11−2 第一軽音部
そこには制服姿の大人びた女性がひとり、したしたとこちらへ歩を進めていたのです。
「ふぅん。質候ちゃんに頼まれたからどんな学生かと思ってたけど...。中々やるんだね、ウワサのゴスロリちゃんたち」
その人はクルクルと艶やかな毛先を弄びました。
「こんにちは!私、もる子!こっちのゴスロリは江戸鮭ちゃんだよ!」
「ごきげんよう。貴方がたのことは少しばかり知ってるかな」
「おぉ!江戸鮭ちゃん!私たちの部活も知名度上げいてきたってことかな!?」
「まだロクに活動してませんけど...」
「学園に反旗を翻すゴスロリさんとその一味。いいウワサではないけれど、とっても強くて素晴らしい女のコが一人いるとは聞いていたよぉ。でも、これほどとはねえ。ワクワクしちゃう」
乾いた地面を踏み鳴らし、彼女は私たちへと近づいてきます。
その足元はわたし好みのゴシックで厚いブーツ。
顔を見れば、ぱっつんと一直線に切られた前髪。腰まで届くほどに伸びた真っ黒な後ろ髪が風になびいて、影に潜んだ紺青のインナーカラーとハイライトを映し出します。
制服もよくよく見れば他の学生とは違って、上半身はいたって普通のセーラー服ですが、スカートだけが黒々としていて光を集めていました。
それに髪飾りとして、耳元には大きな蝶のバレッタまでついていて、彼女が学園内での特権階級であることは明白です。
眼前までやってきた彼女は私よりは小さいながらも、女子にしてはとても大きく感じました。
もる子さんと並べば大人と子どもです。
そして下がった目尻と垂れた眉からは、大人の余裕と妖艶さが滲み出ています。
そしてその瞳は既に光を放っていました。
「こんなに小さいのに、スゴイのね。貴方」
「それほどでも〜。あ、アナタじゃなくって、私はもる子だからね!」
「はいはい、もる子ちゃん」
「それでお姉さんのお名前は?」
「うん?わたし?そうねえ──」
妖艶な彼女はまるで幼子に話しかけるように膝を折って、口元へと人差し指をあてがいます。
「今から負けちゃう貴方に名乗る理由がある?」
「おお!自信満々だ!でも聞いておきたいなあ〜」
「あら?どうして?」
とぼけたような顔をして、彼女はヒラヒラと手を振りました。
「だって私が勝つから」
「あらら。そう」
「──うん!」
もる子さんは元気な返事とともに、素早い一撃を繰り出しました。
質候さんを沈めるアレです。
しかしながら目の前の女性は余裕と言わんばかりに体を翻し、その一撃をかわしたのでした。
ですがもる子さんは焦りません。
避けた先を狙って直ぐ様対応します。
一撃、一撃と繰り返される必殺でしたが、ヒラリヒラリと全てかわされます。
渾身の足払いも宙に浮くようにかわされてしまいました。
その姿はまるで蝶、月夜に自由に空を翔ける黒い羽を持っているようでした。
「ぐぬぬ...なかなかやるじゃん!」
「あら、ありがとう。でもその威勢もいつまで続くのかな?」
彼女がそう言うと、パキンとなにかが割れるような音がしました。
それは持さんが私たちにも掛けていてくれたエフェクト。
花盛のお花が砕けた音でした。
「持鍍金ちゃん。衝撃には強いよって言ってたのにな〜。スゴイね!」
「その程度の防御でわたしに挑むなんて、舐められたものねえ」
「そうかな?」
そう言ったもる子さんは、指を軸にして何かを回していました。
動きを止めて、何かを指先で摘みます。
それは蝶のバレッタ。
彼女の耳元で燦然と輝いていたそれだったのです。
「...うふふ、ウワサに狂いはなかったようね。もる子ちゃん」
「教える気になったかな?名前」
「...ふふ」
一直線に整えられた前髪をかきあげて、不敵な笑みが溢れました。
「第一軽音部、葵瀞 夜久巴」
つづきはこのあとすぐ