ってるだけだが、これ精神が弱い奴だったらとっくに自殺してるレベルなんじゃなかろうかと思うのだが。

 やってる奴にはそういう自覚は無いんだろうなと思う、それは全くリアクションしない私にも若干責任がある。

 そう言う事をやってる奴は将来絶対にまともな大人にならないと思う、しかし 自業自得だ。

 そういう私も人の事は言えないが。

 にしても晴山ファンは相変わらずだな……

 小学生の頃からずっと私は晴山ファンに嫌われている。

 ナイト気取りも相変わらず、可愛い可愛いてるてるを傷つける奴は赦さない、ってか。

 赦してもらう気はさらさらないし、こっちには罪悪感の欠片も無い、勝手にやってやがれ。

 自分で勝手に良い事をしていると酔い痴れていればいい。

 私には関係ない。

 だけど鬱陶しいとは思う。

 あーあ、何だって私は静かで平和な学校生活を送れないんだろうか?

 あの時起こした暴力沙汰は、そんなに業の深い行いだったのだろうか?

 なんだか割に合っていない気がする。

 そんなに悪い事をした自覚は無いんだが。


 チャイムの音で目が覚めた、少しの間本当に眠っていたようだった、何か夢を見ていた気がするが思い出せない、きっと大した夢じゃないんだろう。

 寝ぼけ眼で前を向く、一番窓際とはいえ一番前の席だから、そんなにだらけているわけにはいかないんで。

 ………にしても眠い、昨日はちゃんと寝たんだが。

 最近調子悪いな……

 しばらく夜出歩くの止めるか?

 とか昼間に思っても、結局夜になるとふらつきたくなるんだろうけど。

 新学期だからいつもより少しばかり疲れているだけだろう。

 とはいってもこうゆう事は今まで無かったのに。

 小学校から中学、中学から高校に入学した時でも、こんな風に体調が崩れるなんて事は無かったのに。

 今回はただ学年が変わっただけで、クラスも変わったけど人間関係を築いていない私にとっては大したイベントじゃないし、晴山ともクラス違ったし。

 大した事なんて、全くないのに。

 なんでだろうか?

 分からない。

 考えても分からない事は、考えても仕方ない。

 考えても仕方なくて、考える必要の無い事を考えるのは無駄だ。

 だからといって無駄な事が嫌いってわけじゃ無いけど。

 無駄な事を嫌悪していたら人生なんの面白みもない。

 無駄な事ばかりしても駄目だと思うが、だからといって無駄な事を切り捨て過ぎるのはよくはない。

 匙加減が大事なんだよ。

 まあ、人生経験が浅い私が偉そうに言うような事じゃないけど。

 こんなことを考えながら担任教師の話を聞き流す、どうせ大した連絡なんて無いんだろうし。

 だから私はホームルームの時は大抵担任の話を聞き流しているんだが、その時何か妙な言葉を聞いた気がして、耳を澄ませた。

 何だ、今うちの担任、転校生がどうのって言った気がしたけど、私の気のせいか?

 でもクラスメイト共もざわついてるし私が聞き間違ったわけじゃない?

 あるいは担任の言い間違いか?

 だってこんな時期に転校生だって? 新学期から十日目というこんな時期に?

無いだろ、そりゃ無いだろ、というか大体高校で転校生ってそうそういないし、 しかもなんだってこんな奇妙な時期に………

 新学期とともに転校してくるだろう、普通。

 大体の生徒が私と同じような事を考えていたようだ、今考えていたような疑問が飛び交った。

 ざわめきは結構な大きさになっていった。

 その時担任が一喝。

 「お前らぁ! 静かにしろ!」

 多分隣の教室どころかその先の教室まで響いたんじゃないかっていうくらいの大声によって生徒全員黙り込んだ。

 おー、すげー。

 静かになったところで、改めて担任は言った。

 「今日からうちのクラスに転校生が来る、事情があってこんな時期になったらしい、事情を知りたい奴は本人に聞け、以上。それじゃ入れ」

 最後の一言は廊下で待機しているらしい転校生君もしくは転校生さん(性別すら言ってなかったな、そういえば)に対する言葉だろう、ドアが開いて転校生が入ってきた、男だった。

 その顔を見て、私は視線を逸らした、思わず。

 女子の黄色い声が響く、キャーキャーうるせーな、お前等。

 黄色い声が響いた理由は単純、転校生が美形だったからだ、ただそれだけ。

 教卓の近くで立ち止まった転校生は軽く一礼して口を開いた。

 「曇井拓真です、よろしくお願いします」

 ………声まで美形だよこの転校生。

 何かもう背景に薔薇背負ってる様な男だ、効果音付きで。

 まあ、そんな事は私にはどうでもいい事で。

 どうでもよくないのは、転校生が昨日気絶した時に見た夢? に出てきた不審者と瓜二つだって事で。

 髪の色と目の色は違うが。

 あの不審者はどちらの色も金色だったが、転校生は色素の薄い茶色だった。

 しかしそれを除けばそっくりだった。

 不気味なほどに。

 何だって昨日私が見た夢に出てきた不審者のそっくりさんが転校してくるんだ。

 何なんだよ?

 正夢か? 内容はともかく部分的にあれは正夢だったとか?

 あの巨大狼とか王子風の不審者とか、晴山似のピンふりは何かの暗示だったりするのか?

 物凄いうろ覚えだけど、ちょっと前に予知夢を見ることが出来る少女が出てくるドラマをやっていたが、それでも確か未来そのものを見るんじゃなくて、未来に起こる出来事が何かの比喩になって夢に出てきていたような気がする。

 それと似たような類か?

