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9−9 絶対に



「ああああああああ...おわった...あわ終わったよもう...」


「すみません...」


「ごめんなさい」


着席したあわさんは、何度も拳で机をたたきました。

私たちはそれを見て三つ指揃えて陳謝するしかありません。


「まあまあクラゲ。バトル漫画みたいでカッコいいってコメントに書き込まれてたよ」


「イメージ!イメージが崩れるの!あわの築いてきたイメージが!あとクラゲって呼ばないで!」


「はいはい」


「ああ...もうどうすればいいの...転生するしかない...一回転生するしかないよ...。あぁ、またお金が...」


「すみません...」


「ごめんなさい」


「まあ良いんじゃない。罵声系にシフトチェンジしたらどうかな」


「いやだ!あわはカワイイのが良いの!」


「はいはい」


「絶対許さない!二人を!絶対に!許さない!」


「すみません...」


「ごめんなさい」


「まあ江戸鮭くんも、もる子くんも悪いことはわかるけどさ...。許してやってあげたら?」


「いやだ!ああ...SNSでも話題になってる...まとめサイトに載っちゃう!やだ!載りたくない!炎上やだ!やっぱり消す!この二人消す!」


あわさんはそう言って、憤怒の形相を向けました。


「ひえ...」


「こらこら。物騒なやつを使うなって。他の配信系の部活に使って怒られただろう」


「でもやだ!消す!絶対消す!」


「はあ。君ねえ...」


ため息をついた祈さんは、スマートフォンを見ました。

どうやらまだ配信中になっているあわさんのライブを確認したようです。


「あわ、なあ見てみなよ」


「やだ!みない!あわみない!あわの目はない!おいてきた!」


「見てみなって。スゴイよ登録者数。めっちゃ伸びてる」


「...まじ?」


「まじ」


そこからのあわさんの行動はとっても早かったです。

モニターを確認し、何かの桁数をチェックしたと思ったらすぐさまスマートフォンに目を移します。

またもや何かの桁数を数えるようにしてから、長く細い息を吐きました。


カチリ。


「おまたせ〜!あわの帰還だよ〜!どうだったかなあわの迫真の演技!カッコよかった?カッコよかったかなあ!?実はぁ、今度とある人とコラボした時にやろうと思ってたぁ、ボイスドラマの台本でしたぁ!びっくりしたぁ!?びっくりしたぁ?」


突然に元気を取り戻したあわさんに、私ともる子さんは呆然とすることしか出来ませんでした。


「江戸鮭くん。もる子くん。あんまり無茶なことしたら駄目だよ」


私達の前に回り込んだ祈さんは、小さな声でそう言いました。


「はい...」


「は〜い...」


「まあ、今回はなんとかなったけどさ、毎回うまくはいかないからね」


「...肝に銘じておきます」


「よろしい」


「それともる子くん」


「はい」


「君も、勝てないと思ったら突っ込むべきじゃあないよ?わかるね」


「はぁい...」


「危うく他の部活の人たちと一緒になるとこだったよ」


「あの...、それはどういうことですか?」


「くら...あわの能力。シャボン玉出てきたでしょ?あれに触れるとね徐々に濃度が薄くなる」


「濃度...?」


「消えたようになっちゃうんだよ。実際は消えてなくってそこにあるんだけどね。物に当たれば空間に希釈されるし、人も同じだ。例えば君らが砂糖のひと粒だとしたら、あわのシャボン玉は水だね。存在はするけどなくなってしまう」


「お、おぉ...そういう事だったんですか...」


「そうだよ。ま、あわが薄くしたことを忘れるか、濃度を濃くすればもとに戻るけど」


「...もしかしてその薄くする能力とバーチャル系の部活の方々がいなくなってるのは何か関係が...」


「ないことはないよ。そりゃあ。ナンバーワンになりたかったんだろうね。あわ。同じような活動してた人たちの記憶を希釈しちゃったんだよ」


「えぇ...」


「だからむやみに喧嘩を売らないこと。いくらもる子くんが強くとも勝てない人だっているからね」


「...うん」


もる子さんは力なく返事をしました。


「それかもっと強くなることだよ。力だけじゃなくってね」


「...。」


それから私たちは、あわさんの配信が終わるまで三人揃って見学させてもらいました。

配信後にもう一度謝罪をしましたが、あわさんはご機嫌で「次からは気をつけてね」と簡単に許してくれました。

何かあれば何でもお手伝いしますと一言添えて、私たちは物置を後にしました。


一度教室に戻って鞄を取ってから、きらら部の部室に向かいましたが既に誰もいませんでした。

暗くなり始めた空を眺めながら、私ともる子さんは校舎を後にしました。


「...江戸鮭ちゃん。ごめんね」


「...いえ、私も悪かったですから」


「ううん。そうじゃなくって...」


「...なんでしょうか...?」


「私、あのままだったらきっと負けてた。七並べちゃんにも、他の刺客の人にも負けないって思ったのに、負けちゃってた」


「......。」


「あ〜あ〜、せっかく鍛えても駄目か〜って、悔しいなって思った」


「......もる子さん」


「だから、今日からは絶対に負けない。何があっても負けたくないから。もうこんなに悔しい思いしたくない」


いつも笑顔で私の目を見るもる子さん。

彼女の瞳はいま、どこかずっと遠くを、けれども目の前をずっと見つめています。


「これからは絶対勝つ。だからさ江戸鮭ちゃん。私と一緒に生徒会、目指してくれるかな」


「...。」


決して私は生徒会に入りたいなんてことはありません。

そのうえ乗っ取ろうだとか、学園を変えたいだなんて思いません。

ましてや生徒会長だなんて。

ですが、私はこれから自分に課されるであろう苦難よりも、隣で困難に立ち向かおうとする友達を応援したいと思いました。

私を守ってくれて、消えてしまうかもしれないという恐怖に、絶対勝てないだろうという絶望に一人で立ち向かった小さな彼女の助けになりたいと。

私を見つめてくれない彼女が、私はたまらなく嫌だったのです。



「...もる子さん。頑張りましょう」


「...!ありがとう」


私の考えは泡よりも脆くて、儚くって、弱々しいかもしれません。

それでも私は、初めてできた心から信頼しても良いという友人を大切にしたいと思ったのです。





10−1は本日

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