12−1 夏の公園
「江戸鮭ちゃんって戦いに向いてるよね」
遠く澄み渡る空、セミたちの劈くような声の中、この世の終わりみたいなことを呟いたのは、もちろんのこと私の友人である彼女。もる子さんでした。
私は即刻、首をブンブンと横に振りながら否定の意を示します。
「絶対向いてないと思いますけど...」
「ん〜、そうかなあ」
先日の夜久巴さんの件から一週間。
早くも夏は最盛期を迎えています。
夏休みといえばイベントが盛りだくさんというのは最もですが、私としては楽しいことは全部が片付いてから満喫したいという気持ちが強いわけでして、今日はもる子さんと一緒に朝から図書館でお勉強をしていました。
今はお昼を迎えて、すぐ横にある公園の木陰でお弁当を食べているところです。
「むしろ、なんで私に向いてると...?」
私は質問に質問で返しました。
自慢ではありませんが、私はどう見ても弱そうです。
たしかに身長だけは高いかもしれませんが、ひょろひょろで筋肉は全くありませんし、俊敏性も全くです。
もる子さんのように謎の爆発的破壊力も思い切りもありませんし、些細さんのように好戦的でもなければ、持さんのように能力があるわけでもありませんから、いくら高く評価したとて勝てるのはせいぜいカナブンか蛍日和さんくらいでしょう。
そんな私をなぜ評価するのか、私には非常にわかりかねるのです。
「この前の夜久巴ちゃんのときのだよ!私が見てなかったところまでバッチリ見てたじゃん!」
「ああ...」
終業式の日、質候さんの刺客としてやってきた第一軽音部副部長の夜久巴さん。
攻撃が透かされたり、当たらなかったりを繰り返し、消耗戦をやむなくと押し付けてきた彼女。
確かに彼女の能力である『擬音生乍』攻略のヒントを導き出したのは私でした。
口にしたオノマトペを現実に作用させる能力をもつ夜久巴さんのクセを見抜き、二点同時に能力を作用させることはできない彼女を打ち破りましたから。
見ていた、というよりは正確には聞いていた、ですが。
「だからさ〜、江戸鮭ちゃんも鍛えればいいと思うんだよね!」
「は、はあ...」
「筋肉は良いよ!たくさん食べられるし、動くと気持ちいし!心もパワーアップできるし、それに自信にもつながる!」
「まあ、そう言いますよね...」
「そうだよ!江戸鮭ちゃん!自信をつけよう!絶対に勝てるっていう心持ちがあれば負けないもんだよ!」
「...そんなもんですかねえ」
「よし!思い立ったが吉日!早速トレーニングといこう!」
「えぇ...」
続きは今日中