 ………って馬鹿馬鹿しい、予知夢なんてあるわけない、あったとしても私が見るってことは無いだろう。

 今までそんな夢見たことないし。

 ただの偶然だろう。

 そう結論付けた。

 視線を前に戻す、一瞬だけ、転校生と視線が合ったような気がした。

 それと同時に言いようのない悪寒を感じたような気がするけど、気のせいだよな?


 ホームルーム終了後、当然転校生の周囲に人が集まる、主に女子が。

 私はその転校生から一番離れた席に座ってるけど、ここまで声が聞こえてくる、五月蠅い。

 一時間目まで少しだけ時間があった、寝よう思って机に突っ伏した。

 その時視線を感じたが、一瞬だけだったので気のせいだと思って目を閉じた。


 四時間目が終わり、カバンの中から今日の昼食である、毎度御馴染みのコンビニで買ったハムサンドを取り出した、昨日のおにぎり同様若干潰れている。

 潰れていても味は変わらないから、あまり気にしない。

 ビニールを剥がし喰らい付く、うん、味は普通だ。

 さっさと食べて図書室に行こうと無心で食べていたらガタンと音を立てて机の前に椅子が置かれた。

 また晴山が来たのかとうんざりと顔を上げたら目の前には不審者似の転校生。

は? 何だこいつ?

 何で私の席に来たんだ?

 わけ分からん。

 「ここいい?」

 笑顔で聞いて来た転校生、何だそのさわやか100パーセントの笑顔。

 そしてそれを見たクラスメイト共(おもに女子)の視線が凄い、納豆みたいにねちっこい。

 何なんだよ………

 ったく、面倒臭い、何だってこうゆう展開になるんだ。

 サンドイッチを飲み込んで言い放つ。

 「帰れ」

 淡々と、坦々と。

 冷たく拒否した。

 「えぇー、別にいいじゃん」

 巫山戯んな、全然よくない、何だって美形転校生、ついでに夢に出てきた不審者似の正体不明の男と同じ机を使わなきゃなんないんだ。

 「いいから帰れ、とっとと自分の席に戻れ、目障りだ」

 「………つれないねぇ」

 む、これだけ言っても大して通じてない?

 「いいから帰れ……頼むから」

 頼んでみた、さっさとうせろ。

 「なんでそんな拒否るのさ」

 「周りを見ろ」

 転校生は辺りをキョロキョロ見渡した。

 クラスメイト達は慌てて視線をそらした。

 「見たよ」

 「注目されてるだろう? そういうの迷惑だ」

 本気で迷惑極まりない、というか何でここに来た?

 わけ分からん。

 もしかしてただ単にこの窓際の席に座りたいだけだったりするのか?

 だとしたら私が席を立ってから使えよ、そしたら何の文句も言わないからさ、ただし授業が始まる三分前には退いてもらわなきゃ困るが。

 てゆうか同じ窓際でも何でよりによって此処なんだ、3つ後ろの席開いてるぞ。

 「そうかな?」

 「イケメン転校生がクラスの底辺の所に来たら注目するのが道理だ」

 「自分の事を底辺って言い切るとかどんだけ……」

 「事実だ」

 良し良し、引いてる、このまま退散しろ。

 悪霊……じゃなかった、不審者疑惑のイケメン転校生、退散。

 「………ねぇ、君彼氏いる?」

 「はぁ?」

 突拍子もない発言をされた、わけ分からん、さっきからずっと。

 いきなり何を言い出すんだかこいつは。

 いるわけないだろう。

 「ねえ、ねえ、どうなの?」

 「彼氏どころか友人すらいない、てゆうかさっきからなんだ? いい加減どっか行け」

 サンドイッチを噛み千切って吐き捨てるように言った。

 若干一名、自称親友がいるけど、それは当然ノーカウントで。

 日野は後輩だし、友人ではないだろう。

 転校生はちょっと考え込んだ、考え込むポーズまでばっちり決まっているのがむかつく。

 とっとと別の所に行けよと考える。

 そしたらとんでもないこと言ってきやがった。

 「ふぅん……なら僕と付き合わない?」

 一瞬教室内の時が止まったかの様にシーンとした。

 「はぁ? 何に付き合えって? 悪いけど私そんな暇じゃないから」

 こいつ頭湧いてんのか?

 なんつー発言を。

 とはいってもこれは所謂告白的なものではないと推測。

 多分何か面倒な用事に付き合えという、厄介事を押し付けられているだけだ。

だから女子共、そんな目で見るな。

 怖いから。

 通り魔やってる物騒な私を怖じけさせる視線ってどんだけだ。

 女って怖い。

 「何って………?」

 「ゴミ捨てか? 掃除か? それとも課題でも出たのか? 転校初日から大変だな、悪いが手伝う気は無いし、私にはお前を手伝う義理も全くない、自力で何とかするか他を当たれ、ついでにどっか行け」

 シッシと手を振る。

 しかし……全くなんて勘違い発言をするんだこいつは。

 さっきから突き刺さる女子共の視線がハンパない。

 視線に何かの力が宿るなら私もう何回も死んでるぞ、これ。

集中砲火されてるよ。

 身体中穴だらけだよ。

 むしろ炎上してるか?

 「……? 違う違う、そういう意味じゃなくて」

 「これ以外に何があるって言うんだよ?」

 無いだろう、それ以外に意味なんて何もないだろう?

 「だからさ」

 頼むからこれ以上爆弾発言をするな!!

 心の中で絶叫していたら、背後から声がした。



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