12−5 結束
蝉の鳴き声が一層強くなったように感じました。
それはきっと風が止んだからでしょう。
私が息を飲む間もなく、もる子さんは言葉をかわしました。
「はじめまして!私、もる子!こっちのゴスロリが似合いそうなのが江戸鮭ちゃん!あなたは?」
挨拶の直後、白いワンピース姿の彼女は引いていた顎を元に戻して、昼行灯ながらも光る目でこちらを見つめました。そうしてまっすぐ腕を伸ばしたかと思うと、ピースサインをしました。
「ん?ピース?」
「─掻き鳴らせ」
「かきならせ?」
「──結束」
ピースサインを地面と並行になるように手首を伸ばすと、ワンピースさんは指の股を閉じました。
それと同時に、もる子さんの腕がお腹の前でキュッと見えない何かに拘束されたように不自然な体勢になりました。
「おぉ!?」
さらにはそれは脚にまで及んでいるようで、両足も動けないよう縛られたもる子さんは、バランスを失い倒れ込みました。
「っわ〜、びっくり。いきなりは反則だよ〜」
「─面倒なことはしない。私は先輩と違う」
「先輩?ああ、やっぱりそうだよね?第一軽音部の人でしょ?」
「─さあ」
ワンピースを翻しながら、彼女はもる子さんへ近づきます。
ですがもる子さんの手前まで来ても脚を止めることはありません。
そう、目的は倒れ込んでいる私のようでした。
「ちょっとちょっと!私は無視なの!?ねえねえ!」
もる子さんが必至の抗議をしますが、まるで聞こえていないかのように彼女の歩みは止まりません。
私は既に筋肉痛の全身を何とか動かして立ち上がります。
ですが、彼女はすでに目の前に迫っていました。
そしてもる子さんにやったように、再びピースサインを突き出しました。
「─おわり」
「江戸鮭ちゃん走って!」
もる子さんの叫び声に、私は全力で駆け出します。
背後では何かが凄まじいスピードで地面に当たった音がしました。
「うぉりゃあ!」
少しばかり離れた木陰まで駆け抜ける間に、もる子さんは見えずとも存在している腕の拘束をぶち破ったようですが、その声に反応した彼女によって振り向きざまにまたも拘束されてしまいました。
またもやイモムシ状態で、もる子さんは倒れ込みます。
「あいたたた〜...。ちょっと素早すぎるよ〜」
「─すごい」
「へ?何が?」
「─拘束、やぶったから」
「へへ〜、スゴイでしょ!力比べじゃ負けないよ!ほら、こうやって...!」
もる子さんは倒れ込んだままもう一度腕の拘束を解きます。
同様に足の拘束もねじ切りました。
「へへ〜!効かないんだな〜このくらいの拘束!慣れてるからね!」
「─ふうん」
慣れている、というもる子さんのセリフも気になりますが、私が気になったのはワンピース姿の彼女の行動でした。
気だるげな雰囲気は変わりませんが、もる子さんへと向き直って小さな礼をしたのです。
「臨ヶ浜」
「りんけはま?お名前?」
「そう」
「じゃあ改めて!私はもる子!あっちのゴスロリが似合いそうなのが江戸鮭ちゃん!」
「知ってる」
「臨ヶ浜ちゃんは第一軽音部の人なんだよね?何年生?」
「一年」
「え!ホントに!?一年生なのに第一軽音部なの!?」
「隣のクラス」
「そっかあ!こんどからよろしくね!臨ヶ浜ちゃん!」
「うん」
「七並べちゃんからの依頼で来たってわけだよね?」
「質候。とても暴力的なもる子と、反乱分子黒幕、江戸鮭を捕まえるように」
「やっぱりそっか〜。そうだよね!」
「うん」
「うんうん!じゃあ絶対負けないよ!...それはそれとして気になるんだけど、どうして急に自己紹介してくれたの?最初は無視したのに」
「知りたくなった」
「私のこと?」
「うん」
「お〜!じゃあもっとたくさん教えてあげるね!私のこと!」
「大丈夫」
「大丈夫?」
「──充分強まった」
続きは今日中