12−4 朝葱色
「江戸鮭ちゃん体力も筋力も全然だね」
「はぁはぁ...もる子さんが超人的すぎるんだと思うんですけど...」
「そうかなあ〜。実家でも毎日やってたからなあ...」
「なんなんですか...一家総出でSASUKEとか出てるんですか...」
「パパが東京ドームの地下で戦ってて...」
「色濃く受け継ぎ過ぎでは!?」
「ま、私も最初はできなかったから、江戸鮭ちゃんだってできるようになるよ!」
「はぁはぁ、何年かかることやら...」
「今日は出来なくても明日は出来る!そう思うことがまずは大切だよ!一歩ずつでも強くなってるんだって自信をもって行こうね!」
「自信、ですか...」
「うんうん!江戸鮭ちゃんは夜久巴ちゃんに勝ったんだからさ!もっと自信を持つこと!どんどん強くなるよ!」
「は、はあ...」
筋トレは違うとしても、自信と言う面では確かにもるこさんの言う通りなのかもしれないと思いました。
私には「自分ならやり遂げられる」という確固たる自身がまだまだありません。
この学園に転校してきたのも、早々に転校前の学校で自分がキラキラできるかということに自信がなくなったからです。
話も合わず、好みも合わず、好きな服装もできず、ただただ行きたくもない学校に通うことに嫌気が差して、たった二ヶ月ほどで転校をしたというわけですから。
自分ならできる、そういう確固たる意思が私には足りていませんでした。
祈さんの言葉があったとしても、まだまだ軟弱な木偶の坊です。
「じゃあ江戸鮭ちゃん。最後に少しだけ簡単なやつやってみよ!」
そういうともる子さんはその場に伏せました。
服が汚れることなんて構わずに、地面にうつ伏せになります。
「...何をするんでしょうか?」
「腕立て伏せ!大丈夫!一緒ならできるから!」
私は彼女のひたむきな笑顔に、同じように地に伏せました。
「それじゃ行くよ!はい!い〜ち!」
うでをピンと伸ばした状態から、もる子さん掛け声に合わせて腕を折ります。
途方も無いように長く引き伸ばされた「いち」という数に、わたしは既にギブアップしたい気持ちに駆られます。
「江戸鮭ちゃんならできるよ!ほら、に〜い!」
彼女の応援のおかげなのか、それとも私の中の意地なのかは分かりません。
ですが、私はそのまま腕を伸ばして、折ってを繰り返します。
どういうわけかは分かりません。
だけれども、ここで負けたくないと私は思ったのです。
顔をこちらに向けながら笑顔でカウントする彼女とは裏腹に、私は苦悶に歪んでいたことでしょう。
ですが、決してそれは苦しい、キツい、辞めたいといった負の感情だけではありませんでした。
「負けたくない」という気持ちが私を動かしていたのです。
もしかするともる子さんの脳内筋肉が声に乗って私の脳内を侵犯したのかもしれません。
「やり遂げたい」と私を思わせてくれたそれを拭うことなく、彼女のカウントはついに二桁に到達しました。
「はい!おしまい!」
そのセリフに私は安堵して、地に体を埋めました。
既に言葉を返す気力もありません。
「頑張った!えらいよ江戸鮭ちゃん!」
死屍累々の私にの頭にもる子さんの手が優しく添えられました。
「ハァハァ...も、もう限界...」
「頑張った頑張った!これで一個乗り越えちゃったといっても過言じゃないね!自信につながる第一歩だよ!」
「あ、ありがとうございます...きょ、きょうはもうオシマイですよね...?」
「うん、おしまいだよ!っと言いたいとこだけど...」
言葉を飲んだもる子さんは、私から手を離して立ち上がります。
彼女の見据える先、そこにはジャージ姿の私たちとは正反対、真っ白なワンピースに身を包んで緑に近い浅葱色の髪をした少女が少し俯きながら立っていました。
続きは今日中