12−7 ゲームセット
そうです。
両腕を持ち上げた彼女は両手先からだけでなく、腕と腕の間、そこから体を包むサイズの拘束具を飛ばしていたのでした。
私はすぐさまもる子さんに駆け寄ります。
ですが、こうした後手後手の対処ではいずれ私ともる子さんの二人が同時に拘束されては終わり。
彼女までの道すがら、たった数歩の短い距離で私は考えます。
もる子さんには解けずとも、私には拘束具が解けたこと。
そして最初は私にもる子さんを拘束した時には、すぐさま私を狙ってきたこと。
木の陰に隠れようとする私を後方から狙ったこと。
『結束』という能力名。
一度拒否した自己紹介を自ら行ったこと。
もる子さんにはあって、私にはしていないことは何か。
ぼんやりとした答えが私の頭に浮かんだとき、私はもる子さんの元へとたどり着きました。
それと同時に臨ヶ浜さんは言いました。
「ゲームセット」
彼女の指先から、音も形もない輪が私を完全に捉えました。
ですが、私はそれを確認するよりも前に一歩足を引きました。
地面を叩いた拘束具が反射して音を立てます。
「───。」
臨ヶ浜さんは無言でもう一度、私に狙いを定めます。
それを気にもとめずに、私はもる子さんへと一歩近づき、体勢を低くすると同時に両腕を倒れる彼女に差し出します。
放たれた輪が腕を絞るように絡みつきます。
もる子さんが解けないような絶対的な拘束力、ですが私はそれを軽々と引き裂きました。
「─!」
屈みかけた体勢をもどしながら、次は臨ヶ浜さんへと一歩近づきます。
次の枷は足。
ですが、私はすぐさま踵を返してもる子さんへと手を差し伸べます。
足に絡まる拘束具はまたもやいとも簡単に、歩く力だけで脆くちぎれました。
「──。」
「もる子さん」
「江戸鮭ちゃん!どうやってんのそれ!どうやって抜け出してんのそれ!?」
「私はもる子さんを助けません」
「え?え?」
「私一人で臨ヶ浜さんを倒します」
「何いってんの江戸鮭ちゃん」
「いいですか?」
「いいですかって...大丈夫江戸鮭ちゃん。どっかぶつけた?頭とか」
「じゃ、いきますんで」
私は臨ヶ浜さんに対峙します。
すぐ後ろで騒いでいるもる子さんには目もくれません。
彼女を見下ろすほどに近づいて、言いました。
「どっちに賭けますか?臨ヶ浜さん」
「───。」
私はもる子さんの見様見真似で、体制を低くして拳に力を込めました。
同時に、臨ヶ浜さんは両腕を伸ばして私の体の両側面に腕を添えます。
一瞬の沈黙と同時に私は腕を振るいます。
臨ヶ浜さんも輪を私の全身を捉えるように放ちます。
腕と体とが見えない何かにキツく縛られていく感覚がシャツ越しに伝わります。
それは一度は私の全身を縛りましたが、拳の勢いは落ちません。
脆くも砕け散るそれを目の当たりにした彼女は第二撃を加えるべく、腕に力を込めました。
しかし私は殴りかかった拳でその腕を掴み取って、なるべく小回りを利かせながら振り向きます。
臨ヶ浜さんは腕を取られてその場でよろめきました。
隙を見て即座にもる子さんの枷がある辺りを手で触れます。
体勢を立て直した臨ヶ浜さんと、私が小さく両腕を上げて降参のポーズをしたのは同時でした。
「今度こそ、ゲームセ〜ット!」
もる子さんは臨ヶ浜さんの背後に立ち、既に首元に腕を回していました。
私はどっと疲れが吹き出して、今にも座りたい気分。
しかしながら脅威が完全に去った訳ではありません。
もる子さんにもわかるように、早急に彼女の能力の種明かしを始めます。
続きは今日中