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通り雨  作者: 朝霧
12/13

通り魔は見た

 深夜2時過ぎの学校は、当然だが暗かった。

 また昼間、大量に生徒がいる事に慣れているから、人気の無い校舎というのはなんか不思議だ。

 ちょっと古い学校だからどこと無く不気味でもあった。

 深夜に学校に忍び込んだ事は初めてではなかった、とは言ってもあの時忍び込んだのは中学校で、高校に忍び込んだ事はなかったが。

 中学校の方はもう少し新しかったし、それにあの時は一人じゃなかったからな。

 忍び込んだ校舎には誰もいないはずなのに、何かしらの気配がする。

 再び轟音が響く、とは言っても先程よりも大きくはなかった。

 多分校庭、そこで何か得体のしれない事が起こっている。

 気配を消したまま校内を進み、校庭が見える位置で立ち止まった。

 うちの学校の校庭はそんなに広くない、その広くない校庭がカオスな事になっていた。

 平面なはずの地面には大小様々な穴があきボコボコになっている。

 どういうわけか、雨が降ったわけでもないのに地面がベチャベチャに濡れて泥濘るんでいる。

 ついでとばかりに校庭の隅に植えてあった銀杏やら名前の分からない木がぶっ倒れていた。

 ………………

 何だこの大惨事………

 目茶苦茶な校庭には、二人の何かがいた。

 その二人のうち一人は貴族風の黒い衣装を身に纏った金髪の若い男。

 もう一人は、どこかアニメの魔法少女を思わせるピンクでふりふりな衣装を身に包んだ若い女だった。

 なんか既視感があるなと思ったら、二週間程前登校中にぶっ倒れた時に見た夢に出てきた不審者達にそっくり、というか同一人物?

 いやいやいや、あれは夢、夢だ。

 いくらなんでも夢で見た奴等と同一人物って事はありえない。

 それとも、今も夢か?

 頬を思い切り引っ張ってみる、地味に痛かった。

 そういえば小説とか漫画で登場人物が夢だと疑って頬を引っ張ったりする時は大抵現実なんだよな………

 思い出してみると、夢だと思っていたあの時にも痛覚があったよな………

 てことは、どっちも現実?

 いやいやいや、ちょっと待て、あの時、なんか現実ではありえない現象起きてたぞ、今だってなんでこんな状況になってんだよ、校庭グッチャグチャだぞ。

 てゆうか今はともかくあの時が現実だったとするなら、どういう事だ?

 確かあの時、晴山に絡まれていたら自称魔王の男が出て来て、その後私は一回気絶して、意識が戻った時には晴山はいなかった。

 意識を失っていたのは、多分1、2分。

 それで、かわりにあのピンクのふりふりがいたんじゃなかったか?

 晴山は何処に行ったんだ。

 晴山だけが逃げた、考えられる可能性として一番妥当だが、あいつは例えどんな状況であれ、気を失った同級生をそのまま置いていくような女か?

 答は否。

 だからこそ、あんなにも厄介だったんじゃないか。

 あの善に染まった怪物が、同級生を、いや、全く見知らぬ他人であっても、倒れた人間を助けないなんて事は、ありえない。

 …………なら、どういう事だ?

 消えた晴山、沸いて出たようなピンふり。

 そういえば、あのピンふりは晴山に似ているような気が………

 だけど同一人物って事は無いだろう。

 そもそも、髪の色も目の色も違う。

 例えばあのピンク色の髪が鬘で、毒々しいドピンクの目がカラコンだったとしても、やはりあの短い時間で着替えるのは無理だし。

 それにあいつは着替えるのが目茶苦茶遅い。

 ………じゃあ、何なんだあの女は。

 うん? ちょっと待った、そう言えば気を失う前に晴山が魔王だ何だって言ってたような……

 そう言えば不審者の方も晴山の事を魔法少女とか呼んでたような?

 どっから夢で、どっから現実だ?

 …………分かんなくなってきた。

 取り敢えず、今は現実?

 それとも夢?

 分からない。

 と、この時ポケットで携帯が震えた。

 常にマナーモードにしてあるから、着信音が鳴り響くなんて事は無かったけど。

 dで始まるアドレスからのメールだった。

 知らないアドレス。

 そのメールを開いてみる。

 件名無し。

 本文、お前の事がちょっと面倒な奴に知られた、一応気を付けとけ。

 アドレスに見覚えは無い、名前も記されてないから誰からのメールかは断言できないけど。

 それでもなんとなく、差出人は分かった。

 というか、私のアドレスを知ってる奴なんか、数えるほどしかいない。

 ……………全く、あいつは何だって私に厄介事を持ち込むんだ。

 返信はしない。

 きっとあっちも、返事が返ってくるとは思ってないだろうから。

 にしても、あいつからメールが来るなんて、何て現実味の無い。

 こっちのアドレスは教えてはあったものの、連絡なんて一度も寄越されたことが無いのに。

 やっぱ夢か?

