昔の話・ある殺人鬼との出会い
深夜零時
今日は雲一つ無いいい天気だった。
そういえば昼間だとこういう時に青空という言葉使えるけど、夜だとなんて言えばいいんだろうか?
ま、どうでもいいか。
普通に夜空とかでいいか。
今日は新月、真っ黒い夜空が頭上に広がっている。
それでもよく見ると、いくつか星が瞬いている。
よく見ないと分からないけど。
満天の星空なんてどっかの山奥とかいかないと見られないだろうから、これが当たり前なんだろうけど。
そんな夜空を見上げながら、私はいつものように町を徘徊していた。
風は無い、しんとした静かな夜。
特に目的も無く歩いていたら、昔の事が思い起こされた。
そう言えば、あの時もこんな感じの夜だった。
あれは私が中学二年の時の春休み、深夜徘徊を初めて数か月経ったある日の事だった。
その頃には自分の気配を消す事に慣れ始めたころだったから、少しだけ油断していた。
緊張感が無かった。
そんな風に歩いていた闇夜にぼんやりと浮かぶ私は真っ白いパーカーを羽織った人影を見つけた。
その時点で私はすでに人を一人襲っていた為、その白い人物はスルーする事にした。
なんとなく、人を襲うのは一日一回と決めていたのだ。
とはいっても、出歩くたびに毎回人を襲うわけではない、せいぜい月に一回か二回だ。
大体はナイフで切りかかるのだが、時々素手で人を襲う事がある、この時も確かそうだった。
この時の被害者には確か大した事はしていなかったはずだ、多分背後から襲ってすぐに気絶したからそのまま放っておいたような気がする。
そう言う理由で私はその白い人影には何も関わる気は無かった、眠いから早く帰りたいし、気配を消したまま通り過ぎれば気付かれる事は無いだろうと。
そう油断していた。
そしたら白い人影が何の前振りも無しに振り返った。
隠れる隙も無かった、完全に不意打ちだった。
一瞬体が硬直したが、すぐにその硬直は解けた。
いや、解かざるを得なかった。
何故なら白い人影が振り返った直後、ナイフ片手に私に襲いかかってきたからである。
その人影からは、殺意しか感じられなかった。
本気で殺しにかかってくる。
「!」
速い。
かなり速かった。
正直言って間に合う自信が無かったが、レインコートの袖からナイフを抜いて、何とか白い人影のナイフを受け止める。
高い金属音を立てて、ぶつかりあうナイフ。
どちらのナイフも同じような長さで同じようなデザインの、そっくりなナイフだった。
その一撃は速いし、重かった。
もし私と白い人影の前後関係が逆だったら。
殺されていた。
確実に、きっと何が起こったのか分からないうちに殺されていた。
襲いかかってきた白い人影の姿をしっかり捉えて、私が真っ先に感じたのは戸惑いだった。
襲いかかってきた白い人影は、随分と小柄で、華奢で、私よりもだいぶ背が低い。
パーカーのフードから覗く顔は、まだ幼い少年のものだった。
年は多分私よりも二つほど違う、まだ小学生くらいに見える。
当時中学二年生だった私も人の事は言えなかったが、なぜこんな深夜に、こんな子供が、私に襲いかかってくるのだろうか?
