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2−2 購買部って胃に悪い

所変わって私は学園の購買部にいます。

たった一食で成人男性一日分ほどのカロリーを摂取した彼女でしたが、未だにその胃袋は満たされていなかったらしく、次なる獲物を求めやってきたのがこの狩り場。

私はメロンパンひとつで満足だと言うのに凄まじい食欲です。


獲物に飢えた学生たちの山をかき分けて、なんとかパンを求める列の最前線へと歩みを進めました。


「江戸鮭ちゃんは何にする?」


「いえ...私はもう、お腹いっぱいですから...」


「そっか!じゃあどうしよっかな〜!」


購買には様々な食品が並んでいます。

とくに目を見張るものはパンの類。

クロワッサンに焼きそばパン、コロッケパンにメロンパン、多種多様な味が私達の目の前に広がっていました。

私ともる子さんの視覚情報としてはとても楽しい場所でしたが、それ以外の方々、私達の周辺の方々から突き刺さる視線は決して愉快なものではありません。

今朝の一見を目にしていた皆々様の冷たい視線、「あの子が風紀委員を討った女の子」だというきらら系にとって全く嬉しいわけがないにも関わらず、嘘偽りない事実を突きつけられて私は汗が止まりませんでした。


「やっぱりここはメロンパンかな〜!」


...ザワッと周囲が色めき立ちます。

そして口々に

「メロンパンだってよ...!」

「身の程知らずだ...!」

「怖いものは無いのかしら...!」などといった悲鳴にも近しい呟きが聞こえてきました。

朝の風紀委員さん的に言えば、学園内の何かしらのルール、特に特権階級の方々からすれば何かしらの禁忌に触れるような憚られる選択といったところなのでしょうか...。


「やっぱしコロッケかな!」


...ザワッと周囲が色めき立ちます。

「コロッケですってよ...!」

「無謀すぎるって...!」

「アカンわ、死んだな...」


またもや、いえ先程よりも悍ましい呟きが私の耳から入って脳を犯します。

それだけは選択しないでくださいっと念じながら、もる子さんの一挙手一投足を見守ります。


「クロワッサンもいいな〜!」


...ザワッと周囲が色めき立ちます。

「南妙法蓮華経」

「南無阿弥陀仏」

「アーメン」


先程よりもさらに死地に足を踏み込んでしまったようです。

いえ、そもそも購買部という時点で地雷原に足を踏み入れたようなものだったのかもしれません。

いつどこで起爆するかもしれない中、もる子さんは全身全霊をかけて激しいダンスを踊っているような物です。多分。


「焼きそばパンもアリかな...」


「...。」

「...。」

「...。」

焼きそばパンなら問題ないそうです。


ですが、この異様な雰囲気。

パンひとつ買うだけで走る緊張感。

これは私達が風紀委員の質候さんを叩きのめしたという半分誤情報からくるものなのか、それとも単に学内のルールを破ってしまっているものから来るのかは見当がつきませんが、決して良いものでないということだけは分かりました。

転校初日からこの胃の痛み。

私はこれからの毎日に耐えられるのでしょうか...。


そんな事を考えているうちに、もる子さんは買い物を終えたようです。

そしてルンルンな笑顔で私に何かを手渡してきました。


「あ、はい...え?なんですかこれ」


「メロンパン!」


「メロンパン!?あの中で!?しかも三つ!?」


ざわっ...と周囲がざわめきます。

私たちを突き刺していた皆様は一斉に「あっちが買わせてる...」「ゴスロリこわい...」「やっぱり首謀者なんだ...」と声を揃て言いました。

私は全員に今すぐにでも否定したい気持ちではありましたが、到底そんな事はできません。

人前で大きな声を出すことも、それどころか振り向くことすら。

ですがもる子さんは、周囲の声にも私の心にも全く気づくことはないようで、ニコニコと微笑ましい素敵な笑みを浮かべていました。

しかし、そんなもる子さんをも振り向かせる程の大きな声が響きます。


「皆様!おどきになって!」


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