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9−5 配信者さんの裏側



「わ、みんな来てくれてありがと〜!今日もお家からじゃなくって、ちょっと違う場所でやってるから〜声が入っちゃったりしたらごめんなさ〜い!え?早速なんか聞こえた?うそ〜聞こえなかったよ〜?なんだろ〜?ちょっとまっててね〜」


カチッとスイッチのような音が聞こえると、シルエットだった彼女が立ち上がり、コツコツと私ともる子さんの前までやってきました。


「しずかにしろ」


「はい!」


「はい...」


「......おまたせ〜。おかえりありがとお。何してたかって?なんかお部屋に虫さん入ってきちゃったから追い払ってた〜」


何事もなかったかのようにモニター前に戻る彼女。

私達へ向けた憎悪にほかならないチクチク言葉とは正反対に画面に向かって温和そのものな猫なで声。

様子を見るからに、どうやら彼女は学校で動画配信をしているようでした。

もる子さんの耳にも一応は注意の声が届いていたのか、私に近寄ってコソコソと耳打ちしました。


「江戸鮭ちゃん、あの人何してんのかな?」


「...多分ですけど、配信してるんじゃないですかね...?ストリーマーさんってやつですよ」


「配信ってゲームとかやったりするやつ?なんで学校でやってんだろ?」


「そこはわからないですけど...。でもあの方はお喋り配信してるっぽいですね」


「へ〜。ちょっと後ろから見てくる!」


「え!?」


私が静止する間もなく、もる子さんはそ〜っと席についている彼女に近づきます。


「まずいですって!」といいながら、足音を立てないように後に続きます。

私もどんな事をしているのか気にならないと言ったら嘘になるわけでして、好奇心に動かされて足は自然と進みました。

配信の邪魔をしないように教室の端から画面を覗います。


「えっと〜、今日はお喋り配信ってことでやってこうかな〜って...え?ASMR?あ〜...サムネの?それも良いんだけど今日はやっぱりお喋りしたいな〜って!え?ささやけって?ん〜、また音はいっちゃってもさ〜、みんなびっくりしちゃうかなって思ってさ!ごめんね!そうそう、びっくりしちゃうで思い出したんだけど、今日あわね〜...え?何?トラッキングおかしい?めっちゃぶれてる?」


あわと名乗った彼女は、どうやらアバターを使った配信をしているようでした。

そしてそのアバターはあわさんの動きを上手く追っていないようで、上半身の二次元キャラがあっちこっちに行ったり来たりしています。

カメラの不調かなとも思いましたが、どうやらもっと物理的に簡単な理由で暴れ散らかしているようでして、いつの間にか私の隣からあわさんの背後に近づいていたもる子さんのお顔を追従していたみたいです。


