カラス会議と人間の謎
“しゃべる”シリーズ第2話は、公園の上空からお届けします。
今日の主役は、ちょっと賢くてちょっとズレてるカラスたち。
人間の行動を「マジで意味わかんない」と言いながら、案外ちゃんと見ていたりします。
ほんの少し毒っ気あり、でもどこか優しい、そんなカラスたちの朝の会話をどうぞお楽しみください
木の上の枝に、三羽のカラスが止まっていた。
朝の公園。まだ人もまばらで、空気は静かだ。
……しかし、その静けさをぶち破る声が響いた。
「人間ってさあ!なんでわざわざ“燃えないゴミ”とか書くわけ!?見えないし読めないし!!」
「お前が読めないだけじゃないの、ピチョ」
「えっ、読めんの?ハネ姐?」
「いや、読めないけど」
「やっぱ読めないんじゃんかーーーい!!」
ピチョが羽をバタつかせてガッと突っ込む。
その横で、一羽のカラス――クロが、木の皮をつつきながらぼそっと言った。
「燃えるか燃えないかじゃない。旨いか旨くないか、だ」
「渋ッ!!」
「クロ先輩、いつも詩人みたいっすよね」
「別に詩じゃない。ただの生存戦略だ」
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「でもマジで思うっすよ。
人間ってさ、なんで“ゴミは持ち帰りましょう”とか言うくせに、めちゃくちゃ置いてくじゃないですか?」
「そう。しかも袋の口、固結び。開けるのにどんだけ時間かかると思ってんの」
「あと、あの“カラスよけネット”な!!黄色のやつ!!あれマジで陰湿!!」
「しかも持って帰らず置きっぱなし。もう“それごと漁れ”って言ってるようなもんだよね」
「人間、バカなの?」
「いや、バカっていうか……変に優しいとこあるよな」
クロが空を見上げて言った。
「この前、パン耳くれたじいさんいたぞ」
「マジっすか!?」
「あれは旨かった。フランスパンだった」
「え、歯、折れん?」
「そもそもカラスに歯、ないけどな」
「ツッコミ冷静すぎて泣いた」
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「てかさ、最近の人間のガキ、うるさくない?」
ピチョが下の広場を指差す。
そこには、ブランコを全力で漕ぎながら「うおおおおお!!!」と叫ぶ小学生の姿が。
「修行でもしてんのかな?」
「こないだなんて、“鳥になりたい!”って言って屋根に登ろうとしてたわ」
「それはやめとけ。絶対飛べない」
「いやでもちょっとわかる」
「飛びたいの?」
「いや、飛びたくないけど……上から見ると、ちょっと偉くなった気になるやん?」
「お前、それ言いたかっただけやろ」
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「でもまあ、人間も大変なんじゃね?ゴミ出しルール守らないと怒られるし」
「怒られたくないなら、最初から俺たちが管理しよっか?」
「カラスによるゴミ処理委員会、爆誕」
「ピチョ、秒でクビになるぞ。食いすぎで」
「やだ〜!俺まだ!もっと!つつきたい!!」
「……お前、それで昨日、ハンバーガーの中身だけ持って帰ったろ」
「うん。バンズは置いてった」
「はぁ~~~~。人間といい勝負だわ、ほんと」
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そう言いながら、三羽は一斉に空を見上げる。
陽が少し高くなり、人間の姿も増えてきた。
散歩する人、ベンチでスマホをいじる人。
ゴミ箱の前を通り過ぎる人。
そして――
公園のすみに、静かに座っている、例のおじいさんの姿が見えた。
「……あの人、今日も来てるな」
「パンあるかな」
「いやでも、今日の手提げ袋、薄い」
「チッ、なら無駄なホバリングはしないでおこう」
ピチョがふてくされて枝に座り込む。
クロはじっと、おじいさんの方を見つめながら言った。
「でもさ、ああいう人間だけは、守ってやりたいと思うよな」
「うわ、急にどうした」
「フランスパン……旨かったんだ」
「結局それかーい!!」
「でも、まあ……わかる」
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枝の上の“カラス会議”は、今日も結論が出ないまま終わる。
でも、彼らは人間をちゃんと見ている。
見て、笑って、ちょっとだけ認めてる。
……もしかしたら、明日のパン耳のために。
読んでくださり、ありがとうございました!
今回は漫才よりも“コント風”のテンポを意識して、カラスたちの視点でゆる〜く人間観察を描いてみました。
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