 携帯を仕舞う、その時校庭で何かが光った。

 そちらを見ると、不審者、魔王と呼ばれていた男の手が光っていた。

 懐中電灯にしては明るすぎるなと思っていたら、その光はどんどん大きくなって。

 真っ赤な火球に変わった。

 あの放火魔が見たら歓喜しそうだなと現実逃避気味に考えた。

 『魔王』は火球を持っている? 方の腕を振りかぶった。

 火球が真っ直ぐピンふりに向かって飛んでいく。

 結構なスピードで投げつけられた火球をピンふりはいともあっさり避けた。

 ドッカーンと校庭に穴が開いた。

 こういう具合で校庭がボッコボコになっていたのか……

 何なんだ、あの火球、爆弾か何かか?

 でも、あれって爆弾か? 普通に火の玉に見えたぞ?

 火の玉って人間の手で持っても平気なものだったっけ?

 放火魔ならあれのトリックが分かるかもしれないが、私にはさっぱりだ。

もうちょっと近づけば何か分かるかもしれないが、近づいて気付かれたら面倒な事になりそうだ。

 だから、それは止めておく。

 多分私が取るべき行動はこの場を真っ先に逃げる事なんだろうけど、もう少しだけ様子を見てみる事にした。

 そんな風に観戦している人間がいるなんて、校庭の二人は露とも思っていないらしい。

 次に攻撃を仕掛けたのはピンふりの方だった。

 ピンふりは一体いつから持っていたのか分からないが、何か杖の様なものを握っていた。

 それを天に掲げる、すると杖の頭の方に何やらよく分からないピンク色の光が点いた。

 「―――――!!」

 ピンふりが何かを叫ぶ、何と言ったかは分からなかったが。

 その叫び声の後、杖に点いていたピンク色の光が、レーザー光線のように魔王に襲いかかった。

 魔王はレーザー光線をひょいっと避けた。

 レーザーと言っているが、その光の直径は遠目に見ても太く見えた。

 その辺に生えている街路樹と同じくらいの太さ。

 ちょっと待て、何だそれは、レーザーってあんなに太く光るものだったか?

 てゆうか光線が当たった木の真ん中が溶けてぶっ倒れたけど、何なんだよあの光線。

 現代科学であんな事が実現できるんだっけ?

 聞いた事ない、少なくとも私は知らない。

 …………さっきから、物凄く非現実的な光景を目撃している気がする、やっぱり夢だろうか?

 もう一度、頬を引っ張ってみた、やっぱり痛い。

 これは現実? それとも夢?

 分からない。

 分からないけど、これが現実だったら嫌だな……

 …………帰ろう、帰って寝よう。

 それで、今見た光景は忘れよう、うん、何かそれが一番いい気がしてきた。

 というわけで、引き返す。

 絶対に気づかれないように、気配を消して歩き出す。

 途中振り返って見ると、校庭に何本もの雷が落ちてるかのような光景が広がっていたが、目の錯覚のせいにした。


 そして、校内から出て歩いて十五分、自宅に到着した。

 シャワーを浴びて、ろくに髪も乾かさずにベッドに倒れこんだ。


 その朝、いつものように目覚ましが鳴って起きた。

 携帯を開いて、受信メールをチェック。

 アドレスがdで始まる、差出人不明のメールを今日の深夜二時に受信していた。

 ちなみに開封済みだった。

 …………あれ?

 …………やっぱり、夢じゃない?

 おっかしいな。

 寝不足で頭が上手く働かない。

 てゆう事は、夜のあれは現実?

 ふーん………

 …………は?

 何だそりゃ!

 ちょっと待て、あれが現実?

 あの悲惨な光景が、現実?

 あの、巨大火の玉とか、ピンクのレーザー光線とかが全部現実?

 ありえねだーろ、無い無い無い無い。

 じゃあ、このメールは何なんだ?

 それともまさか、今も夢なのか?

 頬を抓る、やっぱり痛い。

 ………現実だよな、今は。

 分からない、何かいろいろわからなくなってきた……

 でももし、夜のあれが、というか十数日前のあの時も、現実だったとしたなら……

 超常現象に、遭遇したって事?

 何で、私が………

 そんな風にグルグルと考えていた時、視界に時計が映った。

 7時40分。

 思っていたよりも考え込んでいたようだった。

 ……このまま考え込んでいても、埒が明かない。

 ………忘れよう。

 そう決めた私は、さっさと準備をすることにした。


 余談

 登校して、なんとなく校庭を覗いてみた。

 そしたら野球部の奴等が元気にバッティングをしていた。

 校庭は綺麗に均されていて、木も真っ直ぐ生えていた。

 ………やっぱり夢か?

 だよなー。



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