そんな疑問が過ったがそれどころではなかった。
少年はすぐに次の攻撃に移ってきた、それもまた受け流す。
そして私は一歩飛び退って少年と距離を取った。
少年も同じように飛び退っていた。
一瞬互いの顔を見合わせる。
そして次の瞬間少年は面白そうに口を開いた。
いかにも楽しそうな、可笑しそうな声だった。
「へぇ………お前面白いな、この俺のナイフを二度も受けきるなんて、誰だてめぇ?」
「…………」
先程までの殺意は何処に行ったのか、もう少年からは全く殺意が感じられない。
私はそのおかしそうな声に咄嗟に言葉を返すことが出来なかった。
「おーい、聞いてんのか?」
そうニヤニヤ笑いながら。
何時の間にか左手に持っていた短いナイフを私に投げつけてきた。
「!」
その飛んできたナイフを右手のナイフで弾き飛ばした。
高い金属音を立てながら弾き飛ばされるナイフ。
「おー、これも避けるか? やっぱ面白いな、お前」
くっくっく………と楽しそうに笑う少年。
「………お前は、何だ?」
低く問いかけた。
訳が分からなかった。
少年がどうやら私と同じような分類の人間であることは分かったが、それ 以外はさっぱり分からない。
何でそんな楽しそうなんだ、この少年は。
「こっちが聞いた質問は無視か? てかお前女? 顔が全然わかんねーから自信なかったけど、やっぱ女だったか」
そう少年が言っている間に、レインコートのポケットから取り出したナイフを仕返しというわけではないが、投げつけた。
少年は自分の顔面めがけて真っ直ぐ飛んできたナイフを、左手の人差し指と中指に挟み込むような形であっさり受け止める。
しかし元々当てる気は、当たる気はしていなかったので、それはいい。
少年が投げられたナイフに気を取られているうちに、私は脱兎の如く逃げ出した。
その時まで私は襲う専門であり、襲われる立場ではなかった。
だからこの時初めて他人から殺意を向けられた。
それに、自分よりもずっと幼く見える少年が、通り魔である私よりずっと危険な存在である事を本能で感じ取っていた。
危険だった。
この少年は自分よりもずっと強くて、多分もう何人も殺している。
先程の攻防でそれくらいの事は分かった。
しかし、私が逃げた理由は、はじめて殺されかけたその事実に恐れた、わけではない。
自分に向けられる殺意に、今まで生きてきて初めて向けられた殺意に途惑ったものの、途惑いはしたものの、ただそれだけであった。
私が逃げた理由はただ単純に。
面倒臭かった。
からであった。
この時点ですでに人ひとり襲い、帰宅している真っ最中だったのだ。
正直言ってさっさと帰って寝たい。
それに、この少年にこれ以上関わると、なんだか物凄い面倒な事になる気がしたからだった。
厄介事はあの自称親友だけて手一杯だった。
だから、逃げた。
全力で。
尻尾を巻いて、逃げた。
次の瞬間、何が起こった分からなかった。
どういうわけか、私は地面に仰向けに倒れていた。
逃げる事だけに集中していた私は、自分の身に何が起きたのかさっぱり分からなかった。
その一瞬前に、少年が私の進行方向に先回りしていたのは、何とか見えた。
しかし、速過ぎて何が何やら全く理解できない。
しっかり握っていたナイフは何処に行ったのやら、右手が空っぽになっていた。
私の上に馬乗りになった少年は片手で私の両手を押さえつけ、もう片方の手で私の喉笛にナイフを突きつける。
「人が話してる最中にナイフ投げつけてきた挙句、逃げる気か?」
それまでの楽しそうな表情は打って変わって不機嫌そうな低い声で言ってきた。
ナイフが軽く横に引かれ、痛みが走った、薄く喉の皮を切られたようだった。
あー、殺されるか?
