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通り雨  作者: 朝霧
3/13

イレギュラー

 「なっ…………!」

 何だ!? 爆発!? こんな日本の平和な町のど真ん中でテロか!?

 白い殺人鬼にうっかり殺されかけ。

 ゴスロリ放火魔に焼き殺されかけ。

 正義の味方の狂人に斬殺されかけ。

 そんな風に何度か洒落でも無く死の危険に会い、殺されかけた私でも。

 爆破テロに遭遇した事は無い。

 銃だって実際に見たことは無い。

 爆発が起こったのは男の真後ろ、つまり私が進もうとしていた方向からだった。

 …………もし、あともう少し私が早く走り去ろうとしていたら、確実に巻き込まれていた。

 土煙がモウモウと上がり、先の様子は見えないが、多分巻き込まれるような範囲に人はいなかった、いなかったはずだ、だが。

 ………おかしい、何故、今の爆発で誰も反応してない?

 いくらなんでも悲鳴の一つ上がりそうなんだが…………

 分からない、分からないけど。

 取り敢えず、今の状況は大変まずい。

 「雨音!! 大丈夫!?」

 「……………………」

 晴山が叫び、男がニヤリと笑う。

 私はどちらも無視して踵を返し、走ろうとして。

 「は?」

 更なる違和感に気付いた。

 ―――道が無い。

 私が立っている箇所から数十メートルほど離れた場所から全てが無くなっていた。

 道も、民家も、街路樹も、空でさえ。

 そこにあるべきものが、きれいさっぱり無かった。

 ―――そう、まるで、この場所だけが切り取られた世界であるように。

 な ん だ こ れ は。

 絶句した、何だこれは、何だこれは。

 何で無い!? どうなってんだ!?

 混乱する頭、訳が分からない。

 何がどうなってこうなったんだ!? ちょっと待て、今まで何があったか整理する!

 ……………………………………………………………………………………………

 駄目だ! さっぱり分からん!

 いくら考えても分からん、意味不明だ。

 取り敢えず、今分かっている事は、後戻りできない状態である、という事だけだ。

 後ろが駄目なら前は、と思って見ると、立ち上る土煙が晴れてきた。

 ………のはいいんだが、その先に何か巨大な影がある。

 私の記憶では、あんな所にあんな巨大なものは無かったはずだ。

 土煙が完全に晴れる、そこに鎮座していたのは―――

 全長4メートルくらいの巨大な生物だった。

 ………………………………………………は?

 その巨大な生物を私が知っている動物で例えるとするなら、犬………いや、狼か?

 しかしこんな狼はいない、少なくとも私は知らない、だってデカいし、しかもよく見ると尻尾が二又になっている。

 その大きさと、尻尾さえなければぴんと尖った耳といい、口から覗く牙といい、まさに狼そのものだった。

 実際に狼を見たことはないけどな、図鑑とかテレビだけだ。

 ―――これは夢か?

 きっとそうだ。

 そうに違いない。

 だってそうじゃなかったら説明がつかない。

 こんなものが現実にあるわけ無い。

 だから、これは夢だ。

 何だって私はこんなわけわかんない夢を見ているんだろうな?

 理由がさっぱり分からない、まあ、夢なんてそんなものか。

 そんな風に結論付けていたら、巨大狼が咆哮した。

 五月蠅い。

 耳を塞ぐ。

 そして巨大狼はまっすぐこちらに向かって突進してきた。

 「!」

 夢だと分かっていても咄嗟に避けた、歩道から車道に走る、車どころか自転車一輪走ってないから轢かれる心配は無い。

 と言っても夢だから、怪我してもなんてことないんだろうがな。

 でもやけにリアリティがある夢だから、結構迫力があって怖い。

 真っ直ぐ向かって来たそれは私ではなく晴山を狙っていたようだ、逃げた私には目もくれずに突進していく。

 晴山は、ギリギリのところで避けた。

 そして叫ぶ。

 「ちょっと!! 止めなさい! 一般人を巻き込まないでよ!!」

 「そんな事はどうでもいい……」

 「よくないわ!! 死んじゃったらどうするのよ!?」

 「どうしようもない」

 ………一般人とは私の事だろうか? じゃあお前らは何なんだよ?

