2−3 軽音楽部とメロンパン
「皆様!おどきになって!第二軽音部のお通りですわ!」
その声に私たちを取り囲んでいた学生たちは一様に振り向きます。
そして同時に海を割るように購買前まで一本の道筋が出来上がりました。
カツカツと上履きにあるまじき音をたてて、声の主は私たちの方へと進んできます。
堂々と道の中央を歩くのは、ピンクロングヘアのパーマを携えメガネをかけた高身長。
頼れる秀才系お姉さんを色濃く感じさせる風貌の学生でした。
その少し右後ろを歩くのは、すらっとした身体に長い長い金色のツインテールに鋭い目つきを併せ持ったツンデレ系の方、もう一方には銀髪ショートを輝かせた所謂無口クール系な方でした。
「メロンパン三つですわ!」
購買のおばちゃんにそう告げたピンクさんでしたが、返ってきた答えは「売り切れ」。
やってきた三人は揃って唖然とした様子です。
そんな三人組にもる子さんは、少しばかりの申し訳さも無さそうに笑顔で語りかけました。
「あ、すみません!私が買ったので終わりです!」
三人組の方々は一斉にもる子さんに注目します。
「アナタ、メロンパンを買ったんですの?」
「はい!美味しそうだったので!」
「美味しそうだったから、ですの?」
「そうです!」
「ふ、ふうん...そうですの...それではアナタもうひとつ聞きますわ。部活動は何をしていまして?」
「急ですね!?部活動はやってませんよ!」
「では...委員会活動ですの?」
「委員会もやってません!」
「...何年何組ですの」
「私は一年一組だよ!今日転校してきたんだ!」
質問の度に表情が固くなっていく三人組とは相対的に、もる子さんの笑顔は輝きます。
さらには最後の答えに絶句した彼女たちを尻目に笑顔の調子も絶好調です。
「アナタ、どうしてこの中からメロンパンを選びましたの」
「えっと〜、江戸鮭ちゃんが食べてて美味しそうだったから!」
「そうですのねぇ、では最後にもう一つよろしくて」
「はい!」
「星はいくつですの?」
その言葉に、なぜか緊張の一瞬というように周囲の方々は固唾をのんでコチラを見つめていました。
「星?なんですかそれ」
とぼけたように答えたもる子さんに、烈火のごとくピンクのパーマさんはまくし立てました。
「アナタ!ジブンが何をしたかわかってまして!?メロンパンを買えるのは学園内でも上位の実力を持ったきらら系のごく一部ですわよ!それをなんとまあ...!星も無いのによくぞやってくれましたわね!いくら転校生だといっても我慢できませんわ!ワタクシたち第二軽音部が直々にその根性叩きのめしてやりますわ!」
踵を返したパーマさんに続いて、鋭い目つきのおつきの二人もあとに続きます。
そして割れた一本の道を戻りながら、パーマさんは歩みを止めずにコチラを向いて言いました。
「ついてきなさいですわ。江戸鮭さん」
彼女たち去ったあと、周辺の学生は再度ざわめきに包まれました。
「変な人達だったね〜」
「いやいやいや!もる子さん...、なんか私、私が悪者みたいになってませんかあれ!?」
「え?そうかな?」
「いや、絶対そうです!絶対そうなっちゃってますって!なんで名乗らなかったんですか!?」
「だって、聞かれなかったから〜」
「そうですけど...どうですけれど!確実に目をつけられちゃってますって!」
「ま!いいじゃん!いいじゃん!」
「よくないですってぇ...!」
「過ぎたことだよ江戸鮭ちゃん!さ〜、大人しく教室に戻ってメロンパン食べちゃお!江戸鮭ちゃんメロンパン好きだもんね!」
「好きですけど...!好きですけど今は誤解を与えるんでやめてください!」
もる子さんに背中を押されながら私は、教室まで続く階段へと向かいます。
後ろでは未だに「ゴスロリ真の悪役説」が囁かれていたことはもる子さんの耳には届いていないようでした。