殺されるよな、この状態じゃ、殺されない方がおかしい。
しかしこの状態じゃ抵抗すらままならない、腕は封じられているし、そもそもこの状態で下手に動けばあっさり喉笛を切り裂かれる事くらい小学生でも分かる事だ。
打つ手なし。
「何か言ったらどうだ、雨合羽」
レインコートを着いるだけで、私は雨合羽なんて名前じゃない、というどうでもいい突っ込みは置いといて。
はぁ~、と盛大に溜息をついた。
「私になんの用だ? 正直言ってもう眠いから帰りたいんだけど………全く、何だってこんな面倒臭い事になったんだ?」
何を言っても殺されそうな気がしたので、本音を言った。どうせ命乞いをしても意味は無いだろうから。
なら余計な事に気を使って疲れる意味は無い。
だから不遜に、たった今殺されてもおかしくない状態でそう言ってのけた。
その返答を聞いた少年は不機嫌面を一変させて、また先ほどまでのおかしそうな表情を浮かべた。
「くっくっく………何? お前、こんな状況で早く帰って寝たいって、面倒臭いって………殺されかけてる癖に、何だそりゃ」
そのまま堪え切れなくなったようで、大声で爆笑し始めた。
「…………」
私は何も言えなかった、といっても、私が何か言ってもこの少年の耳には入らなそうだったが。
そのまま少年は笑い続け、しばらくしてやっと笑いがおさまった。
「あー、おかしい、お前傑作だ、泣いて喚いて命乞いされても殺す気だったが、気が変わった、今回お前を殺すのは止めにする」
そう言って喉笛にあてていたナイフをあっさりどかし、私の両腕の拘束を解いた。
そのまま少年は私の手を取り、立ち上がらせた。
何が何やら、さっぱりわからなかった。
しかし、少年の言葉を鵜呑みにするなら、どうも今この時殺される事は無いようだった。
本当かどうかは知らないが。
自分の喉に手を当てる、薄く血がついているが出血はもうとっくに止まってる、放っておいても大した事にはならないだろう。
私が傷を確認しているうちに少年は私の喉を浅く切ったナイフを、私の血液が付着しているそれをペロリと舐めあげた。
「…………」
一体何をしているのだろうか、この少年は。
無言で見つめる私の視線に気づいた少年は何だと問いかけてきた。
「えーっと………もう帰っていいか?」
帰っていいんだよな?
というか駄目だったら私にどうしろと?
「いいけど? 好きにしたら?」
いいのか。
ならさっさと帰ろう。
この少年が気まぐれを起こして、また殺しにかかって来ないうちに。
「それじゃあ、私はこれで」
そう言って家のある方向に向かって早足で歩く。
曲がり角までは歩き、曲がってすぐに全力で駈け出した。
家までわき目もふらずに走り抜ける。
数分走ってようやく十階建てのマンションの前に着いた。
そこでいったん立ち止まる。
ずっと走り続けていたから流石に息が切れていた。
「あー………疲れた……全く、なんだったんだあれは……」
こんなに全力疾走したの久しぶりだ。
そう呟いて、レインコートのフードを外す、ついでにゴーグルを額まであげていたら。
「随分急いでたけど、どうかしたのか?」
「!?」
突然響いた声に振り返ると、先ほどの白い少年が真後ろに立っていた。
その距離たった30センチ、至近距離に立たれたていたにもかかわらず、おそらくずっと尾行されていたにもかかわらず、全く気付かなかった。
何なんだこいつは……
「おまっ……何でここにいる!?」
「何でって、つけたから」
「何でだ? もう用は無いんだろう? お前に私をつける理由は無い」
「おいおい、誰がそんなこと言った?」
「は?」
何を言っているんだ? こいつは。
好きにしろって言ってなかったか?
「帰っていいとは言ったが、用が無いとは一言も言ってないけど?」
「…………………は? 何だそれ?」
「俺んちここから大分離れたとこにあって、電車はもうとっくに止まってるから帰れないし、一文無しなんだよね」
「それがどうした?」
「いや、一文無しって言っても小銭くらいは持ってるんだが、当然どっかに泊まれるような金額なんて無くて、てゆうかそもそも未成年が一人で泊まれるような場所なんて無いし」
「そうか、だがそれがどうした? ちなみに私も大した金は持ってないぞ」
なんとなくだがこの先言われる事が分かった気がする、いや、分かりたくは無かったんだが。
いやでも流石にそれは………
もう一つ、可能性としてあるのは、せいぜいタクシー代を寄越せとかそう言う感じか?