 疑問に思ったがすぐにどうでもいいことだと考えた。

 ちらりと前を見ると後ろとは違って道が続いていた。

 その先がどのくらい続いているのかは分からないが。

 だが選択は一つ、とっととこの場を離れよう。

 そう考え、走り出す。

 私の足はそれなりに早い。

 一気に走り、男から数メートル離れた所を通り抜けようとする。

が。

 「え?」

 真横から何かに勢いよくぶつかられたかのように私の体は吹っ飛んだ。

とはいっても吹っ飛んだ距離はそんなには無い、せいぜい2メートルほどだ。

しかし、私は何に衝突されたのか全く分からなかった。

 何も見えなかったし不審者との距離は手を伸ばして届くような位置には無かった。

 何が起こったんだ今。

 吹っ飛んだ拍子に頭をぶつけたらしい、意識が朦朧としてきた。

 「雨音―――――――――――――!!」

 晴山の喧しい叫び声を聞きながら意識を手放した。


 「…………う」

 目が覚める、妙に硬いと思ったら私は道路の真ん中に寝そべっていた。

 まだ夢の中らしい、やけにリアルな夢だな、痛みまであるし、普通夢に痛覚は無いのに。

 何か五月蠅いなと思って顔を上げたら、シュールな光景が目に入った。

 巨大狼相手に戦う、1人の少女がいた。

 ピンクっぽい髪で、ふりふりしたこれまたピンクの衣装―――幼稚園生が夢見るような魔法少女の衣装を真似たような服を身に纏った少女だ。

 若干その顔が晴山に似ているような気がするのは気のせいか?

 晴山の髪はあんなにピンクでもないし、よく見ると目の色もピンクっぽかっ た、晴山の目の色は茶色だ、あんな毒々しい色ではない。

 結論、あのピンクのふりふりは晴山ではない。

 じゃあ晴山は何処に行ったんだと気付かれないようにあたりを見ていたら、あの不審者が目に入った。

 不審者は狼に向かって叫んでいた。

 「何をしている!! さっさとそれを片付けろ!」

 叫ぶ相手はあの巨大狼のようだ、巨大狼はピンクのふりふりに向かって飛びかかるが、ピンふりは突っ込んでくるその狼の足を掴んで、その勢いでブン投げた。

 すーぱーぱわーだ、超怪力、あのピンふりは巨漢でもなんでも無く、むしろ華奢と言っていいほどの体格なのに。

 ピンふりの背後に落ちる狼、ピンふりはとどめを刺さんとばかりに狼に向かってジャンプし、飛び蹴りを食らわせようとするが、狼はその巨体で信じられないくらいの素早さで起き上がり回避した。

 誰も私が目を覚ましたことに気づいていない。

 私はポケットに入れてあったカッターナイフを握る。

 いつも使っているようなちゃんとしたナイフは持ち合わせていなかった、今のところ武器として使えそうなのはこのカッターと筆箱に入ってる鋏くらいだろう。

 鋏を取っていては気付かれる、だからこのカッターでいい。

 ゆっくりと気づかれないように立ち上がる、そして不審者のわきに近づき。

その脇腹に、カッターの刃を思い切り刺し込んだ。

 何故私が不審者をカッターで刺したのか、理由は単純、一番やばそうな巨大狼の飼い主っぽかったからだった、命令しているし。

 なら飼い主を行動不能にしてしまえば、あの巨大狼も無力化できるのではないかと思った。


 所詮夢、万が一これが現実で、ビックリか何かという可能性も無いでもない が、度が過ぎているし、こっちは暴力振るわれたんだ。

 だからこれは正当防衛で片が付く。

 大丈夫、殺しはしない、その辺の力加減は分かってる。

 それでも、かなり力を入れて刺した。

 しかし手ごたえが無かった。

 ?

 刺した瞬間に不審者の姿が掻き消えていた、どこに行った?

 その時背中から衝撃を感じた、そして私の体は先ほどとは比べ物にならないくらいの距離を吹っ飛び。

 思い切り電信柱に衝突した。

 今度こそ、完全に意識を手放した。


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