「あはは〜なにこれ、こわ〜い。ちょっとまっててね〜マイク切るね〜」


カチンとスイッチ音がして、あわさんは振り返ります。


「おい」


「ん?な〜に?」


もる子さんは自分が何かをやらかしたとは思っていないようで、能天気そうに答えました。


「な〜にじゃねえよ。邪魔だよ」


「え!ごめん映ってた!?」


「映ってねえけど映ってんだよ。上半身だけ反復横跳びしてるみてぇになってんだろうが」


「アニメキャラが動き真似するのこれ?すごいね」


「すごいね、じゃないのよ。乗っ取るな私の分身を。去れ」


「もう少し見てちゃ駄目?」


「やだよ。なんで配信姿晒さねえといけないんだよ。何よりも恥ずかしいだろ」


「めっちゃコメント来てるよ?」


「あーカメラに寄るな。動くな、動かないで。わかった。わかったから。端っこにいろ。静かに端っこにいろもう。黙って立ってろ」


「わーい!江戸鮭ちゃんいいって!」


「わめくな。黙って立ってろ」


「はーい!」


元気に手を上げたもる子さん。

それを追従して荒ぶるアバター。

体裁をどうにか整えるあわさん。

もる子さんが教室の隅までトテトテと行ったことを確認して、配信は再開されます。


「ごめんね〜、なんかカメラにゴミついてたせいかも〜!めちゃコメント来てるねゴメンね〜。じゃあお喋り再開?スタートしよっか〜」


「江戸鮭ちゃん。ああいうのバーチャルなんとかっていうんでしょ?」


言いつけどおり、もるこさんはヒソヒソと話しました。


「そうですよ、たぶん」


「へ〜そうなんだ。真っ暗な部屋で大変だね」


「まあ、それが好きでやっているんでしょうし...」


「それもそうか」


「それにコメントの数的にも人気そうですし...やっぱりたくさん人が来れば楽しいんじゃないですかね?」


「たしかに!」



「だから〜、今日はASMRは無しだって〜!」



「江戸鮭ちゃん。ASMRって何?」


「ASMRですか...。え〜っと...なんというか...こう、気持ちいい感じの音とか...ゾワゾワ〜ってやつ...」


「ゾワゾワ?身の危険を感じるときのやつ?」


「いやそうじゃなくて...。もっとリラックスできるやつです」


「リラックス...よくわかんないから調べてみる」


もる子さんはスマホを取り出してポチポチといじり始めました。


「なになに〜...聴覚や視覚で感じる心地よいとか、脳がゾワゾワする感覚...?おん?」


「なんか、ありませんかそういう感覚...。こう聞いてて気持ちいいな〜って音とかそういうの...」


「自律感覚絶頂反応って書いてあるけどエッチなやつなの?」


「ぶっ!...いやあのねもる子さん...」


「だって自立感覚の絶頂だよ?絶頂って言葉使う?絶頂だよ?言わないでしょ絶頂!」


「絶頂絶頂言わないでくださいよ!卑猥なこと以外にも使いますよ絶頂!」


「自立しちゃった感覚の絶頂からの反応だよ!?なんかもう駄目だよ!絶頂で調べてみてよ!ねえ!」


「調べなくて良いですから!」


私達が顔を見合わせて言い合っていると、ひゅっと何かが飛んできて会話を遮りました。

通過した何かが着弾した方を見てみると、硬めのマウスパッドが鋭利にもカーテンに突き刺さっています。


見たくはありませんでしたが、投げたであろうお方に目をやると、口調は全く変わらないのに目だけをカッと見開いていて目線をこちらにやっていました。

私ともる子さんはおずおすと姿勢を正しました。


「怒られちゃったね」


「そうですね...」


「黙ってみてよっか」


「そうですね...」


「...。」


「...。」


「江戸鮭ちゃん。あーゆーアニメっぽいキャラって自分で作るのかな?」


「早くないですか?」


「気にならない?」


「...ああいうのは描いてもらったりするんですよ」


「へ〜、そうなんだあ」


「...。」


「...。」


「この配信って私達も見れるの?」


「だから早くないですか?」


「気にならない?」


「気になるというか...見れるんじゃないですかね、限定公開とかじゃなければ...」


「へ〜...」


「...。」


「...。」


「...何やってるんですかもる子さん」


「え?配信されてるのかな〜って気になったから。スマホで調べてる」


「...はあ」


「なんて名前だったっけ?あのひと」


「...たしか、なんとか『あわ』って言ってた気がします」


「あわ...なんだろうね」



「初見さんこんにちあわ〜。日本海からやってきたクラゲの妖精、何故なにゆえあわだよ〜。よろしくね〜」



「何故あわちゃん...と」


「...出てきました?」


「うん。すごい、結構人気だよ」


「どれどれ...おー...」


「これさ、スマホでも聞いたら二重に聞こえるのかな?」


「え?」



「き「昨日の配信で〜、オススメのゲーム聞いたじゃない?それを調べたらさ〜なんかすごく難しいみたいで〜、超鬼畜とかでてきて〜」て〜」



「もる子さん!二重になってる声二重になってるから!」


「ゴメン!音大きくしたままだった!消すから!消すから!」


「そ「そ「そ「そんなのあわにやれって言うの鬼すぎ〜って思わない〜?みんなが見てて面白いなら良いんだけど〜グダグダしちゃってもやだし〜」し〜」し〜」し〜」


「逆逆!音上がってる!音量マックスになってるからもる子さん!!」


「あわわわわ!消えて!画面消えろ!」


「なんでこんな時に画面固まってんですか!?早く!早く!」


「もういい!捨てる!捨てる!」


そう言ってもる子さんは窓を開けてスマホ外に放りました。


「セーフ!!!」


「オイ」


「「はい」」


「うるせえって」


「「はい」」


「なんで静かにできない」


「「はい」」


「見るなら静かに。うるさいなら去れ」


「「はい」」


私ともる子さんは、直立不動でお話を聞きました。


「怒られちゃったね」


「...そうですね」


「静かにしてよっか」


「...そうですね」


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