それならまだいいが………
「別にたかろうって気は無いんだが………」
「そうか、ならなにも用は無いよな? そうだよな?」
「いや、泊めてくれ」
「………何処に?」
「お前んち」
…………あぁ、当たって欲しくない予感が当たってしまった。
「…………なんでそうなった……てゆうか、お前私に会う前はどうする気だったんだ?」
「適当に野宿」
「………ならそうすればいいじゃないか」
「…………見つかって補導されたら面倒だし」
「そんなの私には関係ない、こんな夜中にナイフ持って出歩く不審人物を泊めるほど危機感が無いわけじゃないし、私はあの馬鹿と違ってお人よしでもないからな……いくら小学生でも」
「誰が小学生だ?」
話している途中で遮られた。
………小学生じゃない?
てことは中学生?
低く見積もっても私の一つ下?
嘘………
完璧小学生だと思っていた。
「は? 小学生じゃないのか?」
「違う」
物凄い不機嫌面で返された。
うん? もしかして地雷踏んだ?
そんな風に私が考えていたら少年が両手で私の喉を掴み、締め上げてきた。
「………っ!?」
ギリギリと締め上げられる、苦しい。
「俺の、どこが、小学生だって?」
怒ってる、先程私がナイフを投擲して逃亡した時よりも確実に怒っている。
何とか締め上げてくる手を外そうとするが、その細腕に似合わず、こちらがどんなに力を入れてもびくともしない。
あ、やばい、意識が白濁してきた………
少年の腕を掴む手から力が抜けていく。
あぁ……せっかく殺されずに済んだと思ったのに、無駄な事を言ったせいで……
こんな事で殺されるなんて……
「あ、やべ」
そんな若干慌てたような声が聞こえたと思ったら、喉が解放された。
解放され、立っている事さえままならず、座り込んで思い切り咳き込む。
少しの間咳き込んだ。
そして、落ち着いて、だいぶ呼吸が楽になったところで頭上から声が掛けられた。
「わりぃ、うっかり殺すところだった」
悪びれも無く少年はぬけしゃあしゃあと言い放った。
「……………」
うっかり殺されてたまるか………
掛けられた声を完全に無視して、立ち上がる。
そのままマンションの入り口に向かって歩き出した。
「おーい」
そんな風に声を掛けられるが。
「五月蠅い…………ついてくるな………!」
どすの利いた声で吐き捨てるように言う。
「怒ってる?」
「……………」
「おーい?」
無視する。
これ以上関わりたくない。
てゆうか、早く帰って寝たい。
結構限界が近かった。
そしたら後ろからにゅっと手が伸びてきて肩を掴まれた。
「…………………もう、勘弁してくれ………家族もいるんだ……」
嘘だった、当時お手伝いさんは交通事故で亡くなっていたし、義理の兄はもうすでに大学の寮に入っていたし、両親は相変わらず不在。
それでも私がこんな一人で住むには広すぎるマンション(ちなみに4LDK)に住んでいるのは両親の稼ぎがあるからであり、もともと数か月前までは三人で住んでいたからである。
広いのはいいが掃除が結構面倒だった。
いっそ何処かもっと小さなアパートにでも引っ越すのもいいかと思ったこともあるが、面倒臭いのでやめた。
「嘘だな」
あっさり嘘を見破られたんだが、何でだ?
普通、こんなマンションにこんな小娘が一人暮らししてると思わないと思うんだが。
「他に家族がいるならこんな時間に出歩くわけがない、出歩いてる事が家族にばれたら面倒な事になるだろう?」
……確かにそうなんだけど。
元々家に誰かがいる時でも私は深夜徘徊してたからな。
「気付かれないよ、そんなヘマはしない」
「ふ~ん………それが本当だったとしても、今は誰もいないんだろう?」
少年は断言するように言った。
「はぁ?」
なんでこんな断言できるんだ?
「なんとなくわかるんだよ、それにお前の嘘は案外分かりやすい、お前、普段嘘を吐く必要に駆られてないんだろうな、嘘吐くのが目茶苦茶下手」
………その通りなんだが、何で分かった?
「いやー、兄貴が言ってた事がやっと分かった、成程こう言う事か、普段の俺もこんな感じなのか?」
………まさか、私と似たようなタイプだった?
