8−6 「お中元に虫嫌ですか?」
「ふむふむ。みんな虫は苦手なんだね!」
「そりゃあんまり得意な人はいないと思いますが...」
「じゃあ部活に名前に虫も入れよう!」
「苦手なのに入れるんですね...」
「ほら、好きなものも嫌いなものも全部ごちゃ混ぜにして、なんでもOK千客万来ってイメージって良いかなって!ピンチはチャンスだよ!」
「...言ってることはよくわかんないですけど、まあ、うさぎとかココアとかよりは良いと思います」
「で、江戸鮭ちゃんは何か思いついたの?」
「え、いや...私は...」
「何かありそうな感じじゃん?部室に入る前から予感?みたいのあったし!」
「それはその...」
「いいからいいから!教えてよ!」
「えぇ...。じゃ、じゃあ。もる子さんにだけ」
皆さんの視線が集まる中、私は屈んでもる子さんに耳打ちをしました。
「ほうほう...。ご注文は...?」
「口に出さないでください...」
「なんで?カワイイじゃん?」
「あの、コンプライアンス的に...」
「コンプライアンスなら仕方ないか。じゃあ私の案と江戸鮭ちゃんの案をあわせて...よし!これでどうかな!」
そう言うと彼女は小さい背丈をめいいっぱい伸ばして黒板にでかでかと文字を刻みます。
「あらあら。決まったのね江戸鮭さん」
「落雁さん。...どんな名前になるかは私もわからないですけど...まあ、もる子さん的には決まったようです...」
「そうなのね。楽しみだわ〜」
「...すみません」
「あら?どうして謝るの?」
「いえ...あんまりいい名前にはならない気がするので...」
「うふふ。そうかしら?私はいい名前だと思うわ〜」
「え、でも...滅茶苦茶ですよたぶん...お中元とか言ってたし...」
「お中元でも御歳暮でもいいわ。名は体を表すって言うじゃない?」
「は、はあ...」
「物質ちゃんが決めた名前はきっと滅茶苦茶。でも私達みんなも個性はバラバラで、好きなものも嫌いなものも全然違うから。そんな私たちっていう集まりがどうなっていくのかとっても気になるの。だからね分からないものに賭けてみるっていうの、私はとっても好きだなって。だから滅茶苦茶でも、とっても素敵な名前だと思うわ」
「...は、はあ」
「できた!!どうかな!」
書き終えたもる子さんが教壇の上で堂々と胸を張りました。
「えぇ...」と私は思わず声を上げました。
それは皆さんも同じだったのか、笑顔でいたのは謎の賛成をしていた落雁さんと甘露さんの二人だけ。
他の皆さんは苦い顔。
「......落雁さんと同じレベルのネーミングセンスですね」
「そうかな渋滞ちゃん?私は面白いと思うな〜」
「甘露のセンスも独特だからな...。鵺はどう思う?」
「私は、いいか悪いかで言ったら、う〜んですけど...。織戠先輩がいいなら...いいですけど」
「私はいいと思うわ〜」
「落雁は黙ってて!」
「あらあら〜」
意見は完全に分断。
賛成派には甘露さんと落雁さん。
反対派には渋滞さん、織戠さん、鵺さん。
廃案は免れません。
また考え直しかと気を重くしていたところ、渋滞さんが私を呼びました。
「江戸鮭さん。江戸鮭さんはどう思いますか?」
「え?...私ですか?」
「はい。ちょうど三対三で別れていますので」
どういうわけか賛成派にはもる子さんも含まれているようでした。
自分たちの部活なのにこれでいいのでしょうか...?
「私はその...部外者ですし皆さんで決めたほうが...」
「まあそうおっしゃらずに」
「はあ...」
私の一票でこの部活の命運がきまるといっても過言ではありません。
もっとカワイイ名前や、わかりやすい名前にしたほうがいいに決まっています。
しかしそうなれば問題として上がってくるのは代案をどうするか。
また地獄のようなコンプライアンスに冷や汗をかくのはゴメンです。
かといってもる子さんの案に賛成すれば、私のセンスが疑われることは間違いないでしょ。
反対派には真っ当そうな人しかいませんし...。
私の判断を待つように、十二の瞳がじっとこちらを見つめます。
自分を贄にして、彼女たちの安寧をとるか...。
部を犠牲にして、自分の胃痛を和らげるか...。
ふたつにひとつ。
どうすべきかと、選択肢がぐるぐると頭を駆け巡りました。
....そうして決心した私は小さく手を上げて言いました。
そうして雌雄を決した部活動。
彼女たちの運命はこれからどうなって行くのでしょうか。
私にはわかりません。
ですがひとつだけ言えることと言えば、きっと新入部員は入ってこないことでしょう。
続きは本日