「………………」
「てことで、泊めろ」
もはや命令形だった。
「………もう、好きにしろ………………」
折れた。
これ以上の問答は無駄だと感じたからだった。
もういい加減限界が近くて頭が働かなくなっていたのも理由だった。
「センキュー、カッパ女」
礼を言われたが、とんでもない呼び方をされた。
いくらレインコートを着ているからと言ってそれは無いだろう。
「何だその呼び方………何か別のにしろ……」
と言っても、名乗る気は無かったが。
「………んじゃ、雨、で」
雨ガッパだから、雨、まあカッパよりましか。
本名とかぶってるけど。
「それなら、まあ、いいか。それで、お前は何者だ? 一応泊める奴の素性くらい知っときたいんだけど」
今更のように聞いた。
その質問に少年が答える。
「殺人鬼……かな? そう言うお前は? 何?」
随分と物騒な肩書だった。
驚きはしないけど。
それに、私の肩書も似たようなものだ。
「………通り魔」
短く返す。
その返答に少年も大した反応をするわけでも無く。
「よろしく、通り魔」
そう返して、手を差し出してきた。
その手は取らずに無言でマンションの入り口に向かう。
これは2年前のある日の出来事。
これが殺人鬼との出会いだった。
結局その後、殺人鬼は数日我が家に居座った。
家に帰りたくなかったそうだ。
何でも長期休暇になると家出して見知らぬところを放浪しているらしい。
その話を聞いて呆れた、何やってんだよ、お前。
家族に心配されないのかと聞いてみたところ、放任主義の家族はあんまり心配してないらしい。
家にいると兄貴が五月蠅いだけだからと避難しているらしいが、不思議な事に特に家族と嫌いあっているわけではないらしい、むしろ仲は良好らしい。
わけが分からない。
そう言って返ってきた返答によると。
兄貴に構われすぎてウザい、だそうだ。
………それなら、分からなくもないが……………
その後殺人鬼は長期休暇になる度にこの町にやって来てうちに居座るようになった。
曰く、適当に放浪するより私んちに居座った方が面倒が無いと。
そう言う理由で避難所にされた。
勘弁してくれと思ったが、何故かそんなに拒否しようとは思わなかった。
何でだか自分でも分からないが、あいつの事はそんなに嫌いじゃない。
殺されかけて、あっちの都合で家に居座られるのに、不思議と嫌悪感が湧かない。
それは多分、私とあいつが、どこか似ている所があるからだろうか?
あの殺人鬼は気紛れで自分勝手で、何処か猫に似ている、それも多分理由の一つ。
私は猫派なのだ。
それに、居候させる代わりに家事全般を押し付けられるというちゃっかりした理由もあったりする。
私は家事が出来ないわけじゃ無いが、そんなに得意じゃない。
掃除洗濯くらいはするんだが、料理はしない、出来ないわけじゃ無いんだが面倒だからと大体出来合いのものを買ってくるか、インスタントで済ませている。
冷蔵庫に冷凍食品くらいしか入ってないのを見た殺人鬼は呆れていた。
適当にカップ麺でも喰ってろと言ったがインスタントは嫌だったらしく、その後だらけていた私は食材の買い出しに道案内兼荷物持ちとして引っ張り出された。
それから数時間後、我が家の食卓にはしばらくぶりにインスタントじゃないちゃんとした食事が並んでいた。
ついでにお前の分も作っておいたからと言われ、食べてみたら目茶苦茶美味しかった。
………餌付けなんてされてない、されてないはずだ。
と、こんな風に長期休暇時限定で居候が出来た。
二時間ほど歩き続け、特に誰かの姿を見ることも無く、私は帰る事にした。
マンションに向かって、ちょうど学校のそばを通った時に、轟音が響いた。
「!?」
音源は学校だった。
様子を窺うと、何故か正門が三十センチほど開いていた。
何者かが深夜の学校に侵入して何かやらかしている?
気になった私は、開いた門の隙間から校内に侵入した。